Promise 第2章 〜ことば〜
 
 
「スコール君、明日24日なんですが“ウィンヒルのモンスター退治”と“海洋探査人工島の調査”の依頼が急きょ入ったので、宜しくお願いします」
エスタで休憩をとっていたスコールに突然入ってきたシド学園長からの電話。
「!?何故そんな急に・・・。明日は休暇をとっていて・・・・」
「どうしても人数が足りないんですよ。休暇はあとでちゃんとあげますから」
「・・・・でも・・・・」
(リノアとの約束が・・・・・)
「それじゃお願いしますよ」
「シド学園長!?」
ツー・・・ツー・・・ツー・・・
逃げるようにして切られた携帯電話を眺めてスコールはため息をついた。
(・・・・勝手だな・・・どうなるんだよ俺の都合は・・・・リノアとの約束は・・・・)
再び深いため息をついてスコールはがっくりとうなだれた。
(リノアに電話するか・・・・)
慣れた手つきでスコールはリノアの部屋の電話の番号を押した。あまり気が進まない。
ルルルル・・・・ルルルル・・・・ルルルル・・・・
(そういえば・・・まだあの日のこと・・・謝ってなかったな)
丁度、3度目のコールが終わったときにリノアの声が電話の奥で聞こえた。
《もしもし?リノアですが》
いつもと変わらぬリノアの明るい声がスコールの心に罪悪感を芽生えさせた。
「リノア・・・・・俺だ・・・」
《スコール!?どうしたの?なにかあったの?》
スコールの雲がかかったような暗い声に驚いてリノアが電話の向こうで慌てふためいている。
「・・・・悪い・・・・その、、、24日・・・駄目になった」
《え・・・・?》
言葉の意味を理解しきれていないリノアの声。
「休暇を取っておいたんだが・・・・急な依頼が入った・・・それで・・・」
《どうして!?》
スコールの謝罪の言葉が入るまえにリノアの驚きと怒りの入り交じった言葉がスコールの鼓膜を叩いた。
「・・・・すまない・・・・」
スコールの心に重いものがのしかかる。
《・・・・約束・・・・したのに》
今にも泣き出しそうなリノアの声。きっと心からその日を楽しみにしていたのだろう。
「・・・・別の日じゃ、駄目なのか?」
《ダメっ!!!その日じゃなきゃダメなの!!》
(・・・・そんなこと言われても・・・・シド学園長のあの様子からだと絶対にキャンセルは出来ないだろうし・・・・)
胸中でスコールがぼやく。
「・・・・なんでその日じゃないといけないんだ?」
《ばかっ!!その日はクリスマス・イヴじゃない!!恋人達の大イベントでしょ!!》
(ああ・・・・だからか・・・・そこまでこだわるのは)
「・・・・けど・・・依頼が・・・・」
スコールのあきれ返るような返答にリノアは大声を張り上げた。
《スコールのばかばかばかばかーーーーー!!私と仕事、どっちが大事なのよっ!!もう知らないから!!!うそつきっ!!!》
「あ、おい!リノアっ・・・」
がちゃんっ!!・・・ツー・・・ツー・・・ツー・・・
勢い良く受話器を置いた音がスコールの耳元で響いた。
(・・・・最悪だ・・・・)
ため息をつき、携帯電話をポケットにしまい込む。気が付けば1時間もあった休憩の時間は終わりに近づいていた。
(・・・・バカだな・・・俺は)
“約束だよ!!”
スコールの脳裏の約束を交わした日のリノアの嬉しそうな声と言葉がよみがえる。
(・・・・ゼル達はどうなってるんだ?今日は俺1人だけだったし・・・・俺の代わりにできるのはいないのか?・・・・とりあえず、訊いてみるか)
ポケットにしまい込んだ携帯電話を再び取りだし、スコールはゼルの電話番号を押した。
《はい。ゼル・ディンですが・・・・》
「ゼルか?俺だ」
《おおっ!スコール!どうしたんだ!珍しいなあ、オレにTELするなんて》
スコールはゼルに電話をするのがあまり好きではなかった。ゼルが一方的に喋り、長電話になるからだった。
「・・・・24日、なにか用事があるか?」
《へ・・・・?》
「用事があるかと訊いているんだが?」
ほんの少しイライラしたスコールの声にゼルが、うわっと驚きの声をあげた。
《いや、あの・・・・その日は・・・ちょっと、な・・・え〜と・・・・》
ゼルの声は明らかに照れていた。
「・・・・三つ編みの図書委員とデートか?」
《うおっ!?なんで知って・・・・!!》
誰でもわかるだろうな、とスコールはつぶやいた。
「用事があるならいい。じゃあな」
《あ・・・》
なにか言いたげなゼルの言葉を無視して、スコールは電源を切った。即座にアーヴァインへと掛ける。
《もしもし?》
「・・・スコールだが、アーヴァイン、24日用事あるか?」
《え?ああ、まーね。ちょっとばかりセフィとデートに。なに?プレゼントの相談かい?でもそーゆー事はキスティにきいてね〜》
(って事はセルフィもダメか・・・・)
そうか、といってスコールは再び電源を切り、キスティスへと掛ける。
《はい。キスティス・トゥリープですが、どちら様ですか?」
「スコールだ。24日、用事があるか?」
《え?明日?特にないけど・・・・なに?デートにでも誘ってくれるのかしら?》
くすくすと笑う声が受話器の奥から聞こえた。
「いや、その日、俺の代わりに仕事をしてもらえないかと思って」
《なんか真面目に流されると悲しいわね。えっと、、、スコールの代わりに仕事ね。ええ、いいわよ》
「!・・・本当か!?」
《ええ。どうせ暇だしね。》
「すまない、恩に着る」
《どういたしまして》
キスティスに依頼内容を伝え、スコールは電源を切った。そして安堵のため息をつく。
(・・・・なんとか、なったな・・・・)
とりあえず、約束は破らずに済みそうだとスコールはつぶやいた。
“うそつきっ!!!”
リノアの言葉が再び脳裏をよぎる。
(・・・プレゼントでも、買っていくか)
少しでもリノアの機嫌を直してやろうとスコールはプレゼントを買うことを決意した。
(・・・・・って!やばい、休憩時間過ぎてる・・・!)
スコールは慌てて任務に戻り、早めに仕事を切り上げた。リノアへのプレゼントを買い、明日、ガーデンへ帰るために。
 
(・・・リノアは一体、何が欲しいんだ?)
月明かりと街灯の中、クリスマスツリーの飾られたアクセサリーショップのショーウィンドウの前にスコールはたたずんでいた。思えば、リノアにはプレゼントらしいプレゼントをあげた事がない。
(・・・こういう事はキスティス訊けばいいってアーヴァインが言ってたな)
ふとアーヴァインの言葉を思い出し、スコールはキスティスへと電話を掛けた。
《はい。キスティス・トゥリープですが、どちら様ですか?》
「度々すまない。ちょっと相談があるんだが・・・」
《あら、スコール?なにかしら?》
キスティスの声は少々笑いを含んでいた。・・・・イタズラめいた笑いを。
「・・・・リノアにプレゼントを買おうと思ったんだが・・・・何を買えばいいか、よくわからない」
《あら、そんなこと?》
「・・・・そんなことで、悪かったな」
馬鹿にされ、スコールは少々気を悪くした。
《ごめん、ごめん。プレゼントね・・・・あ、そうそう、リノア、つい最近『スコールのネックレスが欲しい』って言ってたわよ」
「・・・・俺の、ネックレス?」
《そう。なんでも、ペアルックとかじゃなくって、スコールのが欲しいんですって》
「・・・・・・しかし、なんでそんな・・・・」
スコールはちらりと自分のネックレスを眺めた。ネックレスのグリーヴァの銀色が月明かりと街灯でとても美しく、神秘的に輝いていた。
《さあ?で、どうするの?あげるの?》
「・・・・ああ」
お気に入りのネックレスを手放すのはやはり少々口惜しいが、リノアへのプレゼントだと思うとそんな気持ちも消え失せた。
「わざわざ、すまなかったな」
《いえいえ、またいつでも相談したらいいわ》
「ああ、頼む」
《じゃあね》
電源を切ると、スコールはネックレスをじっと眺めた。
(・・・・リノアには大きすぎだな・・・・まあ、いいか)
ほんの少し微笑んで、スコールはショッピング街をあとにした。時刻は、もう12月24日のA.M.3時48分をまわっていた。
 
続く

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