Loop of Ring


 また来てしまった…。いつもの席でふとそんなことを考える俺。ここはデリングシティのホテルの地下にある小さなバー。 お目当てはここの専属ピアニスト、ジュリア。彼女を初めて見たのは半年前、キロスの奴に『ホテルのバーで、なかなかいいピアノの 演奏をしているから一緒に聴きに行かないか』とかなんとか言われてここに連れてこられたときだったんだ。最初はピアノなんかよく わからなかったから断ってたんだけど、キロスがあまりにしつこいので、酒をおごってもらう約束でついて来た。そしたら、めちゃく ちゃ綺麗な女の人がピアノを弾いてたんだ。それがジュリアだった。
 俺は一目で彼女のファンになった。それからというもの、仕事の後にここに来るのが俺の日課みたいになっちまった。 ほとんど毎日のように通って代金もバカにならないから、来るのを控えようかなとも思うんだけど…結局、ジュリアを一目 見たくて来ちまうんだよなぁ。
 おっ、そんなことを思っている間にジュリアの登場だ。それにしてもいつ見ても綺麗だよなぁ、というより日に日に綺麗になってる みたいだぜ。あっ、あの胸のところのブローチ、今月号のティンマニで紹介してたエメラルドのヤツだ。さっすがジュリア、流行にも 敏感だなぁ。それにすっげ〜似合ってる…。あ〜あ、一度でいいからジュリアと二人で話がしてみてぇなぁ……。
 

 今日はせっかくのオフだってのに、なんか知んないけど軍のお偉いさんの…確か、カーウェイ少佐とかいう人から呼び出しくらっちまった。 いったい俺みたいな善良な兵士に何の用なんだろ?ま、い〜や、さっさとすましてジュリアの歌聴きに行こ〜っと。そんで、今日もジュリア の部屋で、彼女にこれまで俺の見てきたいろんなこと話してやるぜ〜…っと、ここかな?そのカーウェイ少佐の部屋って。
 「失礼しま〜す、ラグナ・レウァールです」
中に入るとそこにいたのは俺より5,6歳年上っぽい軍服に身を包んだおっさん。
 「きみがラグナ君か?まあ、かけたまえ」
 「はあ、じゃあ遠慮なく」
目の前にあった革張りの豪華なソファーに座る。う〜ん、良い座り心地。こんなの俺も家に一つほしいぜ〜。
 「きみの活躍は聞いているよ」
 「へ?」
 「先月のティンバーの森での戦いだよ。他の戦場でもなかなか活躍しているそうだね」
へぇ〜、俺ってけっこう軍のお偉いさんの間でも有名なのかな?
 「いや〜、あれは俺だけの力じゃなくて妖精さんが……」
 「?!なんだねその”妖精さん”とかいうのは?」
ありゃ?少佐が怪訝そうな顔してる。まじい、ここは笑ってごまかしちまおう。
 「あっ、いやこっちのことです。はははっ」
 「まあ、いい。今日きみを呼んだのは他でもない。きみの腕を見込んで、特別な任務に着いてもらいたくてね」
 「特別な任務ですか?」
 「ああ、実は昨日、エスタの連中がとある場所で、なにやら妙な遺跡のようなもの発掘しているという情報が入ってきてね。 その発掘現場の調査をきみにやってもらいたい。どうかね?引き受けてもらえるかね?」
おいおい、相手はエスタだってぇ?確かあそこはアデルとかいう魔女に支配されてるんだろ。そんな連中の掘り出してるもの 調べてこいっていわれてもなぁ。俺を選んでくれた少佐には悪いけど断っちまおう。
 「でも、俺なんかよりもっと腕の立つやつは軍にいっぱいいるんじゃないっすか?」
 「それが、みんな相手がエスタと聞いて行くのを嫌がってな。そこで、エスタの連中を相手にできるくらい勇敢で 優秀な男を探した結果、きみが選ばれたんだ。どうだ?引き受けてくれないか?」
う〜ん、よわったなあ。そこまで言われちゃうとなぁ。でも、俺一人じゃ心細いし…そうだっ!!
 「じゃあ、キロスとウォード連れていっていいっすか?」
 「キロスとウォード?!ああ、きみと同じ部隊の。いいだろう連れていきなさい。他に何かあるかね?いい忘れていたが、 引き受けてくれるなら最新装備を軍で用意することになっているが…他に用意する必要があれば遠慮なく言ってくれたまえ」
  「いえいえ、あの二人と最新装備だけで十分っすよ。わっかりました。その任務このラグナ・レウァールが引き受けます」
 「そうか、引き受けてくれるか。よかった。ありがとうラグナ君」
うおっ、少佐が俺に頭下げてるよ〜。そうだ、この任務のこと今日さっそくジュリアに話してやろう。
   「で、その任務出発はいつですか?」
 「それが、急で悪いんだが明日の朝10:00だ」
 「ええっ、明日っ?」
うそだろ〜、いきなり明日からかよ〜。そういや、前に調査の任務でティンバーに行ったときは一ヶ月近く帰って来れなかったこと あったな…やっぱ、今からでも遅くねえからやっぱ断ろうかな〜?
 「そうだ、それだけこの任務が急を要するということだ。しかし、ただ調査をしてくるだけだ。一週間もすれば帰ってこられるだろう。 それに、うまく任務を成功させて帰還すれば、間違いなく数階級の特進ものだ。頑張りたまえ、ラグナ君」
そうだよな、調査だけだし。少佐も一週間ぐらいで帰ってこれるって言ってるじゃん。うまく任務を成功させて昇進したら給料があ〜っぷ。 そしたら毎日、いや一日中ジュリアのバーに居られるぜ。 それにジュリアにプレゼントも買ってあげれるようになるかもな。もう迷わないぜっ。
 「わかりました。では明朝10:00に」
 「それでは現場の詳しい地図や調査ポイントの説明は明日行う。全員そろってからの方がやりやすいからな。では明日」
 「はっ、では失礼しました」
少佐に敬礼をして部屋をでる。さ〜て、ジュリアのバーに行きますか。
 
 「今日もよかったぜ〜、ジュリア」
 「そう?ありがとう」
部屋の窓際にある椅子。ここがジュリアの部屋での俺の定位置。向かいの椅子にはジュリアが座っている。テーブルの上には ジュリアが入れてくれたレモンティー。
 「ねぇ、今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」
 「そうだなぁ、まずはこいつは先月の話なんだけど、俺達は任務でティンバーの森にいったんだよな、そのときさあ……」
いつものように俺がこれまで見てきたあちこちの街や景色の話を俺をじっと見つめながら黙って聞いているジュリア。う〜ん、 そんなにみつめるなよ〜。緊張して足がつっちまうよ。
 「…でさぁ。そんな俺の活躍が軍のお偉いさんに認められてさあ。今度、超重要な任務を与えられたんだぜ。どんな任務だと思う?」
 「さあ?どんなお仕事?」
 「なんと、エスタが秘密で発掘している遺跡の調査をするんだぜ」
あれ?いきなりジュリアの表情が真剣になってる。ど〜したんだ?
 「えっ、エスタってあの魔女が支配している国でしょ」
 「そ、そうだぜ、でも大丈夫だって。俺様にかかればエスタ兵なんてちょろいちょろい」
 「でも、やっぱり危険よ。もし、もしその発掘場所に魔女が来てたりしたら…」
 「う〜ん、そのときはそのときだね。覚悟を決めて魔女にとつげき〜…」
 「そんなの嫌っ!!」
うわっ、びっくりした。いきなり大声で。ホントどうしたんだよ〜、ジュリ…?!
 「泣いてんのか、ジュリア?」
 「だってもし、もしあなたがそんなことになったら私…せっかくあなたに聞いてもらうために、今だってたくさん曲書いたり、 詩をつくったり…なのに、あなたがいなくなったら…」
あっちゃ〜…ちょっと無神経だったかな俺?いくら冗談でも”魔女にとつげき〜”はやめときゃよかったな〜。な〜んか空気が重いぜ〜。 よ〜し、ここは俺様のみりきで…
 「だ、大丈夫だよジュリア。魔女に突撃なんてしないって。だいたい、もともと任務は調査だけだし、1週間ぐらいで帰れって 来れるから。な、だからもう泣かないでくれよ〜」
 「本当?」
 「おう、本当だぜ。それに、死んじまったら二度とジュリアの歌が聴けなくなっちまうだろう」
ふうっ、やっとジュリア泣きやんでくれたよ〜。ん?ジュリア自分のバッグから小さい包みを取り出してきたぞ。
 「これ、あなたにあげるわ」
そういってその包みを俺に渡す。
 「開けてみて」
中身はなんだろ〜?!ありゃ?箱だ。その中は…指輪だ、銀の。掘られているのは見たことのない動物だなぁ。
 「気に入った?それ昨日アクセサリー屋で見つけたの。サイズがおっきくて私には無理だけど、あなたになら 合うかと思って。どう?」
 「どれ?おう、ぴったりだぜ。ありがとうジュリア、大事にするぜっ。ところでさ、この指輪の動物なんて 言うんだ?俺、初めてみるぜ」
 「それはね、ライオンって言う想像上の動物だって」
 「へー、ライオンっていうんだ、かっこいいもんなあ、こいつ」
指輪をはめた方の手を光にかざして見るとそれは綺麗に光る。と、部屋の時計が12時を打った。ありゃ?もうそんな時間かよ。
 「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。明日から任務だし……」
 「そう…じゃあ、最後に1曲だけ聴いていって。何がいい?リクエストに応えてあげる」
そういって、ピアノの前に座るジュリア。リクエストか…ここはやっぱり、
 「そうだなあ…やっぱりあれかな”Eyes on me”」
 「ふふっ、あなたいつもこの曲ばっかりね」
 「そりゃあ俺のお気に入りなんだもん。しばらくここに来れないからさ〜、ゆっくり聴いていきたいんだ」
 「わかったわ」
優しいピアノの旋律で鮮やかに色付いたジュリアの歌声。たった1曲だけど、ジュリアは俺1人だけのために歌ってくれている…このまま永遠に、ジュリアの歌声を 聴いていたいな……。
 んにゃ?!あれ?ジュリアの歌聴きながら俺はそのまま眠ちまったのか?!ここはジュリアの部屋だもんな。 でも、ジュリアいないな〜?どっか出かけたのかな?そういや今、何時…!!げげげっ、もう9時半?!急がないと 集合時間に遅れちまう〜。ジュリアにちゃんとお礼言いたいけど、時間ねえや。しかたない、ここに書き置きしてっと。 じゃあな、いってくんぜ〜ジュリア!!

 あれから約5年。どこをどうまちがってか俺はエスタで大統領をしている。いろいろあったけどその間にジュリアはあの カーウェイ少佐と結婚しちまったしなあ。まあ、俺もレインと結婚したし、エルオーネを送り返しにウィンヒルに行かせた 使いの話じゃあ、レインが子供を身ごもってたって言ってたし…それって俺の子供だよなぁ、間違いなく。そういや、 ジュリアのくれた指輪、エルに”俺の無事な証拠だからレインに渡すように”って持たせたんだっけ。どうなったんだろうな?あれ。
 「大統領!!何をぼーっとなさってるんですか?!」
なんだよ、うるせーなぁ。ったく、毎日ここにサインしろだの議会にでろだの。
 「聞いてるよっ。で、俺はなにすればいいわけ?!」
 「ここにサインを」
 「はいはい、ここね」
 「あと、ここにも」
 「あ〜もう、めんどくせ〜。はいはい、これでいいのか?」
 「どうも、では」
やっと帰っていったか。まったく、静かに考え事もできやしない。
 「おーい、ラグナくん、たいへんだぞ」
ああっ、もう!!こんどはキロスか?
 「なにごとだねキロスくん。俺は今日は気分が優れないから、サインはしないし議会も欠席するぞ」
 「そんなことじゃない。テレビをつけてみろ」
 「あん?テレビ?」
こんな真っ昼間に何やってるっていうんだ?どうせおばちゃん用のワイドショーぐらいしか…
 『本日正午ごろ、ガルバディアの首都デリングシティで交通事故がありました。』
 「なんだ、ただの交通事故のニュースじゃないか」
 「違うっ!!よく見ろっ!!」
なに怒ってるんだキロスの奴?!何処が違う…
 『…死亡したのはガルバディア軍フューリー・カーウェイ少佐の妻で元歌手のジュリア・カーウェイさん、28歳。死因は………』
 「ジュリアが…死んだ?」
ウソだろ…。こりゃなんかの間違いだ。そうか!!キロスとウォードのいたずらだな。
 「こらこら、俺がいくら大統領の仕事真面目にしないからってこんなウソはいかんよキロスくん」
 「嘘なんかじゃない、確かな情報だ。デリングシティにいるエスタの諜報員に確認してウラもとってある」
そんな…マジかよ…。俺、ジュリアの歌もう一度聴きたかったのに。
 「どうやら、家族でドライブ中の事故らしい。交差点で信号無視の車が突っ込んで、少佐と娘さんは骨折程度ですんだらしいがジュリアは…」
 「………」
 「ラグナくん、きみが悲しいのはわかるが…」
 「わかっている。俺がでていけばエスタの存在がばれちまう。うまく身分を隠し通せても少佐には顔を知られているからな…出て いきにくいよ」
 「そうか、なら私はもう何も言わないよが…」
そういってキロスは部屋を後にしていった。テレビではワイドショーのレポーターがジュリアの生い立ちを取材しているVTRが流れている。 ジュリアがピアノを弾いていたホテルのバーやジュリアが借りていたホテルの部屋などが映し出される。そして、そのバックミュージック には”Eyes on me”が流れていた。
 「懐かしいな……」
目を閉じるとあの時のことを思い出した。ジュリアに最後に会った日の夜のことを…
 

 「…というのが今回の作戦の概要だ!!できそうか?」
 「俺達はSeeDだ。依頼された仕事は最後までやり遂げる」
俺の目の前にいるその少年はそう言いきった。さすが我が息子か…エルオーネから聞いてたけど、ホントに俺に似ずに不愛想だなあ。 そういや、スコールの横にいる水色の服来たあの女の子。あの子だろ?魔女になっちまったってのは。確か名前はリノアとかいって たっけな?それにしても誰かに似てんな〜…誰だろ?う〜ん、ここまででかかってんだけど……。
 「ねえ、スコール。この指輪もう少しでできるんだって」
指輪?ああ、あのペンダント見たいにしてるの…?!あれ?
 「ねえ、その指輪…?」
 「ああっ、これですか。これスコールのだけど、あたしが借りてるんです。かっこいいからこれと同じのを 作ってもらおうと思って」
 「そうなんだ。ところで、きみどっかで俺と会ったことない?」
 「いえ、今日初めてお会いしますけど」
 「そ、そ〜だよね〜……」
 「おい、一国の大統領が女の子をナンパか?!」
うおっ、これもエルの言ってたとおり。この子のことになるとやけに手が早いな。いくらなんでもその一国の大統領に ガンブレード突きつけるかぁ?!
 「な、なんでもないよ〜。じゃあ、たのんだぜ。SeeDの諸君。といっても、俺らもラグナロクに乗り込むけどね。 一度乗ってみたかったんだよな〜、あれ。じゃあ、先行ってるぞ。いくぞ、キロスくん、ウォードくん」
ふう、やっぱり思い過ごしかなあ。ラグナロクまで走りながらそんなことを思ってたらキロスが話しかけてきた。
 「”おい、ラグナくんいいことを教えてやろうか”とウォードが言いたげだぞ」
 「あん?!いいことって?!」
 「”魔女記念館で資料を見たんだがあの子の名前はリノア・ハーティリー、父親はフューリー・カーウェイ大佐だ” とウォードは言いたげだぞ」
そっか!!そうだったんだ。俺があの子が誰かに似てると思ったのはジュリアだよ。しっかし、そう考えたら不思議だぜ。 ジュリアから俺がもらった指輪が一度レインのところに行って、今度は俺とレインの子供からジュリアの子供に戻ってるなんて。 そう考えたらおかしくてしょうがねぇや。久方ぶりに大笑いしちまった。横で見てた二人は俺をみて首傾げてたけどな。
 けど、いまはそんなことしてる場合じゃねぇ。復活したアデルとこの騒動の黒幕アルティミシアを倒すのが先だ。 レイン、ジュリア、あの二人や俺達のこと見守っててくれよ。全部終わったら、ちゃんと俺とエルとあの二人の4人で会いに 行くからよっ!!


END


 どーも、Kallでーっす。
 初のラグナさん作品。なんかラグナさんの視点でかくとコメディかシリアスかわかんない作品にしあがっちゃいました。 その上、複線作りすぎ(グリーヴァの指輪がジュリアからラグナがもらった指輪だったとかそれをレインに渡したとか…etc.)。 でも、もし本当にそうだったらけっこうおもろしろいと思いません?あと今作はモチーフの曲はなしです。完全オリジナルシナリオ。 だから今作タイトルに困った困った。これまでなら歌詞の一部をちょっと変えるとか、曲のタイトルそのままつけるとかでよかったんだけど、 今回はそうはいかない。そのうえ安直に”リング”だの”Loop”だのつけると、某有名作家のホラー小説のインパクトで内容を 誤解されそうで……。本文のほうはそこそこ長い作品だけど数時間(爆)で書き上がったし…。 あと、今回は本文でラグナのジュリアに対する思いの方が強いみたいになっちゃってるけど、本当はラグナにとってはどちらも 比べられないくらい大切でしょう。つーことでこんどはラグナ×レインでも書こうかな?