「For You ?」
3月14日。目の前のカレンダーを見つめて、スコールは頭を抱えた。
――…3月14日という日付の下に書かれている文字を見て。
『ホワイトデー』
ホワイトデー……一般に、バレンタインデーのお返しをする日。
この日のために他の男子生徒はコソコソと、または何人かの集団で外出するというのが最近ではよく見られるようになっていた。
しかし、そんな彼らのそんな行動はスコールの目からは不思議なものにしか見えていなかった。
(そうか……――そうだったのか)
今ごろになって頭を抱える。……2月14日。スコールが任務で遅くなったにもかかわらず、彼女……リノアはずっと自分を待っていてくれたことがあった。
……彼のベットでだったが。
そしてとっておきの笑顔で「はいっ!」と奇麗に包まれた小包――つまりプレゼントらしきものを渡してきたのだ。「何でもない日に何故プレゼントをもらうんだ?」とスコールはリノアに問い詰めたところ、彼女は「なに言ってんのよっ!!」とわめきはじめたのだった。
「なに言ってんのよっ!まさか……スコールっ!!今日何の日か知らなかったの!?」
「……あぁ……わからない」
「ほんとにーっっ!?」
「……ああ」
そのスコールの言葉にリノアは「はぁ」と小さくため息をつくと、まだ自分の手の中にある小包を再び彼に差し出しながら、
「だから……今日は、バレンタインデー……でしょ……?」
(バレンタイン……デー……)
聞きなれない単語にスコールは何かを必死に思い出そうかと考える。……バレンタインデー。彼の辞書にはやはりそんな単語はどこにも見当たらなかった。
一人首をかしげているスコールにリノアは続ける。
「あのねスコール、『バレンタインデー』っていうのは、女の子が好きな男の子にチョコレートなんかを渡す日なの。だから……スコールに……よ?」
そう言って恥ずかしげにプレゼント……おそらくはチョコレートと思わしきものを彼の胸に押しつけてくる。
スコールはそれを「ありがとう」と、とりあえず言って受け取ったのだった。
……と、少々強引ではあるが、リノアからチョコをもらったのだ。
――中にブランデーの入った、ボトル型のチョコレート。それと、彼女の直筆の手紙。
手紙にはこう書いてあった。
“たまには気持ちを楽にして!リラックス、リラックス”
――リノア
……アルコールを飲めばいい気持ちになれると思ってのことか。
でも、そういう風に彼女が自分を気遣ってくれることがとてもうれしかった。
もちろん、「自分が好きだ」と言ってチョコをくれたことも。
――…しかし今はそんなことより……
3月14日。ホワイトデー。
ホワイトデーは一般に、バレンタインデーのお返しをする日。
(一体……何を渡せばいいんだ……)
と、またまた頭を抱える。
(リノアは今日のことを知っているのだろうか……?いや、知っているだろうな。リノアはそういう変なところで気をつかったりするからな……「何が欲しいか」なんてとても言えない……「すまない、忘れていた 。」なんてことを言えば……怒るだろうな……)
一瞬、セルフィかキスティスに相談しようかとも思ったのだが、冷やかされるに決まっているだろう。
「仕方がない……自分で行くか」
そう言って、自室を後にする。
(……出掛けたのはいいが、一体俺は何処に行く気なんだ?)
そう自問しながらも、彼が足を運んだのはバラムだった。
(そういえば、セルフィが新しい店が増えたとかなんとか騒いでいたな)
ホワイトデーだからなのか、そうでないのかはわからないが、やけに街を歩く男が多いのは気のせいだろうか?
しかし、その多くの男の中でも、スコールは目立っていた。
……本人は気づいていないだろうが。
(……一体何処で何を買えばいいんだ……?やっぱりセルフィかキスティスになにか言えばよかったか……)
等と後々ながら後悔してしていると、
「おぅ!スコールじゃねーか」
「本当だ〜。一体一人で何しに来たんだい〜?」
……いつもの見慣れた顔触れ。アーヴァインとゼルだ。
スコールはこちらへ近づいてくる二人を無表情で迎える。
「お前らは一体なんだ?」
その問いに、アーヴァインはスコールの肩を右手でぽんぽんたたきながら、
「もちろん、ホワイトデーのお返しに決まってるじゃないか〜。もう僕らは買ったけどね〜。スコールもそうなんだろ〜?」
「どーせスコールのことだからそのこと忘れてて、今ごろ慌てて飛び出してきたんじゃねーのか?」
「……」
その通りのことを言い当てられ、黙り込むスコール。
「なんだよ〜、そう落ち込まなくったっていーじゃないか〜」
「そうそう。そんなのいつものことだし」
「……いつものこと……って……」
「いーからいーから。大丈夫だよ〜、僕ら付き合ってあげるからさ〜。リノアへのプレゼント一緒に探そうよ〜」
言いながら、アーヴァインがスコールの腕を引っ張って近くの店の中へと引きずり込む。それに少し遅れて、ゼル。
かれはは店に入ろうとして、ふと、その入り口に掲げてある看板を見上げた。
『プレゼントショップ ~愛の店~ 』
「……」
そして入ることを躊躇する。……
(アーヴァイン……よくこんなとこに入れるよな)
――少し考えて、
(やっぱ、外で待っとこ)
――…一方、
「スコール、ほらこんなの!彼女喜ぶよ〜。あっ!あんなのもいいねー」
さっきからこんな調子で、スコールは彼からいろんなものを渡され、すでに両手両腕ふさがっていたりする。
「アーヴァイン……こっちのことも考えてくれ」
そう言われ、改めてアーヴァインは品物だらけになったスコールを見る。
「――あ。ごめんよ〜」
言いながら、スコールが抱えている商品を、もとあったところへと戻していく。
…… 戻しながら、スコールがアーヴァインに、
「アーヴァイン、お前は誰かにもらったのか?」
「ぶっ!!」
アーヴァインが吹き出して、手に持っていたものを落としそうになり慌ててスコールが支える。それを無事元の場所に戻してから、
「なぜ吹き出すんだ……」
「だってさー、スコールそんなこと聞いてくるなんて思わなかったからさ〜。それって男の禁句だよー?でもさ、ちゃんともらったからこーやって買いに来たんだろー」
「――…セルフィか?」
なんとなく思い当たる人物を言ってみる。アーヴァインは笑顔で「そーだよ〜」と答えた。
「セルフィに何を買ったんだ?」
「身だしなみセットだよ〜」
「身だしなみセット……?」
「そうそう。くしとか鏡とかセットになって入ってるんだよね〜。だって、女の子っていったらやっぱりそれだろ〜?」
「そうなのか……?」
「あっ!!リノア髪長いし奇麗だからくしとかピンとかがいいんじゃないかなー?喜ぶよ〜、彼女。あ、でも、彼女スコールがくれたものならなんでも喜ぶからねー。なんでもいいと思うよ。スコールって幸せもの〜」
「……」
なんでもいいといわれるほど困るものはない。それから延々5時間。もう一番星どころか、ほとんどの星までが見える時間帯だ。――…ゼルは一向に出てこない二人にしびれを切らして帰ってしまったし、アーヴァインも少し前に「セルフィって早く寝ちゃうからさ〜」といって帰ってしまった。そして未だに決まらない、リノアへのホワイトデープレゼント。
もう、ここの商品はほとんど覚えているだろう。もしかしたら、その値段までいえるかもしれない。
ちゃんといくつかは「いい」という商品はあった。でも、どれにしようかと迷う。
それで、「これだ」と選んで手に取ると、やっぱりこっちのほうがいいのかもしれないと再び迷い、また振り出しだ。……そんなことをずっと繰り返していると、店にいっぱいだった客もだんだんと少なくなり……今では店員とスコールだけになってしまっていた。
「……はぁ」
なかなか決まらず、なにも買えないでいるスコールは自分で自分に腹を立て、ため息を吐いた。
「……お客さん、もう閉店の時間なんですけど……」
「あぁ……すまない」
結局、何も買えないまま店を出されるともうすっかり暗くなった街路を一人で歩く。
(何も買えなかった……)
今ごろになってまた、あれを買っておけばよかった、これを買っておけばよかった……と後悔する。しかしもう過ぎたこと。何を言ってもどうなるわけではない。
さらに困ったことに、時間が時間だけに他の店はほとんど閉まっている。
(このまま手ぶらで帰るわけにもいかないよな……)
リノアが今日のことを知らない訳がない。
このまま手ぶらで帰れば、わめくか泣くかするかもしれない。
それどころか、口もきいてくれなくなるかもしれない。
――…女ってのはなんでこんなんだ?
そんなことを思い続けているうちにガーデンへとたどり着いてしまった。
……手ぶらで。
「はぁ」
――自室へ向かうことができず、スコールはなぜか食堂にいる。
誰もいない、薄暗い食堂。いつもならこの時間鍵が閉まっているのだろうが……。
とにかく、自室以外で今落ち着いて座れるところといえばここしかなかった。
まぁ、できれば図書館がよかったのだが、残念ながら鍵が閉まっていた。
「……はぁ……」
再びため息を吐いて頭を抱える。今日何度目だろうか、頭を抱えるのは。
――数える気にもならない。
カチャ … カチャン …… ジジジ……
「ん?」
静かな食堂。誰もいないはずなのに何処からか食器やコンロの火をつけるような音がする。
(……厨房か?)
がたん――
席を立つスコール。そしてそのままそこへ向かう。
(明かりが点いているな……誰か居るのか?)
「あら……?だれかいたのねぇ、きずかなかったわ」
中にいた人がこちらに気づき、スコールに声をかける。いきなり自分以外に人がいたので少々驚いた様子だったが。しかしそれがこのガーデンの司令官、SeeDのスコールだと分かると軽い調子で話しかけてくる厨房のおばちゃん。スコールも彼女と面識がなかったわけではなく、何度かあったことがあるので顔だけは覚えていた。
――…以前ゼルに、「ここのパンってすっげー美味いんだよなー。でもよ、評判よすぎだもんでなかなか買えねぇわけよ。なっ……お願いだ!スコール並んでてくれねーか?もちろん俺も並ぶぜ。……それでよ、もし買えたらおごってやるからよ、な?」
……等と言われ、よくゼルに付き合わされたので幾度かこのおばちゃんの顔は見たことがあった。しかも実はこのバラムガーデンの、いつも客となる生徒たちに愛らしい笑顔で応じる、名物のおばちゃんでもあった。
……もちろん彼は知らないが。
「それにしてもなぁに?こんな遅くに――…あ、もしかして悩み事?その顔だと女がらみかしら……リノアちゃんのこと?あらー、図星みたいねぇ?」
“女がらみ” “リノア”という単語を出され動揺の表情を見せるスコールを見ながら、おばちゃんは楽しそうに微笑んでいる。
「……なぜ、リノアのことを知っている……?」
「なーにいってんのよ、『リノアちゃんとスコール』っていえばみんな知ってるわよ。とーっても有名よー」
「な……」
思わず言葉を無くすスコール。
「で、なに?悩み事って。相談ならのってあげるわよ?力になることは私なんでもするからさぁ」
スコールはしばらく黙っていたが、やがて開きにくい唇を開き始めた。
「今日は……ホワイトデーなんだ……」
――…
「遅い!おそーいっ!!」
リノアは先ほどからずっとこんな調子だ。
「鍵がかかってて中に入れないし、セルフィは寝ちゃうし、スコールは帰ってこないし……」
「きゅーん」
悲しげな顔をしているリノアに彼女の犬、アンジェロが心配そうに鼻を押しつけてくる。
リノアは優しくアンジェロの頭を撫でてやると、
「おまえだけだねー。ずっと側にいてくれるのは……」
「きゅーん……」
「ありがと。はげましてくれるんだね。大丈夫だよ。だってスコール帰ってこないのいつものことだし。慣れてるもん」
(でも……本当はすごく不安なのよ……少し帰ってこないってだけでこんなに気持ちがぐらぐらしちゃう……今日だって、スコール忘れちゃってるんだろうな……)
3月14日。ホワイトデー。どこのカレンダーにもそう書き記してある。
そのカレンダーを手にとり、アンジェロに見えるように掲げる。
「きょうはね、大事な日なんだよ?……でもいいの。……」
「きゅーん、きゅーん……」
アンジェロも悲しげに鳴く。
「あなたが悲しまなくてもいいのよ?でもありがと」
と、その時。
コンッ コンッ
「!?」
ドアの向こうから聞こえるのは、会いたかった彼の声。
「リノア…起きてるか?」
ガチャ
「スコール!!」
ドアをあけ、そのままリノアは彼の胸元へ抱きついていった。
「……あれ?」
と、そこで、なにか違和感を感じる。
なにかスコールについていたものが、自分にもついみたいだ。
白くて、雪のようなものが彼の自慢の毛皮ジャケットに、ズボンにたくさんついている。
「……粉?……小麦粉??」
なぜ彼に小麦粉等がついているのか、リノアにはその答えを出すことができなかった。
リノアはスコールを放し、改めて彼の全身を見る。と、彼の片手が何かで塞がっているのが初めて分かった。
「スコール……???」
スコールの表情が少し変わる。
「……すまない。今日がホワイトデーとかいうやつだったこと忘れてて……それでバラムでアーヴァイン達と何か買おうかと思ったが……俺だけ買えなくて……店が閉まって何も買えなくなってから、戻ってきて……食堂に行ったら、食堂のおばちゃんが作ればいいっていってから……作ったんだ。……クッキー……」
そう言ってスコールは片手に持っていたそれを彼女に渡した。
水色の薄い布と、ピンクのリボンに不格好に包まれた彼のプレゼント。
それを受け取って、リノアは涙と笑いがこらえきれず一緒になって出てきた。
「スコール……!!それで十分だよ!ううん、もう、あまっちゃうくらいじゅうぶんだよぅ……」
「……泣くな」
「ないてなんかないもん」
「……」
涙で濡れたリノアの頬をスコールが無造作にぬぐってやる。
「……だからもう泣くな」
うれし泣きなのだが、スコールにとってはどちらも一緒だった。
女に泣かれるのは慣れていないし、苦手なのだ。
そんな目の前で彼女に泣かれ、困り果てた表情のスコールにリノアは最高の笑顔と愛を込めて、
「ありがとう……スコール!!」
と、再び彼の胸元へと抱きついていった。
――…真っ白な小麦粉のついた……
END
……おわった……
なかなか長い道程でした。
こんなショートなお話(自分にとっては)書いたの初めてです。しかも、FF8スコリノ。恋愛。
ほとんどがなんか、初の試みだったもので、必ずや何処かおかしい場所があるでしょう。
でも、目をつぶってやってください。
…実はですね、エピローグとしてだけど、スコールがクッキーを作り終えリノアへと渡すべく走っていくのですが、
その走っていくスコールの後ろ姿を見ながら食堂の名物おばちゃんが
「若いっていいわねぇ」
と、つぶやくのですっ!!………ここだけわかってもらえればいいです。長くなりましたが後書き&エピローグということで……(読んでくださった方、ありがとうございます。載せてくれるといったKall様、本当にありがとうです。――白翼破斬――
☆★☆
ども、Kallです。某サイト様でKallの作品を読んでメールをくださった白翼破斬(フェアリススレイブ)さんから頂いた作品でスコリノホワイトデーもの。すっごくいいっす〜♪プレゼント選びきれずに手ぶらのスコールいったいどうなる?!・・・・と思ってたらなんとなんと手作りクッキー!!読んでて「ああっ、そう来くるとは・・・やられた〜♪」とにやけてしまいました(笑)とてもFF8スコリノ恋愛物初挑戦だなんて思えない、どうみても貫禄十分な一流ツクリテさんの書くスコリノ作品ですよ〜☆
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