Strangely Real


 うららかな春の土曜日の昼下がり、一般の人なら昼ご飯を食べて思い思いにすごしている時間。俺は相変わらずいつものたいくつなサイン書きとハンコ押しの単純作業を繰り返していた。しかし、春のぽかぽか陽気と昼飯直後の満腹感も手伝ってものの10分と経たないうちに、ハンコを手に持ったまま俺は眠ってしまった。
 
 
 「・・・ナ、ラグナ、起きてラグナ・・・」
誰かに体を揺すられる感覚と俺の名前を呼ぶ女性の声で目が覚めた。
 「うにゃ?・・・・眠いんだから起こすなよエルオーネ」
と、掛け布団に頭からもぐりこむ?あれ?俺、ベッドで眠ってたっけ・・・・まあ、いっか。
 「は?何言ってるのエルオーネもスコールもとっくの昔に起きて、さっさと準備して車で待ってるんだから」
ほへ?エルオーネもスコールも?準備して待ってる・・・何言ってるんだ?・・・と布団から顔を出して、俺は驚いた。
 「れ、レイン?!」
ベッドの脇に立っていたのはレインだった。でも、レインはもう・・・・・
 「やっと、起きたのね〜。も〜、ラグナも早く準備して。今日はみんなでお花見行く約束でしょ」
 「お花見?」
 「えっ?まさか忘れてたの?ラグナが言いだしたんでしょう?今週の日曜は仕事が休みだからお花見行こうって」
仕事が休み?なんだ?どうなってんだこりゃ?と、誰かが階段を駆け上がってくる足音がしたと思ったら、いきなりドアが勢いよく開いて7,8歳ぐらい男の子が駆け込んできた。
 「父さ〜ん、早く行こ〜よ」
 「?!、ス、スコール?」
いつものあいつのような仏頂面ではないし例の傷も無く、まだあどけない無邪気な笑顔だが、その顔、その髪型、その声・・・まちがいねぇ・・・これはスコールだ。
 「はいはい、スコール、お父さんは今起きたからね。準備できたらすぐ行くから車でお姉ちゃんと待ってなさい」
 「は〜い、じゃあ父さん早く準備してね〜」
無邪気な笑顔でそれだけ言い残すとスコールはまたとてとてと掛けだして階段を下りていった。
 「さっ、早く着替えてラグナ。それと、押入からビニールシート探して持ってきて。あたしはお弁当持って先に車で待ってから」
と、言うとスコールに続いてレインもベッドの上に俺の着替えを置いて部屋を出ていった。
 「さて、いったい全体どうしたもんなんだか・・・」
レインが生きてるし、スコールも7,8歳ぐらいだし・・・それにどうやら、エルオーネも一緒にいるみたいだし・・・パジャマから着替えながらいろいろな疑問点を思い浮かべるが、理由はどう考えてもわからない。
 「まあ、いいか・・・そのうちわかんだろ・・・」
こういうときに生まれつきの楽観主義者だと気楽でいいね・・・自分の性格に改めて感謝しながら脱ぎ捨てたパジャマを片手につかんで階段を下りる。そこは見覚えのあるリビング・・・どうやらここは、俺がレインのバーの隣で借りて住んでいた家みたいだ。ただ、俺一人で住んでいたときよりもこぎれいに整理整頓されて窓際には観葉植物や淡い青色のレースのカーテンがかかっていたりしている。
 「さてと・・・・確かレインのやつビニールシート探してこいって言ってたな」
風呂場横のパジャマを洗濯機に放り込むとすぐにリビングにとって返して階段の下にある押入の戸を開ける。
 「うひゃあ・・・いったいどこにあるんだ?」
押入の中を見て驚いた・・・いろいろな物の段ボールやら服がびっちりつまった衣装ケースに紐で束ねてまとめられた古本、あげくがほこりをかぶったアコースティックギターまで・・・まあよくこれだけ詰め込んだなと思うぐらいいろいろな物がぴちっと詰まっている。こんななかからど〜やって探せってんだ・・・・とにかく、手前の物から一つずつ取りだしていく・・・・
 「くそ〜・・・ほんとにこのなかにあるのかよ・・・・?!ん、これかぁ?」
押入の奥も奥、段ボールと押入の奥の壁の隙間に筒状に丸めて押し込められていたビニールシートを引っぱり出した。
 「ふ〜、やっと見つけたぜぇ。さて急がないとな・・・」
ビニールシートを小脇に抱えると押入の戸を閉めて車庫に向かった。
 
 「わ〜い、わ〜い、お花見お花見〜♪」
 「こらっ、スコール騒がないのっ、危ないからじっと座ってなさいっ!!」
 「まあまあ、そんな怒るなよレイン。せっかくの日曜日のお花見なんだ。もっと気楽に行こうぜ」
運転しながら助手席のレインをたしなめる。しかし、スコールってこんなに明るいか?なんか別人の相手してる見たいだぜ。
 「そうよ、スコール。おじちゃん・・じゃないたお父さんの運転の邪魔にならないようにおとなしくしてましょうね」
 「ははっ、無理にお父さんって言わなくていいぞ、エル。いつもみたいにおじちゃんで・・・」
 「ええっ、でも、おじちゃ・・・じゃないや、二人は結婚して正式な夫婦になったんだからさ・・・・」
お〜、エルはいつもどうりだね。ただ、いつも見てるエルよりはかなり若いなあ、どう見ても10代中頃ってとこだな。さっきからたわいもない会話を続けていて何となく状況が飲み込めてきた・・・ど〜やら現実と違って俺はレインと結婚、エルもエスタにさらわれることもなく無事平穏な日々を送ってるようだ。もちろん、スコールもいっしょだが、
 「ねぇねぇ、まだまだ?お花見の場所まだ〜?」
・・・・性格はかなり違うな。でも、もしほんとにこうして一緒に暮らしてたらスコールもこうなってたのかもなぁ・・・・そんなことを思って前を見つめて運転している俺の視界に鮮やかなピンク色の花びらが飛び込んで来た。目的地はもうすぐだ・・・・・
 
 「ほら、ラグナ君、きみも飲みなさい」
と、隣に座っている俺より少し歳をとった男が俺に缶ビールを渡す。俺はその男には見覚えがあった。
 「ど、どうも、カーウェイ大佐・・・」
 「ははっ、まだその癖が抜けんのか君は。お互いすでに軍を退役した身だ、もっと気楽にしたらどうだね」
これもまたスコールと同じだ・・・隣にいるカーウェイ氏は現実で見るカーウェイ氏とはまるで違う。どこからどう見ても優しいおじさんってカンジしかしない。なんでも軍を辞めた今はジュリアの事務所の社長をやってるそうだ。
 「でも、残念ですわね。ジュリアさんお仕事で来れないなんて」
 「いえいえ、こちらこそ。レインさんには私たちのぶんの料理まで用意していただいて」
桜の咲き乱れた大きな公園、そのなかでもひときわ大きな桜の大木の下、いわば花見の特捜席ってヤツだ。う〜ん、しかし、この大木どっかで見た覚えがあるんだけど・・・どこだっけな?ま、それはいいとして、その下に広げたビニールシートの上にはレインが用意した豪華な料理が並んでそれを俺達家族と、カーウェイ氏・・・そして、
 「は〜い、スコールくん、あ〜んして☆」
 「い、いいよ〜、はずかしいよ〜」
スコールに唐揚げを食べさせようとしている少女。彼女こそ、カーウェイ氏とジュリアのお嬢さんのリノアちゃん・・・って彼女の性格もそのまんまかな。しかし、これ夢だよな・・・・にしてはさっきからものに触れる感覚とか有るし、
 「ほら、ラグナくん、早く飲まんとせっかく冷えてるビールが暖まって美味しく無くなるぞ」
 「は、はあ、じゃあ頂きます」
と、缶ビールをひとすすりするとちゃんとビールの味とかもする。ああっ、くそっ・・・考えてもどうにもならねえや。やけになって、一気に缶ビールを傾ける。
 「おおっ、一気にいくかね・・・ははっ、そうこなくてはな。今日は飲めるだけ飲もうじゃないか、なあ、ラグナくん・・・」
そんなカーウェイ氏の言葉をよそに俺はもう次の缶ビールをあおっていた。
 
 「もう、飲み過ぎよ、ラグナ」
 「うぅ、わりいレイン。ちょっと黙っててくれ、気持ち悪い・・・うぷ」
う〜、やけになって調子に乗るんじゃなかったぜ・・・飲み過ぎですっごく気持ちわりい。
 「ちょ、ちょっと大丈夫?そうだ、窓開けて新鮮な空気でも入れようか?」
俺の代わりに車を運転しているレインが助手席側のパワーウインドウのスイッチを入れると同時に少しずつ窓が開いて新鮮な空気が入ってきた。
 「ひゃ〜、涼し〜。悪いなレイン、ホントなら俺が運転して帰るんだったのに」
 「もう、いいわよ。誰だって思いっきり飲みたいときがあるもの」
と、笑顔で俺に微笑みかけるレイン。
 「それに、今日はスコールもエルオーネも家族みんなで出かけれたのがよっぽどうれしかったみたいだし・・・ほら、ラグナ、編集長になってから記事の編集とか校正とかで忙しくて日曜とかも滅多にお休み取れなかったじゃない」
・・・編集長・・・へっ、俺、夢んなかでも出世しちまってんのか。それも一番大事な人や家族ほっぽりだして。
 「・・・ああ、俺も久しぶりに家族で休日過ごせて嬉しかったよ。それにしても、スコールとエルは?ずいぶんおとなしいな・・・あっ、なんだ寝ちまってるのか・・・」
スコールとエルは幸せそうな顔で気持ちよさそうに寝息をたてていた。
 「ん、う〜ん・・・・ラグナおじちゃん・・飲み過ぎぃ・・・・」
 「・・う〜、リノアぁ・・やめろよ〜。いいよぉ・・・自分で食べれるよ〜・・・」
ん?二人とも花見の続きの夢でも見てるのか?夢・・・そういやこれは本当に俺の夢なのか?あっちが夢でこの世界が現実なんじゃないのか・・・・・・と、そのとき誰かが俺の名前を読んだような気がした。
 「ん?なんだ?何か言ったかレイン?」
 「えっ?あたし何も言ってないわよ」
 「へ?・・・ああ、わりい気のせいみたいだ」
 『・・・グナ・・・ラグナおじちゃん・・・』
まただ・・・おじちゃん?もしかしてエルか?・・・慌てて後ろを振り向くけどエルはスコールと一緒に眠ったままだ。
 『ラグナおじちゃん・・起きて・・・まで・・寝てる・・お仕事・・・』
やっぱり、聞こえる・・・・間違いない。これはいつも聞き慣れてるエルの声・・・そうやっぱりこいつは夢なんだ。そう確信した瞬間いきなり目の前の景色がかすむ・・・風景車、スコールとエル・・・そして、レインも。まってくれ、もう少しだけもう少しだけこの世界で・・・・・・・
 
 「・・・待ってくれっ!!・・・」
 「きゃっ・・・もうっ!!ビックリするじゃない。様子見に来たら熟睡してるし、いきなり起きたと思えば大声出すし・・・・。ちょ、ちょっとラグナおじちゃん聞いてるの?」
 俺に悪気が無かったとはいえ驚かされて怒るエルをよそに俺はあたりを見回すす。そこは見慣れた大統領執務室。
 「・・・・やっぱさっきのは夢か・・・」
 「夢?」
 「あっ、いや、気にすんなエル。こっちのことだ。それよりさ、明日の日曜さ、みんなでお花見行こうぜ」
 「えっ?どうしたの急に?」
 「どうしたの?って、ま〜、なんとなく行きたくなったんだよっ♪」
ほんとは何となくなんかじゃないけど、まさか夢で見たから行きたくなったなんてエルに言ったら笑われそうだもんな・・・・。
 「でも、明日も仕事が・・・・・」
 「ん?そんなのパスパスっ!!あっ、そうそう、スコール達もさそわなきゃな〜☆・・・あっ、バラムガーデンのシド学園長?エスタ大統領でスコールの親父のラグナです、どもども〜。ところで、あしたスコールとその仲間を借りたいんだけど、いいっすか〜?えっ?仕事の内容、ん〜とね、俺の警護と花見の相手。じゃ、よろしく〜」
 「あっ、そんな依頼して知らないわよ〜。きっとスコールご機嫌な斜めで来るわね。『シードを花見の相手に使うなっ』って」
 「ま、そんときゃそんときだろ?そうそう、エル、明日は美味しいお弁当作ってくれよ〜♪中身は〜唐揚げに、卵焼きに・・・・っと、こんなことしてる場合じゃねえや」
 「えっ?どうしたの?」
 「決まってんだろ?場所取りだよ場所取り。残りのお弁当の中身はエルに任せるから。そんじゃな」
 「ちょ、ちょっと、場所取りはいいけどあてはあるの?それにそういうのは誰か他の人に任せた方が・・・・」
 「うっ・・・そういわれると・・・ん?まてよ・・・・・?」
俺は自分の思い出したことが正しいかどうか確かめようと執務室を飛び出すとその入り口の上に目をやった。
 「そっか、やっぱそうだよ。大丈夫、俺に心当たりがあるんだ。ま、明日を楽しみにしてな、最高の場所、取っといてやるよっ!!」
へへっ、やっと思い出したぜ。さっき夢で見た桜の大木のあった場所。大統領官邸を飛び出した俺はエアステーションに駆け込むと、ラグナロクに乗り込んでオートパイロットのための音声認識マイクに行き先を告げる。
 「レインの眠る、ウィンヒルの丘へ・・・」


END


 どもども、Kallです。ふい〜、遅くなって申し訳ございませんです〜。キリ番5000ヒットゲットのカイルさんのリクエスト、『ラグナ大統領の昼寝(←タイトルではないですよっ!)仕事中のラグナさんが親子3人(スコール5〜7歳)の幸せな日曜日の夢を見る@うたた寝』ってことですが・・・熟睡してるよラグナさん(爆死)いや〜、しかし今回はキャラがぶっ壊れてます(爆)特に、スコールとカーウェイ氏の壊れぶりはかなりの物かと(^ ^;;しかし、FF8のif(もしも、エルがさらわれず、ラグナが家族と一緒にいてレインが死んでなかったら・・・)の世界としてはいいカンジになったように思いますです。そういう意味でタイトルも「Strangely Real(妙にリアル)」・・と現実と見間違う夢を曖昧に表現してみました。(すべて自己満足かも?@苦笑のち自爆)。