Who done it?


 誰かが頬をなでるようなくすぐったい感覚で目が覚めた。目の前を春風に吹かれてちらつくレースのカーテン。 どうやらこれが原因らしい。上半身だけ起きあがってカーテンをまとめようとしたとき、身体にかかっていたシーツがはらりと落ちた。
 「あれ?俺、いつの間に……」
ちゃんといつも寝るときにはTシャツを着てからベッドに入っているのに…。そうおもって裸の胸に手を当てて部屋の中を見回す。 クローゼット、TV、床の上…どこにもない。まだ寝ぼけているのか、はたまた俺はくだらない夢の続きでも見て…
 「…なんてな、非科学的だよな」
そう思って、ベッドを抜け出そうとしてシーツをめくったとき、俺は謎の答えを見つけて思わず苦笑いするしかなかった。
 「そうか、犯人はあんたか…」
消えたTシャツは、俺の隣でまだ寝息をたてている黒髪の少女がちゃっかり身につけていた。俺はすべてが夢ではないことを改めて 確信した。今日が、二人の新しい日々の始まりであり、隣に寝ている少女、リノアと俺はこれからすべてを共にするんだと…

 そう言えば、初めてリノアと出会ったのも丁度この季節だった。あの日も、俺は今と同じように春の風に吹かれていた。 場所はバラムからティンバーに向かう列車の車内。晴れてバラムガーデンの誇るエリート傭兵部隊SeeDに就任したその翌日、 いきなり初めての任務が言い渡された。その目的地がガルバディアの都市の一つ、ティンバーだった。 途中、怪しい事件(後でエルオーネの仕業と解ったが)に巻き込まれたせいか、SeeD就任直後の初任務に緊張していたのか、 それとも、それ以外の何か違う原因だったのか…ただ、はっきりと覚えているのは俺は年甲斐もなく少年のように胸を弾ませていた。
 「…らしくない…」 同行していたゼルやセルフィにそれを気取られないようにしようと、俺は必死に自分自身にそう言い聞かせていた。 今の俺ならそんな感情を表に出しても昔ほど気にしちゃいない、が、あの頃の俺にはそんな人付き合いの良さなんて持ち合わせてなかった。 そんなカンジだったから、SeeDとしての初仕事となった”あの”命令は今でも忘れられない。
 「じゃあ、悪いがまずは俺達のお姫様を起こしてきてくれ」 聞いた瞬間、思わず自分の耳を疑った。昨日SeeDになったばかり、実戦経験もまだまだ乏しいとはいえ一応俺達はプロの傭兵だ。 そんな俺達に子供のお使いをさせる気か?そんなことを思いつつも、依頼者の命令は絶対。仕方なくそのお姫様とやらを起こしに行って、 俺は思いもかけない人物と出会った…
 「?!あんた、昨日の……」
昨夜のSeeD就任パーティーで一曲だけダンスを一緒に踊った見ず知らずの少女、その少女こそ、リノアであり、 彼女とこんな形で再会しようとは俺は夢にも思っていなかった。そしてこれが、そのあと俺の心を少しずつ変えはじめた。


 それでも最初のうちは軽い出会いが突然運命めいたものになるなんて、TVのトレンディドラマの中だけでしか起きそうにない 話にとまどい、気持ちが整理しきれていなかった。もちろん、それはリノアとの再会のせいだけじゃなかった。彼女との再会の直後、 いきなり巻き込まれたガルバディア軍、サイファー、まませんせい、そして未来の魔女アルティミシアとの戦いの日々。疲れ切った 俺の心を癒してくれたのはリノアだった。それを痛いほどに感じたのはリノアがアルティミシアによって意識を失ったとき、 宇宙でリノアが外に投げ出されたとき、そして…戦いが終わってリノアと約束したイデアの花畑で再会したとき。そうしているうち に俺達の、俺とリノアの間の現実はあっという間に変わっていった。そして、その変化はアルティミシアとの戦いの日々が 終わっても続いた。眠れぬ夜の過ごし方を、空回る仕事の息抜きの仕方を、人付き合いの何たるかを、人として生きていく術を、 人を愛することを、彼女は俺に教えてくれた。



 そして、今や俺とリノアの間には言葉さえ必要は無くなっている。昨日、俺とリノアは大勢の祝福を受けて晴れて結婚式を挙げた。 街はずれの丘にある海が見える教会、式の開始時刻に近づくにつれてあの日の、SeeD就任初日と似た高鳴る鼓動、 それが最高潮になったころ不意に教会の扉が開いた。入り口から差し込んでくる春の柔らかな光の中、父親のカーウェイ大佐に エスコートされて現れたウェディングドレス姿のリノア、誓いの言葉、約束の指輪(あかし)、交わしたくちづけ、すべてが昔の 俺から想像するには夢のようなことで…でもすべて現実なんだ。その確かな証拠が俺の隣にあるリノアの寝顔…


 「…むにゃ、むにゃ…スコールぅ、もっとハグハグぅ〜…」
寝言を呟きながらシーツを引っ張るリノア。
 「ったく、いくらなんでも寝過ぎだろ…おい、リノア、ほら起きろ朝だぞ」
寝起きが悪いのは重々承知しているのでまずは優しく揺すってみる。
 「むにゃむにゃ…う〜ん、あと5分…Zzzz」
やはり無理か…そこで、少々強引だが無理矢理起きあがらせた。
 「こら、寝るな。をい、起きろって!!」
 「ふみゃあ〜…う〜ん…おハロ、スコール〜…」
やっと寝ぼけながらも起きあがったリノア。目をこすりながら枕元にあった目覚まし時計を手にとる。
 「なんだ、まだ8時じゃんもうちょっと寝させてよ〜。昨日寝たの明け方の5時だよ〜…」
それだけ言うと、目覚まし時計をもったままベッドに倒れ込むリノア。
 「?!ちょっと待てよ。さっきのリノアの言葉、寝たのが明け方の5時ってどういうことだ?…そういや俺、昨日は式の後、 二次会で浴びるほど酒を飲まされて…ガーデンの保健室で一回気が付いたよな。そのあと着替えて、リノアと部屋に戻って…」



−昨夜の回想−
 「ねえ、スコール、大丈夫?こんなに飲んで?」
 「ふん、このくらい平気だっての…」
 「もう、強がっちゃって。ほら、ベッドだよ〜」
 「あ、ああサンキュー…とととと」
 「え?ちょ…きゃっ、いった〜い&重い〜スコールどいてよ〜」
 「わ、わりい、すぐ……と思ったけどや〜めたぁ。なぁ、リノア…」
 「え?ちょ、やだ〜いきなり〜お風呂入ってから〜…」
…………………………………
 「あ〜もう、5時だよ〜。そろそろ寝よ〜よぉ…ふぁああ…」
 「そうだな。あ、おいリノア、それじゃ寒いだろ上、何か着ないと。ほら、俺のTシャツ着てろよ」
 「え?いいよ〜。もう春だしさ〜大丈夫だよ〜」
 「バカ、春でも明け方はまだ寒いって。ほら、着せてやるから…」


 少しずつ記憶が鮮明に蘇ってくる、そしてリノアが着ているTシャツの謎の答えと真犯人も。 それから2時間ほどたってリノアは「おはろ〜スコール」と、俺が一度起こしたこと、 どうやらリノアもずいぶん飲んでいたらしく、昨夜のこともすっかり忘れた様子で元気に目を覚ました。 俺はあえて自らはTシャツのこのことについてはリノアに聞かなかった。


 「ねえ、スコール、なんであたしスコールのTシャツ着て寝てたんだろ?」
 「ん、さあな?ま、そんなこと気にするな。第一俺達、夫婦だろ?」
 「うん、そだね」


END


 ども、Kallでございまする〜(^^)新世紀2001年一発目の作品@6000ヒットの葉月さん からのリクエスト作品で”GLAY「SOUL LOVE」をスコリノ変換”でということで書きました☆ で、新世紀ということで「SOUL LOVE」の歌詞の中にもある”新しい日々の始まり”= ”スコールとリノア新婚生活一日目の朝”…ということにしてみたんですが(^^;ただのバカップルに なってしまった様な気がするのは気のせいでせうか?あ、ちなみにタイトルの「Who done it?」 というのは推理小説なんかで「誰が殺した?」というふうに使われるもので、今回はそれを「 リノアにTシャツを着せた犯人は誰だ?」と言うことでタイトルに使いました。ま、とにもかくにも今 年もよろしくお願いいたしまする〜(強引な閉め)