METEOR STREAM  〜Loneliness〜
 
 
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3月1日 冬季学園祭当日
(……結局リノアとはあれから一度も会わなかったな…)
特に進展もないままスコールはこの日を迎えてしまった。最大のライバルサイファーとリノアのデートとも言える日を。
(…仕方ない、任務が終わってから色々考えるか…)
任務へ向けての準備も出来、早速出発するか…という瞬間だった。
ルルルルルルル…ルルルルルルル…
「はいスコール・レオンハートです…」
『あ、私シュウだけど…』
「ああ」
『ちょっとばかり言いにくいことなんだけどさ』
「ああ」
シュウの言葉にスコールは単調に答えていた。
『今日任務入ってたでしょ?』
「ああ」
『それ、依頼人が急にキャンセルしちゃって…その…中止になったから』
「……は?」
(なんだって?)
『これ本当は学園長が伝えるんだけど、今留守にしてて私が代わりに伝えたから』
「……」
(ウソだろ?)
『ホント急でゴメンね!!』
(全くだな)
『確かに伝えたから。じゃ!!』
ツーツーツー…
(おいおい…そりゃ無いだろ)
受話器を置き、スコールはベッドに座り込んだ。
(…今さらキャンセルか…いい加減な依頼人だな)
深くため息を吐き、スコールはベッドに寝ころんだ。
(…これからどうしろって言うんだ)
ふと時計を見ると10時10分を回っていて学園祭は既に始まっていた。
(…リノア、サイファーと楽しんでるだろうな…)
そんな事を考えると無性に腹が立って、居ても立っても居られなくなった。
(行くだけ、行ってみるか…)
スコールは体を起こし、慌てて部屋を出た。
 
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 学園祭だけあってバラムガーデンは賑わっており、ガーデンの生徒ではない人々も大勢いた。
(リノア…何処だ?)
かれこれ20分近くリノアを探し回っていたのだが未だ見つけられずにいた。
(…一体何処に…?)
ため息を吐き、近くのベンチに腰を掛けた。そして再びため息を吐き、頭を抱え、顔を伏せた。
「あら、スコール。どうしたの?」
スコールは少し面倒臭そうに顔を上げた。
「ああ…キスティスか」
「あら?リノアは??はぐれたの?」
「…………」
(…そっちの方がずっとマシだ)
「あ…もしかして…噂通り…?」
「…噂?」
「あ!!」
しまったという表情をしながらキスティスは慌てて口を押さえた。
「…なんだよ、噂って」
「な、なんでも無いの!!気にしないで頂戴」
(気にしないでいられるか?この状況で)
スコールが額に手を当てる。
「いいから、喋ってくれ」
「……でも」
「……喋ってくれないと俺が困るんだ!!」
スコールが有り余る勢いでベンチから立ち上がったため、ベンチはそのまま後ろへ倒れてしまった。
「…わ…わかったわ。ちゃんと話すから…」
「…そうしてくれ」
スコールは面倒臭そうにベンチを起こし、再びベンチに腰掛けた。隣にキスティスが座り込む。そしてちらりとスコールの顔を覗き、喋り始めた。
「その…話すと長いから短縮して言うけど…『スコールがあんまりにも任務ばかりで相手にしてくれないからリノアが怒ってスコールを捨ててサイファーに移った』っていう噂なのよ」
(半分当たりで半分外れだな…)
「……でも、スコールの様子を見てるとただ単に『喧嘩した』って感じね」
「………!!!」
「あ、当たり?」
「……」
「まあいいわ。私、そろそろ用事があるから戻るわね」
ベンチから立ち上がり、キスティスは足早にその場から立ち去った。
 
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「あ、あれ食べたい」
リノアが目にしたのは、ほかほかと湯気の立っているたこ焼きだった。
「…買えばいいだろ?」
「…………」
(…なによもう!!サイファーったら!!スコールなら『ああ、じゃあ買ってやるよ』って言っておごってくれるのに!!鈍感なんだから!!)
気持ちを察してくれないサイファーにリノアの怒りは段々と蓄積されていた。
「さっきから何も買ってないな」
「………」
リノアはむすっとしたままサイファーの左隣を歩いていく。
「もしかしていつもスコールにおごらせてたのか?」
「!!」
サイファーの鋭い指摘にリノアは一瞬ビクッとしてサイファーの顔を見た。
(…なんで知ってるの!?)
「その様子じゃあ当たりみたいだな」
「……」
図星を指されたためリノアは何も言い返すことが出来なかった。
「あら、リノア」
「あ、キスティス」
「よぅ」
2人がキスティスに挨拶を交わす。
「ちょっとサイファーに話があるんだけど…リノア、5分ほどいいかしら?」
「うん、いいよ」
リノアがそう頷くとキスティスはサイファーの腕を引きながらリノアからは見えない出店の影で立ち止まった。
「なんだよ?」
サイファーが問う。
「リノアとスコールが喧嘩してるのは知ってるわよね?」
「まあな。それで俺が学園祭に誘われたワケだし」
「それでスコールは、あなたとリノアが一緒に学園祭に来ていることは知ってるのかしら?」
「ああ。俺が教えた」
「あなたが…?…はぁ」
キスティスが深いため息を吐く。
「で?何?話ってのはそれだけか?」
「あ、ちょっと頼みたいことがあるんだけれど…あのね…」
キスティスがサイファーの耳元で囁く。
「―――で、―――だから―――――というワケ」
頼み事の一部始終を聞き終えるとサイファーは少し顔を顰めた。
「なんで俺がそんな事を?」
「いいから!!」
サイファーがニヤリと笑い、口を開いた。
「タダで…とは言わねぇよな」
「………仕方ないわね…そうね…1万ギルでどうかしら?」
「俺のプライドとリノアとの好感度にに関わるんだからな最低でも3万だろ」
「……わかったわ3万ギル出してあげる」
キスティスが諦めたようにため息を吐いた。
「よし!交渉成立だな。早速作戦開始と行くか」
「頼んだわよ。上手く行かなかったら3万ギルは払わないからね」
「はいはい」
そう頷くとサイファーはさっさとリノアの方へ歩いて行った。
「あ、サイファー。何の話だったの?」
待ちくたびれたようにリノアはベンチに座り込んでいた。
「いや、別になんでもねぇよ」
「そう?なら別にいいけど」
リノアがすくっと立ち上がる。
「じゃ、行こっか」
「ああ」
リノアとサイファーは人混みの中へと歩き出した。
「―――でねスコールと結局仲直りしたんだけどさ…」
「…さっきからスコールのことばっかり話してるけどよ、そんなにスコールの事が好きか?」
リノアは歩きながらかれこれ10分近くスコールとの思い出話を話し続けていた。
「俺はアイツが大嫌いだけどな。無愛想で無口だし…なによりリノアより仕事が大好きなんだからな。だからアイツはリノアと約束なんかしねぇんだ。それにいちいち悪い方にばっか物事考えやがって……段々むかついてくる。それから――――」
―――ぱしんっ
サイファーがまだまだスコールのグチを零そうとしている時だった。リノアの平手打ちがサイファーの頬にヒットしたのは。
「スコールには、いいトコたくさんあるんだから!!バカサイファー!!!」
怒りの爆発したリノアはそう言い残すとさっさと人混みの中に紛れてしまった。
「……とりあえず、作戦成功だな」
打たれた左の頬を押さえながら、サイファーはそう呟いた。
                 
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スコールはまだベンチに座り込んでいた。辺りも暗くなってきている。
(…今、何時だ?)
ふと時計を見ると既に6時を廻っていた。
(……もうこんな時間か…)
そんな事を思ったときだった
『冬季学園祭を企画したセルフィで〜す。皆さん楽しんでますかぁ?』
(……どうだか)
『ここで今日の特別イベントを緊急発表しま〜す』
(特別イベント?)
『な、なんと!!カップルのみ参加可能のダンスパーティです!!7時から開催しま〜す。場所はSeed試験後にダンスパーティを行ったあの思い出の場所で〜す。カップルのみんな〜待ってるよ〜』
(……なんだって!?)
『よく聞こえなかった人の為に繰り返しま〜す。特別イベントを――――――』
セルフィの声が響く中スコールは頭を抱えていた。
(ちょっと待てよ。なんだよこの企画は!まさかリノア、サイファーと一緒に参加するつもりじゃ無いだろうな?)
不安が募り、スコールの気持ちはどんどん暗くなっていた。
(くそっ!!元はと言えば俺がリノアの誘いを断ったから…!!)
自分自身に無性に腹が立ったスコールは髪を掻きむしった。
「……………スコール…」
聞き覚えのある優しく、甘い声にスコールは顔を上げた。
「リノア!?」
目の前に立っていたのは紛れも無くリノアだった。スコールは慌てて立ち上がり、口を開いた。
「…どうしてここに…?サイファーと一緒だったんじゃ…」
リノアの目がほんのりと潤んだのをスコールは見逃さなかった。
「スコールっ!!」
リノアがスコールに思い切り抱き付く。
「やっぱりスコールがいいよぅ……ごめんねスコール…勝手にサイファーと学園祭になんか行っちゃって…」
スコールを抱きしめている腕に力がこもる。
「…あんたは悪くない…俺が任務ばかり優先してたのが悪かったんだ。悪かった…本当に…もう、悲しくなんてさせないからな…」
スコールもリノアを優しく包む。そのまま、優しい沈黙の時間が流れた。
 
2人を見守る形でサイファーとキスティスは出店の影から2人の様子を覗いていた。
「…どうやら上手くいったようね」
「俺の手に掛かればこれくらいチョロいことだっての」
「ちゃんと約束の3万ギルは払うわ」
キスティスが財布からお金を覗かせた。
「まずあなたのプライドの損失に一万」
サイファーの手に一万ギルをぽんっと乗せる。
「それからリノアからの好感度マイナスに一万」
サイファーの手には二万ギルが乗っている。
「そしてリノアからのビンタの慰謝料」
キスティスがサイファーの赤くなった頬を見てくすっと笑いながら手にギルを渡した。
「………………そりゃどーも」
サイファーは複雑な笑みを浮かべた。


続く


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