a Day of Garden(前編)


 世界のほぼ中央にある島、バラム。そこにはSeeD養成学校、バラムガーデンがある。毎日、エリート用兵SeeDになることを 目指し、たくさんの生徒が勉学に励んでいる。ところで、ガーデンはバラム以外にもトラビアとガルバディアにもあるが、特に人気が高く 入るのが難しいとされているのが、ここバラムガーデンである。その理由は、卒業生の約8割を各国 の軍隊に送り込んでいるというすばらしい実績もさることながら、それ以上に近年のバラムガーデンの講師陣の充実ぶりが、 その要因らしい。
 「いっけね〜遅刻だよ〜」
寮の自室から飛び出していく一人の少年。彼は、去年みごと高倍率の入学試験を突破し、晴れてバラムガーデン生となった。
 「はやくしねえと授業が始まっちまうよ!!」
走りながら制服の上着に袖を通す。片手には朝ご飯のトースト。あともう少しで教室だ。なんとかぎりぎりセーフか?
 「おいこら!!そこの廊下走ってる奴。ちょっと止まれ!!」
後ろから誰かに呼び止められる少年。トーストをくわえたまま振り返ると、そこにいたのはガンブレードを片手にもった短髪の男。
 「げっ、生活指導のサイファー」
 「おい、おまえ、俺の目の前でどうどうと廊下を走るとは、いい度胸じゃねえか?あん?名前と学年は?」
サイファーは持っていたガンブレードの切っ先を、少年の顔の前に突きつける。まずい、このままではながながとお説教をくらって、 確実に授業に遅れる。
 「あっ、サイファー先生、庭に犬が入り込んでます」
とっさに少年は中庭の方を指さした。もちろん、犬なんて苦し紛れの嘘だ。
 「なにっ、どこだ?」
 「あそこです、ほら。あの茂み。なんかごそごそ揺れてます」
 「くそっ、誰だ!!犬なんぞガーデン内に連れ込んだ奴は」
サイファーは少年が廊下を走っていたのを注意していたのも忘れ、中庭の方に駆けだしていった。
 「ふー、危ういとこだったぜっ。今のうちにっと…」
急いで自分の教室に向かう。どうやらまだホームルームは始まっていないようだ。後ろの入り口から教室の中に入ると自分の席に着く。
 「いやー、間に合った間に合った」
 「なにが間に合ったよ。先生が来てたら完全に遅刻よ」
隣の席の少女が少年に話しかけてくる。彼女は少年の幼なじみでクラスの学級委員。成績優秀で来年のSeeD試験に一発合格間違いなし、 とまで言われている。一方、少年の成績は入学当時こそ普通だったものの、現在は下から数える方が早い状況だ。
 「いいの、いいの。まだホームルーム始まってないんだし」
 「もう…知らないよ。今度のテスト落としてSeeD試験受けれなくても」
 「だいじょーぶ、そんなへまはしねぇよ」
 「本当かしら?」
と、教室の前の扉が開いてブロンドの長い髪を後ろで束ねた女性が入ってくる。女性はこのクラスの担当教官だ。
 「みなさん、おはよう」
 「おはようございます」
生徒全員の元気な挨拶。それに笑顔で答えるとすぐに出席をとる。
 「……と、全員出席ね。では、今日の日程を知らせます。みなさん、パネルの電源を入れてください」
言われたとうりに自分の席の学習パネルの電源を入れる生徒達。
 「今日の日程は、まず1時間目は総合格闘術、2時間目は銃火器の訓練、3時間目は剣術、4時間目は魔法とGF、5時間目は情報処理、6時間目は魔女と歴史学、 の以上です。何か質問は?ありませんね。ではみなさん、またあとであいましょう」
そういうと女性はさっきの笑顔で教室から去っていった。
 「やっぱりかっこいいわね〜、キスティス様」
 「そうよね〜、あのクールな表情がいいのよ〜」
 「でも、やっぱりあの笑顔が一番じゃない?」
教室のあちこちからキスティスFCの女子達の声が聞こえてくる。少年も入学当初は先生にFCがあるのに驚かされたが、 すでに慣れっこになっている。
 1時間目は総合格闘術。授業のある校庭に向かう少年。そこに同じクラスの友人が話しかけてくる。
 「よう、一緒に行こうぜ」
 「おう。それにしても今日もハードそうだよな〜」
 「そうだよな〜。1年たって慣れたっていっても、けっこう厳しいもんな」
 「そうそう、特に今日は昼から教室での授業が3つもあるんだぜ、最悪だよ」
 「お前はいいよ実技得意だもんなぁ。俺は午前中の実技のほうがきついよ」
 「そうか〜…?」
などと話しているうちに校庭に到着した少年達の目の前には、ウォームアップをしている1時間目の担当教官の姿が。
 「おい、お前ら。遅いぞ。走れ〜!!」
走って教官の前までいくとすぐに整列。
 「よっし。じゃあ授業始めっぞ。まずはランニングで校庭10周」
 「やっぱり毎回最初はランニングか…」
 「しかたないよ、ゼル先生。格闘の基本は体力だっていう持論があるもん」
 「まっ、俺としちゃあ楽だからいいんだけどね」
走り終わるとまた整列して、今度は腕立てふせ50回と腹筋30回があって準備運動は終了。
 「じゃあ、今日はこれまでの授業の総復習のつもりで俺と勝負しないか?」
 「えーっ、ゼル先生と〜」
 「勝てっこないよ〜」
 「無理だよ、無理」
生徒の間からはブーイングの嵐。しかし、ゼルはさらに生徒の間から挑戦者を募る。
 「じゃあ、ハンデをやるよ。俺は両手を使わない。これでどうだ?そうだ俺に一発でも攻撃当てれたら食堂のパン おごってやるよ。どうだ?これでも嫌か?」
しかし、生徒はお互いに顔を見合わせるばかり。そのときあの少年が手を挙げた。
 「は〜い、俺が勝負しま〜す」
他の生徒の視線が少年に集まる。
 「おっし、相手は決まった。おい、ルールは急所攻撃禁止以外は特になしでいいな?」
 「いいっすよ」
そういうと少年はゼルの前に歩み出る。
 「じゃあ、お前。俺が両手使えないように後ろ手に縛ってくれ」
指名された生徒がゼルの両手を後ろ手に縛る。
 「よっし、始めようか?さあ、どっからでもかかってこい」
 「いきますよ〜」
少年とゼルは構えてにらみ合ったまま動かない。少し距離を置いて見守る他の生徒達。と、太陽が雲に隠れてあたりが少し暗くなる。 その瞬間、二人が動いた。先に仕掛けたのは少年の方だった。一気に距離を詰める。ゼルは手が使えないから距離を詰められすぎて 懐に飛び込まれないように距離をとる。少年は次々攻撃を繰り出すがゼルは素早くそれを避ける。
 「へへっ、どうしたどうした。そんなんじゃ当たらないぜっ!!」
 「まだまだ、こっからですよ」
しかし、少年の攻撃は依然として当たらない。ところが、知らない間にゼルは壁際まで追いつめられていた。
 「ちぃ、しまった」
 「へへっ、ゼル先生、ちゃんとパンおごってくださいよっ」
飛びかかる少年。避けようとしないゼル。が、次の瞬間
 「あまいぜっ、ディファンレントビートっ!!」
ゼルの必殺技。蹴り上げられる少年。さらに頂点から地面に向かってたたき落とされる。が、なんとか地面に直撃は免れ見事に着地した。
 「ふうっ、俺を壁際まで追いつめるとは。つい本気になっちまったぜ。ところで、大丈夫か?」
少年はぴくりとも動かない。
 「せ、先生こいつ立ったまま気絶してます〜」
 「な、なにぃ〜、おい早く保健室運べぇ〜」
こうして、1時間目は大騒動で幕を閉じた。幸い少年は軽い脳しんとうを起こしただけで命には別状はなく、保健室で手当を受けた後、 カドワキ先生からゼルともども長〜いお説教をうけて3時間目には授業に復帰することになる。
 2時間目は銃火器の訓練。今度は訓練施設に集合する生徒達。ところで、この授業妙に女子達の意気込みが違う。 その理由はこの授業の教官にある。
 「は〜い、みなさ〜ん。授業始めるよ〜」
そう、バラムガーデン講師陣のNo.1色男アーヴァイン。女子が色めき立つのも無理はない。
 「じゃあ、今日はライフルの使い方の授業だよ。あそこに的があるからみんなまずは自分でやってみて〜」
的を狙って生徒が一斉にライフルを構えて撃つ。男子はみんな自分でやっているが、女子の中にはアーヴァインにかまってもらいたくて
 「せんせ〜い、これどうやるかわかんな〜い」
とわざとわからないふりをして、アーヴァインを呼ぶ女子も。そして、アーヴァインもそれをわかっていて、
 「しょうがないなぁ〜、いいかい、これはこうして…」
と手取り足取り個人授業。だから授業中は女子にかまう一方で男子はほっとかれたまま。でも、そういう授業にかぎって 成績は男子の方がよかったりする。ま、そんなこんなで無事に2時限目が終わりかけたとき、不意に女子生徒の一人がこんな事を言った。
 「ねぇ、私先生のお手本が見た〜い」
 「よ〜し、じゃあ、ちょっと見ててね〜」
そういうとアーヴァイン、的に向かって自分の銃”エグゼター”を構えると引き金を引いた。弾は見事に的のど真ん中に命中。女子生徒達 から「すっご〜い」とか「かっこい〜」とかの声が挙がる。調子に乗ったアーヴァイン、弾の種類も調べずにポケットの中にあった銃弾を ”エグゼター”に込めるともう一発、的に向かってBANG!!すると次の瞬間、的が火に包まれた。どうやらさっきのは火炎弾だったらしい。 的は一気に燃え上がる。普通の銃で撃っていればそれほど一気に燃えないだろうが”エグゼター”は訓練用のライフルなんかとは桁が違う。 弾の破壊力は訓練用のライフルの数十倍に増幅されている。あっというまに的の火が周辺に燃え移る。
 「わわっ、早く消さなきゃ。みんなバケツ持ってきて〜」
しかし、その程度では消えないくらい火は一気に燃え広がる。結局、運良く近くにいた情報処理担当のセルフィのブリザガとクラス担任の キスティスのアクアブレスによって無事に消化された。もちろんその後アーヴァインは二人からきつーいお説教を受けた。
 3時間目はそのまま訓練施設にて剣術の授業。教官はスコール。相変わらず口数は少ない。
 「じゃあ、始める。みんな剣を構えろ。まずは素振り」
全員剣を構えてスコールのやるとおり素振りをする。
 「次は上段の構え」
 「次は中段」
 「次は下段だ」
てきぱき授業を進めるスコール。そうそう、ゼルと戦って気絶した少年も復帰。なにせ少年が一番頑張って受けている授業がこの剣術の授業。 その腕はクラスでも1、2を争うほどの腕である。さて、基礎を復習後は模擬戦。形式は1対1の勝ち抜き戦、今日も少年は順調に 勝ち続ける。
 「おい、これで俺の勝ちだぜ。昼飯お前のおごりな」
 「ちぇっ、はずれちまった」
 「くっそー。おしかったのになぁ」
どうやら少年でトトカルチョをしている不届き者は少年の友人。というより、実は少年と友人はあらかじめ裏でうち合わせ済み。 自分たちが一番儲かるように勝ち負けを調整しているのだ。今日は少年が最後まで勝ち抜く予定。が、賭けにハプニングは付き物。 訓練施設の入り口から入ってきたのは生活指導のサイファー。
 「げっ、まずい」
顔を背ける少年。
 「おい、スコール、このクラスに俺をだましやがった奴がいるかもしれん。調べさせろ」
どうやら、今朝の少年の嘘にだいぶご立腹のご様子で犯人探しをしているらしい。しかし、スコールは聞く耳をもたない。
 「だめだ、今は授業中だ。後にしろ」
 「なんだと、てめえ。先生をだます生徒を注意するより、授業を続けるのが大事か?」
 「そうだ」
 「スコール…貴様ぁ…」 サイファーのガンブレードを持つ手が震えている。それを見てスコールは自分のガンブレード”ライオンハート”を手にする。
 「どうしてもだめか?」
 「ああ、だめだ」
 「俺がこんなに頼んでもか?」
怒りを押し殺してサイファーが頭を下げる。しかし、スコールはクールな表情で言い放つ。
 「だめだ、あとにしろ」
その瞬間サイファーがガンブレードで斬りかかる。それをライオンハートで受け止めるスコール。こうなっては生徒では止められない。 少年は学級委員の少女に向かって叫ぶ。
 「おい、早くリノア先生よんでこい」
 「あっ、うん」
職員室に走っていく少女。そのあいだも二人の戦いは激化していく。少女がリノアを呼んできたとき、すでにあたりはまるで爆破テロ でもあったかのような様子。アルテマやメテオ、果てはエンドオブハートやアポカリプスまで飛び出す始末。すでに訓練施設の入り口は 壊滅状態。生徒はおのおのシェルやプロテスを使い外れた攻撃が飛んでこないところに避難している。
 「リノア先生、お願いします」
 「しょうがないわね、二人とも、ダブル…ストップ!!」
不意にスコールとサイファーの動きが止まる。
 「さっ、みんなもう大丈夫よ」
避難していた生徒達がぞろぞろと出てくる。
 「ふー、たすかったぜー」
 「ほんと、私死ぬかと思っちゃったわ」
 「みんな、ごめんねー、あとできちんと二人にはお説教しとくから」
 「そんな、リノア先生が謝ることはないですよー」
 「そうだぜ、気にしないでくださいよ」
 「そお?じゃあ悪いけど男子のみなさんで二人を学園長室まで運んでくれない?あと女子はここの簡単な後かたづけと、 二人のガンブレードをキスティス先生のとこまで持っていってくれる?」
 「はーい、わかりました〜」
こうして、3時間目は剣術の授業ではなく訓練施設の大掃除となってしまった。ところで、少年のトトカルチョはどうなったかって? もちろん無効になっちゃいました。人間悪いことはできないものです。


to be continued…


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