a little・・・・


 「さてと…今日の仕事は…」
 学食の窓際、朝日の良く当たる席に座って、片手で携帯端末のキーを叩きながら朝食のサンドイッチをほおばる…これが彼の朝の日課に なっている。端末の画面には分刻みともいえるような過密スケジュール、しかし、彼はそれに驚くこともなく淡々と真剣な表情でそれを目 で追っていく。もう少しで読み終わる…というときに「おハロー」と彼と端末の画面の間に顔を割り込ませる1人の少女。
 「…おい、リノアちょっとどいて…」
スケジュールの確認をおわらせたい彼のその少女、リノアに対する抗議は彼女の声によってかきけされた。
 「お・ハ・ロぉ!!、ほらスコールも…」
 「…おはよう…」
リノアにせかされて、彼ことスコールも小さな声で挨拶を返す。が、それをリノアが許してくれるわけがない。
 「こらこら、朝から元気がないですよスコールくん…」
リノアは学園長のものまねでスコールに注意する。しかし、スコールにはそんなリノアの相手をしている気分ではない。 そこで、いつもの謝罪の言葉ですまそうとしたのだが…
 「…悪かったな『悪かったな』…」
それは見事にリノアに見抜かれていて、全く同じタイミングでリノアに言われてみごとにハモってしまった。 さすがに、こうなると気が抜けて端末を見る気力もうせる。と同時にスコールの顔に笑顔が戻る。
 「あっ、やっと笑った。もう、朝からあんなブアイソな顔してちゃだめだよ」
 「…わかった…これからは気を付ける……」
そう言いながらスコールはテーブルの隅っこで冷めかけているコーヒーにやっと手をかけた。 と、いつの間にかリノアがいない…が、すぐにリノアの声でその居場所は特定できた。
 「おばちゃ〜ん、スコールといっしょでコーヒーとサンドイッチ、あっ、あとサラダも追加っ!!」
カウンターで学食のおばちゃんに笑顔で注文をしているリノア。そして、そんな彼女の姿を見るのもスコールの日課の一つだった。

 「ねぇ、ところでさ…スコールなんか気付かない?」
朝食を食べ終えたリノアが唐突な質問をスコールに投げつけた。…気付かないと言われても、必死に思考回路を総動員して考える スコール。だが『俺やリノアの誕生日じゃない』とか、『ガーデンの中でも何も変わった事なんてなかった』とか、考えてるよう では無理な話だ。リノアが気付いて欲しいのはもっとちょっとしたことなのだ。結局、わからなかったスコールはただただ困惑して 首を傾げるしか出来なかった。それを見かねたリノアがスコールにヒントを出す。
 「ほらほら、ねぇ?なんか気がつかない?…む〜、ニブイなぁ…じゃあヒント!!あたしをよく見て」
それこそわからない…・そう言いたいのをガマンしてスコールは穴があくかと思うほど正面に座っているリノアをじっと見つめる。 しかし、何に気付けというのだろうか?服装も髪型も昨日となんら代わり映えしないように見える…かといって、なにか 言わないとリノアの機嫌を損ねかねない…そのうち慣れないことに使ってスコールの思考回路が混乱したのか女の子、 特にリノアぐらいの年頃には言うべきでない答えをはじき出してしまった。
 「……あんた、最近ちょっと太ったか?…」
 「ほへ……」
一瞬、二人の周りの時が止まった…その次の瞬間、リノアの笑顔はひきつり、その数秒後にはふくれっ面に変わっていた。そして、
 「もう、スコールの馬鹿っ!!大キライっ!!」
とだけ言い残すとリノアはさっさと学食から出ていってしまった。残されたのはリノアが食べた朝食の皿と二人分の伝票だった…。

 部屋に入るなりベッドに思いっきりダイビング、昔からむしゃくしゃしたときにリノアがやるストレス解消法の一つだ。 そのあとは仰向けになって手元にあった枕をぎゅっと抱きしめる。
 「もう…太っただなんてひどいよ〜。その上これにも気付いてくれないし…」
と、リノアは自慢の黒髪にその長い指をいれて掻き上げる。そう、リノアが気付いて欲しかったのは髪型のこと。 確かに一目見て気付くほどバッサリ切った、というのではないが昨日、バラムで今一番人気のある美容室で髪を切ってもらって、 ほんのちょっとではあるが髪型を変えたのだった。
 「確かに、イメチェンって程にはなってないわよ。でも、そのほんのちょっとした変化に敏感に気付いて欲しいのよね〜…… だいたい、髪は女の命なんだぞっ、それを切るのにどんなに勇気をふりしぼったか…っていばれるほどふりしぼってないよね…」
独り言で文句を言っていたのが怒りの対象であるスコールがいないのもあってか、次第に冷静になってくる。それしたがいに 文句は自分に対する反省に変わっていく。
 「…そうだよね〜、スコールどんなにしんどくても、あたしと話すときはちゃんと笑顔で聞いてくれてるのよね。それだけでも たいへんなのに、そのうえちょっとした変化に気付いてっていうほうが無理だよね……もとから結構そういうところにはニブイし……」
どうしよう?…あのときはつい感情にまかせてスコールに向かって『大キライ』だなんて心にもないことを。猛反省モードになって 落ち込むリノア。しかし、ここは生来ものごとをポジティブに考える性格のリノア。すぐに思い直していろいろ仲直りのきっかけを つかむ手段を考える。
 「…う〜ん、どうしようかな?手紙はスコール読んでる暇ないし、電話はお仕事の邪魔しちゃいそうだし、第一お仕事中は携帯電話 の電源切っちゃってるし…あっ、そうだっ!!」
いきなりベッドから飛び起きると、リノアは部屋の机の上にあるノートパソコンの電源を入れてメールソフトを起動させる。 そう、リノアが思いついた手段は電子メール。これなら電話のようにスコールの仕事の邪魔をしないですむし、仕事でよく 携帯端末を使っているスコールなら届いたメールを読まないなんてことはまずありえない。
 「さてと…なんて書こうかな?」
いざメールを書こうとして気付いたのだが何を書こうか思いつかない。
 「…まあ、いいやとりあえず…」


 スコールへ☆

 もしかしてまだ怒ってる?さっきはごめんねm(_ _)m
 ところで、お昼いっしょに食べようよ。食堂で待ってるね☆

                          リノアちゃんより☆


 「……これ以上書くことないや…」
結局たった2行のメールを送信する。
 「よしっ、これでちょこっとだけど仲直りに前進かな?そうだ、おいでアンジェロっ!!お散歩行こっ!」
少し気が楽になったのかリノアは鼻歌を歌いながらアンジェロを連れて部屋をあとにした。

 『未開封のメールが一件あります。』
仕事の合間の休憩にと端末のメールソフトを起動すると、例のリノアからのメールが表示された。
 「……昼に食堂か…」
携帯端末の隅っこに表示された時計は11時を示していた。さて、どうするものか…仕事はいちおう一段落しているので時間はあるが、 今朝のこともあってスコールにはどうもリノアと顔をあわせづらい。それは、リノアに「大キライ」と言われたのもあるが、 自分がつい言ってしまったあの言葉の過ちを気に病んでいたからだ。あの直後、食堂で呆然としていたスコールの所に偶然あらわれた キスティスとシュウに事の顛末を話すと、『なんて事言うのスコール…』だの『リノアが可哀想』だの好き勝手言われ、とどめに 通りすがりのセルフィに『いいんちょ〜さいて〜』とまでののしられ、もし今度リノアに会ったらなんて話していいのかわから なくなってしまっていた。しかし、しばらく悩んだ末、
 「……でも、行かないともっとリノアを傷つけそうだよな…」
と、食堂に行くことを決心したときにはすでに時計はお昼を示していた。

 「あっ、スコールこっちだよ〜!!」
朝座っていたのと同じ席でリノアが手を振っている。
 「…すまない、ちょっと仕事で使う本を図書室で探してたんだ」
そう言いながらリノアの正面の席に座るスコール。
 「あ、いいのいいの、あたしが無理に誘ったんだから?で、本見つかったの?」
 「いや、あんたと約束があったから図書委員に頼んで探してもらってる」
 「そう…で、なんの本探してたの?」
 「セントラ遺跡の古代文字の辞書だ。今日中に書き上げなきゃいけないセントラ遺跡の調査レポートで使うんだ」
 「ふ〜ん……」
会話がとぎれる……まだ両方とも朝のことを引きずっているせいだ…しかし、こういうときに先に口を開く方は決まっている。
 「あのね、スコール。朝はごめんね。『大キライ』なんていっちゃって…」
 「…気にしてないよ…それに本気で俺のこと『嫌い』って言ったんじゃないのはわかってる…つもりだ…」
 「えっ?!」
スコールの事だから真剣に受け止めてすっごく気にしてると思っていたのに…というリノアの予想はみごとに良い意味で裏切られた。
 「だって、あんたあのとき『キライ』ってカタカナで言っただろ…本当に『嫌い』なら『キライ』なんて言わないん…らしいから…その…」
珍しくスコールの口からでた気の利いた優しい言葉だった。それだけでもリノアに今朝の出来事を忘れさせるのには十分だったが、さらにスコールは話を続ける。
 「それに、その…あんたがもし本当に俺のこと嫌いでも俺はその…あんたのこと大切だし…ずっとそばで守るって言ったし…」
照れくさそうに頭をかきながら遠回しな言葉を並べるスコール。
 「…そう言うときはもっと簡単な言葉で素直に伝えるんだよ…」
 「そうなのか?、じゃあ……それでも、俺はあんたのことが好きだ…」
 「あたしもスコールのこと…」
と、その瞬間リノアの言葉を遮ったのは校内放送のニーダの声だった。
 『スコール、ちょっと来てくれ。今後のガーデンの進路の相談がしたいんだ。』
 「わるい…リノアじゃあな」
それだけ言い残すとスコールは席を立ってさっさと食堂を出ていってしまった。
 「…言いそびれちゃった…」
あたしもちゃんと好きだよって言ってあげようと思ったのに…チャンスを逃してぼーっとしているところに、 図書委員の三つ編みちゃんが現れた。
 「あれ?リノアさん、スコールさんは…?」
 「ん?スコールならさっきニーダに呼ばれてブリッジに行ったよ」
 「そうですか…せっかくお探しの本持ってきたのに…」
と三つ編みちゃんは両手で胸に抱えている分厚い本を見る。
 「ああ、それ?スコールが探してたセントラの古代文字の辞書って?」
 「え、ええ、そうですよ。書庫のすっごい奥の方に放り込まれてて、やっと見つけたんです」
 「ふ〜ん…そうだ、あたしがスコールに届けておこうか?あなたも忙しいでしょう?」
 「えっ、そうですか?じゃあ、お願いしますね」
三つ編みちゃんはリノアにその辞書を手渡すと。お辞儀をして食堂を出ていった。 リノアは受け取った辞書をぺらぺらめくる。セントラ文字の部分は知識のないリノアが見てもはっきり 言って何にもわからない。わかるのは普通に使っている文字で訳が書いてある部分だけ……と、あるページで リノアの目が止まる、それと同時にある考えが閃いた。さっき伝えれなかったことをスコールに伝える考えが……

 スコールが自室の机で調査資料と辞書のにらめっこを初めて4時間、ふと窓の外を見ると日は傾きかけている。 もともと、こういう文章作成がそれほど得意ではないスコールは何度も書き直しながら必死に報告書を作成していた。 しかし、長時間の作業でかなり精神的にまいってきていた。
 「…一休みするか……っと…」
椅子から立ち上がろうとして軽い目眩に襲われて足下がふらついた。と、その拍子に体が机にあたって辞書が床に落ちた。 スコールが辞書を拾おうと手を伸ばす…
 「…・ん?これは?……」
落ちたときに偶然開かれたページにはセントラの古代文字の単語が一つとその訳、そして数時間前スコールに辞書を届けに来た 人物の文字で書かれた落書きが…

 翌朝、学食の例の席にはスコールが座っていた。ただし、今日はテーブルの上に携帯端末も朝食も置かれていない。 かわりにあのセントラの古代文字の辞書が置かれていた。そして、あとから来たのはやはりリノア。
 「おハロー、スコール。あれ?今日はお仕事ないの?」
 「ああ、今日はオフだ」
 「やったー!!じゃあさ、デートしようデート」
 「別にいいけど…それよりあんた…辞書に落書きしちゃだめだろ…」
 「…・ありゃ?見ちゃった?」
と、確信犯的な笑顔を見せるリノアにスコールが笑顔でおもむろに辞書を開く。そこには…

 「スコールさんっ!!リノアさんっ!!」
ブリッジにすごい剣幕で怒鳴り込んできたのは図書委員の三つ編みちゃん。
 「ど、どうしたの〜、スコールとリノアならバラムの街にデートに行っちゃったよ」
たまたまその場に居合わせたセルフィが全員を代表して答える。
 「これみてくださいよっ!!」
 「どれどれ〜……」

Love:名詞、恋…………
     ……………
     ……………

 『スコールのこと大好きだよ…リノア』
 『俺もリノアのこと大好きだよ…スコール』


 スコールとリノア…ちょこっとずつだけどその仲は進展中☆


END


 「ほんのちょこっとなんだけど〜♪」どうもKallです。ついについにやっても〜たぁ〜!! (超絶核爆)プッチモニスコリノ変換!!超あまあまスコリノ!!ちなみにスコリノ9作目です。 あうぅ…これ以上無駄なあとがき書くことができないです!!あえて言うことっていえば、 どうでもいいことですけど最後のセントラ古代文字にしたLoveはもちろん英語で”愛してる”、 当初ドイツ語で”Liebe”にしようかとも考えたんですがわかりやすほうがいいと思いまし て英語にしました(マジでどうでもいいな)