かぐや姫
PROLOGUE
「寒ぃ。ったく何でこんなに寒いんだっ!滅多に雪なんか降らねぇのに!」
南小学校の駐輪所で思わず愚痴を漏らしてしまう。そんな事言ってどうにかなるわけじゃないけどさ。
「その上道着1枚やし。裸足やし…。」
私は自転車にまたがり帰路に着いた。私の名前は、佐藤朱理。高校2年の…まぁ、女子高生とかいう奴だ。何かしら女子高生といえば、茶髪、色黒、ミニスカ、底の高い靴を履いたイメージがはびこっているが私達の学校ではそんな奴めったにお目にかかれない。友人も化粧はしないし、そんなに華美な格好する奴等じゃない。ポケベルと携帯を持っているのが数人いるだけで、マスメディアで言われている様なモノじゃない。
今夜は新月。私は自転車に乗ったまま宙を見上げた。闇は怖い。でも好きだ。闇は全てを包み込む、闇で全てのモノを。月が出ている日はそんなに静寂が訪れはしない。新月に映る宙は瞬く星のみ。そんな事を考えているうちにマンションに着いてしまった。
「今晩は!」
「よう、お帰り。」
守衛さんがドアを開けてくれる。家のマンションは家の鍵で開けるか、インターホンで住人を呼んで開けて貰う仕組みになっている。私の場合守衛さんと仲がいいので、彼に開けて貰っている。エレベーターに乗り3階で降りる。3階の一番奥の320号室が私の家だ。???家の前に人が立っている。腰まで伸びた黒髪の女性で…この世のものとは思えない美しい人だ。漆黒の闇を称えた綺麗な瞳。そして極め細やかな石化発光の肌。
「家の者に何か用ですか?」
私が尋ねると、彼女は私の顔を見て凄く小さな声で何かを呟いた。そして私の腕の中で崩れ落ちてしまった。凄い熱、とりあえず寝かさなきゃ。玄関を開けてすぐ左が私の部屋だ。さっさと布団を敷いて彼女を横たわらせる。脈も呼吸もある。休養させれば熱は下がるはずだ。でもなんだったんだろう。彼女を見た瞬間体中に電気が走ったような衝撃に襲われて、半ば放心して気がつくと声を掛けていた。一体なんだったんだろう。もう一枚彼女の隣に布団を敷き2階にある温泉に浸かって寝た。明日から冬休み…ゆっくり寝れる。
記憶喪失 麗side
ここはどこだろう…私は…。隣に寝ている少女の顔を見ると安堵感を覚える。そっと彼女の柔らかい髪に指を絡ませる。昔こんな事をしていたような気がする。彼女、昔から知ってるような気がする。どこで…?私は……誰…?彼女は地べたに置かれたノートを手にとった。佐藤朱理、この子の名前?ノートには彼女が書いたと思われる小説がかかれている。人物設定だけ書かれていて内容を知る事が出来ない。渡瀬悠…記憶喪失の少女。身元一切不明。人見知りが激しく主人公にしか話し掛ける事はしない。彼女の名を借りる事にした。記憶喪失という点で私達は同じだ。彼女の布団に潜り込み、様子を窺ってみる。何の反応も無い。昨日よほど疲れるような事をしたのだろうと思うと何故か笑ってしまう。多分私の事じゃ…ないかな。彼女の寝顔はあどけない。彼女を見ていると何故か笑みがもれる。いいや、もう一回眠りにつこう。安らかな夢…
第2章 謎の麗人
勇side
なんか変な感触がある…思い瞼をあけると昨日の彼女が私に抱きついているじゃないか!!彼女、確かに華奢だけど…なんか違うような…?
いい香りがする。多分ポピーじゃないかな。花言葉は忘却。変なの、昔この香を持った人に会ったような気がする。
「う…んっ…んんっ。」
「おはよう。」
なるべく自然体でいるように心がけた。
「意識は、はっきりしてる?」
「うん。」
「名前はわかる?自分の名前。」
「渡瀬悠。」
良かった、名前さえわかれば身元が割れるはず。でも聞き覚えがある…私が書いてる小説の……記憶喪失の娘。まさかノートを見て…?
…まさか、ね。
「あなたの名前は?」
「私は佐藤朱理。悠はどこから来たの?」
「私…自分が誰なのかもわからない。だから…」
今までより強く抱きしめられる。今にも泣きそうな剣幕に私は慌てた。
「大丈夫。…泣いていいよ。君が望むなら私は君の傍にいる。」
涙を浮かべた黒の瞳が交わる。その刹那、魂を抜かれた感じがした。
「ごめんなさい、私…。」
悠は私の肩に顔を押し付け、泣いた。
私はどぎまぎしてる。こんな事1度もされた事無いからどうしていいか判らない。
「シュリっ、いつまで寝てる…!!何、悠ちゃん泣かしてるんだ!」
突然母さんが入ってきた。
「いや…あの…母さん。」
「全く…朝ご飯出来てるから来るんだよ。」
ドアを閉め戻ってしまった。
……?悠ちゃんって言ったよな?知り合いなのか?私が覚えてないだけ…?
「ありがと、気がすんだ。」
そう言って唇を重ねる。……・234v4jりもvm89!!頭の中がパニックになって何にも考えきれない。
「朱理…?」
そっと私の顔を覗き込む。そんなカオされると怒る気にもならない。
「着替えるから…離して。」
言う通りにしてくれ、私は着替えた。二人分の布団を押入れに入れてリビングに向かった。勿論悠と一緒に。
朝食を取り自分の部屋に戻った。冬休みだから宿題が出てる。めんどくさいけど、やらなきゃいけないのが学生なんだよな。
「悠、ゲームでもする?」
「うん。」
RPGじゃ進められると困るから格ゲーでいいよな♪
「操作は説明書に書いてるから、見ながらやってな。」
そうは言ったものの出来るもんかな、とTVを覗き込んでみる。
パーフェクトォ!!難易度が一番高いやつにしてるのに…私は格ゲー苦手だけどこれには自信あったのに。なんてヤツだ…
「んっ、なんかありそう。」
ありそうって隠しキャラ…?
何かキーを押すとシャドウが出てきた。それでクリアすると今度はマリオネット!!
何なんだこいつ。
今日の分の宿題をやり終えてリビングにあるパソコンの前に座る。インターネットで見つけた友人とメールのやり取りをするのが日課になっている私にとってメールのやり取りがこの上なく楽しい。受信トレイに未読メールがあると嬉しいんだよね。
「ねぇ、翔って誰の事?」
「あだなみたいなヤツ。私の事だよ。」
「何で翔なの?」
「お気に入りの名前なんだ。何でか判らないけど。」
「ふーん。ねぇこれで何が出来るの?」
「主に情報収集。他には友達も作れる。」
ダウンロードしてから電源を切る。やっぱ手紙の内容は知られたくないもんね。
「外いこっか。ここの案内するよ。」
第3章 悠の告白
マンションを出て左に出ると駅に続く道がある。田舎でも駅周辺は何かと店が建ち並んでいるものだ。悠と私の身長差は10cm以上ある。ちなみに私は162、消して小さいわけではないけど悠と一緒にいると小さく見える。
「あっ、ここ行っていい?朱理。」
彼女が指差したのはゲーセン。よっぽど気に入ったみたい。
店に入ると一斉に視線が悠に向けられる。まぁ、類を見ない美人だからね。
「朱理、あの子誰なんだよ。紹介しろよ。」
ここのゲーセンにいる連中はみんな顔見知りで、ゲーム友達だ。
「良ければこれ使ってください。」
男どもが悠に札を上げてるよ。○○○○キラーだね、全く。でもちゃんと断ってる。
偉い、偉い。
「悠、何する?」
悠が立ち止まったのはダンスダンスレボリューション。
「ね、朱理も一緒にやろ。」
「いいけど…」
「どれが一番難しい?」
「私はこれが一番難しいと思う。」
で、曲が流れ出す。悠は軽やかにステップを踏み始める。
「矢印がきたらその方向の矢印を踏む。OK?」
ハッキリ言ってこのゲームはキツイ。それを悠は息一つ乱さず舞っている。何も間違えずに全部グレイトって…で、結果は最高得点をマーク。ダントツ1位。
終わった瞬間、男どもの歓声が上がる。男ってヤツは…
「ねぇ、悠さん。俺と付き合わない?」
早速ナンパだ…仕方ないけどね。あれでもてないほうが不思議だけど。ゲーセンっておたくの集会所って感じがするけどここは違う。結構美形なのもいるんだよね。
だから女の子も多かったりするんだけど。
何か一斉に私に視線が向けられる。殺気立ってるよ。一体、悠は何言ったんだ?
皆私が実戦空手の有段者って事知ってるから殴りかかって来れないんだけど…何だこの殺気は…
「悠、帰るよ!」
「判りました。皆さんさようなら。」
ぺこりと頭を下げてゲーセンを後にした。
「悠、お前何言ったんだ。皆、目血走ってたし。」
「私には朱理がいるから他の人とはそういうことしたくないんです。って言ったんだけど。」
「あのなぁ…何でそんな誤解を招く事を言うんだ?私は女だぞ。」
「知ってる。それに誤解じゃない。」
「は?誤解じゃないって…どういう事?」
私に満面の笑みを向けてこう言った。
「私が好きなのは朱理だけってこと。」
全くこういう発想はどこから来るんだか。そんな事言われると照れるじゃないか。
誰からもそんなこと言われたこと無いのに。
そんなやり取りをしてる間に家に着いた。
第4章 遠い記憶の狭間で
勇side
家は誰もいない。両親は仕事でいないし、妹はバスケの合宿でいない。で、二人とも飲み会で帰らない。
私は自分の部屋に入るとすぐに横になった。何でこんな事になったんだか。
隣に悠が静かに座ってる。
“因果応報”一瞬この言葉が脳裏を横切った。
因果応報で有名な話といえば…「竹取物語」
かぐや姫は前世で罪を犯し地球に来てしまった。それは何だったのかは知らないが確かに因果応報でこの世界に舞い降りた。と教科書にかかれていた。
悠がかぐや姫の生まれ変わりとでも言うのか?
ばかばかしい、そう言いきれない。本当にそうではないと言い切れない。
母さんは悠の事を知っていた。勿論父さんも。彼女は何者なんだ?
「朱理、何考えてるの?」
悠の長い髪が顔に降りかかる。細くて綺麗な黒髪。
「別に…」
「私の事でしょ。私が何者なのかって考えてる。」
マウントポジションをとられ身動きできない。確かにそう考えている自分がいる。
でもそれ位は判ると思う。
「私…ここにいていいの?」
「ああ…記憶が戻るまでね。」
何でこんな酷い事を言うのだろう。自分でも判らなかった。
「それなら私、記憶なんか戻らなくていい。朱理は迷惑かもしれないけど…私…」
なんて綺麗なカオをするんだろう。まるで私が悪いみたいじゃないか。
「私は…朱理…」
ぽたぽたと涙が顔に落ちる。身を起こして悠を抱きしめた。
何を言いたいか何となく予想がつく。
「ほら…悠、泣かないでよ。まるで私が悪者みたいじゃないか。」
情緒不安定なの判ってるのになんでこんな事言うんだろう。最低だ、私。
「ごめん。そう言って傷つくのは判ってるのに…ごめん。」
一時沈黙が続いた。
「泣き止んだ?」
悠の顔を覗き込んでみる。その刹那、唇が塞がれた。仕方ない。
そのまま私は悠の為すがままになっていった。
麗side
朱理の家に帰ったと思ったら朱理、自分の部屋で横になってしまった。ゲームセンターであんなこと言ったのが不味かったのかな…本当に朱理のことが好きだから言っただけなのに…怒られるなんて思わなかった。
何もせずに朱理の隣にいれば邪魔にならないだろうから、朱理の隣に座った。朱理は不思議な表情を浮かべている。
「朱理、何考えてるの?」
私は横たわっている朱理の顔を覗き込んだ。
「別に…」
ぶっきらぼうに言い返される。そう言い返されるのは判っていたのに…胸が痛い。
「私の事でしょう。私が何者かって考えてる。」
朱理は表情を変えなかった。朱理の上に乗り、じっと朱理のカオを見た。
「私…ここにいていいの?」
「ああ…記憶が残るまでね。」
胸が苦しくなっていく。呼吸がままならなくて、目尻が熱くなっていく。
「それなら私、記憶なんか戻らなくていい。朱理は迷惑かもしれないけど…私…」
ずっと朱理に傍に居たいのに…朱理の視線を涙が歪めて映す。
「私は…朱理…」
涙が朱理の顔に落ちていくのが判った。朱理は身を起こして私を軽く抱きしめた。
「ほら…悠、泣かないでよ。まるで私が悪者みたいじゃないか。」
矛盾してるよ…朱理。
「ごめん。そう言って傷つくのは判っているのに…ごめん。」
何でそんな事言うんだろ?突き放してくれれば諦めがつくのに…何で?
私…もう無理だよ。朱理を嫌いになれない。
「泣き止んだ?」
朱理が心配そうに私の顔を見る。その瞬間、私は朱理と唇を重ねていた。
朱理は私を受け入れてくれている。
最終章 輪廻転生
悠が私の家に舞い込んで来てからもう2週間になる。相変わらず私は悠の追撃から逃げ回る日々を続けていた。そんな毎日がずっと続くのかと思っていた。
近頃ずっと悠は月を眺めている。何か意味ありげな表情で…
…何を思っているのだろうか?
「私…記憶戻ったよ。」
「そう…本当の名前は?」
「やっぱり悠だった。私…月の人間なんだ。かぐや姫の娘。朱理も知ってるでしょ?竹取物語って。」
これは現実なんだろうか?私は夢を見てるんじゃないだろうか。
「どうして…地球なんかに来たんだ?かぐや姫は前世の罪を補うためここに来た。悠はなんで…?」
「私…朱理に会いに来た。お母様が愛した人を一目見るために…」
「…?かぐや姫は天皇を愛してたんじゃないのか?私は何の関係も…まさか!!」
「そのまさかだよ。生まれ変わりなの、朱理は。それに…お母様が愛したのは天皇じゃない。権威を見せ占めるためにそう書かれてるだけ。」
「理由はそれだけ?それだけで来るとは思えないけど。」
「ばればれか…さすが朱理。恋をしたかった…が一番の理由かな。」
「出来たの?」
「一方的な恋愛だったけど。」
凄く寂しそうに笑う悠が世界を統べる神のように思えた。
月明かりが悠を鮮明に映し出す。
「朱理にずっと逃げられてた。朱理は私のこと嫌いなの?」
いや…そんな事やられた事が無いから逃げ回ってただけで、決して悠が嫌いなわけじゃない。問題があるといえばお互いが女だって事だけ。
宇宙人に…あるのか?そんなの…
「…好きだ。」
消え入りそうな小さい声で私は呟いた。
「ありがと。嘘でも嬉しいよ。」
「嘘なんかじゃない!私は…悠が…」
言い切れない。たった一言がいえない。
「さよならだね。私帰らなきゃいけない。統治しなければいけないから。」
「何時…?」
「後ここにいられるのは10分。私もう1回朱理に会いたい。」
「何時会える?」
「最低でも100年。これを飲めばずっと生き続けることが出来る。」
不老不死の薬が今私の目の前にある。歴代の皇帝が求め続けた不老不死の薬。
「嫌だ。私はそんなに生きるつもりは無い。」
「何で?人間は不老不死を誰しも夢見てるって…!!」
「嫌なんだ。今まで付き合ってきた人たちが私より先に死んでいくのが。それにずっと悠の事を好きでいられる自信も無い。」
「…やっぱりあの人の生まれ変わりなんだね。あの人もこれを飲まなかった。」
そう言い終えたあと私は唇を再び奪われた。
途端に睡魔が襲ってくる。私は悠の腕の中で崩れ落ちていった。
「…泣く彼方を見たくなかったから。目が覚めたら私のこと忘れてる。」
朱理の髪を指に絡ませながら呟く。
「でもいいんだ。最後に私の事が好きだって言ってくれただけで私は幸せなんだから。」
悠は微笑んだ。
「それに私は男なんだよ。朱理。」
そう言い残して悠は月影に消えていった。誰も知らぬ間に、
真紅のルビーのペンダントを残して。
Epilogue
「朱理。あんたそんなペンダント持ってたっけ?」
ルビーを嵌め込んだペンダントを女友達が覗き込む。
「うーん、よく判らないんだ。前から付けてなかったっけ?」
いまいちよく思い出せない。誰から貰ったんだろ?
「2学期には付けてなかったし…やっぱ3学期始まってからだよ。さては…男でも出来たな!」
「んなわけないじゃん!私なんか好きになる男なんている訳ないじゃん。」
「そやな。」
確かにそう思う。でも…まぁいいか。これが大切なのは漠然と判ってるから。
持ってたらいつか…会えそうな気がする。
いつか、ね。
fin
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FF以外の作品として初めていただきましたオリジナル作品です〜。共同チャットでお知り合いになった古都さんに「こんな小説書いてるんです」と見せていただいたんですが読ませていただいてこれを僕一人で読むだけなのはもったいないと思い「HPに載せてもいいですか?」とダメもとで頼んでみたら快くOKをしてくれました〜(T^T)←感涙。古都さん、本当に素晴らしい小説をありがとうございました〜m(_ _)m
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