Summer Holiday


 夏にここにいると私だけ違う世界にいるみたい。照りつける太陽と蝉の大合唱もクーラーと防音壁のせいでここには関係ないもの。
 「暇だなぁ…みんな、今頃なにしてるんだろう?」
確か、スコールさんとリノアさんはアーヴァインさんとセルフィさんと一緒にダブルデートでバラムの海岸に遊びに行くっていってたっけ… キスティス先生とシュウさんは昨日から旅行に行っちゃったし……。
 「はぁ…やっぱり夏休みに図書館なんて誰も来ないよね…」
今すぐ図書館閉めてどっか行こうかと思うけど、どこも行くあてがないし、一人じゃ何したっておもしろくないのがわかりきってる。 だから、私はここにこうしている…使い道のない夏の休日を無視するために…。
 「おっ、やっぱ開いてる」
急に入り口のドアが開いた。こんな日に誰だろう?ドアの方を見た私の目に飛び込んできたのはゼルさんだった。
 「あれ?ゼルさん、どうしたんです?」
 「いや、別にたいしたことじゃねえんだけどよ…あんた、昼から暇?」
 「え?」
 「暇ならさあ、俺と野球見に行かねぇ?」
そう言いながらゼルさんは手に持ったチケットを私に見せた。
 「どうしたんです、それ?」
 「それがさぁ、最初はニーダの奴と行くつもりだったんだけどよ、あいつ昨日から友達と海にナンパ旅行に行きやがってさ… それに、スコール達も出かけてるだろ?で、誰かいねぇかなと思ってガーデンじゅう探してて、もしかしたらあんたならここにいるかも って思ってさ…」
そうなんだ…でも、私が夏休みにもここにいるなんて誰も知らないと思ってたけど…。
 「けど、私なんかでいいんですか?」
 「あっ、いいのいいの。あんたには前に欲しい本探してもらったことあるし…。それに毎日図書館にいたら退屈だろ? たまには遊びに行こうぜっ、なっ?」
どうしよう…私、野球なんてあまり興味ないけど、ゼルさんといっしょなら…。
 「…わかりました。じゃあ、部屋で準備してきます」
 「おうっ、じゃあカードリーダーのとこでな」
そう言い残すとゼルさんはさっさと図書館をでていっちゃった。そうだ、私も準備しなくちゃ。クーラーを切って図書館の戸締まりをする。 次第に夏の暑さが私の周りに戻ってくる。戸締まりを終える頃にはもうすっかり図書館は外と変わらない暑さになっていた。 寮の自室に戻ると制服から私服に着替える。前にセルフィさんと一緒に買い物に行ったときに選んでもらった薄青色のワンピース。 髪型もそれにあわせて三つ編みをほどいてロングヘアーにもどす。滅多にしないお化粧もして、私はゼルさんとの待ち合わせ場所に向かった。

 「おっしゃー、そこだそこ、いけー!!」
立ち上がって必死に応援するゼルさん、まるで自分が試合に出てる見たい。
 「だ〜っ、そうじゃないだろ…あーあ、ほら見ろアウトになったぁ」
豪快なため息をつきながらどっかとその場に座り込む。その額には照りつける日差しと試合の熱気で汗が光ってる。
 「ゼルさん。これどうぞ」
バックからハンカチを取りだしてゼルさんに手渡す。
 「おう、サンキュー」
そういって額を流れる汗をぬぐうゼルさん。お、お礼を言いたいのは私のほうなのに。私なんかを誘ってくれて…
 「そうだ、喉乾いてねぇ?俺なんか飲み物買ってくるよ」
 「あっ、それなら私が買ってきます。ゼルさんは試合見ててくださいよ」
だって、こんなに楽しそうにしてるゼルさんには試合をずっと見ててもらいたい。それに、私がさっきから見てるのは試合じゃなくて、 試合を見ているゼルさんの横顔だけ…。
 「そう?じゃあ、俺コーラね」
それだけ言うとゼルさんの視線はもうグラウンドに釘付けになっている。私はそんなゼルさんの無邪気な顔をしばらく見つめてから、 売店にジュースを買いに行った。

 「いや〜、おもしろかったよな」
 「ええ」
 試合の後の帰り道、ゼルさんと二人でバラムの港に来た。さっきまであれだけ真上から照りつけていた太陽も、 今は海に沈んでしまいそうな夕日。私とゼルさんは並んで岸壁の上に座った。
 「今日は本当にありがとうございました。おかげですっごく楽しかったです」
 「そうか?そう言ってくれると誘ったかいがあるぜ」
と、そこで不意に会話が止まってしまった。しばらくお互いに黙ったまま。何か言わなきゃ…そう思って私が口を開いた瞬間、
 「あのう…」「あのさ…」
私とゼルさんの声が重なる。驚いてお互いに
 「えっ、ゼルさん先にどうぞ…」
 「あ、あんたからでいいよ…」
と、譲り合う。
 「いえ、私のはたいしたことじゃないですから…どうぞ…ゼルさんから」
 「…あのさ…俺、あんたに一つ謝まんなきゃいけないことあんだよ」
私に謝ること…?いったいなに?
 「実はさ、あのチケット…最初からあんたと行くために買ったんだ。なんかさ、ああでも言わねぇとさ、なんていうか… 誘いにくかったつーか…。そのー…と、とにかくごめんな」
 「ゼルさん…」
 「あんた試合あんまり見てなかったろ。それ見てたら無理に誘って悪かったみたいに思えてさ…」
ゼルさん、もしかして私が試合ほとんど見てなかったの気づいてたの…。でも、それは…
 「あの…ゼルさん。私もゼルさんに言わなきゃいけないことがあるんです。私、確かにゼルさんの言うとおり試合は見てませんでした。 だけど…私…ゼルさんが私を誘ってくれたのがすっごくうれしくて……試合中もゼルさんだけ見てて…実は…私、その…ゼルさんのこと… ゼルさんのことが好きです!!」
と、とうとう言っちゃった…でも、これでいいよね、もしダメでも今日のゼルさんとの想い出は私が炎天下でみた夢だとでも思えばいいのよ。 覚悟を決めた私は目を閉じてうつむく。こうすればもしダメでも、泣いてるところゼルさんに見せなくてすむよね…。
 「……お、俺も…俺もあんたのこと好きだよ」
え…今…なんて…驚いて顔をあげた私の目の前にゼルさんの顔が。と、目が合って見つめ合う私とゼルさん?!なにこの気持ち… 上手く言えないけど…あっ…目を閉じたゼルさんの顔が少しずつ…もしかして?!…私もそっと目を閉じる。
 「あっ、ゼルにーちゃんがおねーちゃんとちゅーしようとしてるぞ〜!!」
 「ひゅ〜ひゅ〜、あついぞ〜、おふたりさ〜ん」
な、なに?びっくりして目を開けて声のしたほうを見るとゼルさんの弟さん達が私たちの方を見てはやし立てている。
 「な、こ、これはだな…」
 「あ〜、ゼルにーちゃん照れてる〜」
 「て、てめえら〜…待ちやがれ〜」
 「うわっ、にーちゃんが怒った逃げろ〜」
ゼルさんの弟達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 「…くそっ、あいつら〜。今度、家帰ったときにとっちめてやる」
 「ふふふっ…そんなことしたら弟さん達が可哀想ですよ」
 「……でもよ〜、そのなんだ…こんあとこ見られちまったしよ〜…ごめんな」
気まずそうに頭をかきながら私に謝るゼルさん。
 「いいですよ、気にしてませんから。それより、また休日にどっか遊びに行くときには誘ってくださいね」
 「…おうっ」
 「じゃあ、そろそろガーデンに帰りましょうよ」
 「そうだな、腹減ってきたし…そうだ、ガーデンまで競争しようぜ」
 「えっ?」
 「せーのっ!!」
そう言うとゼルさんはいきなり走り出した。
 「ちょ、ちょっとまってくださいよー」
私も走ってゼルさんを追いかける。そして、走りながらふと思った。周りから見たらこんな関係は子供じみてるって いわれるかもしれない。でも、私はこのままでもかまわない。だって、これからは休日にゼルさんを見て過ごすって いう使い道ができたから。


END


 どーも、駄文書きこたつむり(=(こたつ+かたつむり)÷2)Kallです。初のゼル×三つ編みちゃん。 冬場に書いてるのにおもいっきり真夏ネタ。理由はゼルには夏が似合いそうだった(それだけかっ!!ガビーン from ゼル) ……のと(ちょっと、安心です from 三つ編みちゃん)元ネタにしたのが夏に某清涼飲料水(ポ○リ)のCMで 使われた例の曲だから。……いかん、これ以上あとがきが書けない!!こういうときは…逃げよう(Kall逃走)。