伝えることさえできない
−スコールとリノアの場合−
真冬の海なんて寒いものだ。
海から吹く風は潮の香りをふくんで少し鼻につくし、ものすごく寒いんだ。
なのに彼女は海がみたいと言った。しかも夜の海。
「月明かりの海って見たかったんだよね。しかも冬の方が星がキレイじゃない。」
砂浜で、防寒対策ばっちりのスコールと対照的にリノアは足元でじゃれつくアンジェロと遊んでいた。それを見ていたスコールは年寄りみたいなことを言う。
「俺は寒い海よりも暖かい部屋のがいい。」
よく晴れ渡った夜の空。
満天の星空と月明かり。
その寒空の下で、リノアは子供みたいにはしゃいでいた。
スコールはというと、マフラーを首に巻き、コートの襟をたて少しでも風があたらないようにしている。手袋をしていても寒いので途中で購入した暖かいコーヒーの缶を持っている。それでも少し歯の根があわさらずにかちかちと音をたてている。
「リノア。まだ帰らないのか?」
「もう少しーっ。アンジェロも少しは運動させないと。」
砂浜で走りにくいというのにアンジェロは少しよたよたとしながら波打ち際をへ左へと走り回る。
「ほんっと、スコールって寒がりだよね。」
けたけたと無邪気に笑うリノア。
それを聞いたスコールはどうでもいいといった感じで見ていた。缶コーヒーを冷めないうちに飲んでしまおう。
「あ、わたしにも一口ちょうだい。」
少しぬるくなったコーヒー。
スコールがいくらか飲んでから缶を受け取り、口をつけて、何か思いついたようにスコールの顔を見上げた。
「これって間接キスだよね〜。」
「…やけに楽しそうだな。」
「えへへっ。」
「そろそろ帰るぞ。寮の門限はとっくに過ぎてるんだからな。」
もちろん外出なんてもってのほかである。今、スコールたちのしていることは規則違反なのだ。
誰もがいちどはやっているであろう、俗に言う門限破りだ。
門限前に外出してもカードリーダーなどは時間がくると閉じられてしまう。
そこで寮生同士、仲の良い友人がこっそりと非常口を開けるのである。もちろん教官に見つからないよう、寮の方へ直接潜り込むのである。
何故このスコールとリノアが門限破りなどということをやらかしているのかと言えば、何てことのない、リノアが言い出したのだ。
「えっ!?スコール門限破りしたことないの!?」
隣にいたアーヴァインやセルフィも驚いていたような気がする。
「あたしなんかしょっちゅうやってるよ〜。ね〜リノア。」
リノアは巻き添え…もとい、共犯者だったのだ。
「僕もたまにやってるよ。ゼルとかにお願いしてね〜。」
「卒業するまでにいっかいはやってみれば〜。結構スリルがあって楽しいんだよ〜。」
「よしっ!!スコール。一緒に門限破り、しよう!…そうだ。海見にいこっ。アンジェロも連れて…。そうと決まれば明日にでも決行しよう!」
そう言って、セルフィとアーヴァインが共犯者となったのである。
「…そろそろ帰るぞ。」
「もう?…もうちょっと…。もうちょっとこのままでいたいよ…。ダメ?」
しがみついてきたリノアをそのまますっぽりと腕の中へ閉じ込めた。
「…あと5分だからな。」
「うん。ありがとうスコール。…大好き。」
ここで通常の恋人同士ならば、男のほうも好きだよ、などと言うものである。が、何せ相手がスコールなのでいくら待っても返事はやってこない。わかった、というように頷くだけなのだ。
そんなスコールにリノアは唇をとがらせて、こんなことを言い出した。
「あーあ。人の気持ちがわかる機械とかあればいいのにな。そしたらわたしがどれだけスコールのこと好きかスコールにもわかることできるのに。」
リノアは背伸びをして、ちゅっと唇に軽いキスをする。
「そうしたら、スコールがどれくらいわたしのことを想ってくれてるか、言葉にしてくれなくてもわかるのにな。」
「じゃあ、リノアはどれくらい俺のことが好きなんだ?」
リノアはちょっと首をかしげて考えて、スコールの背中へとまわしていた腕をはずし、腕を広げて見せた。
「うんとね、これくらい。」
「じゃあ、俺の方が大きいじゃないか。」
スコールが笑いながら腕を伸ばしてみる。身長差があるので腕の長さが違うのだ。スコールの方が当然長い。
「んじゃね、わたしはその倍くらい。」
「ほんとか?」
「うん。倍の倍の倍くらい。」
「さっきよりも増えてるぞ。」
スコールの表情が優しいものになっている。それにつられるかのようにリノアはくすくすと笑いだした。
「そろそろ、帰ろっか。」
「気はすんだのか?」
「うん。…でもまた来ようね。冬の海。夜の海。今日みたいに晴れた日に。」
「…あまり寒いのは、俺、嫌だぞ。」
「じゃあ、今度はもうちょっと防寒対策してからね。」
どんなにあがいたところで、結局は連れて来させられるのだろう。
「また、な。」
スコールは右手の手袋をはずすと器用にリノアの右手にはめさせた。
「ぶかぶか。」
「それくらい我慢しろ。帰るぞ。」
彼女の手袋をしていない手をとると、コートのポケットへと無造作につっこむ。
アンジェロはリノアたちの後ろをちょこちょことついてきている。
よく晴れ渡った夜の空。
満天の星空と月明かり。
その寒空の下で、つながれた手だけが熱をもったように熱かった。
そう。これは、もう何年か前のできごと。
俺がどんなに大事に想っているのか。いつか、伝わる日がくるのだろうか。
気持ちの強さを、つないだ手の熱さを、想いの数を、言葉に変えて……。
それは今でも……伝えることさえできない。
END
にゅお〜、いいっ、とてもいいっ☆(≧▽≦)
すーさまから頂きました相互リンク記念作品「伝えることさえできない」シリーズの第一弾スコリノ作品です!!シチュエーションがいいっす〜。真夜中に冬の海、月明かりの中、ラブラブな2人〜☆いや〜思わずこれ受け取って読んだその日、夜中に「ああ、こういうカンジなのか?」と窓から海辺を見てしましました(笑@実家海沿いに有るんで)ほんと、すばらしいさくひんありがとうございました〜m(_ _)m
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