「比翼の鳥」







「雨……降ってきちゃったね」

「時期が時期だからな、仕方ない」



ガルバディアの南方の海岸線。
砂浜に車を止めて、荒れる波を車の中で見ていた。
珊瑚礁で有名な海に来て、碧い海で2人で仲良く遊んだりして、
楽しむ……はずだった。

この時期は雨季で雨が止まないという日はあまりない。
止んでも数分ほどの事で、またすぐ降り始めてしまう。



「せっかくの珊瑚礁、スコールと一緒に見たかったのに」

「天気は自分で決める事は出来ないからな。
それよりもリノア……もういいだろ?帰ろう」

彼らは30分ほどこの場に留まっていた。
「行こう」とスコールが言えば、「もうちょっとだけ」とリノアが引きとめる。
リノアは何が何でも雨が止むまで待つつもりらしい。
スコールは変わらない景色に飽きてきている。
ラジオから流れる音楽も、単調で聞き飽きた。



「よし、仕方ない。濡れに行こう!」

唐突にリノアが言った。
スコールはリノアが言った言葉の意味を理解できていない。
リノアはドアを開けて、外へ飛び出した。

「――――!?」

リノアはそのまま海に向かって走り出して行ってしまった。
スコールは最初、リノアは待ちくたびれて、気が変になってしまったと思った。

――――気持ち良さそう。

スコールはそんなリノアを止める気にはならなかった。

――――俺も一緒に濡れてみようかな。

リノアにつられて、スコールも車から出て、リノアの後を追った。







空からの天の恵みは、とても心地良かった。
任務中には度々雨に見舞われることは多かったが、
それらは全て鬱陶しいものとしか感じなかった。
その雨は、自分から濡れることを望めば、こんなにも気持ちがいい。



海まですでに辿り着いていたリノアに追いつく。
彼女は一度しゃがみ込んで、またすぐに立ち上がり
背後にいるスコールの方に振り返った。
そして、スコールの目の高さまで手を挙げて、その手の中に入った
小さな白い石のような物を見せた。

「珊瑚だよ」

テレビや本で見るものとは随分違っていると、スコールは小首を傾げる。
彼の脳裏には、赤や桃色の珊瑚の姿が浮かび上がる。

「スコール、もしかして疑ってるの?」

「いや……イメージと随分違ってたから」

リノアはスコールの言葉に声を立てて笑った。
スコールはむっとしてリノアを見た。

「何がそんなに可笑しいんだ」

「あははは……違うの、ごめんね。
スコール、この白いのがそのまま海にあると思ったの?
これ、干からびた珊瑚だよ」

リノアは再び声を上げて笑った。

スコールは気恥ずかしくなって、リノアに背を向け、
真っ直ぐ海岸線に沿って砂浜を歩いて行ってしまった。

リノアは内心しまった、と後悔し、慌ててスコールの後を追った。

「スコール、ごめんね、悪気は無かったの」

スコールは何も答えない。

「スコール……!」

リノアは足を止めて、俯いた。
スコールとの距離はどんどんと離れて行く。









リノアがついて来ないと気付いたスコールは、足を止めて振り返った。
100メートルほど向こうにリノアがポツリと立っていた。
スコールは軽く溜め息を吐き、歩いてきた道を引き返す。
そして、着ていたジャケットを脱いで、立ち止まったままのリノアに羽織らせた。

ジャケットの両襟をつかんで、リノアの身体ごとジャケットを引き寄せて、キスした。



「……俺がお前を嫌いでも、お前は俺を好きでいてくれるんだろ?」

顔を赤く上気させ、少し視線を逸らし気味で、リノアに言う。
リノアは潤ませた瞳でスコールを見据えた。

「……意地悪だよ、スコールは」

スコールは困ったような笑みを浮かべる。

「好きで意地悪を言ってるわけじゃない」









小雨になってから、やっと自分達がずぶぬれになってしまったことに気付き、後悔した。
リノアは肩を震わせて空を仰ぐ。

「ちょっと調子に乗りすぎたね」

「ちょっとじゃないだろ。このままじゃ風邪引くだろうし……」

そう言った傍から、早速リノアがくしゃみをした。
スコールは仕方ない、と溜め息を吐き、リノアの手を握って車のほうへ歩き出した。



「このままウィンヒルに行く」

ヒーターのついた車内で、スコールの発言を聞いたリノアが首を傾げた。

「濡れたまま戻ったら確実に風邪を引くしな。……それに……」

微かに呟いて、それっきりスコールは口篭もった。
リノアは意地悪そうに笑って、スコールの方に身を寄せる。

「それに……何?」

「聞こえてるんだな……そう言う言葉は1回で十分だ」

「ダメだよー。そういうのはもっとはっきり言ってくれなきゃ。
かなり聞きづらかったんだよねー……」

リノアはとても楽しそうだった。スコールは頑なに口を開かない。

「ね、スコール」

スコールは身を寄せて、しつこいくらいに恥ずかしい台詞を求めるリノアの身体を
抱き寄せて、無理矢理口付けて黙らせた。
リノアは驚いて一瞬、声にならない悲鳴を上げた。
少し、荒々しいキスにリノアは閉口した。

「風邪が感染ったらリノアの所為だ」

スコールはリノアの肩越しでそう呟いた。





車の蓋上に七色のアーチが架かっている。
憂鬱な季節もじきに終わるだろう。


END


 ども、駄文書き星雁です。この度は10000hit overおめでとうございます。今回の作品「比翼の鳥」ですが、あるHPに送らせていただいた小説の続きみたいな感じで作りました。もともと季節ネタを狙ってたんで、まあ、いいかな?そんな感じです。 以前に送らせてもらった「Baby Maybe?」に比べてみると随分マシになったもんだと1人で納得してます(爆) 相変わらずの駄文だけど、見て楽しんでいただけたら……それだけです。
2000.06.15  星雁


 ども、Kallでちゅるぴ〜()このたび、10000ヒットの記念に星雁さんより頂いた季節物・・・梅雨の時期の海辺を見ているスコリノの絵が頭に思い浮かべれる素晴らしい作品です〜♪そして、やっぱり雨の中に飛び出しそうなのはリノアですな(笑)でも、リノアじゃなくても夏場部屋の中とかでじめじめするより熱いときは雨に打たれたら涼しそうですね〜☆それでは最後になりましたけど、星雁さん素晴らしい作品をありがとうございました。