ALIVE/CRAVE
一瞬でいい、今だけでいい…君の身体を、心を、喜びを、悲しみを、微笑みを、そして運命を、全て一つにして僕に預けて…
真夜中の病室、ベッドで静かに眠る少女の枕元でカーテンの隙間から満月を見上げる青年の目に迷いは無かった。
「…全て預けてくれたら、僕が全部終わらせるからさ…。セルフィ…」
「え?精密検査?」
ガーデンの食堂で、いつものようにアーヴァイン、スコール、リノアの3人と一緒に昼食を食べていたセルフィは、
そこに現れたバラムガーデンの保険医、カドワキ先生が告げる言葉に驚きを隠せなかった。
「…ってことは、あたし、この前の健康診断で、なんかまずいところあった?」
セルフィは気まずそうにパスタを巻き取ったフォークを静かに皿に戻した。バラムガーデンではシド学園長以下
ガーデンで働く全スタッフ、そしてその性質上過酷な任務が多いエリート傭兵部隊であるSeeDとSeeD候補生には、
年一回の健康診断が義務付けられている。セルフィ達もつい先週、ティンバーの総合病院でそれを受けてきたばかりだった。
「う〜ん、そういわれてもね〜、私も詳しいことは聞かされてないんだよ。それに若くてなんでもない人でも、例年何人かひっか
かるからね〜」
「そうそう、そういえば去年はどこかの誰かさんが精密検査受けることになって"俺はもう死ぬんだ〜"とかって騒いでたわよね〜、
スコール〜?」
リノアいたずらっぽく笑いながらスコールのほうを見て言った。
「…リノア、その話はやめてくれ。思い出すだけでまた胃が…」
去年の健康診断で精密検査が必要と言われたことにショックを受けたスコールは、それから3日間ほど誰とも会わず部屋に閉じこもるという、
ちょっとした事件を引き起こしていた。
「あはは、冗談冗談。ごめんね〜。でも結局はただの軽い胃潰瘍だったわけで、今でもスコールはこうしてピンピンしてるじゃない、
ね?だからセルフィも気楽に行って来なよ」
「そうだよ。それに、病は気からともいうじゃないか。あんたは明るい笑顔が似合うんだ。いつもの調子で行っといでよ」
「…うん。そやな、これはきっと毎日SeeDとして頑張っているあたしに、神様がくれた休日や♪」
リノアとカドワキ先生の言葉で不安が消えたのか、セルフィの顔に笑顔が戻った。再びフォークを握ってパスタを巻き取る様子を見て、
スコールもリノアも、カドワキ先生も、このことをいつもの日常の、ちょっとしたアクシデントのワンシーンとして片付けた。
そんなかただ一人、アーヴァインだけは何か引っかかるものを感じていた。確信があった訳ではない。ただ、SeeDとして、
一人の仲間としてだけではなく、それ以上の感情を抱いて彼女のことを見てきた彼にとって、ここ一、二ヶ月になってセルフィから
時々感じていた違和感、それだけの理由だった。
しかし、その数週間後、アーヴァインの悪い予感は的中する。そして、セルフィが言った「神様がくれた休日」という言葉は、
皮肉にも彼女自身の運命を予言していた…
「にゅ、入院?!」
エスタにある最先端医療施設で精密検査を受け終わったセルフィが、担当医から告げられたのは、彼女がまったく予想もしていない
言葉だった。
「はい、直ちに緊急入院していただきます。バラムガーデンのほうには私と、当施設へセルフィさんの精密検査を依頼された
ラグナ大統領のほうからも連絡を入れていただきますので」
「は、はぁ…」
それからはあっという間の出来事だった。なにがなんだかわからないうちに同意書にサインを求められ、それが終わると
女性の看護師さんに案内されるまま施設に隣接する総合病院の最上階にある個室に連れて行かれた。するとそこには、どう
やったのかわからないがバラムガーデンの、SeeD専用寮の彼女の自室にあるはずの荷物の大半が持ち込まれ、その配置さえ
終わっていた。
「い、いったいあたし、どうなるんや…」
パジャマに着替えてベッドに横になったセルフィはただしばらく、病室の真っ白い天井を呆然と眺めることしかできなかった。
その日の夕方、薄暗く締め切られたカーテンの隙間から西日が差し込む病院の会議室には草々たる面々が集められていた。
セルフィの友人でありSeeDの仲間であるスコール達はもとより、バラムガーデン学園長のシドとその妻イデア、セルフィの出身
でもあるトラビアガーデンの学園長、エスタの最先端技術、そして魔女研究の第一人者でありマッドサイエンティストの
オダイン博士、スコールの姉でありエスタ大統領の補佐官として働くエルオーネ、そしてスコールの父であり、エスタ大統領で
あるラグナ。これがどこかの国の会議室なら、それはさながら国際会議の議場…といったところかもしれない。そして、
一様に言えることは彼らの顔に笑顔はなく、皆スクリーンに映し出されるスライドの映像を食い入るように見つめていた。
「…以上が精密検査の結果から我々とオダイン博士がセルフィさんに下した結論の全てです」
セルフィの精密検査を行った主治医がスライドを指し示すレーザーポインタを置くと、リモコンで部屋の灯りを点けた。
それからしばらく静かな時間が流れた。誰一人、席を立つこともなく、時折手元に配られた紙の資料を誰かがめくる乾いた音だ
けがしていた。
「…質問やご意見がありましたら、ご遠慮なくどうぞ…」
沈黙を破った主治医のこの言葉に、最初に反応したのはスコールだった。
「…しかし、すぐには信じがたい事実だな…本当にこんなことがありえるのか?」
左手に持った資料の束を、右手の人差し指で弾きながら言った。
「はい、それは我々も最初は信じられませんでした。最初の健康診断の結果をオダイン博士がご覧になっていなければ、
我々とてこのような事実にはたどり着かなかったでしょう」
そう言って主治医は視線をオダイン博士の方に向けた。
「そうでおじゃるな…、わしでさえ残っていたわずかなデータと研究資料以外で、実際にこの症例を見たのは科学者兼
魔女研究生活ン十年で初めてでおじゃる」
「それなら、間違いってことはないの、ねぇ?それに、助ける方法がないって言ってるけど、あたしのときだってなんとか
なったじゃない!」
テーブルを両手で叩いて立ち上がったリノアが、今にも泣き出しそうな声でオダインに詰め寄った。
「し、しかし、あのときはでおじゃるな…まぁ、そのいろいろと不確定要素もあるし、前例もほとんどなかったで
おじゃるが、さっきも言ったように、今回は十分とはいえないまでも研究や実験資料、数値的な確証もあるんでおじゃるよ〜…」
リノアににらみつけられたオダインは、助けてくれとばかりにスコールのほうを横目で見る。が、スコールはそれに
気付くと視線をあらぬ方向にそらした。知識と技術力は信用しているが、それ以外の部分、特に人間としての倫理観とか
心理面ではオダインはあてにならない…スコールがこれまでオダインと関わって(というよりも、関わらざるをえなかった)
学んだ結果である。そして、スコールもまた、心の中ではリノアと同じで"リノアのときと同じで、どうにかなるんじゃないのか?"
という気持ちがあった。ゆえに、オダインを助ける理由は無い…それが彼の判断だった。
「…でも、だからって、だからって、あんまりだよ。これじゃあ…セルフィが、かわいそうだよぉ……」
そこまで口にして、ついに溢れる感情を抑えきれなくなったのかリノアの目から大粒の涙が一粒、二粒とテーブルに落ちた。
「リノア、ちょっと落ち着こう…ね?」
キスティスがそっとリノアの両肩を抱いてゆっくりと座らせる。
「でも、リノアの言ってることは正しいわ。わからないからって何もしないで諦めちゃダメよ。もしかしたら、
リノアのときみたいに私の力で今回も何とかなるかもしれないし…」
エルオーネの言葉にシド学園長が頷く。
「そうですね。とにかく、今はこうなってしまった経緯と、現在の状況をもう少し話し合ってまとめてみるほう
がいいでしょう。まず、今回のそもそもの原因ですが、この報告書によると、セルフィさんがかつてジャンクションした
GFがそれだとありますが…これはどういうことですか?リノアさんの"ハインの暴走"と同じように、今回はGFが暴走すると?」
ハインの暴走…リノアやエルオーネの言葉の中にもでてきた、かつての事件。リノアが受け継いだ魔女の力、
その始まりといってもいい魔女ハインの残留思念は通常であれば魔女の力を受け継いだ人間の無意識下に封印されている。
しかし、ひとたびその封印が解けると最悪の場合、本来の人格にハインの残留思念がジャンクションすることで、
その人を乗っ取ってしまう…。治療法も対策もなく当初リノアは自らその身をセメタリーに沈めるが、スコール達はそれを
よしとせずセメタリーを破壊した。その直後、ハインの暴走が始まったものの、エルオーネのジャンクション能力とスコール
の捨て身の行動によってハインの残留思念を消し去ることに成功したのだった。
「…まぁ、それに近いですね。通常のGFであれば、どんなに長期間ジャンクションしていようとも肉体的、精神的な問題は
ほとんどありません。しかし、今回問題になっているGFは、残っていた研究資料からわかった範囲での情報ですが、
先ほども説明したように従来のGFとはかなり異なる性質を持っています。一度ジャンクションしたら、ある一定の期間が来る
までそれを解除することはできません。そして、ジャンクションが解除されるときにセルフィさんの…」
そこまで口にして主治医は言葉を濁した。
「でも、たかだかGFだろ?さっきも言ってたけど、リノアのときと同じでエルオーネのジャンクション能力でなんとかならないのかよ?」
すっかりさめたコーヒーを啜りながらゼルが質問する。
「そ、それはでおじゃるな…」
さすがにさっき、リノアに問い詰められた余韻がのこっているのかオダインが申し訳なさそうに口を開いた。
「…通常のGFならそれでもいいでおじゃるが、今回のGFにそれは危険すぎるでおじゃる。 今回のGFはその性質上、
長年のジャンクションで宿主と精神や意識すら共有してる可能性があるでおじゃる。そんなGFをエルオーネの能力で
強引に解除したらどんな結果になるかわからないでおじゃるよ…一人の科学者としてはそれも興味があるところでおじゃるが…」
「あ?な、なんだとてめぇ、もう一度言って見やがれっ!!」
「ひ、ひえぇ〜暴力反対でおじゃる〜」
ゼルの迫力にオダインは部屋の隅にあった戸棚の陰に逃げ込んだ。
「ゼル、そう熱くなるな。まじめに相手にすると疲れるだけだ…」
今度はスコールがゼルをなだめる。
「…オダイン、本当にセルフィがジャンクションしているGFを解除する方法は無いんだな?」
「そ、そのとおりでおじゃる。残された資料からも確実でおじゃる。ただ…」
「ただ…?何だ、いいから言え」
ここまで聞いたんだ、これ以上何を隠すことがある…いつものように冷静なスコールの言葉はそういっているようだった。
「ただ、彼女がジャンクションしているGFに関する資料には、まだまだ不足している部分があるのも事実でおじゃる。
それに、彼女がこのGFをジャンクションしたいきさつや、GFをジャンクションしたきっかけとなる事件とか記録とか、
そう言う客観的な資料がまったく見つかってないでおじゃる」
「…それは、ジャンクションをはずす方法が無いと同時に、セルフィを助ける方法がないとは言い切れない…そういう
意味だと認識していいか?」
スコールの言葉にオダインは無言で頷いた。
「そうか…なら、俺達がすることは一つだ」
「?どうするつもり、スコール」
リノアが心配そうにスコールのほうを見つめて尋ねる。
「…俺達全員で、セルフィがGFをジャンクションしたことに関係がありそうな資料、映像、証言…手がかりとして
使えそうなものを片っ端から集める」
「あ…」
その場にいた全員が息を呑んだ。誰もが思いついたが言えなかった事、十年近く昔のことなんてどうしようもない…そう決め付けていた。
「そして、セルフィ本人からも聞き出せるだけの情報を聞き出す。そうすれば、きっと何かしら手がかりは見つかるはずだ」
「…だ、そうだ。さて、じゃあ俺はもう行くぞ。やることがわかった以上こんなところにいるのは時間の無駄だ」
スコールの言葉が終わるのを待っていたかのように、資料の束を机の上に投げ出すとサイファーが席を立って、
部屋を後にする。その後を追うかのように風神と雷神も席を立った。
「お、おいおい、サイファーのやつ、止めなくていいのかよ?!」
その様子をみたゼルが、今しがたサイファーが姿を消した出口のほうを指差す。
「…ああ、あれでもあいつなりにセルフィのことは心配なんだろ」
「で、でも、あいつ資料を…」
「『俺、チキンゼル違。資料一回見、全部暗記。』サイファー言葉」
ゼルの言葉に気付いた風神が部屋を出て行く直前に残したその一言で、会議室に集まっていたメンバーのほとんど
にやっと笑みが戻った。例外だったのは、
「あ、あのヤローっ!」
サイファーの言葉に激怒するゼルは当然だったが、もう一人、会議中、ずっと俯いたまま資料を見つめて塞ぎこんでいた青年にもまた、
笑顔は無かった。
「セフィ…きっと、助けてみせる…」
彼は資料を硬く握るとそのままコートのポケットにねじ込んで、ゼルをたしなめるスコールやリノアをよそ目に、
会議室を後にした。誰もが、彼の様子が普通でないことに気付いていたが、あえて声をかけなかった。彼が、
セルフィの次に、この事実を受け入れがたい人物であり、そして誰よりもセルフィを助けたいと願っているに違いないことを、
そこにいた全員が知っていた。
「今日が6月最後の日。セルフィの誕生日まであと16日だ。そして、それまでにセルフィを助ける方法を見つけないと…
あいつの命は、無い!」
残った全員に念を押すようにスコールが言った。その声に頷くかのように、今まさに部屋の外に出ようとした青年の
背中まである長髪が静かに揺れた。
その、翌日。再び打ち合わせのためにガーデンの会議室に集まった面々の中に彼の、アーヴァイン・キニアスの姿は無かった。
セルフィが入院してから2週間、スコール達は手分けをしてセルフィと彼女がジャンクションしたGFについて調査を行っていた。
トラビア、バラムの両ガーデンに残る古い資料やオダイン達、エスタでの魔女研究、GFや擬似魔法研究についての論文、
ラグナとエルオーネがアデル支配時代の官僚から偶然聞きだした、エスタとトラビアの国境にあったというGF研究所の話…、
集められた情報は膨大なものになっていた。その中から、スコールとゼル、シド学園長が中心になって関係ありそうな情報を
ピックアップしていた。その一方で、リノアとキスティス、イデアの3人が毎日セルフィの病室にお見舞いに訪れていた。
もちろん、その目的としてはセルフィからGFに関係する情報を聞き出すことであったが、加えてセルフィが病名も告げられぬ
まま病室に閉じ込められていることで不安にならないようにするためでもあった。
「おっはろ〜、今日も来たよ〜♪」
「あ〜、リノア〜。待ってたよ〜」
病室のドアが開けてリノアが顔を覗かせると、待ってましたとばかりにベッドの上のセルフィが読んでいた本を置いて手を振った。
「あ、何読んでたの?」
「ん?これ、図書委員の三つ編みちゃんから借りたんだ〜。まだ図書室に入れる前の新刊だよ〜」
と、得意げに開いたまま伏せていた本の表紙をリノアに見せて掲げた。
「あ、知ってる、知ってる!この本面白いんだよね〜、あたしも自分で買って今読んでるんだよ〜」
それからしばらく、たわいも無い話が続く。本の話を始まりに、ガーデンの生活、流行の服、今年の夏の予定、
そしてスコールの愚痴、年頃の女の子同士、話題は尽きない。だいたい話しているのはセルフィとリノアの二人が中心で、
そこにキスティスがときどき参加する形になっている。イデアはもっぱら聞き役か病室の簡単な片付けをしたり
持って来た華を飾ったり…といったカンジである。そして、ある程度話題が尽きたところで、リノアがふと切り出す。
「そうだ、セルフィ。また今日もトラビアの話してよ〜」
「え〜、今日も?毎日毎日、リノアも飽きへんな〜」
「いいじゃない〜。わたしだってガルバディアでパパと一緒だった頃やティンバーでレジスタンスしてた頃の
話してるんだし〜。こんな話、こういう機会でもないとすることないじゃん」
「しゃあないな〜。それじゃ、こんなんどうや?あれはあたしがトラビアガーデンに入ってすぐのころなんやけど…」
こうやって、セルフィの昔話を一つずつ聞いていく。もちろん、例のGFに関係ありそうな話が無いかどうか彼女の一言、
一言に注意を払うが、
「…ってなもんや。どや?面白い話やろ?」
この2週間、セルフィの話すトラビア時代の思い出話は、GFとはまったく関係ない話だった。
しかし、その2週間の話が全て無駄というわけでもなかった。お見舞いのあと、セルフィの話をまとめていたリノア達
が気付いたことが一つあった。セルフィが話すトラビアガーデン時代の話に、まったく話題に出てこない期間があった。
それは、彼女が10歳前後、しかも特定の時期の話だけがまったく出てこない。このことを、毎日膨大な資料と格闘する
スコール達に話して調べてもらった結果、興味深い事実が判明した。
セルフィはその時期、トラビアガーデンの恒例行事として年少クラス卒業を来春に控えたその年の夏、上級生に連れられて
初めて実戦形式の訓練に参加していた。訓練が行われたのはかつてエスタがアデルに支配されていた時代にエスタと
トラビアの国境にあったGF研究所。そして、その実践訓練中、セルフィと彼女を引率していた上級生グループは謎の
爆発事故に遭遇していた。
翌日、リノアは思い切ってセルフィにそのことを聞いてみた。しかし…
「あ、うん。そんなことあったらしいね…」
「え?あったらしいって…」
「うん。あたしな、事故のときの記憶、全然ないねん。そのときのお医者さんには『ショックがあまりに強すぎて
部分的に記憶を無くしてるんじゃないか』って言われたけど…」
セルフィの言っていることはうそではなかった。事実、彼女は事故のあと約一ヶ月間、病院に入院してい
たという記録が残っていた。そして、セルフィから事故のことに関してそれ以上聞くことはできなかった。
それからさらに2日が経った。タイムリミットはついに明日。結局資料や文献調査でも大きな手がかりは
つかめず、リノアたちがセルフィから聞き出せた情報も決定的な決め手になるような話は無かった。
「くっそぉ、これだけ調べて…どうして何も重要な資料が残ってねぇんだ?」
「やめろ、ゼル。壁に穴が開く…」
もう何箇所もへこんだ跡があるバラムガーデンの会議室の壁に拳をぶつけるゼルを見てスコールが言い放った。
言い方は悪いが、それは彼なりにその場の雰囲気を和ませたい、その一心での言葉だった。
「そうね。確かに不自然すぎるぐらいに何も出てこないわね。セルフィからGFについての話が聞き出せないのは、
私も心理学はよくわからないけど彼女の心の傷とか嫌な体験とか、そういうのが関係してるんじゃないかな…
って想像もつくけど。客観的、物質的資料に関しては、明らかに誰かの手によって隠蔽されているか、もしくは
削除されてるとしか考えられないわ」
キスティスはこれまで調べ続けてきた成果と呼ぶには、あまりに頼りない情報をまとめたレポートを最初から
見直しながらそう呟いた。
「…ねぇどうなっちゃうの…、このままじゃ、セルフィが…」
その場に集まった全員を見渡しながら訴えるリノアの声と、それに続く泣き声だけが静かに悲しく、
辺りを包んでいた。そして、それにつられるかのように西の水平線に消えた太陽を追いかけて、
東の空から漆黒の夜の闇がバラムの街を多い尽くそうとしていた。
『嫌っ、何もしないで逃げ出すのはもう嫌っ!』
モンスターからセルフィをかばう様にして陣形を組んだ上級生達が次々と血の海に崩れ落ちていく。
『馬鹿っ、逃げるんじゃない。ここは俺達が食い止める。だから、早く先生やSeeDを呼んでくるんだっ!』
銃を構えながら上級生の一人がセルフィに向かって叫んだ。その間も彼らを襲うモンスターの攻撃の手は止まない。
鋭い鍵爪にまた一人、犠牲者が出た。エスタとトラビアの国境にあるGF研究所。エスタがアデルの支配から解き放たれた直後、
新たに政権の座に着いた大統領の命令で即座に閉鎖が決定された。それから数年、もはや近寄る者はなく、
そこはモンスターの住処と成り果てていた。しかし、一般の民間人ならともかくガーデン生、ましてやSeeD候補生として
訓練を受けている生徒にとって、その探索は年少クラスのお守りをしながらでも十二分にこなせる任務…のハズだった。
『くそっ、こんな強力なモンスターが居るなんて…先生やSeeD達は一言も言ってなかったぞ!』
仲間の傷口に回復魔法をかけながら別の上級生がぼやいた。ルブルムドラゴン、山奥や特定の地域でしか見かけるはずの
無い大型のドラゴン。それがなぜか、研究所の地下に居た。といっても、地下エリアの存在を見つけたこと自体偶然だった。
探索の途中、たまたま立ち寄った部屋の床にあった隠し扉。興味本位でその下に降りたことが間違いだった。通路にそって
進んだ彼らは巨大な部屋にたどり着いた。バラムやトラビアにあるガーデンのホールと同規模かそれ以上、ただ広く何も無い空間。
『なんだぁ、ここは?』
その規模にあっけに取られていた彼らが次に見たものは暗闇にうごめく赤い2つの眼だった。
『くそっダメだ。通常の擬似魔法じゃほとんど通じねぇっ!』
擬似魔法の上級クラスであるファイガやブリザガも、ルブルムドラゴンにはほとんど効果が無いようだった。
『いいから、セルフィ。君は早く行くんだ。ここまでの通路は一本道だった。帰り道はわかるだろ?!』
『でも、でも。あたしはもう何からも逃げないって決めたの。強くなるって決めたの!』
『それならなおさらだ。大丈夫。俺達は負けない。だから、早く、先生やSeeDを呼んでくるんだ。先生達ならきっと
GFを持ってるはずだ。それさえあれば…ちぃ!伏せろっ!』
ルブルムドラゴンが吐き出した高熱のブレスがセルフィたちの頭の上を掠めていった。
『行けっ、早く行ってGFをガーディアンフォースを持ってくるんだっ!』
『…う、うんっ』
上級生の気迫に押されて、セルフィは一目散に走り始めた。もと来た道を必死に、全力で。地下に下りた
階段を見つけてそこを上ったまではよかった…。しかし、そこから先はまったく覚えていなかった。
『出口はどっち?先生達は何処?GFを、GFを持って帰らないとみんなが…』
何処をどう走ったのか覚えていない。しかし、散々さ迷った挙句、彼女がたどり着いた先は、さっき上がって
きたばかりの地下への階段がある部屋だった。自分の無力さにセルフィはその場に座り込んで泣き出してしまった。
『ねぇ…お願い、誰か。誰か助けてよぉ!GFが無いと、みんなが、みんながっ!』
泣きながら大声で叫んだ瞬間だった。
『力が…欲しいの?』
『え?あなた…誰?』
声に反応して振り向く。と、そこには不思議な格好をした少女が居た。蒼色で腰まである髪に、全てを見通して
いるような深いエメラルドグリーンの瞳、その顔はセルフィより少し数歳年上…のようではあったが、まだ何処か
あどけなさが残る。ワンピース風の黒いドレスはノースリーブでスカートは膝丈ぐらい。足元は同じく黒色の
膝まであるレザーのブーツ、そして何より一番眼を引いたのは少女が右手に持っていた銀色に鈍く光る大きな鎌…。
確かに部屋の中にはさっきまで自分しか居なかった…全ての状況からセルフィにも彼女が『人』ではないことに
はうすうす気付いていたが、それよりも今は地下でドラゴンと戦っている仲間を助けるほうが彼女にとって重要だった。
『…そう、ボクのことはどうだっていいだろ。君は仲間を助ける力が欲しい。そしてボクは君の求めるものを持っている…。』
セルフィの心の中を見透かしたような少女の言葉に、セルフィははっとして我に返る。
『!そうだ、みんなが!ねぇ、助けてお願い。この下に、ドラゴンが居てみんなが戦って…』
セルフィは少女に駆け寄るとその肩をつかんで訴えた。しかし、少女は表情一つ変え涙でがとめどなくあふれる
セルフィの瞳を見つめて尋ねる。
『…本当に君はボクの力が欲しいんだね?…』
『そう、お願い。お願いだから、助けて!』
『…この代償は高くつくよ…。それでも、君はボクの力を望むの?』
『なんでもいいから、早く。お願い。あなた一人じゃダメなら誰か呼んできてくれてもいいから!』
『…じゃあ、最後の質問だ。君はボクの力を手にすることで、何を失ってもかまわないんだね?たとえ、
それが自分の命だったとしても…』
命…と言う言葉に幼いながらにセルフィは少し戸惑った。はたして、そこまでして助けるべきなんだろうか?
そこまでする理由があるんだろうか?しかし、セルフィはすぐに思い直した。魔女戦争のとき、自分を
かばって目の前で命を落とした両親のことを。何もできず、ただ幸せが消えて行くのを見ていることしかできなかったことを…
『…かまわない。あたし一人の命でみんなが、幸せでいられるなら!』
心は決まった。セルフィは涙を拭って少女の目を見つめ返した。
『…わかった。じゃあ、ボクの力を君に貸そう。』
そう言って、少女がかすかに微笑んだ直後、少女の身体が半透明になったかと思うと、そのままセルフィの
身体を包んだ。次の瞬間、真っ暗な部屋の中にカメラのストロボのような閃光が走った。そして…
『な、なんだぁ?』
ルブルムドラゴンと死闘を繰り広げていた上級生達は不思議な揺れに一瞬その手を止めた。
『地震か?』
『馬鹿、よそ見してる場合かっ!』
仲間の声で我に返り、目の前に迫るドラゴンの鍵爪を寸前で避けると物陰に身を潜める。
『くそっ、いい加減手持ちの魔法も銃弾も尽きてきたぜ。このままじゃ全滅だ…』
忌々しそうに、ドラゴンのほうを見つめながら、同じ物陰に隠れているさっき自分を助けてくれた声の主である
リーダー格の上級生にぼやいた。
『わかってる。…セルフィまだか、早くしてくれ…』
すでに10人以上いた上級生のうち、その半数はひどい怪我を負って戦える状態ではなく、中には
手持ちの回復魔法では治療しきれないほど危険な状態の者もいた。
『ん?おい、あれセルフィじゃないのか?』
声に促されて仲間の一人が指差すほうを見た。確かにそれはセルフィだった。彼女はルブルムドラゴンの正面に立っていた。
『!せ、セルフィ、危ない、逃げろっ!』
リーダーとしての責任感から、大声で叫ぶ。と、その声にルブルムドラゴンが反応して首の向き
を変えた瞬間だった。セルフィの周囲の空間が陽炎が立ち昇るように揺らめいたかとおもうと、セルフィの前方の
空中に不思議な少女が現れた。不思議な衣装、蒼い髪、そして右手には銀色の大鎌。その少女は空中に
浮かんだまままっすぐルブルムドラゴンに向かっていった。ドラゴンがその気配に気付いて振り向いたときは
すでに遅かった。ドラゴンの鼻先に迫っていた少女が両手に握りなおした銀色の大きな鎌が振り下ろされて、
同じ色の閃光がドラゴンの身体に吸い込まれていった。次の瞬間、ゆっくりとルブルムドラゴンの首が胴体から
滑り落ち、操り人形の糸が切れたように胴体もその場に崩れ落ちた。そして、それを見届けたかのように少女の姿
はまた陽炎のように消えていった。
『あ…あれは、いったい。』
上級生達は目の前の光景が信じられないという風にしばらく呆然と見つめていることしかできなかった。
「いや、もう何もしないで逃げ出すのはいや…」
眠ったまま泣いているセルフィの涙を彼はそっと拭った。
「セフィ…もうすぐ終わるからね…」
そういって、彼はベッドからセルフィの身体を抱きかかえると病室を後にして、非常階段を上った。
あらかじめ用意してあった屋上への扉の鍵を使うとドアはすんなり開いた。
「さて、ここならいいだろ…そろそろ出てきてくれないか…聞こえてるんだろ?」
セルフィの身体を屋上の床にそっと下ろすと、優しい口調で誰かに語りかけた。すると床に寝かせた
セルフィの身体の周りが陽炎のように揺らめいたかと思うと、一人の少女が現れた。蒼色の髪、緑色の瞳、
そして、月明かりで鈍く光る銀色の…
「…貴女がコードネームCRAVE?」
「…その名前を知ってるということは、君はボクの、そして、この子に起こったことを全てを知ってるんだね…」
「まあね、結構危ない橋渡ることになったけど。多少強引にでも行かないと、真実にはたどり着かないと思ってね…」
そういいながら、彼はこの二週間の自分の行動を振り返っていた。我ながら大胆なことをしたな…と。
彼がまず最初にやったことは、事件があった現場へ行くことだった。刑事ドラマや推理小説でよくある、証拠は全て現場
にあるというのをマネてみた…そんな単純なことだった。しかし、これが彼に予想外の収穫をもたらす。研究所は長年放置され、
なおかつモンスターや泥棒によって荒らされたのか、資料と呼べそうなものはほとんどまともな状態で残っていなかった。
そんななか、彼は研究所の一番奥の部屋にあった端末の一つに古びたMOが残っているのを見つけた。その中身こそ、
彼が真相にたどり着く切り札となった。
次に起こした行動、それは当時の関係者に会うことだった。最初は皆、一様に『知らない』と
『関係ない』、そして『忘れた』の一点張りだったが、何度も通いつめるうちにポツポツと断片的ではあるが、情報が
集まってきた。地下室、ドラゴン、謎の少女、そして、当時のトラビアガーデン上層部の気になる噂…、実は同じ頃スコール達も
同程度の情報は手に入れていた。しかし、それとセルフィがどう繋がるのか、そして、トラビアガーデンの上層部の噂については
決定的な証拠が手に入らず、加えてトラビアガーデンサイドからの圧力もあって結局調査を断念せざるを得なかった。
しかし、彼は違った。最後に彼が訪れた場所、それはトラビアガーデン学園長室。最初は、とぼけてしらを切っていた
トラビアガーデンの学園長ではあったが、当時の関係者の断片的な情報をまとめて彼が作った書類と研究所で見つけたあの
MOの内容、コードネーム『CRAVE』の資料を突きつけると、表情を一変させて、真実を語ったのだった。
十年前、セルフィが参加したトラビアガーデン恒例の実践訓練。GF研究所は生徒の安全を考えて十分な事前調査を行った
結果選ばれた…はずだった。しかし、実際には元々エスタ所有の施設ゆえにその情報は決して多かったとは居えず、SeeDや
トラビア軍による現地調査も、実践訓練後の政財界の要人を招いたパーティーに費用を掛けすぎたことで予算的な問題が発
生して、3日間行われるはずの調査を1日に短縮して行っていた。
そして、事件は起きた。トラビアガーデンの教官や万が一のために待機していたSeeDが異変に気付いて地下の現場に
駆けつけたときは、すでに全てが終わっていた。ルブルムドラゴンの攻撃で大怪我を負った上級生達、
息絶えたドラゴンの屍、そして、ドラゴンの血に染まり呆然と座り込むセルフィ…事の重大さを痛感したトラビアガーデン
上層部はその日のうちに調査チームを組織した。調査チームはあらかじめ事前調査のときに
研究所のいたるところに設置していた監視カメラのVTRや、上級生達の証言、現場の研究所に残っていた資料やデータから
事件の一部始終をまとめあげ、セルフィにジャンクションした少女のGFがコードネーム『CRAVE』という名前で、新しいタイプの
GFとしてエスタが研究していたものであることまで突き止めた。
しかし、事件の内容があまりに過激であり、
かつモンスターによってガーデン生に多くの怪我人が出たことに、トラビアガーデン上層部は事件の公表を禁止。関係者全員に
緘口令をしくと同時に、公には研究装置の一部が漏電したことによる爆発事故ということで処理した。そして、
コードネーム『CRAVE』をジャンクションしてしまったセルフィは、当初危険な存在として見られていたが、検査の結果、
彼女が一連の事件の記憶を失っていることと、『CRAVE』が発動する危険性が無いことが判明すると、念のため事件前後の
記憶を催眠療法で封印すると、その他の上級生達と同じようにそのままトラビアガーデンに復学することにさせた。
「いや、君は立派だよ。君や彼女の仲間も頑張っていたけど、あと一歩及ばなかったみたいだし…」
きっと、スコール達のことだな…彼はそう直感した。
「…じゃあ、僕がこうして貴女を呼び出した理由も…わかるよね?」
「ああ、君が彼女の身代わりになる…と言うんだろ?」
少女は足元で眠るセルフィを見下ろしながら言った。
「ふふっ、さすがにトラビアガーデン初のSeeD、察しがいいね…」
「…そんなの昔の話さ。過去なんてたいした意味は持たない。大事なのは今、ボクはこうしてここに居るとことだ」
少女は悲しそうに満月を見上げながら言った。
「…そうだね。僕もこうして今ここにいる。それだけでいい。最期にセフィと一緒に居られる。それだけでいいんだ…」
「…一つだけいいかい?君はなぜ、彼女の身代わりになってもいいと思うんだい?彼女は、自分の命のことにはとっくの昔から
気付いている」
「………」
「もちろん、ボクがコンタクトを取っていたのは彼女の意識の深層心理の部分だから表面上にはまったく現れないけど…
それでも彼女は自分の死を、運命を受け入れている。いわば、これは彼女自身の意思だ。それでも君は、彼女の身代わりを
望むのかい?」
「…ああ。だって、僕は今までずっと彼女の心の奥にある傷に気付いてあげられなかった。いや、なんとなく
感じていたけど、確信がもてなかった。握った手からときどき伝わってくる想いはいつもあやふやで…本当は
『助けて、アーヴァイン、あたしもっと生きたいよ』って言いたかったんだろうなって…」
「…だから?身代わりになるのはその罪滅ぼし?」
少女が淡々と尋ねる。
「そうかもね…。僕は今まで何もしてあげられなかった。僕にとって一番大事な人に。でも、
それ以上に彼女の幸せを願うからかな…。彼女が幸せになること、それは僕の幸せでもある。それが例え一瞬だったとしても。
彼女とその幸せを共有できるなら…それでいいんだ」
「…君の想いはわかったよ。じゃあ…いいね…」
少女の視線が満月から再び彼に向けられた。
「ああ…」
そういうと、彼はトレードマークのテンガロンハットを眠っているセルフィの手に握らせると。少女に背を向けて座り込んだ。
「一瞬で終わらせてくれよ。じゃないと、痛いのとか苦しいの好きじゃないんでね…」
「…わかってる。ボクだって好きじゃないさ…」
彼の真後ろに少女が立った。そして、両手に握りなおした銀色の大鎌が、傾きかけた満月に翳されたかと思うと、
一気に振り下ろされた。
「…っつ……」
次の瞬間、バサリという音とともに彼のもう一つのトレードマークであった背中まであった長髪が地面に落ちた。
一瞬何が起こったのか、彼にはまったくわからなかった。
「…10年分の代償、確かにもらったよ…」
少女の声が静かに聞こえてきた。
「ありがとう、…………」
彼はお礼とともに少女の本当の名前を呼んだ。GFにされたときに付けられたコードネームではなく、
彼女が、一人の、彼やセルフィと同じ『人』として満月を見上げていた頃の名前を。
「…懐かしい名前で呼んでくれるんだね…」
少女はそういいながら座っている彼の前に立って、手を差し伸べた。
「まぁね、一度覚えた女の子の名前は忘れないようにしてるから…」
少女の手を取りながら彼は苦笑いしながら答えると、それにつられたように少女も初めて満面の笑顔を見せた。
「ふふふっ、面白いな君は。そういえば、君の名前を聞いてなかった…」
「僕は、アーヴァイン、アーヴァイン・キニアス…」
「ありがとう、アーヴァイン…」
最後にそう言うと、少女は微笑みながら、かすかに白み始めた東の空に溶けるように消えていった。
「な?GFが消えた!?」
朝、病院を訪れたスコール達はオダインと主治医の説明にあっけに取られていた。
「はい、まったく不思議なんですが。昨日までのことがまるで嘘のように…」
そういって、昨日と今日の日付が入ったデータを一つずつ見せながら説明していく。SeeDである
彼らは任務中の怪我や事故に対応するために多少は医療の知識がある。もちろん、専門的な分野の細かい部分に関しては、
本業の医者にはかなわないが、それでも今説明されているデータがどれほどオダインと主治医の
説明を裏付けているかは一目でわかった。
「…ど、どういうことだよ。なぁ、スコール?」
「俺が知るか。とにかく、これでセルフィは無事なんだな」
「ええ、念のため経過観察としてあと2〜3日は入院していただきますが…今の時点ではまったく
身体的にも精神的にも問題はありません。ねぇ、オダイン博士」
主治医の言葉にオダインも無言で頷く。
「はぁ〜、よかったぁ…」
一瞬にして気が抜けたのか、リノアがその場にへたり込んだ。
「お、おい、何してるんだ」
「だってぇ、急に安心したら…ふ〜って力が抜けて…ねぇ、スコールおんぶして♪」
朝から、しかも人目も多い病院でそんなことができるわけがないだろ…スコールは頭を抱える。
「あのな…。そうだ、せっかくだから注射でも打ってもらうか?そしたら直るかもな…」
「ちょ、そ、それはパスっ!ほ、ほらリノアちゃんは元気です〜!」
スコールの注射という言葉に驚いたリノアは飛び上がるようにして立ち上がった。
「ほら見てみろ。自分で立てるじゃないか…」
「う…もう、スコールのいじわるぅ…」
リノアはスコールの胸に飛び込むと、彼の胸をグーでポコポコ叩く。
「あ〜んっ、ゴホっ…、そ〜いうのはガーデン帰ってからにしとけ、スコール…」
『あ…』
ゼルの忠告で、周りの気まずい視線に気付いたスコールとリノアは慌てて距離をとる。
「くくくく、相変わらずのバカップルだな、をい」
その様子を見てサイファーがお腹を抱えて爆笑していた。
「んんっ、あ〜、で、そのセルフィには会えるんでしょうか?」
真面目モードに戻ったスコールが主治医に尋ねた。
「あ、ええ。大丈夫ですよ。そういえば、今朝からもう一人、お見舞いにいらしてますよ」
「え?いったい誰が?」
「え〜っと、ほら、あの最初にセルフィさんのことについて説明したときに居た、長髪でテンガロンハット被ってた…」
スコール達は顔を見合わせた。そんなわかりやすい特徴をしている知り合いは一人しか居ない。
「え、それって…」
「もしかして…」
『アーヴァイン?!』
「ほら、あ〜んして、セフィ♪」
「え、ええって、自分で食べれるって…」
スコール達がアーヴァインがなぜここに居るのか首をひねりながら、セルフィの病室に向かおうと
エレベータに乗り込んだころ、病室の中ではアーヴァインとセルフィがこのあと訪れる喧騒を予想もせずに
ほんのひと時の二人きりの時間を過ごしていた。
「ところで、なんで、アーヴァイン髪の毛切ったん?あんなに自慢してたのに…」
短くなったアーヴァインの髪の毛を見てセルフィが尋ねる。
「あはは〜、いやいや。夏で熱いしさ、ほらイメチェンだよイメチェン」
そんな二人のほほえましい姿を、病室の窓の外、病院の傍にある楠の大木の枝に座って静かに眺めるあの少女の姿があった。
といっても、普通の人間にはまったく見えていない。なぜなら彼女は人ではない。エスタとアデルの魔力によって、
一人の少女が犠牲にされて作り出された試作型のGF、EM-GF01。通称、コードネームCRAVE。何かを強く求める者にしかその
存在は見ることができない。そして、彼女の力を求めた者はその代償として何かを失う。ただし、失うものは彼女の力
を求めた者の心次第…
END
どもKallです。久しぶりの新作ですが、いかがでしたでしょうか?夏らしく多少ダーク(というかホラー?)な作品にしてみましたが…
え、結構ストーリーが謎だらけだぞ?いや、ほら近年はやりじゃないですか。多少の謎を残したまま終わっていくアニメとかドラマ(をい)
ついでに、書いて終わって気付きましたが"アーセル"と銘打っている割には二人揃っているシーンは最初とラストだけという展開、
いつものスコリノのように激甘を期待していた皆様には素直にごめんなさいです(謝)
さて、でこれ、いつものとおりイメージしてる曲があるんですが、それは以前掲示板で僕がちょっと話題にしていた、友人から
メッセンジャーで送りつけられた謎のMP3@アニメかゲームの主題歌風でしたが…、え〜実は、つい先日その正体が判明しました。
MP3をもらったのとは違う知人(学生時代理系だとそういう人脈に案外事欠きません・爆)で、ゲームとかアニメに詳しい友人に聞いて
もらったところあるゲームの主題歌でした。しかし、ゲームはゲームでもいわゆる『18歳未満のお子ちゃまはだめですよ』
なゲーム(爆)ということで、今回はそれ以上の情報は無しということで(滝汗)まぁ、どうしても知りたいと言う人が居ましたら
個別にメールで対応します、はい^^;
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