Lose of Memory(後編)


バラムガーデン 保健室】アリア
 あれから一週間、スコールはトラビアガーデンに戻らずバラムガーデンの自室にこもってガリ勉状態。部屋を出るのは食事と本を探しに図書室に行くときだけ。そして、あたしやみんなはもとより、はては彼女のリノアでさえも部屋に立ち入らせない。 それでも、なんとか数少ないスコールと会えるチャンスにあたし達はそれぞれが思いつくありとあらゆる手段を使ってスコールをもとに戻そうと奮闘したけど…
 「みんな、どうだった?」
保健室に集まったメンバーの表情からその結果は想像が付くけど一応聞いてみる。
 「全然だめ〜、僕やセフィが差し入れ持っていっても入れてくれないし、Eメール送っても返辞無し。廊下ですれ違ったときに わざとらしくセフィとじゃれ合って見せたら『二人ともそんなことなら他でやれ』って言われるし…」
と、お手上げポーズを取ってみせるのはアーヴァイン。
 「俺のほうも手応え無し…んぐ…食堂であったとき『腹へってねえか?パンおごってやるよ』って言ったら 『そんなものはいらん、俺はこっちの方が良い』つって…はむはむ…相手にもしてくれなかったぜ」
…ってなんでゼルはパンを食べながらしゃべってんの?えっ、スコール見つける前に買ってあまっちゃった…はぁ、まいっか…
 「私の方も失敗。スコールが教官室に質問に来たときに『少しは勉強休んで私と遊びに行かない?』って誘ったら 『教官が生徒に遊びに行くように勧めるとはな…』って私に軽蔑した視線向けて帰っていったわ」
うっわ〜、それあたしが前にいた世界だったら絶対先生に嫌われるタイプ〜。
 「みんなだめかぁ…あれ、そういえばリノアは?」
 「さあ?さっき部屋でセフィといっしょになんかごそごそやってたよ」
 「じゃんじゃじゃ〜ん、みんなおまたせ〜☆」
うわっ、びっくりした〜…っていきなり現れたリノア。あれ?…
 「どうしたのその格好?」
見るとリノアはいつもの水色の服じゃなくて、薄黄色のワンピース。
 「ん?これ?これがあたしの作戦なの」
 「あっ、もしかして、それリノアがスコールと初めてあったとき着てたやつでしょ?」
 「そっ、アーヴァインご名答〜♪」
 「なるほどな、全部覚えてないなら…はむはむ…んぐぐ…み、水……ふう〜…最初から教え直す…ってことか」
は〜なるほどね〜、さすがリノア、スコールの事に関しては着眼点がちがうな〜。
 「で、いけそうなの、リノア?」
 「う〜ん、どうかな〜、でも結構可能性は高いと思うんだ〜」
 「そうだね、スコールのこと一番理解してるのはリノアだもん」
 「えへへ、て、照れるぜ…な〜んてね。さて、そろそろ準備終わったかな?」
準備?そういえば、一緒に居たっていうセルフィの姿が、それにサイファーも来てないし…
 「さ、みんなも一緒に行こう〜☆」
と、リノアに誘われるままあたし達は保健室を後にした。

 【バラムガーデン 大ホール】ゼル
 リノアに誘われるまま、俺達はガーデンの大ホールに向かった。すると…
 「ひゃ〜、すっげ〜、全部あの時のまんまじゃん…」
ホール内の飾り付け、テーブルや椅子の配置だけならまだしも、そのテーブルの上の料理や飲み物までそっくり再現してやがる。
 「おい、ほんとすげ〜よな〜って?あれ?」
と、振り返るとみんな居ない…ありゃ?もしかしてみんなとはぐれちまったか?しかたなく、一人でホールの中をふらふらと見て回る。
 「……あっ、これ美味そう…」
と、美味そうな鳥の唐揚げを見つけてつい手が出る。
 「こらっ、そこ何してんねん!!」
 「わっ!!」
いきなり怒られて唐揚げをつまもうとしていた手を慌てて引っ込めて、声のした方を見る。
 「なんや、ゼルか〜」
 「せ、セルフィかよ〜…もう、脅かすなよな〜」
 「ど〜したの、セルフィ、何かあったの?」
 「あっ、気にしないで、リノア。ゼルがつまみ食いしようとしてただけ」
 「な〜んだ。それよりゼルも早く着替えてきてよ」
 「え?着替える?」
 「そうだよ、ほら、みんな向こうでSEEDの制服に着替えてもらってるんだ」
と、リノアが指さす方を見ると会場の隅の方のカーテンで仕切られた小さな更衣室の前にSEEDの制服に着替えた他のみんなの姿が。
 「はやく、ゼルも着替えてきてね」
 「あっ、ああ…」
 「それと、これ、ちゃんと覚えておいてね」
ん?なんだこりゃ?なになに『スコール記憶取り戻し大作戦台本』?ぺらぺらと中を覗くと…ゲッ、俺台詞あるじゃん。
 「うわっ、細かいな〜……」
 「そりゃそうや、あたしとリノアであの時のパーティの参加者と記録ビデオ全部調べ上げて作ったんやからな」
そ、そこまでするってか……

 【バラムガーデン 大ホールの屋根】アーヴァイン
 「では、みなさんしばしのご歓談を…」
ホールの中から漏れてくる司会者の声と参加者達(というより共演者?)の楽しそうな話し声。あとどれくらいあるんだろ?… 手元の台本をめくってこの先の予定を確認する。
 「え〜と、あと少しして、セルフィから合図があったら流れ星、で、そのあとはダンスの音楽が終わった直後に花火でラストかぁ」
まだまだ先は長いなぁ…いいよな〜、セルフィもキスティスもゼルもサイファーも、みんなお芝居とはいえパーティに出れて。 それに対して僕は…

一時間前…

 「アーヴァインはパーティに居なかったから…悪いけどこれお願い」
とリノアに渡されたのは台本とメテオの魔法とエグゼター用の弾丸100発。
 「??こんなのどうすんの?」
 「ん?まず、アーヴァインはセルフィの合図でメテオを使って、流れ星を表現。あっ、この近くに落としちゃダメだよ。ある程度遠くに落と さないと流れ星に見えないから。で、こっちの弾丸はダンスが終わったところでのラストの花火」
 「ええっ、花火?」
 「うん、最初はね、本物の花火用意しようと思ったんだけど…予算の都合で出来なくなっちゃって。で、仕方ないからこの弾丸に フレアとファイアの魔法を詰め込んで花火らしく仕上げたんだ」
はぁ、手が込んでるというか、せこいというか…でも、スコールの記憶を取りもどすためだしね〜。
 「OK。じゃ、僕はおとなしく屋根で星空でも見上げてこの計画の成功を祈ってるよ」
 「ありがと〜。そうだ、これ今度セルフィとデートの時にでも使って」
リノアが差し出したのはコンサートのチケット二枚。
 「えっ?いいの?」
 「うん。もしかしたら行けないかもしれないから…」
えっ?と、チケットの日付を見るとそれは明日。
 「リノア…」
 「…あはは、自信ありげに企画立てておきながら、言いだしっぺの人間がこんな弱気じゃね」
僕は受け取ったチケットをそのままリノアに返した。
 「大丈夫、きっと記憶は戻るから。これは君とスコールで行って。それじゃ、僕はもう行くよ。そろそろ始まるんだろ」
 「うん…」
 「じゃあね、頑張って」

……と、カッコつけた物の、春とはいえ夜の外は寒いし、おなかは空くし…
 「あ〜あ、やっぱチケットもらっときゃよかったかな〜」

 【バラムガーデン 大ホール】リノア
 「君が一番かっこいいね」
 「やっぱりあんたか、これは何のつもりだ?」
あっ、やっぱ流れ星(アーヴァインのメテオだけど)と挨拶程度じゃね…
 「なんのつもりって…それより、何か思い出さない?」
 「あ?それよりこの馬鹿騒ぎを早く止めろ。勉強に集中できん」
む〜、思った以上に手強いわね。
 「う〜ん、じゃあこれでどう?あなたはあたしのことが好きにな〜る、好きにな〜る♪ダメ?」
 「…いいかげんにしろよ…俺はあんたなんか知らないし、あんたとこんな事してる暇はないんだよ!!」
どうして?どうして思い出してくれないの?……そんなにあたしってスコールにとって簡単に忘れられてしまう存在なの?
 「ねえ、じゃあ一つだけお願い聞いて……?」
 「お願い?」
 「うん…これを聞いてくれたら、二度とあなたの邪魔はしない。だから…」
暫くあたしを見ながらなにやら考えるスコール。
 「…本当だな。そのお願いとやらを聞いたらもう二度と、今後、俺の邪魔はしないんだな」
 「うん。だから…」
 「わかった。で、俺は何をすればいい」
やった、これが最後のチャンスよリノア。ここで決めなきゃ…
 「あたしと、踊って……」
後ろ手でセルフィに合図を送る。と、同時にホールにオーケストラの演奏によるワルツが流れ始める。
 「さ、踊ろう…スコール」
スコールと両手を繋ぐ…久しぶりスコールの手のぬくもり。ワルツの3拍子に合わせてステップを踏む。 スコールあのときより上手…
 「なに笑ってんだあんた?」
 「ううん、なんでもない…」
音楽がどんどん架橋に入ってくる、早く早く思い出して…
 「ねえ、本当になにか思い出さない?」
 「くどい。俺はしつこい女は嫌いなんだ…」
嫌い…一瞬、目の前が真っ暗になる。あたしの手を包むスコールの手が急に冷たくかんじて彼の手を払う。
 「ちっ…何をするんだ…」
 「あたしも…あたしもスコールなんて大キライっ!!」

 【バラムガーデン 大ホール】サイファー
 「リノア上手くやってるかな?」
 「さあな…」
 「もう、無愛想ね。せっかくこんな可愛い女の子が一緒に踊ってあげてるのに」
ふん、俺は本当ならあのときは一人で飲んでたってのに…どうせ、リノアにこいつが頼み込んだんだろうな。 ま、どっちみちあのとき俺はパーティー会場でスコールと会ってないからな。
 「サイファー!!」
ん?誰だ?俺のこと呼んでるのは?
 「あっ、リノアっ!!」
なに?台本じゃ、花火のあとに俺の所に来るはずだろ……
 「サイファーっ!!」
 「いったいどうしたってんだ?」
 「だって、だってスコールが…」
子供のように泣きじゃくるリノアに理由を聞こうとするが要領を得ない。
 「ほら、リノア落ち着いて…仕方ないわね、サイファー慰めてあげて」
 「な、俺がか?」
 「そうよ。ほらリノアも…今だけサイファー貸してあげるから…」
 「う…うん、ありがとアリア…」
おい、勝手に話を進めるな…と言う前にリノアは俺に抱きついてきた。
 「サイファー…」
 「ほら、サイファー」
 「ちっ、わかったよ…ほら、これでいいだろ」
俺もそっとリノアを抱きしめてやる。
 「ありがと…・サイファー……」

 【バラムガーデン 大ホール】スコール
 「ったく、何処行ったあいつ……」
向こうからお願いとか言ってダンスさせときながら、途中でどっか行くなんて……
 「まったく、何考えて……ん?!いた。おい、あん…」
ん?あの男…
 『サイファーこんなこと止めてよ…!!』
痛っ…なんだ?今の記憶は…
 『こんなこと、終わりにしよう?ね?』
 『リノア……』
リノア…だと?リノア…くうっ、頭が割れそうだ…
 『サイファー止めろっ!!』
 『よく見てろよスコール、リノアとアデル魔女は一つに』
 「うわあぁああああっ〜〜〜〜〜〜!!」

 【バラムガーデン 大ホール】アリア
 「あっ、見てっリノア、サイファー!!」
 「どうした、アリア?」
 「あれ、さっきスコールがそこまで来ていきなり…はっ!!そういえばスコールがサイファーとリノアを見て… そうかっ!!サイファーもっとリノアとくっついて!!」
 「はぁ?」
 「いいから、説明してる時間はないの。今がチャンスなんだから」
理由がわからず困惑しているリノアとサイファーを無理矢理くっつける。
 「あ〜あ〜、もうわかったから耳元で怒鳴るな。さて、じゃ、どうするリノア?キスでもするか?」
 「ちょ、ちょっと待ってよ〜。いきなりそんな…」
 「そ、そうよ、くっついてとは言ったけどキスまでは…」
 「バカ、冗談に決まってるだろ。角度を微妙に調節してスコールにそう見えるようにするんだよ」
 「あっ、なるほど。それじゃ二人とも早くっ!!」
見つめ合うサイファーとリノア。そして、その唇のキョリがどんどん…ほんとこっちから見てるとキスしよう としてるみたい。と、サイファーとリノアに視線を奪われていたあたしの横を誰かが通り過ぎた。それは…
 「サイファーぁあ〜〜〜〜!!!!」

 【バラムガーデン 大ホール】サイファー
 「サイファーぁあ〜〜〜〜!!!!」
 「ちぃ、危ねぇ!!」
ライオンハートを構えて切り込んでくるスコール。その斬激を避けるために抱き合っていたリノアを突き飛ばす。
 「スコール、てめぇ…」
 「貴様ぁ〜、よくもリノアをぉ〜〜〜〜〜」
 「へっ…やっと記憶が戻ったか?」
素早く間合いを取ってこちらもハイペリオンを構える。
 「記憶?何のことだ…くっ、頭が…そういえば何故俺はあいつのことで…リノアのことでムキになってるんだ? わからない…何故だ…くうぁっ…」
 「おい、隙だらけだぜっ!!」
ファイガの魔法を放つと一気に間合いを詰める。
 「ちぃっ!!」
頭を抑えて苦しんでいたスコールだったがすぐに体勢を立て直してライオンハートでファイガの火球を切り裂くと、 返す刀で俺の太刀を受け止めた。
 「へっ、ガリ勉してたわりには腕が落ちて無いじゃねえか」
 「ふん、リノアは俺が守ると決めたんだ。誰にも指一本ふれさせん。そのためにも俺は負けられないんだぁっ!!」
鍔迫り合いで力比べの状態だったところでいきなりスコールが力を緩めた。
 「なっ、しまったっ!!がはっ…」
バランスを崩した俺の鳩尾にライオンハートの束の部分が打ち込まれた。
 「や、やって…くれるじゃねぇかあっ!!」
 「なっ…うぐぁっ…」
お返しにとスコールの鳩尾に蹴りを叩き込んでその反動で距離を取るとハイペリオンを構え直す。
 「こいつで決めてやるぜっ…」

 【バラムガーデン 大ホール】スコール
 「こいつで決めてやるぜっ…」
と、またサイファーはファイガの魔法を放つとそれを追いかけるように切り込んできた。
 「その技はとっくに見切ったぁ!!」
飛んできたファイガを切り払う。そして、返す刀でサイファーのガンブレードを…
 「なに?いない?」
切り払った火球の後ろに有るはずのサイファーの姿がない。
 「こっちだぁ」
 「なに?上だと??」
 「もらったあぁ!!」
上空を見上げた俺の目に飛び込んできたのはサイファーの姿と…
 「う、うわぁあああああ!!」

 【バラムガーデン 大ホール】サイファー
 ドガッ…鈍い音とハイペリオンに響く手応え。そして、倒れ込むスコール。ふん、甘いな。ファイガの裏で俺が ヘイストを唱えていたのに気が付かなかったのがお前の敗因だ。
 「スコールっ!!」
倒れ込んだスコールに走り寄るリノア。
 「おい、大丈夫か?」
 「早く、救護班来てっ」
さっきから回りで控えていたゼルやキスティスもそれに続く。
 「ふっ、あとはお前らがちゃんと手当してやりな」
 「て、手当って…サイファー、あなた、いくらなんでもやりすぎよっ。記憶が戻らないからってスコールに斬りつけるなんて…」
 「はぁ?何言ってんだ?アリア。よく見ろ、スコールのどこから血が出てる」
 「え…あっ、そういえば…え?じゃあどうしてスコールは?」
 「ふん、それはな……」

 【バラムガーデン 大ホール】アリア
 「つっ……」
 「あっ、スコール気が付いたの?」
リノアがスコールをそっと抱き起こす。
 「ほう、もう気が付いたか…さすがにタフだな」
 「くっ…リノア、俺はいったい何を……つっ…頭が…」
と、しきりに額をさするスコール。ん?あれ?今リノアって…
 「スコール、記憶が戻ったの?」
 「ん?なんの事だ、それよりリノアでもアリアでもどっちでもいいから早く氷持ってきてくれ。頭が割れそうだ…」
 「ははっ、ま、早く冷やしてやった方がいいぞ」
ほえ?冷やす?
 「あっ、まさか……」
 「ああ、俺はただスコールの頭をハイペリオンの柄の部分で殴っただけだよ。ま、ずいぶん勢いは付いてたけどな、ははははっ」
なるほど…ショック療法ってことね…?!じゃあもしかして最初からスコール無理矢理押さえつけて、一発がつ〜んとやっておけば 治ったのかな?
 「ともかく、これで一件落着ね、リノア」
キスティスが微笑みながらリノアに氷を渡すと、彼女はそれをスコールの頭に当てて上げる。
 「うっ…すまない…リノア」
よかった〜、スコール完全に元通りだ〜♪
 「うん、ホントみんなのおかげだよ。ありがとう。さっ、もう気分を変えて、スコールの記憶が 戻ったお祝いに今夜はみんなでぱ〜っと飲もう!!」
 「おっ、賛成〜。んじゃ食うぞ〜」
 「そやそや〜、今日はお祝いや〜〜♪」
こうして大騒動を巻き起こしたスコールの記憶喪失事件は無事(?)に幕を閉じた。ただ一人を除いて…


 「へ〜っくしょん…う〜さび〜…まだなのかな〜、花火の合図?」

翌朝、ガーデンの大ホールの屋上で寒さのあまり風邪を引いて熱にうなされるアーヴァインが、後かたづけを していたガーデン生に発見された。
 「う〜、今度は僕が記憶喪失になってやる〜〜〜〜〜〜」
をいをい……


END


 ど〜も、Kallでごじゃいまする。5500ヒットのキリ番リクエストをゲットされた未来斗さんのリクエストで「息詰まっている作品(スコリノ)の続きを書いて欲しい」とのことでしたの僭越ながら未来斗さんの作品の続きを書かせていただきました。ですので、序盤は未来斗さん、途中の「☆★☆★」マーク以降の部分は僕の部分です。しかし…・序盤の未来斗さんの部分は結構シリアス調だったのに僕の後半部分はのほほん&オチ(アービンのネタ)はちょっぴりギャグ調になっちまった…・ま、まあいっか(^ ^;;

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