Like a Angel


 窓から見える星空と、そこに映る遠くの月はもう眠たそうだ。それを見上げるスコールは、 傍らに置いてあるラジオから微かに流れてくる誰かの唄と夜を持て余していた。
 「んん…くしゅっ…むにゃむにゃ…」
横で寝ていたリノアが眠ったままくしゃみをしたかと思うとスコールの毛布を引っ張る。見るとリノアは自分の 毛布を抱き枕のようにしていた。
 「やっと寝たと思ったらこれか…まっ、しょうがないな…」
いつもなら部屋の暖房のスイッチを入れるところだが、今日はそうも行かない事情がある。そ こで、スコールは自分の分の毛布をリノアにそっと掛けてやった。

 「なに?花見だと??」
 それは昨日、ガーデンの自室で寝ていたスコールを訪ねてきたセルフィの提案だった。
 「そや〜、明後日の日曜日っ。それで、いいんちょ〜にお花見の場所取りをお願いしたいんやけど〜あかん?」
アルティミシアを倒し世界に平穏が戻ってまだ二週間ちょっと、各地での事後処理、残務整理も一段落し、来週には ガーデンの業務を通常に戻すことになるとのこと。そして、二、三日だがせっかく貰ったオフ、その間、スコールは 何もせずゆっくりと疲れを取るつもりでいた。
 「なっ…俺が場所取り??他に誰か居ないのか?」
そんな面倒なことに関わりたくない…それが彼の率直な気持ちだった。が、セルフィに
 「それがな〜、みんな仕事あるんやって、そんで、予定表みたらいいんちょ〜だけやねん、 な?な?ちゃんとお礼はするから〜」
としつこく頼まれ、さらに、運の悪い(?)ことにそこに偶然にもスコールを訪ねてきたリノアが
 「あたしが責任持ってスコールと一緒に行く〜」
と、二つ返事でこれを引き受けてしまった。こうして、二人は昨日の夕方から場所取りをすることになってしまった。

 「むにゃむにゃ…えへへ…ありがとスコール…」
 起きてるのか?そう思ってリノアの顔をのぞき込んだが、相変わらず彼女は寝息をたてて幸せそうに眠っている。
 「紛らわしい寝言を…」
誰も見ていないのに勘違いした自分が少し恥ずかしくて思わず苦笑いしてしまうスコール。と、同時にスコールは リノアの寝顔を見て安心した。これまで、スコールは何度かリノアが起きるまでその寝顔をずっと見ていたことがあるから、 別にそれが珍しい訳じゃない。むしろ、スコールにとっては見慣れた、笑っているような喜んでいるようなそんな寝顔。 ただ、今日はそれが見れるかどうか少し心配だった…


−数時間前−
 「スコール…」
 「あん?あんたまだ起きていたのか?」
もう眠ったと思っていたリノアが起きていたことにスコールは少し驚いて、本を読んでいた手を止めた。
 「えへへ、ちょっち寝付けないみたい…」
 「そう言われてもな…俺にどうしろってんだ…」
 「う〜ん、なにか面白いお話して…そしたら寝る」
別にリノアは本当になにか話をしてもらうことを期待していた訳じゃなかった。ただ、リノアは眠りたくなくて スコールを困らせて彼と話す時間を少しでも引き延ばそうとしただけだったのだが、帰ってきたのは
 「お話……そうだな…一つだけあることはある」
という、スコールの意外な返辞だった。が、珍しい
 「でも、くだらないぜ…そのうえ短いし…それでもいいか?」
 「うん、聞かせて…」
 「…あれは、俺がまだガキのころだな…たぶん、まませんせいに引き取られるまえだ。 レインとの…母さんとの思いでだからな。俺もなガキのころ結構怖い夢とか見て夜泣きながら起きてたことがあってな、 そんなときはいつも母さんは有る絵本を読んでくれたんだ。そしたら不思議とその後は絶対に良い夢が見れるんだ」
 「へぇ、いっつもおなじ絵本なの?」
 「ああ、不思議とその絵本じゃなきゃだめなんだ。一度、他の絵本にしてもらったらまた怖い夢見て飛び起きたよ」
と、スコールは苦笑いしながら遠い目でそっと夜空を見上げる。
 「あはは、そりゃさんざんだね」
 「ま、結局その後はもう一度いつもの絵本を読んで貰って寝たけどな」
 「ふ〜ん、ねえ、それなんてタイトルの絵本なの??何か覚えてない?」
 「さあな…何しろ古そうだったからな…それにストーリーもほとんど覚えちゃいないよ…まあ、唯一覚えていると言えば 最後のページの絵ぐらいか…っともう、こんな時間じゃないか。さっ、明日もあるんだ…そろそろいい子だから寝てくれないか?」
 「えっ、もう?ほんとは寝たくないけど約束だもんね、ちゃんと寝るよ。でも一つだけ聞いて……あのね、 寝付けないってのはウソなんだ…実は、最近ときどきやな夢見るんだ、アルティミシアとの戦いの後、お花畑でスコール探してる夢 とか宇宙を彷徨ってた時の夢とか…だから、眠りたくなくて…」
 「……」
 「それでね、夢でね最後はいつもスコールの姿を探すんだけどどうしても見つからないんだ… 酷いときなんか泣きながら『スコールっ!!』って叫んで目が覚めて…もしかしたら、心のどっかでまだ、 スコールがどっかいっちゃうかも?って思ってるのかな…」
 「大丈夫だ、俺は絶対、あんたを置いて何処にも行きやしない。だから、わざわざそんなことで我慢するなよ。 それに、怖い夢見たんなら正直に言え、そんなときぐらいはその…なんだ…慰めてやるから…」
そんなこと言ったって、そういうときに限ってあたしの側に居ないじゃない…スコールの優しい言葉が嬉しくない 訳じゃなかった。でも、まだ何かが…そんな不安をリノアが口にしようとした、そのとき…
 「どうした?まだ不安か?じゃあ、怖い夢見ないですむとっておきの方法を教えてやるよ」
 「へ?とっておきの方法?」
 「ああ、だからちょっと…」
と、スコールはリノアを手招きする。
 「もうちょっとだ…ほら…」
どんどんスコールとの距離が無くなっていく。
 「ねえ、なに?早く教え…・ん?!」
その瞬間、スコールはリノアを抱きしめるとキスで黙らせる。いきなりの出来事で不意を突かれた リノアの瞳にはスコールだけが映っていた。短いキスのあと、先に口を開いたのは意外にもスコールだった。
 「どうだ?とっておきだったろ?」
 「……そだね…これでたぶん大丈夫だと思う♪」
 「そうか…・じゃあ、もう少し寝てろ。まだ夜明けまで時間はある」
 「スコールは?」
 「俺はもう少し起きておく。一応、花見の場所取りだからな。ちゃんとしておかないとセルフィがうるさいからな」
 「あはは、そだね。んじゃ、おやすみ…」
そういうとリノアは毛布にくるまって目を閉じる。と、すこしして眠っていたと思ったリノアが不意に目を開けて スコールに話しかけてきた。
 「ねぇ、スコール…」
 「なんだ?」
 「さっきのとっておき、もう一回…ダメ?」
 「だめだ、馬鹿言ってないで早く寝ろ」
 「ぶ〜、ケチ〜、いいじゃん、減るもんじゃないのに〜」
 「あのな…今度また怖い夢見たら、してやるよ」
 「ホント?じゃ、今すぐ寝て、怖い夢見てもしてくれる?」
 「ああ、もし見たらな」
 「じゃ、今すぐ寝る〜。おやすみっ♪」


 いったい、いつもどんな夢見てるんだ?そんなことをしたってリノアの居てる夢が見れるわけじゃない… 分かり切っているけど、そっと彼女すぐ側で横になって眠ったフリをしてみる。
 「う〜、スコールぅ、はぐはぐ〜……」
な、…夢の中でまでそれかよ。微かに聞こえてきたリノアの寝言にスコールは思わず吹き出しそうになった。 でも…こうして目を閉じて、リノアの声を聞くなんて久しぶりだな。改めて思ってみればスコールが最初に好きになったのは リノアの声からだった。彼女が意識を無くしたあの時、自分の名前を優しく読んでくれるリノアの存在の大切さが 一番身にしみたのもそのせいだ。そして、気が付けばリノアの気の強さ、すねた顔…そんなのも含めてリノアの 全部が好きになって…と、眠ったフリをしているつもりが横になったことでこれまでの疲れが出たのかスコールも うとうとと眠ってしまった。

 翌朝、スコールが目を覚ました空は、気が遠くなるようなブルーだった。
 「ん…んん…朝か」
眠い目をこすりながら起きあがると、体にかけてあった毛布がはらりと落ちて少し肌寒さを感じた。
 「?!確か毛布は二枚ともリノアに…??」
いない!確か俺の横で寝ていたはず?…と、リノアが寝ていたであろう所に手をやるとまだ少し暖かい。 体温が残っているということはまだ居なくなってそう時間が経ってないはずだ。そう思ってスコールは辺りを探し始める。
 「まったく、何処に行ったんだ?」
桜の木々の間を探して回る…と、不意に視界が開けた。そこは、小さな泉、水は綺麗で透き通っていて泉の底も それほど深くなさそうだ。そして、スコールはその泉のほとりで、リノアの姿を見つけた。それとほぼ同時に リノアもスコールに気付いた。
 「あっ、おハロー、スコール、やっと起きた?」
 「あんた、何してんだ?こんなところで」
 「ん?お風呂入ってないでしょだからせめて顔だけでも洗おうと思って。スコールもどう?冷たくて気持ちいいよ〜。 あれ?どうしたのスコール、怖い顔しちゃって?あっ、もしかして、あたしが居なくなっちゃったと思って心配しちゃった?」
イタズラっぽく笑いながらスコールをからかうリノア。どうやら黙っていなくなったのはスコールが心配して探しに来ることを 見越しての確信犯らしい。
 「あのな…、まあいい。しかし、よくあんた俺より先に目が覚めたな。いつも誰かに起こされるまで寝てるのに」
 「あ〜、ひど〜い。あたしだって、本気を出せば早起きの能力を発揮するんだよ〜。そうそう、それとスコールのとって おきすっごく効果あるね〜。あのあとバッチリ良い夢見れたんだ〜」
そういって嬉しそうにその夢を思い出すかのようにスコールに背を向けて空を見上げる。
 「あ、ああ、そうか…そりゃよかったな」
ちょっとした冗談のつもりだったんだけどな…これはさすがに言えないと思い照れ隠しに片手で頭をかくスコール。
 「うんっ、ほんと、ありがとうスコールっ」
と、リノアがスコールの方を振り向くとスコールが呆然と自分の方を見つめていた。
 「どうしたの?スコール、ぼーっとして?」
 「あんた…天使って居ると思うか?」
 「へ?いきなりなに?天使ってあれ?あの、おとぎ話とかにでてくる?」
 「ああ」
 「う〜ん、どうかな〜、でもあたしは居ると思うな〜。なにしろ魔女はいるもんね〜。もしかしてスコールも?」
 「ああ…ちょっとだけどな…」
 「へ〜、意外〜、スコールがね〜、結構ロマンチストなんだ〜」
 「な、馬鹿、そんなんじゃない…ただ、なんとなくだ…」
春風に舞い散る桜の花びらと揺れる木漏れ日の中、スコールが目にしたのは、幼い頃見たおとぎ話の絵本の最後の ページを飾っていた天使。それは、
 「さ、そろそろ戻るぞ。もうすぐみんな来るころだ」
 「え〜、もう少しここにいてもいいでしょ〜?ねっ、お願いっ、このと〜りっ!!」
ちょっとわがままそうで、
 「わかったよ…わかったからそんな目で人を見るな…準備は俺がやっておくよ」
黒曜石のような瞳と、
 「ほんと?やった〜、だからスコール大好きっ!!」
可愛らしい笑顔が印象的なリノアそっくりの少女だった。


END


 Kallです。こちらも、Seek(管理人:あや☆さま)へ寄贈させて頂いていた作品です。 4500ヒット(正確には4501)を踏まれたあや☆さんから■春!…な2人。スコリノ ■ぽかぽかほのぼのな2人。■「桜」がテーマだとうれしいニャ〜…・ってことで書かせていただいた作品です。