平成24126

広島県への要望(県庁)上下町、甲奴町、神石高原町から要望書提出・陳情

地域医療を守る会の要望事項

T.地域医療再生計画見直しに関する要望事項

1.府中市地域医療再生計画は、医療圏が全く異なる2つの病院を縮小再編統合する計画であるが、府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡、中山間超医療過疎地域唯一の救急中核病院で、なくてはならない病院である。縮小されると医療不足になり安心して住めなくなるため故郷がさびれ、やがては地域が崩壊する危険性が大きいので当計画の見直しを要望します。

2.府中北市民病院医療圏は、面積600平方キロ、人口15000人、高齢化率40%以上で診療所はわずか6施設しかない。北海道に次いで無医地区の多い広島県の中で77%の無医地区が集中しており、精神科医を除く医師密度は1平方キロ当たり0.028人の超医療過疎地域である。医療が不足している当該地域唯一の中核病院を縮小し、医師を医療資源が豊富な都市部に移動する当計画の見直しを要望します。

3.医療は地域住民の健康(幸福)と「命の保証」である。病院が縮小やリストラで黒字になっても、地域住民にとって不十分な医療のために安心して暮らせない地域医療再生計画では住民の健康被害(不幸)と「命の格差」が発生するので当計画の見直しを要望します。

4.当計画に関する2回の地域医療を守る会シンポジウムで@地域住民との合意が得られるまで計画延期、A府中北市民病院の現状維持、B市の直営、C基幹病院にする(府中市活性化の目玉と位置付ける)、ことは住民総意で採択決議され、これまでに計3回行った住民アンケート(総計1,031名回答)結果でも、@住民合意が得られるまで計画延期すべきが88.8%、A府中北市民病院は現状維持すべきが93.0%、B市の直営維持すべきが81.4%、C住民運動継続すべきが91.3%であることから当計画の見直しを要望します。

5.県が作成した地域医療再生計画Bプランでは、府中北市民病院とJA府中総合病院は「連携強化」とあるが、府中市の計画では「統合・再編」となっているので当計画の見直しを要望します。

 

U.地域医療再生計画は、行政、医療機関、地域住民との協議と合意が必要であることに関する要望事項

6.府中市地域医療再生計画は当初より地域住民との協議が全くなされておらず、地域のニーズに合致していないことから早急に旧府中市、上下町それぞれの地域住民と、行政、医療関係者が一堂に会して議論を尽くして、それぞれの地域(医療圏)の実情に合った最善の府中市地域医療再生計画になるための協議が出来るよう県が調整、指導し、合意が得られるまで当計画を延期されることを要望します。

7.府中北市民病院の医療圏は、府中市、三次市(甲奴町、吉舎安田)、神石高原町、庄原市(総領町)、世羅町の5つの自治体にまたがり、府中市だけでの地域医療再生計画では不十分である。中立的立場にある広島県が当該医療圏の調査、調整、指導をし、広域で他の自治体を交えた地域住民、医療機関、行政の協議を開催して適切な医療計画になることを要望します。

8.一昨年から県に広島県下すべての地域中核病院の適切な常勤医師数を調査する旨要望しているが、中山間地域の医師不足は待ったなしの喫緊の課題であるので大至急公表されることを要望します。

 

V.府中北市民病院現状維持(常勤医師数7名以上、85床、一般救急入院、手術機能維持、医療機器維持、等)に関する要望事項

9.2030年まで日本の高齢者人口は増加し、高齢になるほど入院受療率は増加する。府中市の人口動態推計と府中北市民病院入院患者統計から平成32年度までの一般病床1日平均利用数は平成22年度の45.2床から44.2床と1床しか減少しないこと(資料―1参照)と、85床は経営効率も良いことから府中北市民病院は85床、常勤医師7名以上、一般救急入院、手術機能維持等の現状機能の維持を要望します。県は府中市の縮小計画をなぜ容認するのか医学的根拠を回答して下さい。

10.     府中北市民病院を64床にする場合一般病床は39床となるため、1日平均6.2床不足することになり年間2,263床不足する。平成22年度の一般病床の平均在院日数は22日なので年間約103名の地域住民の命の保証がなくなるので現状の85床を要望します。64床を県が容認する医学的根拠を回答して下さい。

11.     中山間地域は介護サービス資源も都市部と比較して少ない傾向にあるので安心して在宅医療が出来るために、身近な府中北市民病院に高齢者の需要が多い内科、外科、整形外科、リハビリテーション、療養病床が充実した病院機能の維持を要望します。

12.     旧甲奴郡、神石郡は医療不足であるので府中北市民病院の現状機能が縮小されると、開業医も安心して仕事が出来なくなり医院をやめる可能性があるので現状維持を要望します。縮小されると6施設しか診療所がない超医療過疎地域にとってさらに深刻な事態が発生することに関する県の考えを回答して下さい。

 

W.府中北市民病院は市の直営として維持すべきことに関する要望事項

13.     中山間医療過疎地域は不採算地域でしかも人的過疎地域でもあることから医師、看護師など医療従事者が働きやすい環境作りが必須となることと、職員確保のためにも自治体病院として地方交付税を繰り入れ、職員の身分保障と病院の経営を安定化させることが可能な市の直営(公務員型)を要望します。

 

X.府中北市民病院を当計画の基幹病院とすることに関する要望事項

14.     府中北市民病院は中山間医療過疎地域唯一の救急中核病院で、広域で急性期疾患の需要も多く、競合する他の病院がなく平成21年度、22年度ともに不採算地域指定病院特別交付税が全額繰り入れられていれば黒字決算で健全経営が可能であることから、雇用対策を含めた府中市活性化の拠点として位置づけ、府中市地域医療再生計画の基幹病院とすべきであるという当該地域住民の政策提案要望に対する県の考えを回答して下さい。

15.     府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡、唯一の救急中核病院であるが、都市部には選べる他の病院があること、そしてこの計画には医師増員の確保がないことから、府中北市民病院を基幹病院とする府中市地域医療再生計画にすべきであることを要望します。

 

Y. 地方独立行政法人化に関する要望事項

16.府中市が進める府中北市民病院の地方独立行政法人化は、地域住民の合意形成を欠いた計画であり、認可しないこと。認可する前には必ず、県として地域住民の意見を聞くこと。県として現地調査をするまで認可しないことを要望します。

17.今回の医療再生計画は県にも責任があります。独立行政法人化によって、どのように医療サービスが低下しないのか、県としての見解を明らかにして頂くことを要望します。

18.独立行政法人化の認可で医療スタッフの流出が予想されます。府中市は独立行政法人設立に伴う新病院の体制も明らかにしておらず、後退も予想されます。独立行政法人の手続きだけで医療再生や住民に対する公平な医療サービスが行われるのか、県の見解を要望します。

19.府中市の計画では大幅な赤字を抱えるJA府中総合病院の土地、建物、機材などを3年間無償で借り受けることになっており、職員もJA厚生連の籍のまま地方独立行政法人に出向する内容となっています。このような不確定な協定に基づき策定された計画で府中市住民に対する医療サービスが適切に行われるのか県の見解を要望します。また中期計画で赤字を解消するとあるが、どのように赤字が解消されるのか県の見解を要望します。

 

Y.その他要望事項

20. 府中北市民病院の一般病棟は、看護師不足から平成2311月より60床から40床に縮小して運用せざるを得なくなった。この原因は看護師2人が産休に入ることが分かっていながら市が看護師募集を許可しなかったためである。平成244月から新病院となれば、その許可病床数は医師数、看護師数によって決まる。さらに病床数や職員数は平成23年度の実績に基づき決定するとされているが、この実績そのものが看護師を募集させないという市による計画的な縮小なので、真の実績ではなく根拠とならない。地域の実情では平成22年度までの分析から将来にわたり85床が必要であり、すでに現在、病気やけがの地域住民の入院診療を制限しなければならなくなっており、早急な看護師募集が必要なため府中市への指導と県の見解を要望します。

21. 府中市は当該地域の住民運動は一部の住民による単なる反対運動や政争活動として、府中市地域医療再生計画に関しては一切協議しようとはしません。府中市のこのような不公正な姿勢に対する県の指導を要望します。

22. 「財団法人広島県地域保健医療推進機構」へ府中北市民病院への医師派遣を要請していただくことを要望します。

23.以上の要望内容を府中市地域医療再生計画中期計画に盛り込むよう大至急調査、調整、指導をお願いします。

24.湯崎英彦広島県知事と地域医療を守る会との面談を実現していただくこと。

25.以上の要望事項に関する県の見解を210日までに文書で回答して頂くことを要望します。

資料―1

府中北市民病院(旧上下病院)が現状維持されなければならない医学的根拠

1)病院機能が現状維持(85床)されなければならない根拠(その―1

国保府中北市民病院(以下、旧上下病院)は昭和18年旧甲奴郡、神石郡に入院施設のある病院がなかったため歴代の町長と地域住民が苦労して広島県から昭和18年広島県初の国民健康保険病院として認可されました。15床からスタートし昭和57年には広島県で初めて保健センターを病院に併設し110床となり、国民健康保険病院の理念である地域包括ケアシステムを構築しました。その後平成11年に病院を新築し一般病床60床、療養病床50床で運営を開始しました。平成13年には手術室も改修し、平成15年MRI導入、平成16年年病院機能評価機構に認定、同年「地域保健・医療」広島大学医師臨床研修協力指定病院に認定された当該地域にはなくてはならない病院です。診療圏は旧甲奴郡(府中市上下町、三次市甲奴町、庄原市総領町)と神石高原町、世羅町の一部です(表−1)。医療圏域人口は約13000~15000人、約600平方キロメートルあり広域ですが診療所は6施設しかない超医療過疎地域です。広島県は北海道についで無医地区が2番目に多い都道府県であるが、その中でも庄原市(旧甲奴郡総領町)、三次市(旧甲奴郡甲奴町)、神石高原町で広島県の無医地区の77%が集中している超医療過疎地域である。また1平方キロメートル当たりの医師密度は0.028名で府中市はその12倍、福山市56倍、尾道市36倍、同じ中山間地域では世羅町2倍、庄原市2倍、三次市5倍と都市部に比べると医師密度はかなり低い(表―2)。

府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡中山間医療過疎地域唯一の中核・救急病院であり、診療圏域の高齢化率は40%に近いため、高齢者の急性期患者が多い。例えば平成21年度には年間患者数は8万4千人以上、1日平均入院患者数80名、病床利用率90%以上と病床の回転率はほぼ満床に近い状態である。一般病棟で1患者当たりの平均入院日数(平均在院日数)も20日と全国平均18日と遜色がなく長期入院は少ない。年間の時間外救急患者は1760名で、救急車搬入患者数は242名である。府中消防署小塚出張所と備北消防署甲奴出張所の約半数は府中北市民病院に各々搬送されており救急患者も多い。救急車利用率の全国平均は人口一万人当たり400~500件であるが、府中北市民病院は161件なので900件の夕張市のように救急車をタクシー代わりに利用するコンビニ受診は少ないといえる。年間手術件数も171件(外科1医師で72件、整形外科1医師で99件)と多く、透析患者も1日平均25名もある(表−3)。

 昭和58年厚生白書(厚生省)によると病気をもつ割合(有病率)と医療機関にかかる割合(受療率)は、高齢になるほど高くなりしかもその上昇率は急峻になる。分かりやすく言うと高齢になるほど多くの病気やけがを抱へ、急変しやすいということである(表−4)。

 上下町の高齢者人口動態推計(表―5)によると、平成22年から平成32年の10年間で上下町の人口は5369人から4343人と1026人減少するが、65歳以上の高齢者はその10年間に2008人から1875人とわずか133人しか減少しない。それは昭和20年代前半生まれの戦後ベビーブームの団塊の世代が存在するためで、この人口動態は同じ診療圏域でほぼ同じ環境下にある甲奴町、総領町、神石高原町にも同様な傾向があると思われる。

 以上のことから府中市が624日に発表した府中北市民病院の病床数を平成24年度から現行の85床を64床に縮小するということは、多くの医療難民(入院を断られ行き先がない患者)と、救急患者が医療圏の異なる府中市や、三次、庄原等に行く場合1時間以上を要するため助かる命も助からなくなる「命の格差」を生む事態に陥ることになることから容認できず85床で現状維持しなければならないといえる。

 

2)病院機能が現状維持(85床)されなければならない根拠(その―2

高齢になるほど多くの病気やけがを抱えしかも急変しやすい事実を昭和57年厚生白書で紹介しましたが、高齢化率が急増している最近では平成20年度の全国の年齢別入院割合によると図―1のように65歳以上の高齢者特に75歳以上の後期高齢者から高齢になるほど急増することが分かります。平成32年度の上下町の人口動態推計では85歳以上の高齢者は平成22年度より125名増加することから、今後も長年にわたって府中北市民病院を必要とする多くの患者さんがいることが分かります。

府中北市民病院の平成20年度から22年度までの3年間の一般病棟(53~55床)の総入院患者数は2212名でそのうち高齢者は83.3%を占め(図―2)、先の全国の結果と同じく高齢者の入院が多いことが分かります。そのうち病院で亡くなられた方は203名おられましたが、その内訳は65歳以上が97%と圧倒的多数を占めていました。平成21年から22年度2年間の救急車搬入患者は414名ありましたが、60歳以上が78.3%と高齢者が多く、その搬入時間帯の71%が夜間早朝でした(図―3)。同じく2年間の手術患者内訳は外科145名中80.7%、整形外科219名中76.3%60歳以上でした。手術患者も高齢者が多いことがわかります。

 一般病棟の入院患者の疾患別割合は図―4の如く骨折が最も多く、次いで肺炎、関節炎や腸炎などの炎症性疾患、脳梗塞、胃潰瘍などの消化管出血、心不全、胆石、外傷など急に発病する急性期の病気やけがが多いことがわかります。このことからも高齢化率の高い地域ほど急性期の病気や怪我が多いので、人的過疎、交通過疎が基盤にある中山間過疎地域で唯一の府中北市民病院のような救急中核病院は、肺炎や骨折、盲腸といった一般的な病気に対して入院と手術が出来る地域の実状に合った十分な機能が必須となるのです。

 現在、全国の病院は国の30年間にわたる医療費抑制政策のため、長期間の入院は病院経営を逼迫させるため出来なくなっています。全国の病院の平均入院日数は18日で府中北市民病院も20日です。そのため重い病気や怪我の患者は転院先が必要となりますが、中山間地域は医療資源のみならず、介護資源も十分とはいえず、診療圏域内の各施設、病院ともほとんど入所待機の状態ですから、府中北市民病院の療養病棟は現在の30~33床必須となります。それによって長期入院が必要な患者さんは一般病棟から療養病棟に移ることができ自宅への退院に向けて十分なリハビリも可能となります。

 また、季節によってはインフルエンザや肺炎、嘔吐下痢症などの感染症が流行するため入院患者が急増することから8床程度の病床の余裕も必要です。

 以上のことから府中北市民病院は一般病床5255床、療養病床30~33床、合せて85床が医学的に必要となり、そのためには現在の常勤医師数6名以上が最低必要で、内科、外科、整形外科の常勤医師が必須となります。

 

3)病院機能が現状維持(85床)されなければならない医学的根拠(その―3

旧上下病院は平成21年度から85床(一般病床52~55床、療養病床30~33床)で運営しています。平成22年度の一般病床入院患者は700名でしたが、図―5の如く年齢別の入院患者数は75歳以上から急増し85~89歳までが最も多いことがわかります。さらに年齢別入院延べ日数を計算すると図―6の如く16,490日になるので、一般病床の一日平均利用数は16,490÷36545.2床となります。平成244月から急に病床数が64床(一般病床39床、療養病床25床)縮小されると、一般病床で1日6.2床入院需要が満たせなくなり、1年間では実に2,263床不足し平成22年度の平均在院日数が22日なので、年間103名もの入院が出来ない多くの急性期患者が発生します。また療養病床も25床に減少され不足するため一般病床から移れず治療途中での退院勧告の発生が予想されますが、当該地域には後方支援病院も皆無で、介護資源も乏しいため地域住民にとって悲惨な状況が発生します。

ところで上下町の年齢別人口動態推計をグラフで示すと図―7のようになり10年後の平成32年度も団塊の世代の影響で85歳以上の高齢者人口は平成22年度より125名増加します。高齢になるほど入院受療率が高くなるため急に病床数は減らせないといえますが、人口動態を用いて詳細に検討すると平成22年度の年齢別平均入院日数(比率)は図―8の如く年齢別総入院日数÷年齢別総人口で算出され、高齢になるほど多くなることが判明しました。平成32年度の推計年齢別人口に上記の年齢別入院日数(比率)を各年齢ごとに積算すると図―9の如きグラフが得られ、これから年齢別入院延べ日数は16,150日と計算されます。それを365日で徐すと、平成32年度の一般病床1日平均利用数44.2床が算出され平成22年度よりわずか1床しか減少していないことが判明しました。このことからも平成24年度から急に病床数を64床(一般病床数39床、療養病床数25床)にすると入院出来ない医療難民と、助かる命も助からない「命の格差」が発生する危険性が証明されました。

病院の経営効率の面から考察すると、旧上下病院が85床で運営を開始した平成21年度、22年度の旧上下病院決算はそれぞれ2000万円、93万円の赤字で済んでいます。平成21年度から不採算地区病院に認定され特別交付金9800万円が国から措置されましたが府中市は2000万円しか病院会計に繰り出していません。全額繰り入れていれば黒字決算です。平成18年度から5カ年計画で進められていた病院健全化計画は達成されたといえ、85床は経営的にも効率が良いといえます。

以上述べてきた医学的根拠から、85床は今後10年間にわたって当該地域のニーズに合致しており、経営的にも効率的であることから、旧上下病院は85床とそれに見合う常勤医師数7名以上は必要であるといえる。一旦縮小されると元の規模に戻すことは非常に困難になるため85床は当該地域住民が一生涯安心して住めるために絶対維持されなければならない。