≪Written In The Stars≫
「スコールー!」
聞き慣れた、耳に心地よい声が響く。
目を開けると、どこまでも晴れ渡った空が目に飛び込んでくる。
学園の裏にある丘の上。
草原の上に横たわっていた彼はゆっくりと上半身を起こした。
今度は、目の前にバラムの美しい海が広がった。
空の色に負けない鮮やかなスカイブルーの衣の少女が丘を駆け上がって来る。
「いたいた。捜しちゃったよ、もう。」
頬を膨らませながら、リノアが目の前に立つ。
「せっかくスコールがお休みだから、一緒にお昼ご飯食べようと思ったのに、いないんだもん。」
言葉ほどには怒っていないことが明らかで、笑いながらスコールの隣に腰を下ろした。
「晴れてて、お休みの日で、スコールが学園内にいなかったら、大体ここだもんね。景色いいし、気持ち
いいよね〜、ここ。」
言いながら、何だかニコニコニコニコしている。
「・・・・・・・・・何かあったのか?」
「ん?何が?」
「・・・いや、何か・・・・・・嬉しそうだから・・・・・・。」
スコールの言葉に、リノアはますます笑顔を増した。
「えへっ。わかる?実はねー、さっき食堂でゼルに会ったの。そしたらね、今週中には指輪が出来上がる
って!」
「ああ・・・あれ・・・・・・。」
「そうだよ〜。もう嬉しくって。」
スコールのグリーヴァのリングと同じ物を欲しがっていたりノアは、以前からそれを楽しみにしていて、
嬉しくてたまらないという顔をしている。
自分と同じ物を持つことを、それほどまでに喜んでくれる彼女に、スコールまで嬉しくなる。
「あ、そだ。それでね、これ、デザインの型は取れたからって、返してくれたの。」
リノアが握っていた手を開くと、グリーヴァのリングが陽の光を受けてキラリと輝いた。
「ホントにかっこいいよね〜、これ。早く出来るといいな。それで、あのね、スコール・・・・・・
お願いがあるんだけど・・・・・・。」
「?」
目で、何だ?、と問いかけたスコールにリノアは照れくさそうに言った。
「これ、私のが出来上がるまで借りててもいい?」
何だそんなことか、と思いつつもスコールはりノアがそんなことを言う訳が解らなかった。
「ああ、いいけど・・・・・・。」
スコールの疑問がリノアにも伝わったらしい。ますます照れた様に顔を赤くした。
「だって、何でもいいから、スコールの物、持っていたいんだもん。」
小さな声で囁くように言われて、スコールまで照れてしまう。
二人の間に流れる沈黙を掻き消すように、リノアが明るく声を上げた。
「失くさないようにしなくっちゃね!」
いつも首にかけているネックレスをはずして、チェーンにグリーヴァのリングを通そうとしている。
そのネックレスは、初めて会ったパーティーの時からずっと付けている物だ。
チェーンに、指輪のような物が通してある。スコールは彼女がそれをはずしているのを見たことがない。
リノアの手元を眺めながら、スコールは以前から疑問に思っていた事を口にした。
「・・・それ、指輪だよな?」
「え?これ?」
リノアはチェーンからそのリングをはずして、目の前にかざした。
「これはね、お母さんの形見なんだ。」
「・・・お母さんの・・・・・・?」
「そう、形見って言うかね、私の五歳の誕生日に、お母さんがくれたの。その後すぐ、お母さん、事故に
遭って死んじゃって・・・・・・。だからって訳でもないんだけど、いつも身に付けてるの。お母さんが
守ってくれてるような気がするんだ。」
その言葉に、一瞬自分の問い掛けを悔いる様な表情を見せたスコールに、リノアは慌てて言葉を継いだ。
「これね、気に入ってるの!ホントはちゃんと指にはめたいんだけど、サイズが大きすぎるんだよね。
男物なのかなあ?デザインはシンプルなんだけど、私の好きな羽根のモチーフでね、すごく気に入ってる
んだよ〜。ね、見て見て。」
目の前に差し出されたリングを、受け取って眺める。
片方だけの羽根がデザインされた、シンプルなリング。
「?」
何となく、既視感があるような・・・・・・?
「片方だけっていうのが、ちょっと変わってるよね。普通は羽根って二枚でデザインされてるでしょ?
ちょっと寂しい感じがするよね。それにね、裏に何か文字みたいなのが彫り込んであるんだけど、何て
書いてあるのか判らないんだよね。」
リノアの言った通り、リングの裏側には何か彫り込まれていた。
それを見た瞬間、スコールはさっきの既視感の理由を悟った。
「リノア、俺のリングをちょっと貸してくれないか。」
「ん?ハイ。」
手渡された自分のリングを見て確信する。
グリーヴァのリングの上に、リノアのリングをゆっくりと重ねた。
ああ、やっぱり・・・・・・。
不思議な感覚が胸に溢れ出す。
「・・・リノア、これ・・・・・・。」
スコールのすることを不思議そうに眺めていたりノアは、スコールの手元を覗き込んで、次の瞬間、目を
瞠った。
両の翼を大きく広げて、まさに翔び立とうとする有翼獅子---------。
ふたつのリングがぴったり重なって、美しい有翼獅子を浮かび上がらせていた。
驚きのあまり、声も出せずにリングに見入っていると、スコールがリングを差し出した。
「後ろの文字も・・・・・・。」
スコールの手から、ふたつのリングをそのまま受け取る。
少し緊張しながら、裏側の文字を読んだ。
『強き者よ、愛するものの空に幸福の翼を掲げよ。』
黙ってそれを眺めているリノアの目から、知らず涙が零れだした。
それを見て少し慌てた様子のスコールに、リノアは涙も拭わずに笑顔を向けた。
「心配しないで。嬉しいの。嬉しくてたまらないの。これ、ペアだったんだね・・・・・・。」
嬉しくて、感動して、涙が零れて止まらない。
スコールは手でリノアの頬の涙を拭ってやりながら、ふたつのリングに目を落とした。
「・・・・・・でも、何で・・・・・・。」
スコールの疑問は当然のことだったが、リノアには、もう答えが解っていた。
ハンカチで涙を拭ってから、リノアはもう一度スコールに笑顔を向けた。
「あのね、実はスコールに教えてないことがあるんだ。」
「教えてないこと・・・・・・?」
少し首を傾げる様にして自分を見つめるスコールに、リノアは続けた。
「うん、このスコールのリングがね、どこから来たのかってこと。前にさ、スコール、これは小さい頃
から持ってるもので、いつから持ってるのかも分からないって言ってたじゃない?」
「ああ。」
「実はね、このグリーヴァのリング、私のお母さんがラグナさんにあげた物なの。」
「・・・ラグナに・・・・・・?」
「そう。昔ね、お母さんがホテルのバーのピアニストで、ラグナさんがガルバディアの兵士だった頃。
エスタに任務に行く前の夜に、お母さんがプレゼントしたんだって。結局、お母さんとラグナさんが会っ
たのは、それが最後になっちゃったらしいんだけど・・・・・・。その後、ラグナさんはずっとそれを大
事に持ってて、エルお姉さんがエスタにさらわれたのを助けに行った時に、ウィンヒルに帰るエルお姉さ
んに持たせたんだって。レインさんに、自分が無事でいることを知らせる為に、渡すようにって。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「それでレインさんはそれをずっと大切に持ってて、亡くなる間際に、今の私がしてるみたいに、チェー
ンに通して、エルお姉さんに預けたんだって。今はまだ、スコールは小さいから、チェーンが首に絡まっ
たりしたら危ないからスコールには持たせられないから、スコールがもう少し大きくなったら渡してね、
って言って。それが、これなんだよ。」
重なったままのふたつのリングを、スコールの前にかざして見せた。
「あ、スコール、何で私がそんな事知ってるんだ?って思ってるでしょ〜。ふふふ、実はね、ラグナさん
とエルお姉さんが教えてくれたんだ。でもね、スコールには黙ってるようにって、ラグナさんに口止めさ
れてたの。元々、自分の物だったって知ったら、スコールが嫌がるかもしれないからって。」
そんな事ないよねえ?と、リノアがスコールの顔を覗き込んだ。
「私、それ聞いた時、何だか嬉しかったし、スコールにも教えてあげたかったんだけど、ラグナさんが
どーしても黙ってて欲しいって言うから、黙ってたんだ。ごめんね。」
「いや、それはいいけど・・・・・・。」
それを聞いてリノアは、空を仰ぎながら笑った。
「だけど、これがペアだったなんて、ラグナさんも知らなかったと思うよ。そんな事ぜーんぜん言って
なかったし。私も、もらった時にこれがペアだなんて聞かなかったし。まあ、その時はまだ小さかった
から教えてくれなかったのかもしれないけど、お母さんだけが知ってたんだよね。」
「・・・・・・そうだな。」
「だけどスコール、よく気付いたね。私なんてこの指輪、ずーっと持ってて、裏の文字が何て書いてある
のか知りたくて、よく眺めたりしてたのに、ペアかもしれないなんて考えた事もなかったよ〜。それに、
よく考えたら私ってば、しばらくの間このふたつ一緒に持ってたのに、全然気付かなかったし〜。」
「・・・・・・まあな。」
重なったふたつのリングを眺めていると、嬉しさがあとからあとから胸に込み上げてきて、思わずリノア
は立ち上がった。
空を見上げると、母親の優しい笑顔が浮かんだような気がして、また涙が零れそうになった。
泣いちゃうとスコールを困らせちゃうよね、と胸の中で呟いて、とびっきりの笑顔でまだ座ったままの
スコールを振り返った。
「不思議だよね、こんなの。お母さんとレインさんが私達を会わせてくれた様な気がしない?」
「そうだな。」
「それに、ラグナさんもね。」
「・・・・・・そうだな。」
「もうっ、スコール、そう思ってないでしょ〜。」
言いながら、今度はスコールの正面に、向かい合うようにして座った。
「ね、こういうの、『運命』って言うのかな?」
夜空の色を映した様な漆黒の瞳が、スコールの目を真剣に見上げている。
『運命』という言葉は嫌いだけれど。
『運命』なんて信じていないけれど。
もし、俺達を引き合わせてくれたものをリノアがそう思うのなら、それもいい。
「・・・・・・そうかもな。」
その答えに、目の前の愛しい少女は、美しい顔に、大輪の花が花開く様な笑顔を咲かせた。
END
<蛇足>
これはKallさんの「Loop of Ring」の続編として書かせて頂いたものです。
なんですがっ!あんな素敵な作品にこんな続編付けてしまうとは・・・・・・(滝汗)。
「Loop of Ring」を読ませて頂いた後、パーッと思いついて、これはいける、と思ってKallさんの許可を
頂いて、やった〜、と小躍りしながらダーッと書いたらこんな駄作に・・・・・・(涙)。
ふふふ・・・・・・Kallさん、こんなもの送り付けてすみません。
お蔵入りにして頂いた方がよろしいかもしれません、ふふふふふ(壊)。
ちなみに、この話にはイメージソングがありまして、UKで大人気のヴォーカルグループ‘westlife’の
「Written In The Stars」という曲です。このグループは、日本ではあまりメジャーではないのですが、
ヨーロッパやアメリカでは非常に人気があります(何宣伝してるんでしょう、私。回し者か?)
‘Written In The Stars'とは、‘運命’という意味でして、タイトルにもそのまま付けました。
(最初は「Spiral(らせん)」と付けようかと本気で思いました。)
・・・・・・Kallさんのファンの方々怒られないうちに逃げますっ!テレポート!!
Kallの感想
や、やられた〜!『Loop〜』の続編を書いていただけるということなので、どういう展開に?とあれこれ予想して
いましたが、ペアリング、しかもデザインやら内側の文字まで考えられていたとは!く〜、一本どころかなんか
二本も三本もとられちゃったカンジです^^まさにこの指輪のお話は、タイトルどおり『運命』と言っていい物語…
ちくしょ〜、さすがARSLANさんだぜ≧◇≦(←江戸っ子かよ)
最後になりましたが、すばらしい続編、本当にありがとうございました〜m(_ _)m
|
|