≪Say A Little Prayer≫


「うわーっ!きれーい!!」
目の前に広がる一面の菜の花畑に、リノアは目を輝かせて感嘆の声を上げた。
久し振りの、スコールの休暇。
スコールは花が好きだというリノアを、バラムの外れにある菜の花畑に連れて来ていた。
先日、任務に向かうラグナロクで上空を飛んでいる時に、一面に広がる鮮やかな春の黄色を見て、帰って 来たら必ずリノアを連れて行こうと決めたのだった。
今、一面の黄色の向こうには、蒼い海がどこまでも広がり、空とその青さを競っているかのようだ。風は
穏やかに春の陽射しの中を舞い、薄く白い雲が緩やかに流れている。
スコールが思った通り、リノアはとても喜んだ。
「それにしても、やっぱりバイク、ちょっと怖かったよ〜。」
菜の花からスコールに視線を移して、リノアが笑った。
今日は、初めてリノアをバイクの後ろに乗せて走ったのだ。
これまでスコールは、リノアと出掛ける時はいつも車を使っていたのだが、今日は天気もよく、風も穏や
かで、こんな日はバイクの方が気持ちいいだろうとバイクにしたのだった。
これまでタンデムを経験したことが無いというリノアは、初めは少し怖がっていたが、いざ走り出すとス
コールの背中に全力でしがみついた。
そのしがみついた力の強さと彼女の体温が、スコールに、リノアを守るという気持ちを強くさせた。
「でも、スコールの言った通りだった。気持ちよかったよ!!」
嬉しそうに笑うリノアを見て、スコールはやっぱり連れて来てよかったな、と思う。
一通り菜の花畑の中を歩いて回ると、リノアは菜の花畑から少し離れた場所にスコールを連れて行った。
「ここの方が菜の花畑全体が見えるでしょ?ここでお弁当食べよ!」
座り込んで、荷物を広げるリノア。
バッグから色とりどりのランチボックスが取り出される。
リノアがひとつひとつ楽しそうにふたを開けるのを、スコールは人には分からないくらいの微笑を浮かべ
て見ていた。リノアを見つめるその瞳は、以前の彼からは想像も出来ないほど優しかった。
ランチボックスには、サンドウィッチ、フィッシュ・アンド・チップス、フライドチキン、マカロニサラ
ダ、フルーツなどが彩りも鮮やかに、綺麗に盛り付けられている。
「食べて、食べて。」
リノアが嬉しそうに言う。スコールはタマゴサンドをひとつ取り上げると、一口かじった。
「ね、どう?おいしい?」
リノアが目を輝かせて訊いてくる。
「ああ。」
「ほんと?じゃ、ほめて、ほめて。」
子供のように一生懸命なリノアを見ていると、自然と笑みがもれそうになる。
「・・・・・・頑張ったな。」
「わーい。ほめられちゃった。」
「食堂のおばちゃんが。」
スコールの一言にリノアは目を瞠った。
「何で知ってるの?」
「・・・・・・やっぱり。」
「は、はめたなーっ。」
リノアは顔を赤くして、小さな拳でスコールの肩をぽかぽか叩いてくる。
「別にはめたわけじゃないよ。」
「じゃ、何で?」
「俺はガーデンでの生活が長いから・・・味で何となく・・・・・・。」
スコールの言葉は当然のことで、リノアは納得したが、それでも事実を伝えようと一生懸命になった。
「でもでも、一緒に作ったんだよ!お手伝いしたんだから!!」
「・・・・・・何を・・・?」
「お野菜洗ったり。」
「・・・・・・。」
「レタスちぎったり。」
「・・・・・・・・・。」
子供が今日した母の手伝いを数えるように、指を折るリノア。その内容は、子供でも出来そうなものばか りだったが、リノアにしてみればかなり頑張ったと言える。
「あっ!それに!!」
何かを思い出したようにバッグを探ると小さな箱を取り出した。
それをずいっとスコールの前に突き出す。
「開けてみて!」
手渡された箱からは微かに甘い香りがする。ふたを開けると、バニラの香りがスコールの鼻先をくすぐっ た。箱の中には、クッキーが詰まっていた。
「セルフィや三つ編みちゃんと一緒だったけど、これはほんとに自分で作ったの!」
スコールがひとつつまみ上げると、リノアが言った。
「アンジェロの形なんだよ。可愛いでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
それは、スコールの目にはどう見ても何かのモンスターのように見えた。アンジェロが知ったら、悲しげ
に鳴くかもしれない。
しかし、スコールはもちろんそんなことは言わなかった。彼は鈍感ではあるが、決して無神経ではない。
何かを言う代わりに、つまみ上げたクッキーを口に放り込んだ。
それを見ていたリノアが、試験結果を待つ学生のように真剣な瞳でスコールの目を覗き込んだ。
「どう?」
「・・・・・・うまい。」
「ほんと?ほんとに?」
「ああ。」
「やった〜!!」
跳びあがるような勢いで喜ぶリノアを見て、スコールは微笑んだ。
正直言えば、そのクッキーは固かったし、粉っぽくて甘みも足りないだろう。しかし、スコールにとって
は、これまで食べたどんなものよりも本当に美味しかったのだ。
しかしリノアは、自分もクッキーをひとつ食べてみて顔をしかめた。
「これ、ちょっと固すぎない?あんまり甘くないし。」
「・・・・・・そんなことないよ。」
「う〜、ごめんね。上手く出来たと思ったのになあ。お砂糖足りなかったみたい。それに、混ぜすぎちゃ
ったのかなあ。」
一生懸命失敗の理由を考えて、言い訳をするリノア。
「・・・・・・本当に美味しかったよ。」
「む〜、だって〜。」
「俺が美味しいと思ったんだから、それでいいだろ。それよりほら、折角だから、お弁当食べよう。」
「じゃ、最終兵器!!」
リノアはバックの中から、今度はタンブラーを取り出した。
「はい!アイスミントティー!!」
リノアは絶望的に不器用で、当然のごとく料理も苦手だった。一体どうやったらこんな失敗が出来るのか と思うほどなのだが、そんなリノアが芸術的な技術を披露することがひとつだけあった。
それは、紅茶である。大の紅茶好きだというリノアは、美味しい紅茶を実に優雅な手付きで淹れてみせる のだ。様々なバリエーションティーを淹れるのも得意だった。初めの頃は、皆が驚いたものだ。かく言う スコールも、もともと紅茶はさほど好きではなかったのだが、リノアの淹れた紅茶を飲むようになってか らはすっかり気に入って、コーヒーより紅茶を飲むことが多くなった程だった。
アイスミントティーは美味しくて、今日のような気持ちのいい日にぴったりの爽やかな後味を残した。
「・・・・・・美味しいよ。」
スコールの褒め言葉に、リノアは今度こそ本当に満足したらしい。
ゲームに勝った時の子供のように、嬉しそうな無邪気な笑顔になった。
「やった〜。じゃ、お弁当食べよ。いただきま〜す。」
何でもない、こんな彼女を見ていると、愛しさがスコールの胸に込み上げてくる。
限りない幸せが心を満たして、スコールは相変わらず優しい瞳で彼女を見つめていた。



バイクの後ろで、一生懸命スコールにしがみ付いていたリノアも。
朝が苦手なリノアが、早起きして作るのを手伝ったというお弁当も。
言い訳たっぷりのクッキーも。
スコールの好みの通りに淹れてくれたアイスミントティーも。
それはすべて、スコールの目に映る、リノアのたくさんの気持ちたち。
今感じることができる、リノアがスコールに向けてくれているありったけの気持ち。
それは「好き」と言われるよりも、スコールにリノアの気持ちを伝えてくれるように思えて。
スコールはまたひとつ、リノアを好きになる。
これまでも、今も、リノアは自分では解っていないかもしれないが、こうやってひとつづつスコールに自
分を好きという気持ちを重ねさせてきたのだ。
そして、それはこれからもそうなのだろう。
そう思うと、これ以上はないその幸せに、スコールはひとつ小さな笑みをもらした。


END


<蛇足> こんなものでよろしゅうございますか、Kallさま?ビクビク。
これもお祝い作品として、Kallさまのリクエストを元に書かせて頂きました。
お花見ネタでスコール×リノア、ほのぼの、というリクエストで、クリア出来ているでしょうか?
私は以前から、ふたりにバイクの二人乗りをさせてみたかったので、この機会にしてもらいました。
お花見ネタはもう一作ありまして、そちらはオールキャストなつもり(あくまでつもり)です。

イメージソングは、UKのボーカルグループ‘westlife’の「MY LOVE」です。

Kallさま、こんな駄作ですが受け取っていただけると嬉しいです。




Kallの感想
リクエスト、もうバッチリクリアです≧▽≦というか、ほんとメールでは沢山ネタ振りしましたけど、 リクエストしたネタのどれか一つでよろしかったのに〜><で、この作品ですが…僕個人的に めっちゃ憧れなんすよ〜、お弁当(彼女の手作り…といっても今回のリノアのように誰かに手伝って< もらったってのでもOKです)持ってお花見〜♪だから余計にツボでした〜!ほんと、料理は味じゃ 無いです、どれだけ一生懸命に作ったかという気持ちですよね〜^^(ただし彼女や女友達が作る場合のみ・爆)

ちなみに、僕の理想の彼女に作ってもらいたい手作りお弁当ですが…、
・玉子焼き(なるべく甘め)
・ウィンナー(真っ赤なやつ@タコになってたり手が加えられているとなおGood)
・鳥のから揚げ(骨付きでも骨なしでもOK)
の3つがあれば、他がどうであれパーフェクト!!
その日の帰り道にどんなわがまま言われても聞いてしまいそうです(爆)