Lose of Memory(前編)


[ガルバディアガーデン 学園長室]アリア
 今日はサイファーが久し振りにSeeDの仕事で軍の方に行っている…スコールとリノアにあちらで落ち合うと言っていた。
 あたしは授業に出てもしょうがないから授業の時間はここにいる。
「いいなぁ、リノアはSeeDじゃないのに一緒に行けて……ま、強いもんね……」
 今ごろはもう会っているんだろうな〜。
 ……時間経つの遅いな…
 あたしはいつの間にか彼の机に伏せて眠ってしまった。
 目が覚めた時は通信機がけたたましく鳴り響いていた。
【トゥルルルルル………】
【カチャ】
「はい、こちらガルバディアガーデン…」
『アリアっ!助けてっ!』
「えっ?」
 この声……リノア?
「ちょっと待って、一体どうしたの?」
 モニターの向こうには涙を浮かべたリノアの姿らしきものが…画像がちらついてうまく見えない。これって通信ファイバーの故障?
『スコールとサイファーが……』
【ガタンっ】
あたしは立ち上がり画面に食い入る。
「二人がどうしたのっ」
『い……の…上……に………から…すぐに……』
【シュン…】
「あ……」
 モニターが消えた。
 なんだろう…ひどく胸騒ぎがする。
 あたしは居てもたってもいられずに外に向かった。

[ラグナロク]リノア
 切れた通信機。しょうがなく電源をOFFにする。
「切れちゃった……どうしよう…ねぇサイファー」
 思わずサイファーに助けを求める。
 ラグナロクの操縦席のシートにもたれかかりサイファーは苦しそうに顔を歪めている。
「…アリアに言ってもしょうがないだろう……余計な心配をかけるだけだ…それよりも…くっ……ガーデンはまだか?」
 サイファーの座っている席から血が滴り落ちる。
「もうすぐ着くよ、でも1週間はかかる依頼を1日で終わらせるなんて……普通じゃないよ!」
「おい……スコールはどうした?」
 苦しそうなサイファーの声。
 あたしはスコールが横になっているシートに近づいた。
 彼はすやすやと寝息を立てている……あんな事があったのに……やれやれ困った王子様だ。そっとスコールの髪の毛に触れる。
「いいか……そいつの為に余計な事喋るんじゃねぇぞ……ガーデンに着いたら雷神を呼んで保健室にそいつを連れて行け」
「え……でも…」
「いいな 」
 サイファーはあたしを睨んでいる。しょうがないな……もう。
 ため息をついてうなずいた。
 やがてラグナロクがガルバディアガーデンに到着する。

[ガルバディアガーデン 正門]アリア
 正門から空を見上げると、ラグナロクが着陸態勢に入っていた。
 いてもたってもいられずにラグナロクに駆け寄る。
「サイファー……」
 コクピットが開き中からリノアに支えられた彼が出て来る。
「ど……どうしたの?ひどい怪我……」
 彼はあたしにどさっと寄りかかると酷い咳をした。
 口から血が吐き出る。
「………!」
「アリア、サイファーを帰すね、雷神は?」
 リノアが正門に向かって歩き出す。
「あ、たしか今はSeeD候補生の講義でR7の教室に行っているはず」
 リノアはそれを聞くとさっさと中に入ってしまった。………どうしよう、サイファー…こんなに酷い怪我をしているなんて…
 それよりもとにかく保健室に……
「よい…しょ……」
 彼はぐったりとあたしにもたれている。
 多分気を失ったんだ………なおさら早く行かなきゃいけないのに、このっ…もう。
 だ…駄目だぁ。
「誰かに手伝ってもらわないと……」
 どうしようもできない自分がすごく腹立たしい。
「………おい、あんた学園長抱えて何してんだ?」
 背後から突然声をかけられる。
 振り向くと背の高い……サイファーよりは少し低いかな?
 ナチュラルショートヘアでインテリっぽいメガネをかけたどことなく高貴っぽい雰囲気の男子生徒が、冷めた目であたしを見ながら立っていた。
「お願いっ、手伝って!サイファーが……サイファーが…」
 パニック状態にあったあたしは涙を浮かべながらその男子生徒に助けを求める。
 じっとあたしとサイファーを見つめているその人の瞳はちょっと冷めた感じがしたけど、ふぅ…とため息をつくと、
「しょうがない、後は任せろ……それともあんたついて来る?」
「あ…もちろんついていく」
 その人は何も言わず彼を背負うと、保健室まで彼を連れて行ってくれた。

[ガーデン 保健室]アリア
 保健室が近くなってきた。
 あたしは一足早く、ドアを開けて彼が来るのを待っていた。
「一体どうしたの?アリア……あらミドウ君まで……って、が…学園長!」
「東条センセっ、早くサイファーを助けてっ」
「何があったのかわからないけど……わかったわ、とにかくあなたたち洋服を着変えてきなさい。早くしないと血が取れないわよ?」
「あ……」
 本当だ、あたしは彼を受け止めた前の部分が……
 ミドウって人は背中の部分が血で染まっている。
「あの、ミドウさん…ありがとう。おかげで助かった」
「………」
 ミドウさんは何も言わずにじっとあたしを眺めている。
 なんか悪い事したかな?
「アリア……ここまで連れて来たって事は、ミドウ君あなた達の事を全て知っているの?」
 東条先生に言われてはたと気がつく。
 あ!
 慌てて口元に手をやる。
「一体これはどういう事だ?あんた生徒だろ?学園長とどんな関係なんだ?」
「いや…あの……これは…」
 どっと冷汗が出る。
「あらまぁ、知らないわよ〜」
 東条先生はサイファーの治療を始めている。
 ど……どうしよう。アリア絶対絶命〜。
【シュン】
「急患だもんよ〜、トラビアガーデンの学園長が意識不明だもんよ」
 そう言いながら雷神がスコールをお嬢様だっこで抱えて入ってきた。
「今度はトラビア ちょっと待ちなさい。もう意識不明ならベッドもうひとつ空いている方に寝かせておいて、うちの学園長の方が危ないわ」
 うそ……
「先生っ、お願い!サイファーを助けて」
「わかっているわよ、私に任せてとにかく……そこの彼女」
「は……はい」
 リノアが返事をする。
「手伝ってもらうわよ、いいわね」
「わかりました」
「後はさっさとここから出ていって!」
 そう言われるとあたしたちは廊下に追い出された。
 そんな……サイファーが危険な状態…今までどんな状況でも平気だったのに…でもそうだよね、サイファーだって無敵なウルトラマンじゃないもん。
「アリア……元気出すもんよ、そんな顔していたらサイファー悲しむもんよ」
「雷神……」
 思わず彼の胸で泣き出してしまう。
「大丈夫だもんよ、あれでいて意外とサイファーしぶといもんよ」
 ……フォローのつもりかな?
「あのな、あんたさっきから俺のことまるで無視しているだろ」
 ふいに第3者の声……って、あ…忘れていた。
「アマネ=ミドウ……アリアどうしてこいつがいるもんよ???」
「あのね、サイファーをここまで運んでくれたんだけど…どうしよう、説明しろって言ってるの」
「言えばいいもんよ」
 って……言ってもいいわけ?
「いいのかなぁ」
「ミドウは口が堅いもんよ、それに次期SeeDナンバー1だもんよ。信用できるもんよ」
 ミドウ君……しょうがないな。取り乱したあたしも責任がある事だし。
「大体の事情は察したよ」
「えっ?」
 彼は冷めた感じで話し出した。
「あんただろ?噂になっていた学園長の女って…」
「噂?」
 嘘…そんなの知らない。
「一部の学園長ファンが言っていたんだよ、ファンって言ってもここ1〜2ヶ月の間だけど、どうも学園長の雰囲気が変わったっていうので舞い上がった女共が作ったらしいけどな……」
「ファン…」
 そんなのがあったんだ……なんか複雑な気持ち。
 ま、あっても不思議じゃないけどね。
「でもなぁ…ふぅん。学園長もあんたみたいなのが好みとはね……」
 そう言ってミドウはくくくっと笑った。
 むかっ。
「ちょっと!あなたねぇ、言っていい事と悪い事が………」
「あぁ、わかっている。だから言ったんだ」
 むかむかむかむか、嫌な奴〜〜。
「この事は他言無用だもんよ」
「わかりました、まぁ自信はありませんが……」
 そう言って敬礼していくと彼は離れていった。
「アリアも着替えた方がいいもんよ、私服でかまわないもんよ」
「でもサイファーの事が…」
「アリアが来るまで俺がここにいるもんよ」
「うん……わかった。じゃあ行ってくるね」
 そして足早にそこを離れた。

[ガーデン 保健室]リノア
 思ったよりもサイファーの傷は酷かった。
 次から次に先生の指示が飛ぶ。アリアの為にも彼には良くなってもらわなくちゃ。
「う………ん」
 突然聞きなれた声が背後から聞こえた。
 声のする方を見るとスコールが頭を抑えながら起き上がっていた。
「うぅ…ここは?」
「スコール!気が付いたんだぁ。よかったぁ〜」
 思い切りスコールに抱きつく。
「あぁ、どうした?リノア……」
 スコールはそう言うとにっこり笑ってあたしの頭を撫でてくれた。
 なんか違うような……
「よし、こっちの方は終了。おや、意識不明のもう一人の学園長が気が付いたんだね?」 「意識…不明?」
「そうだよ、スコール何も覚えてない?」
「はぁ……何だかよく…まぁいい、ここは?」
「ガルバディアガーデンよ、その保健室。はい手を出して……」
 スコールは言われるまま手を出す。
「………ん、正常ね。異常無し、起きても大丈夫でしょ?」
「はいお世話になりました」
 そう言うとスコールはあたしの手をとって保健室から出る。
 ドアの向こうにはアリアが心配そうにして立っていた。
「アリア…」
 サイファーは大丈夫だよ。
 そう言おうとしたところをスコールがさえぎった。
「アリア……涙の跡…泣いていたのか?」
 そう言いながらそっと彼女の涙をなぞる。
「なななな、スコール 」
「ちょっと…どうしたの?」
 あたしとアリアはほぼ同時に叫ぶ。
「ん?なんだい?」
 な…なんだい?って絶対スコールの台詞じゃないっ!
 スコールはにこにこ笑っている。
 絶対変!どこか打ち所が悪かったのかなぁ。
「どうしよう〜スコールが変になっちゃったよ〜」
 あたしはその場にぺたりと座り込んだ。
「なんだリノア…しょうがないなぁ。ほら立って」
 あたしの腕をとって立たせてくれる。
 違う…どうしよう。スコールが……

[ガルバディアガーデン 学園長室]リノア
 久し振りにほぼ全員が集まった。バラムガーデンじゃなくてガルバディアガーデンだけど……
 スコールの様子が変なのと言ったらみんなが来てくれた。
 よかったぁ…これで何とかなるかも知れない。
 と、ふいにスコールの声が後ろから聞こえてくる。
「あぁ……そうだ、今度一緒に行かないか?一度ゆっくりキスティスとは飲みに行ってみたかったんだ……じっくりとね」
 そう言いながらスコールはキスティスの肩に手をまわす。
 むかっ
「あ、スコールずるい!あたしは?たまにはかまってくれへんと〜」
「そうだな、セルフィとは海水浴でも楽しみたいな。俺がちゃんとそばに付いていてやるさ」
「うっわー、嬉しいっ」
 むかむか……
「あら、スコールじゃあ私も一緒に行っても…」
「もちろん、楽しみにしているよキスティス。君の水着姿……想像するだけでもう…」
 なに?あのスコールの態度っ!
 信じられない〜。
 保健室に付きっきりだったアリアが一旦こちらに来てくれた。
「ごめんね、皆が来てくれているのに……」
「いいよ〜、それよりもサイファーの具合はどうだい〜?」
「うん、もう大丈夫。ただそばに居てあげたいから……風神、あとはお願いしてもいいかな」
「御意」
「あ…アリア」
 保健室に戻ろうとした彼女を引き止める。
「ん?リノアどうかした?」
「あのさ、スコールが……」
 アリアはスコールを見て目を丸くする。
「あーっ、スコール!なにしてんのよ 自分の彼女ほっておいて他の女性に現を抜かすなんて〜」
 スコールはアリアを見ると、にこっと微笑み立ち上がって彼女を抱き寄せた。
「悪かった……君が俺の女だなんて気付かなかったんだ。ほんの少し意識が朦朧としていて……」
「¥@#%!」
 アリアはあまりの事に悲鳴が言葉になっていない。
 ぷち……
 限界。
「あんじぇろ……行ってスコールの目を覚ましてあげて」

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 「いっけぇ〜、アンジェロキャノンッ」
左手のブラスターエッジにアンジェロをセット(?乗せて)スコールめがけて発射。
 「本当にすまない、アリア。お詫びに今度、海の見えるレストランで食事でも…?!うわっ!!」
ドガッ…と鈍い音がして見事にアンジェロはアリアを口説いていたスコールの頭に命中♪その勢いでスコールは床に倒れ込む。ふ〜んだっ、あたしを怒らすとこうなるのよっ…・でも、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ?
 「つっ……」
あっ、気が付いたのかな?
 「大丈夫、スコール?いきなりごめんね〜、でも元はと言えばスコールが悪いんだよ〜、あたしという彼女が居ながら…」
 「?!彼女…あんた、何言ってるんだ?」
 「ほへ?何言ってるって…あっ、わかった。みんなのまえであたしを彼女って呼ぶのが恥ずかしいからそんな風に言ってるんでしょ?」
 「は?俺がいつあんたを彼女にした?俺はそんな覚えはないぞ」
え?ちょ…もしかして本気で言ってるの?なんか嫌な予感…
 「それにな、俺には女にかまってるような時間は無いんだ。俺の計画ではまず来年には上級官僚の試験を突破してエスタ政府に入官することになっているんだからな。そのあとは頃合いを見て議員に転身、最終目標はエスタの大統領だ」
目標は大統領?…あちゃ〜、どうやらさっきよりも打ち所が更に悪かったみたい。もう、いったいどうすればいいの〜〜〜〜〜〜?



to be continued…




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