[Fructify]
 
 
叶わぬ物だと思っていた。
密かに想う事が一番正しい事だと思っていた。
でも、自分を想ってくれる人に疑われる度に、嘘をつく度に口の中に苦いものが残った。
自分がつく嘘を信じる相手が悲しく見えて、
相手にその嘘を信じこませる自分が愚かに思える。
いつか…本当の事を正直に話せたら。そんな日が来るのを恐怖を感じながら待つ自分の姿がそこにあった。
 
zell side――――profit
 
ゼルは祝賀パーティ以来、三つ編みの図書委員と仲が良くなった。
いつのまにかどちらともなく付き合い出した。
密かに引きずっていた片思いを封印する為に。簡単に言ってしまえば、彼女を『利用』して忘れようとしている。
彼女が嫌いなわけじゃない。彼女に不満があるわけでもない。
それ以上に気になる物があったから、彼女を真正面から見てやれないでいる。
 
selphie side――――impossibility
 
セルフィは祝賀パーティ以来、アーヴァインと付き合い出した。無理をしているかもしれない。
自分の本当の気持ちを押しつけて、自分自身に嘘をつく。
それが普通じゃない事に気付くまでに時間がかかった。
アーヴァインは優しいし、不満があるわけじゃない。嫌いじゃない。はっきり『好きだ』と言える。
でも、それが恋愛感情の対象ではない事は既に判り切ったことだった。
彼の真っ直ぐな瞳は確かに自分を愛してくれている。
その瞳に自分の姿が映し出される度に自分の罪の意識が芽生える。
彼以上に好きになってしまった人がいるから、彼から目をそらしてしまう。
 
zell side――――false figure
 
いつも通りパンを買い損ねて、途方にくれたまま彼女がいる図書室に行く。
そして、姿を見せる度に彼女がはにかんだ笑顔で迎えてくれる。
日常のごく当たり前の事だった。当たり前…何時から当たり前だと想うようになったのだろう。
自分の当たり前の日常と言うと、パンを買い損ねてそのまま図書室で彼女に会って、
その後は訓練施設でアルケオダイノスやグラッドを相手に汗を流す…そしてスコールとリノアの仲の良さを目の当たりにして
また、パンを買い損ねて…。何ら変わらない彼らしい時間の過ごし方。
SeeDの任務中の合間にも彼女にEメールを送って何とも無い事を知らせる。
でも…そんな日常が疲れてきたかもしれない。
自分に合ってない気がした。いつもは馬鹿騒ぎして、たくさん喋って、笑って…。彼女が出来てからはそれらを全て抑えこんだようにして、
彼女の前では何ら変わらない紳士的なゼル=ディンを演じてきた。
彼女も気付いていた。彼がやけくそになる様を。
「ゼルさん…好きな人いるんでしょう?」
食堂で一緒に昼食を取っている最中、彼女は恐る恐るゼルに問いただした。
ゼルは口に含んでいたジュースを吹き出しそうになり、咳き込んだ。
「い…いきなり何を…」
「ごめんなさい!だって…ゼルさんは何時もセルフィさんを見てる…。
知ってるんです。セルフィさんと一緒にいる時のゼルさん…凄く嬉しそう…。私の事…嫌いならいいんです」
「嫌いじゃねえよ!」
思わず立ちあがって大声で叫んだ。周りのギャラリーの目がこちらに向く。ゼルは顔を赤くして座りこんだ。
「…ごめんな」
「いいんです。でも、もう無理して笑ったり、嘘つかなくていいですから。自分にも他人でにも正直でいてください。
私…そんなゼルさんが好きだから」
何もかも見透かされている。もう嘘はつけない。
「分かった…オレ…ちゃんと正直に言うから」
ゼルはそう言うなり、食堂を出ていった。残された図書委員はぼろぼろ涙を流してゼルを見送った。
 
selphie side――――truth
 
次の学園祭のプランを立て直す。セルフィバンドのプロデュース。
前回はスコールの指揮官就任祝いに急遽立てた即席バンド。
バラバラになった楽譜を繋いで、『アイリッシュ・ジグ』を演奏し、見事成功させた。
簡単なエチュードだったし、レパートリーも1曲のみだった。
次回は曲数を増やし、スコールとリノアにも舞台に立ってもらおう、そう考えていた。
アーヴァインが手助けをしてくれている。彼はたくさんの楽曲を手にとって、1曲ずつギターで弾いて見せた。
無邪気な顔でセルフィに尽くしているような姿。まるでセルフィを誰にも取られ無いように、心を繋ぎとめている様で。
彼は何もかも知っているんじゃないか…そんな気がした。本当の事を知らされるのが辛くて…無理にでも明るく笑って見せているんじゃないか。
セルフィはこれ以上彼を傷つけたくないと、正直な気持ちを話す事に決めた。
「アービン…あのね…」
「ん〜?」
「あのね、あたし実は…!」
「ゼルのことが…好きなんだろ?」
アーヴァインが困ったような寂しそうな顔でセルフィを見ていた。
「知ってたよ…全部知ってた。僕に無理して付き合ってる感じだもん。ゼルが好きなこと、とっくの前から知ってる。
何時もゼルを見ている事も知ってたよ。セフィは嘘をつくのが下手だから…すぐ分かる。
いいよ、僕の事なんか気にしなくて良いから。自分の一番大切だと思うものを手に入れるのが当たり前なんだから。
もし、手に入らなかったら…僕はいつだって両手を広げて待ってる」
アーヴァインは苦笑いしながら両手を広げて見せた。
「ごめんアービン」
セルフィはそのまま駆け出して行った。アーヴァインは去って行くセルフィを見ながら呟いた。
「畜生…」
 
Fructify――――end roll
 
自分を大切に想ってくれた人に別れを告げて、自分に正直になる事に決めた。
成就する・しないは関係無く、自分の本当の気持ちを伝える為に。
走った。走った。走った。走った。
廊下の反対側で互いに互いの探していた相手を見つけて、立ち止まった。
「よぉ…」
「あはは…奇遇だね、ゼル」
「あのさ…お前に話があるんだよ。ちょっといいか?」
「ほんとに奇遇だね。あたしもゼルに話があるんだ…」
2人はそのまま校庭に場所を移す事に決めて、歩き出した。
オレ、セルフィの事が好きなんだ。
あたし、ゼルが好きなの。
2人とも、ストレートに気持ちを伝えようとしていた。
校庭にはもうたくさんの生徒たちが遊んだり、喋ったりしている。
騒がしいノイズに紛れて気持ちを伝えようとゼルも、セルフィも真剣な顔をして互いを見る。
今までみたいにふざけあったり、馬鹿騒ぎしている姿じゃなくて。
意を決して単刀直入にそして、二人同じに口を開いた。
「オレさ(あたしね)…セルフィが(ゼルが)好きだ(好き)!!」
2人とも、目を丸くしてお互いを見た。そして吹き出し、笑い合った。
今までの不安な気持ちも何処かに吹き飛んでしまった。
「何だよ、お前」
「何よ〜ゼルだって」
 
 
互いに無理して繋がらない想いに幕を引こうとしていたけれど…
嘘をつく必要も無く、笑顔も涙も、みんな君にだけ見せればいい。
もう、苦しむのは終わりにして、そんな昔に幕を引いて。
 
 
END
 
 
Kallの初の頂き物。星雁さん作のゼルセルです。星雁さんの「相互リンク記念に一本小説をお送りします。」という優しいお言葉に甘えて「じゃあ、うちにはないゼル×セルかゼル×三つ編みちゃん!!」というとんでもなく曖昧なリクエスト(←もっと具体的なリクエストしろ<俺(殴))と星雁さんのアーセルにはまっていたら・・・なんとその全部を上手くまとめたすばらしい作品をいただきました(喜)。星雁さんほんとうにどうもありがとうござました。