歩き出した日
「それでは、スコールとリノアの結婚を祝してぇ〜、かんぱ〜い!!」
俺がバラムガーデン内の披露宴会場に入るとほぼ同時に、司会者の元トラビアガーデンの女(確かセルフィとかいったか?)が
乾杯の音頭をとった。まったく、ガーデンを離れてほぼ一年、なんにもかわっちゃいねぇ。スコールは服装こそ白のタキシードで
決まってるが、顔は今日の主役だってのに相変わらずの不愛想だ。アーヴァインとかいう元ガルバディアガーデンの色男は、
式には目もくれず女を口説いてるし、チキン野郎ゼルに至ってはテーブルの上の食い物しか見えてないらしい。
「あら?あなたも来てたの、サイファー」
俺の背後で、聞き覚えのある女の声がした。
「俺になんのようですか?キスティス先生。いや、”元”先生か」
振り向きざまに軽い嫌味を言ったが…結婚式という場のせいかキスティスは動じなない。
「おあいにくさま、今はまた教師もやってるわ」
けっ、そういうことかよ…
「そうですか、そりゃよかったじゃないですか」
あきらかに心にもない、お世辞を返した。
「一応、ありがとうといっておくわ。それより、今日はよく来てくれたわね」
「俺んとこにも招待状がきたんでね、見るだけ見に来てやったんですよ」
本当はこんなところにくるつもりはなかった。しかし、その招待状を見た風神と雷神が
「サイファー、絶対行くんだもんよ」
「サイファー、行不只済不(サイファー、行かないとただじゃすまないよ。)」
と、しつこく俺に説教するので仕方なく来てやったんだ。そう、仕方なく…。
「ところで、二人にはもう挨拶したの?」
「いいえ。でも俺が出ていってもなんの意味もないでしょ」
俺はスコールのライバルであり、一時は敵として戦った相手…まして、その昔、俺はリノアと付き合っていた男に
いまさら何の用があるってんだ…
「いいじゃない、別に。せっかく来たんだし、少しは二人と話してきたら?セルフィー、ここにサイファーが来てるわよー」
くそっ、キスティスの奴セルフィに俺のことを言いやがった。
「え〜っ、あっ本当だ〜。お〜い、サイファー。君もこっちにきて一言でいいから、二人にお祝いの言葉でも言ってあげてよ」
セルフィのやつ、俺の方を見て手を振ってやがる。加えて、会場中の出席者の視線が俺の方に向いた。もちろん、
スコールやリノアも。目立たないようにしてすぐ帰るつもりだったのに…とんだ誤算だ…
「さあ、早く。来なさい」
キスティスは俺の手を引っ張って、スコールとリノアのところまで連れていこうとする。
「離してくださいよ、先生」
キスティスの手を力任せに払う。今だ!俺は一気に出口の扉に向かって走る。と、あと数mで出口というところで、俺の前にいきなり
ロンゲの男が立ちふさがった。
「へぇ〜、君がサイファーか、ふんふん…」
「誰だてめえ?」
「俺?俺はスコールの親父のラグナ、ラグナ=レワァール。これでもさぁ、エスタじゃ大統領やってんだぜ」
なにぃ、こんなへらへらしたのがあのスコールの親父で、おまけにあの超科学国家エスタの大統領だぁ?とんだお笑いぐさだ。
「で、そのエスタの大統領さんがSeeDになりそこねた俺になんの用だ?」
「いやなにね、せっかくのおめでたい場所だしさぁ、ゆっくりしていってよ?な?」
「あいにく、俺はそんな暇じゃねえんだ、悪いがそこをどいてもらうぜっ」
俺はガンブレードを抜くとラグナに斬りかかる。が、ラグナはいとも簡単に俺の斬撃を避けやがった。
「おいおい、ぶっそうだねぇ…しかたない。キロス君、ウォード君」
次の瞬間、俺の目の前に黒のタキシードを着た、がたいのでかい男と細身で肌の色が黒い男が現れた。
「ちぃ、邪魔するんならてめえらもただじゃすまねえぜっ!!」
ガンブレードを振りかざして細身の男の方に切り込む。が、いとも簡単にかわされガンブレードは虚しく空を切った。
さらに、でかいほうの男が体に似合わないすばやい動きで俺を後ろに回り込むと、俺を羽交い締めにした。
「ちくしょう、離しやがれっ」
「まったく〜、こういうところで暴れちゃだめだって、学校の先生に習わなかったかい?」
そういいながら、ラグナは俺のガンブレードを取り上げて細身の男に渡す。
「こいつは式が終わるまで没収する。キロス君」
キロスと呼ばれたその男は、俺のガンブレードを持って式場の外に出て行った。
「もういいぞウォード君、離してあげなさい」
ようやくウォードの羽交い締めから解放された俺にラグナは
「君のガンブレードは学長室の金庫に保管しとくから。だいじょ〜ぶ、ちゃ〜んと披露宴が終わって、帰るときには返すから。
そんじゃ、楽しんでってねぇ〜」
と言い残すと会場の人ごみに消えていった。俺がここに居ることが知られ、さらにガンブレードを取り上げられた以上、
このくだらない披露宴に、最後までつきあうしかない。俺は自分の名札が置かれた席に付くと、グラスに注がれていたワイン
を一気に飲み干した。
披露宴は仲人のシド夫妻による新郎新婦の紹介が終わり、友人代表のスピーチが始まった。ゼル、シュウ、キスティス、アーヴァインどいつもこいつも
似たようなスピーチばかりだ。あまりのくだらなさに退屈していた俺に、次なる災難が降りかかった。
「は〜い、みなさ〜ん、次はサイファーのお祝いの言葉だよ〜。はい、サイファー、マイク」
断るまもなく、セルフィがマイクを俺に渡す。こうなりゃヤケだ。
「スコール。よかったじゃねぇかお前みたいな奴でも結婚してくれる相手がいてよ。リノアも、よくこんな奴と結婚する気になったぜ。他にも世の中にはこいつより性格のいい男が腐るほどいそうなものなのによう。まったくこんなスコールみてえな変わったのがいいってんだからわからねえもんだ。それにだな、・・・・・・」
それから、3分ほど適当に悪口ともほめ言葉ともつかない訳の分からぬスピーチをしたあと、最後に
「まあ、一応祝福はしてやるよ。これでいいだろっ」
となんとかスピーチを終えた俺は、マイクをセルフィに投げ返して自分の席に戻った。
その後もキャンドルサービスや聖歌隊の歌、お涙ちょうだいの両親への花束贈呈(といっても両方とも親父しかいねえらしいが)と
順調に披露宴は進行し、そのまま会場の雰囲気は二次会へと流れていった。アーヴァインとラグナの射的対決、
チキン野郎ゼルの瓦10枚頭突き割り(筋肉馬鹿が…)、セルフィ、キスティス、シュウの3人が歌うテントウムシのサンバ(古典だな)。
ちっ、こんな馬鹿騒ぎのどこがおもしろい?俺は退屈しのぎに会場の外に出た。外はすでに夜になり、空には丸い満月が出ている。周りの
夜景を見渡す。月明かりでうっすら見える見慣れた街と港、どうやら今はバラム近郊の海岸でガーデンは止まっているようだ。
「ん?あれは?」
一瞬、近くの砂浜に動く人影が見えた。俺はガーデンを出てその砂浜に向かう。
「確かこのあたり……」
しばらく歩いていると、さっきの人影らしき人物が膝を抱えて砂浜に座り込んでいる。俺はそっとその人物に近づいていく。
それにつれて、月明かりのおかげで輪郭がはっきりしてくる。髪が長い…女か…?!あれは…ウェディングドレスドレス?ってことは…
「リノア…か?」
そこにいたのはさっきまで式場にいたはずのリノアだった。
「あっ、サイファー…」
俺に気付いたリノアは俺の方を見上げて、いつもの笑顔を浮かべていた。俺はその隣に座って煙草に火を付けた。
「今日は、来てくれてありがとう」
「別に、来たくて来たんじゃないからな…」
「うん、それはわかってる…だって、いろいろあったもんね、私たち」
そういうと、リノアは黙って海に浮かんでいるガーデンを見つめていた。
「スコールの野郎はどうしたんだ?」
「ああ、スコールったらあんまり飲めないのに、みんなにたくさん飲まされちゃってたでしょ?すっかり酔いつぶれて、今は
カドワキ先生んとこで寝てるわ」
「へっ、だらしねぇ…」
まぁ、あいつらしいといえばそうでもあるが…終わりかけた煙草を海に投げ捨て、新しい煙草を取り出して火を付ける。と、
ライターの明かりでリノアの肩がすこし震えているのが見えた。俺は無言で上着を彼女の肩に掛けてやる。
「あ、ありがと。サイファー」
「そんな格好でこんなとこ来るからだ。礼はいらねえよ」
「ふふふっ、その台詞、あの時と一緒。昔と全然変わらないわね、サイファー」
「あん?」
「ほら、昔、私とサイファーが初めて会ったとき…」
「ああ、そういえば…」
2年前の夏、ティンバーでの実地訓練のあと、自由行動を得た俺はしばらく街をふらついていた。そのとき、一人の少女が酔っぱらい
数人に絡まれているのを見た。ちょうど、その日の訓練で物足りなかった俺は酔っぱらいに喧嘩をしかけた。もちろん、俺は何の見返りも
考えていなかった。ただ、訓練の物足りなさを埋め合わせるためだけだった。しかし、結果俺はその少女を助けることになった。
「ありがとう、あなた強いのね?」
「礼はいらねえよ。じゃあな」
「まって、あなたの名前を教えて?」
「人に名前を聞く前に自分の名前を言えよ」
「私?私はリノア、リノア・ハーティリー。あなたは?」
「サイファーだ。バラムガーデンのサイファー・アルマシー」
「サイファー…」
「用がないなら俺はもういくぞ」
「あっ!まって、サイファー」
俺はそのままリノアの言葉を無視してガーデンに戻った。それから数日後、訓練から戻った俺の寮の部屋に一枚の手紙が届いていた。
差出人は…リノアだった。
サイファー・アルマシー様
先日は危ないところどうもありがと。おかげで私は元気そのものです。
ところで、急でわるいけど今度の日曜バラムに行くのでそのとき会ってくれない?
助けてもらったお礼も言いたいし、それに何よりあなたのことをもっと知りたいの。
では、今度の日曜日の11時、バラム港で待ってます。
リノア・ハーティリー
こうして、俺とリノアの交際は始まった。といっても、月に2,3度日曜や休日にバラムやティンバーで、リノアの
ショッピングに付きあったり、喫茶店で話をしたりするぐらいだった。最初はうざったかった俺も、会うたびにリノアに
いろいろ質問されていくうちに、いろいろなことを話していくようになった。ガーデンの話、SeeDの話…そして、俺の夢の話…。
「…俺も一つ聞いていいか?お前、俺が自分の夢の話をお前に初めてしたときのこと、覚えてるか?」
「あ、覚えてるよ。そう言えばあの頃からよく言ってたね。俺は魔女の騎士になるんだって」
「じゃあ、そのときの約束覚えてるか?」
「え?」
「お前、”もし、サイファーが魔女の騎士になれなかったらが私が魔女になって、サイファーを魔女の騎士にしてあげる”って言って
俺に無理矢理、指切りげんまんさせて約束しただろ」
「えっ?そんな約束したっけ?」
「はっ、やっぱり忘れてたか…」
まあ、覚えていないのも無理はない。それは初めて二人でショットバーに行ったときのこと、リノアはワインを浴びるほど飲んで、
かなり酔っぱらっていた。
「ごめん、本当に覚えてない、私…」
リノアがすまなさそうに俺に謝る。
「いや、いいんだ。どうせもう昔のことだ」
そう、あれは昔のことなんだ。俺とリノアが別れた2年前の冬、俺は吹っ切ったつもりでいた。リノアとの淡い一時はすでに過去のことだ。
そう、自分に言い聞かせたのに。それでも、俺は心のどこかで、過ぎて行った時間に気付かないふりをしていた。
すでに、リノアは無くしてしまっていたのに…。リノアは俺と別れた後すでに歩き出していた。そして、明日からはスコールと一緒に
歩いて行く。でも、俺は歩き出せてなかった。そして、そんな俺の心の中にはあの頃のままのリノアの幻想がずっと残っていた。俺が手を
伸ばさなくても届くところに。本当のリノアはもう触れられないところにいってしまったのに…。
「お〜い、リノア〜、スコールの目が覚めたよ〜」
不意にセルフィの間の抜けた声がガーデンの方から聞こえる。
「あっ、スコール気が付いたって、行こう、サイファー」
「いや、俺はいい…」
「えっ、?」
驚いているリノアの手から上着を受け取るとリノアに背を向けて小さな声で言った。
「ここで、お別れだリノア、スコールと幸せになれよ…」
「サイファー、今なんて…」
「じゃあな、邪魔者はそろそろ消えさせてもらうよ」
俺はそのままバラムの街に向かう、リノアの方を振り返らずに。もちろん、過去も…。俺も今日から歩き出すよ。いつかお前や
スコール、ガーデンの連中の前に笑顔で帰れるように。そういえば、ラグナにガンブレードを取られたまま…いや、その方がいい。
これで俺が帰ってくる理由が一つできたって訳だ。ただし、今度は一人じゃ帰らねぇ、ちゃんとスコールのように自分の守るべき
魔女を見つけてからだ。もちろん、俺はその魔女の騎士だ。そのときはもう一度、今度は正々堂々と向き合おうじゃねぇか?スコール…
END
第二作目の駄文です。いやー、結構苦労しました、リノアに未練たらたらのサイファー(なんか、原作のキャラと変わってるような・・・)。
これはエンディング後の話なんで本編の設定とくい違うところは無い…と思う、たぶん。ちなみに、一作目、二作目ともに某バンド
(ヒント:すでに解散した。漢字で書けるロックバンド)の曲の歌詞をモチーフにしてるんだけど…わかった?一作目なんか小説の
タイトル=曲のタイトルだし…二作目はストーリーの流れ歌詞とほぼ同じになるようにしたんだけど…。まあ、まだまだ修行の足りない
三流作者なんでこれからも暖かく見守ってくだせえ。ぢゃ、そゆことで…L2R2同時押しっ(逃走)
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