dejavu?


 これは今を去ること、10数年前の春、まだ幼かった彼らにとってはなにげない日常の些細な出来事に過ぎなかった…

 「たすけてぇ〜〜」
 「まてぇ〜〜」  ぽかぽかと暖かいひだまりに包まれた昼下がりの公園に元気な子供達の声が響く。 走って逃げる1人の女の子と、それを追いかける数人の男の子。女の子は外ハネの ショートカットにタンポポで作った髪飾りを付け、男の子達は各々が手にプラスチック製の おもちゃのガンブレードやエアガンを持っている。
 「それ〜わるいまじょをやっつけろ〜〜!」
男の子の一人、長髪を後ろで束ねた子が威勢良く大きな声をあげる。 『魔女の騎士ごっこ』…昨年、話題になった映画「魔女の騎士」を元ネタにした彼らの大好きな遊びの一つだった。
 「お〜〜!!」
残りの男の子達のうち、さっきの子と対照的な髪型をした短髪の子は元気にかけ声をあげてそれに応えるが、 もう一人の子は、冷めた表情で黙ったままだ。
 「あっ、スコールもゼルみたいにへんじしてよ〜〜」
長髪の男の子が文句をいうとやっとその男の子、スコールもやる気がなさそうにではあるが「お〜」と応えた。
それから数分と経たないうちに男の子達は魔女役の女の子をジャングルジムに追いつめた。
 「さあ、セルフィ…じゃなかった、わるいまじょめ。もうにげられないぞ!かくごしろ〜」
また、さっきの長髪の男の子が台詞を言う。
 「ああ〜、たすけてください、アービンさん。わたしはわるいまじょじゃないんです〜」
両手を胸の前で組んで助けを乞う演技をする魔女役のセルフィ。その姿にアービンと呼ばれた男の子が動揺する。
 「そ、そ、そ、そうだよ〜、セルフィがわるいまじょのわけ…」
セリフの途中で自分が何を言おうとしているか気が付いたアービンははっと我に帰る。これは「遊び」なんだと。  「あ…そ、そんなうそにだまされないぞ〜、ゼル、スコール〜、やっちゃえ〜」
少し動揺を残しながらもアービンのセリフでエアガンやおもちゃのガンブレードを構える男の子達。
台詞や状況は違えど、原作でもあったヒロインの魔女の大ピンチ。ここで、本職のシナリオライターなら ひとひねりした展開を持ってくるのだろうが、幼い子供の遊びである、展開は原作に忠実にならなくても 自ずから決まってくる。
 「まてぇ、おまえたち!!」
ジャングルジムの上から、おもちゃのガンブレードを持った魔女の騎士役の男の子がセルフィとアービン達の間に飛び降りる。
 「このおかたにふれることはまじょのきしであるこのサイファー・アルマシーさまがゆるさんっ!!」
おもちゃのガンブレードを構えながら自信満々に原作そのままの台詞をこのサイファーという男の子は言ってのけた。
その入れ込み具合には映画を見て主人公の魔女の騎士に憧れ、去年のクリスマスプレゼントに『魔女の騎士』のビデオを ねだったというエピソードもあるぐらいだ。
 「なにお〜、まずはこいつからやっつけちゃえ〜!」
サイファーに一番に向かっていくのはアービン、しかし、ここは主役とやられ役の悲しき性。 あっというまにやられて、ガンブレードで切られた…というカンジで「や、やられた〜」と倒れ込む。 次は、短髪の男の子、ゼルも向かって行くがもちろん結果は同じ。
 「おい、おまえもかかってこいよ」
最後に残った一人に向かって挑発的な手招きをするサイファー。が、それはあの冷めている男の子、 スコール、サイファーの挑発にも微動だにしない。
 「……はやくやれよ、やられてやるから…」
と、言いたそうな仏頂面でおもちゃのガンブレードを構えもせず無防備に立ちつくしている。
 「じゃあこっちからいくぜ〜!!」
振りかざしたおもちゃのガンブレードを思いっきり振り下ろすサイファー。次の瞬間、スコールはさっと攻撃から身をかわす。
 「なんだよ、にげんじゃねえよ!!やられるんだろ??」
 「…ああ、やられるフリならしてやるよ。でもさっきのはよけなきゃあたった…もっとちゃんとやれよ…」
 「いいじゃねえか、こういうのには「りありてぃ」ってのがひつようなんだよっ。 おまえがちょっとだけいたいのがまんすりゃいいんだ、わがままいうんじゃねぇよっ!!」
そう言うと、構えなおしたおもちゃのガンブレードを振り回しながらサイファーはスコールを追いかけ始める。  「どっちがわがままなんだか…」 そんな様子をやられたフリをして倒れていたアービンとゼル、魔女役だったセルフィが顔を見合わせて苦笑い しながらそれを見ていた。
 「だよね〜、でもスコールも、なんであんなノリがわるいのかなセフィ?」
 「さあ?あたしにそんなんぜんぜんわからへん…あっ、スコール、うしろあぶないっ、ぶつかるっ!!」
 「?!」
ガンブレードを避けることに手一杯だったスコールが気付いたときはもう遅かった。 スコールの後ろには彼といきなりぶつかって何が起こったのか分からないで困惑している女の子の姿があった。
 「ちょ、ちょっとまて…」
 「なにっ?!」
ほんの少しの差だった、サイファーがその女の子の存在に気付いた時には遅かった。 振り下ろされたおもちゃのガンブレードは次の瞬間、ぱこ〜んという軽快な音でその女の子の頭に…と思いきや、 その寸前で止まっていた。そのかわり、女の子とおもちゃのガンブレードの間にはスコールの右腕があった。
 「お、おい、だいじょうぶかよ〜?!」
 「うわ〜いたそう〜…」
駆け寄ってきたゼルやセルフィ達は口々にスコールの心配をする。が、スコールは彼らの心配をよそに、 まだ呆然と立ちつくしている女の子に話かけた。
 「おい、おまえ、ケガしてないか?」
 「…え?う、うん」
話しかけられてようやく我に返ったその女の子、よく見るとこの辺では余り見かけない子だ。 長くてさらさらした黒髪で、髪と同じ色をした吸い込まれそうなその瞳にこんどは他の全員が見とれていた。
 「?!あたしのかおになにかついてる?」
 「う、ううん、なにもついてないよ〜。それより、いっしょにあそぼ!」
即座に笑顔で応えたのはアービン。
 「おなまえは〜?」
 「あたし?あたしリノア!ねえ、みんなは?」
 「え〜っと、ぼくはアーヴァイン、でもながいからみんなアービンってよぶんだ。 こっちのおんなのこがセルフィで、そっちがゼル、それとおもちゃのガンブレードふりまわしてた あいつがサイファーで、リノアちゃんとぶつかったこいつがスコールっていうんだ〜。 そうだ、ふたりともリノアちゃんにあやまっとけよ〜」
 「いいよ〜べつに〜けがしてないし〜。それより、みんななんさい〜?」
 「よんさいだよ〜」
こんどはアーヴァインに代わってセルフィがリノアの質問に答える。
 「あっ、じゃあみんなほいくえんとかようちえんのおともだち?あたしはね〜、 がるばでぃあようちえんのひまわりぐみさんなんだ〜。きょうは、ようちえん おやすみだからぱぱのおしごとについてきてたの」
聞き慣れない地名や言葉の混じった質問に一瞬どう答えて良いか迷うが、なんとか理解できた範囲で答えを返す。
 「うん、みんなともだちだよ〜。じゃあ、リノアちゃんとおくからきたんだね〜。 ところで、リノアちゃんのぱぱは〜?」
 「う〜ん、なんかだいじなおはなしがあるからこのこうえんであそんでなさいって。 ところで、みんななにしてあそんでたの?」
 「『まじょのきし』ごっこ!!!そうだ、リノアちゃん、まじょやくやってよ〜。 あたしよりぜったいにあうよ〜」
 「あっ、それなら、せっかくだからまじょのきしやくもかえようぜ〜」
 「なんだと〜ゼル。まじょのきしやくはおれがいちばんあってるだろ〜?」
 「そんなのやってみなきゃわかんね〜ぜ〜」
 「じゃあ、やるか〜このちきんやろう!!」
サイファーとゼルの険悪な雰囲気を察したアーヴァインが助け船をだす。
 「やめなよ〜、ここはこうへいにまじょやくのリノアちゃんにきめてもうらおうよ」
 「え、え、…いいの?あたしがきめちゃって??」
いきなり魔女役に抜擢され、さらにその相手役、魔女の騎士の決定権までまかされて驚くリノア。 しかし、そんなリノアが抜擢した騎士役の人物に今度は逆にアーヴァインやセルフィが驚かされた。
 「じゃあ…スコール…くんだっけ…さっき、あたしかばってくれた、きみがやって」
 「なっ…」
 「うそだろ、おい…」
信じられないと言うリアクションのゼルとサイファーの驚きをよそに、リノアは他人事のような顔をして そっぽを向いているスコールに近づいて、その手を握って、念を押す。
 「ね?いいでしょう?」
 「…わかったよ。やりゃあいいんだろ…」
 「わ〜い、じゃあはじめよ〜!!」
 それからどれくらい時間が経ったのか…最初こそ、リノアの決めた異例のキャストによるとまどいが スコール達から消え去り、『魔女の騎士ごっこ』もそろそろ終幕というときだった
 「リノア!そろそろ帰るぞ〜!」
という声に全員の動きが止まる。声のする方を見ると公園の入り口に一台の黒塗りの車が止まっていて、 その中から立派なスーツに身を包んだ男が笑顔でこちらを見ている。
 「あっ、ぱぱ〜!!」
嬉しそうに車に駆け寄っていくリノア。スコールやサイファー達もその後を追って、車に駆け寄る。
 「あれが、リノアちゃんのぱぱ?」
 「すっげ〜、かっちょい〜」
先に車に辿り着いたリノアはさっと車に乗り込むと少し父親と何か話すと、窓を開けてそこから顔を出す。
 「じゃあね〜みんな〜、ぱぱがきたからかえるね〜」
「また、あそぼうね〜」
 「うん!!」
 「こんどは、おれたちのうちにこいよ、げーむとかまんがとか…それにほかにもともだちたくさんいるからよ」
 「うん!!こんどね〜」
 「またな…」
 「うん、きっとまたあおうね!!」
そんなやりとりを見ていたリノアの父親がいつの間にか車から降りてきていた
 「リノアと遊んでくれてありがとう」
一人一人にちいさなつつみのキャンディ一個ずつを渡してお礼を言っていった。 そして、リノアの父親が再び車に乗り込むと車はゆっくりと動き始めた。
 「じゃあね〜、みんな〜バイバ〜イ」
窓から身を乗り出して手を振るリノア。そして、それを見送るスコール達もその姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

 奇しくもその日、イデアの家に帰った彼らはその夜あった人気のアニメの特番を見てこの日の出会いを すっかり忘れてしまう。

さらに、その数年後、各ガーデンへとバラバラになりイデアの家を去り、結局あれから会うことの無かった その少女のことを、彼らは今でも思い出せないでいる…


END


 うい〜っす、Kallで〜っす。2000年夏休みin実家のまずは一発目、ほのぼのにちょっと混じるスコリノ??… というカンジです(笑)そんでもって、今作は台詞に一工夫。おこちゃまの言葉ということで全部無変換、 名前以外はひらがなオンリーにしてみたんですが…これ、思ったよりも苦労したり(^^;; <句読点ちゃんと入れないと意味不明文になる(苦笑)でもって、ストーリーは僕の実体験も少し混じってますね〜。 けど、これはみなさんにも経験有りません?幼稚園から小学校低学年ぐらいのころ一、二回だけ遊んだ子とか 転校しちゃった子とかあんま覚えてないって(←自分だけだったらどうしよう)だから、 スコール達ももしかしたらリノアとどこかで会っていてそれを覚えてない…ってのもありかなと(苦笑)