Promise 第1章 〜ふたりのやくそく〜
12月、冬の寒さが厳しくなるに連れてスコール達Seedは多忙な毎日を過ごしていた。しかし、かれこれ2週間ぶりに明日1日だけ休暇が取れたスコールは少しでも早く帰るためセルフィやゼル達より数時間早い列車で帰り、車をレンタルしてガーデンへ帰った。ガーデンの駐車場に着いたときは既に夜中の2時をまわっており、寒さもピークに達していた。吐き出された息が白く輝く。
(リノアに逢うのは朝でいいか・・・)
リノアに今頃会いに行くのも迷惑かと思い、スコールはそのまま自分の部屋に戻ることにした。車のキーをポケットにしまい込み、駐車場を出たその瞬間
「スコール、24日はちゃんと空けておいてよね」
両手を腰に当てたリノアが駐車場の入り口に立っていた。ガーデンの中は暖かかったため、リノアはいつもの服装だった。
「・・・・なんだよ、いきなり・・・」
リノアの突然の発言と出現にスコールは目を丸くした。スコールが帰ってきたときのリノアの台詞は決まって「おかえり」だったし、この時間帯のリノアはいつもぐっすり眠っていて起こしても起きないからだった。
「とにかく!24日は空けておいて!」
「今日は17日だから・・・・1週間後だろ?なにかあるのか?」
「もうっ!そんなこともわからないのっ!?」
呆れた顔をしたリノアは右手を顔に当てて、はあ・・・と深くため息をついた。
『悪かったな』
腕組みをして顔をそむけたスコールの言葉と顔に手を当てたリノアの先読みの言葉が重なった。リノアがぷっと吹き出す。
「えへへ、秘密っ」
リノアのイタズラじみたその笑顔にスコールの表情が和らぐ。
「わかった。あけておく」
スコールのその一言にリノアの表情がぱあっと明るくなった。
「ほんと!?約束だよ!」
「ああ」
「やったぁっ!!!」
「!」
うれしさのあまりかリノアは思い切りスコールに抱きついた。その勢いにスコールが少しよろめく。
「・・・・ところで・・・どうして俺が来るのがわかったんだ?」
体勢を立て直したスコールが問い掛ける。上着にうずめられていたリノアの顔がスコールの顔の方向を向いた。
「9時頃セルフィから電話があったんだよ。《スコールはんちょがいち早くリノアに逢うためにあたしたちより早い列車で帰ったよ〜。そっちに着くのは多分2時頃だから、リノア待っててあげたら〜?》って」
(なるほど・・・・・セルフィか)
納得した表情のスコールを見てリノアがふふっと微笑んだ。
「・・・?どうした?」
「あのね、セルフィと電話でね、もしもスコールが2時ずっと過ぎても帰ってこなかったら浮気でもしてるんじゃないかな〜って話ししてたの。セルフィはスコールはそんなことしないって言ってたんだけど、もしも本当に浮気してたら・・・って考えたらちょっぴり不安になっちゃったの。でも、こうしてスコールが帰ってきてくれて安心したらなんだか凄くうれしくって」
少し悲しんでいたような、照れていたような表情のままリノアは再びスコールの上着に顔をうずめた。リノアを抱きしめているスコールの腕にほんの少し力がこもった。
「俺は浮気なんかしない。安心しろ」
「・・・・うん」
優しい声色のスコールの言葉にリノアは嬉しげに応えた。
(・・・・リノアに・・・心配かけてたな・・・・)
任務でリノアにあまり電話を入れなかったことをスコールは後悔していた。
(今度からはしっかり連絡しないとな・・・・)
「ね、スコール明日・・・・じゃないや。今日はね、久々にスコールとたくさん話ししたいなって思ってるの。・・・・いい?」
「ああ、そうだな。最近話してなかったしな」
「うん。じゃあさ、えーっと・・・・8時頃・・・って、スコール疲れてるよね?スコールの部屋に行くのお昼頃にする??」
心からスコールの体調を心配しているリノアの表情は複雑だった。スコールとはたくさん話したい。でもスコールは疲れてるから休まなきゃいけない。リノアの表情をスコールはそう読みとった。
「8時でも大丈夫だ。俺もリノアとたくさん話したいからな」
「・・・ムリ、しないでね」
「ああ。わかってるよ」
ほんの少しだけ外の風の音しか聞こえない時間が流れた。
リノアがスコールから離れ、にっこり微笑む。
「じゃあ、8時に行くね」
「ああ」
再び約束を交わし、二人はそれぞれの部屋に戻った。
久々に帰って来た自分の部屋を少しの間眺めてベッドに座り込んだ。
(・・・・リノアがこっそり入った形跡は無いな)
リノアはスコールがいない間、たまにこっそり部屋に侵入する。おそらくゼルに合い鍵でも作ってもらったのだろう。
(別に荒らさないなら入っても問題ないんだが・・・・・前みたいにやられるのは、・・・ちょっとな)
12月の始め頃、スコールは2日間部屋を空けていた。帰ってきたときはさすがのスコールも落ち込まずにはいられなかった。
(1週間かかって仕上げたレポートをコーヒーまみれにされるとはな・・・・・)
結局無事だったレポートは1枚も発見できず、全ては水の泡になってしまっていた。新たに作られたレポートや資料は机の上に積み重なったままだった。提出期間が近づいているにもかかわらず、任務ばかりでなかなか手を付けられないレポートは完成にほど遠い。
(・・・・・早く提出しなかった俺も俺なんだが・・・・・)
はあっ、、、、とため息をもらし、スコールはベッドに横になった。今までの疲れがどっと押し寄せ、スコールはそのまま眠ってしまった。
「・・・・・る・・・・・コール・・・・・スコール!!」
「・・・・・・・・・ん?」
誰かの名前を呼ぶ声でスコールは目を覚ました。日の光が眩しい。
「・・・・・セルフィ?」
(・・・・そういえば鍵閉めてなかった)
上体を起こしたスコールはかけていなかったハズの毛布がかかっている事にに気が付いた。
「スコール、リノアは〜?昨日から見あたらないんだけど・・・・・」
「・・・・昨日?」
「そうだよ〜。スコールが早くガーデンに帰った日!リノアと逢ってなかったの〜?」
「・・・・・!?今日は18日か?」
まさかと驚愕の表情のスコールはセルフィに訪ねた。
「そだよ。もしかして丸1日寝ちゃってたの〜!?」
「しまった!!」
(俺としたことが・・・・・リノアとの約束すっぽかして優々と丸1日眠ってたなんて・・・・・)
後悔の表情を浮かべたスコールは即座に立ち上がり、ドアの方へと体を向けた。
「リノアがいないのか?」
「うん。シュウさんもいないんだよ〜!」
(・・・・リノア、なんで俺を起こさなかったんだ?いつもなら無理矢理でも起こすのに・・・・)
「悪い。リノアを捜してくる!」
「今日の任務は〜!?」
「少し遅れると伝えておいてくれ!」
それだけ言ってスコールは慌てて寮を出た。リノアとの約束に多少遅刻したりはしたことがあったが、すっぽかしたのは初めてだった。
(キスティスに訊いてみるか)
足早にエレベーターに乗り込み、ブリッジのある3Fのボタンを押した。
チーン
3F到着の合図と共にエレベーターを足早に降り、ブリッジへと続くエレベーターに乗り込んだ。数秒経つとニーダとキスティスが見えた。
「あらスコール、どうしたの?任務は?」
「リノアを知らないか!?」
スコールの慌て振りを見てキスティスがくすっと笑う。
「リノアならシュウと一緒にデリングシティへ泊まり込みでショッピングに行ったわ
よ。なんでも服を買うとかで」
「・・・・・いつ頃行ったんだ?」
「昨日の・・・・夜7時頃だったと思うわ」
「・・・・・そうか」
(リノア、怒ってるだろうな・・・・)
スコールが深いため息をもらす。
「なにかあったの?」
「・・・・・別に」
「あら、そう」
キスティスはスコールに聞こえない程小さな声で、何があったのかしら?とつぶやいた。
(あとで電話して謝るか・・・・。仕方ない・・・・任務に戻ろう・・・・)
再びため息をつき、スコールは任務に戻った。貴重な休暇、リノアと過ごす日を無駄にしてしまったスコールは自己嫌悪に陥っていた。任務にはギリギリで間に合ったものの、その日の任務はなかなか思い通りに進まなかった。
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