Happening 第二章 〜未開の地〜
 
 
カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。時計を見ると朝の7時だった。
(・・・食堂にでも行くか・・・)
服装を少し整えて、ドアを開けた。その足で食堂に向かう。この時間帯は任務に向かうSeedが多いため、食堂も、込み合っていた。
「お〜い、スコール!!」
(こんな大声で・・・誰だよ)
その声の方向に振り向いた俺は、誰の声だったか一目でわかった。銀髪のブラッドだった。気づかないふりをしようと思ったが、これ以上叫ばれるのは嫌だったので、仕方なくブラッドの方に行ってやった。
「・・・・なんの用だ・・・」
食事をしている他のSeed達の視線が痛い。そんな事も気にせずブラッドは気軽に話し掛けてくる。
「何って・・・話しでもしよーかと思って」
「・・・・だからって大声で呼ぶな」
「あ、わりぃ」
とりあえずブラッドの向かいの椅子に腰掛ける。
「なんだ、スコールって朝飯それしか食べねーの?」
俺のいつもの朝食、つまりはコーヒーとサンドイッチのセットだ。
「あんたは食べ過ぎた」
「そうか?」
口を忙しそうに動かしながらブラッドが自分の朝食を眺める。
「いつもより少し少なめなんだけど・・・」
パン定食、パスタ定食、洋風定食、刺身定食・・・・御世辞でも少なめとは言い難い量だろう。
「あ、ところでスコール、今日の任務先の情報、手に入れておいたぞ、とりあえず」
「・・・・一体何処からだ?」
「ふふん♪それは企業秘密でーす」
「・・・・」
ブラッドは得意気に、にやりと笑った。
「オレはこー見えても情報集めは大得意なんだよね。そーいう系の仲間も沢山いるし。つまりは情報収集専門なんだよね〜」
まあ、どうせ大した情報じゃないだろう、と胸中で馬鹿にしていた。するとブラッドは椅子の横に置いていたバッグから大きめのファイルを取りだし、慣れた手つきでページを開いた。
「“フォース島”は今から一ヶ月前に発見された島でバラムから北北西に位置する場所にある。広さはバラムと同じくらい。最近まで発見できなかった理由はその島一帯に張られていた結界のせいだと思われる。結界が解けた理由は現在は不明。そこに存在する施設の外見は病院のようだが、さほど広くはない。まだ足を踏み入れていないため、地下が存在するかどうか、モンスターが出現するかどうかも不明。しかし、施設の外には強力なモンスターが出現する。そこのモンスターは直接攻撃に非常に弱い。その理由は現在は解明されていない。フォース島を詮索、調査する場合は十分な注意が必要になる。・・・・以上!」
言葉が出なかった・・・・・ハッキリ言って心外だった。まさかこの、最優秀生徒なんて上辺の名だけの、ふざけた性格の、いかにも夜中まで遊んでそうな奴が実は情報収集が専門分野で、しかもここまで立派な情報を手に入れるとは予想外だったからだ。
(・・・・まるでゼルみたいな奴だな・・・)
ゼルの博識さに、驚かされたこともあったのを思い出した。
「・・・・感心した」
「マジで!?さんきゅー」
俺の一言にブラッドがにこにこと笑いながら喜んでいた。
「ごちそーさま。じゃ、スコールまたな〜」
「・・・ああ」
気づけば既にブラッドは食べ終わっていた。並の速さじゃない・・・・。
(・・・・もう8時か・・・そろそろリノア、起きてるかな・・・?)
朝食を片づけ、リノアの部屋へと向かった。
(・・・・?)
リノアがブラッドと楽しげに何かを話しているのが目に止まった。リノアが俺に気づき、ブラッドとの会話を止めた。ブラッドが逃げるように部屋に入って行く。
「あ、スコール、朝御飯、済んだの?」
「・・・ああ」
リノアが妙に余所余所しいと思った。少し、慌てているような感じだった。
「ブラッドと何話してたんだ?」
リノアが一瞬狼狽えた様な感じがした。
「な、なんでもないよ、き、気にしないで」
どう見ても、おかしかった。何か隠している様子だった。
「そ、そうそう、お仕事の準備しなくていいの?」
「ああ、そうだった・・・じゃあな」
リノアは俺を突き放しているような感じだった。いや、突き放していた。
(・・・・なんだったんだ?まあいい、後でブラッドに問いつめてみるか)
とりあえず、任務の準備をすることにした。
 
ラグナロクで着陸したフォース島は冷たい風が吹き荒れていた。あの施設以外には何も無く、いやに寂しげだった。
(・・・・リノアとあれから会わなかったな・・・)
いつもなら任務に出る前に必ずリノアが来ていたのに今日に限って来なかったのは、ブラッドとなにかあった証拠のようなものだった。ジーンズにブーツ、ブラックのトレーナーというシンプルな格好のブラッドを覗き込み、俺は声を掛けた。
「おい、ブラッド」
「はいっ!?」
さっきから俺に背を向けてそわそわしていたブラッドは慌てて俺の方を向いた。
「リノアと何があった?」
「いや、別に・・・・。ちょっと世間話してたんだよ」
先程のそわそわとは別にブラッドはやけに落ち着いて答えた。
「ブラッド・・・嘘を、つくなよ」
「あのな――」
ブラッドの言い訳の様な言葉が遮られ、代わりに巨大なモンスターが出現した。それも俺の真後ろから。
(――しまった!)
不意を突かれ、背中を攻撃された俺はそのまま前に倒れ込んでしまった。起きあがる暇も無く、巨大モンスターの振り下ろした爪が俺の体に――――
ザクッ・・・・
肉を裂く生々しい音が耳に響いた。しかし、それは俺からのものでは無かった。
「危ねぇ、危ねぇ」
ブラッドの安堵のため息が耳に届いた。その直後にズシンとモンスターの上半身と下半身が別れ、崩れ落ちる音がした。俺が慌てて起きあがる。先程受けた背中の傷が冷たい風にさらされ、痛みが走る。
「スコール、だいじょーぶか?」
「あ、ああ、大したことはない」
ブラッドの手には何かが握られていた。それであのモンスターを倒したのだろう。
「さっきのモンスターは新種みたいだ。う〜ん・・・・・外見はアルケノダイオスだよなあ・・・でも色も大きさも違うし・・・もしかして・・・古代の・・・・生き残り?」
モンスターを眺めながら独りでぶつぶつ喋っているブラッドを見て初めて
(ああ、なるほど、最優秀生徒だな)
と思えた。そのブラッドが俺の方を向き、何か新しい発見をしたような表情をした。
「スコール!大発見だ!!ここの島にいるモンスターは古代の生き残りだ!!本でこ
のモンスターを見たことがある!!」
「・・・・本当か?」
だとしたら凄い発見だ。
「ここには結界が張られていただろ?恐らくそれで時の流れでも止めていたんだよ。その上結界は外から島を見えないようにすることが出来る!何かあってその結界が解かれたんだ・・・だとすれば・・・そのヒントか何かが、あの施設に存在するはずなんだ」
そう言い放つとブラッドは一目散にその施設へと走り出した。
「あ、おい!」
俺も慌ててブラッドの後を追った。
 埃っぽく、カビ臭いその施設の中に人がいる気配は、無い。
「なんなんだろう・・・・ここは」
「さあな」
施設の中はシンとしていて俺達の足音や、息遣いが、はっきり大きく聞き取れた。施設の中は殺風景で白い壁が一直線に続いているだけだった。
「ところでブラッド」
「なんすか?」
施設の中をキョロキョロと詮索するように見回しながらブラッドが答えた。
「あんたの使っていた武器はなんだ?」
「え?ああ、これのこと?」
ブラッドがジーンズのポケットから棒に装飾をしたようなものを取り出した。長さは30p程だ。
「これは『パワーソード』っていうんだけど・・・・持ち主の能力によって形が変わる物なんだ」
「・・・・どういう風にだ?」
俺が問い掛けるとブラッドは武器を力強く握った。するとその武器の先端から光の棒の様なものが伸びた。
「これが普通の状態。んで心の中で『伸びろ』とか念じると」
光の棒が・・・いや、よく見ると光の刃物のようなものが、ぐんと伸び、5メートル近くにまでなった。
「へえ・・・・便利だな」
「まあねー」
自慢げにブラッドが返事をする。その瞬間に光の刃物の部分が消え、手に持つ棒の部分だけが残った。
「『刀』みたいなものか?」
「あ、うんうん、そんな感じだよ」
ブラッドは頷いて、パワーソードを再びポケットにしまい込んだ。
ふと顔を天井に向けてみる。
「おい、あれ、なんだ」
「うん?」
ブラッドも天井を眺める。天井には意味の分からない絵柄の様な、文字のような物が描かれていた。
「なんだろねぇ・・・・見たこともないよ」
「あれが結界が解けたのに何か関係があるんじゃないのか?」
「かもしれないけど、その暗号が解けないと意味がないんだよなあ・・・」
「――なにかの本で見たことがある気がする・・・一時ガーデンに戻らないか?」
その暗号を見た事は確かにあった。恐らく、ガーデンの図書室でだったのだが、その時は大して興味もなく、ぱらぱらとめくって終わっていた。
「だな、そうするか。もうそろそろ日も暮れるしな。初日はこんなもんだろうし。図書室で探すのも明日にしよーか」
ブラッドは俺の意見に同意した。意外にも施設の中は広かったようで出口まで行くのに随分時間が掛かった。
 
 ガーデンに帰っても結局一度もリノアと会うことは出来なかった。
 
続く


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