「黒」



私が信じていた絆は 思ってもみなかった程に脆く
その実 儚いものであった

「閉じる」のクリックで 去られてしまうような
「終了する」の作業ひとつで一方的に シャットアウトされてしまうような
その実 そんな薄っぺらなものだったのである

私が希望を抱くほどに そのヴァーチャルには実体がなく
その実 内容のないものであった

「落ちます」の一言で 終わってしまうような
発言ひとつで フリーズしてしまうような
その実 そんな関係ばかりだったのである

その実 私はというと

「心配です」と綴りながら 横目で見るTVに大笑いしていたり
「好き」と変換しては あくびをしながら時計ばかり気にしたりして

時に 一番憧れている言葉は
「そろそろ幕を閉じようと思います」であり
その実 ちょっとカッコイイかな? なんて思ったりしているのである

この世界で得た最大の武器は 「適当に」という術であり
実際の生活で役に立ったことも
その実 まさに それくらいであったのである

かくして そのことに気付いた時
この世界で 当初武器にしようとしてた「やさしさ」は影を潜め
希望の抜け殻を携えたまま トゲばかりが目立ち始めたのである

そうやってオンの世界に疲れて 現実社会の価値の重さを説き
もうそろそろ戻ってゆくべきだと 結論付けたのである

そうして 僕の「存在理由」は 笑ってしまう程に
もう見出せないものとなってしまったのである



そして 僕は 電源を落としたのである。



「白」


その後 僕が

オフの世界も あの軽視した世界と
その実 何ら変わりのないものであると気付くのは
もう少し後の話だったのである

実際ニつの世界は 名ばかりで都合よく区別されていて
その実 どちらも 紛れもなく「現実」であることに
なんら違いはなかったのである

だからして 一つの世界をああして逃げた私が
もう一つの世界で 価値を見出せると過信していたことは
今思えば笑ってしまうくらい 独り善がりだったのである

そして私は 再び電源を入れたのである

希望の抜け殻は
そこで芋虫が蝶になり大空へ羽ばたいていった軌跡のように
その実 次の成長への確かな証となって

僕の中で再び灯った光は こうして

煌煌と 目の前を照らし始めたのである

「表」、「裏」、「表」ときた今の私は 結果こそ同じながら明らかに
以前の「表」とは比べものにならぬ程に
強い皮膚と 推進力を得ていたのである

そう 今の私はこうして
ディスプレイの前に 確かに「存在」しているのである

そして あなたも同じように
僕の中にしっかりと 「存在」しているのである


そして....このことは その実 かけがえのない



僕の宝となっているのである。















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