帰れなくて…
どこまでも続く何もない荒れ地。空は重苦しい灰色の厚い雲に覆われている。
まるで灰色の壁に囲まれたみたいだ。他には何も見えやしない。
「大丈夫、一人で帰れるよ」
ついさっき、まませんせいに言った言葉。どうしてあんなことを言ったのだろう。絶対に一人で帰れるという
保証はなかった。ただ、あのとき、まませんせいにアルティミシアの力が受け継がれたのは俺達のせいだ。確かに、
俺達の物語は終わった。でも、まませんせいの不幸はまた始まってしまった。それでも…まませんせいは俺に優しかった。
「一人で帰れるの?」
これ以上まませんせいを心配させたくなかった。
「大丈夫、一人で帰れるよ」
でも、俺は一人で帰れなかった。必死に帰る場所を思い出そうとしたけど何も思い出せなかった。暗闇の中をさまよい続け、
気が付けばこの荒れ地にいた。今考えると、やりきれないほど自分が悲しく思える。俺を心配してくれたまませんせいの
”優しさ”に素直に甘えられず、強がって、自分を納得させようとして、「これ以上まませんせいを心配させたくない」
などという”いいわけ”を作った自分が。帰る手がかりを思い出すこともできない俺は、いったいどうなるんだろう?このまま
死ぬまでこの荒れ地をさまよい続けることになるのだろうか?
もう歩く気力もない。その場に座り込んでふと空を見上げる。一枚の羽がひらひらと舞い降りてきた。はね?…羽…リノア?
「リノアにはもう会えないのか?」
彼女との日々はまるで、当ての無いシナリオみたいだった。初めてあったのはSeeD就任の祝賀パーティー会場。俺は、リノアに
強引にダンスに誘われた。再開したのはティンバー。彼女はレジスタンスのリーダーだった。それからはリノアは俺達と一緒に戦った。
アルティミシアに操られていたまませんせい、リノアが過去に想いを寄せていたサイファー、そして未来の魔女アルティミシア。
他にもいろいろなことを思い出す。リノアが宇宙でアルティミシアに操られてアデルの封印を解いたことで、彼女も魔女になった。
魔女になったリノアを封印される前に魔女記念館に助けに行った。
そういえば、あの時、俺がリノアを止められなかったのをみんなにずいぶん怒られたな……みんな?!そうだ俺には仲間が、
みんながいる。そこに帰ればいいんだ!ゼル、キスティス、セルフィ、アーヴァイン。思い出してきた、みんなのこと、みんなとの
思い出。でも…でもリノアの顔が思い出せない…リノア、リノア、リノア…思い出せ…初めて会ったとき…ティンバーで再会したとき
…宇宙に助けにいったとき…思い出すんだ…思い出せっ!!
そのとき、宇宙空間を漂っているリノアが見えた。リノアっ!!俺が手を伸ばしてリノアを抱きしめた次の瞬間、彼女の息で
曇っていた宇宙服のメットのガラスが砕け散った。
「リノア〜〜っ!!」
俺は知らない間に泣いていた。不意に景色が真っ白になっていく。同時に俺の意識が遠くなっていく。俺は…どうなる?そうだ…約束…リノアと…イデアの家…花…流星…
「おねえちゃん、ぼくひとりでいきていけるよ」
いつも、玄関の柱のところでエルお姉ちゃんが帰ってくるのを待っていた。エルお姉ちゃんがいたころは、俺がおねえちゃんを守るん
だって思ってた。だから、いつでもお姉ちゃんと一緒にいた。このまま大きくなってもお姉ちゃんを守っていくんだ。けど、そんな夢は
ある日突然、儚く砕け散った。エルお姉ちゃんは俺の前から姿を消した。俺は必死に新しい夢をみつけようとした。でも、お姉ちゃんが
いない寂しさでいっぱいだった俺に、新しい夢はみつからなかった。俺は次第に心を閉ざしていった。そうして誰にも頼らず、お姉ちゃんが
居なくても一人でも生きていけると、周りのみんなに示そうとしていた。
「おねえちゃんぼく、えらくなったよ……」
「あらあら、スコールったらまたこんなところにいたの?そろそろ中に入らないと風邪ひくわよ」
待ちくたびれた俺は、よく玄関の柱のところで泣きながら座り込んでいた。その俺を抱き上げて部屋まで運んでくれていたのは、
まませんせいだった。まませんせいの腕の中はとても暖かかった。
「まませんせい、ぼく、えらいよね?ひとりでいきていけるよね?」
「そうね、スコールはおふとん畳むのも、お着替えも自分でできるもんね」
「でしょ?」
「でもね、スコール。人間はみんな一人で生きてるんじゃないわ。一人で生きるって事は、自分以外の人の事は考えないってことよ。
でも、そんなこと誰にもできない。誰にでも大切な人や守りたい人がいる。あなただってエルオーネが大切なんでしょう。それにね、
一人で生きるって事は、誰にも自分の事を思ってもらわないってことでもあるのよ。それは自分以外の人の事を考えないのよりも難しいこと。
あなたにだって沢山いるはずよ。あなたのことを大切に思ってくれる人が。あなたを必要とする人が。あなたのことを愛おしいと思う人が…
あら?寝ちゃってるわ。今のスコールにはまだ難しかったかしら?でも、いつかあなたにもそれがわかるときがくるわ、スコール」
わかるよ。今ならわかるよ、まませんせい。まませんせいは最初から全部わかってたんだね。俺達がアルティミシアを倒したらどうなるか。
でも、まませんせいは俺達が大切だから、俺達を守りたいから…ありがとう、まませんせい。俺には俺のことを心配してくれる仲間がいる。
俺のことを温かく見守ってくれるお姉ちゃんがいる。俺のことを必要としてくれるリノアがいる……。俺は…俺は一人じゃない!!
心地よい暖かで目が覚めた。ほほに当たるそよ風、それにのってくる淡い花の香り。ここは?ゆっくり目を開ける。一番に
飛び込んできたのは空の澄み渡った青色。あたりは一面色とりどりの花が咲き乱れる花畑。そして、膝枕をして俺の顔をのぞき込んで
いたのは……
「リノア…」
「スコールっ!!」
俺の質問に答える前にリノアが抱きついてきた。その勢いで周りの花びらが舞い上がる。
「リノア、ここは…」
俺はここがどこか聞こうと、そこまで言いかけたがそれ以上言うのをやめた。俺には彼女に抱きしめられた
瞬間に全てがわかった。俺は…帰ってきたんだ。
「スコール生きてたんだね。よかった…ほんとによかった…」
抱き合ったままでリノアは俺の顔を見つめていた。俺はリノアの目からこぼれる涙を指でふき取ってやる。
「よかった、最初来たときスコールいなかったから。わたし、一生懸命探したんだよ。走って、走って、必死に探したの。
そしたら花畑の外れにスコールが倒れてて。でも、スコールなかなか起きないから……」
「心配かけたな。でも、もう離れたりしない」
自然とお互いの唇の距離が小さくなっていく…。それからしばらく俺達は、重ね合ったお互いの唇を奪い合いっていた。
どれくらい時間が経ったのか?目が覚めたときは高かった太陽も今では海に沈みかけている。リノアの持っていた携帯端末で
ガーデンに連絡したが、迎えに行けるのは明日の昼頃になるとのことだった。その夜、俺達はイデアの家の小さなベッドを二人で
分け合って眠った。
翌朝、俺は差し込んでくる太陽の日差しで目が覚めた。横を見るとリノアはまだ眠ったままだ。俺はしばらくそのまま
ベッドに寝転がって、空ですれ違って行く小さな雲を見つめていた。
「おっはよ〜、いいんちょ〜。予定より早いけど迎えにきたよ〜」
不意に、セルフィが入り口から入ってきた。
「こらこら、セフィ〜。いきなり飛び込んで驚かしちゃいけないよ〜」
続いてアーヴァインが入ってくる。
「いや、別にいい。それより、リノアはまだ寝てる。あんまり騒ぐな」
「あっ、そうなの。ごっめ〜ん。リノアよっぽど疲れてたんだね〜」
「そうだね〜。じゃあ起こしちゃ可哀想だからスコールが抱いて行ってあげたら?」
「ああ、そうする」
俺はベッドから起きあがると、リノアを起こさないようにそっと抱き抱える。
「あ〜いいな〜、リノア。私もやってよ〜。アービン」
「ん〜、今はパス。僕はスコールみたいにガンブレードみたいな重たい武器使ってないし、重たい物なんてめったに持たないからね〜。いきなり持ったら腰痛めちゃうよ」
「ちょっと、それど〜いう意味やねん?まるで私が重たいみたいな言い方やんか〜!!」
「別にそんな意味じゃないよ〜、でもね〜イメージ的にセルフィよりリノアの方が軽そうじゃない?ヴァリーの時とかにリノア羽はえて飛ぶしさぁ」
「ううう、やっぱり私のこと重いと思うてるんやな〜。もうかんべんならんで〜」
「わわっ、許してよセフィ。ちょっと言ってみただけだよう〜」
「問答無用、かくごしいや〜」
セルフィは外に逃げたアーヴァインを追いかけていく。が、おかげでリノアは目を覚ましていないようだ。腕の中のリノアは、
まるで空に浮かぶ白い雲のように軽い感じがする。けど、俺は確かに今リノアと一緒にここにいる。自分が一人じゃないという
実感があるだけで十分だった。ふと空を見上げる。雲一つない青空。このぶんだと今夜はよく晴れそうだ。
「今夜、一緒に流れ星みるか?」
眠っているはずのリノアの顔が少し微笑んだような気がした。
END
ちーっす。Kallです。
うーん、前半よかったんだけどねぇ、後半が駄文&コメディに。特にアーヴァインとセルフィのところ、漫才とまではいきませんが
フリートーク化はしてますね(笑)。ところで、スコールがリノアを抱きかかえるのをセルフィがうらやましがるところを書いたんだけど、
女の子ってそういう”お姫様だっこ”に憧れるの?(漫画かなんかの本でそう言うふうに読んだ記憶が)あと、一応言っときますが
途中のシーン、スコールとリノア…最後まではありませんからね^^;それ系統が読みたい人は他のそーゆーのが載ってるサイトに
いっちゃってください。さて今回のモチーフですが最近はおとなしいカンジの曲(バラード系)がおおい某バンドの最初のころの曲です、
ってこれだけじゃたぶんわかんないんで大ヒント。最初の一文字が”S”。あとは小説の中に出てくる言葉で推測してください。
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