Promise 最終章 〜プレゼント〜
 
 
「・・・・スコールの、ばか・・・」
時刻は既に24日の夜11時。外はすっかり暗くなり、雪がとても積もっていた。“もしかしたら・・・・スコールが来るかもしれない”そんな期待をしながらリノアは朝からずっと、ガーデンに設けられた自分の部屋に閉じこもっていた。
「・・・・なんで来ないのよ」
スコールへの文句を述べながら、リノアはベッドに横になった。ヒーターをつけるのさえ忘れていた部屋は外のように寒かったため、リノアの体は震えていた。
「あーーー!!もうっ!!イヤっ!!」
大声を張り上げてリノアが毛布を頭からすっぽりかぶる。
ガチャ、、、、
誰かが部屋に入ってきたのに気づき、リノアは毛布から顔を覗かせた。その時リノアの瞳の中に映ったのは、息を切らして走ってきた様子の額に傷がある青年だった。
「スコールっっ!!!」
驚きと喜びの声が部屋に響いた。リノアが慌ててそちらの方へ駆け寄る。
「スコール!やっぱり来てくれた!!待ってたよっ!!」
「すまない。列車が雪で止まってたんだ。本当はもっと早く来たかったんだ
が、、、、本当に悪かった」
申し訳なさそうにスコールが床を眺める。
「いいの、いいの。スコールが来てくれただけで十分だから」
リノアがにっこりと微笑む。その言葉に偽りは無かった。
「それにしても寒くないか?この部屋」
「あ。ヒーター付けてなかったんだっけ」
息がほんの少し白い。リノアの手足や顔が、寒さで赤くなっているのにスコールは気が付いた。
「こんなところにいたら風邪ひくぞ。とりあえず、俺の部屋に来たらいい。暖まってるはずだから」
「行く行く!!ここにいたら凍え死んじゃうよ!!」
リノアが同意し、こくこくと頷く。
「これ着てろ」
リノアに差し出されたのは、スコールの上着だった。
「ありがとう、スコール」
嬉しそうに微笑んで、リノアは上着を着た。スコールの体温がまだ残っていてとても温かかった。
「ほら、行くぞ」
「うん」
差し出された、スコールの大きな手の上に、リノアは自分の小さな手を乗せた。
「あったかい・・・・」
スコールの手の温かさにリノアが驚く。それとは逆に、スコールはリノアの手の冷たさに驚いていた。
(こんなに冷たくなるまで・・・・待っててくれたのか・・・・悪いこと、したな)
はあ、とため息をつき、スコールはリノアと自分の部屋へ向かった。
 部屋に着くと、リノアは一目散にスコールのベッドに飛び込んだ。
「あったかーい」
ヒーターのついた部屋のベッドは心地よい温かさだった。
「ね、ね、スコール、こっち来て」
「え?ああ」
可愛らしく手招きするリノアの方にスコールは歩み寄った。
「座って」
ベッドに寝ころんだままのリノアがぽんぽんとベッドを叩き、スコールに腰掛けるよう訴えた。
「お話ししようよ。ずっとしてなかったし」
よいしょ、とリノアが起きあがり、スコールの隣に腰掛けた。
「ああ。そうだな」
スコールが微笑んで、頷く。
「あ、、、今日任務があったんじゃなかったっけ?」
「ああ。それはキスティスに代わってもらった」
「そーなんだ。今度キスティスにお礼しなくちゃね」
リノアがうんうんと大きく頷く。
「・・・・ところで、リノア」
「うん?なに?」
不思議そうにリノアがスコールの顔を覗く。
「・・・1週間前にも、話しようって約束した日あったろ?」
「うん」
「・・・あの時、何で約束の時間に来なかったんだ?なんで俺を起こさなかった?」
「あ、えっとね、それはね」
リノアがスコールのアイスブルーの瞳をじっと見つめる。
「一応約束の時間には行ったんだけどね、スコールがあんまりにも可愛い寝顔でぐっすり寝てたもんだから起こすのもったいなくて」
「・・・・あのな・・・」
呆れたようにスコールが顔に手を当てた。
「そういうときはちゃんと起こしてくれ。俺は寝たまま1日を無駄に過ごしたくないんだ」
「・・・・だって、あんなにぐっすり眠ってたスコール見たの今まで無かったんだもん。帰ってきたときだって、凄く疲れてたみたいだったし。休ませてあげたかったんだもん・・・・」
リノアが少し落ち込んだように下を向く。
「すまない、、、そういうつもりで言ったんじゃないんだが・・・」
「いいよん、別に気にしてないから」
そう言ってリノアはスコールに寄りかかった。上着を脱いだスコールは半袖で、筋肉質な体が覗けた。
「・・・スコール・・・」
「・・・・どうした?」
リノアの震えた声が聞こえたとき、リノアの細い腕はスコールを抱きしめていた。微かにリノアの肩が震えている。
「・・・寂しかったよ・・・・」
「・・・・・」
リノアは、泣いていた。スコールがそれに気づき、腕をリノアにまわし、抱きしめた。
「・・・スコール、もう私のこと、イヤになったのかと思った・・・・」
「・・・・?どうしてだ?」
「・・・だって、スコール・・・全然帰ってきてくれなかったし、電話もくれなかったし、仕事ばっかりでなんだか口実作ってるようにも見えたんだもん。だから・・・」
リノアの腕に力が入る。
「・・・・寂しい思いさせて、すまなかった・・・・リノアのこと、イヤになんかなってない・・・愛してる」
リノアがきょとんとした表情でスコールを見つめる。泣いている瞳はウサギのように赤くなっていた。
「ほんと?」
「ああ。今度からは、休憩中に電話する。暇があったら帰ってくる。だから・・・寂しがるな」
優しい、スコールの声。この声を聞くと、リノアは心の底から安心できる。
「うん。約束だよ?」
「ああ。約束だ」
そう言って、2人は少しの間抱きしめあった。
「あ!プレゼント、部屋に置きっぱなしだった!!取りに行かないと!」
「・・・部屋、寒いだろ?いいよ、明日で」
「えー!?今日じゃなきゃダメだよー!!」
「風邪ひくぞ?」
え、でも、、、と呟いたリノアは何か思いついたように、ぽんっと手を叩いた。
「じゃあ、今日のプレゼントはこれね」
「!」
リノアの唇がスコールの唇と重なる。その幸せな瞬間は長く、続いた。
「・・・・じゃ、プレゼントは明日ね」
リノアがにっこり微笑む。
「・・・あ、ああ」
ほんのりと顔を赤らめたスコールが頷く。
「・・・・何だ?」
リノアは両手をスコールの前に差し出していた。
「スコールからは?何か、ある?」
「・・・・無い」
「えーーー!?」
残念そうにリノアががっくりとうなだれる。それを見てスコールが少し吹き出す。
「・・・嘘だって」
そう言ってスコールはネックレスを首から外した。
「・・・・・?」
不思議そうにリノアがスコールのネックレスを眺める。スコールの手にあるネックレ
スがリノアの首に掛かる。
「・・・これが俺からのプレゼントだ」
「なんで私の欲しいのがわかったの!?」
ビックリした表情でリノアがスコールを見つめる。
「・・・・さあ、どうしてでしょうね」
イタズラめいた表情でスコールが微笑んだ。
「・・・・ありがとう、スコール」
リノアが嬉しそうにスコールに抱きつく。
「どういたしまして」
スコールがリノアの耳元でそう呟き、そのままリノアと唇を重ねる。
 
「おハロー」
「・・・・?リノア?」
スコールが任務に出ていない、25日の早朝、4時だった。
「・・・珍しく、早起きだな」
驚いた表情のスコールはベッドに腰掛けた。
「えへへ、なんだかわくわくしちゃって」
リノアの両手はスコールに見えないように背中に隠れていた。その両手がスコールの前に差し出される。
「はい、昨日渡せなかったプレゼント」
「・・・ああ、昨日の・・・」
茶色い紙袋をスコールが受け取る。
「見てみて」
茶色い紙袋の中に手を入れ、中の物を取り出す。
「・・・マフラー・・・」
あの不器用なリノアが作ったとは到底思えないような美しい仕上がりのマフラーだった。色は、スコールに似合いそうな黒。
「凄いでしょ?ゼルとかに手伝ってもらって作ったの」
「・・・ああ、凄いな」
感心した表情のスコール。リノアは満足げに微笑んでいた。
「寒いから、これ付けて頑張って仕事してね」
「・・・ありがとう」
「どーいたしまして」
2人から幸せの微笑みが漏れる。
「スコール、愛してるよ」
スコールに聞こえない位小さな声でリノアが呟いた。
 
 
終わり。

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