Happening 第一章 〜ブラッド〜
 
 
 スコール達Seedの任務はクリスマスが過ぎると落ち着き、休日も増えていた。
 
「ね、スコール、転校生が来たんだって〜!!見に行かない?」
休養を取っていた俺の所にやって来たリノアの第一声。いつもより1オクターブ高い気がする。何か、とてもワクワクしているようだった。
「・・・・別に。興味ない」
転入生なんて見ても何も面白くないし、得するわけでもない。
「え〜!行こうよ〜!!」
ベッドに寝ころんでいた俺の所に、子犬のような瞳でリノアが駆け寄ってきた。
「ね?ね?どんな人か気にならない??」
「・・・・・」
行こうよ、と言わんばかりにリノアが俺の腕を引っ張る。
「・・・わかったから、引っ張るな」
「え!?ホント!?やったーー!!」
いい加減な声の俺の返事にリノアが喜びの声を上げた。
「セルフィによるとね、今教室にいるらしいんだ!!早く行こうよ!」
「はいはい」
まるで親子のような会話だな、と思いながらリノアと共にその転入生がいるという教室に足を運ぶ。その教室の方角から3人の女生徒が楽しげに会話をしながら近づいてきた。
「格好良かったね〜!転入生!」
「うんうん、ファンクラブでも作る??」
「あ、いいね〜!」
どうやら転入生を見てきたらしい。その3人の会話を聞いてリノアが口を開く。
「転入生、男の人みたいだね」
「・・・・ああ」
「格好いいみたいだね」
「・・・・らしいな」
短い会話だった。俺が短くしていた様なものだったが。
「スコールよりも格好いいのかな?」
「・・・・かもな」
リノアの言葉に少し不安を感じた。もしかしたら、その転入生にリノアを取られてしまうのではないか、という不安を。
 そんな事を考えている間に転入生の居る教室に着いてしまった。転入生見学は先程がピークだったらしい。人はまばらにしかいなかった。
「じゃ、見に行きますか」
「・・・・・わかったよ」
少しばかり転入生を見たくないと思っていた俺の手をぐいぐい引っ張りながらリノアは教室の中へと歩いていく。
「あ・・・」
教室に入った瞬間、俺もリノアも転入生が誰だか一目で分かった。独り、パソコンに向かうその青年には、ガーデンにいればきっと印象付いて忘れたくても忘れられない力強いオーラが漂っていた。リノアがそいつに話し掛ける。
「転入生でしょ?」
遠くからでも美しく輝いて見える銀色の髪、俺と同じ様な髪型、近くで見れば炎のような紅い瞳。そして嫌でも目に止まる両腕に巻き付くように刻まれた竜のタトゥー、、、、その姿のそいつはリノアに一瞬驚いたような表情をして口を開いた。
「あ、そうだけど・・・?」
少し高いながらも力強く、そして癒されるような声だった。
「名前は?年は?何処から来たの?何か目的があってきたの?あ、Seed希望?それとも何かの任務?」
おいおい・・・・そんな一気に質問するなよ、と呆れている俺に一瞬目をやった転入生はその沢山の質問に答えた。
「え〜と・・・・ガルバディアガーデンから来たブラッド・レイ18歳、、、、あ、今回の転入は特殊依頼で・・・」
「・・・特殊依頼?てことは、あんたSeedか?」
「ああ、そうです」
18って俺と同い年だろ、それにガルバディアガーデンから転入か・・・・珍しいな、何の任務なんだ?一体。
「ね、なんの任務?」
好奇心丸出しのリノアがブラッドに問い掛けた。
「ああ、なんか『スコール・レオンハート』って人と『新たに発見された島の施設の調査』らしいんだけど・・・」
リノアを年下だと思っているのか、なにかと気軽に喋っている。
(・・・・ところでスコール・レオンハートって・・・・俺しかいないよな?)
馬鹿馬鹿しいと思いながらもつい、自分に問い掛けてしまった。リノアも名前に気づいたようでキョトンとしている。
「・・・スコール・レオンハートは俺だが?」
「!!!」
ブラッドは目を見開いて驚いている。
「あ、初めまして、ブラッド・レイと申します。これから一週間、宜しくお願い致します」
慌てて立ち上がったブラッドの背は俺より高かった。サイファーと同じくらいだろうか?とにかく190p近くだった。なんとなく、見下されているような感じで・・・・むかついた。
「・・・・俺は特殊任務とかいう話を聞いていないんだが?」
「え!?そうなんですか?」
その敬語は顔に似合わなかった。ブラッドの顔は男の俺が認めるくらい綺麗な顔立ちで・・・・女生徒が格好いいというのも頷けた。その、ナルシストチックな顔が敬語を話すのはなんとも滑稽だった。
「・・・・敬語を使わないでくれ。居心地が悪い」
「あ、すいませ・・・じゃなくて、わかった」
少し呆れた感じにため息をつく。それと同時に放送が流れた。
『スコール君、ブラッド君、至急学園長室に来て下さい。繰り返します・・・』
(今頃・・・・呼び出す気か)
悪態を吐きながらもしょうがなく学園長室に足を運ぶ。
「あ、スコール、私部屋にいるからね」
「ああ、わかった」
教室を出たリノアが俺に手を振り、自分の部屋へと向かった。ふとブラッドの方を見るとリノアの方に目線を向けたまま固まっていた。
「・・・・おい」
「あ!?え?なに?」
俺のいつもよりずっと低い声にブラッドが驚き、慌てて俺の顔を覗く。
「行くぞ」
「ああ、うん」
 
 俺の苛立ちのオーラが漂っていた学園長室はやけに重い空気だった。
「スコール君、こちらはブラッド・レイ君、ガルバディアガーデンの最優秀生徒です。スコール君、ブラッド君が困っていたら助けてあげて下さいね」
「・・・・はい」
そんな面倒臭いことをしたくなんか、ない。だが、返事はとりあえずしておいた。
「2人には『新たに発見された島“フォース島”に存在する施設の調査』をしてもらいます。期間はとりあえず一週間です。強力なモンスターも出現しますので、協力して調査をしてくださいね」
「・・・・はい」
そんなこと、とっくにブラッドから聞いていたのだが、今し方聞いたような返事をした。
「あ、学園長、俺の部屋はあるんですか〜?」
転入生らしい初々しい質問だ。
「ありますよ。リノアさんの部屋隣です。あ、スコール君、案内してあげて下さい」
「・・・・はい」
なんで俺が・・・しかもなんでリノアの部屋の隣なんだ?と思いつつも仕方なく案内する事にした。
 
 俺の部屋の二倍以上はある、丁寧な造りの部屋はリノアの部屋の隣に存在した。その部屋には常に鍵が掛かっていたので、見たのは初めてだった。
「・・・すっげ〜・・・・ガルバディアの俺の部屋よりずっといいぜ、こりゃ」
(・・・・だろうな)
部屋の綺麗さと広さに驚いているブラッドを尻目に俺はリノアの部屋のドアをノックした。
「はーい」
ドアが開いたのと同時にリノアの声が耳に届いた。
「あ、スコール!どうだった?」
「ああ、明日から一週間ほど任務がある。明日は朝9時に出発して夜9時頃に帰ってくる予定だ。その後は同時刻に出発して夜11時頃に帰ってくる」
先程学園長室で聞いたことを一通り、リノアに話した。
「・・・・それから隣の部屋にブラッドが住むことになった」
「あ、ホントだ」
俺が手で指した方に目をやったリノアは、そこに驚いた表情のブラッドが立っているのに気が付いた。
「じゃあこれから一週間は朝と夜しか会えないんだね」
「ああ、そうだな。・・・・あ、それと、今回は忙しくなりそうだから連絡は出来ないかもしれない」
ほんの一瞬寂しげな表情を見せたリノアだったが、俺を安心させるようににっこりと微笑んだ。
「お仕事だもんね、それに朝と夜は会えるし。私は大丈夫だよ、頑張ってね」
「ああ」
リノアの笑顔に安心して、俺は大きく頷いた。
「スコール?オレ、もう寝るからな〜。明日は約束の場所でな」
「ああ」
「そんじゃ、おやすみ」
「・・・・」
子供のように手を振るブラッドにどう対応すべきかと一瞬迷ったが、特になにもせず、黙っていた。するとリノアがにっこり微笑んでブラッドに手を振った。
「おやすみ〜」
(・・・・なに・・・手、振ってるんだよ・・・・)
俺がそんなグチを胸中にこぼしているとは知らないブラッドは少し微笑んで部屋に入った。時刻は既に夜の8時だったので俺も部屋に戻ることにした。
「じゃあ、俺も部屋に戻るからな」
「うん」
リノアが微笑み、ちょいちょい、と手招きをした。
「?」
言われるがままにリノアの方に体を傾ける。
「明日から、がんばってね」
耳元でリノアの声が聞こえた後、リノアの柔らかい唇が俺の頬に触れたのが分かった。
「ああ、頑張るよ」
俺も同じようにリノアの頬にキスをして、部屋に戻り、眠りについた。
 
 その日から一体何が起こっていたのか、俺には見当も付いていなかった。

続く


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