Flower
−胸に降る雨、胸に咲く花−


 「ラグナ〜、ご飯よ〜!!」
 まったく何処にいったのかしら?広場にも花屋のおばあさんの所にもいないし…昼過ぎにキロスさんとエルオーネを 連れて出ていって今はもう夕方よ。もうすぐ日が暮れるっていうのに…。
 「また、あそこかしら?」
あと思い当たる場所は、村のはずれの小高い丘にある花畑。ラグナはよくエルオーネをつれてそこに遊びに行くから。 そう思って私はその丘に続く道を歩き出した。
 「あら?あれは……」
しばらく行くと前から歩いてくる二人の人影が見えてきた。どうやら一人は子供みたい、もしかして…。そのとき、 向こうも私に気付いたのか子供の方はこっちに走ってきながら私に手を振っている。その後ろからはゆっくりともう 一人の方が歩いてくる。
 「あっ、レインだー、わーい、レイーン」
ふぅ、やっぱりエルオーネね。もう一人は…どうやらキロスさんみたいね。
 「ただいまー、レイン」
駆け寄ってきたエルオーネをしゃがんで抱きとめる。
 「もう、どこいってたの?いつも早く帰ってきなさいっていってるでしょ」
 「大丈夫だよ、ラグナおじちゃんとキロスおじちゃんがいっしょだもんっ」
 「そういえば、ラグナは?姿が見えないけど……」
 「うーん、エルにはよくわかんないけど、大事な用があるんだって?」
エルオーネが首を傾げながら答える。
 「大事な用?」
 「うん。そう言ってたよ」
 「で、今どこに…」
 「ラグナくんなら例の丘ですよ」
私がエルオーネに聞こうとしたことにキロスさんが先に答えた。
 「あの丘に?」
 「ええ、行ってあげてください。ラグナくんが用事があるのはあなたです」
 「私に?」
 「そうです、エルオーネは私が送っていきますんで…いこうかエルオーネ」
そういうとキロスさんはエルオーネの手を引いて村の方に歩いていった。ラグナが私に何の用事があるんだろう? 私は不思議に思いながらもキロスさんに教えられたとおりラグナの待っている丘へ向かった。

 今日こそ言おう。レインに俺の気持ちを伝えるんだ。これまでずっとあやふやにしてたけど今日こそは…。
 「それにしてもレインおせ〜な〜…キロスの奴ちゃんと伝えたのか?」
キロスとエルを先に帰してからもう30分ぐらいたつぞ。まだ来ないのかなレイン……。すでに星と綺麗な満月が 瞬いている夜空を見上げた。
 「綺麗な夜空よね……」
 「レイン!!遅いぜー、やっと来たのか」
 「なによ、あなたが大事な用があるっていうからこうして来てあげたんじゃない」
おっといかんいかん。ついいつもの調子で言っちまった。
 「う、そ、そうだよな。わりい」
 「あら?どうしたのいつもより素直じゃない」
 「そ、そうか?なあ、レインあのさ、俺…」
だ、だめだぁ…やっぱり言えねぇ。えーい、こーなったらぁ、これしか手はねぇ。俺はレインの左手を取ると 薬指に指輪をはめてやる。
 「えっ…ラグナ…これ」
突然の出来事に呆然としているレインに自分の左手をかざして見せてやる。薬指にはレインのと同じ銀の指輪。 これでどーだ、あとは野となれ山となれだ、フラれたらそのときだぜっ!!が、結果は俺が予想していたのとはまったく 逆だった。俺の左手の指輪を見たレインは俺に抱きついてきた。そして、かすかにレインの声が聞こえた。
 「ありがとう、ラグナ」


 「とまあ、こうして俺はみごとにレインのハートを射止めたんだ。でな…」
自慢げにレインとのなれそめを話すラグナの横でウォードとキロスがあきれた顔をしている。
 「…で、俺はそのままレインを優しく抱きしめて…っておい、お前ら俺の話を聞いてるか?」
 「ああ、聞いているよ。まったく、さっきからレイン、レイン、レイン…って久しぶりに会うんでうれしいのはわかるが、 今は大統領の仕事を片づけてくれ」
ついにたまりかねてキロスがラグナに注意する。
 「わかってるよ。せっかくレインが俺達の愛の結晶を見せに来るってのに、出迎えに行かないとまずいもんな。さ〜て、 ばりばり仕事片づけるぜっ!!」
そういうとラグナはもう机の上の書類に目を通し始めていた。

 「ふう、やーっと仕事が終わったぜ」
車を運転しながらラグナが考えているのは相変わらずレインのこと。
 「2年ぶりだもんな。綺麗になってるんだろうな。そういえば俺とレインの子供ってどんなんだろ?俺に似てるのかな? それともレイン似かな?」
などと完全に単身赴任中に子供が産まれたお父さん気分だ。車を駅の近くの駐車場に止めると後部座席から花束を取り出す。 それはレインの好きな白いバラの花束。ラグナは花束を片手に駅の構内に入っていく。時刻は夜の8時。レインが乗ってくる 予定の列車はあと10分程で到着する。ラグナは改札口の前でレインを待つことにした。

 『間もなく列車が到着します。危険ですので白線の内側におさがりください。』
駅に列車の到着を知らせるアナウンスが流れる。アナウンスが終わって間もなく列車がホームに滑り込んできた。
 『終点のエスタ、エスタです。』
列車のドアが開くと一斉に乗客が降りてきた。
 「おいおい、これじゃレインが何処にいるかわかんねーよっ」
ラグナは必死に改札口に押し寄せる人並みにレインを探すけが見つからない。そのうち人はまばらになりついには誰も来なくなった。
 「おっかし〜な〜?レイン乗ってなかったのかな?」
不思議に思いながらも”次の列車で来るかもしれない”と思い直しラグナはそのまま次の列車を待つことにした。しかし、次の列車の 乗客の中にもレインの姿はない。その次にも、そのまた次にも…そして、ついに最終電車にもレインの姿は無かった。
 「どうしたんだよ、レイン…」
”レインに会いたい”というラグナの気持ちを飲み込んでいくかのように乗客を降ろしおえた最終列車がホームから離れていく。

 「あの…ラグナさん?ですよね…」
駅を後にしようとしたラグナに一人の少女が話しかけてきた。
 「ん、そうだけど、君は?」
 「私…その…レインさんのことで…」
 「なに、レイン?何処だ?レインは何処にいるんだ?」
レインの名を耳にして冷静さを失ったラグナが激しく少女に詰め寄る。
 「い、いえ、レインさんから…これを預かって」
彼女をラグナに一通の封筒を差し出す。
 「レインから……」
少女から封筒を受け取る。封を切って中から数枚の便箋を取り出す。それはレインからの手紙であった。 手紙の字は紛れもなくレイン本人の字。文面からはいつもと変わらぬ明るいレインの様子が読みとれる。 目を閉じると今のウィンヒルの様子がありありと浮かんでくる。のどかな風景、花畑、広場の噴水、 そしてバーでお客の相手をしながら元気に働くレインとその2階で弟スコールの子守をするエルオーネ。
 「レインもエルも元気そうでよかったぜぇ〜」
が、一番最後の便箋だけはちがった。レインの字じゃない…内容に目を通していくうちにラグナは我が目を疑った。 そこに書かれていたのはレインの急死というあまりにもつらい現実。すぐに信じることは出来なかった。 しかし、その便箋の裏側にあった、エルオーネがまだつたない字で書いた手紙を読んで、ラグナはレインの死を信じるしかなかった。

 ラグナおじちゃんへ…

 ラグナおじちゃん、げんきですか?
 エルはとってもげんきです。おとうとのスコールもげんきです。
 でも、レインがげんきがありません。きのうからねむったままです。
 だから、きょうむらのみんながレインをとおくのまちのおっきいびょういん
 につれていってくれるそうです。すこしのあいだレインにあえなくなって
 さみしいけどエルはもうおねえちゃんだからがまんします。
 レインがげんきになってかえってきたらきっとレインとエルとスコール
 の3にんでラグナおじちゃんにあいにいきます。
 じゃあね。

                                  エルオーネ

 失意と悲しみにかられた帰りの車の中、ラグナはレインの名を叫んだ。それは届けたいけどもう届かないレインへの想いと、忘れたいけど 忘れられないレインとの想い出に耐えきれなくなった、ラグナの心の叫びだった。そして、それをかき消したのは急に降り始めた雨が 車のフロントガラスや屋根に当たる雨音だった。


 そよ風に咲き乱れる花が揺らめいている。その中にある小さな十字架が立てられた墓石。そこに刻まれている名前は ”Raine Loire”。
 「よっ、久しぶりだな…」
ここに来たのは17年前のあのとき以来だ。あの日は綺麗な満月の夜だったよな。急に俺に呼び出されてレイン、ちょっと ご機嫌斜めだったっけ。けど、俺が指輪渡したら急に泣きながら俺に抱きついてきてさ…。まだはっきり覚えてるぜ、レインを抱いた感触、 髪からほのかに漂ってきたシャンプーの香り、そしてそのあと体を重ねたときに感じたレインの体温…。
 「そうだ、今度来るときはスコールも連れてくるよ。なにせ、俺達の自慢の息子だからな」
俺はその場にしゃがむと十字架の前に持ってきた花束を手向ける。レインが好きだった白いバラの花束を。
 「すげえんだぜ、スコール。悪い魔女を倒しちまったんだ。おかげで俺もエスタからでれるようになってさ、こうしてレインの 墓参りにもこれたんだ。あっ、俺がエスタからでれなかったってのは話すと長げえんだけどよ……」
あえなかった時間を埋めるように俺は話し続ける。
 「…でさ、スコールのやつかわいい彼女がいるんだぜ。リノアちゃんっていってな、ほら前に話したことあったろ 歌手のジュリア。そのジュリアの子供なんだって。どうだ驚いたろ〜、俺もさ、始めて聞いたときはすっげ〜驚いたんだ〜……ん?」
ふと、それまで向かい風だったそよ風が追い風に変わった。まるでそれが合図だったかのように後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
 「ラグナおじさ〜ん…」
振り向くと、そこには手を振っているエルオーネ。その後ろにはキロスとウォードの姿も見える。
 「お〜、エルか〜」
 「そろそろ帰らなくちゃいけないって〜」
 「ああ、先に行っててくれ。俺はもう少ししたらいくから……」
…そろそろお別れみたいだな。それに、さっきからいろいろレインとのこと思い出すたびに泣いちまいそうなんだ。 だから早く行かなくちゃって思うけど、きっかけがつかめなくて…。あれ?また風向きが変わったのか?知らない間にまた向かい風 になってる。そういや、この辺って結構春先は風向きが変わりやすかったっけ……。そうだ、今度追い風が吹いたら行くことにするよ。 俺には護らなきゃいけないものがあるからさ。エルオーネやスコール、リノアちゃん、スコールの友達にエスタの国民…それにレイン の眠るここも…。不意に俺は背中に風を受けた。風向きが変わったんだ……
 「もういかなくちゃな…」
最後にレインの墓石に立つ十字架にそっと触れた。悲しみで涙があふれそうになった。
 『ラグナ、あなた男でしょっ、泣いちゃだめ!!』
レイン?ははっ、俺やっぱまだレインほど強くなれてねえな…けど、昔ほど弱くもないぜ、ちゃんと笑えるから…笑って別れよう…。
 「じゃあな、レイン。また来るから…」
レインの墓碑に微笑みかけると、それに背を向けて歩き出した。追い風を背に受けて名残惜しさを振り切って 向かう先も一面咲き乱れる花畑。いつしかさっきまで胸の奥にあふれていた悲しみの雨はあがり、目の前に 広がっているような花が咲いていた。


END


どうも、Kallのお蔵入りUP第2弾でラグレです。これは「Loop of Ring」の直後に書き始めたんですが、 ストーリー展開が「Loop〜」とダブりかかったのとオチに困り果ててお蔵にしてました。しかし、ROUAGEの新譜のおかげで バッチリ(?)良いアイディアが出来てこのたびUPしたのはいいけど……どうして俺がラグナさん書くとほのぼの幸せ系に ならないんだ?今回のレインといい「Loop〜」のジュリアといい…次回のラグレまたはラグジュはほのぼの幸せ系に挑戦ですな。