Summer Day’s Memory


 『本日もバラム地方は暑い一日になりそうです〜♪』
 カーラジオから聞こえてくる、夏の盛りの天気予報にはお決まりの言葉。クーラーのおかげで車内は涼しく、 窓を閉め切っているので蝉の声も遠くに聞こえて、今が夏とはとても思えない。だが、外は真夏の直射日光とアスファルトの 照り返しでものすごく暑いのだろう。フロントガラスから見上げる青空と、遠くに見える陽炎、車を止めている コンビニの軒先にはどこかの飼い犬が、人が出居るするたびに店内からもれてくる冷房を求めるかのように 寝ころんでいるのがその良い証拠だ。ところで、俺は何をしているかといえば、さっき『冷たい物でも買ってくるね』 とコンビニの店内に消えていったあいつが帰ってくるのを、こうしてじっと待っているのだが…
 「…ったく、買い出しに一体何分かかってんだ?」
そろそろ我慢も限界…コンビニの中に乗り込んで無理矢理引っぱり出してこようか思った頃、やっと大きな買い物袋を抱えて、 俺の待ち人…リノアが帰ってきた。
 「ごっめ〜ん、待った?」
リノアが助手席側のドアを開けると、そこから一気に外の空気が車内に流れ込んできて夏の暑さに襲われる。 また、遠くに聞こえていた蝉の声もいきなりラジカセのボリュームを間違って上げてしまったように大きくなる。 俺が改めて夏を実感している間に、リノアは手に持っていた買い物袋を俺によこすと、助手席側に乗り込んでドアを閉める。 すると、また車内はまた暑さも蝉の泣き声も縁遠い空間にもどる。
 「『待った?』じゃないだろ。いったい何をそんなに買い込んできたんだ?」
俺はどうみても自分とリノアの二人分以上の物が詰まっていそうな買い物袋の中身を見ようとしたが、その前に俺の手から買い物 袋を取り上げるリノア。見るとすでにシートベルを締めて『早く車を出して』と言わんばかりに俺に笑顔を向けている。 完全にリノアのペース…そう思いつつも、サイドブレーキを降ろすと俺はコンビニの駐車場を後にしていた。思えば、今日は 朝からこの調子だ。久々のオフ、それも一度にまとめて二日。それならと思い、今日はゆっくり自室で過ごす…つもりだった。 しかし朝の6時、まだ寝ていたところをリノアに強襲され『ねぇ、スコール今日オフでしょう?海行こう海〜!』とせがまれた。 まあ、しばらくオフにリノアと出かけていなかったという負い目も会ったので俺は思ってOKしたのだが…
 「えへへ〜、まずはジュースでしょ〜、それにアイスに……」
ふと、リノアが何かごそごそやっているのに気付いて助手席の方を見る。と、リノアの手によって買い物袋の中から次々と 車のダッシュボードの上に買ってきた物が並べられていた。
 「おい、そんなとこ置いてるとアイスなんか溶けるぞ。早くクーラーボックスに入れとけって」
 「いいじゃん、ちょっとぐらい〜。それより、見てみてこれ〜。かき氷〜、宇治金時デラックス白玉付き〜♪」
 「うわっ!!」
いきなりそのかき氷を俺のほっぺたに当てるリノア。冷たさに驚き、一瞬ハンドル操作を誤って危うく対向車線にはみ出しそうになった。
 「おいっ、リノア、運転中に何考えてんだっ!!危ないだ…んぐ?!」
文句を言っている途中に今度はスプーンでそのかき氷を口に放り込まれた。
 「ねえ?美味しい??」
 「…う…まあな…って…あのなぁ…そんなことで…はあ、まあいいか、もう運転の邪魔するなよ」
ここまでくると諦めと呆れで怒る気力も失せる。
 「は〜い、わかった。じゃあ、邪魔にならないようにするから、はい、スコールあ〜んして〜♪」
と、またスプーンにかき氷を一口すくって俺の目の前に差し出す。俺はそのかき氷を食べながら、今日は疲れる一日 になりそうだと勝手に覚悟していた。


 「遅い…」
 夏の海水浴場、パラソルの下、近くに海があって潮風が吹いているがそれでも暑いのに変わりはない。 せっかく、早朝から車を運転して来たのだから早くひと泳ぎしたいところだ。が、さっき一緒に近くの海の家の 更衣室を借りにいったリノアがまだ帰ってこない。
 「まったく、さっきのコンビニのときも運転中もそうだけど、今日はいつもにましてマイペースだなリノアのやつ……まあ、 更衣室が込んでるのかもしれないし、気長に待つか…」
怒る気力は当の昔に消え失せたせいか、珍しくもいくらか楽観的に物を考えれている。俺は、パラソルの下で横になって リノアが来るのを待っていた。と、誰かに自分の名前を呼ばれた様な気がした。気になって起きあがってあたりを見回すと、 さっき一緒に入って更衣室を借りた海の家のほうで麦わら帽子にTシャツと短パン姿のゼルが手を振っている。
 「お〜い、やっぱスコールじゃ〜ん」
何故あいつがこんなところに?不思議に思って俺は起きあがるとゼルのところに駆け寄った。
 「お前、こんなところでなにしてる?」
 「ん?見てわかんねぇ?」
 「…SeeD辞めて海の家の従業員に転職か?」
 「あのな〜そんなわけないだろ〜。この海の家な、俺の母ちゃんの親戚なんだ。で、夏はこうしてときどき手伝いにきてんのよ。 つっても、仕事が忙しい時間帯以外は泳いだりサーフィンしたりして遊んでるけどな〜」
と、自慢げに海の家と自分のことを語るゼル。
 「で、なんで俺が来てるの知ってるんだ?」
 「ん?だって、さっきリノアにあったからな。リノアがいればその側にお前有りだろ」
 「あん?じゃあリノアもう着替えてるのか?」
 「いや、まだいつもの服のまま奥でセルフィやキスティスと西瓜食ってるぜ」
 「なにっ??もしかしてみんな来てるのか?」
 「おう、アーヴァインも来てるぜ〜。確か、今はサーフィンに行ってるハズだ」
 「そうか…とにかくリノアだ。おい、リノアっ!!」
俺は海の家の建物の中に入る。その座敷の一番奥で、水着姿のセルフィとキスティス…そして、まだ着替えていないリノアの3人が ゼルの言うようにテーブルを囲むように座って西瓜を食べながら談笑していた。
 「リノアッ、お前みんなが来ているの知っていたな?!」
 「あちゃ〜、ばれちゃった?」
 「あのな、ばれるばれないというより、見りゃあわかるだろ。みんな来てるなら何故言わなかった? これじゃあガーデンで緊急事態があったら……それに、わざわざ俺達だけ別行動で来なくても良かっただろう?」
 「まあまあ、いいんちょ〜、こんなとこまで来てお小言なんか言わへんでもええやんか〜。それに今日ぐらい、] みんなで楽しゅうやろうや〜」
 「し、しかし……」
 「そうよ〜、今日ぐらいいいじゃないの。それに、あなたみんなで海に行くなんていったらついて来た? どうせ『俺は万が一に供えて残る。』とか何とか言っちゃってガーデンに残るでしょう?だから、リノアの提案で 私たちが来るのがばれないように、あなた達二人だけ別行動にしたの。それに、ガーデンの方もシド学園長に ちゃ〜んと話してあるから大丈夫よ。どうしても緊急なときは、すぐに連絡がくる手はずも整えてるわ」
結局、リノアに注意するつもりが、逆にセルフィとキスティスに論され、俺にはそれ以上何も言えなかった。 ただ、黙ってしまった俺が次に何を言い出すか気になっているリノアだけが少し心配そうな顔で俺の顔を見つめている。 ただ、ここまでくれば俺も鬼じゃない…心は決まっていた。
 「…仕方ない、もう勝手にしろ…」
 「えっ?てことは?」
 「…それより早く着替えてこいリノア。泳ぎに来たんだろ??丸々1日、伝説のSeeDを運転手とボディガードにしての 海水浴だ。本当なら高く付くぞ、そのぶん元取れるように遊べよ…」
 「うん、わかったっ!!ちょっと待ってて、一分で着替えてくるからっ!!」
そう言うと、鞄を持って階段を上がり更衣室のある海の家の二回に消えていった。
 「さてと、ほならキスティ、あたしらも、もう一回泳ぎにいこか?」
 「そうね、じゃスコール、自分で言ったんだからリノアのボディガード、ちゃ〜んとしてあげなさいよ」
 「ふん、大きなお世話だ」
苦笑いでキスティの皮肉に答えて、海の家を後にする二人を見送る。そして、俺も特に用はないので海の家の入り口に居たゼルのところに戻る。 さっきと違い、ゼルは真面目に呼び込みと屋台の店番始めていた。
 「おっ、いただろ?3人とも」
 「ああ」
 「で、リノアちゃんは?」
声のした方を見ると、屋台のカウンターにもたれかかって、焼きとうもろこしをほおばっているのはアーヴァインだ。 どうやらサーフィンから帰ってきたらしい。
 「着替え中だ…」
 「ふ〜ん…あ、どもいらっしゃ〜い……で、どんな水着だろうな?」
ゼルの手伝いのつもりか、アーヴァインは屋台の客に愛想を振りまく。が、これが意外に 集客効果が有るらしい。屋台に来る客が、特に女性客が耐えることはまず無い。
 「知るかよ…」
 「う〜ん…ピッチリのワンピかな〜?それともキスティ見たいにセパレートのハイレグ…いや、それとも大胆にTバックとか?」
 「お前…海に来てそれだけ見てるのか?」
 「いいじゃないのよ〜、スコール、知ってるかい?夏の海は青春の欲望を満たす場所だよ〜?ん?」
俺に向かって食べかけのとうもろこしを突きつけるようにして、アーヴァインは熱弁を振るう。
 「おいおい、アーヴァイン、お前セルフィに聞かれたら殺されるぞ」
 「大丈夫だよ、ゼル〜。セルフィ泳ぎに行っちゃったじゃん」
 「でも、あたしが聞いちゃった〜」
 「ん?リノアか?」
その声に反応して振り向いた俺達三人はリ、ノアの水着姿に姿に目を奪われた。パレオ付きのビキニで水色を基調にして花柄のプリント、 それと対照的な栗色の長い髪、そんなリノアの姿は辺りを行き交う人並みに重なることもなくあまりにも…綺麗だった。
 「あれ、どしたの、みんな?あ、もしかしてこれ、ちょっち派手すぎた?キスティが選んでくれたんだけど…やっぱ、あたしには 似合ってないかな?」
胸の所の水着を少しなおしながら少し恥ずかしそうにうつむく。最初に我に返って口を開いたのはアーヴァインだった。
 「いや、に、似合ってるよねぇ、スコール」
アーヴァインに意見を求められ俺もやっと我に返った。
 「あ、ああ…似合ってるよ」
 「ホント?うれし〜っ♪で〜も、アービンのお世辞には騙されないよ〜。さっきの言葉セルフィに言っちゃおうかな〜?」
 「お、お世辞なんかじゃないよ〜。頼むよ〜、まだ17歳で散りたくないよ〜」
 「じゃあ、今日のあたしたち6人分のお昼ご飯おごりで手をうってあげる」
 「うっ…OK…わかったよ」
 「やったね〜、じゃ、スコール泳ぎに行こう〜」
アーヴァインとの取り引きを、まだリノアの水着姿の衝撃が完全に抜けきらないまま呆然と見ていた俺の手を引っぱって、波打ち際まで走る。 と、俺の腕に当たる冷たい感覚…気になって見るとリノアの首から例のネックレス、俺のグリーヴァの指輪とゼルの作ったレプリカが きらめいている。
 「おい、リノアそのネックレス、泳ぐなら外してこいよ…」
と、リノアの首に掛かっているネックレスに掛けた俺の手をリノアが握った。
 「待って、いいの、これだけは絶対外したくないの…だって、これ、スコールとの想い出だから…これ着けてるとね、いつでも スコールの事が好きだって確認できるから…」
ネックレスの指輪を握りしめ、そっと空を見上げるリノア。
 「…リノア、一つ聞いて良いか?あんたその指輪が無いと俺への気持ちが変わるのか?」
 「ううん、そんなことないよ…あたしずっとスコールのこと好きだよ。これまでだって、これからだって!!」
 「…じゃあ、別にその指輪が無くてもいいだろ?元々その指輪はあんたが俺の事が知りたくて、ゼルにレプリカを作らせた。 言ってみれば、あんたが俺のことを好きになったいくつかのきっかけの一つに過ぎなかった…そして、その役目はもう十分に終えてる。 もうあんたは指輪が無くてもその気持ちを無くしたりしないはずだ…」
 「…スコール…」
いきなりリノアが俺の胸に飛び込んでくると、俺の顔をじっとその黒曜石の、涙でうるんだ瞳で見あげる。 次の瞬間、その瞳からこぼれそうになったその涙をそっと人差し指で拭ってやる。
 「こら、泣くんじゃない。ま、普段まではずせとは言わない。それに、今は俺が側に居るんだ、外してても 大丈夫だろ?そうそう、それ置いてくるなら金庫とかロッカーじゃなくて、海の家で留守番してるバカ二人に 預けてこいよ。あいつらなら下手な金庫より安全だからな」
 「…うんっ!!」
と、今まで気が付かなかったが急に人の気配を感じてそっと振り向く。
 「なっ…」
見ると他の海水浴客が俺達を遠巻きにじっと見ている…もしかして、全部見られてたのか?
 「おい、リノア…」
 「なに?」
 「走るぞっ!!」
 「えっ?ちょ…」
波打ち際、真夏の風を背に受け、リノアの手を取って走りだす。その瞬間、後ろから俺達の一部始終を見ていた ギャラリーの歓声が聞こえる。俺達はなんとかゼルの親戚の海の家に逃げ込み事なきをえた。
 「あちゃ〜、見られてたんだ〜」
 「すまない、俺がもっと早く気付いてりゃこんなことには…しばらくはここでじっとしてたほうがよさそうだ。せっかく、 泳ぐつもりだったのに…わるかったな」
 「あはは、いいよ〜。また、今度来たときに今日泳げなかった分泳ぐから」
 「ああ、そうだな、今年の夏はまだ始まったばかりだからな」


END


 は〜い、ど〜も。Kallで〜っす。(←芸人登場風・笑)久々の新作ですが執筆時間●時間という急造@一日で書いた新作です。 理由は三つ、一つは『夏だから』(爆死&単純明快)もう一つは最近買った”e.mu”というバンドの”Summer Day’s  Drive”という曲を聴いて気に入ったから。小説全体のモチーフでは無いですが一部曲のイメージを流用してたり(^^; 最後は非常に個人的理由@謝罪なので特に詳しく表記しませんが一言で書くと…「わかこさまICQ中でトーク中に爆睡かまして ごめんなさいm(_ _)m」(核爆死)