≪Silent Voice≫
君の顔は見慣れているのに、見る度に、少しづつ違う顔に見える。
君の声は聞き慣れているのに、何度聞いても耳に心地よく響く。
花のような笑顔も、夜の闇を切り取ったような漆黒の瞳も。
あの日抱きしめた腕の温もりの確かさで俺に向けられている。
君が俺に笑いかけてくれる度、少しづつ優しくなれるような気がするんだ。
君の声が、俺の名前を呼ぶ度、少しづつ自分を好きになれるんだ。
君の瞳に見つめられる度、また俺は君を好きになっていくんだ。
きっと、君よりも、君が思っているよりも、俺は君が好きなんだろう。
「スコール、いる?」
ドアをノックするコンコン、という音に重なって聞こえた声に、スコールはリモコンを手にした。
シュン、という軽い電子音を立ててドアが開くと、リノアが部屋に飛び込んできた。
「雨だよ〜、もう。」
リノアに言われるまでもなく、窓の外はさながら海でもひっくり返した様などしゃ降りで、数メートル先
すら見えない。
「せっかく、私の講義がお休みの日に、スコールのお休みが重なったのに!これじゃどこにも行けないじ
ゃないの!せっかく早起きしたのに!!」
・・・・・・早起き?
時計を見ると、十時半を過ぎている。
任務が午後からでも、休みの日でも、眠りに就いたのがたとえ朝方でも、必ず六時前には目が覚めるスコ
ールにとっては、すでにこの時間は朝ではなかった。
いや、彼でなくても、普通の人にとっては大体そうだろう。
しかし、寝起きが大変悪く、ガーデンで受けている講義も、朝起きられないからという理由で午後の授業
ばかりを主に選択している彼女にとっては、これも早起きのうちなのだろう。
アンジェロが、スコールの足にじゃれついている。
「おはよう。」
既におはようと言う時間でもないが、そう言ってアンジェロの頭を撫でてやると、甘えたように鳴いた。
ひょっとして・・・・・・。
「・・・・・・リノア。」
「なあに?」
「朝食、食べてないのか?」
「うん、そうだよ〜。起きて着替えてすぐここにきたから。でも、何で分かったの?」
やっぱり、と思いながらもう一度アンジェロの頭を撫でてから立ち上がり、キッチンへ向かう。
アンジェロにはピーナッツバターをたっぷり塗ったパンを、リノアにはトーストとプレーンオムレツに
簡単なサラダ、それにフルーツジュースを準備する。
手早くテーブルに並べられた朝食(そんな時間でもないが)に、リノアは目を輝かせた。
「うわ〜、おいしそう。食べていいの?」
「・・・・・・どうぞ。」
「いただきま〜す。」
スコールも向かい側の椅子に腰を下ろして、コーヒーに口を付ける。
「相変わらず、おいしい〜。スコールって、お料理上手だよねえ。スコールと結婚する人は幸せだねっ。」
料理を頬張りながら、笑顔を向けるリノアの言葉に、心の中で苦笑した。
・・・それは普通、男が女に言う言葉じゃないのか・・・・・・?
そう考えて、再び心の中で苦笑する。
結婚なんて単語を出されても、さして違和感を感じなかった自分に。
以前の自分なら、そんな単語を話に出されることすらないであろう。
・・・・・・本当に変わったよな、俺。
そんな事をぐるぐると考えていると、リノアが顔を覗き込んできた。
「スコールって、相変わらず無口で無表情だよね。前に比べたら、マシだけど。」
そんな事はない。
任務中はともかく、普段は割と心の中では、色んな事を考えていて、百面相をしているようなものだ。
ただ、スコールの場合、長い間、無口で無表情でいたので、なかなかそれが表に出て来ないのだ。
何かを言おうとしても、どう言おうか考えている内に、言うタイミングを逃してしまって、結局言えない
事が多い。
そんなスコールの考えを他所に、リノアは顔をしかめて問い掛けてきた。
「今日、どうしよっか。この天気じゃ、外に行くのは無理だよね?」
「・・・・・・まあな。」
「でも、せっかくのお休みなのに〜。」
「仕方ないだろ?」
「む〜。」
むくれている顔も可愛くて、つい見惚れてしまう。
「・・・・・・ここでゆっくりしてればいいだろ。嫌なのか?」
「そうじゃないけど!そうじゃないんだけど〜。だってスコール、この間もこんな日あった時、部屋で一
緒にいたのに、報告書の作成とか書類の整理ばっかりしてて、ちっとも構ってくれなかったじゃない。」
「あの時は・・・リノアがどうしても本を読んでしまいたいって言うから、俺は仕事して・・・。」
「違うよ〜、スコールがお仕事してたから、私は大人しく本読んでたんだもんっ。」
ぷうっと頬を膨らせて拗ねる姿が可愛くて、スコールは手を伸ばしてリノアの頭を撫でた。
「分かったよ。今日は仕事しないから。」
「ほんと?」
「ああ。この前のメールで、俺が帰って来たら、話したい事がたくさんあるって書いてただろ。それを、
全部聞くよ。」
「ホントに?」
「ああ。」
そう言って、もう一度リノアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
「わ〜い。やったー!じゃ、これ、急いで食べちゃうね。」
目の前の食事を、一生懸命詰め込み始めたリノアに、今度は本当にスコールは苦笑した。
「・・・・・・急がなくてもいいよ。」
昼前に始まったリノアの話は、夕方になっても尽きなかった。
受講している講義の内容のこと。ガーデン内で新しく出来た友達のこと。
セルフィとバラムまで買い物に行ったこと。その時偶然ゼルのお母さんに会って、食事をご馳走になった
こと。キスティスやシュウの学生時代の思い出話を聞いたこと。
アンジェロと散歩に出掛けて、今まで見たこともなかった可愛い花を見たこと。
ゾーンやワッツ達から手紙が来て、再来週ガーデンに遊びに来ると書いてあったこと・・・・・・。
話の内容は他愛もないものばかりだったし、リノアがほとんどひとりで話して、スコールは相槌を打った
り、時々言葉を挟む程度だったけれど、スコールはこの上なく幸せだった。
身振り手振りを交えて話すところが、可愛くてたまらなかった。
くるくるとよく変わるリノアの表情に、スコールの無表情までが和らぐようで。
時々、つまらなくない?と心配そうに尋ねるリノアに、スコールは優しく首を振った。
安心したように話を続けるリノアに、心の中で言った。
「俺はむしろ、雨が降ってくれて嬉しいよ。」
ふたりの姿をすっぽりと包んでくれる、雨のカーテンに、感謝しよう。
その声も、その笑顔も、俺だけが独り占めできる。
通りすがりの人に見られることすら、惜しいんだ。
今日はたくさん、君を見よう。
俺を見つめる君の瞳を、誰にも、見られたくないんだ。
END
<蛇足>
何でもない、何でもない日の、ひとコマです。
しかし、初めと終わりに詩がついているという冒険・・・いや、自爆作!!
私の中では、やっぱりスコールって、あまり喋らないイメージがありまして、ただ、心の中では色んな事
を、こう、ぐるぐると考えているんではないかと。
それを、仕事や何かを抜きで、リノアの事だけ考えていると、こんなんなっちゃいました。メロメロ!!
ただし、スコールが頭の中でリノアに呼びかける時、「君」とは絶対言わないと思うのですが(笑)「あ
んた」や「お前」にすると、詩の雰囲気が崩れるので、詩には「君」という二人称を用いました。
本当は一人称も、「俺」より「僕」の方が詩には向いているのですが、さすがにスコールは「僕」とは言
わないでしょう(当たり前)。っていうか、そんなのスコールじゃない!って私も思ってるので、却下。
この話は雨の日のお話ということで、イメージソングはCHAGE&ASKAのASKA氏のソロ曲「はじまりはいつも
雨」です。
では、あまりに恥ずかしいので自爆します。Kallさん、後はよろしくお願いします。・・・ドッカーン。
Kallの感想
ちゅどど〜ん(連鎖爆発)イイっ!僕も恋人とこんな雨の休日、過ごしてみたいです><何をするでもなく1日まったりと
くだらない話をして、ご飯も適当に冷蔵庫の中身のありあわせのもので作って食べたり…いい、いいなぁ。そんな休日。
まぁ、一人暮らしのときとか、今でも実家では雨の日にときどきまったりとした1日は過ごしてますが…一人じゃちょっと
物足りないかも(爆)とまぁ、僕のことはさておきまして、ARSLANさんが冒険とおっしゃっている詩ですが、ぜんぜん
そんなことないですよ〜。ストーリーの最初と最後でスコールの気持ちを表現するのにぴったりっす!!
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