「Wondered Destiny」
ダンスパーティで「ごめんなさい」と手を合わせて、謝りながら去っていくリノア。
無意識に俺は手を伸ばして、彼女の白い腕を掴もうとしたけれど
空を切った。
俺は行き場のない手を見つめて
馬鹿げてると、その手を戒めるように振り回した。
誰も、俺のことを好きになんてなってくれない
誰も、両手を広げて俺を待っていてくれる人なんていない、
そう、思ってたから……
今の自分の姿が不思議でたまらなくて、
時々、夢だったんじゃないか――――そう思うんだ。
運命……だったのかな?
風もない、無風の状態にある中庭。
こんな日は別に珍しくも何ともない、よくあることだ。
そういう日だってある。
スコールは1人で暗くなった外の、星の瞬く世界に出てきた。
いつもと何か違う気がする、そう思って。
それは今日が8月23日で自分の誕生日だから、とか
去年と同じように、リノアが祝ってくれたから、とか
そういうことの特別、じゃなくて
何か、何となくだけどいつもと違っている気がして、何か嬉しくて、もどかしくて
思い切って中庭に出てみた――――その程度のことだった。
大きな月が、大地を照らしている。
それは、昼間に太陽が照らすような、明るさではなく
冷たい感じはするけれど、なんだか優しいような、青い光。
生まれて、物心が付く頃、そして今……19年の月日は経ってしまうのに
月は表情を変えることなく、子供の頃と同じ大きさで、
子供の頃に数えたクレーターの数も、ウサギが餅を突いている、と
クレーターが作り出した造形も、何ら変わりない。
何万年、何十万年と月は何を見てきて、何を考えるんだろう。
いつも同じ所ばかり見て、朝も昼も夜も同じ所にいて
時々、太陽の陰に隠れて消えてしまったり、
太陽の姿を隠してみせたり……
そんなことでいちいち驚いたりしてる人間の姿ばかり見て
月からすれば、別にどういうことでもないのに。
なあ、月よ、あんた、何を考えてる?
問いかけても答えてくれない、黙ったまんまで何を考えてるか分からない……
昔の俺を見てるみたいだ。
「スコール、こんな所にいたの?」
スコールが振り返って、その視界に入った人を一目見て、嬉しくなって笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
リノアが頬を膨らませて怒るから、その顔がかわいくて、おかしいから
スコールはついつい吹き出して、声を立てて笑う。
「なんか、変。
何かイイコトでもあったの?」
「別に……」
「ま〜だ笑ってる!!
なに?私の顔に何か付いてるとか?」
「何も付いてない」
「じゃあ、どうして?」
「嬉しいから、楽しいから……それだけだ」
リノアは最初、キョトンとスコールを見ていたが、
その不思議そうに丸くなった目が、ふっと緩んで、笑顔になった。
「ねえ、スコール。
ず〜〜〜っと前にね、みんなから聞いたんだけど、
私が意識を無くして眠ってた時に、私をおんぶしてホライズン・ブリッジを渡ったって。
それ、ホント?」
「ああ……」
「ふ〜ん……」
リノアはスコールの背後に回り込むと、彼の両肩に手を乗せた。
「?」
「ね、おんぶして」
「は?何フザけて……」
「ふざけてなんかないよ〜、だってその時、私、意識がなかったんだもん」
「……」
「スコール、返事は?」
「……了解」
「やたっ!じゃあ、さっそく……」
「でも」
「ん?」
「でも……おんぶは嫌だな」
どうして……リノアがそう言いかけた途端、スコールはリノアの身体を軽々と抱き上げた。
「わ……」
「しっかりつかまってろよ、いつ俺がお前を落とすか分からない」
「……どういうこと?」
「お前の重みに俺の腕が耐えられなくなって…………っ!」
リノアが目を座らせて、スコールを睨んで、彼の両頬をつねっている。
「リノア……痛い」
「……」
「悪かったって」
「……」
「離してくれないと、出発しないぞ」
「反省してるの?」
「してる」
「本当に?」
「本当」
「本当に本当?」
「本当に本当」
「本当に本当に本当?」
「……それ以上はキリがないだろ?
ほら、落ちるぞ」
リノアはバランスを崩して、慌ててスコールの首に腕を巻き付けて、しがみついた。
リノアを落とす気も、降ろす気も更々ない。
別に重くもないし、近くでこうやって体温を感じていられることが嬉しかったから
さっき、冗談で言ったことを少しだけ、後悔した。
ゆっくりと前に進むと、進行に逆らうように微かな風が吹いて、髪を揺らす。
「こうしてるとさあ……なんか、私お姫様みたいだよね」
「……」
「映画とかってこのままくるくる回ったりなんかして……」
「……回れ、か?」
「え?…………きゃっ」
スコールはリノアを腕に抱いたまま、ぐるぐる回りだした。
彼女が夢見るように、望むように、映画のワンシーンのように。
「あはは、危ないって!!怖い怖い、転んじゃうっ」
リノアが笑いながら「止めて」と叫ぶ。
スコールは聞き入れずに調子に乗って、回り続けた。
しかし、案の定バランスを崩してすぐ側の芝生になだれ込んだ。
「いたた……ほら、やっぱり転んじゃった。調子に乗るからだよ……」
「……」
「スコール?」
スコールは目を閉じたまま、微動だにしない。
仰向けのまま、リノアが呼びかけても、身動きも返事もしないままで……。
さっき、なだれ込んだ時にスコールがリノアの下敷きになって倒れたから、
まさかその所為かと、リノアは身体中から血が抜けていくような感じに陥った。
「スコール?嘘っ!?やだよ、死んじゃやだっ!スコー……」
スコールは急に腕を動かして、すぐ隣で顔をのぞき込んでるリノアの身体を抱き寄せた。
リノアはスコールの上に倒れ込むと、彼の身体の上にうつぶせになった。
顔を上げると、下にいるスコールと目が合った。
「勝手に殺すな」
「だって!」
「何、泣いてるんだよ」
「スコールが冗談ばっかり言ったり、意地悪するからっ……」
スコールがリノアを身体の上に乗せたまま、上体を起こす。
リノアを膝の間に置くと、両手でリノアの両頬をつねった。
「痛いよぉ」
「あんまり泣いてると、その内干涸らびるぞ」
「スコール、ひどい」
スコールはリノアの両頬から手を離すと、彼女の首に腕を巻き付けて引き寄せ、
そのまま唇を押しつけるように、重ねた。
腕をゆっくり腰まで下げると、押しつけ合っていた唇をわずかに離して
また、角度を変えながら口づける。
わずかに、リノアが身を震わせたのが分かると、スコールはリノアから身体を離した。
「やっぱりなんかイイコトあったんだ?」
「ない、そういう気分なだけ」
「本当〜?」
「本当だって……」
「いつもそういう気分でいてくれたらいいのに……」
「……なんか言ったか?」
「別に」
リノアはスコールの背中に腕を回すと、力一杯彼を抱き締めた。
「へへ……」
「なんだよ、気持ち悪い……」
「スコール、大好きだよ〜」
「……」
「ず〜っと傍にいてね」
「……」
「ね、スコール」
「ああ……」
幸せってどういう物か、人を愛することってどういうことか、
いつもお前が俺に教えてくれるよな。
きっとSeeDにならなきゃ、お前に出会えなかったよ。
お前が俺を好きになってくれなかったら、こうやって俺は笑ってなかったよ。
こうして、人を好きになって、抱き締めることもなかったよ。
ありがとう、リノア。
俺、幸せだよ。
「ずっと傍にいてやるよ、お前が呆れてしまうくらい」
END
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いや〜星雁さんから以前僕が送らせていただいた暑中お見舞いのお返しにと頂いた作品です。いつもの冷静さを装いながらも19回目の誕生日に浮かれる(?)スコールとそれをからかうリノアの絡みがすっごくいいです〜〜(≧▽≦)それも、浮かれた気持ちを冷まそうと夜風に当たりに外に出てさらに浮かれてるし〜(笑)そしてそして、最後には今FF8ファンの間で密かに話題(ほんとか?)の某SM●Pの「らいおんハート」を連想させる台詞でスコールが綺麗にまとめてます〜。いや〜星雁さん、すばらしい作品をありがとうございました〜m(_ _)m
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