雪夜のワガママ


 真っ暗な夜空から舞い降りてくる白い天使達、いつもはくすんで見えるこの街も、おとぎの国と見間違えそう。
 「綺麗だね、スコール……」
あたしは腕を組んで隣を歩いているスコールにそっと寄り添う。
 「ああ……」
本当はもっとこうしてたいの…でも、明日からスコールはお仕事。今日はお父さんの心遣いで任務を一日早く終わらせてもらって、 たまたま実家に帰っていたあたしとデリングシティで久しぶりのデート…だった。でも、楽しい時間はもう終わろうとしている。 そして明日の朝、スコールはこの街を離れる……

 「雪、もっと降るかな?」
 「さあな…俺は天気予報まではできん」
 「あははっ、それ冗談?スコールにしては上出来☆」
…真面目に答えたんだが?…そう言おうとしたがリノアの無邪気な笑顔を見ていてやめた。その答えはシードとしてのスコール・ レオンハートの答えだ。雪がこれ以上降ってもらっては困る。明日は仕事があるんだ、雪でラグナロクが飛べなくなったら仕事 には確実に遅れる。でも、1人の人間としてのスコール・レオンハートはシードの俺とは全く逆の想いにかられていた。
 『ああ、もしもっと降って雪が積もったら、リノアは何がしたい?』
しかし、その想いを口にすれば雲にリノアの期待を持たせてしまう…そう思った俺はあえてそれを口にはしなかった。そう、明日もし 雪が積もっても俺はリノアの側にいないかもしれないから…

 「そろそろ、帰らなくてもいいのか?」
 「……うん、じゃあ家まで送って…」
そう言いながらスコールの腕にしがみつく手の力をわずかに強める。もっと一緒にいたい、その気持ちがスコールを引き留めよう としてスコールにいろいろイジワルしている。頭ではわかってるんだ。明日からお仕事、家まで送ってなんて迷惑だって……そして、 スコールには悪いけど心のどこかで白い天使にお願いしている。
 『お願い、もっと降って…明日だけでいいからスコールをこの街に閉じこめて…』

 北風で輝くイルミネーションあふれる大通りを通り過ぎると街路樹が立ち並ぶ静かな通りになる。もうすぐリノアの家だ。
 「ねえ…今度はいつあえるかな?」
 「来週にはガーデンで会える」
 「……」
リノアの返辞はない。ただ心配そうに俺の方を見上げている。よくリノアが俺と別れ際に俺を見上げるその瞳を見るたびに、 改めてリノアの愛と優しさを実感する。そして、同時に俺にはそのリノアにどうやって接していいかとまどう。 俺にとってリノアだけが愛しい人だ、だからこそそのリノアに嫌われるのが怖い。もし、リノアに嫌われて彼女を失ったら……。 そう思って、俺はいつもリノアを傷つけないようにしていた。俺はしばらく黙っていたがなんとか、
 「大丈夫だ…そんなに心配そうなカオするな…」
とだけ言った。それは俺が今できる精一杯の答えだった。
 「…うん、わかった。じゃあ、来週ね。あたし、いいこでお留守番してるね」
 「そうか……」
また、会話が止まる。そして、そのまま俺達はリノアの家の前まで来た。

 「今日は楽しかったよ。送ってくれて、ありがと」
 「じゃあな」
軽く手を振って、来た道を帰ろうとするスコール。
 「あっ、ちょっと待って」
あたしはスコールを呼び止めて寒さで凍える両手を取って息を吹きかけてあげる。
 「今からホテルまで帰るんでしょ、これで少しの間は寒くないよ☆」
 「…あ、ああ」
あっ、スコールが喜んでくれた。最後にこれくらいはいいよね。
 「そうそう、お仕事中もちゃんとご飯食べなきゃダメだよ。忙しいからって食べないといざってときに力が出ないぞっ」
な、何言ってるのあたし…あとは「じゃあね」って言うだけだよ…。
 「わかってる…」
 「あと、徹夜はダメだよ。寝不足はお仕事の大敵なんだからね」
ちょ、ちょっと、何してるんだろあたし。これ以上はスコールに悪いよぉ……
 「ああ…無理はしない」
 「それと……」
 「…なあ、もういいか…」
あっ……ついにスコールのほうから……もしかして嫌われちゃったかなぁ…バカだよねあたし……

…やってしまった…つい、いろいろ言われて相手がリノアだというのを忘れていた…リノアからはさっきまでの笑顔は消え去り、 その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 「……ごめんね、無理矢理引き留めちゃって」
 「…いや、別にかまわない気にするな」
いまさらそんなこと言ったところで後の祭りか…。しかし、どうすれば…
 「じゃあね……」
 「あっ、おい…」
俺がとまどっている隙にリノアは家の中に駆け込んでしまった。
 「………」
このまま一週間会えなくなったら…。もう、これしか手はない。そう思った俺はポケットから携帯電話を取り出して メモリーからある番号を呼び出す。
 「ああ、あんたか…・そうだ、俺だ。ところで、頼みがある。…なに?何でも聞いてやる?ふっ、その言葉に二言はないな。 だったら明日の依頼……ああ、そうだ、すまない俺の私用で……心配してくれるのはありがたいが、あとは俺が1人で何とかする、 じゃあな…」

 お腹が減って目が覚めた…壁に掛けてある時計を見るともうすぐお昼の12時。
 「このまま餓死しちゃおうかな……」
と、あたしの携帯電話に着信が…あれ?でも、この着信音は……
 「もしもし…」
 「リノアか?俺だ」
 「…スコール?」
どうして?スコールは今頃ラグナロクでお仕事に……
 「仕事が明後日に延期になった。だから今日と明日はオフだ。ところで今から会えるか?」
 「えっ?!うん。今すぐ行くよ。何処にいるの?」
 「…外、見ろよ…」
外?カーテンに手を掛けて一気に引く…
 「きゃっ、まぶしいっ!!」
目に飛び込んできたのは辺り一面の銀世界。そして……


 「おい、早くしないと置いて行くぞ」
 「あっ!!ちょっとまってぇ〜って…お〜っととっっと…きゃっ、いった〜い」
慌てて家から飛び出してきたリノアは凍っていた玄関の階段でバランスをくずして尻餅をついた。
 「おい、大丈夫か?慌てて飛び出すから転ぶんだぞ」
スコールがそれを見てあきれ顔で注意する。
 「む〜、早くしろっていったのスコールの方じゃない!!」
ほっぺたを膨らまして怒るリノア。
 「…わるかったな。立てるか?」
 「うん…ありがと」
スコールの差し出した手に掴まって立ち上がるリノア。

 そんな幸せそうな二人を祝福するかのように雪は静かに降り続いていた。


END


 ま〜みむ〜めも〜byセルフィ@バイ●ンマン(壊)…いきなりなんだ?と思われた方すいません、Kallです。 待望のスコリノ通算8作目の季節物、冬の新作です。あいかわらずのラブラブな(死語)スコリノです。これでみなさんの 寒さを少しでも和らげていただければこれ幸いです。その代わりに僕はこたつにたよる一方ですが(涙) ところで、途中でスコールが電話を掛けて仕事を延期させた相手ですが…これはもちろんスコールの親父さんです (なに?そんなの一発でわかった?これは失礼いたしました)。さて、恒例の”イン●ロドン”ならぬ”元ネタドン” のコーナー(誰もコーナーにしてくれとはいってないだろう<自分)ですがペニシリンのギタリスト千聖のソロの曲で 「Falling over you」と言う曲です。