スコリノ。ひなまつり
トントン…部屋のドアを誰かがノックする。ドアの側まで歩み寄って、リノアは覗き穴から来訪者を確認した。
「来ちゃったか…」
覚悟はしていたが、開けようか居留守を使おうか少しとまどう。しかし、会いたくないなら最初からその人物がくるのを
断っておけばよかっただけのこと、部屋の前まで来ているのにいまさらそんなことをするわけにはいかない。
「よしっ、開けるぞっ!!」
大きく一つ深呼吸をすると、意を決してドアを開ける。
「入って、スコール」
そう言って来訪者、スコールを部屋に招き入れた。スコールはいつものように黙ったままだ。部屋の中に入っても
座ろうとせず立ったまま、部屋のある一方を見つめていた。そこにあるのは少し古びた雛人形。
「まだ飾ってたのか…」
「うん、明日が雛祭り本番だから。そういや、飾るとき手伝ってくれたお礼言ってなかったね…改めてありがと、スコール」
「いや…別に礼を言われるようなことはしてない。それよりもあのときは悪かったな」
スコールが誤る理由…それは今から十日前、その日もスコールはリノアに呼び出され、リノアの部屋に行った時のことだ。
「おっ、スコールやっときたんかいな〜」
その日、スコールを出迎えたのは今日のように部屋の主のリノアではなく、リノアの隣の部屋の住人であるはずのセルフィだった。
招かれるままに部屋に入ると、リノアは夢中で段ボール箱をなにやらごそごそやっている。スコールが部屋に入ってきたことにも
気付いてないらしい。
「おい、あんた何してるんだ?」
「わっ!!」
スコールが声を掛けて、やっとその存在に気付いたリノア。相当驚いたらしく慌ててスコールの方を振り返る。
「も、もう、脅かさないでよスコール。いつ来たの?」
「今だ。ところで、俺を呼んだ理由はそれか?で、俺はその段ボール箱をどうすればいいんだ?それともその中身か?」
「へ?す、すっご〜い、スコール。何でわかるの?」
あのな…理由を説明しようとしたがあまりにくだらない。第一、この状況なら呼び出されたスコール本人でなくても判断が付くだろう。
もちろん、スコールの読みは完璧だった…ただし、ここまでは。
「実はね、これの飾り付けをちょっち飾り付けを手伝って欲しいんだ〜」
そう言って、リノアが段ボールの中からとりだしたのは、スコールがこれまで一度も見たことない人形。不思議な服をまとって、顔の肌は
白く塗られていて、瞳と一筋の眉、束ねた長い髪の黒と口紅の紅の色使いがよく目立つ。
「これね〜、トラビアで昔から伝わる『雛人形』って言うお人形なんだって〜」
「ふ〜ん。で、その『雛人形』とやらをなんであんたが持ってる?」
「うん、セルフィにこの話聞いてね、ど〜しても見たいって頼んだの。そしたら…」
「…あたしの友達が『ボロいのでもええんやったら』言うて心よう貸してくれたんや。そんでな、さっき遠路はるばる
トラビアから宅急便で輸送されてきた、っちゅうわけや」
と、セルフィがさらなる段ボール箱を抱えて現れた。スコールがリノアと話をしているうちに隣の自分の部屋から運んできたらしい。
「ほら、スコールも手伝ってや〜。女の子に肉体労働はしんどいねんで〜」
「な…肉体労働って人形一個飾るだけだろ??」
セルフィに段ボール箱を手渡されて困惑するスコール。
「セルフィ、ちゃんと説明してあげないとスコールこんがらがってるよ〜。スコールあのね……」
それから数分、得意顔に雛人形について語るリノア。その説明のおかげでなんとかスコールにも意味が分かってきた。
「…なるほど、つまり、その雛壇ってのを作ってその上に決まった順番で人形が並んでる…ってことだな?」
「う〜ん、まあ大筋であってるか。ということで早速手伝って♪」
こうして、三人で雛人形を飾る準備を始まった。飾っている雛人形を見たことがあるセルフィの指示のもと、スコールが雛壇の
組立や高いところの雛人形の設置、リノアが低いとことの人形や小物の設置と意外にもスムーズに進む作業。そして、後少しで
飾り付け完了…というところで事件は起こった。
「やった〜あとは、お内裏様とお雛様だけだね〜」
飾り付けがほぼ完成して、コーヒーで一息つく三人。
「そやな〜。初めてにしてはあんま時間かからんと飾り付けれたな〜」
「…そんなものなのか?」
「そやで〜。あたしと友達なんか初めて自分たちで飾り付けたときはえらい時間かかったんやから」
「ふ〜ん、それよりも、あとは一番上の段だけなんだろ?俺がちょっとやれば終わるな。おい、セルフィ、どんな風に置くんだ?」
残り二体の雛人形を持って雛壇に近づくスコール。それを見たリノアがとっさにスコールの手からそのうちの一体、お内裏様の方を
奪い取った。
「だめ〜、この二つはあたしが置くのっ!!」
「あんたじゃ無理だ、背が届かないだろ」
「無理じゃないも〜ん、ほらちゃんと手が届くよっ!!」
雛壇は全部で七段、一番上の段の高さはだいたいスコール身長と同じ程度だ。リノアにも届かない高さではない。が、
どっちにやらせた方が確実かと言われれば明らかにスコールの方だ。それでもリノアはなかなか引かない。
「だからあたしがやるっ!!」
「駄目だ。きちんと飾れてればいいんだろ?だったら俺がやる」
「あっ、何その言い方?これはね〜女の子のお祝いの日の…なんだっけえ〜と、そう『桃の節句に』飾る物なのっ!!
で、その日は女の子が主役で、お内裏様とお雛様は雛人形の主役。だからここだけは男の子のスコールは絶対やっちゃダメっ!!」
筋が通ってるんだか通ってないんだか…スコールにはイマイチ理解できない理由を口にしながらリノアは
スコールの手にあるもう一体、お雛様を取り上げようと手を伸ばす。同時にスコールもリノアに渡さないようにしようと
身を引くがが、一瞬リノアの方が早かった。リノアの手がお雛様の首の部分を掴み、慌てたスコールが人形を持つ手に
力を込めた。パキッ…部屋に乾いた音が響きわたった。
「あっ…」
「……」
見るとリノアの手には人形の首の部分が、スコールの手には胴体の部分が握られていてた。しばらく当事者の二人、
そしてその様子を傍観していたセルフィも含め、三人はそれを見つめて呆然としていた。
「あちゃ〜…」
セルフィの落胆の声にスコールとリノアも我に返る。
「ど、ど〜するのよっ、スコール!」
「どうするって、俺にわかる分けないだろ?」
「なによそれ〜?スコールのせいじゃない!」
「なんだと?あんたにも責任有るだろっ!」
そんな激しい口論の後、ついには、
「もういいっ、スコールなんか大っキライ!!」
「ちっ、勝手にしろっ」
リノアは部屋を飛び出し、スコールも暫くその場に立ちつくしていたが、リノアが帰ってくる気配が無いのを悟って
黙って帰っていってしまった。
リノアとの仲直りのきっかけも得れないまま、スコールは翌日から急ぎの任務で三日ほどガーデンを留守にすることになり、
帰ってきてもしばらくは二人ともお互いにに口もきかず、視線さえも会わせない日々が続いていた。
そんな二人を見かねたセルフィは、アーヴァインやキスティスと相談して何度も仲直りのさせようと作戦を練ったが、
どれもうまくいかなかった。もはや打つ手無し…誰もがそう思っていたとき、救いの手は意外なところから差し伸べられた。
セルフィが雛人形の持ち主の友人にそのことを話したところ、その友人から意外な事実が告げられたのだ。実は人形の首は
もっとずっと前から壊れていて、接着剤で修理しているだけでかなり脆くなっていたということだった。
さらに事情を知ったセルフィの友人から一つの仲直りの作戦を提案され、セルフィはその計画を実行に移した。
もちろん、喧嘩をしている当事者の二人には気付かれないように勧められたが…計画の仕上げをするにはどうしても
どちらかの協力が必要になった。
「どっちがええんかなぁ〜?あたしはスコールのほうがええと思うんやけど…」
「いや、僕はリノアのほうが協力してくれやすいと思うし、仲直りもしたがってると思うよ〜」
「仲直りしたがってるのはどっちもだって、アーヴァイン。俺はやっぱりスコールだな。っていうか、
ちゃんと説明しないでこんなことあいつにたのんだってぜ〜ったいしてくれね〜ぜ、うん」
どちらに協力してもらうか…意見はわかれ困惑したが、最終的に計画のリーダーであるセルフィの意見で
スコールに協力してもらうことになった。そして、スコールはリノアの部屋に向かった。
「そうだったんだ、前からね〜…。でも、ほんと誤るのはあたしのほうだよ〜、ほんとごめんね…」
仲直り作戦としてセルフィから教わった次のプロセスとして、スコールは雛人形の壊れたわけを話した。
「いや、いずれにせよ俺が悪かったんだ。あんたの気持ちも考えないで…」
「違うよ〜、あたしが悪かったの!」
「違う、俺だ!」
何回かこんなやりとりが続いたが、最後にリノアの
「ううん、あたし…ってこれ以上やるとまた喧嘩になっちゃいそう…お互いに悪かったってことでやめとかない??」
という提案でこのやりとりは決着が付いた。
「ところでさ、スコールこの雛人形だけど見てみて、このお雛様の顔、あたしに似てない??」
そう言って雛壇の一番上にあるお雛様を手に取ると、自分の顔の横に並べて見せる。
「ああ、そのことなんだが…それ修理したのゼルだろ??」
「うん、そうだよ、あの後ゼルに頼んで直してもらったんだけど…なんでスコールが知ってるの?」
「ゼルからあんたに言っておいてくれって頼まれたんだ。その雛人形、顔の塗料がちょっと剥げてたから、
あんたの写真を参考に勝手に描き直したって」
「えっ?そうなの?」
手に持った人形の顔をまじまじと見つめるリノア。
「ああ、あんたに断りもなくやっちまって言い出しにくいって、俺に言ってた」
「ふ〜ん、別にあたしは気にしてないからいいよって言っておいてあげて」
「ああ、わかった」
「あ〜、でも、こんなに上手に似せられるんならお内裏様の顔もスコール似に描き換えてもらおっかな〜?」
「おいおい、壊れてもないのにそれはさすがにマズイだろう…」
「だよね〜…ま、雛人形眺めるだけで我慢するかぁ」
手にしていたお雛様を元の場所に戻すと、少し離れたところから雛壇全体を眺めるリノア。その様子を見ていたスコールが
彼女に取っては思いも寄らないことを口にした。そしてそれこそがセルフィの友人の提案した仲直り作戦、
最終段階の始まりだった。
「そんなに、俺に似たのが見たいか?」
「へ?うん、そんなのがあるんなら見てみたいけど…」
「…じゃあ、付いてこい、いい物見せてやるよ」
そう言うとスコールはさっさとリノアの部屋を出ていく、慌てて後を追うリノア。
「ねえ、何処行くの??」
「ま、いいから付いてこいよ、それまでのお楽しみだ」
こうしてスコールの後ろを付いていくこと数分、着いた先はガーデンの大ホール前だった。
「この中だ…」
「ここに?でも、この張り紙、今雨漏りの修理中で立入禁止って……」
「気にするな、それより早く入れよ」
「うん、わかった。それじゃ…っと」
ホールのドアを開けてリノアが中に入る。そして、それにスコールも続く…と、不意にドアが閉まった。
一瞬にしてあたりは真っ暗になり何も見えない。
「ちょっと、スコール〜、真っ暗で何も見えないじゃ…ってあれ?スコール何処?」
振り向くがそこには一緒に入ったはずのスコールの気配がない。辺りを見回そうにも、まだ暗闇に目が
慣れず何処に何があるのかわからない。リノアは灯りをつけようと辺りを手探りで探そうとした、
そのときいきなりホールの照明が付いた。そして、目の前に現れたのは…
「…え、なに…これ…ウソ…」
それは巨大な雛壇、そして雛人形に扮した仲間達だった。
「リノア、どうやこれ?凄いやろ?みんなでリノア驚かそう思て、こっそり準備してたんやで〜」
三人官女の一人になっているセルフィが二段目の雛壇からリノアに声をかける。
「あ…で、でもどうしてこんな…」
「あっと…その理由は、僕らじゃなくて、彼に聞いてよ」
五人囃子の真ん中になっているアーヴァインが、お楽しみはこれからといいたげにリノアに応える。
「え…誰に聞けばいいの、アーヴァイン」
「一番上の段、見てごらん」
アーヴァインに言われるままにホールの天井に手が届きそうなぐらいの高さにある、雛壇の最上段を見上げた。
「…え、す…スコール?!その格好…」
さっき、居なくなったはずのスコールがそこにいた。雛人形の、お内裏様の衣装に身を包んで。
「…似合ってないか、俺?」
「う、ううん。そんなこと無いよ。似合ってる、格好いいよっ。あ…それで、さっきあんなこと言ってたんだね」
「…ま、まあな…それより、あんたも着替えなきゃな。残りの話はそれからだ。おい、シュウ」
「え?着替えるって?」
「さ、リノアこっちこっち」
スコールの合図と共にシュウとガーデンの女生徒数人が現れて、まだ困惑気味のリノアを引っ張って行った。それから十数分後…
「…ど、どうかな?」
お雛様の衣装に着替えたリノアがシュウたちに連れられて雛壇の最上段に現れた。
「…うん、いいんじゃないか?似合ってるよ」
「そ、そう?…あ〜でも、こういう衣装って結構重いよね〜。ここまで階段、昇るのすっごくしんどかったよ〜」
スコールの背中にもたれかかって、リノアは階段を上ってくる途中でずれた着物の帯を直す。
「おいおい、自分で言ってたんじゃないか。雛祭りは”女の子が主役で、お内裏様とお雛様は雛人形の主役だから絶対自分でやる”
って。これで…本当に仲直りってことにしような。おまえの願いもかなったし…」
「?!じゃ、じゃあもしかしてそのために…?」
「う〜ん…まあな。それにあれだろ。3月3日はおまえの誕生日じゃないか、リノア」
「あ…覚えてくれてたんだ…」
スコールが誕生日を覚えてくれていたことに驚き、リノアは背中ごしにスコールの方を振り返った。
「あのな、俺だって、その…なんだ…付き合ってる彼女の誕生日は…忘れないよ」
リノアからはよく見えなかったがスコールはちょっと照れているようだった。
「はいはい、ご両人仲直りしたのはいいけど、記念写真取るからちゃんと、自分の場所に移動してよ〜」
「え?あ…ほ、ほらリノア。あんたはもうちょっと向こうだ」
「う、うん。こ、この印のあるところでいいの?」
「おっけ〜。それじゃ、学園長〜お願いしま〜す」
雛壇の一番下でカメラを構えるシド学園長にアーヴァインが声をかける。
「はいはい、じゃあ撮りますよ〜皆さん。さぁ、笑って笑って〜……はい、もういいですよ〜」
「…ふぅ、あ、ねぇねぇスコール。ひとついい?」
記念の写真を撮った後、雛壇の最上段からホールの床まで降りる階段の途中で、スコールはリノアに声をかけられた。
「ん?どうした?」
「これは…あたしの雛祭りと喧嘩の仲直りの為にしてくれたんだよね?」
「ああ、そう言ったじゃないか」
「ふふ〜ん、じゃあ、あたしの誕生日プレゼントとはまた、別物ってことだよね?」
「は?」
「明日、一緒にプレゼント買いに行こうねっ、スコール」
END
あとがき
う〜ん…久しぶりの新作^^;ども、Kallです。で…新作といいつつ、この作品、実はぶっちゃけお蔵入り一年物(苦笑)
つまり、僕のPCの文章フォルダの中で約一年間ごろごろしてた…ってことです(まぁ、小説がごろごろしてるっていう表現も
微妙ですけど)さて、内容ですが読んでいただければわかるとうり”リノアの誕生日ネタ&雛祭りネタ”での久々、純粋(?)
甘甘スコリノ路線です。で、小説の中でFF8キャラが雛人形に扮して(コスプレ)るってのに関しては元ネタっていう
元ネタはないっす。単にやると面白そうだなと思って^^;で、全キャラ描いてませんが、設定としてはお内裏様(スコール)
、お雛様(リノア)、三人官女(左:風神、真ん中:セルフィ、左:キスティス)、五人囃子(アーヴァイン、ゼル、ラグナ、
キロス、サイファー)、左大臣と右大臣(ウォードと雷神)…こんなカンジ想像してみて下さい^^あ、あと余談ですが…
タイトルは某曲をもじったものですが、ツッコミはナシの方向で(笑)
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