死神のKiss(後編)
「傷?」
リノアの言葉に俺は虚を突かれた。そんなものあったか?と思いながらも、苦笑いをしながら言われるままにリノアの部屋にある
鏡台の鏡をのぞきこんだ俺は自分の目を疑った。
「な…た、たぶんこれさっきのアルケノダイオスの爪かなんかで……」
とっさに俺の口から出た言い訳はあまりにもお粗末だった。誰がどう見てもアルケノダイオスの爪で出来た傷などに見えない。
その傷跡は、いや傷跡じゃない、これはまさか…。俺はこの状況を挽回しようと言い訳を繰り返した。が、元々俺は言葉で物事を
説明するのが苦手だ、ボキャブラリーも多いとは言えない。そんな俺の言い訳をリノアは静かに聞いていた。ただ、その間、
じっと俺を見る目はまるでこう訴えているようだった『スコール、言い訳なんて見苦しいよ』と。そして、ついに…
「そうなの……」
不意に冷たくそれだけ言い放つとリノアは腕の中から抜け出して俺に背を向けた。
「……出ていって……」
「な…だからこれは…」
「いいから出てって!!もう、スコールの顔なんか見たくない!!」
いきなりリノアが俺の方を振り向いたと思った次の瞬間、俺はリノアに両手で突き飛ばされ部屋の外に追い出された。
「おい、リノア、…」
開けてくれ…ドアをノックしようとして軽く握った拳にあった一滴の涙を見て、その手を止めた。
今は何を言っても無駄だ…そう思って、俺はそのままリノアの部屋の前を後にした。
そしてもちろん、この一部始終を天井の換気扇の隙間から静かに見て笑みを浮かべている人物に気付くわけもなかった……。
「…非道いよ、スコール……」
もうどれくらいたったのかな…・あれからバスルームで湯船に浸かってずっと泣いている。
その間、何度もあたしの目から流れ落ちた涙が湯船の中に消えていった。ずっとあたしだけを守るって約束したのに……
あたしはの心の中はスコールに裏切られた思いで一杯だった。バスルームから出た。素肌にバスタオルを巻くと別の
タオルで髪の毛を拭きながら洗面所を出るとドライヤーの置いてある鏡台の前に座る。そのとき、部屋の中に自分以外の
人の気配を感じた。
「誰?そこに誰かいるの??」
ふっと振り返る…部屋の入り口のあたりに見覚えのない女性が一人、立っていた。服装はガーデンの制服だからガーデン生?
それより、ドアには鍵を掛けていたはずなのに……
「あなた誰?どうやってここに?」
あたしはとっさに身構えた。
「あっ、ごめんなさい…何度もノックしたけど返辞がなかったから。それでね、ドアノブに手を掛けてみたら開いていたから…」
その女性は申し訳なさそうに謝ってから話を切り出してきた。悪い人じゃ…ないのかな??鍵もあたしの勘違い?
「悪いとは思ったんだけどほら…消灯したら廊下って暗くて怖いでしょ。だからちょっと中に入らせて貰ったの」
「そう…でもごめんなさい、あたしに何の用事?いまから寝ようと思って…悪いけど帰ってくれないかな??」
眠ってる間だけでも良い、少しの間で良いからスコールのことを忘れたかった。
「ちょっと待って。私の話を聞いて…あなたが私とスコール君の関係を誤解してるって、彼から聞いたからその誤解を
解きに来たのよ」
「誤解?」
?!…もしかしてこの人が…
「そうよ、あなたの思ってるとおり、さっきスコール君が助けたって女の子は私のこと。でもね、本当に助けて貰っただけ。
他に何にもなかったの」
「それ、本当なの?」
「本当よ」
それじゃあ、あたしの思い違い…ううん、ちょっと待って、
「でも、あの傷は…」
そうよ、あのスコールの首筋にあった傷跡はどう説明できるというの?
「あれは……」
「ねえ、教えてあれ、あなたが付けたの?それとも……」
彼女は黙ったまま何も言わない。やっぱり、おかしい…あたしはそのまま彼女に問いつめる。
「黙ってないで答えてよ、ねぇ!!」
「そうよ、あれ、私が付けたの…」
「!!」
「ごめんなさい、ちょっとしたイタズラだったのよ。スコール君を驚かそうと思って…でも、まさか彼が気づかないで
あなたに会いに行くなんて思わなかったから」
「そんな…イタズラだなんて酷いよっ!!だって、あたし、あたしスコールに……」
思わず、彼女の両肩を掴むとその身体を思いっきり揺すった。
「どうしてくれるよ!あたし、あたしスコールにとんでもないこと言っちゃったじゃない!あなたのせいよ。全部全部っ!」
「……だからなに?あたしにどうしろと?」
「えっ?!きゃっ!!」
彼女はいきなり肩を掴んでいたあたしの手を払った。
「ふふっ…まだまだ、子供ね。この程度でそんなに取り乱すなんて…ま、でもその方がこちらとしては好都合だけど…」
その瞬間、あたしの視界から彼女の姿が消えた。
「えっ?どこ?」
「ここよっ」
その声を聞いたときはもう遅かった…あたしの背中には鋭いナイフが突きつけられていた。
「あなた、こんなコトしてどうするつもり??何が目的??」
「こんなコト?、ふふっ、まだわからないの…あたしの目的はあなたの命。ある人にね、依頼されたのあなたを…
”魔女を殺すように”ってね」
「おい、スコールっ!!さっきの女の子はどうした??」
さっきまでデスクワークをしていた部屋に戻るとゼルが俺に血相を代えて話しかけてきた。
「…あの女生徒がどうかしたのか?」
「とにかくちょっとこれ見てよ」
アーヴァインは自分が座っている机にある端末のディスプレイの前に俺を手招きする。そこに映し出されていたのは
紛れもなくさっきの女生徒だった。
「な、これは…」
「そ、どっかであの女の子の顔見たような気がしてたんだよ。で、ガーデンのデータバンクを検索したら
見つけたんだよ、ガーデン卒業者名簿からね。フランシス・レイクウッド、現在22歳。履歴も凄いよ、15歳の時
にガルバディアガーデンに創設以来最高の成績で入学、一年後、バラムガーデンに転校、その半年後にはSeeD試験に
合格してそれからの数年間はトップクラスのSeeDとして数々の仕事をこなしてる。で、一昨年バラムガーデンを主席で
卒業……」
「…その後は?」
「それがガーデンのデータバンクにはそれ以上の情報は…いや、というか無くなっていたんだ。よく調べたら誰かがデータを
改竄してあった、それもごく最近ね。ただ別のデータバンクで彼女の情報を検索していたらとんでもない物見つけたよ」
アーヴァインがキーボードのキーをいくつか押すと、画面が真っ暗になってなにかのパスワードの入力画面に切り替わった。
「プロテクトが厳しくってさ…・パスワードの解析に時間がかかったんだけど…」
さらにアーヴァインがキーボードで何かを打ち込むと画面に次々と文字列が現れては消えていく。そして、次の瞬間また彼女の写真
と文章が画面に出てきた。
「ん…フランシス・レイクウッドへの過去の依頼内容?エスタのデータバンクハッキング?ドール公国軍の定例会議襲撃?」
「そ、どうやら彼女、裏の世界でいろいろやってるみたい。実際、ここにある事件、表沙汰には成ってないけど全部事実だよ」
それだけいうと、アーヴァインはディスプレイの電源を落とした。
「そうか…しかし、何故彼女はガーデンに、いったいなんの目的で…」
「う〜ん、そのへんはわかんないけどとにかく用心するには越したこと無いよ。早くみんなに知らせよう」
「待て、いきなりみんなに知らせて動揺させるのもまずい、とにかく学園長と、あとキスティスとセルフィには知らせておこう」
「?!リノアちゃんはいいの?」
「リノアか…」
「どうかしたの?」
「実は………」
俺はさっきリノアに会いに行ったときにあった一部始終を二人に話して、首筋の傷跡を見せた。
「それ、なんかおかしくない?スコールにはそのキスマークの付けられた覚えは無いんだろ?」
「ああ…というか彼女を保健室に連れていく途中から記憶がおぼろげにしか…」
「それ、ますますおかしいよ…?!もしかしてそのキスマーク、彼女が君とリノアちゃんをわざと喧嘩させるために付けたのかも?」
「な、ど、どういうことだ?第一、なんで俺とリノアを…いったい何のために?」
「それはわかんない、でも少なくとも今、君になにもないってことは…」
「?!狙いはリノアかっ!!」
「…というわけ、つまりこれまでのことは全部私の計画通りというわけ」
「そんな…じゃあ、あたし何の関係もないスコールに…酷いこと…」
私の話を聞いたリノアは目から大粒の涙を流していた。
「さ、無駄なおしゃべりは終わりよ。後悔は天国でしてちょうだい」
「待って!!最後に一つ聞かせて?あなたの狙いはあたしの命なんでしょ?じゃあ、なんで…なんでスコールを巻き込んだの?」
「あら?わかんない?あなたは恋人の浮気に悲観して自殺した悲劇のヒロイン、そしてスコールはその責任と罪の十字架を背負って
しまう悲しいナイト…どうせ新聞に載るならそんな題字のほうが”誰かに殺された”な〜んてのよりいいでしょう?」
「…本当にそれだけなの?たったそれだけのためにスコールを利用したの?どうして?あなたぐらいの人なら他にもいくらでも
自殺に見せかける手段はあったでしょい?なのに、どうして、どうして……」
それはあなたがスコールを取るからじゃない…彼は私のもの、あなたみたいな小娘じゃだめなのよ、彼は…あの子は私といるべきなのよ。
同じガーデンで育った者同士のほうがいいのよ。あなたみたいな苦労知らずの小娘になんか…絶対に、絶対に渡さない!!
「ねえ、どうして?どうしてなの?どうしてスコールを?」
「うるさいのよっ!!どうしてどうしてって…・同じ女だからせっかく綺麗なままでひと思いに楽にして上げようと思ってたのに。
いいわ、あなたにはもがき苦しみながら死んで…」
その時、私の話は誰かが乱暴にドアをノックする音に遮られた。
「リノア、おい、いるのかリノアっ!!」
「スコールっ??」
「?!、気付かれたの?こうなったら…」
「リノアっ、大丈夫かっ!!」
俺は体当たりでドアをうち破って中に飛び込んだ。
「遅かったわね、スコール」
「フランシス…レイクウッド…」
「あら?私のこと思い出してくれたの?」
「いや…それよりもずいぶん勝手にやってくれたな。裏の世界の何でも屋か何かは知らないが…リノアは俺が守る!!」
そう言いながら、リノアに突きつけられているナイフをフランシスの手から払い落とすチャンスをうかがう。
「あっと、動かないで…動くとこの女の命は無いわよ。ま、といっても動かないでもこの女の命はあと30分だけどね」
「なに?」
「くうっ…はぁ…はぁ…スコール…助けて…」
「貴様、リノアに何をしたっ!!」
「別に?ただ、ちょっとこんなことしてあげただけよ」
いきなりフランシスがリノアと唇を重ねる。
「な?」
「ふふっ、驚いた?言っておくけどそっちの趣味じゃないかわよ。ただね、さっきね同じようにしてこれを飲ませて上げたの」
と、フランシスがポケットから小さな小瓶を2つ取りだした。
「私が調合したの。特殊な物だからエスナとかでも解毒は不可能。唯一、この解毒剤を覗いてはね。そこで、取り引きよ……
もしあなたが私の条件を受け入れてくれるならこの女の命、助けてあげてもいいわ」
「ちっ、でその内容は?」
「そうね、この女をガーデンから追い出して、二度と会わない…っていうならいいわ。クライアントはガーデンに魔女が居ることがお気に
召さないらしいから。それでも依頼の達成ってことになるし」
「……」
そのとき、わずかだがフランシスのナイフを持つ手がリノアの首筋から離れた。その隙を俺は逃さなかった。
「大丈夫よ、こんな小娘一人居なくてもあなたは伝説のSeeDなんでしょ?それに、あなたのパートナーには私みたいにしっかり…
えっ?!」
「いいかげんにしろっ!!」
リノアごとフランシスに当て身を食らわせる。
「リノアッ!!」
まず、リノアを助け起こす。大丈夫だ、ナイフの傷跡はない。と、すぐさま振り返ってフランシスの持っていた解毒剤を取ろうとしたとき、
小気味よいガラス瓶の割れる音がして、目の前にガラス瓶の破片が散らばった。
「あはは、これでその女を助ける方法はないわ。このままその女が死んで行くのを見ているしだけ。何もできないの、あはは、いい気味よ」
「…・フランシス…あんた、もしかして…」
「さあ、どうするの?代わりに私を殺す?いいわよ、死ぬのなんて怖くないわ。あはは、あははは!!」
「…フランシス、あんたじゃダメなんだ…あんたは俺の事を理解しようとしていない、あんたは俺を本当に必要としていない。
俺のことを理解しようともせず、ただ自分の欲望を満たし、愛情を押し付ける相手を求めてる!だけど、こいつは…リノアは違う。
俺のことをちゃんと理解しようとして…そして本当に俺が必要としてくれている。だから俺もリノアのことを理解してやる。
求められれば答えやるんだ…それがあんたとリノアの違いだ」
そういうと、俺はフランシスの手から残っていた毒薬の瓶を取り上げて一気に飲み干した。
「ぐっ……」
一気に体中の力が抜ける。手からその小瓶が落ちて足下でさっきの解毒剤の瓶のように粉々に砕け散った。それとほぼ同時に、
床に倒れ込んだところを息苦しさ、全身の痛みに襲われた。そして、陽炎のように目の前がかかすんでいく中で最後に目にしたのは
俺の顔を覗き込むフランシスの泣き顔だった…
次に気が付いた時、俺は保健室のベッドの上にいた。ふと隣のベッドを見るとリノアがそこに寝かされていた。
「おや?気がついたんだね?」
「カドワキ先生…俺とは一体?確かあのときあの瓶の毒を…そうだリノアは?リノアは大丈夫なのか?」
「あ〜、ちょっとは落ち着きなよ。大丈夫、リノアも無事だよ。今は疲れて眠ってるだけさ、そのうち目が覚めるよ。
それにしてもまったく、あんたも無茶するねぇ。だいたい今時心中なんて流行らないよ?」
と、俺が気を失った後のことを話し始めた。まず、俺とリノアを見つけて保健室に運んだのはアーヴァインとゼル。
なんでも俺の事が気になってリノアの部屋まで俺を追いかけて来ていたらしく、部屋の外でそっと俺とフランシスのやりとりの
一部始終を伺っていたらしい。そして、その事件の張本人のフランシスは、俺が毒をあおった直後に煙幕弾らしきものを使い、
数分後、ゼルとアーヴァインの二人がリノアの部屋に踏み込んだときにその姿はなく、ただ、床の上に解毒剤の化学式とガラス
の小瓶が落ちていたという。しばらくして、目が覚めたリノアには俺がそのことを話してやった。
「じゃあ、あたしとスコールはフランシスが落としていったその解毒剤のおかげで助かったの?」
「ああ…それとな…」
「?」
「…解毒剤の小瓶…実は蓋がすでに開けられていて中身は半分ほど使われていたそうだ。そして、俺達がゼルとアーヴァインに
保健室に連れてこられたとき、一通りの応急処置がされていたらしい…」
「!?それじゃあ…」
驚いて起きあがろうとするリノアをそっと抑えると布団を掛けなおしてやる
「それ以上言うな…もう、終わったことだ。それに俺もあんたも、こうして生きてるんだからな。それよりも、もう少し眠って
たほうがいい。まだ疲れてるだろ?」
「うん…ありがとね…でも、ホントどうして助けてくれたんだろうね?」
「さあな?そればかりは俺にもわかん…」
「ふふっ、そだね……じゃ、おやすみなさい」
「ああ…おやすみ」
「…私にもわからないのよね…単純にあなた達が死ぬのを見過ごせなくなったというべきかしら?」
私は誰にも聞かれていないのに盗聴器のイヤホンから聞こえて来た質問に答えた。
「それにね、私はまだスコールのことのことが好き。ただ、少なくとも前と違うのは、スコール…あなたの言葉で目が覚めたわ、ありがとう…」
私はイヤホンを耳から外して地面に落とすとそれを踏みつぶした。
「だから、いつの日かまた…今度は正々堂々とリノアからあなたを奪ってみせるわ」
END
ぬあぁああああああ〜、駄文だ駄文!!…っといきなり自分の作品に自分でケチ付けてますが…ただ長いだけじゃん(爆)
これは6666HitゲットされたMioさんより「スコリノ甘甘で序盤はダークに(リノア自殺未遂など)」とのリクエストを
頂いて書いたんですが…ああ〜書き上がるのが遅くなるわ、無駄に長くなるわ…ほんとなんとお詫びして良いやらm(_ _)m。
ちなみに、久々、一部小説のモチーフとして”Janne Da Arc”の”Judgement−死神のKiss−”
という曲を使ってます…ぼそ(タイトルにも・爆)
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