Get Back


 遠ざかっていくガーデン…それをじっと見つめているサイファー。彼は何を思っているのだろう? あそこで過ごした日々の想い出?それとも、あそこにいる昔の恋人やライバルのこと?
 「今、何想?」
サイファーの後ろに立っていた風神が彼に尋ねる。
 「なんでもねえさ……」
サイファーは風神の方を振り返らずにそれだけ言うと、さっき投げつけた釣り竿を拾い上げて、堤防に座り込むと釣りを再開した。
 「本当?」
もう一度念を押すかのように聞き返す風神。
 「ああ…もうあんなとこにゃ用はねぇ。それに戻らなきゃいけない理由もねえ…」
 「嘘だもんよ、さっきガーデンを見上げてた時、すっごく戻りたそうに見てたもんよ」 と、さっき風神に海に突き落とされて、たった今はい上がってきた雷神が割り込んできた。
 「だって、そうだもんよ。あんただって気になってるんだもんよ?スコールとリノアのことやガーデンのことがだもんよ」
 「雷神、お前もう一度海にたたき落とされてえのか?」
サイファーはそう言いながら雷神を睨み付ける。
 「大丈夫だもんよ、ガーデンのみんなだってきっとサイファーが戻ってくるの待ってるんだもんよ」
 「けっ、そんなわけねーだろが。それよりも、俺がいなくなってせいせいしてんじゃねーのか?」
 「でもよだもんよ…」
 「うるせぇ!!今後一切、ガーデンの話は俺の前でするんじゃねーぞ、いいな…っと引いてる引いてる…」
雷神を一喝すると、サイファーはまるでさっきまでの話を忘れようとするかのように、かかった獲物を釣り上げようと 水面で揺れる浮きに神経を集中させた。


 「おや、珍しいところであいますねぇ……」
 結局、昼間に一匹も魚が釣れなかったうさばらしでサイファーはバラムホテルのバーに来た。そこで、彼が偶然にも出くわしたのは 彼のよく知っている初老で恰幅の良い男性。
 「…学園長」
 「未成年の飲酒は禁止ですよ。まして君はガーデン生だ。体が第一でしょう…でもまあ、たまにはいいですかね。バーテンさん、 こちらに何か作ってあげてください。さあさあ、そんなところに立ってないでこっちに来て座りなさい」
そう言って、サイファーが学園長と呼んだその男性こそバラムガーデンの学園長シド・クレイマーである。シドは サイファーをカウンターの自分の横の席に座らせる。
 「あんた、なんでこんなとこにいるんだ?」
 「いえね、今日からガーデンはFHでメンテナンスなんですよ。それで学園長室はガーデンのデッキもかねてますから、 メンテナンス中は使えないんですよ。その間、私は友人のいるこのバラムのホテルでのんびりと過ごしてる…まあこういうわけなんです」
と、片手に持ったワイングラスをサイファーに見せながら得意げに話す。
 「はっ、いいご身分だな。まあ、あんたがいなくてもガーデンには魔女を倒した伝説のSeeDご一行様がいるから安心ってか」
 「ははは…あいかわらず手厳しいですね君は。ところで、君こそこんなところで何してるんです?」
 「別にもうあんたには関係ないだろう…俺はもうガーデン生でも風紀委員でもなんでもねぇんだ…」
 「う〜ん、そう言われましてもねぇ。君たちの学籍は残ったままですし、風紀委員も君たちの後を引き継ぐ人がいないんですよ」
シドは弱ったように頭をかいている。と、バーテンがサイファーの前にウイスキーの水割りを差し出した。どうやらさっきシドが勝手に サイファーにと注文した品だろう。
 「だったらどうしたってんだ?まさかあんたも俺にガーデンに戻れっていうんじゃないだろうな?
 「だとしたらどうします?」
 「お断りだ、誰があんなところに…それにみんあ、俺が戻らない方がいいって思ってるだろうしな」
サイファーおもむろにグラスを手にとって水割りを飲み干す。
 「そうですかねぇ…私にはそうは思いませんが?」
 「はっ、なにを根拠にそんなことを……」
 「ガーデンの雰囲気ですかね……」
グラスのワインを一口飲んでシドが答えた。さらにシドは話を続ける。
 「…確かに、今ガーデンは普通の状態に戻ってます。でもなんて言うんでしょうなんか物足りないんですよ。 君たちがいたときはもっとこう…今よりももっと活気があったというか毎日何かしら変化にとんでいたと言うか… まあ、ガーデンも学校の一つですから毎日平凡になにごともないのが本来のありふれた学校の姿なんでしょうけど、 私にとっては毎日なにかしらおもしろいことがあるのが、ありふれたバラムガーデンの毎日になってましたからね。 そしてこれは他の生徒達にも言えることだと私は思うんですが…」
 「…………」
 「なっとくいかない…って表情してますね。……そうだ、では一つ私とゲームをしませんか?」
 「ゲーム?」
そう言うとシドはポケットからを手に収まるぐらいのリボルバー式のモデルガンを取り出す。
 「これ、アーヴァイン君から貰ったんですよ。どうです、これを使ってロシアンルーレットで勝負しませんか? 君が勝てば私はもう何も言いません。君のご自由にしてください。しかし、私が勝ったら君はガーデンに戻ってくる。これでどうです?」
 「……わかった」
 「じゃあ、始めましょう」
そういうと、モデルガンのシリンダーに一発だけプラスチックの弾を込めると無造作に回転させてシャッフルする。
 「じゃあ、私から先に」
シドはモデルガンをこめかみに当てて引き金を引くが、カチッと言う音がしただけだった。
 「はい、サイファー君」
 「ふん…」
カチッ…ハズレだ。
 「ほらよ…」
 「そろそろ当たりですかねぇ…」
カチッ…何も起きないまたハズレ…
 「ちっ、早く貸せ…」
学園長の手からサイファーがモデルガンを奪い取る…カチッ…またまたハズレ…モデルガンに込められる弾は6発、 そのうちいままで4回ハズレ、ということは次にシドが引き金を引けば決着が付く。
 「では…」
シドがモデルガンの引き金を引く………カチッ……。
 「…どうやら、私の勝ちのようですね」
 「…………」
 「約束守っていただけますか?」
 「…くそっ…わかったよ。あんたの言うとおりガーデンに帰ってやるよっ!!」
 「そうですか、では明後日、街はずれにガーデンが私を迎えに来ますから。君達もそのときに……」
シドの言葉を最後まで聞かないうちにサイファーはさっさと立ち上がるとバーを後にしていった。


 その日、ガーデン一階の案内版の前には黒山の人だかりが出来ていた。その中心にいるのは風神、雷神、そしてサイファー。
 「おっ、サイファー。戻ってきたのか?」
 「なんだチキン野郎か」
 「なんだと〜!!せっかく学園長がお前が帰ってくるっていうから、こうして出迎えに来てやったのに」
怒って持っていた缶ジュースの缶を握りつぶすゼル。
 「はっ、俺は別に出迎えてくれなんて頼んじゃいないぜ」
 「まあまあ〜、二人とも落ち着いてよ〜」
アーヴァインがゼルとサイファーの間に入る。
 「よかったね、サイファー。ほら、スコールも何か言ってあげなよっ!!」
リノアが腕を組んでいるスコールの方を見上げながらせっつく。
 「…よかったな、帰って来れて。明日からちゃんと風紀委員の仕事しろよ。お前が居ない間俺が代わりにやらされてたんだからな…」
 「…ふん、言われなくてもしてやるさ。そのためにわざわざ戻ってきてやったんだ」
 「あと、授業と居なかった間の補習もね」
キスティスがぎっしり補習授業が組み込まれている時間割をサイファーに手渡す。
その様子を三階から見下しているシドとイデア。
 「よかったですわね」
 「ええ、まったくこれのおかげですよ」
シドがポケットから取り出したのはあのモデルガン。
 「そういえば、よく勝てましたわね、ロシアンルーレット。サイファーもガンブレードを使っていてあなたより銃には詳しいから、 あなたの方が不利だったはずでしょう」
 「そうですね、確かにこれが普通のモデルガンならですが…」
 「えっ?」
 「これには私が施したちょっとした仕掛けがしてありましてね、弾が一発だけ入っている状態だと、 いくらシリンダー回してもそれが一番最後になるようになってるんです」
 「まあ…」
 「これ、みなさんには内緒ですよ」
 「わかりましたわ」


 「よっしゃ、ほなサイファー帰ってきた記念に写真でもとろか?」
三脚にデジカメをセットするセルフィ。
 「あ〜もう、ほらもっとよらんかい…写らへんでぇ…よっしゃセット…」
スコールやリノア、ゼル、アーヴァイン、セルフィにキスティス、そしてたくさんのガーデン生に囲まれながら サイファーは自分に向かって呟いていた…『お前が戻ってきたのは風紀委員のことや、学園長とのゲームのせい じゃないだろ…いい加減認めろよ、本当はガーデンや仲間が好きだから戻ってきたって…』


END


 ども、Kallです。かなり昔にかいたサイファー作品…ED直後ぐらいからのお話にしてます。ってか、初期の頃の 寄贈作品だっただけに再掲載した今になって、どんなあとがきを書けばいいのやら^^;う〜ん…とりあえず、タイトルの Get Backってのは某漫画じゃなくて、ビートルズの名曲のタイトルから拝借(爆)ってことぐらいですかね。