SEED試験狂想曲


 その日、バラムガーデン二階の教室はどこも不気味なほど静まり返っていた。平日の午前8時、いつもなら廊下や教室では 「おはよ〜」とか「昨日のTV見た〜?」とか、ガーデン生達のにぎやかな会話が交わされているのだが、そんな様子は何処にも 見受けられない。それどころか、みんな無心に教室の自分の席で必死に本を読み、学習パネルの画面を見つめ、 ノートを取ったルーズリーフを綴じたファイルを読み返している。その様子から伺えることは一つ、何かのテスト対策、 最後のツメといったところだろう。しかし、いつもの定期テストならたいていの生徒はこれほど必死にはならない。 よっぽどでないかぎり普通に授業を受けていれば、そこそこの成績は簡単に取れるからだ。では、なぜ今回はこれほど みんながみんな必死になっているのか?それは今回のテストが定期テストとは難易度、試験範囲、そして重要度が比較に できないほど違うからだ。『SEED試験』…バラムガーデンの誇るエリート傭兵部隊であるSEEDになるためには 必ず受けなければいけないこの試験。そして、今日はその一日目の筆記試験である。もちろん、これで不合格だと明日、 二日目の実地試験は受けれないのだが……
 「あ〜あ、け〜っきょくあんまり勉強できてないや…」
教室の一番後ろの列のさらに一番左の席、右手でボールペンを器用に回しながらぼーっと学習パネルの画面を見つめるアーヴァイン。
 「だいたい、なんでこんな実戦で役に立たない知識を覚えなきゃいけないんだよ〜。それもこんなに沢山… 女の子の携帯の番号なら一発で覚えられるんだけどなぁ…」
理不尽なほど広い試験の範囲に思わず愚痴ってしまう。が、アーヴァインの愚痴もあながち間違ってはいない。 実際、筆記試験の内容は覚えて無くてもSEEDの任務ではほとんど必要無いことばかりだった。
 「ま、愚痴っててもしょうがないっか〜、それよりも勉強勉強。え〜と、なになに………」
とにかく、気分を入れ替えて少しでもテストに役立てようと学習パネルの問題に取り組む。
 「え〜と、こういう場合は……1かなそれとも2?あっ、4かもなぁ…」
 「おい、その答えは3だろ」
 「えっ?あっ、誰だよ〜僕が考えてたのに〜。答え先に言うなよ〜」
先に答えを言われたことにむっとして、声のしたほうをアーヴァインが振り返る。そこに立っていたのはサイファーだった。
 「なんだぁ、サイファーじゃ〜ん。ところですごいね〜、よくこんな難しい問題わかったね〜」
 「ふん、そんな問題の何処が難しいんだ?そんなんじゃ、お前は筆記で落ちるな」
 「な、なんだよ〜、そういう君はどうなんだ〜い?」
 「ま、95は固いな」
そういいながらサイファーはアーヴァインと通路を挟んで右隣の自分の席にどっかと座って、机の上に足を投げ出す。
 「へ〜、ずいぶん余裕だね〜」
 「当たり前だ、俺はお前と違って”成績優秀”だからな」
 「?じゃあ、なんでシードになってない…あっ!!そういやセルフィやゼルから聞いたことあるよ。前のSeeD試験の時に君が 班長の独断で持ち場を離れて落とされたって。あと、それ以前でも毎回筆記は受かるけど実地試験で命令違反して落ちたって シュウが言って…」
 「んだとぉっ!!!」
怒鳴り声と同時にアーヴァインの方を振り向いてドンッと机を拳で叩くサイファー。その声と机を叩いた音の大きさに、一瞬にして 教室中の生徒の視線がサイファーに向けられる。
 「何見てんだてめえらっ!!」
サイファーが立ち上がって一喝して睨み付けると、生徒達はそそくさと視線を本や学習パネルに戻す。
 「で、ほんとのところはどうなんだい?やっぱり君が全面的に悪かったの?」
 「あ〜なんだと〜、まったく、どいつもこいつも……いいか、あれは命令違反なんかじゃねぇ、試験官のやつらがいっつも 俺の性に合わない持ち場をあてがうからだ。それに、持ち場を離れたのだってスコールやゼルも一緒だったのに俺一人の責任 にされたんだぞ。所詮、ガーデン教師の連中には俺の実力って物がわかってねえんだよ…」
 「所詮ガーデン教師には俺の実力がどうだって?サイファー・アルマシー君」
突然、二人に聞き覚えのある女性の声がサイファーの言い訳話を遮った。
 「ちっ…あんたか…」
 「あっ、キスティ〜☆どうしたの〜?」
 「どうしたのじゃないわよ、お二人さん。もうテスト始めるんだけどあなた達だけよ、まだ準備してないの」
 「え?!」
ふと、アーヴァインが教室を見わたすとみんなさっさと学習パネルの電源を落とし、本やノートは鞄に入れたりまとめたりして 廊下に運び出してしまっている。
 「ほら、みんなあなた達を待ってるのよ。さっさと準備してっ!」
 「あっ、今すぐやるよぉ〜っ♪」
アーヴァインはそそくさと荷物をまとめて廊下に出しに行く。
 「ほら、サイファーもアーヴァインを見習って早くしてちょうだいっ!!」
 「へいへい…ったく、そんなヒステリックに怒ってるとしわが増えるぜ」
 「サイファーあなた…今ここで失格になりたい?」
 「ちっ…冗談だよ冗談。ま、あんたが試験官なら今年は実地試験でちっとはましな役目をあてがってくれそうだしな。 そのへんは頼むぜ、キスティス先生」
 「ふう…わかったから早く片づけなさい」
ようやくサイファーも荷物を運び出す。それを見届けるとキスティスは教室の前にある教師用の机のところに戻る。 心に大きな心配を抱えながら…
 「はあー…まったく、あの二人、本当に大丈夫かしら?」

 翌日の早朝、さっそく昨日の筆記試験の結果が通知された。そして、昨日のキスティスの心配をよそにアーヴァイン、 サイファー共に無事に筆記試験を突破していた。
 「……さて、みごと筆記試験をパスしたみなさんは今日の午後から実地試験があります。それまで各自部屋で待機していてください。 以上で昨日の試験結果と今日の予定についての説明は終わりますが、何か質問は?ありませんね。それでは昼からの実地試験で 会いましょう」
 それだけ言うとキスティスはいつものように最後に笑顔で生徒全員に微笑み掛けてから、教室を後にした。 その直後、それまで神妙な面もちで話を聞いていたガーデン生達の表情が筆記試験をパスして喜ぶ者と、惜しくも落ちて落胆する者の 二つに別れる。それはアーヴァインも例外ではなく笑顔で隣の席のサイファーに話しかけた。
 「やったね〜サイファー、筆記突破だよ〜♪…ってあんま嬉しそうな顔してないね〜?」
見るとサイファーはにこりともせず黙ったまま窓の外を見つめていた。
 「あ?、あのな筆記だけ受かったってまだSeeDに慣れるって決まった訳じゃないんだ。俺はお前らみたいなガキじゃないからな。 喜ぶのは実地試験受かって本当にSeeDに慣れたときだ。ま、筆記受かってあんだけバカ騒ぎしてる連中じゃ実力はたかが 知れてるかもしれないがな」
と、教室の前の方で騒いでいる他の生徒達に一瞬ちらっと目線を向ける。
 「なははは…サイファーって結構手厳しいねぇ〜」
 「ふん、事実を言ったまでだ。おい、それよりアーヴァイン。お前は今回の実地試験、何処だと思う?」
 「えっ?う〜ん…・そういや何処だろうね?最近はティンバーのレジスタンスもおとなしいし、ガルバディアは リノアのパパが実権を握ってからは平和的な態度になってるからねぇ。それにエスタは相変わらず……」
 「スコールの親父が大統領でのんきにやってるんだろ…ちっ、どこにもSeeDやガーデンが介入する仕事になりそうな争いや 紛争の火種もありゃしねぇ」
 「おいおい、そのほうがいいじゃない平和で」
 「わ〜ってるよ、となるとおそらくは…セントラかトラビアの辺境でモンスター相手の殲滅作戦だな」
 「だろうね」
 「まあ、いいか。少々物足りない気もするがそのぶん楽にすみそうだな。それにモンスター相手ならどんなやつが班員になっても 俺の足を引っ張るってことはまずないだろうからな」
 「えっ?」
 「じゃあな、俺は部屋に帰らせてもらうぜ」
それだけ言い残して、サイファーはさっさと教室を後にしていった。その後ろ姿を見ながら、アーヴァインはさっきの サイファーの言葉に彼の本心を垣間見た気がした。
 「な〜んだ、サイファー、ちゃんと他のみんなの実力認めてるんじゃん」

 午後、実地試験に参加するメンバーが一階、案内板の前に集められた。その数約20数人、他の生徒が全員ガーデンの制服姿 のなかアーヴァインとサイファーはいつもの格好だ。そして、今から実地試験に向かうという張りつめた雰囲気のせいで彼らの間 に会話はない。そこに、試験官のキスティス、そして学園長が現れてさらに厳粛になる。
 「おやおや、みなさんそんなに緊張しないでください。そんなに緊張していると実力が発揮できませんよ〜。いいですか、 実戦はですね……」
それから数分、学園長の話で生徒達の緊張も少しずつほぐれてきたときだった。ブリッジからの館内放送でスコールの声が聞こえてきた。
 『学園長、至急ブリッジまで来てください。』
 「おや?どうしたんでしょうね?スコールくんからお呼びがかかるとは。仕方ないですね、お話はこれくらいということで、 あとはキスティス先生から試験の内容を聞いてください。それではみなさん頑張ってくださいね」
それだけ言い残すと学園長はさっさとその場を後にしていった。
 「さて、ではまずは班分けを発表します。A班は……」
次々と名前が呼ばれていく。が、なかなかアーヴァインとサイファーの名前は呼ばれない…そして、ついに呼ばれてないのは 二人だけになった。
 「……そして最後の班はサイファーとアーヴァイン」
 「ええっ?僕らだけ二人ぃ?」
 「そうよ、人数の都合上どうしても三人にできなかったの。それにあなた達なら二人でも十分でしょう?残念ながら不満でも 変更はできないわよ」
アーヴァインの質問にキスティスは書類を見ながら冷静に答える。
 「ふん、俺は別にかまわねえぜ」
 「あなたは?アーヴァイン」
 「う〜ん、サイファーがOKって言ってるし、僕もいいよ〜」
 「よろしい。では今回の試験内容を発表します。試験はセントラ大陸でのモンスター殲滅作戦で……」
二人の返辞にキスティスは笑顔で答えたがmすぐに真剣な表情に戻って試験内容の説明を続ける。
 「………という手順です。もっと詳しい話は移動中の戦闘艇のなかで各班の担当教官から聞いてください。それでは 駐車場にバラム港行きの車が待機しています。各班最終確認が済み次第、出発……」
 「ちょっと待て、試験内容の変更だ」
いつの間にか現れたスコールの突然の発言で少なからず生徒達の間に動揺が走る。
 「スコール?これはどういうこと?」
さすがのキスティスも慌ててスコールの元に駆け寄った。
 「さっき、緊急の仕事の依頼が入った。で、学園長やみんなと話し合った結果、重大性と緊急性を考えてこの 依頼を今回の試験として採用することにした」
と、スコールは手に持っていた即席の資料をキスティスに渡す。
 「緊急?それはいったい………これは?!」
資料に目を通したキスティスの表情が凍り付き、自然と話し声も小声になる。
 「確かに緊急ね…でも、これは全員正式なSeeDを派遣した方が…」
 「それができればとっくにしている。残念ながら今、手が空いているのSeeDの人数が足りないんだ。とりあえず、 ゼルとセルフィに連絡を取って呼び戻したが…それでもな…。そうなると、SeeDでないとはいえ戦力的にSeeDに 匹敵する候補生の力が必要になる」
 「…そうね、わかったわ。みなさん、聞いたとうり試験内容を変更します。詳しくはスコールから説明があるわ」
 「まずは、試験をいきなり変更してしまってすまない。が、この依頼はどうしても緊急性を要すると思い……」
 「ふん、無駄な前置きはいい、早く試験内容を説明しろスコール」
スコールの前置きをサイファーが遮った。
 「そうだな、では単刀直入に言おう。試験内容は人質の救出とテロリストの逮捕もしくは殲滅、場所はデリングシティのホテル」
 「ひゅ〜、ま〜た、えらくモンスター殲滅とは難易度が桁の違う任務だね」
 「アーヴァインちゃちゃを入れないのっ」
 「は〜いっ」
アーヴァインとキスティスのやりとりををよそにスコールは書類を見ながら説明を続ける。
 「依頼を受けたのは13:00。ガルバディアの政府から緊急回線で依頼があった。人質になっているのは ガルバディア政府高官数人とホテルの宿泊客数十人、テロリストの正体はおそらくティンバー独立を唱えるの 過激派ゲリラの一味数十人」
 「ほう……で、人質取ってるからにはテロリスト側にも要求があるんだろ?」
 「ああ、48時間以内にガルバディア軍大佐のフューリー・カーウェイ氏の解任と、現政権を解体しての新政権の 設立によるティンバーの独立、それに身代金百億ギルだ」
 「それに、要件が聞き入れられないときはホテルを爆破して人質もろとも死ぬと言ってるそうよ。かといってそんな 無茶な要求は飲めるわけがない。そこで、ガーデンに依頼が舞い込んできたということらしいわ」
スコールの説明にキスティスが補足を付け加える。
 「で、本来なら全員SeeDを派遣したいところだけど今、手の開いているSeeDの人数がたりないのよ」
 「な〜るほど、それで優秀な僕らを実地試験も兼ねて参加させようってわけだ」
 「そのへんは、どう考えてくれてもいい。ただ、この任務には多くの人の命がかかっている。そのうえ、時間的にも一刻の 猶予もないし、もちろん失敗も許されない。もし参加したくない者が居れば言ってくれ。今回に限り参加しなかったからといって 試験を失格にもしないし、後日改めて別の実地試験を行うことは学園長にも了解を取っている」
かなりの事の重大さに、その場に集まった生徒達の大半は顔を見合わせたり、困惑して黙って考え込んでしまった。そんななか、 その様子を見かねたサイファーが口火を切った。
 「まったく、どいつもこいつも…おい、スコール。他の連中はどうだか知らんが、俺は行くぞ。モンスターよりも テロリスト相手の方が面白そうだしな」
 「おいおい〜、誰が行かないって言ったんだ〜い。僕もいくよ〜」
アーヴァインがすぐそれに続く。
 「あん、お前だけか?残りの奴はどうなんだ?まだ迷ってんのか?ふん、だったら行かない方がお前らの身のためだな。 実戦の現場でそんなにぐずぐず考え込んでたら命を落としちまうだろうからな。だがな、これだけは言っておくぞ、SeeDは傭兵だ。 そして、任務だってモンスター相手の戦いばかりじゃないのはわかりきってることだ。それにな…それに、クライアントや 場合によっては他のガーデンや仲間内のSeeDが敵味方になって闘うこともある可能性だって無い訳じゃない……」
仲間内で敵味方に…それはアルティミシアに操られていたときサイファー自身の事だった。
 「サイファー、もうその話は…?!スコール?」 キスティスがサイファーの話を止めようとしたのを片手で遮ったのはスコールだった。
 「…そのとき、例え相手が同じ人間でも、そして仲間でも本気でやり合える覚悟ぐらいもっておくべきだ。 それがいやなら、さっさとSeeDになるのは諦めて田舎にでも帰るんだな。おい、スコール俺は先にラグナロクに行ってるぞ」
それだけ言い残してさっさと、サイファーはラグナロクに向かった。
 「なんだよサイファーのヤツ…」
 「酷い言い方よね…」
サイファーの態度に他の生徒達は口々にサイファーの悪口を言う。それを聞いていたアーヴァインがそこに割り込んだ。
 「…あのさ、みんなちょっといいかな。サイファーきついこと言ってたけどさ、彼だってみんなのこと思って言ったんだと思うよ。 だってさ…」
アーヴァインは今朝のサイファーとの出来事を手短にまとめてみんなに話す。
 「……ってことだからさ、あんまりサイファーのこと怒らないでね。それじゃ僕も行くからね。みんなも、無理にとは言わないけど できれば…」
 「おい、アーヴァイン、お前やっぱり行かないつもりかっ?!」
 「あっ、待ってよ〜今行くよぉ〜!!」
サイファーに呼ばれてアーヴァインはそのあとを追いかけた。

 「も〜、行くって言ってるんだから待ってよ〜」
ラグナロクに乗り込みながらサイファーに文句を言うアーヴァイン。
 「とろいヤツは置いていくことにしてるんだよ。で、スコール達は?」
 「もうすぐ、来るんじゃない?」
 「ったく、時間がないんじゃねーのかよ…ん?…なるほど、遅いと思ったらそういうことか…」
窓から外を見ながらサイファーが笑みを浮かべる。その視線の先にはスコールとキスティス、そして…
 「おい、お前ら、行かないんじゃなかったのか?」
 「誰が行かないって言ったんだよ」
 「そうだぜ〜、俺達だって早くSeeDになりたいんだ」
次々とサイファーに声を掛けてから生徒達はラグナロクに乗り込んでくる。その顔にはさっきまでの迷いは無かった。
 「そうそう、それよりよろしくね、サイファー班長」
 「あん?班長?」
 「そうだ、サイファー、今回の試験お前が班長だ。俺とキスティスは試験の監督や正SeeDの指揮もしなくちゃならんからな。 そちらでの作戦はお前が立てるんだ」
 「スコール…。ふん…面倒な役目ばかり押しつけやがって…よし、全員直ちにガーデンを出発。作戦開始だっ」

 昼過ぎにガーデンを出発してから数時間、スコール達と正SeeD達、そしてSeeD候補生達がデリングシティに辿り着いたのは 夕方だった。そして、他のSeeDと候補生達をラグナロクに待機させスコールはキスティス、サイファー、アーヴァインを連れて ガルバディア軍が作った対策本部に出向いた。
 「よう、やっときたかっ!!」
 「あれっ?ゼル?君、どうしてここにいるの〜」
 「どうしてって、人手が足りないってスコールが言ってたからこうして仕事早めに片づけて駆けつけたんだぜ。 でも、十分いるじゃねえか。スコールにキスティスとアーヴァイン、おまけにサイファーまでいるしよ〜」
アーヴァインの後ろにいる他のメンバーを見渡しながら愚痴る。
 「今なんて言ったチキン野郎、誰がおまけだってぇ?」
 「まあまあ、今はもめてる場合じゃないよ〜」
 「そうよ、で、状況はどうなのゼル?」
キスティスがゼルに現状の説明を求める。
 「おうおう、それよそれ。それがさ〜、結構やばいことになってんだよ」
 「やばい?あの報告よりも状況が悪化しているのか?」
 「詳しくは私が話そう」
奥の部屋のドアが開いて出てきたのはカーウェイ大佐だった。
 「元気そうで何よりだ、スコール君。他のみなさんも久しぶりだね」
 「こちらこそ、お久しぶりです。それよりも大佐…」
 「ああ、現状はこちらが圧倒的に不利だ。テロリスト達の大半はホテルの20階のホールに政府高官を人質にして立てこもってる。 あと他の階にも2,3人ずつだが見回りが居るみたいだ。進入経路になりそうなエレベーター、階段は完全に封鎖されている。 そのうえ、ホテルのセキュリティシステムは奴等が握っていて下手に侵入すればすぐに奴等にばれてしまう」
 「あちゃ〜、完全防備だね」
カーウェイ大佐が示すホテルの図面や資料を見ながらアーヴァインが呟く。
 「どうするのスコール、これじゃ、迂闊に近づけないわよ」
キスティスがスコールに意見を求める。
 「そうだな…下から侵入は今のところは無理だな。だが、上からなら侵入できそうだ」
 「上?そうか、ラグナロクかっ!」
ゼルがそれは名案とばかりに大声を上げた。
 「ああ、ラグナロクで屋上に降りてそこからビルの壁沿いにワイヤーを伝って20階まで降りて窓を叩き割って突入 するというのはどうだ?」
 「う〜ん…ちょっとまって、スコール。その場合だと、他の階にいる一般客の人質の命に危険が及ぶ可能性があるわ」
と、携帯端末に表示されるシュミレーション結果を見ながらキスティスが反論する。
 「…そうか…」
スコールの名案でわき上がっていた空気が一瞬にして冷め、思い空気と沈黙にその場が支配される。
 「あの〜、ところで大佐、ホテルのセキュリティって外部から解除できないんですか?」
その、沈黙を破ったのはアーヴァインだった。
 「それは私たちも試した。が、テロリスト達の妨害にあって解除は不可能だったよ」
 「ふ〜ん、ってことはセキュリティに侵入はできるんだ…じゃあ大丈夫ですよ」
 「どういうことだね?」
 「僕に心当たりが有るんですよ。セキュリティを解除できる人物に。まあ、任せてくださいよ〜」
そこで、今まで黙っていたサイファーが遂に口を開いた。
 「おい、アーヴァインそれは本当だろうな。それができるのならスコールの作戦も役に立つぜ」
 「ん?何か良い案があるのかサイファー?」
 「まあな…いいか、まずメンバーを3つにわけてセキュリティ解除を合図に3カ所から同時に突入をかける。一班は一階から上へ、 もう一班はラグナロクで屋上に降りて上から。そして、最後の一班はさっきスコールが言ったように屋上から20階まで降りて窓から 突入する。これなら20階の人質も他の階も十分カバーできるはずだ」
 「なるほど…みんなどう思う?俺はこの案に賛成だ」
 「いいんじゃないかしら?シュミレーション結果にでも問題は無いみたいだし。私もスコールと一緒でサイファーの案に賛成よ」
 「僕もそれでいいと思うよ〜、ゼルは〜?」
 「ん?いいんじゃないか?それにしても良くそんな名案思いついたなサイファー」
 「ふん、どっかのチキン野郎のトリ頭とはできが違うからな」
 「んだとぉ!?」
 「なんだ?やる気か?丁度良い、準備運動代わりに相手になってやるぞ」
 「おもしれえじゃん、表でろや、サイファー」
ファイティングポーズを構えるゼル、そのゼルにガンブレードを突きつけるサイファー。そこにキスティスが割ってはいる。
 「もう、またなの?いいかげん二人とも止めなさいっ。サイファー、あなたは実地試験中なのよ。それを忘れないでもらいたいわね」
 「や〜い、キスティスに怒られてやんの」
 「ゼルもっ、もう一度試験受け直すっ?!」
 「うっ…さ〜てっ、作戦も決まったことだし俺は準備でも…そんじゃっ…」
キスティスの『試験受け直す』という言葉を聞いてゼルはそそくさと部屋から逃げ出していった。
 「じゃ、僕らも準備しに行くよ。ほら、サイファーもいくよ〜」
アーヴァインに引っ張られてサイファーも部屋を後にした。
 「ふう…じゃあ私たちも行きましょう、スコール」
 「そうだな…では大佐、失礼します」
 「ああ、あとはよろしく頼むよ。SeeD諸君」
返辞の変わりにSeeD式の敬礼をしてスコールとキスティスもアーヴァイン達の後を追った。

 対策本部を後にしてすぐ、ラグナロクの客室に待機していた正SeeDと候補生を集めて、作戦内容について詳しい打ち合わせが 行われた。その結果、SeeDとSeeD候補生は同数ずつ半々に分けられて上と下からの突入班に、壁沿いにワイヤーで20階に 降下しての突入班はサイファー、アーヴァイン、スコール、ゼル、キスティスの5人で行うこととなった。
 「よし…各自最終確認の後、持ち場にて合図があるまで待機。以上だ」
サイファーの説明が終わると他のSeeDと候補生達は即座に持ち場に別れて行った。
 「これで、あとは突入するだけだな……」
 「ああ、ところでアーヴァイン、さっき言っていたセキュリティの解除のほうは大丈夫だろうな」
 「ん?それなら大丈夫。ラグナロクに帰ってきてすぐ頼んで置いたからもうすぐ、連絡があるはずだよ」
そのとき、いきなりラグナロクに通信が入った。
 「おや〜?噂をすれば影かな〜?」
アーヴァインがパネルを操作して通信をメインモニターに転送する。
 「まみむめも〜!!」
 「せ、セルフィぃ?」
一同の驚きをよそにアーヴァインは一人話を進める。
 「ごめんね〜セフィ〜、急に頼んじゃって〜。で、さっき頼んだものもうできたの〜?」
 「うん、ばっちりだよ〜。これにかかれば侵入できないコンピューターは無しっ。暇だったからついでに自己進化プログラムも 付けといたよ〜」
 「?!おい、アーヴァイン、まさかセルフィに頼んだ物って…」
おそるおそるゼルがアーヴァインに尋ねる。
 「うん、ハッキング用のプログラムとウイルスだよ〜。これさえあれば、セキュリティの解除なんて朝飯前だよっ。 ほんと、ありがとねセフィ〜☆」
 「もう〜、びっくりしたよ〜、スコールから連絡受けて知ってたけど、まさか任務終わってガーデン帰ってきたらいきなりアーヴァインから 連絡あって『ハッキング用のウイルス作って〜』だもん。あっ、でもね、お礼言うならもう一人言って欲しい人がいるんだけどな〜」
 「えっ?誰?」
 「あっ、できればアーヴァインからじゃなくてスコールからのほうがいいんだけどなぁ…」
そう言うことか…といわんばかりにその場にいる全員の視線がスコールに集まる。当の本人も見当が付いているらしく頭を抱えている。
 「OK、ほらスコールだよ〜」
アーヴァインが嫌がるスコールを無理矢理モニターの前に連れてくる。
 「おハロ〜、スコールぅ、あたしもがんばったんだよ〜」
セルフィと代わってモニターに現れたのは予想どうり、リノアだ。
 「わかったよ、よくやったなリノア」
 「う〜、それだけぇ?それよりも、帰ってきたときにハグハグ〜してよ〜。じゃなきゃ、このプログラム消しちゃうよ」
 「な…わかったよ」
 「わ〜い、やったぁ〜☆」
 「…ねえ、お楽しみの所悪いんだけどそろそろ準備が完了したみたいなんだけど…」
 「ああ…そろそろ時間だ」
サイファーは腕時計を見て時間を確認するとアーヴァインの方を見て無言でうなずく。
 「OKっ、セルフィ〜、それじゃ始めちゃってよ〜」
 「よっしゃまかしとき〜。行っけ〜」
次の瞬間、メインモニターに文字の羅列と数式が次々に現れてハッキングが始まった。
 「ラグナロクエンジン始動。ホテルの上空まで移動して待機」
サイファーの命令でラグナロクは離陸してホテルの上空に待機する。その間にも『防壁03〜11まで突破』、 『抗体プログラムランクC3超高速展開を確認直ちにプログラムを書き換えます』、『C3抗体プログラム撃破』、 『防壁12〜18まで突破、セキュリティ解除まであと3ブロック』…セルフィのプログラムは次々とホテルの セキュリティとテロリストが作っていた防壁プログラムをうち破っていく。
 「突入班降下。いくぞっ」
ワイヤーを伝ってホテルの屋上に降りると、すぐにサイファー、スコール、アーヴァイン、ゼル、キスティスの5人は さらにそこからワイヤーを使って壁沿いに20階まで降りていく。そして、ついにセルフィの作ったウイルスを乗せた プログラムが最後の防壁を突破した。『セキュリティ解除完了』と言う文字がアーヴァインが持つ携帯端末に表示される。
 「サイファー、今だっ」
 「行くぞぉ〜っ!!」
サイファーの雄叫びと同時にガシャーンというガラスの割れる音が響き渡る。
 「何だぁ??」
突然の強襲にテロリスト達はまったく対応できていなかった。
 「遅いっ!!」
サイファーとスコールがガンブレードを構えてテロリスト達に突っ込む。それをアーヴァインとキスティスが銃と 魔法で援護する。その隙にゼルが人質を助け出す。
 「おらおらぁ〜っ!!」
 「くらえっ!!」
テロリスト達はサイファーやスコールのガンブレードの斬激とアーヴァインの銃弾で倒されていく。そして…
 「お前で最後だぁっ!!」
サイファーのガンブレードが最後の一人を壁まで吹き飛ばした。
 「よし、これでこの階は無事制圧完了だ。キスティス他の階はどうなってる」
 「ちょっと待ってスコール…。大丈夫、怪我人もなく無事に人質全員の救出に成功したみたい。あと、 ホテルの地下にしかけられていた爆弾もガルバディア軍の特殊班が解体したみたい」
キスティスがアーヴァインから受け取っていた携帯端末を見て各班から上がってくる情報をまとめて答える。
 「ふん…一応まともに動けたようだな、他の連中も」
キスティスの報告を聞きながらサイファーはガンブレードを片づける。
 「ま、今回は君の作戦が良かったからじゃな〜い?」
 「アーヴァイン、お前もか。いっとくが俺を誉めても何も無いぞ」
 「わかってるよ〜、それよりそろそろ帰ろうよ」
 「そうだな…キスティス、全員後のことはガルバディア軍にまかせて 撤退するように伝えろ」
 「わかったわ」
すぐにキスティスが携帯端末で各班にサイファーの命令を伝える。
 「さてと、さっさと帰って飯にしようぜ。俺、腹減ってしかたねえんだ」
 「相変わらずお気楽だな、チキン野郎」
 「けっ、お前やアーヴァイン見たいにSeeD候補生でもなけりゃ実地試験でもないからな」
 「あら?ゼル、もうそんなこと言ってられないわよ」
 「えっ?じゃあ…」
キスティスの言葉に目を輝かせるアーヴァイン。
 「ふふっ、それは秘密。結果はガーデンに帰って学園長から聞きなさい」
 「だとよ…さて、帰るぞ。迎えも来たようだしな」
と、サイファーはさっき割った窓の方に向かう。その向こうには、いつの間にかラグナロクが待機していた。

 翌日、SeeD就任パーティーの会場にはいつものメンバーの姿があった。ただ、ちょっと違うのはサイファーと アーヴァインがシードの制服を身につけていること。
 「やったんだもんよ、サイファー」
 「祝サイファー、シード就任。私嬉」
 「ああ、お前らも今度の試験受けて一発で受かれよ」
 「アーヴァインも受かってよかったね〜これでセルフィ〜と一緒に仕事にいくこともあるかもね〜」
 「ありがと〜、リノア。そうだよね〜、SeeDになったらセフィといっしょに…そのときはよろしくね〜☆」
 「そだね〜、そのかわり一緒に仕事行くときにはいろいろおごってもらおっと」
 「ちょ…そりゃないよ〜」
 「あ〜、いいな〜、あたしもシードになろうかな?そしたらスコールともっと一緒にいられるのに〜」
アーヴァインとセルフィのやりとりを見ていたリノアの呟きに焦るスコール。
 「お、おい、何言いだすんだリノアっ?!」
 「あ〜、リノアの爆弾発言〜♪これさっそく明日校内のHPに乗せちゃおっかなぁ?」
 「な、セルフィまで何を。キスティス、なんとか言ってやって……ん?キスティスの姿が見えないが…」
 「あれ?さっきまでその辺にいなかった?」
 「大変よ、今緊急で連絡があってエスタの郊外でモンスターが暴れてるんだって」
 「ふん、ゆっくりパーティーもできんのか…・しかたない行くぞっ!!」
そういいながらサイファーはもうシードの制服の上着を脱いでいた。
 「ええっ、今から行くの〜?」
 「当たり前だろ、俺達はSeeDだ。いつ何時も依頼が来ればすぐに行くもんだ。で、 お前らはどうするんだ行くのか行かないのか?どっちだ?」
 「そんなの決まってるよ。ね〜、みんな」
アーヴァインがその場を代表して最初に答えた。
 「そうそう、食後の運動にもなるしね〜」
 「ふん、ちんたらしてると置いて行くぞ。例えリーダーでもな」
サイファーがちらりとスコールのほうをちらりと見る。それに無言でうなずくスコール。
 「よし、全員30分後にラグナロクに集合だ。いいなっ」
 「了解っ!!」


END


 ども、Kallです。久々に自分のHPに新作UP☆カイルさんからの4000HITリクエストで 『 @”ミッション・インポッシブル”並みのスリル&サスペンスな、SEEDたちのお仕事を書いたもの (暗殺・策略・ハッキングとか…)Aサイファー・アーヴァインのSEED試験もの(パーティは3人なので、 あと1人Kallさんのお好きな人を選んでください。)で書いてたら…なんか結構長いのができちゃった(笑)。 そのうえ、なんとほぼ全員登場☆(というかあと一人ってのがなんか決められなくて、全員出しちゃった・笑) カイルさん、こんなカンジでよろしかったですか〜?