走り屋の魂100までも
M:この前 増田 建基さん に会いましたよ。今、40代の元走り屋に人に言わせれば神様みたいな人ですよね。やっぱり歳はとっても今だちょっと変わった車に乗ってるみたいですよ。
N:そうか。ターボーかぁ、奴とは良く遊んだなぁ。鈴鹿や富士スピードウエイで奴はドライバー俺がメカニックでよくレースに出た。奴は、癖があってなかなか人とうまくいかなかったが、俺の事はメカニックとして敬意を示してくれていた。俺もその辺の走り屋には絶対負けない自信はあったが、奴の天才的勘と言うか、ドライバーテクニックには、シャッポを脱いでいたからお互いうまくいったのだと思うよ。
L:まるでアニメのFみたいだね。
M:俺たちがガキの頃だからわかんないけどNさんの事だからもっとシビヤだったと思うよ。だって建基さんは、今でも野呂山の走り屋の間では伝説の人だもの。
N: ターボーが伝説の人か?!でも、奴のドライバーテクニックは、野呂山が原点だからな。あの、カーブ連続の道を奴は誰よりも早く走った。だから、鈴鹿のコースなんか奴にとっては子供だましのようなものだった。鈴鹿をホームウランドにしている高橋国光、黒沢元治、生沢徹やスポンサー付きのちゃらちゃらしたドライバーなんか目じゃなかった。奴は、心底走りが好きだった。
まだ、野呂山にレースコースがあった頃、そこで本レースをした事がある。このコースも野呂山の登りと同じく曲者で、鈴鹿からレースに参加した連中が、『よくこんなコースで走れるな、命がけじゃないか!こんなボロコース、レース場なんかじゃない。』と捨て台詞を吐いて帰っていったよ。
M:そりゃ、よっぽどひどい負け方をしたんすねぇ。
N:そうだな。ターボーにとってホームグランドだからなぁ。チュンチュンな目に合わせたのさ。
M:だから伝説の人なんですね。でも、メカニックの俺にとってはNさんが伝説の人ですよ。俺が中坊の頃、呉の田舎町でスーパーカーを扱っていたNさんの店へチャリンコに乗って毎日のように通った。今でも呉のいや広島のモータース屋もあの当時のNさんのようにスーパーカーをたくさん扱っている店は殆どない。いや、ないと言っても過言じゃありませんから。
N:残念ながらその頃のお前の事はまたっく記憶にない。あの頃、ガキ達が大勢来ていた。こっちは、仕事中だから、中にはカメラで写真を撮りまくる奴もいて、うるさい奴らだとしか思っていなかった。
M:でも、俺が大人になり好きな車を扱えるメカニックになってあるモータス屋でNさんを見た時すぐに分かりました。忘れられない特異な顔していますからね。
L:私は、高校生の時店の前を1度だけ通った事がある。店の入口に黄色い遮断機。車を凄い勢いで入れ替えるエンカン服の背の高い顔の怖いきびきびした男の人。呉のそれもちょっと中心地から離れた場所で何故かそこだけ異質で洒落ていた。その頃車に興味もなかったし、何の店かよく分からなかったけど印象的で心引かれた。もう一度見たくてずいぶん探したけど、どうしても見つからなかった。
N:あれから色々あったのさ。それはそうと、お前もこの頃スーパーカーを扱っているじゃないか。
M:ええ、扱いは難しいけど心は踊りますね。
N:もう、俺の教える事はないなぁ。
M:そんな事ありませんよ。Nさんは、俺の師匠でもあり親父のようなものですから。
N:でも、お前ががんばっているのは嬉しいよ。自慢の後輩だからな。
M:俺こそ、まったく面識のないモータース屋でNさんの話が出ると一目置かれる。それでちょっと困った事もありますけど。
N:何だ?
M:たとえば、カートのレースでチームを組み何台か車を出すって事になったんですが、ほら、オーナーの要望でNさんにちょっとエンジンに手を加えてもらった事があったでしょう。実は、あの後大変だった。同じチームの中で他の整備グループが、すっかりシートで囲って整備も車も見せてもらえない。俺は、自分の手の内を見せ、相手の手の内も見て共に技術を磨いていきたい、その為のチームと思っているんですが。『Mは、Nさんから相当なアドバイスを受けている。Mには見せるな。』ですから。
N:そうか。俺は別にアドバイスなんかしていないのになぁ。そりゃ聞かれれば俺の分かる限りは答えるさ。でも、チューンなんて体と勘で覚えているもので教えようのないところがある。お前にもお前のやり方があるしな。
M:でも、他モータス屋はそう思っていない。ライバル意識丸出しですよ。まあ、俺みたいな若僧がNさんにアドバイス受けてる事さえ気に入らないんだから。
L:単に負けを認めたくないだけじゃないの。呉のモータス屋の中では ぱしりみたいな若僧におやじ達が手の内見せたらばかにされるんじゃないかって思って。
M:いや、それは言いすぎだろう。彼らは、俺が子供の頃からモタース屋をやってるんだから敬意を持って接している。俺は、一人で商売やってるから交流で技術を上げたいだけなんだよ。どうもうまくいかないなぁ。
N:まあ、お前もそのうち ぱしりからりっぱなモータス屋のおやじになるさ。でも、一味違うモータス屋って今の姿勢は変えるなよ。
M:わかりました。