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 疲れた…部屋に入るなりシャワーも浴びずにベッドに横になる。数時間前まで任務でエスタにいた。ティアーズポイントのモンスター退治、兵士の訓練。 親父の相手…約一週間、俺はフル回転で働いていた。明日から3日間は久しぶりの休暇だが…
 「最近、リノアにあっていないな…」
ここ、一ヶ月ほどの多忙なスケジュールで、俺はほとんどリノアと顔を合わせていなかった。
時々、携帯端末でメールのやりとりはしたが、それも数えるほどだ。それにエスタに行ってからはその端末すら電源を入れていない。 リノアからのメールがあるかもしれない、そう思った俺は端末の電源を入れる。しばらく端末の鈍い起動音がしたあと、画面には バラムガーデンのロゴマークが表示される。メールのチェックをすると案の定、リノアからのメールが届いていた。

 おハロー、スコール。
 元気してる?毎日忙しくてもちゃんとご飯食なさいよ。
 そうそう、私は今からデリングシティに行ってくるね。
 大丈夫、ちょっと身の回りの物取りに行くだけだし、アーヴァインとゼル
 にも一緒に行ってもらうから。あと、パパともお話してくるね…
 明後日にはバラムに帰るから♪
 あっ、それとメールと一緒にいいもの送っといたからそっちも見てね。
 ファイル名は…指輪のライオンの名前だよ。
 じゃーねー、ばいばーい。

受信日は昨日の日付になっている。と、言うことは帰ってくるのは明日か。そういえば、他にも何か俺に送ったとかいってたな? 俺はメールに添付されていたその他のファイルを見てみる。
 「これか…」
俺はそのファイル”グリーヴァ”を開く。いきなり、音楽が流れ出す。そして、ディスプレイにはメッセージが表示される。
 
 スコール、この曲どう?私が初めて作曲してみたんだけど…。
 お母さんの曲には負けちゃうけど、私の自信作だよ。
 どうしてもすぐスコールに聞かせてあげたくて、セルフィにたのんで端末で編集してもらったんだ。
 今度会ったときに感想聞かせてね。
 
その曲はミドルテンポでバラード風の曲。リノアは、母の曲には負けると言っているが俺にはそんな感じははしなかった。 負けているというよりは、リノアの曲には歌詞がないので少し物足りない気もするが…。
そのとき、誰かが俺の部屋のドアをノックした。
 「誰だ?」
 「あたしだよ〜、セルフィ〜」
 「鍵は開いている」
 「んじゃ入るね〜」
そういうとセルフィは俺の部屋に入ってきた。
 「なにしてんの?あっ、それリノアの…」
 「ああ、今聞いていたところだ」
 「ふ〜ん、それ、良い曲だよね〜」
 「ああ、そうだな…」
しばらく、俺とセルフィはその曲に聴き入っていた。
 「ところで、俺に何のようだ?」
 「あっ、そうそう。明日ってリノアの誕生日だよねぇ?」
 「そうだけど、それがどうした?」
 「ねぇ、どんなプレゼント買ったの?ちょっと見せてよ〜」
 「………」
しまった……エスタで何か買って来ようと思っていたのだが、あまりに忙しくてすっかり忘れていた。
 「もしかしていいんちょ〜、プレゼント買ってないんじゃ…」
 「…ああ、すっかり買いに行くのを忘れていた」
 「ちょっと〜まずいよ〜。こんな時間だし、お店何処も閉まってるよ」
 「明日の朝いちで買いに行くよ」
 「だめだよ〜、リノア達、明日の朝8時には帰って来ちゃうよ〜」
打つ手無し……しかたない、リノアには素直に謝るしかない。そう覚悟を決めかけたとき、セルフィが「あっ」と声を挙げた。
 「どうした?」
 「ねぇ、この曲に歌詞を付けて、それをいいんちょ〜が歌ってあげるっていうのはどう?」
 「な…俺は詩なんて書いたこと無いぞ」
 「だいじょうぶ、私が手伝ってあげる。そうだ、キスティスとシュウも呼んでくる」
そういうと、セルフィは急いで俺の部屋を飛び出していった。時計をみるとすでに日付が代わっていた。

 それから少しして、セルフィは俺の部屋に戻ってくると、俺の手を引っ張ってガーデンの音楽室に連れていった。 そこにはすでにキスティスとシュウがリノアの書いた曲の楽譜を見ながら歌詞を考えていた。
 「お〜い、いいんちょ〜連れてきたよ」
 「スコールっ!まったく、あなたいくら忙しいからって大事な彼女の誕生日プレゼントを買い忘れるなんて…」
部屋に入るなりさっそくキスティスのお説教だ。それをシュウが止める。
 「まあまあ、キスティ、スコールもわざとじゃなかったんだし…お説教より今はこの曲の歌詞を完成させるのが先よ」
 「そうね…、さぁ、セルフィもスコールもこっちきて考えなさい」
 それから、俺達は楽譜を見たりセルフィが端末で編集したメロディを聞きながら、曲のイメージに合う歌詞を考えていく。 しかし、なかなかいいフレーズがうかばない。何とかいくつかの案ができたが、実際にキスティス達が歌ってみるとどうも曲にあわない。 そうこうしているうちにも、時間は刻々と過ぎていく。時計はすでに午前4時を回っている。あと4時間、リノアが帰ってくるまで もう時間がない。すでに、みんな疲れ果てている。俺も昨日までの任務のせいか、強烈な睡魔に耐えきれなくなり、ついうとうと 眠ってしまった。

 俺は夢を見ていた。それは一昨日の夜、ラグナに無理矢理連れて行かれたカラオケボックスの夢だった。 そのときラグナはあの曲を歌っていた。ジュリアの”eyes on me”を。
 「おい、お前は歌わないのかスコール」
 「苦手なんだ…こういうの」
 「そうか〜?お前けっこう地声が良いからな〜、大丈夫だって」
 「しかし…」
 「あ〜もうっ、いいかっスコール、歌ってのは上手い下手じゃねえんだ。ここだここ」
そういいながらラグナは自分の胸に手をあてる。
 「下手でも心がこもってりゃあ、その歌にこめた想いはきっと相手に届く」
 「………」
 「おい、聞いてるのか?スコール、スコール…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「…スコール、スコール、ちょっと起きなさい」
俺はキスティスに揺り起こされた。
 「どうするの〜もう5時だよ〜」
 「どうするのって、だから一生懸命考えてるんじゃないの!」
 「もう、キスティスもセルフィも喧嘩しないの。?!どうしたの、スコール」
 「…悪い、ちょっと眠気を覚ましてくる」
そういうと俺は音楽室をでてテラスへ外の風に当たりにいった。外はすでに東の方から夜が明け始めていた。どうやら、 夜の間に雨が降ったらしい。足下には小さな水たまりがいくつかできている。俺はさっきの夢の事を考えていた。
 「歌は上手い下手じゃない…。心がこもっていれば、その想いはきっと相手に届く」
そうだ…無理に曲のイメージに合わせて歌詞を作る必要なんかない。俺の想いを、リノアに対する俺の想いを詩にすればいいんだ。 そうすればきっと、俺の想いはリノアに届く。俺は急いで音楽室に戻った。
 「スコール、なにしてたの?もう5時半よ。どうするの?」
 「悪かったな…。あとは俺一人で何とかする。みんなはもう休んでくれ」
 「ちょっと、本気?大丈夫なの?」
 「ああ、なんとかやってみるよ。リノアのために……」
 「…わかったわ」
 「キスティス?」
 「行きましょう、セルフィ、シュウ」
 「でも〜…」
 「大丈夫よ、スコールなら。彼の中ではもう詩はできてるわ…」
キスティス達が部屋を出ていった後、俺はリノアへの想いを詩にしていく。不思議と次から次へと言葉やフレーズが沸いてくる。
 「できた……」
やっと、歌詞が完成した。曲にあわせて歌ってみる。悪くない…自分なりには上出来だ…あとはリノアに聞かせてやるだけだ。 そういえば、今何時だ?時計を見るとすでに7時半。まずい、あと30分しかない。俺は音楽室からアコースティックギターを 一本拝借するとそのままバラムの街に急いだ。

 そのころ、バラム駅にはすでにセルフィとキスティスが先に来ていた。
 「おそいね〜、いいんちょ〜」
 「そうね、あと10分で列車が着くって言うのに」
 「もしかして、やっぱり歌詞ができなかったんじゃ…」
 「大丈夫よ…スコールなら必ず間に合うわ。信じましょう彼を」
ホームに列車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
 「えー、一番線に列車が参ります。危険ですから白線の内側までお下がりくだい」
 「どうしよう、キスティス。もう列車きちゃうよ〜」
 「大丈夫よ…きっと、大丈夫…」
まだ、スコールは現れない。列車がホームに入ってきた。
 「バラム〜、終点のバラム〜」
 「キスティス〜……」
列車のドアが開く。一番に降りてきたのはゼルだった。
 「くぅーっ、やーっと着いたぁ。おっ、セルフィ、それにキスティスも出迎えご苦労」
 「こらこら〜、出迎えてもらってんのは君だけじゃないんだよ〜。ゼルく〜ん」
その後ろからアーヴァインがゆっくり降りてくる。
 「そうよ、私もいるんだから」
そして、最後にリノア。
 「ただいま〜、キスティス、セルフィ」
 「おかえり、リノア。どうだったのガルバディアは?」
 「うん、まあまあってとこかな?パパともいろいろお話できたし…」
 「そう、よかったわね」
 「ねえ〜、ゼル、おみやげないの〜?」
 「あのなあ、セルフィ。旅行に行ってたんじゃねえんだぞっ。そんなものあるかっ!」
 「じゃあ、アービンは?」
 「ごめんね〜、買ってきたかったんだけど結構忙しくて、買いにいけなかったんだよ〜」
 「な〜んだ、つまんないのっ」
久しぶりの仲間との楽しい会話、でもそこに彼の姿はない。一番にそれに気付いたのは、やはりリノアだった。
 「ねぇ、スコールがいないみたいだけど…今日もお仕事?」
 「えっ……」
キスティスもセルフィも返事に詰まる。
 「どうしたの?まさかスコールになにかあったの?」
 「ううん、べつに。何もないわよ。ただ彼昨日までエスタで任務だったでしょ。疲れて部屋で寝てるんじゃない?」
なんとかその場しのぎの嘘をつくキスティス。
 「おいおい〜、自分の彼女のお出迎えをしないで朝寝坊かい?彼もまだまだだねぇ〜」
 「いいのよ、アーヴァイン、スコールだって疲れてるんだし…」
 「そうだ、寝てるんなら、みんなで起こしに行こうぜ」
 「あっ、それいいね〜。部屋のなかで僕が1・2発空砲でも撃てばびっくりして跳び起きるんじゃな〜い?」
 「よ〜し、じゃあさっさとガーデンに帰ろうぜ」
そういうとゼルが、いち早く駅から掛けだしていく。そのあとをアーヴァインが追いかける。
 「私たちもいこう」
リノアがセルフィとキスティスの背中を押しながら言う。
 「あ、あのねリノア、実はスコール…」
キスティスがリノアに真実を告げようとしたとき。さっきゼルの後を追っかけていったアーヴァインが、慌てて戻ってきた。
 「ちょ、ちょっとみんな〜、早く来て」
 「どうしたの?アーヴァイン。えっ?!」
 「いいからさ、早く早くぅ〜」
アーヴァインはリノアの手を腕をつかむと急いで駅の出口の方に引っ張っていく。セルフィとキスティスもその後を追いかける。
 「ちょ、ちょっとぉ、痛いよぉ。そんなに引っ張らないで」
 「それどころじゃないよ〜」
 「いったいなにがあったの?」
 「来てみたらわかるって」
リノアは仕方なくアーヴァインに付いていく。改札を通り抜け、外に出る。見慣れたバラムの町並み。 ただ、一ついつもと違うのはいつもはあまり人のいない駅前に小さな人垣がある。その中心にあるベンチに座っているのは…

 「スコールっ!!」
聞き覚えのある少女の声。その声がした方を振り向くと、そこにはリノアの姿が。彼女は駅の階段を駆け下りると、人垣をわけて 俺の前に来た。
 「どうしたの?スコール。こんなところで」
 「おかえり、リノア。それと…誕生日おめでとう」
 「えっ…覚えててくれたの…」
 「ああ…でもプレゼント買い忘れて…。その代わりにお前の曲に詩を付けたんだ」
そこまで言うと俺はリノアを俺の横に座らせて、ギターを弾き始める。その音を聞きつけてかさっきより人垣の人が増えているようだ。俺は、意を決してギターの弦を弾いた。

 歌い終わった後、周りの人垣からはどこからともなく拍手がわき起こった。それは、リノアの作った曲と俺の書いた詩への、 人々の賞賛の拍手だった。どうやら、俺とリノアの作った”歌”はバラムの街のみんなの心にも届いたらしい。でも、俺はその拍手の嵐 のなか、俺が本当に”歌”を届けたかった女性(ひと)からそれ以上にうれしい言葉を聞いた。
 「ありがとう、スコール。大好きだよ……」
そう言って俺の方を見たリノアの目には大粒の涙を浮かべていた。俺は黙ってリノアを抱きしめていた。リノアの涙が笑顔に 変わるまで……


END


 どーも、三流恋愛小説家見習いKallです。第3作目の駄文っす。あーあ、スコールにアコギ片手にラブソング歌わせちゃった…(させてるのはあんただろ^^;)。なに?本文じゃ歌詞が何処にもでてないって?だって、歌詞思いつかなかったんだもん。て、いうよりあえて歌詞は書かなかったんだけどね(言い訳)まあ、読むときには自分の中のラブソング(本文でバラードって書いてるからなあ、例えば○村隆一のGl○ssやGL○YのHOW○VERなんか)をスコールがリノアのために歌ったと思いねぇ(江戸っ子?)作者のお薦めはタイトルになってる”・・・・song”、アーティストはジャンヌ・ダルク(いっとくが歴史上の人物や某TV局のアニメじゃないぞ)。でも、インディーズ時代の曲だからなぁ…。どーしても聞きたいって人は頑張ってレコード店巡りをして探してください。