Happening 最終章 〜幸せ〜


(……これでもない)
俺はため息をついて本を元あった場所へと戻した。あの暗号…古代文字が載っていると思われる本は一通り探した。だが、あの暗号が載っている本など一冊も存在しなかった。
「スコール、あったか?」
「…いや…無いみたいだ」
(おかしいな……絶対に見たことがあるんだが……)
腕を組んで、もう一度考えてみるが、ここ以外にあの本を見たとは考えられなかった。
「もしかしたら誰かが借りてるかもよ。あ、図書委員に訊いてくるな〜」
「ああ」
ブラッドはそう言うと慌てて図書委員の方へ走って行った。
急に疲れが出た俺は、近くの椅子に腰掛け、頭を抱えた。
(…リノア…一体どうしたんだ?――ブラッドに訊いても答える様子はこれっぽっちもないし……)
「スコール!!本が無い理由が分かったぞ」
そんな事を考えているうちにブラッドがやって来た。
「なんでも俺達と同じようにあの島の事を調べている学者さんが持っていったんだってさ。その本は既に在庫切れで何処にも売ってないらしくて……だからもうここには無い」
「……てことは、その本は手に入らないのか?」
「多分、恐らく、絶対」
ブラッドが少し残念そうに頷く。
「…そうか、なら仕方ないな」
「あ、そろそろ9時だし、行こうか?とりあえず」
「ああ」
任務に急ごうと椅子から立ち上がった瞬間の事だった。
『スコール君、ブラッド君、まだ校内にいましたら至急学園長室に来て下さい。繰り返します……』
そんな放送が流れた。
「…一体なんだろ?」
「さあ?とりあえず行った方がいい」
「だね」
俺達は急いで学園長室に向かった。
 
「今回、君達を呼んだのは他でもありません、任務の中止をお知らせするためです」
「は………?」
一瞬俺達は何の事か理解出来なかった。
「そのままですよ、任務は急遽、中止になりました」
「何故ですか!?オレはわざわざその為に転入してきたのに!!」
ブラッドは不満の表情を浮かべている。
「すみません……学者の方に『危険ですから我々に任せて下さい』と言われまして…ああ、でもブラッド君には代わりの任務を用意してありますから」
「…はあ…」
納得のいかない表情のブラッドがだるそうに佇んでいた。
「シド学園長、その学者達に任せてしまっても大丈夫なのですか?危険では無いのですか?信頼は……」
俺が問い掛けを途中で遮り、学園長は余裕の表情で答えた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。その学者さん達は私も知っているSeedの有名な精鋭だった方々ですから」
「……そうですか」
仕事を取られてしまってなんだか気分が悪かった。
「あ、スコール君は今週一週間ゆっくり休んでて下さい」
「…はい」
「じゃあ、もう部屋に戻っていいですよ。今日は休暇にします。ブラッド君には明日の朝、任務を紹介しますから」
「……はい」
納得のいかないまま俺達はそれぞれ部屋に戻った。
 
(……リノア、どうしてるかな)
ふとリノアの事が気に掛かって、部屋を出た。
 リノアの部屋には、あっという間に着いた。ドアを数度ノックしたが、リノアの出てくる気配は無かった。
(……何処かに出かけてるのか?)
深くため息を吐き、ドアに背を向けた。
(……?)
隣の部屋……ブラッドの部屋からリノアの声が聞こえた様な気がした。
「おい、ブラッド?」
ドアを何度かノックするとブラッドが驚いた表情で出てきた。
「あ、え?……スコール!?ど、どうした?」
「……部屋にリノアが居ないか?」
目を凝らしてブラッドの部屋の中を覗いた。
「い、いないけど?」
「そこを退け」
「は!?―――うわっ!!」
力ずくでブラッドを押しのけ、部屋の中に入った。
「わっ!?スコール!?」
「……リノア…?」
俺の瞳に止まったのは泣いていたらしい、目を真っ赤にしたリノアだった。
「ブラッド!!リノアに何をした!?」
リノアの悲しげな表情を見た怒りで、俺は我を忘れていた。
「な、なにもしてねぇよ!!」
「何もして無くて、リノアが泣くのか!!?」
ブラッドを思い切り床に打ちつける。
「スコール!!やめて!!ブラッドは何もしてないよ!!」
ブラッドに殴りかかろうとしていた俺の腕をリノアが慌てて止める。
「……なんだって?」
ブラッドの胸ぐらを掴んでいた腕の力を緩め、リノアの方を向いた。
「ちゃんと説明するから、私の部屋に来て」
「………わかった」
ため息を吐き、ゆっくり立ち上がった俺を見てブラッドは安心した様子だった。
 
 リノアの部屋に入るのは久々だった。クリスマス・イヴ以来、入っていない。
「―――で?」
俺の不機嫌な声が部屋に響いた。
「あのね、スコール?もう一度言うけど、ブラッドはなーにもしてないのよ?」
「……証拠でもあるのか?」
「もう!今からちゃんと説明するからっ!」
少し呆れたリノアの声が鼓膜を叩いた。ため息をついたリノアがベッドに座り込む。
「あのね、ブラッドには私にそっっっくりな彼女がいるの!いーい?」
(……ホントかよ…)
いまいち、納得がいかない。いや、むしろ、信用出来なかった。
「なに?その不満そーな顔は……あ、信じてないでしょ?証拠だってちゃーんとあるんだからね!!」
そう言うとリノアはすくっと立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「ちょっと待っててね」
(……一体、なんだよ)
リノアが慌てて部屋から出ていく。どうやら、ブラッドの部屋に行った様子だった。
「スコール!!これを見なさい!!」
ほんの数秒で部屋に戻ってきたリノアの手には写真が握られていた。その写真を受け取る。
「ね?そっくりでしょ?証拠でしょ?」
その写真にはリノアと瓜二つの女性とブラッドが仲良く腕を組んで写っていた。リノアにそっくりな女性の髪の色は金色でそれだけがリノアと決定的に違うところだった。日付はブラッドの転入してくる2日前……。
「……写真なんて、いくらでも合成できるだろうが」
「まだ信じてくれないの!?スコールはブラッドが私に何をしたと思ってるの!!?」
「…何って……」
(疚しい事に決まってるだろうが……)
俺の態度に対してリノアは明らかに怒っていた。握った拳が微かに震えている。
「なんで私を信じてくれないの!?」
「信じてるさ!…でも…」
「…『でも』…なに?」
リノアの真剣な眼差しが俺の瞳に向けられた。
「……でも、不安なんだよ……」
「…なにが…?どうして…?」
「…ブラッドに…リノアを取られるんじゃないかって……」
「あ、なーんだ、そんな事?」
リノアが安堵の表情を浮かべたのが見えた。
「…『なんだ』……って…」
「だって、もっと深刻な事かと思って。例えば人間不信になっちゃてるとか」
「……あのなぁ…」
ため息を吐き、俺はベッドに腰掛けた。
「――ところで、話の続きは?」
「あ、で、ちなみに彼女の名前は『ディア』。・・・それでね、私、彼女とそっくりでしょ?だからガルバディアガーデンに居るディアを思い出しちゃって、お話したかったんだって」
「それで?」
リノアが俺の隣に腰掛ける。
「で、ガルバディアガーデンに帰る時にディアにプレゼントしたいから、何か良い物は無いのかって。相談しに来てたのね」
「…………」
「……信用してないの?」
「いや、別に……」
(……作り話にも思える…)
リノアが少し俺に近づく。
「……ところで、さっきは何で泣いてたんだ?」
「あ、さっきはディアさんとの思い出話聞いてて、感動しちゃって」
「……」
「なんなら聞いたこと、そのまんま話してあげようか?さすがのスコールも泣いちゃうかもよ」
「いや、遠慮する」
俺がため息を吐いた瞬間、部屋のドアがノックされ、開いた。
「スコールさん」
俺の名前を呼んだのは、紛れもない、写真で見た女性、ディアだった。リノアとは正反対で気品があった。
「ブラッドが大変御迷惑をお掛けしました。何か誤解を招いてしまったようで……」
ディアが深く頭を下げる。ディアの後ろには恥ずかしそうに頭を掻いているブラッドが立っていた。
「……話は本当だったのか…」
「あ!!やっぱり信じてなかったんだー!!」
リノアが頬を膨らませている。
「ブラッドも!!謝って!!」
「わっ!!わかってるよ!!」
ディアが深く頭を下げる。
「本当にすみませんでした…。今後からはこのような事が無いように致しますので」
ブラッドが土下座をする。
「スコール、ホントに悪かった!!リノアちゃんはスコールだけのモンだから安心しろ!!オレは手を出してないから!!むかつくならオレを好きなだけ殴ってくれ!!」
「…いや、いいんだ、何も無かったなら」
「……許してくれるのか?」
ブラッドが顔を上げる。
「何もしてないんだろ?」
「ああ」
「だったらさっさと立てよ」
「あ、ああ」
ブラッドが申し訳なさそうに立ち上がった。その瞬間ディアがブラッドの腕を引き、ドアの方へと引きずった。
「もう!!さっさと行くわよ!!」
「行くって何処に!!」
「何処にって、あなたの部屋によ!!」
「なんで!?」
2人の大声が部屋に響き渡り、そのまま2人は部屋から出ていった。
「なんだか面白いカップルだね」
先程の二人を見た感想をリノアが吹き出しながら述べる。
「確かにな」
俺も思わず思い出し笑いをしてしまった。
「スコール…ごめんね。なんか心配掛けちゃったみたいで」
「…いや、気にしないでくれ、俺の誤解だったんだしな」
リノアを安心させるように俺はリノアに微笑み掛けた。
「でもそっくりだったでしょ?ディアさんと」
「ああ。リノアより気品があったしちょっと色っぽかったがな」
「あ、ひっどーい。私だってその気になればディアさんみたいな色気位……」
リノアが頬を膨らませてそっぽを向く。その可愛らしさについ吹き出してしまう。
「悪かった悪かった。リノアは可愛いよ」
「え?ホント??」
俺の一言にリノアが反応し、俺の瞳を覗き込む。
「ホントだ」
そのまま俺はリノアに優しくキスをした。
「…スコールもカッコイイよ…私の知ってる人の中で誰よりも…」
唇を離すとリノアがそう言い、微笑んだ。
「大好き…」
今度はリノアから唇を重ねてくる。甘い時間がゆっくりと流れていった。
ガチャ
「あ!!スコール?あのさぁ――」
「ブラッド!!?」
リノアが驚き、慌てて俺から唇を離す。俺達の幸せな空間を無視してノックも無しに部屋に入ってきたブラッドの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
「…なんの用だ…」
俺が不機嫌な声でブラッドを睨んだ。ブラッドは茫然と立ちつくしたままだった。
「ブラッド〜??なにして…あ!!」
部屋の外から聞こえてきた声はディアのものだった。ディアは何が起こったのかを悟ったようで頬を赤らめ、ブラッドの腕を引っ張った。
「ちょっとブラッド!!なにしてんの!!バカ!!!ほらいくわよ!!」
ディアはブラッドの背中を押してブラッドを部屋から出した。
「ごめんね、スコールさん、リノアちゃん邪魔しちゃって。ブラッドには常識をしっかり叩き込んでおくから!!」
ディアは俺達に頭を下げて謝ると慌てて部屋を出ていった。
「ホント、面白いカップル」
「ああ」
俺は頷き、リノアに再びキスをした。今度はディアがブラッドを止めてくれるだろうと安心しながら。
 
 その後、ブラッドは2つほど簡単な任務をこなし、ガルバディアガーデンへ帰っていった。ブラッドが来てから色々なハプニングがあって苦労を掛けられたがまあ、それはそれで良い思い出になった。ブラッドはガルバディアに帰るとき『今度暇な時、遊びに来るからな』と言っていた。その時俺はあいつにならまた会ってやってもいいか、と思えた。


THE END


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管理人の感想
(注:あくまで管理人、個人の感想ですので皆さんの感想とは違うかもしれませんので)
え〜っと、k’rさんから頂いたFF8小説(スコリノメイン)第二段ですvさて、感想ですがなんと言っても、オリジナルキャラのブラッドとディアについてでしょう。一見似ているように見えませんが(リノアとディアは外見も髪の毛の色以外は似ていますけどね^^;<k’rさんの設定)どこかスコールとリノアに通じる物があるその性格(スコールもブラッドもどこか恋愛にうとかったりするし、リノアとディアはブラッドがディアへのプレゼントの相談を持ちかける程ですから、よほど近いのかな?)とかお互いの関係(どっちのカップルも彼女が強い・・・というかむしろ、最近の女性が強いのか?←苦笑)とか・・・・今後のk’rさんの小説の中で登場するときも良き友人同志でいろいろ楽しませてくれそうです^^あと、お話の中でちょっと謎が残った、中止になった島の探索、そして、謎の古代文字とそれを解読する本、そしてガーデンとつながりがある研究者・・・う〜ん、こちらの謎がこの先別のお話で読めたり?(爆)、と続編を無理に要求・・・してもあれですのでやめときますね^^;最後になりましたけど、k’rさん、素晴らしい作品を本当にありがとうございましたm(_ _)m