Same surname, Same grave
 
 
俺は、自分のことを何でも頭で考えてから行動する人間だと思ってた。
でも、あの時は、明らかに違ってた。頭で考えるより先に…行動してたんだ。
今思い返すと、恥ずかしくなる。…絶対…どうかしてたんだ。
あれは…おとといだったな。8月…21日だ…
 
 
俺は、あの日、食堂から帰ってくるゼルを呼び止めた。
 
「ゼル、ちょっと頼みがあるんだ。」
「あん?何だよ、お前からそんなこと言ってくるなんて珍しいな。
オレに出来ることなら何だってやってやるぜ!」
「その…昔、リノアに俺と同じ指輪を作っただろう?
シンプルなのでいいんだ。内側に文字を入れたペアリングを作ってくれないか?」
「…おぉ!?もしかしてそれ…お前、け…」
「それ以上は言うな。リノアには…絶対言うなよ。明後日までに…作ってくれ。
キスティスやセルフィ、アーヴァインにはあとで俺が直接話す。」
「明後日〜!?そりゃまた急だな…ま、スコールの頼みとあっちゃ仕方ねぇ!
まかせとけって!徹夜してでもやってやるぜ!バッチリ内側に文字入れといてやるよ!」
「あぁ、頼む。」
「しっかし…あのスコールがねぇ〜」
 
そういうと、ニヤニヤしながら、何度も振り返りながら小走りに去っていった。
 
 
それから食堂にいくと、セルフィとアーヴァインが仲良くしゃべってたんだ…
 
 
(…もう一人いる。あの金髪は…どうやらキスティスも一緒らしいな。
これなら一回話せば済む。手間が省けたな。)
 
「それ…本当なの?」
「スコールはんちょ、意外とダイタンやなぁ〜」
「おい、スコール〜。ぬけがけはズルイよ〜。僕だってまだなのに〜」
「なんや、アービン、相手いるん?言ってみ〜?」
「え〜?僕のステディは決まってるよ〜」
「だれだれ〜?」
 
(みんな好き勝手言ってるぞ。他人事だと思って…協力してくれる気、あるのか?)
 
「ともかく、そういうことだ。よろしく頼む。それと…リノアには言うなよ。」
「わかってるって〜まかせときなよ〜」
「バッチリ決めたるで〜!」
「人は見かけによらないとはまさにこのことね。当日はご期待に添えるよう頑張るわ。」
 
 
すぐに済むと思ったのに、その後さんざんからかわれたな。
部屋に戻って、次はラグナに電話をしたんだ…
 
 
「…あぁ、そうだ。…そんなことはどうでもいい。それで本題なんだが…明後日がいいな。
 そうだ。宜しく頼む。」
 
(あとは…本人に伝えるだけだ。)
 
窓の外を見ると、すっかり辺りが真っ赤に染まっている。
部屋の電話の受話器を取ると、リノアに電話をかけた。
 
「…あ、俺だ。今からガーデンのデッキに来れるか?…あぁ、待ってる。」
 
準備は整った。とはいえ、俺の心は準備が出来てないらしい。心臓が飛び出てきそうだ。
初めての実地試験でもこんなに緊張することなかったのに。
…覚悟を決めるしかない。ゆっくりと腰をあげると、部屋を後にした。
 
「スコール。」
 
手すりにもたれて景色を見ていると、背中でリノアの声がした。
ゆっくりとこちらに歩いてきて、振り向いた俺の真っ正面に立った。
 
「スコールがわたしを呼び出すなんて、珍しいね。ま、わたしはうれしいからいいんだけどね☆
ねぇ、スコール聞いて!最近、ゼルが変なんだよ!セルフィ達もなんか…よそよそしいの!
わたしの方見てニコニコしてさ〜!気味が悪いんだよ〜!あ、で、何か用事?」
「話が…ある。重要なことだ。」
「何だか深刻な顔してるね。スコール、顔コワイよ?ほら、眉間にシワ!
 リラックス、リラックス〜!」
 
(簡単に言うなよ。リラックスなんて…できるわけないだろ?)
 
「単刀直入に言うぞ。け…」
「け?」
「け、ケダチクからドロー出来る魔法って、何だったっけ?」
 
考えてもいない言葉が口から出てきた。
 
「ケアルとかサンダーとか…。単刀直入にって…そんなこと聞いてどうするの?
もしかして、重要なことってそれ?あ、わかった!お仕事に使うんでしょ?
一流のSeeDさんでもド忘れすることってあるんだね〜!」
 
すっかり笑われてしまった。余計に鼓動が速くなる。
 
「いや、そうじゃなくて…」(落ち着くんだ、言うことは決まってるだろ?)
「そうじゃなくて…何?」
「俺の…朝飯を作ってくれ。」(違う、そんなことが言いたいんじゃない…)
「え?構わないけど…いきなりどうしたの?」
「俺のTシャツを洗ってくれ。一緒の墓に入ろう。名字、変えてみないか?」
 
(何言ってるんだ、俺)
 
「…?どういう意味?」
「…け、結婚しようって言ってるんだよっ!」
「…!」
 
突如、リノアの頬を涙が流れ、落ちた。
(泣かせたの…俺だよな?何だよ、リノア、そんなに泣くことないだろ?もしかして泣くほど
嫌なのか?…いや、俺が怒った口調で言ったのがまずかったのか?)
 
「もしかして、俺が怒ったから泣き出したのか?すまない、そんなつもりじゃなかったんだ。」
「違うよ。そんなんじゃないよ。すっごく嬉しいんだよ。急に胸がいっぱいになって…
でも、変だよね?なんで嬉しいのに涙が出ちゃうのかなぁ…。」
 
リノアが涙を拭って、俺を見た。もう既に、笑顔でいっぱいだった。
 
「あのね!わたしも、スコールと同じ名字にしたいな!同じお墓に入りたい!」
「じゃぁ…」
「うん!こんなわたしではございますが…これからはリノア・レオンハートを
 名乗ってもよろしいでしょうか?」
「…喜んで。」
「やった〜!」
 
そう叫ぶと、リノアは俺の胸に飛び込んできた。
 
 
あの時、緊張の糸が急に切れたんだよな。危うく飛びついてきたリノアの勢いで
後ろにひっくり返る所だったんだ…転ばなくて…よかったな…
 
 
(そんなにうれしがるなよ…いや、うれしがってくれないと嫌だな…
…何色々考えてるんだ。失言が多かったとはいえ、すべてはうまく行ったんだぞ?)
 
「ね、式はいつあげるの?」
「急な話だが、明後日にしよう。」
「明後日って、スコールの誕生日じゃない?」
 
(本当だ…自分で決めてて気づかなかった…)
 
「結婚記念日と誕生日が一緒なんて、何だかロマンチックだね!」
「じゃぁ、リノアの誕生日まで延期するか?」
「それはダメ…あと半年以上なんて待てないよ。明後日にしよう?」
「了解…」
 
「えへへ…」
 
何やらイタズラっぽく笑っている。こういう顔をしたときは、何か企んでる時だ。
 
「ダーリン☆」
「ダーリンじゃない!」
「わたし…結婚式の予行演習したいな〜?」
「は?」
「さて、結婚式で新郎新婦がやることとは何でしょう〜?」
 
(指輪の交換…それから…)
 
「答えは口に出さずに実行してくれると、リノアちゃん嬉しいんだけどな〜?」
 
今までに何度もしてたことだけど、あの時は何か、すべてが今までと違ってたな…
 
8月23日、今日。
俺の誕生日と…結婚式が重なった。
特に意識したわけじゃない、ただ単に…そう、偶然だ…
 
 
アーヴァインとラグナの射的対決やら、セルフィの手品やら、ゼルとニーダのパン食い競争
やら…式は異常な盛り上がりを見せた。司会のキスティスが困ってたな…
色々あったけど…リノアは楽しんでたみたいだから、まぁいいか。
 
みんなの心遣いが嬉しかった。
サイファーがぶっきらぼうに「おめでとう」と言ってくれたのも…うれしかったな。
俺、変わったな。昔とは比べモノにならないくらいだ。
 
 
 
今冷静に考えてみると、やっぱり俺、どうかしてたよな。
よくよく考えたら、ゼルに2日間で指輪を作らせたの、酷だったよな。
俺の勝手なお願いだったのに、アイツ、よく頑張ってくれたな。
リノアの返事をもらってないのにラグナに式場の予約をしてもらったり…
キスティス達に披露宴の事を頼んだり。俺…何考えてたんだろう?
こうやってみると…認めたくはないが…もしかしたら親父に似てるのかもな…
 
 
フッと口の端に笑みを浮かべて、視線を落とす。
俺の左手の薬指には、リノアと同じ指輪がはまっている。
今日からは…リノアと…2人暮らしだ。
 
「何考えてるの?」
 
突然リノアの声がして、我に返った。何を考えてたかなんて、言えるはずもない。
 
「…何でもない。」
「なんか、楽しそうな顔してましたけどね〜?
…あ、もしかして、えっちい事とか考えてたんでしょ〜?」
「違う。ぼーっとしてただけだ。」
「そうですかね〜?ま、そういうことにしときますか。」
 
そう言うと、リノアは急に真面目な顔つきになった。
 
「あのね、今日、スコールの誕生日でしょ?でもね、プレゼント、何も買ってないんだ…」
「プレゼントなんて、そんなのいいよ。」
「全然よくないよ!そういうのって、女の子はとっても大事にしたいんだから!」
 
(そういうものなのか?俺にはよくわからないな。)
 
「でね…お金をかけたプレゼントはないんだけど…」
 
リノアはまたしてもイタズラっぽい笑みを浮かべながら俺の隣に来て耳元で囁いた。
 
「わたしのすべてを…スコールにあげるよ…」
 
今夜がいつもより暑く感じられるのは、気温の所為だけではなさそうだ…


END




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Kallの感想
自分の誕生日にプロポーズ・・・いいですねぇvたぶん男性の中には結構、「俺も今日で○○歳になったし・・・もう、いいと思うんだ。結婚しよう(一緒になろう)」とかってプロポーズを考えてる人、多いと思うなぁ(僕個人の想像ですけど^^;)。そのうえ、誕生日のプレゼントが・・・く〜、羨ましいぞスコール!!(爆)ところで、今回も一つ爆笑・・・いやというより共感しました「け、け・・・ケダチクっからドロー・・・」の所、そう、結構肝心な話を切り出す時って男性は案外とまどう物なんですよ〜(・・・かく言う僕にもプロポーズじゃないにしろ・・・こ〜いう経験は有る物で^^;)