Special Strategy
 
 
ジタン「なんかイイ手がないかな〜?」
 
アゴに手をあて、首をかしげながら街を歩き回っていると、見たこともない怪しげな店が1軒建っている。
かの有名な盗賊ジタン様が珍しいモノに好奇心をそそられないはずがない。
「抜き足差し足忍び足」なんてお世辞にも言えないようなスピードで、ジタンは中に入っていった。
 
 
――店内――
 
 
辺りを見渡すと、白をベースにした、シンプルなデザインの四角い箱のようなものが目に止まった。
思わず近づいて、それを手にとり、内容を確かめる。
 
ジタン「何だ、これ?…FINAL FANTASY[〜愛を感じてほしい〜…!?なになに?…RPG?あ〜、これがゲームってヤツだな…。裏には何が書いてあるんだ?なんかキモチ悪いオバサンがうつってるぞ…。耳についてんのは…アンモナイトか?おっ、この白いドレスのお姉さん、結構カワイイぞ。ちょっとガーネットに似てるかな?でも、やっぱりガーネットの方がオレの好みだな。でも、『愛』ってトコが気になるよな〜。よ〜し、このゲームをやってオレもガーネットと…」
 
こうしてジタンは、独断と偏見でプレステ本体とFF[のソフトを手に入れた。
苦労して手に入れたギルを一気に20000以上も使ってしまったのには、
さすがのジタンも自責の念を感じずにはいられなかった…ようでもなかった。
逆に、しっぽを左右に大きく振りすぎて、あやうく器物破損で訴えられるところだったくらいだ。
袋を片手に、口笛を吹きながら、足取りも軽やかに飛空艇へと急いだ。
 
 
――飛空艇内・娯楽室――
 
 
♪なぁ〜らんだ〜、なぁ〜らんだ〜、あ〜か し〜ろ き〜いろ〜♪
妙な歌声が聞こえてくる。もちろん、歌っているのはジタンだ。
ごそごそとコードをいじるジタンの元にガーネットがやってきた。
 
ガーネット「ねえ、ジタン。何を始めるの?」
ジタン「え!?別に…大したことじゃないさ!あー、そうそう!しばらくは飛空艇で移動しないからさ、ガーネットも、この街の中とか色んなトコ見てきなって!オレも付いてってあげたいんだけどさ〜、今ちょっと手が放せなくて…。」
ガーネット「…変なジタン。わかったわ、また後でね。」
 
眉をしかめて部屋を去るガーネットを、ジタンは笑顔で見送った。
 
ジタン「さ〜て、頑張ってクリアしなくっちゃ!待ってろよ、ガーネット…」
 
扉にしっかりと鍵をかけると、ジタンはテレビの前に座り込んだ。
 
 
――その夜…飛空艇内・休憩室――
 
 
静まり返っている飛空艇の一角で、透き通った声が静かに話し始めた。
 
ガーネット「ジタン、何をしてるのかしら…。ずっと娯楽室にこもりっきりで…。」
スタイナー「たった1人で部屋に閉居するなど、あからさまに怪しいのである!さぁ、あんな男のことなどほっといて、姫様はお休み下さい!」
 
と、縦も横もガーネットの1.5倍はあろうかというギョロ目の騎士が一気にまくし立てた。
 
ガーネット「でも…心配なんだもの。」
スタイナー「まったく、あの男は何をやっとるのだ!姫様に心配ばかりかけて…。」
ビビ「ボク、ちょっと見てくるよ。」
ガーネット「でもジタンは誰も入るなって…。ドアには鍵もかかっているわ。」
スタイナー「ビビ殿ならジタンも気を緩めるかもしれませぬ!是非ともお願い致す!」
ビビ「うん…。」
 
 
―――――――――
 
 
…トントン
 
背後で急に音がしたので、ジタンはとっさにテレビの電源を切った。
そして歩いていき、部屋のドアを少しだけ開けてすきまからのぞいた。
目の前には何も見えず、視界の下の方で黄土色の物体がふよふよ動くのが見えた。
 
ジタン「…なんだ、ビビじゃないか。ビックリさせるなよ。」
ビビ「そんなつもりじゃなかったんだ。ゴメンね、ジタン…。」
ジタン「で、何か用か?」
ビビ「うん…ジタンは何してるのかなって。おねえちゃんが心配してたよ。」
ジタン「そっか。サンキュー。もうすぐ寝るから先に寝ててくれよ。」
ビビ「うん、わかった。」
 
 
――――――――
 
 
ビビ「ただいま。」
ガーネット「おかえり、ビビ。どうだった?」
ビビ「先に寝ててくれって。」
スタイナー「ビビ殿、それで、ヤツは何をしていたのであるか?」
ビビ「あ…聞くの忘れちゃった。部屋の中は暗くてよく見えなかったし…。ゴメン…」
スタイナー「一体何のた…」
ガーネット「謝らなくてもいいのよ、ビビ。いいわ、今夜はもう寝ましょう。」
 
…とまぁ、こんな日が3日ほど続いたのだが、仲間の心配や不信感をよそに、ジタンは計画を進めていた…。
 
 
………その2へ続く………
 
 
――計画開始4日目…明け方――
 
 
東の空が明るくなりかけた頃、娯楽室で歓喜の声が上がった。
 
ジタン「やっとクリアしたぜ!いや〜エンディングは感動だったな〜。ダンスも良かったけど、ガーネットはリノアみたいなこと、しそうじゃないしなぁ…。あんな風にダンスに誘われたら、オレだったら無条件でOKしちゃうのになぁ〜。今からいきなり宇宙に行くっていうのもムリだしな…。そうすると…やっぱこれだな!」
 
何かを入念に書き留めると、ジタンは満足そうな顔をして、あくびをする。
 
ジタン「ここんとこ、ほとんど寝てないからなぁ〜。ちょっと寝るか。」
 
そして昼過ぎまで寝た後、計画の下準備をするために街へと走っていった。
 
 
――街の中――
 
 
街のアイテム屋でビビを発見したジタンは、さっそく声をかける。
 
ジタン「ビビ、ちょっと頼みがあるんだ。」
ビビ「なに?」
ジタン「今日の夜、ここからずっと遠くの方でコメット唱えて欲しいんだ、2,3回くらい。」
ビビ「いいけど…どうして?」
ジタン「それはヒミツさ。1人で行くのはイヤだろ?エーコも一緒に行かせるからさ、頼むよ!」
ビビ「うん、わかった。」
 
そう言って、ビビはもじもじしながら帽子を引っ張った。
 
 
―――――――
 
 
歩いていると、また探し求めていた人物が目に入った。
今度見つけたのは、モグと木陰で休んでいるエーコだ。さっそく近寄って声をかける。
 
ジタン「なぁ、エーコ」
エーコ「なぁに?」
ジタン「あそこに丘が見えるだろ?今日の夜、ビビと一緒にあの丘に登って欲しいんだ。」
エーコ「ビビと!?ジタンは一緒に行かないの?」
ジタン「オレは残ってやらなきゃいけない事があるからさ。」
エーコ「わかった!ガーネットとデートするんでしょ!エーコ達がジャマだから…。」
ジタン「(うっ…)違うって!とにかく、頼むよ!な?」
 
ジタンは笑ってウインクをしてみせた。エーコは顔を赤らめ、後ろ手を組んで少しうつむく。
 
エーコ「…わかったわ。今回は大目にみてあげる。」
ジタン「サンキュー、エーコ。じゃぁな!」
 
 
――その夜――
 
 
他の仲間達に気付かれないようにビビとエーコを丘まで連れていき、準備は整った。
辺りを完全に暗闇が包んだのを見計らって、ジタンは飛空艇内の休憩室で1人寂しそうにしている
ガーネットにやさしく声をかけた。
 
ジタン「ガーネット。」
ガーネット「ジタン!」
 
ベッドに座っていたガーネットは、嬉しそうにジタンの方を振り返り、両手を軽く広げた。
これが熱い抱擁を求めるサインであればいいのに…と思うジタンだが、そう甘くはない。
しっぽを大きく一振りして、さわやかな笑顔で話し出した。
 
ジタン「見せたい物があるんだけどさ、一緒に来てくんない?」
ガーネット「変なこと企んでるんじゃないでしょうね…?」
ジタン「いいモノが見れるんだ。まぁ〜いいから、早く!」
ガーネット「ちょっ、ちょっと!」
 
言うが早いか、ジタンはガーネットの手を引っ張り、町外れに連れていった。
 
 
――夜空の下――
 
 
いつもと変わらない星空が広がっている。何をお互い緊張しているのか、2人とも黙ったまま動かない。
そんな中で、先に沈黙を破ったのはガーネットだった。
 
ガーネット「見せたい物って、何?」
ジタン「え〜と…。」
 
ポリポリ頭をかきながら、ジタンは困惑していた。
 
  (くそ〜まだか?ビビのヤツ、何やってんだ?こうなったら臨時作戦だ!)
 
 
――その頃の飛空艇内・休憩室…――
 
 
図体のでかい男が1人、跳びはねながら叫び声をあげていた。
 
スタイナー「ここにも誰もおらぬではないか〜!操縦室以外は、もぬけのからである!ジタンはさておき、ビビ殿もエーコ殿もどこへ行ったのか…。そう言えば、姫様のお姿が見えないのである!もしや、姫様の身に何かあったのでは!?…ん!?…こんな所に本が落ちているのである!まったく、書物を大事にしないとはけしからん!いったいどのような内容であるのか…」
 
なにやら汚い字で書かれたその本…というよりは紙束を拾い上げ、彼は熱心に読み始めた。
 
スタイナー「むむむ…なかなか感動する話なのである!このスコールとリノアというのは何者なのだ?何やら括弧書きでジタンと姫様の名が書かれているがこれは一体?むむ?この『k-i-s-s』とは一体何であろうか…?どこの国の言葉であるか?自分には読めないのである!このような時は誰かに聞くのが一番である!」
 
 
――飛空艇内・操縦室――
 
 
スタイナー「フライヤ殿!」
フライヤ「何じゃ?」
スタイナー「自分は質問があって参ったのであるが…。この、『k-i-s-s』とは一体何であるか?」
 
そう言って、スタイナーはフライヤに紙束を見せる。短い沈黙の後、フライヤは口を開いた。
 
フライヤ「それは……『キス』と読むのじゃ…。意味は……………。何なら、そこにいる兵士に聞いてみてはどうじゃ?」
スタイナー「なるほど…『キス』と読むのであるか!かたじけない!」
 
スタイナーは声高らかに叫んだ。この男、騎士道以外の事にはデリカシーがないらしい。
フライヤはほんのり頬を薄紅色に染めていたが、スタイナーはそんな様子には全く気付かず、
足早に兵士の方へ行き、歩みを止めた。
 
スタイナー「失礼!いきなりではあるが、この『キス』とはどういう意味であるか?」
エリン「は!それは…ズバリ、『接吻』のことであります!」
 
エリンは敬礼の姿勢をとってそう言った。
 
スタイナー「せっぷん!?」
エリン「左様であります!」
スタイナー「もしやこれは…。おのれジタンめ…ひ、姫様が危ない!」
 
スタイナーは身体をふるわせ、疾風のごとく走っていった。
 
サラマンダー「今さら行ったところで、手遅れだと思うがな…。」
 
手すりに寄りかかっている、赤い(本人は焔色と言っているが)ドレッドヘアーをしたアゴヒゲ男が呟いた。
 
クイナ「キスは魚の名前アルね!ワタシも食べたいアル!せっぷんとキスは同じアルか!アイヤー、どっちもうまそうアル!」
 
今度は道化師を思わせるエセ中国系(性別不明)が、長くて薄い舌を動かしながら騒ぎ出した。
 
フライヤ「……。」
 
呆れた表情のフライヤが、ため息をもらす。飛空艇の中はようやく静けさを取り戻した。
 
 
…………その3へ続く…………
 
 
――再び夜空の下――
 
 
ガーネット「ねぇ、ジタン。面白いものって一体なんなの?」
ジタンは主悪通りに事が進まないのにイラつくことなく、臨時作戦を実行した。
いきなりガーネットの顔の前に指を持っていき、くるくると回す。
 
ガーネット「なに?」
ジタン「オレの事が好きにな〜る、好きにな〜る…」
ガーネット「…?そんな事をしても、私は目なんて回さないわよ。」
 
ひどく真面目な答えが返ってきた。思わずジタンは肩を落とす。
ジタン「ダメか…。」
ガーネット「……あっ!」
 
ガーネットは空を指さし、顔を輝かせた。
暗闇に、何かがいくつもの光の尾を引きながら、消えていく。
 
ガーネット「流れ星…。」
 
そう言って流れ星を指さしながら、ジタンに微笑むガーネット。
最初に自分が気付く予定だったジタンは、少しあっけに取られたが、それよりもガーネットの反応に驚いた。
 
(こんなにオレが書いたシナリオ通りに演技をしてくれるとは思わなかったぜ!え〜と、次は…。ここで満面の笑みを浮かべて、それからガーネットの手を取る。そのまま…)
 
ジタン「ガーネット…」
 
ジタンは満面の笑みを浮かべながらガーネットの方に向き直り、手をつかむ。
 
ガーネット「ジタン…?」
 
スタイナー「姫様――!!」
 
声のする方を見ると、見覚えのある男が土煙をあげながら猛スピードで近づいてくる。
 
ジタン「おっさん!?せっかくイイトコだったのに…じゃなくて、なんでここがわかったんだ!?」
スタイナー「飛空艇の中にこんなものが落ちていたのである!」
ジタン「あ――っ!!それは…」
ガーネット「何なの?」
 
不思議そうな顔をするガーネットに、スタイナーが大声で叫ぶ。
 
スタイナー「この男は、フシダラにも姫様に接吻するつもりだったのであります!」
ガーネット「せっぷん?それは一体どういう意味なの?」
スタイナー「何やら世間ではキ…」
ジタン「『せっぷん』ってのは『うっぷん』の親戚さ!」
 
ジタンの大声がスタイナーの言葉をかき消す。
 
ガーネット「うっぷん?それは何なの?」
ジタン「まぁ、いいからいいから!行こうぜ、ガーネット!おっさん!これは頂いとくぜ!」
(くそ〜、やっぱり書かないで覚えときゃ良かったな…でも、そうしなきゃ覚えられないしなぁ〜…)
 
ジタンは素早くガーネットに手を回す。
 
ガーネット「きゃっ!ちょっとジタン、離して!」
 
いやがるガーネットをお姫様だっこして、逃げ去るジタン。
笑ってはいるものの、その笑顔には悔しさがにじみ出ている。
暗闇に消えようとする2人の背中に、またもデリカシーのない言葉が飛ぶ。
 
スタイナー「また姫様にそのようなふしだらな行為を…!待つのである!」
 
静かな夜、鎧のきしむ音だけが響きわたっていた…
 
 
――おわり――




あとがき:幼稚な文章ですね…。ごめんなさい…。
それと、私はスタイナーがキライなわけじゃないんです。あえてこういう風にしてみただけで。
フライヤもクイナもサラマンダーも…実はみんな大好きです。
時期はいつだ?とか、丘ってどこだよ?とか謎が多く残る作品ですけど、
まぁそれは気にしないでください。(←いいのか?)
流れ星の正体はビビのコメットです。ちゃんと気付いてくれたかなぁ…。
あ、間違ってもメテオじゃないですよ(笑)
テスト後のうさ晴らしに4時間くらいでダァァァッと書きました。
長いのに最後まで読んで頂いてありがとうございました。<(_ _)>




☆★☆★☆
ぬははははは、面白いっ!!KEIさん、素晴らしいっす、4時間で書かれた作品とはとても思えない構成とナイスなアイディア!!確かにジタンがFF8でのリノアのやり口を知ったらこの計画はやりかねません(≧▽≦)というかむしろ実行しない訳がない(爆)スタイナーも彼の性格らしい行動ですよ〜。まさにジタンの不純な行為は例え火の中水の中、どんな小さなことでも許せない、某ル●ン三世の銭●のとっつあんのごとき執念と根性^^;。しかし、「接吻」も知らなかったとは・・・奥手ですな〜スタイナー(笑)あ、あと笑いのつぼにはまったのは「ジタンの配線の時に歌うチューリップ」(爆笑)