[Baby Maybe?] [3]
リノアに子供が出来たかもしれないという噂は、あっという間にガーデン中に広まった。
一部では喜び、一部ではひがみ、様々な反応を見せる。
リノアは容易に外へ出れなくなり、スコールに至っては生徒たちの前に出るたびに冷やかされる。
この騒ぎの首謀者は他ならぬセルフィだった。
彼女はもう確定したといわんばかりに騒ぎ立てている。
そして、懐妊パーティーを密かに計画しているという。
スコールはセルフィにこの騒ぎを止めさせようと彼女に詰め寄った。
「この騒ぎの原因は…あんただろ?」
セルフィは相変わらずの能天気さでスコールに応対する。
「よかったねえ、パパ」
「…まだ確定したわけじゃないんだ。違ってたらどうしてくれる」
セルフィは上目遣いにスコールを見る。スコールはこれに弱いと調べ上げていた。
ちょっと涙目で叱られた子犬みたいな…。
しかし、スコールの表情は変わらない。どうやらリノア以外の人間がやっても効き目は無いらしい。
セルフィは諦め、溜め息をついた。
「会議室に溜まってる報告書をやりましょう」
スコールは考えている。新年の始めからどっと仕事が舞い込み、
部屋の2割ほどを占めている報告書の山をセルフィは1人で片付けようという。
数人でやってもかなり大変なのに1人でやろうと言いきるのにはよほどの自信があると見える。
「わかった。じゃあそうしてもらおうか」
そう言うなり、スコールは踵を返した。が、セルフィが進路を塞いだ。
「あのさ…もし、ほんとだったら…もうちょっとリノアの側にいてあげてよね。リノア…すっごく寂しそうなんだからね」
少し、胸が痛んだ。不安がってるリノアの姿。いつもスコールの心を締めつけてる。
「…わかった」
スコールとセルフィはそれぞれの条件を飲んで、その場を後にした。
その後1週間は何も無かった。騒動もだんだん落ちついてきた。
スコールも任務で忙しい日々が続いていた。
リノアも以前倒れた事が原因でカドワキ先生に安静を命じられていた。
リノアはいつも大人しく部屋にいた。スコールが無事に帰ってくるように。
そしていつものように「ただいま、リノア」と言って笑ってくれる。それを願いながら日々を過ごしていた。
セルフィは、たまに様子を伺いに行く。そしてその度に曇った顔のリノアにセルフィ自身も、悲しい気分になった。
そしてスコールに対して怒りを抱いた。
そもそも、この騒動には裏があった。
仕事ばかりでいつも、リノアの側にいてやれないスコールをいつも責めた。
「リノアがかわいそうだよ!」
「そんな事分かってる…でも仕方ないんだよ」
そんなやり取りばかりで上手く事が運べない。
彼がSeeDであることが一番の原因でもある。
いっそのことSeeDを止めてしまえばいいのに。世界は彼を必要としている。
スコールは世界の騎士じゃない。魔女の…リノアの騎士なのに。
大きく騒ぎ出せばやがて世界中に広まって、皆がリノアの気持ちに気づいてくれるんじゃないか。
皆がリノアを気遣ってスコールを雇わないでいてくれたら。
あり得ない話でもそれがセルフィにとって精一杯の願いだった。
スコールがいなくたって十分他のSeeD達だけでも任務をやってのけられる。やっていける。それぐらいやれる。
リノアに責められても、スコールに叱られても、世間に嘘吐きだとののしられてもいいから。
自己を犠牲にしてでも、自分がそしてリノアが願ってる事を叶える事が出来たら。
リノアとイデアが病院に出かけた。セルフィが黙って大人しく見送る。
セルフィの様子を少し気にかけたが、目の前に待つ運命が気になってそれどころではなかった。
スコールはこの日ちょうど任務から帰ってくる予定だった。
セルフィは1人校門に座りこんで、スコーと,リノアが帰ってくるのを待った。
スコールとリノアの幸せは、セルフィ自身の幸せであった。
友人として、仲間として、孤児院時代の家族として。誰よりも間近で2人の恋を見守ってきた。
誰よりも…。
春が訪れてきてもまだ肌寒い。冬が名残を惜しんでいるのか。
曇天の空がバラムの島を包みこんでいた。
3時間ほど経った頃か。車が1台ガーデンに帰って来た。
車からは任務に出ていたアーヴァイン、ゼル、キスティス、スコールが降りてきていた。
「セフィ〜?そんな所で何してんの?風邪引くよ〜」
アーヴァインが急いでセルフィの元に駆け寄り、自分のコートを掛けてやる。
「リノアが…病院行ったよ」
セルフィは少し睨むようにスコールを見据える。
いつもの能天気なセルフィとは違う雰囲気にスコールは少し怯んだ。
「もうすぐ…帰ってくると思うよ」
「セルフィ…いつも済まない。あんたにリノアの事を頼んで…」
「なんであたしに謝るの?違うよ!少しでもそんな気持ちがあるなら、まずリノアに謝りなよ!スコールはいつも任務で知らないだろうけどさ…リノア…いつも寂しそうで時々泣いてるんだから!」
「泣いて…?」
スコールの心がずきりと痛んだ。
いつものように「ただいま」と言ってだきしめてやるだけじゃ足りない。
それだけではリノアが持っている大きな不安はぬぐえない。
「いつも…『仕方ない』『分かってる』そればっかり!大変なのはあたしにだって分かるよ!でも…リノアはいつも一人ぼっちなんだよ!…いつも寂しいの我慢してるんだよ…」
セルフィのいつもとは違う雰囲気にそこにいた全員が目を丸くする。
「セルフィ…俺は」
もう一台車が止まった.。リノアが帰ってきた。
しかし、車から降りてきたのはイデアだけだった。
「ママ先生!リノアは!どうだったの!?」
セルフィはものすごい剣幕でイデアに詰め寄った。イデアは少し時間を置き、そして首を横に振った。
そしてスコールに車に乗れと合図する。
「リノアは病院のすぐ近くの公園にいるわ。早く行ってあげなさい」
スコールがセルフィを見る。セルフィもスコールを見た。
「リノアが子供を欲しがってたのは『もう独りで待つのは嫌だから、一人ぼっちは嫌だから』だって言ってた。何…やってんのよ!早く行ってあげなよ。もうリノアを待たしちゃダメだよ。もう…リノア疲れてるよ」
スコールは急いで車に乗りこみ、発進させた。
残された5人はスコールを黙って見送っていた。
セルフィだけは強く睨んだまま。
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