Memories


 「もう、このへんでいいよ〜」
飛空艇ラグナロクが荒野のど真ん中に着陸する。
 「ほんとにここでいいのか?もっと近くまで行ったほうがよくねえか?」
操縦席のゼルがセルフィに尋ねる。
 「うん、あとは歩いて行くから」
操縦席の隣のシートに座っていたセルフィが立ち上がってコックピットを出ようとしたとき、 丁度コックピットに入ってきたリノアに呼び止められた。
 「あっ、セルフィもう行くんだ。じゃあ、トラビアガーデンのみんなによろしくね」
 「うん、ちゃんとみんなのこと伝えとくよ〜」
 「ちょっとの間会えないけど、元気でね」
 「リノアもね」
 「リノア、セルフィ、悪いがそろそろ…」
リノアとのしばらくの別れを惜しんでいたセルフィの所に、スコールが現れた。そのままスコールと一緒にコックピットを出るセルフィ。 向かった先はラグナロクの搭乗口。スコールが搭乗口横のパネルを捜査すると扉が開いて外から冷たい空気が入ってくる。
 「じゃあ、明後日またここに迎えに来てね」
 「わかっている。もしなにかあったら、こいつでバラムガーデンに連絡しろよ」
そう言ってスコールが差し出す携帯端末を受け取ると、セルフィは搭乗口から外に出てトラビアガーデンの方に向かっていく。

その様子をラグナロクの客室からじっと見つめる一人の青年。彼の名はアーヴァイン。彼は昨日セルフィに愛の告白をしたのだが……


 「僕は本気で君のことが好きなんだよ」
 「………」
 「…やっぱり僕みたいな軽い性格の男じゃだめかい?」
 「だめじゃないよ〜、すっごくうれしい。でも……」
 「でも、なんだい?ハッキリ言ってくれよ。いつものセフィらしくないよ!」
 「…ごめん、言えない」
 「?!言えないって…どういうことだいそれ?」
 「本当にごめん。でも。今はまだ…もう少し考えさせて…」


 「やっぱり僕じゃだめなのかな……」
少しずつ小さくなっていくセルフィの後ろ姿を見つめながら、アーヴァインはため息にも似た独り言をつぶやいた。 ラグナロクが離陸して一気にセルフィの姿が見えなくなる。それでも、彼はしばらくセルフィの歩いていったトラビア ガーデンの方角を見つめていた。

 「セルフィ、お帰りなさーい!!」
トラビアガーデンに付いたセルフィを出迎えてくれたのはガーゴイル像の前に座っていた彼女の親友、ヨーコだった。
 「ただいま〜、元気やった〜?」
 「うん、みんなめっちゃ元気やで。そや、あんたの話、先生から聞いてるで〜。相変わらずSeeDとして大活躍しとるらしいやん」
 「そんなことあらへんって。私なんかまだまだやもん」
 「またまた、謙遜して〜。そんなんあんたのキャラクターちゃうで〜」
 「それど〜いう意味や〜、じゃあこれでええか?ほんまおおきに、これからもっと活躍するで〜」
 「そうそう。それでこそ、いつものセルフィや」
親友との久しぶりの再会で想い出話に盛り上がる。
 「そや、セルフィ覚えてるか?ちっちゃいころ、ようみんなで真っ暗になるまで外で遊んでて寮の先生に怒られたの」
 「うんうん、覚えてるで〜。冬に雪とか降っててめっちゃ寒いときとかでも毎日のように雪だるま作ったり雪合戦したりしとったなぁ」
 「そうそう、冬言うたらセルフィ一度『見たいテレビあるから急いでかえらなあか〜ん』って言うて、走って帰る途中に雪ですべってこけて、大泣きしよったなぁ」
 「そういうヨーコやって、遠くに遊びに行った帰り道、私とはぐれてしもたやん。そんで、心配してみんなで探しに行ったら、 街灯の下で座り込んでて頭の上に雪が積もっとったことたことあったやん」
 「あれ〜、そんなことあったかいな?」
 「あ〜っ、自分に都合の悪いことだけ忘れたふりするな〜」
 「ごめんごめん…でもほんま懐かしいなぁ…」
そう言ってそっと空を見上げるヨーコ。
 「うん……」
つられてセルフィも空を見上げる。幼いころ見た空と、何も変わらないトラビアの冬の空は灰色の雲に覆われている。 目を閉じると冬の寒さはセルフィに、まるで何もかもが昔のままのような錯覚を思わせた。そう、何もかもが…
 「これ以上こんなところで立ち話もなんやから、私の部屋いこか?」
ヨーコに手を引かれてトラビアガーデンの中を歩いていく。かなり復旧しているとはいえ、まだミサイル攻撃を受けた傷跡が あちらこちらに残っている。教室のある建物を通り抜けて寮に向かうのだが、その途中は少し長い緩やかな坂道になっている。 ふと、寮の方を見るとその後ろにはすでに雪で真っ白になった雪山が見える。
 「もう山の方は雪積もってるんやぁ」
 「うん、もう少しでここらへんもまた辺り一面、真っ白になるで」
 「あ〜あ、残念やな〜。任務がなかったらみんな連れて来て一緒に見たいな〜」
 「みんなじゃなくてアーヴァインって人と二人でやろ」
急にアーヴァインの名前を出されてセルフィは動揺を隠せない。
 「な、なに言いだすねん急に。別にあんな奴…」
 「隠さへんでもええで〜。前にバラムから復興の手伝いに来てくれた…なんて言うたっけ?あの、額に傷のある無口な人」
 「スコールか?」
 「そうそう、そのスコールさんと一緒にいた水色の服の女の子、確かリノアさんだっけ?彼女が『セルフィはアーヴァインのことが 好きなんだよ〜』って教えてくれたんや」
 「リ、リノアのやつぅ〜」
 「で、もう告白したんか?キスは?それともいくとこまで…」
 「もう!いまそんなことどうでもええやろっ!!」
 「な、なんや、そこまで怒らへんでもええやんか〜」
 「あっ、ごめん…ちょっとな…」
自分がむきになって怒鳴ったことに気づいたセルフィは素直にヨーコに謝った。
 「そのアーヴァインって人となんかあったんか?」
 「実は…いや、別にええねん。さっ、はよ部屋行こう」
そう言って一人で先に歩き出すセルフィ。坂の中間の辺りにあるひだまりに来たとき、寮のほうから一人の少女が駆け寄ってきた。 それはセルフィの良く知る2歳年下の後輩だった。
 「セルフィ先輩、お久しぶりです〜。元気でした〜?」
無邪気に話しかけてくる少女に笑顔で答えるセルフィ。
 「あ、うん。まあな。あんたはどうなん?」
 「私も元気ですよ〜。あっ、それじゃ、すいませんけど時間がないんでこれで…」
 「なんか用事か?」
 「ええ、今日は私、修理班の食事当番なんです。いまから準備にいくんです。じゃ、また今度ゆっくりお話しましょうね〜」
そう言うと、その少女はセルフィに会釈をすると走って坂道を駆け下りていった。その様子をセルフィは冷たい風の中、 ずっと見つめていた。
 「あれ?今の子確かあんたの知り合いやろ?話すことあったんちゃうの?」
少女とすれ違いで追いついてきたヨーコがセルフィに話しかける。
 「うん。でもいまからあの子、修理班の食事当番やって…」
 「そうかぁ。じゃあさっさと私の部屋いこうか?なんか風も冷たいし、雲行きも怪しなってきてるし…そろそろ雪ふるんとちゃうか?」
 「…なあ、ちょっと聞いて欲しいことがあるねん」
 「ん?どしたん急に?」
 「私、昨日アーヴァインに告白されてん…」
 「よかったやん、おめでとう。もちろんOKしたんやろ?」
黙って首を横に振るセルフィ。
 「なんでや?あんたもアーヴァインのこと好きなんやろ?」
 「うん…」
 「ほならなんで……」
 「私…私一人だけ幸せにはなれへん!!みんなが…ヨーコ達がトラビアで厳しくても必死に生きているのに自分一人…バラムでSeeDになって、友達と遊んで… そのうえ恋人作るやなんて…・私にはできへん!!」
こみ上げる思いがつかえたようにセルフィは声をつまらせる。
 「セルフィ……」
 「それに、トラビアがミサイル攻撃受けたんやって、私がもう少し早くミサイル基地に潜入してたら…わたし…わたし……うわあぁぁぁん」
ヨーコに抱きついて泣きじゃくるセルフィ。
 「……セルフィ、私たちあんたが思ってるほど不幸とも悲しいとも思っとらへんで。あれからもう半年も経つんや。みんなで力を合わせて、 少しずつガーデン直して、お金が足りんかったらバイトして修理費かせいで、あまったときはみんなでパーティーとかやるし。セルフィが 居なくても私たちは頑張れる。だから、もうあんたの好きにしたらええねん。それになにがあってもセルフィは私たちトラビアガーデンの仲間や」
 「ヨーコ……」
 「それに、ぶっちゃけた話な、確かにミサイル攻撃受けた直後は、私やみんなもセルフィやバラムガーデンの人達恨んだこともあったんや。 でも、そのあと私たちのこと心配してここに来たセルフィ達に会って気づいたんや。『ああ、私はやっぱセルフィのこと好きなんや』って。 たぶん、他のみんなも私と同じ気持ちやと思うで。私らもう、セルフィなしでも大丈夫や。だから、あんたを必要としてくれている人から逃げたらあかんで……」
 「でも…ほんとにええんやろか?」
 「アホ、たまには友達の言うこと素直に聞きや」
 「…うん、ありがと、ヨーコ」
 「さっ、はよ私の部屋行ってあったかーいココアでも飲もか?」
 「うん、あま〜くておいしいやつね」
 「まかしとき、めっちゃおいしいの入れたるさかい」
手を繋いで寮まで歩いていく二人。ふり始めた雪がトラビアガーデンを優しく包み込んでいった。

 2日後、バラムガーデンに帰ってきたセルフィは寮のアーヴァインの部屋を訪れていた。
 「アービン、ちょっといい?」
 「やあ、セフィ。おかえり。なんだい僕になんか用事かい?」
 「あの話のことなんやけど…」
 「ああ……う〜ん、もういいよ。忘れちゃっても…」
 「ううん、ちがうの。一回しか言わないからちゃんと聞いてよ…今度、私がトラビアに行くときに一緒に行かない?」
 「?!じゃあ、…」
 「うん…私でよかったらこれからもよろしくね」
 「セフィ……」

 その年の冬、二人の想い出の1ページに加えられたトラビアの雪景色には、お互いの大切な人と並んで歩いた足跡が どこまでも続いていた……。


END


どうでしょう?Kall2作目のアーセル。更新予定に”次回作アーセルに決定”って張り切って書きましたが… 自信ねぇ〜…いいんです、ハッキリ”駄文だ”って言ってやってください。モチーフに使ったのは某大物ロックバンド Gの冬の名曲なんですが、俺の文才がないばかりにくううぅ(涙)それと、セルフィのトラビアガーデンの親友の 名前は”BASTARD!!”という漫画から拝借しました。最後に、これからもっと勉強して今度書くときは もっといいもの書きます〜。だから今回はほんと、すみませ〜ん。m(_ _)m