中山間地域医療第10回シンポジウム(府中北市民病院)

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 広島県府中市上下町上下2052-1 
 黒木整形外科リハビリテーションクリニック
 中山間地域医療
 院長 黒木秀尚
 地域医療を守る会顧問
 TEL0847-62-8200 FAX0847-62-8201
 e-mail : kurogiseike@hi.enjoy.ne.jp

最新更新内容


・中国新聞オピニオン(今を読む)令和6年4月6日朝刊
・広島平和教育研究所2023地域シンポジウム(23.7.23.)
・全国保険医団体連合会・月間保団連投稿原稿令和6年2月号
・府中市への要望(令和5年12月14日)
・中國新聞(今を読む)令和5年10月7日朝刊
・広島県医師会速報会員の声(23.10.5.)
・第65回日弁連人権擁護大会シンポジウム指定発言(23.10.5.)
・広島の地域と暮らし投稿原稿(2023年5月No.470)
・広島県への要望(令和5年3月23日)
・令和5年3月4日拙著「医療は政治」講演ポスター
・府中市への要望(令和4年12月22日)
・広島県医師会速報(第2521号)令和4年7月15日会員の声
広島保険医新聞(令和4年6月10日)主張投稿原稿
・中国新聞「今を読む」(令和4年4月9日朝刊)
・広島県への要望書(令和4年3月17日)
・府中市への要望(令和3年10月7日)と要望を終えて
・広島保険医新聞(号外令和3年9月21日)主張投稿原稿
・広島県医師会速報(第2488号)令和3年8月15日会員の声
・上下町第一町内会から府中市へ要望書(令和3年7月26日)
・地域医療を守る会広報誌5月号投稿原稿(令和3年5月)
・広島県への要望書(令和3年2月19日)20235月年
・善昌寺護持会報第126号(令和2年12月8日)
『新型コロナウイルス感染症-敵を知り己を知らば百戦危うべからず』
・広島県医師会速報(第2461号)令和2年11月15日会員の声
『医療は政治-医療と暮らしが良くなるための政治に変えることが出来るのは国民の一票』
・医療は政治ーコロナ禍で露呈した新自由主義政治の限界と
 民主主義政治の必然性ー
(ひろしまの地域とくらし令和2年8月号No440)
・中国新聞令和2年5月12日朝刊、オピニオン・今を読む、投稿原稿
 『コロナの時代から求められる日本の医療政策』
・広島県医師会速報第2441号令和2年4月25日号会員の声
  『自治体戦略2040構想と中山間地域医療
・第10回記念講演会のアンケート結果(R2.4.8掲載) 
・地域医療連携推進法人と府中北市民病院(R2.3.18掲載)
 広島県医師会速報第2437号令和2年3月15日号会員の声掲載
・広島県知事への要望書(令和2年2月21日掲載)
・広島県議会議長への要望書(令和2年2月21日掲載)
・府中市議会への要望書(令和2年1月25日掲載)
・府中市への要望書(令和2年1月3日掲載)
・第10回記念講演会 講演録(令和元年12月21日)
・第10回地域医療を守る会記念講演会のご案内(令和元年10月)

・公立、公的病院の再編・統合計画に対する医師と医師会の使命
(令和元年9月30日)広島県医師会速報10月25日号会員の声掲載
・上下保健センターと地域包括支援センターの移転計画に関する
要望書(地域医療を守る会 令和元年5月16日)
・上下第一町内会から府中市長への要望書(令和元年7月12日)

・上下保健センターと地域包括支援センターの移転計画について
   (平成31年4月9日)                        

・広島県と県議会への要望書(平成31年2月14日)
・府中市への要望書(平成31年1月17日)
・地域医療を守る第9回討論会アンケート結果

・地域医療を守る第9回公開討論会(平成30年12月9日)
・第9回公開討論会の御案内(平成30年11月4日)

・ミニ逆手塾  in 上下 での講演内容原稿(平成30年10月5日)

  病院と地域は運命共同体 田園回帰を促して故郷再生
・広島県医師会速報(第2384号) 会員の声投稿原稿(平成30年9月25日)

 地域住民の『命が守れる』府中北市民病院を残そう!

「サ高住」への改造を黙認したら慢性期病院か診療所になる!
・小野申人府中新市長への要望書(平成30年5月31日)
・府中北市民病院4階サービス付き高齢者住宅改修に関する抗議・要望書
・広島県医師会速報(第2364号) 会員の声投稿原稿(平成30年3月5日)
・広島県と県議会への要望(平成30年2月15日)
・府中市と府中市病院機構への要望(平成30年1月18日)
・第8回講演会 藤山浩先生基調講演内容要旨(平成29年12月10日)
・山村美恵子三次市会議員指定発言要旨
・横尾正文要旨神石高原町会議員指定発言
・会場からの意見と質疑応答
・第8回地域医療を守る会講演会のお知らせ(平成29年9月23日)
・藤山浩先生の紹介記事(平成29年10月26日)
・府中市と府中市病院機構への要望(平成29年7月20日)
・中山間地域の自治体病院が危ない!(平成29年3月5日)
・広島県知事と県議会議長への要望(平成29年2月23日)
・府中市と府中市病院機構への要望(平成28年12月15日)
・第7回地域医療を守る会講演会(平成28年11月26日開催)
・基調講演  佐藤 勝 先生(岡山大学医学部地域医療人材育成講座教授)
  地域包括ケアからまちづくりへー地域で支え、育てる地域医療
・質疑応答、意見
・目的と趣旨、真の地域包括ケアシステムを求めて
・座長講演スライド
・採択された決議
・広島県無医地区の現状―府中北市民病院の診療圏は超医療不足地域
・府中市と府中市病院機構への要望書(抗議) 平成28年9月15日
・病院と地域は運命共同体-真の地域医療構想と地域包括ケアシステムを求めて- (平成28年7月21日、 広島県医師会速報会員の声平成28年8月5日号)
・中山間地域における真の地域包括ケアシステム(平成28年4月24日)
・真の地域包括ケアが、周辺中山間地域で達成できるための必須条件(平成28年4月24日)
・広島県と県議会への要望(平成28年2月25日)
・府中市への要望(平成27年12月24日)
・第6回地域医療を守る会講演討論会 公開討論(平成27年12月10日)
・第6回地域医療を守る会講演討論会 基調講演(平成27年12月6日)
・第6回中山間地域医療シンポジウムの御案内(平成27年10月25日)
・「府中市地域医療再生計画」 驚愕の真実(平成27年7月19日)
・府中市長への要望書(平成27年4月30日)
・広島県知事への要望書(平成27年2月12日陳情・要望)
・府中市長への要望書(平成27年1月22日陳情・要望)と5回シンポアンケート結果
・第5回中山間地域医療シンポジウム議事録(平成26年12月18日更新)

・府中北市民病院が自治体病院として生き残るための重要な手段

-「地域医療ビジョン」と広島大学医学部「ふるさと枠」(H26.12.30更新)

〇中國新聞オピニオン(今を読む)令和6年4月6日

「マイナ保険証」は医療崩壊と金権政治に繋がる

健康保険証は廃止してはならない

 

自民党政権は、1981年の土光臨調を機に英米に追従して利益至上経済第一の新自由主義政治に転換し、小さな政府を目指した。構造改革を進めて規制を緩和し、社会保障と公共サービスを削減して官を民へ移行して強欲グローバル資本主義に邁進した。その結果、バブル崩壊後「失われた30年」と言われるように、非正規雇用者が増大して平均賃金が30年間上がらず、貧困格差が増大した。さらに赤字国債の乱発と異次元の金融緩和による悪い円安と物価高騰、少子化、地方の衰退など国力は凋落している。利潤と効率性を重視する政治のため、国の基盤になる学術研究や教育、医療、農業といった社会的共通資本への投資は削減され、産業化されている。大学は独立行政法人化されて管理と査定の重圧に苦しみ、基礎的な研究が充分にできなくなり、論文数も大学研究国際競争力も加速度的に低下の一途をたどっている。そのため1980年代には世界のトップレベルであった半導体の開発生産や、IT産業の衰退を招き、情報科学において日本は他の先進国に大きな後れをとっている。

これらを一挙に挽回するために倫理観に乏しい新自由主義政府は、医療分野を成長戦略と位置づけ、デジタル化の遅れをコロナ禍における医療デジタル化の遅れのせいにして2022年骨太の方針で「医療DX」の推進を打ち出した。ゴールドより価値のあるあらゆる個人情報を効率よく取得するためにマイナンバーカードを作成し、ありとあらゆる個人情報を紐づけて、全国民に行き渡らせるために現行の保険証を2024年12月2日から廃止してマイナンバーカードを保険証(以下、マイナ保険証)に置き換えることを閣議決定した。しかし、マイナンバーカードには、戸籍や納税、賞罰、医療情報など多くの個人情報が紐づけられている。保険証として使用する場合は毎回提示する必要があるので紛失すると非常に危険である。政府は保険証より便利で効率的であると宣伝しているが、オンライン資格確認の顔認証がうまくいかない場合は暗証番号の入力や再設定が必要である。また、停電時や災害時には使用不可能になることが、能登半島地震で明らかになった。薬剤情報もレセプト情報のため2か月遅れの情報が提示されるので従来のお薬手帳の方が安全である。また、オンライン資格確認システムは全医療機関の情報漏洩や、サイバー攻撃の危険性があり、医療の基本原則の安全性が全く担保されなくなる。

さらに長年の医療費抑制政策のため医療現場は疲弊し、経済的に困窮している。医療DXのための設備投資や新たに発生する数多くの保守契約のための資金はない。特に中山間地域の医科、歯科医療機関の経営状況は厳しく、廃院や廃業を余儀なくさせられる場合が少なくない。しかし、政府はこの施策に従わない医療機関は、医療法の療養担当規則を適用して保険医を取り消すという。しかし、もともと医療機関の少ない地域なので、益々無医地区が発生し、多くの医療難民と医療崩壊が発生する。

一方政府は、さらに全国民のマイナ保険証を基に保健・医療・介護の情報を共有可能な「全国医療情報プラットフォーム」の構築を推進している。IT企業が最先端技術を独占的に所有して医療DXによって莫大な利益を収めて金権政治家に政治資金としての献金をして政治に大きく介入している。そして、現在、国会で審理されているが、そのお金は選挙資金や裏金になっていくと考えられる。まさに「金づるマイナ保険証」といえる。以上のことから国民の命と暮らしを守る医療を金儲けの道具として政治に利用する「医療DX」を抜本的に見直して、その基盤であるマイナ保険証を即刻中止しなければならない。そのためには全国民が、現在の4.6%使用頻度と同様にマイナ保険証を使用しないことと、国民の80%以上が望んでいる世界に冠たる国民皆保険の基盤、宝である従来の安全な健康保険証を残すことである。そして、新自由主義政治・金権政治を国民の世論で99%の国民の命と暮らしを守る真の民主主義政治に転換しなければならない。


〇広島平和教育研究所 2023地域シンポジウム(23.7.23.)

「地域・故郷を持続可能にするために

公立病院、学校などの社会的共通資本を守る

14年間の草の根住民運動~新自由主義から民主主義、平和へ!」

 

(上下高校を支援する会代表 黒木秀尚さん)

 

上下町の地域再生・まちづくりに命をかけた松井義武 地域医療を守る会会長(享年97歳)は、「子や孫のために病院や学校は絶対に必要だ」と言われ続けた。

1920年創立で約14,000人の卒業生を輩出している上下高校の存続に向けた昨年来の住民運動としては、「上下高校活性化地域協議会」での入学支援金、県外募集推進、海外短期留学、奨学金などの施策提言と併せて、有志で発足した「上下高校を支援する会」と「上下高校同窓会」を中心に上下高校存続要望署名を今年5月に開始した。そして、622日広島県知事と教育長に5,364筆を提出し陳情、7月には府中市政策企画課による下宿協力者募集へと展開している。

持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩先生による「田園回帰1%戦略」に基づく「上下町の人口現状推移シナリオ」では、2015年の小中学校生335人が2060年には52人(16%)になると予測され「何もしないでいると人口減少に歯止めがかからない」と指摘されている。それに対して、「出生率向上(現行1.572.09)、10代後半~20代前半の流出率抑制(男51/38%→20%)、定住増加(毎年各年代8組=24世帯 56人=人口の1.2%)」の3つを組み合わせた総合シナリオを検討すると、2060年の小中学校生528人(158%)子どもが増え人口が維持され、高齢化率も低下すると想定されている。

日本政府はこの間「お金を出せば食料は輸入できる」ことを前提に、構造改革・規制緩和・民営化を柱とする新自由主義政策による食料安全保障を推進してきたが、食料自給率は先進国中最低の38%、種子法廃止による自家増殖制限で野菜の種90%を海外依存(米も自給率10%へ)、シードバンク破壊、さらにはコロナ禍・ウクライナ危機などの有事には「お金で食料が買えなくなる」など、破綻が明らかになっている。

そこで、地域のタネからつくる食料自給自足による持続可能な循環型社会を目標に、田園回帰でUターン者数・就農者を増加させる民間任意団体「Uターンを促進する会」を昨年12月に発足し、上下高校と府中北市民病院、農業等の社会的共通資本を持続可能にすることを当面の中心課題とした。基金を創設して2023年度入学生から4年制大学進学者へ給付型奨学金を付与する活動には、現在50以上の個人と団体が賛同し、啓発、調査と勧誘、仕事の仲介・斡旋、組合創設により地域内経済循環の確立(地産地消、再生可能エネルギー等)をめざしている。

次に、地域の公立病院を守るとりくみについて報告する。府中市は、2007年2月に人口減少と府中北市民病院の赤字を理由に「府中北市民病院経営健全化計画」(病院規模を110床→60床に縮小・常勤医師数2名減、給与を中心に経費削減し直営→独立行政法人化、療養病床廃止→老健施設サ高住等に転換、高齢者を中心とした慢性期医療特化)を、発表した。しかし、200712月に総務省は「公立病院改革ガイドライン」(医療費削減のための病院経営の効率化→黒字化、縮小・リストラ再編・ネットワーク化 →拠点病院と診療所、経営形態の見直し→独法化・民間移譲、5年間の病院改革プラン実現に措置される病院建て替え費用等のための地域医療再生基金)を公表したため、「府中北市民病院健全化計画」を、「公立病院改革ガイドライン」を利用した「府中市地域医療再生計画」(JA府中総合病院と民間のA病院の3病院共同体構想)へ変更することになった。私たちは「命が守れる病院」を残して子や孫が一生涯安心安全に生活できるまちをつくろうと草の根の住民運動を展開してきた。 

200912月に地域医療を守る会の第1回シンポジウムを開催して、府中北市民病院の現状維持を求める「上下宣言」(①上下と府中は地域が異なる②医療の基本理念に反している③地域住民との協議と合意がないので根本的に間違った計画)を採択してから現在まで79回の講演学習会・住民要望採択決議、県知事・県議会・市長・市議会への陳情・要望書抗議書提出、広報ニュース等の新聞折り込み・ビラ配布・映画会などの公正な情報の広報活動、署名陳情活動などを展開した。

さらに、不採算地域への特別交付税9800万円が全額措置されていれば黒字化していたにも拘らず「赤字と医師不足のため健全化計画は頓挫した」と事実と異なる答申をした府中市と「府中市地域医療再生計画」を認可した広島県を相手取り、地方独立行政法人認可取り消しを求めた行政訴訟(2012年広島地裁提訴→却下→最高裁棄却まで46か月)にもとりくんだ。

広島県に無医地区は59地区あり、北海道に次いで全国第2位の現状で、中山間地域の公立病院は無くてはならない存在である。特に府中北市民病院の診療圏である旧甲奴郡(府中市上下町、三次市甲奴町、庄原市総領町)と神石郡に無医地区の81.4%(48地区)が集中しており、医師密度も0.028/平方キロメートルと、全国平均の0.76人の1/27の超医療不足地域である。しかし、病院が縮小されてしまったため、多くの弊害が現れた。救急車受け入れ困難(月平均約4.3件減、世羅へ回されたための死亡2件)、急性期一般入院患者受け入れ困難、時間外救急を診てもらえないことが多い、早期退院(平均在院日数22日→15日)を迫られる、一般外科救急患者受け入れ及び手術困難(まむし咬傷→世羅へ)、透析患者の不安、医師・看護師の過重労働、多忙・過労のため公共医療サービス・接遇の低下、職員の将来に対する不安増大・やる気の低下・退職、医療の地域格差発生(命の保証がなくなる)、地元の病院で最期を迎えられない、遠方の病院への通院が大変(精神的・身体的・経済的)、診てもらえないという風評被害、自宅療養患者が増加し訪問看護師及び家族の過重労働などである。

日本の平均寿命が延びた大きな要因は、平和憲法(戦争放棄・民主主義・主権在民)を基にした自治体病院の設立、1961年の国民皆保険制度開始によるところが大きい。府中市は赤字と人口減少を理由としたが、出生率低下による少子化は自然現象ではない。新自由主義による社会保障・公共サービス削減、教育費研究費削減、赤字国債、異次元金融緩和、悪い円安、低賃金継続による貧困、格差拡大などにより少子化が進んできたのである。そのため他の先進国に比べ日本の実質賃金は下がり続けており、日本の国際競争力も35位に凋落している。

日本の医療法・医師法は「国の医療政策を円滑に進めるための医療施設や医療従事者に対する行政取り締まり法規」にすぎず、国民の命と健康を守るためのものではなく、「国の政策に奉仕するもの」になっている。国策に奉仕する医療は、科学ではなく、統治のための技術でしかない。「すべての人は、差別なしに適切な良質の医療を継続して受ける権利を有する。医師および医療従事者・医療組織は、この権利を認識し擁護していくうえでの共同の責任を担っている」とする「リスボン宣言」のような、患者を擁護する立場に立った医療を受ける権利と医療従事者・専門家の権利を擁護する「医療基本法」の制定が必須であることも地域医療を守る会第5回講演学習会で全国人権擁護委員連合会の内田博文会長から学んだが、まさに「医療は政治であり、新自由主義から99%の国民が幸福になる民主主義へ変えなくてはならない。医療と教育、農業・食は地域の生命線だ」と確信するに至った。

さらに、コロナ禍で露呈した「医療崩壊」も、政府の社会保障費・医療費抑制政策(保健所数852469、感染症病床150421871、深刻なICU・集中治療室不足、感染症ピーク時必要病床3.1万に対して1.8万、医師数抑制政策による13万人の医師不足、深刻な看護師不足)が根本原因である。第3波では自宅療養者が35千人に達し、医師の診療を受けることが出来ないままに自宅で死亡した患者が200人以上発生した。第4波ではGoToを強行したため同じく医師の診療を受けることなく自宅死をした人が120人以上発生した。第5波では感染力と毒性が強いデルタ型が発生したが、東京オリンピックとパラリンピックを強行したため、自宅療養者が135千人に達し、20218月中に250人以上の新型コロナウイルス感染症の患者が医師にかかれないままに自宅で死亡した。20203月から20218月末までに計817人が自宅で死亡している。第6波は感染力が非常に強いオミクロン型が流行し、自宅療養者が58万人に達した。自宅死は555人であった。第7波では126万人の患者が発生し、自宅死が776人発生した。第8波では過去最大の死者数が発生した。医療崩壊のため介護施設で患者を診なければならなくなったため、多くのクラスターが発生し介護施設死が最多となった。

実は、これらは、新自由主義政策を提言する日本創成会議が2014年に出した「自治体消滅」論(2040年には全国約半数の自治体で若年女性が半減し、消滅する可能性がある)に基づいている。すなわち、政府が「人口が減るから整理統廃合」論を利用して、「自治体戦略2040構想(2018)」(地方広域統治政策論・構想)を公表展開し、総務省が公共施設等総合管理計画(2014年)と公立病院改革ガイドライン(2007年・2015年)、公立病院経営強化ガイドライン(20223月)を、厚労省が地域医療構想(2014年)の施策を出して促進した結果である。その結果新たな形のステルス合併・周辺切り捨てが発生し、周辺地域が衰退し疲弊地域が拡大・広域化、外部委託・地方独立行政法人化され、民意を反映する首長・議会の関与が難しくなる。そして、公共サービス産業化・社会的共通資本の民営化、公務員が激減し非正規職員や派遣職員が対応するため行政サービスの著しい低下など、地方自治・住民自治・住民主権の崩壊がどの自治体でも進行している。さらに、政府や経済界にとって都合の悪い情報の公開には規制が見られ、言論自由とメディアの崩壊が発生しており、基本的人権と民主主義が形骸化している。三権分立も崩壊しており、患者の権利を擁護する立場に立った医療を受ける権利の法律が未だ日本には制定されていないため「府中市地域医療再生計画」で多くの医療難民が発生したり、コロナ禍の医療崩壊も行政訴訟で審議されることはない。選挙における低投票率・金と組織票による数の力、強権政治等政治の劣化がはなはだしい。フェイクニュースで議論の論点を巧みに変えることで分断と対立を戦略とする政治・ポピュリズム(大衆迎合政治)が台頭して隠す文化、愚民政治になっている。そして、搾取による貧困・格差社会が増悪し、それを自己責任に転嫁している。社会保障費、公共サービスの削減と社会的共通資本の民営化による人為的な超低出生率による人口減少、現代の姨捨山社会に陥っており国力の低下に拍車がかかっている。そのため備えと食料自給率が38%、種子を持てない脆弱な国になり、パンデミックや大災害の弱い状態になっている。

効率重視で利益第一の経済政策の下、搾取と乱開発を繰り返す強欲グローバル資本主義の新自由主義政治は、地球環境を破壊して地球温暖化を加速して未曾有の自然大災害やパンデミックを惹起して、さらには分断と対立を生んで戦争に発展している。その後に来るのは、政府と官僚・大企業・超富裕層への富と権力の集中と中央集権・専制国家による際限ない軍拡であり米国に追従する戦争だ。それらの新自由主義政策の結末は、府中北市民病院問題からも証明された。

宇沢博文さんは、「社会的共通資本」自然環境:土地・大気・土壌・水・種・タネ・森林・河川・海洋など、社会的インフラストラクチャー:道路・上下水道・公共交通機関・電力・通信施設など、制度資本:教育・医療・農業・金融・司法・行政など)は地域を持続可能にする宝であり、国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、利潤追求の対象として新自由主義によって左右されてはならないとしている。

斎藤幸平さんは、地球を犠牲にして富める者がより富む資本主義の仕組みは限界、今の社会は搾取や環境破壊を前提としている、私たちは限りない経済成長のために大量生産・大量消費を繰り返すシステムの中にいる、脱成長という視点を仕事や人生に取り入れることで豊かさを手に入れることが出来る、脱成長経済のキーとなる概念が「コモン・社会的共通資本」で、市場に管理されない共通財産・コミュニズムは格差と環境問題を同時に解決出来るとして、「資本主義から脱成長コミュニズムへ」を提唱している。
 岸本聡子さん(東京都杉並区長2022年~)は、新自由主義による国家主義や権威主義を振りかざす中央政府によって、人権・公共財(社会的共通資本)・民主主義が脅かされつつある今日、ミュニシパリズム・地域主権は地域で住民が直接参加して合理的な未来を検討する実践によって、自由や市民権を公的空間に拡大しようとする住民自治運動で、世界中で拡大しているとしている。

一方、軍拡ニッポンは世界第3位の防衛費へなろうとしている。「核の傘」は有り得ず、「集団的自衛権」、「敵基地攻撃能力」で米国の戦争に加担することになり、日本は必ず主戦場となる。日本は原発に取り囲まれている。武力には国際世論は味方しない、平和外交・憲法第9条が国際世論を高めて真の戦争抑止となる。5年間で43兆円の防衛費が必要とされるが、国力低下日本は社会保障費・公共サービスの削減しか財源がない。これでは国民の命と暮らしは守れない。

公立病院・学校・農業などの社会的共通資本を草の根住民運動で守り、住民自治・民主主義を醸成して、軍拡・戦争を阻止する政治に変える時が来た。国民が必死に変えていかないと、日本は滅びてしまう!草の根住民運動で国民が政治に目覚め学習を通じて賢くなることで新自由主義政治を真の民主主義に変えて、地域の公立高校と病院を守る草の根の住民運動を通じて平和を守ろう!!

 

質問:当時の伊藤市長は「府中市の教育が良くないから人口減になる」との詭弁を弄して組合攻撃を仕掛けてきたが、その後人口は約1万人減少した。一方、明石市の泉前市長は「医療・福祉に注力した市政運営」を行い、人口も増え成功した。それと同時に就労の場をどう作るかも大切だと思うが如何か?

回答:自治組織として企業共同組合を作り、国の交付金も出させる。「半農半X」のUターン転入者を呼び込み、フレキシブルな働き方の「地域内循環型社会」を自分たちで作っていきたい。

 

 

 

 
〇月刊保団連投稿原稿 令和6年2月号

地域医療を守る草の根の住民運動は、民主主義を醸成して地域の存続と平和につながる

                広島保険医協会理事、地域医療を守る会顧問 

黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木秀尚

 

1.          はじめに

広島県は202211月に「地域医療構想」に基づく「高度医療・人材育成拠点基本構想(広島新病院構想)」を発表した。広島市内の9医療機関を再編し、地方独立行政法人化して1000床の新病院を2030年に東区に開院する。広島県立病院(712床)とJR広島病院(275床)、中電病院(248床)の3病院を廃止して広島がん高精度放射線治療センターも統合し、その他の5病院の一部機能を新病院へ集約する。また、国家公務員共済組合連合会の広島記念病院(200床)と吉島病院(199床)は統合を検討する。その目的は、県民に質の高い医療を提供することと、首都圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国の若手医師を惹きつけるための高度・先進医療の提供と医療人材を確保するとされている。さらに、中山間地域を含む医師の偏在解消を図るためでもある。しかし、当計画は病床削減に連動して医師偏在対策と働き方改革を行う三位一体の「地域医療構想」であり、同じ 2 次 医療圏内で周辺になった地域の医療機関の病床と人員は結果的に削減される。すなわち、廃止される南区の県立広島病院診療圏域は高齢者が多い島嶼部を含む広域な地域で、人口も14.1万人と多く、移転後広大病院を除くと一般病床がわずか386床になるため、肺炎、心不全、骨折、急性腹症、脳梗塞、熱中症等の一般的 な病気や怪我で入院治療ができる「住民の命を守る病院」の存在が不可欠である。また、人口13.6万人の中区にある吉島病院は市内唯一の結核病床を有する呼吸器専門病院で、コロナ渦には多くの新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている。同じ中区の広島記念病院は、消化器疾患に特化したリーディングホスピタルで手術症例も多く病床利用率は95%を超えている。これら移転後の地域医療に不安を感じる二か所の地域住民は地域医療を守る運動を開始している。私は地域医療を守る草の根の住民運動を2009年から始めており、その活動の継続は住民自治・民主主義を醸成して地域の存続と平和につながると考えているので、下記に詳述する内容の講演啓発活動を行っている。

 

2. 日本は世界一平和で、長生きが出来る国だった

日本人の平均寿命は、戦前までは大日本帝国憲法下での度重なる戦争や社会保障、医療制度の不備のため、男女とも50歳を下回っていた。しかし、第2次世界大戦後、日本国憲法が制定され、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を3原則とする完全な民主主義政体の国となり、被爆国日本は、世界に冠たる憲法第9条を制定して戦争を放棄した。さらに1950年代にかけて全国に自治体病院が設立され、1961年には国民皆保険制度が開始されたおかげで、1981年から日本の平均寿命は世界一となり、現在もトップクラスを維持している。

同じ理由で、人口も戦後の1947から1949年にかけて団塊の世代が誕生し、年間出生数が260万人に増加した。19711974年には団塊ジュニア世代も誕生した。1970年頃から始まった高齢化も相まって、1973年には老人医療費無料化、11医大構想など福祉も充実し、2008年には日本の人口は12908万人とピークに達した。

 

3.新自由主義政治-構造改革、規制緩和、民営化、小さな政府

しかし、1970年代の中東戦争によるオイルショックを機に高度経済成長時代が終わり、政府は1981年に行政組織の構造改革、規制緩和、民営化、小さな政府を目標にした土光臨調を発して、英国サッチャー首相、米国レーガン大統領に倣って社会保障費、公共サービスを抑制する「新自由主義政治」に舵を転換した。経済第一、利益至上で効率性を重視して、市場原理の強欲グローバル資本主義のため 弱肉強食、自己責任論(自助)に徹し、政治手法は民主主義とは相反する権威主義、ポピュリズム(大衆迎合主義)でフェイクニュースを多用して対抗軸を作って分断と対立を煽った。その結果、貧困と格差が拡大し中流階級が激減したため、消費と経済が低迷した。大企業は、国のかじ取りである経済財政諮問会議の民間議員として政治に参加してメディアや政府に大きな影響を与えるようになった。

1990年代半ばから始まったデフレ脱却のため安倍政権の「アベノミクス」による異次元の金融緩和政策のため赤字国債を乱発して、2021年度には国と地方の債務残高がGDP2倍弱に達し、円の信用が低下して日本の国際的地位も凋落し続けている。そして、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックによりグローバル資本主義が破綻し、世界的な生産と物流低下をきたした。新自由主義政策による世界の分断と対立が激化し、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの戦争をもたらしたことで、エネルギー資源や食料の生産、物流低下、悪い円安により、インフレと食料安全保障の危機も迫っている。日本では失われた30年の間に、非正規雇用者が増大したため平均賃金は30年間上がることがなかった。そのため貧困格差が拡大して出生率の低下、少子化による働く世代の減少がみられ、平成の大合併を機に地方の深刻な衰退と東京一極集中が進んだ。

新自由主義政治は、国民の基本的人権と自由、平等、平和を守り、99%の人民の幸福を追求する民主主義とは全く異なって、1%の支配者勢力が99%の労働者階級を使役し、巨大な所得と国民の宝を支配していくものだ。そして倫理観のない経済、営利目的の乱開発による自然破壊と地球温暖化を惹起し、世界中で未曾有の大災害と戦争を起こしている。 

 

4. 自治体戦略2040構想(地方広域統治政策論・構想)

政府は、2018年新自由主義政策の成長戦略として「地方創生」を掲げ、同年「自治体戦略2040構想」を発表した。その根拠は20145月に日本創生会議が発表した「若い女性の人口が2040年までに全国の自治体の半数で半減する」とした「自治体消滅」論である。そして、2040年には団塊ジュニアが高齢者になり社会保障費がさらに増大するため、人口減少を理由にした学校や病院といった社会的共通資本の整理統廃合、効率化を断行して広域化・圏域化政策を推進している。平成の大合併後の基礎自治体の人口は約7万人に増加しているが、将来30万人の大規模自治体・道州制、中央集権専制国家を目指している。

その目的は、米国に追従して世界の強欲グローバル資本主義に乗り遅れないためである。すなわち、学校は「公共施設等総合管理計画、2014年総務省」による小、中、高の統廃合、病院は2007年総務省の「公立病院改革ガイドライン」そして2014年の厚労省「地域医療構想」である。すなわち、これらは「合併」という言葉を表に出さない新たな形の「ステルス合併」、周辺切り捨て政策といえる。すなわち、社会的共通資本が再編統廃合され縮小・リストラされると、平成の大合併から分かるように周辺地域の人口は減少し、一層衰退して中央集権化が進んでいくと考えられる。 

 

5. 「府中市地域医療再生計画」とコロナ渦の医療崩壊、政治主導の医療政策

(1)  「府中市地域医療再生計画」の失敗

   20044月に府中市と合併した上下町には、中山間医療過疎地域唯一の外科的な手術が出来る救急告示病院の府中市立府中北市民病院があったが、人口が約7倍の旧府中市の公的医療機関は、診療所化が予定されていたJA府中総合病院があるのみであった。2006年医師不足と赤字を理由にJA府中総合病院の救済目的もあって、200712月に発表された「公立病院改革ガイドライン」を利用した「府中市地域医療再生計画」で、2病院を再編経営統合して地方独立行政法人府中市病院機構府中市民病院(150床)と府中北市民病院とした。そして、府中北市民病院は、サテライト型病院となり、地域の実情に合わない病院に縮小リストラされた。それに対して地域住民は、「命と地域を守る病院」としての存続を求める「地域医療を守る会」を結成して、活動を200812月から開始し、署名陳情、学集会、シンポジウムの開催、府中市と広島県への要望、議員活動、行政訴訟、広報ニュースの発行など、ありとあらゆる草の根住民運動を今も継続している。当計画策定の根拠となった「府中市健康地域づくり審議会」の答申内容は事実と異なっていたが、日本には患者の権利を擁護する「医療を受ける権利に関する基本法」がないために行政訴訟は却下と棄却という理不尽な結果に終わった。

 当計画は赤字と医師不足の解消が大義名分であったが、11年経過しても上手くいっていない。医師の増員無き地域医療再生計画は、机上の空論である。府中北市民病院は、病床数を110床から60床に半減され、外科が府中に異動して常勤医師が、独法化後6人から3人になったため、救急入院が出来ない、診てもらえない、早期退院などの弊害が発生した。経営的にも11年間の医業収支比率(医業収益/医業支出)の平均は85.5%で、毎年市からの繰り入れが約45千万円必要で赤字は解消出来ていない。経営形態は地方独立行政法人であるが、独法は協議を求める住民には一切会おうとせず、行政・首長も指導が出来ない。議会の関与も難しく、まさに独裁的な法人ということが判明した。平成の大合併後、上下町の人口は約6000人から4000人に減少しており人口は増えていない。そして、町の商店は激減して寂れ衰退しており、上下町がその創設に関与した広島銀行も撤退して広島県立上下高校も存続の危機に陥っている。

(2)コロナ渦で露呈した医療崩壊

20202月から日本でも発生した新型コロナウイルス感染症は、同年11月からの第3波から医療崩壊が顕著となり、命より経済を優先したGo to政策のため、自宅療養者35千人、医師の診療なく死亡した人が200人以上存在した。第5波は感染力と病原性の強いデルタ型の流行にもかかわらず、オリンピックとパラリンピックが開催されたため、令和38月中に250人以上が在宅放置死された。20203月から20218月までには、817人の人が医療機関にかかれないまま死亡している。オミクロン感染が始まった令和312月からの第6波での自宅療養者は58万人に達し、555人が自宅死し、令和47月からは第7波が発生し、776人が自宅死した。令和412月からの第8波では、自宅死が901人発生した。介護施設でクラスターが発生して重篤化しても医療機関に搬送することが出来なくなったため、202312月だけで162人を施設で看取らなければならなくなった。

これら医療崩壊の原因は、新自由主義政策の社会保障費、医療費抑制、公共サービス削減政策のためで、保健所は852か所が469か所に削減、感染症病床は1984年には15,042床あったが、20201,871床へ、集中治療室は人口10万に当たり米国35、独29、伊12床に対して、日本はわずか4.3床であった。そして、医師、看護師抑制政策のため重症患者への十分な医療を提供するためのマンパワーが、諸外国に比べて絶対的に不足していた。入院患者一人当たりの看護師数も日本0.8人、独1.6人、英3.68人、米国4.19人と非常に少ない。1982年に医師数抑制を閣議決定したため、現在OECDの平均より13万人も医師の絶対数は不足しており、その乖離は今も進行している(NPO法人医療制度研究会理事長 本田宏)。

(3)コロナ後日本の医療のこれから、政治主導の医療政策

現在、政府はコロナ後の日本の医療の在り方として、①有事、パンデミック初動体制の確立に向けた内閣総理大臣が指揮命令をする系統と体制、日本版CDCの創設、特措法等の法整備と、②医療提供体制の確立のため地域医療構想と、働き方改革を推進し、③「医療DX」オンライン資格確認・マイナ保険証化と電子カルテ等の標準化・プラットフォーム化、④保証は国費と医療保険から補填とする方針を打ち出している。これらはまさに新自由主義政治主導の医療政策であり、医療や教育が政治に利用されており、日本のデジタル化の遅れの原因が、デジタル化の遅れ、保険証廃止・マイナ保険証化の遅れにあるとする間違った意見からも窺がわれる。

 

6.新自由主義から真の民主主義へ―地域医療を守る草の根住民運動に参加することで住民自治・民主主義と「医療基本法」と平和の獲得―

(1)  「自治体戦略2040構想」の将来は「戦争の出来る国」

全国で現在進行中の病院、学校といった社会的共通資本の再編統廃合計画は、新自由主義政策である「自治体戦略2040構想」すなわち「地方広域統治政策論・構想」に基づいている。その結果、①失敗に終わった平成の大合併のように、周辺地域が衰退して行政サービスも削減されるため、民意も通らなくなって、疲弊地域が拡大・広域化する。②外部委託、地方独立行政法人化され、民意を反映する首長、議会の関与が難しくなる。③公共サービスの産業化により、社会的共通資本が消失する。④公務員が激減して非正規職員や派遣職員が対応するため行政サービスが低下する。⑤地方自治・住民自治、住民主権が崩壊する。以上の結果、政府と官僚、大企業、超富裕層に富と権力が集中し、「中央集権専制国家」になり、そして、対立と分断を生んで米国が命じるがままに「武力行使・戦争の出来る国」になっていくと考えられる。

(2)  地域を持続可能にする宝「社会的共通資本」とその政治利用

 世界的経済学者の宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」とは、無くすると地域を維持したり、生活が出来なくなるもので、土地、大気、水、道路、上下水道、公共交通機関、教育、医療、農業などです。それらは決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない(宇沢弘文)。だから、人口が減るから、赤字であるから学校や病院が再編統廃合されることは間違っている。すなわち、政府の目的は別にあり、一見政治とは全く関係がなさそうな医療や教育が巧妙に政治利用されているのです。病院や学校を統廃合することは、広域化・圏域化に繋がる「ステルス合併」といえる。それは新自由主義政治・強欲資本主義の目指す道州制と中央集権・専制国家に向く地方統治戦略となる。そして、地方分権・民主主義、住民主権が形骸化するため、政府は国民に対して強権的になり、米国に隷従している政府は、米国の戦争に必ず加担するようになると考えられる。これらは大軍拡政府の国民に対する傍若無人の畏れを知らない民意を無視する政策からも容易に想像が出来ます。

(3)  地域医療を守るための喫緊の課題―「医療基本法」の制定

 「府中市地域医療再生計画」は、事実と異なる答申に基づいた計画であったことを理論的に証明して裁判所に訴えましたが、却下、棄却という審理されない門前払いの結果に終わりました。また、コロナ渦で医師の診療を受けることが出来ないままに多くの新型コロナウイルス感染症患者が在宅放置死されていますが、国から何の検証も救済も得られず、闇に葬られたままになっています。また、オンライン資格確認義務化等デジタル化に従わないと療養担当規則で保険医が取り消される危険性もあります。これらは、患者の権利と医療従事者の権利を擁護する立場に立った「医療を受ける権利の基本法」がないためです。憲法第25条(生存権)、13条(生命自由幸福追求権)、14条(平等権)だけでは、具体的な医療を受ける権利に関する法律がないため裁判で闘うためにも不十分なのです。一刻も早く「医療を受ける権利の基本法」を制定して、現行の行政取り締まり法規に過ぎない医療法や医師法を改正し、親法として憲法第25条や13条、14条に媒介させる必要があります。そのためには、政治を新自由主義から民主主義に変えることが必須なのですが、医療基本法があれば政治を変える戦いの武器にもなるのです。

(4)地域医療、住民自治の原則と意義、草の根住民運動の継続により新自由主義から平和をもたらす民主主義への転換を!

 政治の目的は国民の命と暮らしを守ることです。コロナ渦で両者とも守られていないことが良く分かりました。持続可能な地域は「命を守る病院」が必須です。それは地域住民、病院、行政が三位一体になって持続的に創り上げるものです。その過程で地域医療は、「まちづくり」と「民主主義」に繋がります。住民自治・民主主義は、草の根住民運動の継続で醸成するものです。すなわち、公立病院を守る住民運動は、地域と民主主義を守る運動なのです。

 民主主義は与えられたり、元々そこにある形式的なものではなく、平和と同様に永続的にあるものでもありません。地域で発生した命と暮らしを脅かす問題に対して地域住民が声を上げ、改善を求める草の根住民運動を展開継続、学習していくことで、醸成されるダイナミックなものです。新自由主義政治家のトップダウン形式では問題は解決できません。地域の身近な問題に対して住民が声を挙げ、社会的共通資本を守り抜く草の根の住民運動に参加することによって、政治から遠ざけられていた国民の政治意識が高まります。私たちは学習を通じて、政策の裏に隠されている医療や教育などの社会的共通資本の政治利用、すなわち中央集権化による戦争にさえ踏み切れるような国づくりという真の狙いに気づくことができるようになってきました。その結果、住民自治、つまり99%の国民が幸せになれる真の民主主義が、醸成されることも分かってきました。すなわち、社会的共通資本を守る草の根の住民運動は、ステルス合併、広域化を阻止して、中央集権化にブレーキをかけることが出来る。そして公立病院や、学校を守る草の根の住民運動は、政治意識を高めて住民自治・民主主義を醸成して平和につながるのです。以上の理由から「命と暮らしを守る政治」が良い方向に向かい、地域を持続可能にする社会的共通資本と住民自治が守られ、平和を守ることにもつながると考えられるのです。

 

l  参考資料

・黒木秀尚「医療は政治-地域医療を守る(広島・府中市)草の根住民運動の全記録-」ウインかもがわ、2022

・宇沢弘文「社会的共通資本」岩波新書、2000

・内田博文「医事法と患者・医療従事者の権利」みすず書房、2021


〇府中市への要望(令和5年12月14日)

令和5年12月14日

府中市長

小野 申人 様

                                地域医療を守る会

                                会長 山根 孝志

 

府中北市民病院の機能回復と「命を守る病院」としての維持を求める要望

 

府中市は、令和5年8月7日に行われた令和5年度地方独立行政法人府中市病院機構評価委員会で、第4期中期目標を発表して9月議会で決定された。その中で、「病院機構の両病院は、地域に必要な病院として維持する」という市の基本方針に基づき、両病院とも、市南部あるいは北部それぞれの圏域において民間医療機関だけでは確保が困難な入院機能や救急受け入れをはじめとした不採算部門の医療機能を確保するとともに、引き続き役割及び医療機能の維持を図ることとしている。しかし、各病院の診療圏域における人口動態や受療行動の変化が明らかで、病床利用率が低水準で回復の見込みがない場合などは、市全体の医療提供体制に関わることもあるので、該当する病院の在り方や必要な医療機能について市と協議、検討すること、としている。評価委員会の出席者からも府中北市民病院の患者減少の要因を「大きく見て人口減少というところに原因があるとみて、今後、人口減少を見越した病院の体制というものをつくっていく必要があると思う」と述べている。また、府中北市民病院の病床利用率が低いとする指摘もあった。

しかし、平成232月に府中市が医師不足と赤字を理由に策定した「府中市地域医療再生計画」は、診療所化の方針が決まっていたJA府中総合病院を救済するため平成1912月に総務省が発表した「公立病院改革ガイドライン」を利用した理不尽な再編統合計画でした。そのため平成20年12月から地域住民は、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域で唯一外科的手術が出来る中核病院の府中北市民病院を守るために草の根の住民運動を開始しました。しかし、府中市はその計画に沿って110床を60床に、常勤医師7名を3名に縮小・リストラし、経営状態を市の直営から地方独立行政法人に変換して公設民営化しました。さらに、他に入院施設がないにもかかわらず4階の療養病床を廃止し、サービス付き高齢者向け住宅に改築してしまいました。

そのため多くの弊害が発生しました。救急車の受け入れが充分で出来ないために搬送中に亡くなられたり、病床数が少ないため入院が出来なくなり早く退院させられ、自宅で亡くなる人も出現しました。常勤外科医師が府中市民病院へ異動したためマムシにかまれて手遅れのため重症化する人も出ました。手術もタクシーで片道1万円の遠方の病院でしなければならなくなりました。職員の過重労働で早期離職、退職者も出ました。さらに、風評被害による受診抑制も発生しました。それに対して地域住民は、 [命を守る病院]存続のために学習会、シンポジウムや講演会を開催し、市の直営、110床、常勤医師数6名以上、協議、の実現を要望し続けていますが、何ら改善はありません。

最近の病院の統廃合は病床利用率と市場原理を基準に行われていますが、前述したごとく、無理矢理に病院規模と機能をおよそ半分にしておいて経営を改善することは、どんな職業でも不可能です。さらに病床利用率は、常勤医師数に左右され、1人の医師が年間を通じて受け持てる患者数は、平均10名から12名程度のため、北市民病院の病床利用率は、せいぜい50~60%(30~36床/60床)です。また、コロナ渦で令和3年度の全国の入院受療率は70%に低下しており、福山市民病院でも5類になってからも患者数はコロナ前に戻っていません。以上の理由から府中北市民病院の経営状況を病床利用率で判断してはいけません。さらに、令和4年度には救急車を232人受け入れており、常勤医師1人当たりに換算すると77.3人となり、府中市民病院の570人、常勤医師1人当たりの換算数38人に比べて医師の負担が非常に大きいことが分かります。また、病床当たりに換算しても北市民3.9人と、市民の3.8人より多い。さらに、令和6年度から医師の働き方改革が始まり、時間外の上限が年960時間に制限されるため、今までのように多くの救急患者を診ることが出来なくなり、地域住民の命の保証が無くなります。一刻も早い常勤医師の増員が必要です。そして、府中北市民病院の診療圏は、旧甲奴郡、神石郡、世羅郡の一部と広域であるため、府中地区外の患者の割合が府中45に対して49と多く、なくてはならない病院であること+が分かります。また、2020年からの少子高齢化、疾病構造の変化に伴う医療需要の変化で見ると、脳梗塞、肺炎、心不全、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、腎尿路感染症が多くなります。府中北の入院患者の内訳は、上記の傾向を満たしており、しかも大腿骨近位部骨折が最も多いことから、その場合は平均在院日数がほぼ30日と長くなるので、病床数は短い入院で済む疾病よりたくさん必要となります。以上のことから下記の如く要望をいたします。 

 

1.              府中北市民病院の赤字は、平成232月に府中市が策定した「府中市地域医療再生計画」によって理不尽に地域の実情に合わない機能、規模に縮小・リストラされたことによるもので、赤字と医師・看護師不足を理由にしたさらなるダウンサイジングは絶対に容認できません。

2.              府中北市民病院が多くの救急車を受け入れている実績から、一刻も早く常勤医師数と、夜勤の出来る看護師数、病床数を、再編統合前に戻されたい。

3.              令和6年度から医師の働き方改革が始まるので、一刻も早く常勤医師を増員されたい。

4.              住民、病院(独法)、行政が、一丸となることで、地域で良い医療が出来ます。『命を守る府中北市民病院』が存続するために、住民、病院(独法)、行政が協議をする場所と機会を定期的に設けられたい。

5.              以上の要望内容を、第4期中期計画に反映されたい。


〇中國新聞「今を読む」(令和5年10月7日朝刊)

公立病院、学校を守る草の根の住民運動は平和につながる

         地域医療を守る会顧問、上下高校を支援する会代表  黒木秀尚

 

 コロナ渦で医師、看護師不足、感染病床不足のために医療機関を受診出来ずに自宅で死亡した人が数多く発生した。これは正に医療崩壊である。しかし政府は、新自由主義政策の一環として2025年を目途に全国の病床数を18万床も削減する「地域医療構想」を粛々と推進している。公立高校も人口減少による生徒数の減少を理由に「公共施設等総合管理計画」に基づいて平成の大合併時と同じペースで統廃合されている。しかし、これらの「社会的共通資本」は、先人が地域を持続可能にするために陳情などを繰り返して勝ち取った地域の宝である。だからそれらを無くすると地域は衰退してやがては消滅してしまう。

 府中北市民病院は、旧甲奴郡、神石郡中山間医療過疎地域の唯一外科的手術が出来る救急告示病院として長年地域住民の命と暮らしを守ってきた。しかし2012年に赤字と医師不足を理由にJA府中総合病院に「公立病院改革ガイドライン」を利用して再編統合、縮小リストラされた。命と健康の保証が無くなり暮らしも脅かされる地域住民は、2008年に地域医療を守る会を結成して今日に至るまで15年間草の根の住民運動を継続している。毎年広島県と府中市に存続を求める陳情を行い、病院は存続している。また、当該地域には1920年創立の広島県立上下高等学校が存在し、今までに約14千人余りの卒業生を世に送り出してきた。しかし、人口減少で生徒数が年々減少するため2021年度から全校生徒数120名の3分の2を連続達成できず、統廃合される運命に陥ったため、地域住民、同窓会を中心に上下高校の存続に向けた署名など様々な取り組みがなされ、2024年度も生徒の募集が可能となった。

 政府は1981年の土光臨調を機に英国や米国に倣って、社会保障費、公共サービスを削減して市場原理に基づく効率重視の新自由主義政治に舵を切り、構造改革を進め規制を緩和して、公共交通機関や電力、通信、教育、医療、農業などの社会的共通資本の民営化と整理統廃合を進めている。また、2014年「自治体消滅」論を発表して、それを根拠に地方広域統治政策である「自治体戦略2040構想」をデジタル化を梃に推進し、人口が減ることを理由に病院や学校の統廃合を推進している。これは新たなステルス合併・周辺切り捨て政策で、基礎自治体を30万人規模にして住民自治、団体自治も形骸化させて戦争の出来る中央集権専制国家にしようとしている。新自由主義は、経済第一、利益至上の強欲グローバル資本主義であるため弱肉強食、自己責任論(自助)に徹し、貧困格差、分断と対立、紛争が激化する。その結果、米国に追従する日本は「新たな戦前」状態に陥っている。

 私達は地域における命と暮らし、基本的人権を脅かす身近な問題に対する草の根の住民運動で、病院や学校といった社会的共通資本(コモン)を守ることは、ステルス合併・広域化を阻止して、中央集権化にブレーキをかける事に繋がることが15年間の活動で分かった。そして、地域の身近な問題に対して住民が声を挙げ、社会的共通資本を守り抜くための草の根の運動に参加することによって、政治から遠ざけられていた国民の政治意識が高まり、学習を通じて現在の政策の裏に隠されている真の意図である医療や教育などの社会的共通資本(コモン)の政治利用に気づくことが出来るようになる。その結果住民自治、99%の国民が幸せになれる真の民主主義が醸成されることも分かった。以上の理由から「命と暮らしを守る政治」が良い方向に向かい、地域を持続可能にする社会的共通資本、住民自治が守られ、税金も軍事費に回らず戦争も回避出来る。さあみんなで平和につながる地域の公立病院と学校を守るために声を挙げて運動に参加しよう。


〇広島県医師会速報会員の声(23.10.5.)
「新 病 院 構 想」 ―県立広島病院跡地の「地域住民の命を守る病院」は平和につながる 黒木整形外科リハビリテーションクリニック院長 黒木 秀尚  

2012年4月府中北市民病院は、公立病院改革 ガイドラインに基づいた「府中市地域医療再生 計画」によってJA府中総合病院に経営統合さ れサテライト病院に位置づけられた。府中北市 民病院は、病床数を110床から60床に縮小され、 外科が府中に異動して、常勤医師が独法化後6 人から3人にリストラされたため、救急入院が できない、診てもらえない、早期退院などの医 療難民が発生した。経営的にも11年間の医業収 支比率の平均は86.0%と赤字は解消できていな い。平成の大合併後、上下町の人口は約6,000 人から4,000人に減少しており、町は商店が激 減、衰退している。さらに、広島県立上下高等 学校も存続の危機に陥っている。  2022年11月16日、広島県は「地域医療構想」 に基づく「高度医療・人材育成拠点基本構想 (新病院構想)」を発表した。その目的は、首都 圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国の若 手医師を引きつけるための高度・先進医療の提 供と医療人材を確保することである。さらに、 中山間地域を含む広域的な人事交流により、医 師の偏在解消を図るためである。県立広島病院 とJR広島病院、中電病院などを再編して、病 床数1,000床程度の新病院を設立して2030年に 開院する。しかし、当計画は医療費抑制の新自 由主義政策のため、同じ2次医療圏内で周辺に なった地域の医療機関の人員は結果的に削減さ れる。そして、先の「府中市地域医療再生計画」 と同じく、対象地域の医師を増員することなく 再編統廃合すれば、周辺になった病院の経営難 も医師不足も解消はできず画餅に帰すると考え られる。すなわち、近年人口が増加している県 病院の診療圏域は、高齢者が多い島しょ部を含 み広域なので、移転後も肺炎、心不全、骨折、 腹痛、脳梗塞、熱中症といった一般的な病気や けがで入院治療ができる「住民の命を守る病院」 としての存在が不可欠である。  8月24日、広島県健康福祉局と424共同広島が 「新病院構想」に関する懇談をした。そこで参 加者は、広島市南区の2020年度の一般病床数は 1,789床だが、2030年県病院移転後には726床の 広大病院を除くと一般の病気やけがで入院治療 ができる一般病床がわずか386床になるため地 域住民の命の保証がなくなることを強く訴えた。 また、県病院跡地利用に関して、病院がなくな る地域住民の医療へのアクセス状況の調査が必 要であることを提言した。そして、病院がなく なったら地域医療がどう変わるか分からない状 況がアンケート結果から判明したので啓発活動 が必要であると提言した。さらに「地域住民の 命を守る病院」を確保するため、今後広島県と 地域住民・関係者で情報交換・意見交換ができ る「県立広島病院跡地活用推進協議会」が必要 であることを強く訴えた。さらに、中山間地域 の医師不足を解消するための新病院の医師と指 導医が増えるには10年単位の時間がかかること と、無医地区が増加している現状から現在稼働 している「ふるさと枠」のさらなる充実を訴え た。  全国で現在進行中の病院、学校といった「社 会的共通資本」の再編統廃合計画は、新自由主 義政策である「自治体戦略2040構想」すなわち 「地方広域統治政策論・構想」に基づいている。 その結果①平成の大合併のように、周辺地域が 衰退して行政サービスも削減されるため、民意 も通らず疲弊地域が拡大・広域化する②外部委 託、地方独立行政法人化され、民意を反映する 首長、議会の関与が難しくなる③公共サービス の産業化により、社会的共通資本が消失する④ 公務員が激減して非正規職員や派遣職員が対応 するため行政サービスの質が低下する⑤地方自 治・住民自治、住民主権が崩壊する。以上の結 果、政府と官僚、大企業、超富裕層に富と権力 が集中し、中央集権専制国家になり、そして、 対立と分断を生んで米国に追従して「武力行使 のできる国」になると考えられる。私たち医師 は、住民の命と地域を守る住民運動に参加して 政治を真の民主主義に変えることで平和も守っ ていかなければならない

〇第65回日弁連人権擁護大会シンポジウム(23.10.5.)

65回日弁連人権擁護大会シンポジウム指定発言        令和5105

人権としての『医療へのアクセス』の保障~新自由主義的医療改革から住民の命と医療の現場が大切にされる医療保障改革へ~

          黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚

 

 広島県の無医地区の80%が存在する中山間地域の中核病院である府中北市民病院は、2012年に、「府中市地域医療再生計画」によってJA府中総合病院に再編統合・地方独立行政法人化され、病床数が110床から60床へ、常勤医師が7名から3名に、縮小・リストラされました。これは、2007年に総務省が発表した「公立病院改革ガイドライン」よる新自由主義政策に基づいた計画です。そのため救急車の受け入れが十分出来ず、搬送中に亡くなられた方もおられました。そして、入院が出来ても短期間で退院せざるを得ないため、自宅で亡くなる人もいました。マムシにかまれても遠くの病院に行かなければならなくなり重症化したり、手術もタクシーで片道1万円もかかる遠方の病院でしなければならなくなりました。医師、看護師の過重労働、離職、接遇低下、風評被害も発生して本来の「命を守る病院」ではなくなっています。地域も衰退して商店や銀行も無くなり、広島県立上下高等学校も統廃合の危機にあります。

 こういった地域・故郷存亡の危機に対して、当該地域住民は2008年から「地域医療を守る会」を結成して「草の根の住民運動」を開始しました。数多くの集会、署名陳情、行政訴訟、広報ニュースの発行、アンケート、シンポジウム、広島県と府中市への要望などを続けていますが、国の政策であるため、さらなる縮小・リストラの危険性が差し迫っています。   

コロナ渦により、全国でも入院、外来の受け入れ中止と、院内感染、在宅療養・在宅死といった医療崩壊が発生しましたが、これは、何事も効率重視で、市場原理に基づく経済第一の新自由主義政策によるもので、社会保障費、医療費を抑制し、公共サービスを削減して、公立・公的病院や保健所、医師たちといった社会的共通資本・コモンの大幅削減に起因しています。

地域住民が2012年から2016年まで47か月行政訴訟で闘った「府中市地域医療再生計画」は、「府中市健康地域づくり審議会」の府中市長への答申内容が、全く事実と異なっていたにもかかわらず、1審から3審まで却下、棄却、棄却と理不尽にも門前払いの結果に終わりました。これは、ハンセン病患者が長年にわたって「国際人権規約」に反する「らい予防法」によって不当な差別と隔離をされたことや、コロナ渦における在宅療養・在宅死が闇に葬られている現状と同様に、我が国には、「患者の権利を擁護する医療を受ける権利の基本法」がないために、現行の医療法、医師法が、国の医療政策を円滑に遂行するための「行政取り締まり法規」のままであるからです。一刻も早く「医療基本法」を制定し、医事法を患者の命という最大の基本的人権を擁護するものに変えて、憲法第25条、13条、14条などに橋渡しができる法律にしなければ、同じような「医療へのアクセスの障害」が将来にわたって繰り返されることになるのです。

私達は地域における命と暮らし、基本的人権を脅かす身近な問題に対する15年間の草の根の住民運動で、「若い女性の人口が2040年までに全国の自治体の約半数で半減する」とした「自治体消滅」論を根拠にした、人口が減るから病院や学校を統廃合する「地方広域統治構想」である「自治体戦略2040構想」に対して、病院や学校といった社会的共通資本を守ることは、新たな形の合併・広域化、周辺切り捨てを阻止して、中央集権化にブレーキをかける事に繋がることが分かりました。そして、地域の身近な問題に対して住民が声を挙げ、社会的共通資本を守り抜くための草の根の運動に参加することによって、政治から遠ざけられていた国民の政治意識が高まり、学習を通じて現在の政策の裏に隠されている真の意図である「医療や教育などの政治利用」に気づくことが出来るようになります。そして運動の結果、「住民自治」すなわち、99%の国民が幸せになれる真の民主主義が醸成され、それが平和につながると考えることが出来るようになりました。

しかし、そのためには、現在の新自由主義政治を、国民の命と暮らしを守る真の民主主義政治に変えるための武器となる「医療を受ける権利の医療基本法」を、今回のシンポジウムを機に日弁連が主導して、国民とともに勝ち取るための今後の具体的な行動計画を創り上げられることを強くお願いして私の発表といたします。

 

最後に、この発表の詳細に関しては、拙著「医療は政治―地域医療を守る草の根住民運動の全記録」を是非お読みください。

●広島の地域と暮らし(2023年5月No.470)

医療は政治、公立・公的病院再編統廃合対策

―病院や学校など地域の社会的共通資本は持続可能な地域と平和の要-

 

黒木 秀尚

黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長

地域医療を守る会 顧問

 

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症が発生して3年間、医師にかかれないまま自宅や施設で亡くなる人が後を絶たない医療崩壊が発生した。2020年4月の第1波から202212月の第8波まで感染爆発が繰り返されたが、ほとんど何も改善されることなく、感染症病床と人材不足による弊害が繰り返され続け、そしてその原因は豊富にあるとする医療資源が分散し、医師の偏在の非効率性に起因していると声高に指摘され続けた。しかし政府は、深刻な少子化と高齢者の増加による働く世代の減少を根拠に、社会保障費、医療費抑制と公共サービスの削減を目的にした人命軽視の地域医療構想、新自由主義政策を、地域住民と十分な議論をすることなく、粛々と推進している。そして、これらの政策は集団的自衛権や共謀罪、反撃能力、防衛費GDP費の2%増など、政府の最終目標である「戦争が出来る国」づくりと密接に関連している。

2. 日本は世界一平和で、長生きが出来る国だった

日本人の平均寿命は、戦前までは大日本帝国憲法下での度重なる戦争や社会保障、医療制度の不備のため、男女とも50歳を下回っていた。しかし、第2次世界大戦後、日本国憲法が制定され、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を3原則とする民主主義の国となり、世界に冠たる憲法第9条を制定して戦争を放棄した。さらに昭和20年代~30年代にかけて全国に自治体病院が設立され、1961年には国民皆保険制度が開始されたおかげで、1981年から日本の平均寿命は世界一となり、現在もトップクラスを維持している。

同じ理由で、人口も戦後の1947から1949年にかけて団塊の世代が誕生し、年間出生数が260万人に増加した。19711974年には団塊ジュニア世代も誕生した。1970年頃から始まった高齢化も相まって、1973年には老人医療費無料化、11医大構想など福祉も充実し、2008年には日本の人口は12908万人とピークに達した。

3.新自由主義政治-構造改革、規制緩和、民営化、小さな政府

しかし、1970年代の中東戦争によるオイルショックを機に高度経済成長時代が終わり、政府は1981年に行政組織の構造改革、規制緩和、民営化、小さな政府を目標にした土光臨調を発して、英国サッチャー首相、米国レーガン大統領に倣って社会保障費、公共サービスを抑制する「新自由主義政治」に舵を転換した。経済第一、利益至上で効率性を重視し、社会保障費と医療費を抑制して公共サービスの削減を徹底した。市場原理の強欲グローバル資本主義で、弱肉強食、自己責任論(自助)に徹し、政治手法は民主主義とは相反する権威主義、ポピュリズム(大衆迎合主義)でフェイクニュースを多用して対抗軸を作って分断と対立を煽った。その結果、貧困と格差が拡大し中流階級が激減したため、消費と経済が低迷した。大企業は、国のかじ取りである経済財政諮問会議の民間議員として政治に参加してメディアや政府に大きな影響を与えるようになった。

1990年代半ばから始まったデフレ脱却のため安倍政権の「アベノミクス」による異次元の金融緩和政策のため赤字国債を乱発して、2021年度には国と地方の債務残高がGDP2倍弱に達し、円の信用が低下して日本の国際的地位も凋落し続けている。そして、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックによりグローバル資本主義が破綻し、世界的な生産と物流低下をきたした。新自由主義政策による世界の分断と対立が激化し、ロシアのウクライナ侵攻をもたらしたことで、エネルギー資源や食料の生産、物流低下により、インフレや食料安全保障の危機も迫っている。日本では失われた30年の間に、非正規雇用者が増大したため平均賃金は30年間上がることがなかった。そのため貧困格差が拡大して出生率の低下、少子化による働く世代の減少がみられ、平成の大合併を機に地方の深刻な衰退と東京一極集中が進んだ。

新自由主義政治は、国民の基本的人権と自由、平等、平和を守り、99%の人民の幸福を追求する民主主義とは全く違って、1%の支配者勢力が99%の労働者階級を使役し、巨大な所得と宝を支配していくものだ。そして倫理観のない経済、営利目的の乱開発による自然破壊と地球温暖化を惹起し、世界中で未曾有の大災害を起こしている。 

4. 自治体戦略2040構想(地方広域統治政策論・構想)

政府は、2018年新自由主義政策の成長戦略として「地方創生」を掲げ、同年「自治体戦略2040構想」を発表した。その根拠は20145月に日本創生会議が発表した「若い女性の人口が2040年までに全国の自治体の半数で半減する」とした「自治体消滅」論である。そして、2040年には団塊ジュニアが高齢者になり社会保障費がさらに増大するため、人口減少を理由にした学校や病院といった社会的共通資本の整理統廃合、効率化を断行して広域化・圏域化政策を推進している。平成の大合併後の基礎自治体の人口は約7万人に増加しているが、将来30万人の大規模自治体・道州制、中央集権専制国家を目指している。

その目的は、米国に追従して世界の強欲グローバル資本主義に乗り遅れないためである。すなわち、学校は「公共施設等総合管理計画、2014年総務省」による小、中、高の統廃合、病院は2007年総務省の「公立病院改革ガイドライン」そして2014年の厚労省「地域医療構想」である。すなわち、これらは「合併」という言葉を表に出さない新たな形の「ステルス合併」、周辺切り捨て政策といえる。しかし、社会的共通資本が再編統廃合され縮小・リストラされると、平成の大合併から分かるように地域の人口は減少し、一層衰退して中央集権化が進んでいくと考えられる。 

5. 府中市地域医療再生計画とコロナ渦の医療崩壊

(1)  府中市地域医療再生計画の失敗

   20044月に府中市と合併した上下町には、中山間医療過疎地域唯一の外科的な手術が出来る公立府中北市民病院があったが、人口が約7倍の旧府中市には診療所化が予定されていたJA府中総合病院があるのみであった。しかし、府中市は、都市部で福山市と隣接しており、医療資源には恵まれていた。2006年医師不足と赤字を理由にJA府中総合病院の救済目的もあって、200712月に発表された「公立病院改革ガイドライン」を利用した「府中市地域医療再生計画」で、2病院を再編経営統合して地方独立行政法人府中市病院機構府中市民病院と府中北市民病院とした。そして、府中北市民病院は、サテライト型病院となり、地域の実情に合わない病院に縮小リストラされた。それに対して地域住民は、「命と地域を守る病院」としての存続を求める「地域医療を守る会」を結成して、活動を200812月から開始し、署名陳情、学集会、シンポジウムの開催、府中市と広島県への要望、議員活動、行政訴訟、広報ニュースの発行など、ありとあらゆる草の根住民運動を今も継続している。当計画策定の根拠となった「府中市健康地域づくり審議会」の答申内容は事実と異なっていたが、日本には患者の権利を擁護する「医療を受ける権利に関する基本法」がないために行政訴訟は却下と棄却という理不尽な結果に終わった。

 当計画は赤字と医師不足の解消が大義名分であったが、10年経過しても上手くいっていない。医師の増員無き地域医療再生計画は、机上の空論である。府中北市民病院は、病床数を110床から60床に半減され、外科が府中に異動して常勤医師が、独法化後6人から3人になったため、救急入院が出来ない、診てもらえない、早期退院などの弊害が発生した。経営的にも医業収支比率の平均は85.6%と赤字は解消出来ていない。経営形態は地方独立行政法人であるが、独法は協議を求める住民には一切会おうとせず、行政も指導が出来ない。議会の関与も難しく、まさに独裁的な法人ということが判明した。平成の大合併後、上下町の人口は約6000人から4000人に減少しており人口は増えていない。そして、町の商店は激減して寂れ衰退しており、広島県立上下高校も存続の危機に陥っている。

(2)コロナ渦で露呈した医療崩壊

  20202月から日本でも発生した新型コロナウイルス感染症は、同年11月からの第3波から医療崩壊が顕著となり、命より経済を優先したGo to政策のため、自宅療養者35千人、医師の診療なく死亡した人が200人以上存在した。第5波は感染力と病原性の強いデルタ型の流行にもかかわらず、オリンピックとパラリンピックが開催されたため、令和38月中に250人以上が死亡した。20203月から20218月までには、817人の人が医療機関にかかれないまま死亡している。オミクロン感染が始まった令和312月からの第6波での自宅療養者は58万人に達し、555人が自宅死した。令和47月からは第7波が発生し、776人が自宅死した。令和412月からの第8波では、介護施設でクラスターが発生して重篤化しても医療機関に搬送することが出来なくなったため、202312月だけで162人を施設で看取らなければならなくなった。

 これら医療崩壊の原因は、新自由主義政策の社会保障費、医療費抑制、公共サービス削減政策のためで、保健所は852か所が469か所に削減、感染症病床は1984年には15042床あったが、20201871床へ、集中治療室は人口10万に当たり米国35、独29、伊12床に対して、日本はわずか4.3床であった。そして、医師、看護師抑制政策のため重症患者への十分な医療を提供するためのマンパワーが、諸外国に比べて絶対的に不足していた。米国カリフォルニア州と比べても病床当たりの医師、看護師は三分の一しかいない。1982年に医師数抑制を閣議決定したため、現在OECDの平均より13万人も医師の絶対数は不足しており、その乖離は今も進行している。

6. 地域医療構想と広島県「高度医療・人材育成拠点基本構想(新病院構想)」

 2014年厚生労働省は、団塊の世代が後期高齢者になる2025年の人口推計に基づいて、全国の病床数を約16万~20万床削減する地域医療構想を発表した。20199月、遅々として進まない再編統廃合に業を煮やした経済界の圧力により、政府は全国の424公立・公的病院を名指しして再編統廃合を急がせた。さらに、コロナ渦で医療崩壊が発生しているにもかかわらず、20221120日の広島医学会総会で内閣審議官は「コロナ渦は非常時だから病床ひっ迫は仕方がない。人口減を見据えた平時の地域医療構想は推進する」と発言した。しかし、府中北市民病院診療圏では、長年平時から医療崩壊が続いているのが現状である。医療崩壊はコロナ渦で、新自由主義政策による全国共通の平時からの深刻な問題であることが判明した。

 20231116日、広島県は地域医療構想に基づく「新病院構想」を発表した。その目的は、多くの症例が集まる首都圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国から多くの優秀な若手医師を惹きつけるための全国レベルの高度・先進医療の提供と医療人材を確保することである。さらに、中山間地域を含む広域的な人事交流により、医師の偏在解消を図るためである。広島県立病院(712床)とJR広島病院(275床)、中電病院(248床)を再編して、急性期、小児医療を集約し、病床数を約235床削減した1000床程度の新病院を設立して2030年に開院する。

 しかし、当計画は病床削減に連動して医師偏在対策と働き方改革を行う三位一体の改革であり、人員は結果的に削減される可能性がある。そして、先の「府中市地域医療再生計画」と同じく、医師を増員することなく再編統廃合すれば、経営難も医師不足も解消はできず画餅に帰すると考えられる。さらには広島県立病院のある広島市南区宇品地区の人口は近年増加しており、診療圏域が島嶼部を含み広域なので、移転後も肺炎、心不全、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症といった一般的な病気や怪我で入院治療が出来る「住民の命を守る病院」としての存在が不可欠である。今後、広島県は再編統廃合の対象になっている病院や地域住民との十分な協議が必要である。

7.新自由主義から民主主義へ―命と暮らしを守る地域医療問題に声を上げ、草の根住民運動に参加することで住民自治・民主主義と平和の獲得―

(1)  自治体戦略2040構想の将来は「戦争の出来る国」

全国で現在進行中の病院、学校といった社会的共通資本の再編統廃合計画は、新自由主義政策である「自治体戦略2040構想」すなわち「地方広域統治政策論・構想」に基づいている。その結果①失敗に終わった平成の大合併のように、周辺地域が衰退して行政サービスも削減されるため、民意も通らなくなって、疲弊地域が拡大・広域化する。②外部委託、地方独立行政法人化され、民意を反映する首長、議会の関与が難しくなる。③公共サービスの産業化により、社会的共通資本が消失する。④公務員が激減して非正規職員や派遣職員が対応するため行政サービスが低下する。⑤地方自治・住民自治、住民主権が崩壊する。以上の結果、政府と官僚、大企業、超富裕層に富と権力が集中し、中央集権専制国家になり、そして、対立と分断を生んで米国の命じるがまま「武力行使の出来る国」になっていくと考えられる。

(2)  地域を持続可能にする宝「社会的共通資本」

 世界的経済学者の宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」とは、無くすると地域を維持したり、生活が出来なくなるものである。自然環境としては、土地、大気、水、種子、森林、川、海などがあり、社会的インフラストラクチャーとしては、道路、上下水道、公共交通機関、電力、通信などがある。制度資本としては、教育、医療、農業、金融、司法、行政などである。それらは決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない(宇沢弘文)。だから、人口が減るから、赤字であるから学校や病院が再編統廃合されることは間違っている。その分かやすい証拠として、平成の大合併によって整理統廃合されても人口が減ることがあっても増えることはないことからも理解出来る。すなわち、政府の目的は別にあり、一見政治とは全く関係がなさそうな医療や教育が巧妙に政治利用されているのだ。病院や学校を統廃合することは、広域化・圏域化に繋がる「ステルス合併」といえる。それは新自由主義政治・強欲資本主義の目指す道州制と中央集権・専制国家に向く地方統治戦略となる。そして、地方分権・民主主義、住民主権が形骸化するため、政府は国民に対して強権的になり、米国に隷従している政府は、米国の戦争に必ず加担するようになると考えられる。これらはアメリカの威を借る政府の傍若無人の畏れを知らない姿からも容易に想像が出来る。

(3)社会的共通資本が政治に従属させられると、命が効率化され、戦争につながる

 2次世界大戦前には、治安維持法により言論の自由が厳しく弾圧され、戦争に突き進んでいった。アジア諸国の多くの人々を未曽有に殺戮したあげくに敗戦しただけでなく、広島、長崎に原爆が投下され、日本が人類史上最悪の状況に陥った過去を決して忘れてはならない。歴史的に日本の政府は、一度決めたことは上手くいっていなくても決して変えようとはしない大きな欠点がある。コロナ禍で多くの医療難民、犠牲者が発生しているにもかかわらず、厳格にPDCAを回すことなく、議論を尽くした総括がなされていない。その状況下で類似の政策を繰り返す過ちを犯している。医療や教育、学問といった国民が幸福になるための社会的共通資本が政府に従属させられると、人事権を行使したり、罰則規定を強化したりして、一握りの経済界や政治家、官僚などの特権階級に牛耳られたその時の政権に都合の良い中央集権・専制的な国家に陥ってしまう。202110月、第二次世界大戦の悲劇を繰り返さないために創設されている日本学術会議で、安保法制、集団的自衛権、共謀罪(戦前の治安維持法)に反対した6名の会員の任命が菅義偉 前首相によって拒否された。今回の任命拒否は、学術会議の独立性を否定し、学術を政治に従属させるためにその人事に手を出したものである。学問、科学が政治に従属すると、戦争遂行の手段や、政治と癒着した企業の利潤追求の手段にされることになる。そして、その結果は、原子力技術や公害問題、コロナ禍の医療崩壊で人の命が効率化された事実が示している通り、非人道的で大変恐ろしいことになるので、二度と同じ過ちは繰り返してはならない。

(4)  地域医療、住民自治の原則と意義、草の根住民運動の継続により新自由主義政治から民主主義への転換を!

 政治の目的は国民の命と暮らしを守ることである。コロナ渦で両者とも守られていないことが良く分かった。持続可能な地域は「命を守る病院」が必須である。それは地域住民、病院、行政が三位一体になって持続的に創り上げるものである。その過程で地域医療は、「まちづくり」と「民主主義」に繋がる。住民自治・民主主義は、草の根住民運動の継続で醸成するものである。すなわち、公立病院を守る住民運動は、地域と民主主義を守る運動である。府中北市民病院も地域住民の14年間にわたる草の根の運動の継続と病院職員、行政の頑張りにより現在も存続している。

 民主主義は与えられたり、元々そこにある形式的なものではなく、学校でしか学べないものでもない。地域で発生した命と暮らしを脅かす問題に対して地域住民が声を上げ、改善を求める草の根住民運動を展開継続、学習していくことで、醸成されるダイナミックなものである。そこで、醸成された住民自治・民主主義と住民が運動を通じて政治への関心が高まることで、医療や教育、学問、農業などの社会的共通資本の政治利用に気づき、声をあげ、住民運動をすることで地域の問題が解決する。そして、草の根の住民運動を粘り強く継続していくことで国の政治を民主主義に変へ、良い政治に生まれ変わらせることが出来る。その結果、地域が持続可能となり、戦争の無い平和で安全な幸せな国となるのだ。

今の日本の国力は1990年代初頭の「バブル崩壊」以後、急速に衰退し、凋落している。約40年間続いている新自由主義政治による「改革」という大衆受けするキャッチフレーズの下での「構造改革」が主な原因だ。それは戦後の米国隷属一辺倒の政治の結果で、そのため、同じ新自由主義政権による国から地方へのトップダウン形式で地方、地域の問題は解決することは出来ない。すなわち、地方、地域から住民の声と草の根の運動によってボトムアップで国に働きかけ、改善していかなければ決して良くならない。そのため国民は、草の根の住民運動に参加して学習し、声を上げ続け真の民主主義を確立して醸成し続けなければならない。

l  参考資料

・黒木秀尚「医療は政治-地域医療を守る(広島・府中市)草の根住民運動の全記録-」ウインかもがわ、2022


●広島県への要望(令和5年3月23日)

                               2023323

広島県知事

湯崎 英彦 様

                               地域医療を守る会

                               会長 山根 孝志

府中北市民病院の「命と地域を守る病院」としての存続を求める要望書

広島県の「転出超過」は2022年、9,207人と都道府県別で2年連続最多だった。就職を機に大都市圏へ転居する若者を中心に人口流出に歯止めがかからない状態である。2014年に日本創生会議が発表した「自治体消滅」論を機に、公立病院や県立高校など、無くなると地域が消滅する危険性がある「社会的共通資本」の再編統廃合・広域化が「自治体戦略2040構想」の一環として推進されている。20221120日、広島医学会総会において特別講演をした内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室長の迫井正深内閣審議官は、多くの医療難民や医療崩壊が発生しているにもかかわらず、将来の少子高齢化の人口動態推計を見据えて、全国の病床数を約16万床減らす「地域医療構想」を推進すると明言した。広島県も広島市の「高度医療・人材育成拠点(新病院)基本構想」を20221116日に発表した。その目的は、多くの症例が集まる首都圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国から多くの優秀な若手医師を惹きつけるための全国レベルの高度・先進医療の提供と医療人材を確保することにある。すなわち、広島県都市部の医療機能の重複のため医療資源が分散して、病気やケガの治療を一つの病院だけで完結し役割分担が不明確であるため、医療機能の分化・連携により切れ目のない質の高い地域完結型医療を提供する。さらに、中山間地域を含む広域的な人事交流により、医師の偏在解消を図るためである。広島県立病院(712床)とJR広島病院(275床)、中電病院(248床)を再編して、急性期、小児医療を集約し、病床数を235削減した1000床程度の新病院を設立して2030年に開院する。

府中市地域医療再生計画も同じく府中北市民病院とJA府中総合病院の役割分担と連携を大義名分に20124月からスタートした。しかし、地域の実情を鑑みずに医師を増員しないまま病床を削減し、再編統合したため、今もって医師不足と経営状況は改善されず、府中北市民病院診療圏域の医療体制は悪化している。2021年度の経営状況は、府中市病院機構へコロナ補助金が繰り入れられたので、経常収支は1200万円の黒字決算になった。しかし経営的には、未だ厳しくコロナの補助金が無ければ赤字だ。すなわち、府中市からの繰入額も例年どおりの46700万円と多額で、医業収益を医業費用で除した医業収支比率は85.8%で過去5番目の成績だった(資料)。

現在、府中市病院機構は第三期中期計画中だが、今後の地域医療連携の方向性としては、「広島県地域医療構想(20163月)」及び広島県東部地域及び岡山県南西部地域を中心とした備後圏域における医療の広域連携検討等との整合を図ることになっている。20199月、府中市民病院は、厚生労働省から医療機関が担う急性期機能や、そのために必要な病床数等について再検証が必要とされ、その対象病院として名指しされた全国424の公立、公的病院の中に入っている。そのため、府中市病院機構は、2021年度府中市民病院についての検証結果の概要を市に報告し、その内容を踏まえて2022年度の中期計画を策定した。その一つが、府中地区医師会圏域を中心に福山・府中二次医療圏の北部を連携区域とした「地域医療連携推進法人」の設立である。

 以上のことと、コロナ補助金が将来打ち切られる可能性があることから、府中市病院機構の経営状況が改善しない場合、府中市民病院の地域医療連携推進法人化が現実味を帯びてくる。さらに、福山、府中2次医療圏は、広島都市圏同様、医療機能の重複と資源の分散が見られことから、広島市と同様な医療機能の分化・連携・再編の可能性が大きいと考えられる。そうなると以前から地域医療を守る会が指摘しているように、本社の府中市民病院が、より大きな病院に再編統合されるため、サテライトの府中北市民病院は縮小・リストラされると考えられる。府中北市民病院は、福山、府中二次医療圏に属する府中市民病院のサテライト型病院ではあるが、実際の診療圏は、備北,備三二次医療圏にもまたがっており、医師の派遣元も府中市民病院と違って広島大学である。機構が目指す2病院の将来像として「地域医療連携推進法人」を挙げているが、府中市は府中北市民病院を残すと約束している。しかし、先の広島市の「高度医療・人材育成拠点基本構想」から地域住民には再編統廃合・診療所化が危惧され、広島県の宝でもある歴史と文化の天領上下町が消滅自治体になる危険性が生まれる。さらに、広島県の計画で中山間地域の医師不足の解消を図るとしているが、医師を増員した計画に変更しなければ10年経過して上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」と同じように、統廃合、縮小・リストラされた地域の人口減少も惹起されて、地域医療再生計画は画餅に帰すると考えられる。そこで、下記の如く要望する。

                         記

 

1.              府中北市民病院は、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、熱中症などの一般急性期医療を担う地域の中核病院として常勤医師を増員して『地域と住民の命を守る病院』として維持出来るように県として援助されたい。

2.              府中北市民病院は、診療圏も派遣先大学も府中市民病院とは異なることから、福山、府中二次医療圏での「地域医療連携推進法人」等の再編統合計画からはずされたい。

3.              医師の増員が無いまま再編統合をする「高度医療・人材育成拠点基本構想」で、中山間地域の医師不足をいかに解消するお考えなのか、お聞かせ願いたい。

4.              広島市で再編統合計画が発表されたように、福山、府中二次医療圏でも可能性があると考えられるが、そうなった場合に府中北市民病院を縮小せず、県としてどのように存在させるのか具体的にお聞かせ願いたい。

5.              国の「自治体戦略2040構想」に基づく病院再編統合計画では、人口減少を招くので、広島県の地域医療構想と地方自治の理念に基づいた医療提供体制を構築されたい。

                                  以上


〇令和5年3月4日「医療は政治」講演ポスター


府中市への要望(令和4年12月22日)

令和41222 
府中市市長

小野 申人 様

                               地域医療を守る会

                               会長 山根 孝志

府中北市民病院の機能回復と「命を守る病院」としての存続を求める要望書

 令和41120日、広島医学会総会において特別講演をした内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室長の迫井正深内閣審議官は、多くの医療難民や、医療崩壊が発生しているにもかかわらず、将来の少子高齢化の人口動態推計を見据えて、全国の病床数を約20万床減らす「地域医療構想」を推進すると明言した。広島県も地域医療構想の一環として広島市の「高度医療・人材育成拠点(新病院)基本構想」を令和41116日に発表した。その目的は、多くの症例が集まる首都圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国から多くの優秀な若手医師を惹きつけるための全国レベルの高度・先進医療の提供と医療人材を確保することにある。すなわち、広島県都市部の医療機能の重複のため医療資源が分散して、病気やケガの治療を一つの病院だけで完結し役割分担が不明確であるため、医療機能の分化・連携により切れ目のない質の高い地域完結型医療を提供する。さらに、中山間地域を含む広域的な人事交流により、医師の偏在解消を図るためである。 

広島県立病院(712床)とJR広島病院(275床)、中電病院(248床)を再編して、急性期、小児医療を集約し、病床数を235削減した1000床程度の新病院を設立して2030年に開院する。新病院には、舟入病院(156床)、土谷病院(394床)の小児医療機能を集約し、広島記念病院(200床)、マツダ病院(270床)の一部医療機能の集約も検討されている。さらに、舟入病院、広島記念病院、マツダ病院の急性期の一部を回復期へ転換することが検討され、土谷総合病院の急性期の一部削減が検討されている。そして、広島記念病院と吉島病院は統合される。すなわち、8病院の病床は削減されることになる(資料―1)。

府中市民病院と府中北市民病院の令和3年度の経営状況は、府中市病院機構へコロナ補助金が繰り入れられたので、経常収支は1200万円の黒字決算になった。しかし経営的には、未だ厳しくコロナの補助金が無ければ赤字だ。すなわち、府中市からの繰入額も例年どおりの46700万円と多額で、医業収益を医業費用で除した医業収支比率は85.8%で過去5番目の成績だった。(資料-2、3)。具体的には、府中市民病院の病床利用率は83.8%、府中北市民病院は59.5%、そして内部留保も病院規模の割に例年少なく、令和3年度も約22800万円だった。しかし、医師数は令和34月から常勤外科医師2名の増員、内科へ岡山大学地域枠医師1名増員されたので、過去最多の15名となった(資料-4)。

 現在、府中市病院機構は第三期中期計画中だが、今後の地域医療連携の方向性としては、「広島県地域医療構想(平成283月)」及び広島県東部地域及び岡山県南西部地域を中心とした備後圏域における医療の広域連携検討等との整合を図ることになっている。令和19月、府中市民病院は、厚生労働省から医療機関が担う急性期機能やそのために必要な病床数等について再検証が必要とされ、その対象病院として名指しされた全国424の公立、公的病院の中に入っている。そのため、府中市病院機構は、令和3年度府中市民病院についての検証結果の概要を市に報告し、その内容を踏まえて令和4年度の中期計画を策定した。その一つが、府中地区医師会圏域を中心に福山・府中二次医療圏の北部を連携区域とした「地域医療連携推進法人」の設立である。 

 以上のことと、コロナ補助金が将来打ち切られる可能性があることから、令和4年度の府中市病院機構の経営状況が改善しない場合、府中市民病院の地域医療連携推進法人化が現実味を帯びてくる。さらに、福山、府中2次医療圏は、広島都市圏同様、医療機能の重複と資源の分散が見られことから、広島市と同様な医療機能の分化・連携・再編の可能性が大きいと考えられる。そうなると以前から地域医療を守る会が指摘しているように、本社の府中市民病院が、より大きな病院に再編統合されるためサテライトの府中北市民病院は縮小・リストラされると考えられる。府中北市民病院は、福山、府中二次医療圏に属する府中市民病院のサテライト型病院ではあるが、実際の診療圏は、備北,備三二次医療圏にもまたがっており、医師の派遣元も府中市民病院と違って広島大学である。独法が目指す2病院の将来像として「地域医療連携推進法人」を挙げているが、府中市は、府中北市民病院は残すと約束してくれている。しかし、先の広島市の「高度医療・人材育成拠点基本構想」から地域住民には再編統廃合の危険性が危惧される。その場合、現在府中北市民病院の医師数は3名で病院として維持できる最小の人数であることから、1人でも減ると診療所化の危険性があるので、お互いの病院の診療圏が全く異なることも考慮して、府中市は如何なることがあっても中山間医療不足地域住民の『命を守る病院』として約束通りに存続されなければならない。 

 

 

1.              府中北市民病院は、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、熱中症などの一般急性期医療を担う地域の中核病院として常勤医師を増員して『地域住民の命を守る病院』として維持されたい。

2.              府中北市民病院は、診療圏も派遣先大学も府中市民病院とは異なることから、福山、府中二次医療圏での「地域医療連携推進法人」等の再編統合計画からはずされたい。

3.              府中市は、「府中北市民病院を残す」と約束しているが、3人の常勤医師の1人でも辞めると診療所化となるが、どのように考えておられるかご意見を伺いたい。

4.              広島市で再編統合計画が発表されたように、福山、府中二次医療圏でも可能性があると考えられるが、そうなった場合に府中北市民病院の将来像はどうなるのか具体的にお聞かせ願いたい。

以上


●広島県医師会速報(第2521号)令和4年7月15日会員の声

医療は政治―医療が政治に従属させられると命が効率化される

 

 政府は、急速に進む少子高齢化・人口減少のため社会保障費の増大と、それを支える働く世代の減少を根拠に、社会保障費、医療費の抑制政策を30年以上にわたって推進している。2004年、現場の医師の反対を押し切って、「新医師臨床研修制度」を導入した。そのため、地方の若い研修医が大都市の大規模病院に集中し、地方の多くの大学病院の定員割れが発生し、地域の病院へ医師を派遣することが出来なくなったために地域医療の崩壊が発生した。さらに、医師の地域偏在と診療科の偏在が深刻化したが、未だ総括は行われていない。 

2019年の医師数は、人口1000人当たり2.5人とOECD 38か国中33位、医学部卒業生は、10万人当たり7.1人と38か国中最低だ(OECD Health Statistics)。そのため医師の絶対数がOECD諸国の平均に比べて13万人も不足している。全国400余りの感染症指定医療機関に感染症専門医師は144施設にしか在籍していない。また、感染症病床は1984 年には15,042床あったが、2019年にはわずか1,886床まで削減されている。そのため感染症専門病院や感染症専門医が激減し、コロナ禍で医療崩壊が発生した。さらに、2014年から政府は、コロナ禍の今でも全国の病床数を16万から20万床も削減する地域医療構想を推進している。医療崩壊が発生した原因が、地域医療構想が遅々として進まず、病院間の役割分担が出来ていないからだと主張する。 

 政府は2022617日、骨太の方針に関連した感染症対応強化策を正式に決定した。司令塔として内閣感染症危機管理庁を設置し、厚労省内に感染症対策本部を新設する。具体的には、都道府県の権限を強め、医療機関との間で協定を結び、病床や外来医療を感染症の急増時などに提供できるようにする。協定の仕組みは法律で定め、地域医療の拠点になる特定機能病院や、公立・公的病院には協定締結の義務を課す。有事に医療機関が協定に従うようにするため、協定の履行状況を公表するほか、特定機能病院には承認の取り消しも視野に入れる。

日本の医療法、医師法は、国の医療政策を円滑に遂行するための行政取締法規にすぎないが、コロナ禍でも一向に改善されていないことがわかる。コロナ禍で政府は、科学的根拠がないまま学校の全国一斉休校や、布マスクの全国配布などの重大な間違いを起こし、日本の社会や経済に大きな打撃を与えた。今回、日本版CDC(米国疾病対策センター)も設立するが、政府と独立した機関として、医学的・科学的根拠をもとに政府と対等に議論ができるものではなく、政府に従属した機関になる。政府の暴走を止めるためCDCは、政府と独立した機関としなければならない。 

 今の政治は、中央集権的で専制的になりつつあると考えられる。アメリカに追従して新自由主義に転換し、構造改革を進めたこの40年間の日本を振りかえって熟考すれば明らかだ。コロナ禍で多くの医療難民、犠牲者が発生しているにもかかわらず、厳格にPDCAを回すことなく、議論を尽くした総括がなされていない。その状況下で新たな政策を打ち出す同じ過ちを犯している。医療や教育、学問といった国民が幸福になるための社会的共通資本が政府に従属させられると、人事権を行使したり、罰則規定を強化したりして、一握りの経済界や政治家、官僚などの特権階級に牛耳られた時の政権に都合の良い中央集権・専制的な国家に陥ってしまう。202110月、日本学術会議で、安保法制、集団的自衛権、共謀罪に反対した6名の会員の任命が菅義偉首相によって拒否された。今回の任命拒否は、学術会議の独立性を否定し、学術を政治に従属させるためにその人事に手を出したものである。学問・科学が政治に従属すると、戦争遂行の手段や、政治と癒着した企業の利潤追求の手段にされることになる。そして、その結果は、原子力技術や公害問題、コロナ禍の医療崩壊で人の命が効率化された事実が示している通り、非人道手で大変恐ろしいことになるので、二度と同じ過ちは繰り返してはならない。


●広島保険医新聞(令和4年6月10日)主張投稿原稿

 

 


●中国新聞「今を読む」(令和4年4月9日朝刊)

医療は政治―患者と医療従事者の権利を擁護する「医療基本法」の制定を!―

                    地域医療を守る会 顧問 

黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木秀尚

                             

 

新型コロナウイルス感染症オミクロン株による第6波は、新規感染者数が一時は過去最多の10万人を超え、全国の自宅療養者は58万人に達した。コロナ対応の病床ひっ迫が続いて、全国の救急搬送困難事案も1週間に5740件に達し、死亡率の高い透析患者や高齢者施設患者の受け入れが困難になり、死者の数も急激に増えている。こうした危機的状況は、以前から指摘されていた。例えば昨年1月、第3波の自宅療養者は全国で35千人を超えた。その中には医師の診療を受けられないままに死亡した人が200人近くいた。

こうした状況でも、国は少子高齢化の進行を理由に、2013年から2025年までに全国病床数の約16万~20万床を削減しようとしている。医療費抑制のため地域ごとに病院を再編・統合して病床を減らす「地域医療構想」をコロナ禍にもかかわらず推し進めようというのだ。厚生労働省は昨年12月、各医療機関の地域医療構想の対応方針を22年度中に検討して、23年度中に策定するよう都道府県に要請した。地域医療介護総合確保基金を用いて全額補助とし、消費税を用いて制度化し、複数設置主体による再編や、できる限り多くの病床を削減した場合などは、「重点支援区域」として多くの技術的、財政的支援を措置する。

こうした地域医療構想を支持する識者や政治家は、現行の地域医療構想が予定通り進まなかったため、コロナ禍で医療崩壊が起きた、という。病院の再編統合による役割分担ができていなかったのが原因というのだ。さらに、経済的利益と効率性を重視する経済界や政治家は、コロナ患者の治療に積極的に取り組める医療機関と、取り組めない医療機関の二極化を根拠に、政府と都道府県当局が指揮権を持って医療人材と病床などの確保を指示できる管理体制を求めている。しかし、日本の医療体制全般の脆弱性は、30年以上に及ぶ社会保障と公共サービスを減らす新自由主義政治に基づくものだ。つまり、公立、公的病院や保健所、医師たちといった社会的共通資本の大幅削減に起因している。そのことをコロナ禍は顕在化させた。例えば、私の住む地域にある府中北市民病院は12年にJA府中総合病院(現・府中市民病院)に再編統合・地方独立行政法人化され、縮小・リストラされたため地域の実情に合わない病院になった。職員の奮闘もむなしく、この10年間に多くの医療難民や深刻な弊害が発生した。救急車の受け入れ困難や搬送中の死亡などである。

「日本の医療制度と医事法は、国民、市民の命と健康を守るためではなく、国の政策に奉仕するためのものになっている。医療法、医師法は行政取締法規にすぎない」。私が顧問を務める地域医療を守る会が以前(14年に)主催したシンポジウムで、長年ハンセン病問題に携わってきた九州大名誉教授で、全国人権擁護委員連合会の内田博文会長が、問題点を指摘した。こうした状況を打開するには、世界医師会が1981年に採択した患者の権利に関する「リスボン宣言」が参考になる。それに沿って、医療を受ける権利と医療従事者の権利を擁護する立場に立った「医療基本法」が制定されれば、すべての人が差別なしに適切な良質の医療を継続して受けられるようになる。「医療難民」の解決にもつながり、医療従事者の努力も報われるはずだ。

つまり、政府が主導しているコロナ禍に対する現行の経済第一、効率重視の新自由主義政策を抜本的に改めることである。患者および医療従事者の権利を定めた医事法を制定し、それに基づいた医療制度をつくることによって初めて、国民の命と健康を守る医療提供体制が可能になる。そうすれば、国による「医療のコントロールと政治的利用」を排することが出来る。そして、政府から独立した専門機関で客観的な科学的評価をすることができれば、迅速で適切な対策が打てるようになる。コロナ禍の今こそ、国民の命と健康と暮らしを守る社会保障と社会的共通資本を重視する政治に転換しなければならない。


●広島県への要望書(令和4年3月17日)

                                    令和4317

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                地域医療を守る会

                                会長 山根 孝志

 

          府中北市民病院の機能回復を求める要望書

 

 府中北市民病院は、昭和18年(1943年)旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域の中核病院として開設され、長年地域住民の命と健康と生活を守ってきました。しかし、府中市と広島県は医師不足と府中北市民病院の赤字を理由に、国の公立病院改革ガイドライン(総務省)と地域医療構想(厚労省)の再編統合計画に基づいた「府中市地域医療再生計画」を策定、認可しました。府中北市民病院は、公立病院としてJA府中総合病院と平成24年に再編統合し、地方独立行政法人化されました。そしてJA府中総合病院が府中市民病院と改名して、高度な急性期医療や手術を担う基幹病院になり、府中北市民病院は高齢者医療を中心としたより日常的な診療と入院を受けもつサテライト型病院として位置づけられました。そのため府中北市民病院は病床数と医師数が削減され、常勤外科医師も府中市民病院へ異動されました。

 命と健康の保障がなくなる危機感を抱いた地域住民は、平成2012月から府中北市民病院が『一般急性期医療を担う命を守る病院』として存続するために住民運動を開始しました。府中市が公表した上下町の平成22年度から平成32年度までの人口動態推計では医療需要の高い65歳以上の高齢者の人口減少が少ないため、10年後の平成32年度でも1日平均入院患者数は平成22年度の45.2床から44.2床とわずか1床減少するのみでした。急性期病床が縮小されるため1年間に169名、10年間では縮小前に比べ約1600名もの患者が入院できなくなります。そういった医学的根拠に基づいて元の病床数85床、常勤医師6名以上の必要性を強く訴え続けていますが一向に改善されていません。実際、独法化1年後にはマムシに咬まれても診てもらえない、救急車が受け入れられない、入院が出来ない、入院しても早期に退院を余儀なくさせられるなど、事前の予想通り医療難民が多数発生しました。平成23年からの行政訴訟時の聞き取り調査では、平成275月までに247人、289件もの地域住民が弊害を被っていました。他の病院へ搬送中に死亡する事例も発生し、助かる命も助からない深刻な状況になりました。そして10年が経過した現在、府中北市民病院は4階がサービス付き高齢者向け住宅に改修されたため、高齢者慢性期医療に特化した病院になりつつあり、中山間医療不足地域にとっては地域の実情に合わない病院になっています。そして府中市の中で命の格差が発生したため上下地域が急速に衰退しています。

 令和3120日、新型コロナウイルス感染症第3波の感染爆発により病院への入院や、ホテル等での施設療養が出来ず自宅療養を余儀なくさせられている感染者が、全国で35,394人存在し、その中には医師の診療を受けられないままに死亡した人が、197人発生しました。デルタ株が蔓延した第5波では、令和391135千人の感染者が自宅療養を余儀なくされ、8月中に250名もの感染者が十分な医療を受けることが出来ないままに亡くなられています。オミクロン株による第6波でも令和429日に全国の自宅療養者は54万人に達し、救急搬送困難事案も1週間に5740件と過去最多を更新しています。この状況は府中北市民病院が、国の新自由主義政策による社会保障費、医療費抑制政策で地域の実情に合わない病院になって多くの犠牲者が出たことが、府中市上下町だけの問題ではなく全国共通の医療提供体制脆弱化の問題であったことをコロナ禍は明らかにしました。一方地域医療構想を支持する識者や政治家の中には、コロナ禍のこの原因が、現行の地域医療構想が予定通り進まず病院の再編統合による役割分担が出来ていなかったことが原因であるとする論調がありますが、地域医療構想を先取りした「府中市地域医療再生計画」は、10年間が経過しても上手くいっておらず、国の政策が間違っていると考えられます。

 今の政府はコロナ禍の現在でも粛々と「地域医療構想」の実現を目指し、府中市も北市民病院の病床利用率の低下を理由にさらなる縮小・リストラを考えています。しかし、上記のことから全国一律な公立病院改革プランと地域医療構想を早急に見直して、地域の実情に応じた、地域住民と協議をした命を最優先にする地域医療再生計画に変更しなければなりません。府中北市民病院のような都市部と遠く離れた医療資源の乏しい中山間地域は、統廃合の対象にしてはいけないのです。広島県は、広島県民に寄り添った地方分権・自治、民主主義に基づく「広島県地域医療構想」の理念、すなわち「私たちが医療や介護が必要になったとき、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来るよう、限りある医療・介護資源の有効な活用による医療提供体制の整備と地域包括ケアシステムの確立」に即した新型コロナウイルス等のパンデミック感染症にも対応できる地域住民、市民、県民の人命を第一にした地方自治による医療政策を策定、実行していただきたく下記の要望をいたします。 

 

1.地域住民の命と暮らしを持続的に守るため、私たちは、県が認可した府中北市民病院の地方独立行政法人化を、市の直営に戻す運動を地域住民と一緒にしていますが、そのためには県が認可した責任において、一刻も早く地域枠の医師を常勤医師として派遣・増員されたい。

2.府中市民病院の地域医療連携推進法人化は、府中北市民病院がサテライト型病院であることから、さらなる縮小・リストラや診療所にならないように配慮されたい。

3.中山間医療不足地域の公立病院は、地域医療構想、一般病床削減対象から除外されたい。

4.経済第一、効率重視の新自由主義政治に基づく公立病院改革プランと地域医療構想ではなく、地方自治、民主主義政治に基づく人命を最優先にする地域医療再生計画になるため、地域住民と十分な協議をする場を設定し、その意見を反映されたい。


●府中市への要望(令和3年10月7日)と要望を終えて

府中北市民病院の機能回復維持を求める府中市への要望(令和3107日)

 

l  北市民病院の患者数減と看護師不足は「府中市地域医療再生計画」が原因

 府中北市民病院とJA府中総合病院を再編統合し、地方独立行政法人化した「府中市地域医療再生計画」は、①両病院の診療圏が全く異なる、②中山間医療不足地域の医療資源を都市部に移転する、③地域住民との協議と合意がない、④全国の自治体病院の中でも上位の経営状況であるのに、北市民病院の再生計画は頓挫して単独での存続は困難であるとした事実と異なる答申に基づいていることから根本的に間違った計画です。

 命と健康な暮らし、地域を守るために地域住民は、平成2012月から地域医療を守る運動を開始しています。しかし、府中市と独法そして広島県は真摯に対応してくれず、北市民病院の病床数が85床から60床へ、常勤医師数7人が3人まで縮小・リストラされ、独法化後1年目には、事前に予想されていたように診てもらえない、救急入院が出来ない、早期に他院させられる、外科手術が出来ないなどの多くの医療難民と弊害が発生し、間違った計画であることが証明されました。平成26年には4階の療養病床が廃止されて、「サービス付き高齢者向け住宅」に改築され、府中市が平成192月に公表した通りに北市民病院を高齢者慢性期医療に特化した病院にする計画を進めていると言わざるをえません。
 そのため、北市民病院の医師、看護師をはじめとした職員の必死の頑張りにもかかわらず、コロナ禍も災いして患者数は減少しています。しかし、府中市と独法は、自らが策定、断行している「府中市地域医療再生計画」によって北市民病院の患者数が減り、看護師の応募がなくなっているにもかかわらず、患者数減と看護師不足を理由にさらなる縮小・リストラを考えています。そこで、地域医療を守る会は、北市民病院が「地域住民の命と地域を守る病院」として、機能回復、維持をするために令和3107日に小野申人府中市長へ要望をしました。  

   

l  府中市への要望書

令和3107

府中市市長

小野 申人 様

                               地域医療を守る会

                               会長 山根孝志

 

府中北市民病院の機能回復維持と市民に利用される府中市民病院への改善を求める要望書

 

 遅々として進まない地域医療構想と公立・公的病院の再編統合を推進するために医療法の一部が令和3528日に改正された。再編統廃合費用を全額国費負担とし、複数の病院が再編統廃合する場合は、一つの病院は廃止か診療所化される。6月の骨太の方針2021でもコロナ禍で医療の脆弱性が浮き彫りになっているにもかかわらず、社会保障費、医療費抑制政策を継続し、医師と病床削減の地域医療構想を推進する。地方独立行政法人府中市病院機構の令和3年度計画の中でも、「今後の地域医療連携の方向性として、府中地区医師会圏域を中心に福山・府中二次医療圏の北部を連携区域とした『地域医療連携推進法人』の設立を視野に入れる」としている。府中市民病院は、厚労省から令和19月に公立・公的病院の再編統合に名指しされており、令和2年度の決算でも12千万円の赤字を計上し、さらに令和2年度補正予算で35千万円の借り入れも必要であるので再編統合されると考えられる。

 府中市は、平成226月議会の一般質問の中で「府中市地域医療再生計画の病院共同体構想」について、“共同体というのは、次の段階の話で、府中北市民病院とJA府中総合病院の公的病院を統合したとしても、なお実力不足であれば近隣の有力病院と連携し合うという考えである”、“寺岡記念病院が病院共同体構想に参画する理由は、府中北市民病院とJA府中総合病院の2病院だけでは中核病院になれない。2病院を統合して、寺岡記念病院が経営に参画して、中核病院になれる”と答弁している。そのため、寺岡記念病院は、平成213月に公立病院の経営に参画できる社会医療法人に広島県で最初に認可され、平成244月から始まった地方独立行政法人府中市病院機構の理事として経営に参加し、中心的な役割を担っている。平成244月、府中市は地域住民の反対を押し切って、府中市民病院と府中北市民病院を再編統合し、地方独立行政法人府中市病院機構とした。そして府中北市民病院をサテライト病院に位置付けた。府中北市民病院は、地理的にも歴史的にも府中市民病院とは診療圏が異なる旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の外科的手術が出来る一般急性期医療を担う救急告示病院です。さらに縮小されたり、診療所化されると全く地域の実情に合わなくなり、住民の命と健康、暮らしの保障がなくなってしまうので府中北市民病院の機能回復維持は絶対必要です。

しかし、上述の如く府中市が9年間で約90億円の巨費を費やした今でも当計画は上手くいっていない。地域医療を守る会第10回記念講演会で、演者の自治体病院経営研究のエキスパートである城西大学経営学部教授の伊関友利先生は、「地域医療連携推進法人などの病院共同体は、核となる病院が十分な医師数(少なくとも75名以上)の大規模病院でないと上手くいかない」ことを強調されました。そうでなければ、府中北市民病院などの周辺地域の病院は病院の機能、規模がさらに低下する危険性が大きくなる。

さらに、府中市民病院の診療圏(30分圏域)には、寺岡記念病院、中国中央病院、福山市民病院、みつぎ総合病院といった中規模~大規模病院が存在する激戦区で、そのため旧府中市民が、府中市民病院を利用する頻度が少ない実態があります。第2期中期計画期間(平成28年度~令和元年度)や令和2年度の評価でも「病院運営を取り巻く情勢や地域の医療ニーズを的確に反映した両病院の将来像はいまだ確立できていない」とされています。4月から府中市民病院は常勤外科医師が2名増えましたが、競合する病院が多いことから早急に市民アンケート等を実施して意見を募ったうえで市民協議会を開催して、多額の繰り出しと病院の将来像が今もって定まらない理由をよく説明したうえで、市民とよく協議をして、多くの府中市民が利用する地域の実情に応じた特色のある機能と適正規模に改善する必要があります。 

 

 

1.府中北市民病院は、一般急性期医療を担う地域の中核病院として常勤医師、看護師を増員して機能回復維持されたい。

2.基幹病院である府中市民病院は、安易に寺岡記念病院と地域医療連携推進法人化することなく、市民協議会を開催して市民とよく協議をして、地域の実情に応じた市民が利用する病院へ改善されたい。

3.府中市民に地方独立行政法人府中市病院機構への多額の繰り出しと病院の将来像が今もって明らかにされない理由と、具体的な将来像と機構の財政状況についての説明会を早急にされたい。

以上

l  地域医療連携推進法人とは

平成26年、政府は高齢者の増加と人口減少を理由に、社会保障費、医療費抑制政策の一環として全国の病院の病床数を約16万床も削減する「地域医療構想」を発表しました。コロナ禍の中、感染症病床不足のため自宅療養者が135千人を超えた現在でも病床削減計画を推進しています。具体的には、「地域医療連携推進法人」など複数の病院の再編統廃合を促す計画で、再編統合する場合は、病床数は削減されます。政府は、構想を促進するため全額国費を投入し、消費税も使って制度化しています。


l  要望を終えて―府中市には府中北市民病院を機能回復維持する責任がある!

 今回の要望で小野申人市長は「北市民病院は守る」と明言したが、話す中で、①「地域医療連携推進法人化」は、北市民病院には影響はなく、現在トーンダウンしているが白紙撤回の状態ではない、②北市民病院の患者数が、昨年度から減少しており、このまま減少が続くと、今の状態を続けることは難しい、③看護師不足も深刻であるし、と発言した。

 しかし、北市民病院が、今のような状態になった原因は、府中市が地域住民の従前の市立病院としての維持と協議を求める多くの要望を無視して、事実と異なる答申に基づいた「府中市地域医療再生計画」で、2病院を再編統合し、独法化・公設民営化したことにあります。つまり、北市民病院の急激な縮小・リストラにより多くの医療難民と弊害が発生したことで病院の評判が低下したため患者数が減少し、看護師の給与体系が、福利厚生に手厚い市立公務員型から独法民間型になったため若い地元の看護師が応募しなくなったためです。

 すなわち、府中市と独法が、『北市民病院の患者数と看護師不足が深刻だから、北市民病院のさらなる縮小・リストラが必要である』と言うことは、本末転倒で絶対に許されず、府中市は責任をもって北市民病院を機能回復維持しなければならないのです。だから地域住民は、命と健康な暮らし、そして地域を守るために署名と陳情をしてきたように粘り強く地域医療を守る運動を続ける必要があるのです。次回、府中市からの回答を報告いたします。

 


●広島保険医新聞(号外令和3年9月21日)主張 投稿原稿

l 

持続可能な医療体制へ―選挙で政治を変えよう!

          黒木秀尚  広島保険医新聞(令和3921日号外)投稿原稿

 

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、デルタ株の出現のため急速に拡大し、令和385日世界の感染者数は2億人を突破した。日本でもオリンピックの開催を最優先したことで、緊急事態宣言下にもかかわらず、感染は収まるどころか急拡大している。感染者が50万人に達するまで13か月を要したが、その後4か月で、86日に100万人を突破し、91日にはわずか26日間で150万人に達した。都内では約2万人が自宅療養となり、入院先を調整中の患者も約7千人と、重症者が入院できなくなっている。政府は82日、デルタ株の急速な広がりで首都圏の急性期病床が不足したため、重症者以外は自宅療養に方針転換をした。しかし全国の自宅療養者は、91日の時点で135千人に達している。そのため、今年の1月の第3波と5月の第4波の時に見られたように、自宅死亡者数も増加し、感染妊婦の自宅早産児死亡も発生した。首都圏では既に医療崩壊が発生していると考えられる。

平成266月、政府は経済性と効率性を重視する新自由主義政治に則り、少子超高齢社会の進展に伴う社会保障費、医療費の伸びを抑制するため急性期病床を削減する「地域医療構想」を発表した。昨年の619日、政府の専門家会議は、第2波以降で最大約95千人の入院患者が発生すると発表したが、その時点で確保が見込まれている病床数はわずか3万床で、65千床も不足していたことが既に分かっていた。現時点でも37700床しかない。そして、感染症病床は昭和59年には15,042床あったが、令和1年にはわずか1,886床まで削減されている。しかし、驚くことには政府はコロナ禍によってこのような日本の医療体制や制度の不備と脆弱性が明白になって国民の命と暮らしが脅かされているにも関わらず、今国会で医療法を改正して地域医療構想、公立・公的病院の再編統廃合を制度化し、消費税を使って全国の急性期病床の約16万床削減を急いでいる。

地域医療構想を支持する識者の中には、コロナ禍で入院が出来ない原因が、現行の地域医療構想が予定通り進まず病院の再編統合によって役割分担が出来なかったことが原因であるとする論調がある。しかし、全国の医師と感染症専門病院絶対数が不足している状況下での既存の病院間での効率的な役割分担はあり得ない。昨年度コロナ病床確保のために計1兆1400億円の補助金が費やされている。政府は、全国12都道府県の体育館やイベント会場に設けている臨時医療施設の拡充方針を出したが、入院治療が出来ないため付焼刃的である。それよりは、中国が武漢市で迅速に新型コロナウイルス感染症専用の隔離病院を建設し封じ込めに成功したように、日本でも全国を10ブロックぐらいに分けて感染症隔離専門病院を早期に建設し、そこにマンパワーと医療器材、薬剤と資材を集中させ真の役割分担と効率化を実行すべきである。 

医療、特に医療保険制度や医療提供体制は政治だ。このまま政治の改善がなければ、コロナ禍と「地域医療構想」で全国に医療崩壊が進行して多くの助かる命も助からない状態となる。今の政府は、「国民の命と暮らしを守ることが政治だ」と連呼する。しかし、コロナ禍で全国民は命の危険にさらされ、国民の貧困と格差は拡大している。日本は国民主権、議会制民主主義国家であるにも関わらず、国の重要な方針である「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」は、閣僚と経済財政諮問会議の選挙のない民間議員で決められ今年度も医師と医療費抑制の政策は継続される。民主主義国家の根幹は選挙であり、国民は主権者として、選挙の投票で政治を変えることが出来るという最大の権利を有している。選挙で必ず一票を投じて、国民の命と暮らしに直結する、医療や福祉などの社会保障を重視し、国民に寄り添う議員を選び、真の民主主義政治に変えなければならない。

 


●広島県医師会速報(第2488号)会員の声 令和3年8月15日

医療は政治Ⅱ-コロナ禍における公立、公的病院再編統廃合の推進は間違っている!

              選挙で政治を変えよう!

 

 令和3528日、医療法の一部が改正され、遅々として進まない地域医療構想・公立、公的病院再編統合を促進するために令和2年度の「病床機能再編支援事業」を「地域医療介護総合確保基金」の中に位置付け、再編統合費用を全額国費負担とした。複数の病院が再編統合する場合は、一つの病院は廃止か診療所化される。政府は618日、2021年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2021)」を閣議決定し、コロナ禍で医療の脆弱性が浮き彫りになっているにもかかわらず、社会保障費、医療費抑制政策を継続し、医師・病床削減の地域医療構想を推進している。

 府中北市民病院は、昭和18年旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域の中核病院として開設され、長年地域住民の命と健康と暮らしを守ってきた。しかし、平成23年府中市は医師不足と府中北市民病院の赤字を理由に、国の公立病院改革ガイドライン(総務省)と地域医療構想(厚労省)の再編統合計画に基づいた「府中市地域医療再生計画」を策定し広島県が認可した。平成24年府中北市民病院は、公立病院としてJA府中総合病院と再編統合し、地方独立行政法人化された。そしてJA府中総合病院が府中市民病院と改名して、急性期医療や手術を担う基幹病院になり、府中北市民病院は理不尽にも高齢者慢性期医療を中心としたより日常的な診療と入院を受けもつサテライト型病院として位置づけられた。そのため府中北市民病院は病床数と医師数が削減され、地域で多くの弊害が発生した。一方、府中市民病院は令和19月に公立、公的病院再編統合対象424病院(現在436病院)として厚労省から名指しされた。平成24年に地方独立行政法人府中市病院機構が発足してから今日まで府中市民病院の新築費用を含めて約90億円の巨費が府中市から投入されているが、さらにコロナ禍で病院収益が減少したため、府中市病院機構は、令和2年度の補正予算で府中市立湯が丘病院(精神病院)からの35千万円の借り入れを決定した。

 令和3120日、新型コロナウイルス感染症第3波の感染爆発により病院への入院や、ホテル等での施設療養が出来ず自宅療養を余儀なくさせられている感染者が、35,394人存在し、その中には医師の診療を受けられないままに死亡した人が、197人発生した。第4波の大阪でも同様の医療崩壊が発生した。これは政府の30年に及ぶ新自由主義政治による社会保障費、医療費抑制政策のためだ。府中北市民病院が地域の実情に合わない病院になって多くの犠牲者が出たことは、府中市上下町だけの問題ではなく全国共通の原因による医療崩壊であったことが証明された。他方、地域医療構想を支持する識者の中には、コロナ禍のこの原因が、現行の地域医療構想が予定通り進まず病院の再編統合によって役割分担が出来ていなかったことが原因であるとする論調がある。しかし、地域医療構想を先取りした「府中市地域医療再生計画」は、9年間が経過しても上手くいっていないことからも、政府の医療政策が間違っていると考えられる。

 医療、特に医療制度や医療体制は政治だ。このまま政治の改善がなければ、全国に医療崩壊が進行して多くの助かる命も助からない状態となり、政治によって救える命が益々救えなくなる。今の政府は、「国民の命と暮らしを守ることが政治だ」と連呼する。しかし、コロナ禍で全国民は命の危険にさらされ、国民の貧困と格差は拡大している。国民の命と暮らしが平等に守られていない政治は間違っている。早急に抜本的な政治改革が必要だ。民主主義国家の根幹は選挙で、国民が一番偉いので選挙の投票で政治を変えることが出来る。今年の総選挙で必ず一票を投じて、新自由主義政治に基づく利益至上・効率重視の長期強権政治から、国民の命と暮らしに直結する医療や福祉などの社会保障を重視する真の民主主義政治に変えなければならない。


●上下町第一町内会から府中市への要望書

                                 令和3726

府中市 市長

小野 申人 様 

                                上下町第一町内会

                                会長 小川 正夫

 

府中北市民病院の機能回復維持と市民に利用される府中市民病院への改善を求める要望書

 

 令和3528日、医療法の一部が改正され、遅々として進まない地域医療構想・公立、公的病院再編統合を促進するために令和2年度の「病床機能再編支援事業」を「地域医療介護総合確保基金」の中に位置付け、再編統合費用を全額国費負担としました。各都道府県から国への申請期限は86日で、複数の病院が再編統合する場合は、一つの病院は廃止か診療所化される。政府は618日、2021年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2021)」を閣議決定し、コロナ禍で医療の脆弱性が浮き彫りになっているにもかかわらず、社会保障費、医療費抑制政策を継続し、医師・病床削減の地域医療構想を推進する。

 府中市民病院は、令和19月に厚労省から名指しされた再編統合対象424病院(現在436病院)の中に含まれています。平成244月に地方独立行政法人府中市病院機構が発足してから今日まで約90億円の巨費が府中市から投入されていますが、さらにコロナ禍で病院収益が減少したため、府中市病院機構は、令和2年度の補正予算で府中市立湯が丘病院から35千万円の借り入れを決定しました。しかし現在の湯が丘病院は、築50年になり、深刻な老朽化に伴う建て替え工事が急がれているのが現状です。625日、同じく厚労省から名指しされていた三原日赤病院と三原三菱病院が来春統合することが、備三圏域地域医療構想調整会議で合意決定されました。国から統合支援給付金を手厚く受給出来る重点支援区域の申請をしますが、それによって三原三菱病院は廃止されます。

 平成244月、府中市は地域住民の反対を押し切って、府中市民病院と府中北市民病院を再編統合し、地方独立行政法人府中市病院機構としました。そして府中北市民病院をサテライト病院に位置付けました。府中北市民病院は、地理的にも歴史的にも旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の外科的手術が出来る一般急性期医療を担う救急告示病院です。診療所化されると全く地域の実情に合わなくなり、住民の命と健康、暮らしの保障がなくなってしまうので府中北市民病院の機能回復維持は絶対必要です。

 さらに、府中市から府中市病院機構への令和2年度合計8億円超の繰り出しはあまりにも巨額で、基幹病院である府中市民病院のあり方を再考する必要があります。すなわち、これまでにも毎年平均45千万円の繰り出しが必要で、過去8年間に府中市民病院の新築費用を含めて病院機構へ約89億円も投入していることから将来府中市の財政を逼迫させ、2病院が共倒れになる危険性が危惧されます。府中市民病院の診療圏(30分圏域)には、寺岡記念病院、中国中央病院、福山市民病院、みつぎ総合病院といった中規模~大規模病院が存在する激戦区で、そのため旧府中市民が、府中市民病院を利用する頻度が少ない実態があります。第2期中期計画期間(平成28年度~令和元年度)の評価でも「病院運営を取り巻く情勢や地域の医療ニーズを的確に反映した両病院の将来像はいまだ確立できていない」とされています。4月から府中市民病院は常勤外科医師が2名増えましたが、競合する病院が多いことから早急に市民アンケート等を実施して意見を募ったうえで市民協議会を開催して、市民とよく協議をして、多くの府中市民が利用する地域の実情に応じた特色のある機能と適正規模に改善する必要があります。

 

                      記

 

1.府中北市民病院は、一般急性期医療を担う地域の中核病院として医師、看護師を増員して機能回復維持されたい。

2.基幹病院である府中市民病院は、他院と再編統合することなく、市民協議会を開催して市民とよく協議をして、地域の実情に応じた市民が利用する病院へ改善されたい。

以上

 

 


・地域医療を守る会広報誌5月号投稿原稿(令和3年5月)

府中市病院機構、令和2年度補正予算で35千万円借り入れ!

 

 3月議会で令和2年度の3月補正予算が発表されました。「コロナショック~事業の継続、感染防止対策~」の名目で、府中市病院機構の減収補填として35千万円が計上されました。その理由として、市は「新型コロナウイルスによる受診控えなどによる収益の悪化や、その感染防止対策に必要な経費が要因となり、今年度の資金不足が想定されることから、不足資金について貸し付けを行うことにより、住民にとっての安心の基盤になる地域医療の確保に取り組みます」としています。 

 資金対応の内容は、「①湯が丘病院の留保資金を活用し、35千万円を貸し付ける。②第3期中期目標期間(令和2年度~5年度)については、元金の返済を据え置き、令和6年度以降の10年間での返済を求める。③湯が丘病院側は、直近では0.002%~0.15%の間で資金運用を行っており、0.15%で貸し付けを行えば、湯が丘病院にとって運用益のメリットが生じ、病院機構には民間からの直近の借入利率が1.5%であることから負担抑制のメリットになり利息軽減が図られる。」としています。しかし、現在の湯が丘病院は築50年になり、深刻な老朽化に伴う建て替え工事が急がれているのが現状です。

 府中市病院機構は、令和元年度に病院機構全体の常勤医師数が平成24年度の16名から10名にまで減少して市からの繰り入れ金額が、47300万円まで増加していました。そこで、一昨年度整形外科医師と麻酔科常勤医師の1名ずつを増員し、令和27月から整形外科手術が11年ぶりに開始されること、9月から婦人科常勤医師が1名着任し、13名になるので収益の増加が見込めるとしていました。

 しかし、合計8億円超の繰り出しはあまりにも巨額で、府中市民病院のあり方を再考する必要があると考えられます。すなわち、これまでにも毎年平均45千万円の繰り出しが必要で、過去8年間に府中市民病院の新築費用を含めて病院機構へ約89億円も投入していることから将来府中市の財政を逼迫させる危険性が考えられます。市民病院の診療圏(30分圏域)には、寺岡記念病院、中国中央病院、福山市民病院、みつぎ総合病院といった中規模~大規模病院が存在する激戦区です。そのため旧府中市民が、府中市民病院を利用する頻度が少ない実態があります。第2期中期計画期間(平成28年度~令和元年度)の評価でも「病院運営を取り巻く情勢や地域の医療ニーズを的確に反映した両病院の将来像はいまだ確立できていない」とされています。4月から府中市民病院は常勤外科医師が2名増えますが、競合する病院が多いことから早急に市民アンケート等を実施して意見を募ったうえで市民とよく協議をして、多くの府中市民が利用する地域の実情に応じた特色のある機能と適正規模に改善する必要があると考えられます。 

 


●広島県への要望書

                                令和3219

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                地域医療を守る会

                                 会長 山根孝志

 

         府中北市民病院の機能回復維持を求める要望書

 

 府中北市民病院は、昭和18年(1943年)旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域の中核病院として開設され、長年地域住民の命と健康と生活を守ってきました。しかし、府中市と広島県は医師不足と府中北市民病院の赤字を理由に、国の公立病院改革ガイドライン(総務省)と地域医療構想(厚労省)の再編統合計画に基づいた「府中市地域医療再生計画」を策定、認可しました。府中北市民病院は、公立病院としてJA府中総合病院と再編統合し、地方独立行政法人化されました。そしてJA府中総合病院が府中市民病院と改名して、高度な急性期医療や手術を担う基幹病院になり、府中北市民病院は高齢者医療を中心としたより日常的な診療と入院を受けもつサテライト型病院として位置づけられました。そのため府中北市民病院は病床数と医師数が削減され、常勤外科医師も府中市民病院へ異動されました。

 命と健康の保障がなくなるため、地域住民は平成2012月から府中北市民病院が『地域急性期医療を担う命を守る病院』として存続するために住民運動を開始しました。府中市が公表した上下町の平成22年度から平成32年度までの人口動態推計では医療需要の高い65歳以上の高齢者の人口減少が少ないため、10年後の平成32年度でも1日平均入院患者数は平成22年度の45.2床から44.2床とわずか1床減少するのみでした。急性期病床が縮小されたため1年間に169名、10年間では縮小前に比べ約1600名もの患者が入院できなくなります。そういった医学的根拠に基づいて元の病床数85床、常勤医師6名以上の必要性を強く訴え続けていますが一向に改善されていません。実際独法化1年後には、マムシに咬まれても診てもらえない、救急車が受け入れられない、入院が出来ない、入院しても早期に退院を余儀なくさせられるなど、事前の予想通り医療難民が多数発生しました。行政訴訟時の聞き取り調査では、平成275月までに247人、289件もの地域住民が弊害を被っていました。他の病院へ搬送中に死亡する事例も発生し、助かる命も助からない深刻な状況になりました。そして10年が経過した現在、府中北市民病院は4階がサービス付き高齢者向け住宅に改修され、高齢者慢性期医療に特化した病院になり、中山間医療不足地域にとっては地域の実情に合わない病院になっています。そして府中市の中で命の格差が発生したため上下地域が急速に衰退しています。

 令和3120日、新型コロナウイルス感染症第3波の感染爆発により病院への入院や、ホテル等での施設療養が出来ず自宅療養を余儀なくさせられている感染者が、35,394人存在し、その中には医師の診療を受けられないままに死亡した人が、197人発生しています。これは府中北市民病院が、国の新自由主義政治による社会保障費、医療費抑制政策で地域の実情に合わない病院になって多くの犠牲者が出たことが、府中市上下町だけの問題ではなく全国共通の医療崩壊の問題であったことを明らかにしています。一方地域医療構想を支持する識者の中には、コロナ禍のこの原因が、現行の地域医療構想が予定通り進まず病院の再編統合によって役割分担が出来ていなかったことが原因であるとする論調があります。しかし、地域医療構想を先取りした「府中市地域医療再生計画」は、8年間が経過しても上手くいっていないことからも、政府の医療政策が間違っていると言えるのです。

 今の政府はコロナ禍の現在でも粛々と「地域医療構想」の実現を目指していますが、以上のことから全国一律な公立病院改革プランと地域医療構想を早急に見直して、地域の実情に応じた、地域住民と協議をした命を最優先にする地域医療再生計画に変更しなければなりません。特に府中北市民病院のような医療資源の乏しい中山間地域は、統廃合の対象にしてはいけないのです。医療、特に医療制度や医療体制は政治です。このまま政治の改善がなければ、全国に医療崩壊が進行して多くの助かる命も助からない状態となり、政治によって救える命が益々救えなくなります。21日現在、日本の新型コロナウイルス感染者数は391,690人です。しかし、同じ東アジアの台湾やベトナムでは、医学のレベルは日本が勝っていますが、感染者数は各々912人、1817人と、人命を尊重した医療政策により封じ込めに成功し、経済も2%台のプラス成長でした。広島県は、政府の経済第一、効率重視の全国画一的な施策に追随するのではなく、広島県民に寄り添った地方分権・自治、民主主義に基づく「広島県地域医療構想」の理念、すなわち「私たちが医療や介護が必要になったとき、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来るよう、限りある医療・介護資源の有効な活用による医療提供体制の整備と地域包括ケアシステムの確立」に即した新型コロナウイルス等のパンデミック感染症にも対応できる地域住民、市民、県民、国民の人命を第一にした地方自治による医療政策を策定、実行しなければならないのです。 

 

1.地域住民の命と暮らしを持続的に守るため、府中北市民病院の地域急性期医療機能(85床、常勤医師数6名以上)の回復維持を図られたい。

2.そのためには、一刻も早く地域枠の医師を常勤医師として派遣・増員されたい。

3.府中市民病院の地域医療連携推進法人化は、府中北市民病院がサテライト型病院であることから、さらなる縮小・リストラにならないように配慮されたい。

4.中山間医療不足地域の公立病院は、地域医療構想の対象から除外されたい。

5.経済第一、効率重視の新自由主義政治に基づく公立病院改革プランと地域医療構想ではなく、地方自治、民主主義政治に基づく人命を最優先にする地域医療再生計画になるため、地域住民との十分な協議の場を設定されたい。



●新型コロナウイルス感染症-敵を知り己を知らば百戦危うべからず
善昌寺護持会報第126号(令和2年12月8日)

新型コロナウイルス感染症-敵を知り己を知らば百戦危うべからず-

 

l  世界的大流行(パンデミック)

 2019年に中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に全世界に拡がり、世界保健機構(WHO)は、2020311日パンデミックを宣言しました。日本でも20201月から患者が発生し、4月中旬には第1波のピークを迎えました。PCR検査が出来ないため病院内感染が発生したり、入院が出来ないなどの医療危機や、介護施設での集団発生も多数発生したため、47日政府から緊急事態宣言が発令されました。三密(密閉、密集、密接)を避け、不要不急の外出を控えることで5月には一時下火になりましたが、525日に緊急事態宣言が解除されてから再燃して1029日感染者数が10万人に達し、第3波が到来しています。

l  深刻な経済ダメージと社会的影響

 多くの産業の営業自粛と外出自粛が求められたため経済的なダメージも計り知れないほど大きく、4月~6月期のGDPも前期比年率マイナス27.8%と未曽有の低下となり、117万人を超える解雇や雇止め、700社を超える中小企業の倒産、廃業が発生しています。東京オリンピック、パラリンピックをはじめ、各種イベント、公演も中止されました。交通機関や宿泊、飲食、観光業の利用制限、働き方もオンラインやテレワーク化が進んでいます。お寺でも年内は三密を避けるため各種行事が中止され、葬儀も家族葬が多くなっています。

l  新型コロナウイルスと対策

 正しい感染対策を立てるためには、新型コロナウイルス感染症について正しい知識を、国民が共有する必要があります。今までわかっていることは、日本での全体の致死率は、約3.8%でそのほとんどが60歳以上の高齢者で、心疾患や糖尿病を基礎疾患に持つ人に多い。最初から症状の出ることが多いインフルエンザと違って感染者の4割は無症候で、発症の13日前から感染性があります。そのため熱がないからといってGo Toキャンペーンのように全国に多くの人が拡散し、三密になると必ず集団感染が全国に発生していきます。感染経路は、ほとんどが会話や咳による飛沫感染と、飛沫が手に付着してドアノブなどを通じて他人の口や鼻に入る接触感染です。これらはマスクで口と鼻を覆い頻回の手洗い・アルコールによる手指消毒で予防できます。環境的には閉鎖空間、近距離での接触、マスクなしでの一定時間の会話、歓声、大声などで感染の危険性が高まります。複数人で食事をとる場合は、換気の良い部屋で対面を避け、ソーシャルディスタンスを保って、遮蔽物の設置が必要です。環境消毒は0.05%次亜塩素酸ナトリウムもしくはアルコール(7080%)ですが、床は掃除だけで消毒は不要です。検査はPCR検査のみが無症候性感染者の発見に有効ですが、1日20万件は必要です。迅速抗原検査は有症状者には適応がありますが無症候者には適しません。

l  現在のコロナ対策の問題点

 政府は冬場のインフルエンザ流行時期のコロナ大流行を見越したコロナ感染症対策と経済対策を打ち出してきていますが、経済優先で場当たり的な感じがぬぐえません。その原因として日本のコロナ禍は、1982年の中曽根政権から始まり今日まで続いている経済効率重視の過度な社会保障費、医療費抑制政策にあります。そのため公衆衛生やPCR検査を担う全国の保健所は、1991852から2020年の469に半減しています。感染所病床は1998年の9210床から現在の1871床にまで激減しています。重症の患者を治療する集中治療室(ICU)の病床数も人口10万人当たり米国で35、独29だが、日本は5床と非常に少なく、医師の絶対数はOECD諸国の平均に比べ13万人も不足しており、対応できる医師、看護師不足も深刻です。このような政治の不作為による根本的な原因を改善することなく、医学的な根拠に乏しい経済優先の対症療法的な対策では、感染爆発の危険性が高まり、日本経済も致命的なダメージを被ることが考えられるのです。政府は、医療崩壊による国の危機が起こらないために徹底的な感染対策を優先して、事前にヒト、モノ、カネ、体制の備えを十二分にして、同じ轍を踏まないようにしなければなりません。そのためには利益至上、効率重視、経済第一の新自由主義政治を根本的に見直して、国民の命と生活、社会保障を重視する民主主義政治に一刻も早く180度転換しなければならないのです。     

 

 


広島県医師会速報(第2461号)会員の声 令和2年11月15日

医療は政治

-医療と暮らしが良くなるための政治に変えることが出来るのは国民の一票-

         黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚 

 

 日本では2020年から始まったコロナ禍でPCR検査が受けられない医療難民や、患者を病院に十分受け入れることが出来ない医療崩壊、施設での集団感染による介護崩壊が全国で発生しました。失業者も倒産も増加して、多くの医療機関の経営状況も悪化しています。すなわち政府の感染対策も経済対策も上手くいっておらず、かろうじて国民の我慢強い努力によって何とか感染爆発を免れているのが現状です。

この端緒は、1970年代のオイルショックを機に始まった高度経済成長の陰りによる1981年の土光臨調で、英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領が始めた経済効率重視の官から民への規制緩和、構造改革による行財政改革で、社会保障と公共サービスを減らす新自由主義経済に基づく政治です。日本では中曽根政権から始まり小泉、安倍政権へ引き継がれました。この政治は、人の命よりモノやカネが大切という面があるため、医療、教育や自然などの人間が幸せに生存していくうえで不可欠な「社会的共通資本」を利益至上、効率重視という理由で犠牲にしてきました。そのためコロナ禍で露呈した感染症対策の本丸である保健所や感染症専門病床の統廃合・リストラによる半減や、医療材料、医療機器の深刻な不足が発生したのです。

 現在、コロナ禍で国の新自由主義政治の限界が露呈しました。国民は三密を避け、不要不急の外出を自粛してきましたが、45月の第1波に続いて78月にかけての第2波も発生しています。休業、自粛に対しての政府の保証も不十分なため多くの解雇や雇止め、企業の倒産など国民の自助、共助だけではどうしようもないことが証明されました。コロナ禍の根本的な原因は『医療は政治』という問題、すなわち政府が未知の感染症に対するヒト、モノ、カネと体制の備えをしてこなかったことです。対照的にサーズやマーズなどの過去の教訓を活かした政策をとった台湾や韓国、ドイツなどは、国際的に大きな評価を受けています。医療の理念は、命は絶対平等、弱者救済で、その目的は国民の命と健康を守り生活を守ることです。政治の目的も医療と同じです。政治の分野は多岐にわたって医療も内包しているので、政治が良くなければ、医療も良くなりません。

 日本は1990年代初頭にバブルが崩壊してから少子高齢化の問題もあり、国力が急速に低下し、深刻な国民の貧困と格差が増大しています。そして国際社会における経済をはじめとする日本の地位も凋落しています。そのため現在多くの国民は、日本の将来に強い懸念を抱いています。奇しくもこの828日に官邸主導の政治をした安倍首相が退陣を表明し、9月月16日に菅義偉自民党新総裁が第99代首相に任命されました。915日には、野党の立憲民主党と国民新党が合流し、総勢150名の最大野党立憲民主党が誕生しました。現在の政府のコロナ対策は、日々発生する問題に政治的に対処するだけの対症療法で、根本的な解決にはなっていません。一刻も早く政府と対等の権限を持つ疾病管理予防センター(CDC)のような医療専門家を中心に据えた感染症対策組織を体制化する必要があります。そして現在の新自由主義政治から国民の基本的人権と社会保障を重視する民主主義政治に転換する必要があります。2014年、府中市では府中北市民病院を守る住民運動で世論が高まり、事前の予想を覆して市民との対話を重視する市長が誕生しました。このように国民主権の日本では、選挙で政治をかえることが可能です。しかし現在、多くの日本人は政治から遠ざけられ、無力感を植え付けられているように思えます。コロナ禍で新自由主義政治の限界が露呈した今こそ、政治を変える時期が到来しています。国民は医療という自分の命に直結する問題から政治に関心を持ち、メディアも政治を身近にするための啓発活動をすべきです。国民の暮らしが良くなるために、民主主義政治の根幹である選挙で全員が一票を投じることがコロナとの共生と日本の再生に絶対必要なのです。

 


●ひろしまの地域とくらし依頼原稿(令和2年8月号No440)

医療は政治

―コロナ禍で露呈した新自由主義政治の限界と民主主義政治の必然性―

        中山間地域医療 黒木整形外科クリニック 院長 黒木秀尚

l  コロナ禍

 新型コロナ肺炎の感染爆発(パンデミック)は進行中で、WHOは2020628日、世界の感染者数が1,000万人に達したと発表した。日本では525日に緊急事態宣言が解除されたが、冬季インフルエンザ流行時期にかけての第2波到来に向けて万全の備えをしておかなければならない。4月中旬から5月初旬にかけて第1波のピークを迎えたとき、PCR検査が出来ないため多くの地域と施設で集団感染(クラスター)が発生した。そして重症者を受け入れる急性期病床と人材の不足、マスクやガウン防護具などの医療資材や人工呼吸器などの医療機器が足らないために医療崩壊や介護崩壊が発生した。

 政府は第2波、第3波に備えて、医療体制の整備、検査体制の拡充、ワクチンや治療薬の開発、経済支援対策を打ち出した。619日、政府の専門家会議は、第2波で最大約9万5千人の入院患者が発生するすると発表したが、現時点で確保が見込まれている病床数はわずか3万床で全く足りていない。また、120万件必要なPCR検査が目詰まりの状態で、保健所の統廃合、人材、資材、機器不足などで1日7千~8千件程度だ。使い捨てのサージカルマスクの再利用、防護服も一般のビニール袋を代用せざるを得ない深刻な状況にある。5月に札幌市で集団感染が発生した老人保健施設で、受け入れる病院がないために、施設内で11名もの新型コロナ肺炎患者を介護職員が看取らなければならない悲惨な状況にも陥った。さらにコロナ禍で多くの失業者や雇止め、中小企業の倒産、医療機関の深刻な経営難が多発している。

 

l  府中市地域医療再生計画

 府中北市民病院は、1943年旧甲奴郡に入院施設がなく、地域住民の命と健康の保障がなかったことから住民の汗と涙の努力が実り広島県で初の国民健康保険病院として認可された。以後長年にわたって地域住民の「命と健康と生活」を守ってきた。しかし2004年上下町が府中市に合併してから2005年の特別損失を機に、20072月、当時の伊藤吉和市長は、病院を34割縮小・リストラして慢性期高齢者医療に特化する「府中北市民病院健全化計画」を発表した。それに対して、命と健康の危機感を強く抱いた地域住民は、200812月から府中北市民病院を、肺炎、腹痛、骨折、脳卒中、熱中症といった普通の病気や怪我で入院治療が出来る一般急性期医療を担う病院の現状維持と、協議を求める住民運動を開始した。

 しかし、200712月に政府が新自由主義政策である構造改革、規制緩和、医療費抑制政策の一環として発表した総務省の「公立病院改革ガイドライン」に則り策定された「府中市地域医療再生計画」で、診療所化が以前から決まっていたJA府中総合病院に20124月再編統合された。その結果6名いた常勤医師がわずか3名になり、110床の病院が60床に縮小され、常勤外科医師も府中に異動された。201012月から毎年200名以上の地域住民が集う『地域医療を守る会』のシンポジウムや講演会を開催し、そこで参加者が採択した決議案を、当計画を策定、認可、実行した府中市、府中市健康地域づくり審議会、広島県、地方独立行政法人府中市病院機構に要望書として提出し続けているが、政府の医療政策であるため一顧だにされない。

 独法化後1年の調査では、急な縮小・リストラで地域の実情に合わない病院になったため、救急車受け入れ困難で死亡、入院が出来ない、治療が受けられない、早期退院などの多くの医療難民が発生し、職員の過重労働、早期退職、職員減少、赤字増大などの深刻な状況が発生した。当計画は10年経った今でも政府の医療政策に沿って進行しており、4階の療養病床をサービス付き高齢者向け住宅に改築したり、地域医療構想を実現するためのより広域な病院共同体となる「地域医療連携推進法人」を目指して、徐々に周辺地域の慢性期高齢者医療に特化した病院になっている。

 

l  医療は政治

 日本は1950年代から始まった高度経済成長のおかげで、『保険あって医療なし』の悲惨な時代からやっと1961年に国民皆保険が成立し、国民は平等に医療の恩恵を受けることが出来るようになった。その後、1973年に老人医療費無料化、深刻な地方の医師不足解消を目指して「1県1医大」計画が実行された。しかし1970年から日本は高齢化社会に突入し、欧米諸国に比べ短期間で未曽有の高齢化が進展することが人口動態推計から予測された。そのため1982年から始まった中曽根内閣の時代に、米英にならって社会保障費や公共サービスを抑制する官から民への市場原理に基づく新自由主義政治に舵を切り、構造改革を進め規制を緩和して、国鉄などの民営化を断行した。オイルショックを機に1981年の土光臨調を発して、1983年医療費を抑制するために「医療費亡国論」を発表した。その後も高齢化が急速に進行し、医療費が膨張していくため小泉内閣は、2001年から診療報酬を毎回引き下げ、自治体病院の7割が赤字経営に悩まされることになった。2004年新医師臨床研修制度が開始され、医学部卒業生が研修先を自由に選択できるようになったので地方の大学の医局は、深刻な医師不足に陥った。その結果、大学医局から関連病院への医師派遣が出来なくなり医療費抑制政策と併せて全国で多くの医療崩壊が発生した。

その後、2007年総務省は医療費をさらに抑制し、自治体病院の経営を効率化するために「公立病院改革ガイドライン」を発表し、全国で公立病院の再編統廃合の嵐が吹き荒れた。多くの自治体病院が、公設民営の指定管理、地方独立行政法人化、診療所化され縮小・リストラされた。さらに少子高齢化による人口減少が進展していくため、20145月、2040年には若い女性が半減し、全国の約半数の自治体が消滅するという「自治体消滅」論が日本創生会議から出された。そして、それを根拠にして同年12月に「地域医療構想」が厚労省から出された。それは将来の人口動態推計を基に、団塊の世代が後期高齢者になる2025年に必要な病床数を推計して、効率的な医療提供体制の実現を全国の二次医療圏で目指すものだ。厚労省がまとめた2025年の全国の病床数の見直しによると、重症者向けの「急性期病床」は、必要数に対して18万床過剰となり、逆にリハビリ用の「回復期病床」は、18万床不足する。今後高齢患者のリハビリニーズが高まるのに、病床の転換が進まない、高額な急性期病床が余ったままだと医療費が膨張する恐れがあるとした。そして201738日、全国の病床数を156千床削減すると発表した。しかし再編統合が、計画通りに進行しないため20199月に424公立、公的病院(現在440病院)を名指しした。その中には、感染症指定病院も53病院含まれている。

長年の新自由主義政策により、公衆衛生を担う全国の保健所は1991年の852から2020年の469に半減している。感染症病床は、1998年の9210床から現在の1871床にまで激減し、コロナ患者に対応できる第2種感染症指定医療機関は、全国で351病院に過ぎない。重症の感染症患者を治療する集中治療室ICUの病床数も、人口10万人当たり米国35、独29、伊12.5だが日本は5床と非常に少ない。医師の絶対数は、OECD諸国の平均に比べ、13万人も不足しており対応できる医師、看護師不足も深刻である。

 

l  新自由主義から民主主義へ

 ドイツの著名な医学者であるウイルヒョウは、「医療は政治である」とした。今回のコロナ禍からも分かるように、医療と政治は密接な関係があり、時の政府が如何なる医療政策を策定したかで、状況が大きく異なってくる。台湾、ニュージーランドは感染者、死者共に少なく、ドイツが他国の感染者を受け入れ、韓国がPCR検査を迅速かつ十分にできるのは、過去の教訓を活かした人命尊重の医療政策を実行してきたからである。しかし日本では集団感染の原因になる不顕性感染者をスクリーニングできるPCR検査能力は、海外に比べて極端に少なく、第一波のピーク時コロナ患者を受け入れる病院、病床、医療資材・機器が不足して医療崩壊が発生した。すなわち日本の政府は、経済第一の効率重視の政治で、未知の感染症に対してヒト、モノ、カネの備えをしてこなかったからだ。すなわち、何事も効率重視で市場原理に基づく経済第一の新自由主義政治では、コロナ禍のような未曽有のグローバルなパンデミックには対処できないことが証明された。

中山間地域では以前から医療崩壊が発生しているにもかかわらず、間違った「自治体消滅」論を根拠に、赤字と医師不足を理由に2007年から開始された「公立病院改革ガイドライン」を皮切りに、2014年からすべての病院を対象にした「地域医療構想」を開始して、医療費を抑制する目的で16万床以上の『国民の命を守る』急性期病床を削減しようとしている。そして、さらに社会保障費と公共サービスを削減するため、病院や学校などの社会的共通資本・公共財を統廃合する地方自治体の圏域化、広域化計画「自治体戦略2040構想」も進行中だ。これでは未知の感染症や地球温暖化による異常気象、大災害、大地震といった非常時に適切な対策が迅速に行えない。

多くの著名な哲学者や知識人は、コロナ後の時代の世界の分断化と対立を危惧している。歴史的に未知のウイルスや大災害などによる大きな恐怖の状態に晒されると人々は、中央集権的な強い権力者を求める。しかしコロナ禍のように多岐にわたる深刻な問題が多発する場合、強権的な指導者に判断をゆだねることは、非常に危険だ。密室で行われる会議ではなく、あらゆる問題に直面している現場の人達も参加出来て、正しい情報を共有する。そして幅広いオープンな議論をして、最善の解決策を決定する民主主義政治が必要かつ重要だ。中山間医療不足地域の自治体病院を守る草の根の住民運動は、命という最も大切な基本的人権を守り、地方分権・自治を守るための民主主義を醸成させる運動だ。政治を身近なものにして、住民一人一人が自分の周りに起こっている命と健康と生活の保障に関する理不尽な多くの問題に対して声をあげて、正しい情報を共有して議論をし、正しい方向を選択する。そして民主主義の根幹である選挙で1票を投じて民主主義政治に変えることが解決策だ。2014年府中市長選挙で伊藤吉和市長が破れ、市民との対話を第一の政策に掲げた戸成義則新市長が誕生した。それが新自由主義政治による貧困、格差、対立、分断をくい止め、民主主義政治による自由、平等、協調、グローバリズムの連帯を獲得する方法である。


 

●中国新聞令和2年5月12日朝刊 オピニオン・今を読む 投稿原稿

コロナの時代から求められる日本の医療政策

         黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚

 

令和元年11月に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症が、瞬く間に全世界に広がり日本でも48日に緊急事態宣言が発出されました。日本の医療は、WHO(世界保健機構)から世界一とされていましたが、実際は医療政策に大きな問題があることが判明しました。すなわち韓国やドイツでは、疑われる患者はすべて迅速にPCR検査が出来るのに、日本では320日の時点で、人口100万人当たりの検査数がドイツの17分の1しかありません。4月になっても検査数は伸びず、そのため感染しているにもかかわらず、感染不明の人が増加して、感染の防御が出来ないためオーバーシユート(感染爆発)の危険性が非常に高まっています。そして人口10万人当たりのICU(集中治療室)の病床数も少なく、米国35床、独29床、仏12床、伊12床で、日本は約7床しかありません。人材も機材も不足しています。その原因は、政府が平成15年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓を活かさず、未知の感染症へのヒト、モノ、カネの備えをしてこなかったからです。    

国は「自治体戦略2040構想」の一環として、公立、公的病院の再編統合計画(「地域医療構想」)を2019926日に発表しました。その目的は人口減少、超高齢少子化社会に対応する広域化、民営化による社会保障費、医療費の抑制です。個々の病院の特性や診療圏を無視して同じ二次医療圏内で経済的、効率的な運営を目指すという地域の実情を全く鑑みない地域医療計画です。その根拠は「若い女性の人口が2040年までに全国の自治体の約半数で半減する」とした平成26年日本創生会議が発表した『自治体消滅』論です。その将来の人口推計から厚労省がまとめた2025年の病床数の見通しによると、重症者向けの「急性期病床」は必要量に対して18万床の過剰となり、リハビリ用の「回復期病床」は18万床不足するとしています。そして高齢者患者のリハビリニーズが高まるのに病床の転換が進まない、高額な急性期病床が余ったままだと、医療費が膨張する恐れがあるとしています。 

医療崩壊の状態は、中山間地域ではすでに以前から発生しており、私の住む旧甲奴郡、神石郡の地域住民は府中北市民病院問題で、市と県、国に改善を求める運動を10年以上にわたって展開しています。「府中市地域医療再生計画」によって平成244月からJA府中総合病院に再編統合され、病床数が110床から60床に縮小・リストラされたため、診てもらえない、救急入院が出来ない、手術が出来ない、職員が減るなどの深刻な弊害が多発し一般急性期医療は瀕死の状態です。そのため平成2012月から身近な30分で行ける地域の中に肺炎、腹痛、骨折、脳卒中、熱中症など普通の病気や怪我で入院治療が出来る『命を守る病院』が必要であると訴え続けていますが、政府の医療政策に即した計画のため一顧だにされません。

現在全国で入院、外来受け入れ中止と院内感染等、医療崩壊が始まっており、私たちの地域医療を守る運動の正当性が証明されました。将来人口が減少する地域は消滅するという間違った前提の「構想」は正しくありません。政府は一刻も早く今の難局を乗り越える努力をするとともに、全国の急性期病床を削減する「地域医療構想」を見直して、地域に必要な病院は持続可能な状態で維持し、医療従事者の努力が報われる医療政策に改善しなければなりません。何事も効率重視で、市場原理主義に基づく経済第一の新自由主義的な政策を抜本的に改めなければなりません。マスク、PPE(個人防護具)、薬品等の量産が出来ないのも効率性を重視し、経済的に安価な諸外国に依存しすぎたためなのです。コロナによって利益至上、自国ファーストの世界が協調と連帯グローバリズムに変わらなければなりません。今後は医療だけでなく第1次産業を含めたすべての国内生産100%を目指し、再生可能エネルギー、国内経済循環に力を注いで、医療や教育、自然といった社会的共通資本を持続可能なものとして社会保障と公共サービスを充実した政策に転換しなければなりません。そして、未知の感染症、地球温暖化による異常気象・大災害、大地震等の非常時に適切な対策が迅速に行えるよう備えを万全にしなければならないのです。 


●広島県医師会速報第2441号(令和2年4月25日号)会員の声

「自治体戦略2040構想」と中山間地域医療   

        黒木整形外科リハビリテーションクリニック  院長  黒木秀尚

 

団塊ジュニア世代が高齢者になる2040年は、未曽有の超少子高齢社会となり社会保障費が増大するばかりか、それを支える生産年齢人口が激減します。そのため政府は、社会保障費や公共サービス費用を抑制し、経済を持続可能なものとし、国民が安心して快適な暮らしを営んでいけるために「スマート自治体への転換」、「公共私による暮らしの維持」、「圏域マネージメントと二相性の柔軟化」そして「東京圏のプラットホーム」の4本柱からなる2040構想を2018年に発表しました。具体的には、自治体行政の標準化と共通化を図り、少ない職員での自治体運営。そして自治体の行政サービスを、官民連携で総合的に行う。そして小規模自治体行政のフルセット主義をやめて、他の市町村との連携による広域行政を標準化する。さらに県境を越えて、二層制の壁を打破します。そして第四の柱として「東京圏のプラットホーム」を立てて、防災と介護、医療を、首都圏の連携を強化して、大災害時にも対応できる広域的な行政体を構築するというものです。

2040構想の根拠は、2014年に日本創生会議が発表した「若い女性の人口が2040年までに全国の自治体の約半数で半減する」とした「自治体消滅」論です。そして人口減少が進行するから市町村間で広域連携をしなければならないとするものです。それで行政機能を共通化、効率化して無駄を省いてAIを活用します。すなわち5Gを活用したIoT、ロボット、人工知能、ビッグデータといった先端技術をあらゆる産業や、社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会であるSociety5.0の実現を目指します。地域医療構想による公立、公的病院の再編統合計画や公共施設等管理計画による学校の統廃合は現在進行中です。 

しかし、同じ人口減少を理由に行われた平成の大合併は、10数年以上が経過しているのに合併後周辺になった地域が衰退し、人口減少に歯止めがかかっていません。それで2040構想のさらなる広域化・圏域化によって周辺地域の衰退が増加すると考えられます。すなわち公務員が激減し、非正規職員や派遣職員が対応するため行政サービスが著しく低下します。外部委託、地方独立行政法人化などで首長、議会の関与が難しくなります。そして公共サービスの産業化によって社会的共通資本が減少、消失します。周辺部の中山間地域医療は益々地域の実情に合わなくなってきます。また、これらの予想される結果は、同じ人口減少を理由に住民との協議も合意もなく粛々と行われた府中北市民病院とJA府中総合病院の再編統合、地方独立行政法人化の「府中市地域医療再生計画」が約8年経っても上手くいかずに府中北市民病院が慢性期高齢者医療に特化した病院になっていることからも証明されます。

すなわち、この2040構想が全国で断行されると、広域化、民営化ありきの机上の空論となり、超少子高齢社会、東京一極集中の解消どころか、圏域周辺部自治体の衰退、故郷消滅の危険性が高くなります。そのためこの大きな痛みを伴う政策を地域住民、国民に理解してもらい推し進めるためには、現在日本の喫緊の課題である出生率低下による人口減少が解消できるという具体的な根拠が示されなければなりません。中山間地域唯一の病院は、住民の命と健康を守るだけでなく、地域経済を支える大きな産業です。昭和30年代に日本全国の中山間や離島に自治体病院が出来たことと、国民皆保険制度の確立によってそれまで医療機関を受診することが出来なかった多くの国民が恩恵を受けることが出来、人口が増加して世界一の長寿国にもなりました。そして地元の若者が病院に勤務することによって、都会に流出することなく子供を産み育て人口も維持してきました。日本は、国の進むべき道を医療や教育などの社会的共通資本と社会保障を充実して子供を産み育てやすい政策に舵を転換する時が来ているのです。また、それは新型コロナウイルス肺炎のような未知の感染症や大災害の備えにもなるのです。   


●地域医療を守る会 第10回記念講演会のアンケート結果

 150名の参加者があり92名(61.3%)の方がアンケートを回答されました。府中市の人が54人、甲奴町12人、神石高原町12人、福山市4人、世羅町2人、庄原市2人、尾道市1人、不明5人でした。年齢別では202人、301人、407人、5013人、6018人、7022人、8020人、902人、不明7人でした。

 第一回シンポジウムから今回の記念講演会まで共通の質問事項である①地域医療は、住民・病院・行政が三位一体となって協議と合意のもとに地域の実情にあったものを作り上げていくべきであるとした人が89人(95.7%)、②府中北市民病院の機能回復維持が必要で市の直営とした人が80人(87%)、そして③住民運動の継続が必要とした人が77人(83.7%)でした。計11回のアンケート集計結果はグラフ―1を参照ください。

 各質問事項の回答結果は、グラフー2を参照ください。

l  アンケートその他の意見(明らかに事実と異なる意見と、公開議論の場でないと重大な誤解を招く一部の意見は、割愛させていただきました。)

・若い人も参加されて絶対に府中北市民病院を残さなければならない。926日の厚労省の発表には愕然としてものすごく不安になった。お先真っ暗だ。

・庄原日赤も同様です。住民運動を強力に。

・行政、医療に係る特別委員会の意識変容を図るほかない。住民の声を結集するしか

 ない。

・上下地区の住民が一体になる必要があります。対立しないで一緒に考えてほしい。学習会を重ねて頑張ってほしい。2つの病院を考えるという決議がされ、やっと一歩になった気がする。

・今のような活動を継続すべきである。とても分かりやすい良い講演でした。ありがとうございました。聞けて良かったです。

・アンケートの客観性、普遍性を得るため、行政の意図する内容も示して判断を求めよう。

・府中北市民病院にも広大から研修医が来ています。広大にも医師派遣のために出向いています。府中北市民病院が市の直営病院としてあれば理想だと思うが、この時代に合った考え方にしていかないといけない。

・2病院をのこすための財政負担、そうすると産業振興(税収増)になる。

・地域と一緒になって病院を守ることが大切だと思います。

・市立病院運営協議会等設置され協議案が出た場合、住民の研修会をこれまで通り実施してほしい。

・最終的には人づくり。人任せではいけないということを思いました。今後も粘り強く頑張りましょう。地域医療を守る会の皆様にはお世話になります。伊関先生にも感謝です。

・収入を見込んでサ高住が出来ましたが、今日の話を聞いてもっと病院として医療に関した人のスペースとして充実させたのが良かったのではないかと思いました。単純な素人考えです。それともやはり良い方向で運営されていますか。

・「市立病院運営協議会」という目標達成のための具体的な方法を整理し、住民に知らせることが大切である。

・病院を利用すること。

・さらなる住民運動を粘り強く進める。

・府中市の行政は、今日聞いた伊関先生の話とは逆に行政職員もどんどん削減し、サービスを悪化させ、人件費を減らして、地域の活性化の方向に行っていない。病院についても、府中市の将来を考えての行政を望む。

・住民の方々が再編・統合計画を知っておられるのでしょうか?まだまだ詳しい内容について知らされていない。知ってもらうことが必要では。

・住民が2病院を積極的に利用する。

・こうした取り組みに敬意を表します。

・市長、議会に強く所在を訴えて行動をしてもらうようにする。

・過去は過去、新しい考え方で地域の医療を守ることが大切。それが府中北市民病院を守る未来。

・中山間地域の安心、安全を考えてください。行政と話し合いを深め理解していただき、良い関係でないと医師が来てくれないと聞いた。伊関先生より。

・今回の説明はよくわかりました。みんなで頑張らなければならないと思いました。ありがとうございました。

・何事も勝手にするな。税金を払っている一住民より。他人の金を無駄遣いしないこと。またそれを良く見る人を第三者委員会を使う。3階の個室の介護など。

2病院の経営は同じであるが、診療圏が違うのに役割は同じなので、患者さんたちが2病院に共有されるメリットがないと思います。伊関先生のお話は大変すばらしかったです。病院だけでなく地域を守るために何をすべきか、どうすべきか的確で明確なアドバイスをしていただいたと思います。行政、医療機関、住民が三者一体になって地域を守るために頑張っていきたいと思いました。

・市長が北市民病院を残すという考えなら住民側も寄り添って行動する。すすめ方については、いろいろな立場の人(行政、医療者、住民、患者)が加わって良い病院づくりをする。行政との対立は終わりにしないといけない。

・協力できることに行動していきたい。共に立って行動は出来ないが。

・毎年、北市民病院を残すことに努力します。しましょう。

・地域医療に関する学習会や講演会、シンポジウムに参加して、最新の正しい情報をもとに考え、当該中山間医療不足地域に一つしかない『住民の命を守る、生活を守る、地域を守る』病院を存続できるよう声をあげ行動し続ける。

・府中市との対話が必要。

・住民が北市民病院を利用すること。

・少子高齢化、人口減少の進む中、単独での運営難しいから、地域の病院どおし連携して医療を存続させていく。

・さらなる再編、統合は反対です。統合されたら上下には住めなくなりますから。

・医師、職員の確保に努めてもらいたいし、住民も努めたい。三位一体の法人化を確立すべきと思います。2病院の経営統合は、そもそも住民との協議が必要なのか?他の病院の例はあるのか?市民病院の常勤外科医師が辞職したという表現は正しいのですか?旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の中核病院というが、神石高原町立病院は?盛り上げることが必要。

・医師、職員の確保に努めてもらいたいし、住民も努めたい。三位一体の法人化を確立すべきと思います。





 


●広島県医師会速報 第2437号(令和2年3月15日号)会員の声掲載

地域医療連携推進法人と府中北市民病院  

                黒木整形外科リハビリテーションクリニック

                      院長  黒木 秀尚

 

 地域医療連携推進法人とは、地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院等に係る業務の連携を推進するための方針(医療連携推進方針)を定め、医療連携推進業務を行う一般社団法人を都道府県知事が認定(医療連携推進認定)する制度です(厚労省)。地方独立行政法人府中市病院機構(独法)は、令和元年8月に今年度の計画を発表し、府中市民病院と府中北市民病院の将来像を示しました。それは「府中市地域医療再生計画(病院共同体構想)」を引き継いで、より広域の複数の病院と診療所からなる医療機関全体が共同体を構成し、役割分担をすることによって医療を効率的に提供するというものです。具体的には、府中地区医師会圏域を中心に福山・府中二次医療圏の北部を連携区域とした「地域医療連携推進法人」の設置を視野に入れています。そして連携を密にしている寺岡記念病院とともに、医師の初期臨床研修体制の構築を図るというものです。

 しかし、この将来像の計画は、現行の「府中市地域医療再生計画」をより広域にしただけ何も変わっていません。私たち府中北市民病院診療圏域住民は、①上下と府中は地域、診療圏が違うこと、②『弱者救済、命は絶対平等』という医療の基本理念に反していること、③協議が全くないことから当計画には無理があることを、平成2012月の住民運動開始時期から再三にわたって訴えてきました。しかし独法は、全く地域住民の民意を聴こうともしないで、7年間粛々と計画を実行してきましたが全く上手くいっていません。令和元年926日、厚労省も医療費抑制のため全国の病床数約16万床削減を目的とした「地域医療構想」を2025年までに達成するため公立、公的病院の再編・統合計画を公表し、来年の9月までの報告を求めています。 

このままでは府中北市民病院は、さらなる縮小・リストラされ、当初の予定通り慢性期高齢者医療に特化した病院・施設や診療所になり、現在の地域急性期医療を担う『命を守る病院』でなくなる危険性が大きくなると考えられます。すなわち前述の「地域医療連携推進法人」も病院の病床数を削減することを目的に策定された「地域医療構想」を達成するための方策として平成294月から施行されているからです。さらに現行の「府中市地域医療再生計画」が上手くいっていないことから強く推測できるように、府中北市民病院が「地域医療連携推進法人」に再編・統合されると、一層周辺の病院になるためさらなる縮小の危険性が高くなり、確実に地域の実情に合わない病院になっていくことが考えられます。そして医師確保の面でも周辺地域の小規模サテライト病院が中心部の大規模基幹病院とは異なる大学関連病院の場合は、ほとんどの若い医師が目標にしている専門医資格を取得するための自大学専門医研修連携施設にはなりにくく、そして派遣医師数も少なくなる可能性があると考えられるからです。 

すなわち、「地域医療連携推進法人」が上手くいくためには、市立三次中央病院を中心とした三次地区医療センター、庄原日赤病院、庄原市立西城市民病院の広島大学系4病院による地域医療連携推進法人である備北メディカルネットワークが順調であることと、府中市地域医療再生計画7年間の経験から①同じ診療圏域内でつくる、②同じ大学関連病院間でつくる、③医師の多い大規模病院と連携する、④地域住民の合意を得た住民、病院、行政三位一体の法人をつくる、⑤医療不足地域内唯一の小規模病院は縮小・リストラしない、⑥民間病院を中心に据えないことが必要です。これらのことが現在全国で進行中の病院再編・統合に生かされないと、地域と国民の共通財産である『命を守る病院』という社会的共通資本が機能しなくなるため、日本中に府中北市民病院診療圏域のような不幸な地域が多発し、国にとって大きな痛手になることが予測されるのです。


●広島県知事への要望書

令和2220

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                地域医療を守る会

                               副会長 山根 孝志

 

                  要望書

府中市の2病院が、地域急性期医療を担う『命を守る病院』として持続可能になるため、地域医療を守る会第10回記念講演会と公開討論の結果から下記の要望をいたします。

l  地域医療構想の基本理念と持続可能な地域医療の原則

地域医療構想の基本理念は、「全国どこに住んでいても一生涯安心して生活が出来るために、地域の実情に応じた過不足のない医療提供体制を構築するため」であり、広島県も「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来るよう」構想を策定しています。ガイドラインでは、その策定にあたり地域医師会、保険者、市町村だけでなく、地域住民との十分な連携の下に行うことが明記されています。しかし、実際は医療費を抑制するため病院を再編・統合して、全国の病床数を約16万床削減する計画で、地域住民と連携をとることなく強引に進められています。これでは上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」の二の舞になる病院が全国に出現し、地域が衰退消滅します。

歴史的に持続可能な地域医療の原則は、住民、行政、病院が三位一体となって地域の実情に合った病院づくりをすることとされています。今後は病院の赤字、黒字といった経済や人口減少を理由にした縮小・リストラではなく、人を大切にして地域に医療者が勤務し、三位一体で質の高い良い医療が出来る病院、地域が持続可能となるのです。

l  厚労省の公立、公的病院再編・統合と地域医療連携推進法人の問題点   

厚労省は令和元年926日に、「地域医療構想」を推進するため公立(自治体病院)、公的病院の再編・統合計画を発表しましたが、中山間地域や離島などの地域医療の実情に即していない全国一律の机上の空論です。そもそも「地域医療構想」は、国の医療政策ですが、自治体病院の再編統合問題は、地方自治の問題です。地域の医療は、地域の雇用、まちづくり、交通、降雪などの気候、地理的条件が密接に関係しているため、首長、地方議会、住民・患者の意見を優先すべきです。首長が設置する委員会や地方議会で議論して議決されたことが結論となります。現在行われている医療関係者だけで構成される「地域医療構想調整会議」では政治的な決定はできないのです。

府中市が今年度目指している「地域医療連携推進法人」は、「地域医療構想」を達成するための方策なので、病院は再編・統合されます。そのため府中北市民病院のような周辺の病院は縮小されます。さらに喫緊の課題である医師不足も解消されません。しかし2病院の独法は保ったまま、府中北市民病院を「地域医療連携推進法人」への再編・統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設にすると、独法への医師の派遣元が2大学となり、深刻な2病院の医師不足の解消にも有利です。

l  地方の自治体病院の存在意義・役割と経営・運営、『医療機関は地域の生命線』

10年前に自治体病院の赤字のみに着目して、自治体病院を民営化した地域があります。その結果は、病院としての医療を存続できず、無床診療所になりました。結果として地域に雇用の場がなくなり、安心して住めない地域になったため、町の衰退に拍車をかけることになります。

地方の自治体病院は、『どこの地域でも命は平等』という医療の基本理念と憲法第25条から救急医療、へき地医療などの不採算医療を担う目的で設立されていますから、自主独立採算は不可能なのです。その証拠に真のへき地には民間病院は存在できません。総務省もそのことを認めているので、不採算地区の病院に対する特別交付税を措置しています。

さらに自治体病院は、地方の重要な産業であり、地域の経済を循環させてくれます。すなわち医療、介護分野の経済波及効果は高く、正規雇用が生まれ、若者のUターンを促進して東京一極集中を改善します。地価も安いため、子だくさんが多くなり少子化・人口減少も解消されるのです。逆に病院をなくしたり、診療所化すると地域の大きな産業が無くなるため、地域は衰退、消滅します。まさに『医療機関は地域の生命線』なのです。府中北市民病院は、不採算地域の病院で第一種特別交付税も措置されているため、地域存続のためにも病床数をこれ以上削減してはいけないのです。

                  

 

1.府中北市民病院がさらに再編・統合されると、縮小されるため安心して住めなくなり、地域の産業も無くなるため、地域医療構想の基本理念を厳守されたい。

2.地域医療構想が基本理念通りに推進されるために、住民が参加できて意見が反映される地域医療構想調整定例会議を開催されたい。

3.府中北市民病院を「地域医療連携推進法人」への再編、統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設になるよう市に働きかけて頂きたい。その場合、専門医研修連携施設は、各関連大学系専門医研修施設で医師が多くマッチングの高い病院と連携されたい。

4.府中北市民病院の常勤医師を一刻も早く増員されたい。広島大学ふるさと枠の常勤医師を派遣されたい。

5.住民、病院(独法)、行政が一丸となることで、地域で質の高い良い医療が出来る2病院が存続するために、住民、病院(独法)、行政が会話をする場と機会を定期的に府中市で設けられるよう市に働きかけて頂きたい。

以上

●広島県議会議長への要望書

令和2220

広島県議会議長

中本 隆志 様

                                地域医療を守る会

                               副会長 山根 孝志

 

                  要望書

府中市の2病院が、地域急性期医療を担う『命を守る病院』として持続可能になるため、地域医療を守る会第10回記念講演会と公開討論の結果から下記の要望をいたします。

l  地域医療構想の基本理念と持続可能な地域医療の原則

地域医療構想の基本理念は、「全国どこに住んでいても一生涯安心して生活が出来るために、地域の実情に応じた過不足のない医療提供体制を構築するため」であり、広島県も「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来るよう」構想を策定しています。ガイドラインでは、その策定にあたり地域医師会、保険者、市町村だけでなく、地域住民との十分な連携の下に行うことが明記されています。しかし、実際は医療費を抑制するため病院を再編・統合して、全国の病床数を約16万床削減する計画で、地域住民と連携をとることなく強引に進められています。これでは上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」の二の舞になる病院が全国に出現し、地域が衰退消滅します。

歴史的に持続可能な地域医療の原則は、住民、行政、病院が三位一体となって地域の実情に合った病院づくりをすることとされています。今後は病院の赤字、黒字といった経済や人口減少を理由にした縮小・リストラではなく、人を大切にして地域に医療者が勤務し、三位一体で質の高い良い医療が出来る病院、地域が持続可能となるのです。

l  厚労省の公立、公的病院再編・統合と地域医療連携推進法人の問題点   

厚労省は令和元年926日に、「地域医療構想」を推進するため公立(自治体病院)、公的病院の再編・統合計画を発表しましたが、中山間地域や離島などの地域医療の実情に即していない全国一律の机上の空論です。そもそも「地域医療構想」は、国の医療政策ですが、自治体病院の再編統合問題は、地方自治の問題です。地域の医療は、地域の雇用、まちづくり、交通、降雪などの気候、地理的条件が密接に関係しているため、首長、地方議会、住民・患者の意見を優先すべきです。首長が設置する委員会や地方議会で議論して議決されたことが結論となります。現在行われている医療関係者だけで構成される「地域医療構想調整会議」では政治的な決定はできないのです。

府中市が今年度目指している「地域医療連携推進法人」は、「地域医療構想」を達成するための方策なので、病院は再編・統合されます。そのため府中北市民病院のような周辺の病院は縮小されます。さらに喫緊の課題である医師不足も解消されません。しかし2病院の独法は保ったまま、府中北市民病院を「地域医療連携推進法人」への再編・統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設にすると、独法への医師の派遣元が2大学となり、深刻な2病院の医師不足の解消にも有利です。

l  地方の自治体病院の存在意義・役割と経営・運営、『医療機関は地域の生命線』

10年前に自治体病院の赤字のみに着目して、自治体病院を民営化した地域があります。その結果は、病院としての医療を存続できず、無床診療所になりました。結果として地域に雇用の場がなくなり、安心して住めない地域になったため、町の衰退に拍車をかけることになります。

地方の自治体病院は、『どこの地域でも命は平等』という医療の基本理念と憲法第25条から救急医療、へき地医療などの不採算医療を担う目的で設立されていますから、自主独立採算は不可能なのです。その証拠に真のへき地には民間病院は存在できません。総務省もそのことを認めているので、不採算地区の病院に対する特別交付税を措置しています。

さらに自治体病院は、地方の重要な産業であり、地域の経済を循環させてくれます。すなわち医療、介護分野の経済波及効果は高く、正規雇用が生まれ、若者のUターンを促進して東京一極集中を改善します。地価も安いため、子だくさんが多くなり少子化・人口減少も解消されるのです。逆に病院をなくしたり、診療所化すると地域の大きな産業が無くなるため、地域は衰退、消滅します。まさに『医療機関は地域の生命線』なのです。府中北市民病院は、不採算地域の病院で第一種特別交付税も措置されているため、地域存続のためにも病床数をこれ以上削減してはいけないのです。

                  

 

1.府中北市民病院のように再編・統合されると、縮小されるため安心して住めなくなり、地域の産業も無くなるため、地域医療構想の基本理念の厳守を監視・確認されたい。

2.地域医療構想が基本理念通りに推進されるために、住民が参加できて意見が反映される地域医療構想調整定例会議を県に要請されたい。

3.府中北市民病院を「地域医療連携推進法人」への再編、統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設になるよう県と市に働きかけて頂きたい。その場合、専門医研修連携施設は、各関連大学系専門医研修施設で医師が多くマッチングの高い病院と連携されたい。

4.府中北市民病院の常勤医師を一刻も早く増員されたい。広島大学ふるさと枠の常勤医師が派遣されるよう県に働きかけて頂きたい。

5.住民、病院(独法)、行政、議会が一丸となることで、地域で質の高い良い医療が出来る2病院が存続するために、住民、病院(独法)、行政、議会が会話をする場と機会を定期的に府中市で設けられるよう県と市に働きかけて頂きたい。

以上


●府中市議会への要望書(令和2年1月23日)

令和2123

府中市議会議長 

加藤 吉秀 様

                                地域医療を守る会

                               副会長 山根 孝志

 

                  要望書

府中市の2病院が『命を守る病院』として持続可能になるため、地域医療を守る会第10回記念講演会と公開討論の結果から下記の要望をいたします。

l  厚労省の公立、公的病院再編・統合(地域医療構想)と医師不足問題   

厚労省は令和元年926日に、「地域医療構想」を推進するため公立(自治体病院)、公的病院の再編・統合計画を発表しましたが、中山間地域や離島などの地域医療の実情に即していない全国一律の机上の空論です。そもそも「地域医療構想」は、国の医療政策ですが、自治体病院の再編統合問題は、地方自治の問題です。地域の医療は、地域の雇用、まちづくり、交通、降雪などの気候、地理的条件が密接に関係しているため、首長、地方議会、住民・患者の意見を優先すべきです。首長が設置する委員会や地方議会で議論して議決されたことが結論となります。現在行われている医療関係者だけで構成される「地域医療調整会議」では政治的な決定はできないのです。

喫緊の課題である医師不足の解消に関しても府中市が今年度目指している「地域医療連携推進法人」は、病院の再編・統合を目的に策定された「地域医療構想」を達成するための方策なので周辺の病院は縮小されます。しかし2病院の独法は保ったまま、府中北市民病院を「地域医療連携推進法人」への再編・統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設にすると、医師の派遣元が2大学となり、深刻な2病院の医師不足の解消にもつながるのです。

l  地方の自治体病院の存在意義・役割と経営・運営、『医療機関は地域の生命線』

10年前に自治体病院の赤字のみに着目して、自治体病院を民営化した地域があります。その結果は、病院としての医療を存続できず、無床診療所になりました。結果として地域に雇用の場がなくなり、安心して住めない地域になったため、町の衰退に拍車をかけることになります。

地方の自治体病院は、『どこの地域でも命は平等』という医療の基本理念と憲法第25条から救急医療、へき地医療などの不採算医療を担う目的で設立されていますから、自主独立採算は不可能なのです。その証拠に真のへき地には民間病院は存在できません。総務省もそのことを認めているので、不採算地区の病院に対する特別交付税を措置しています。

さらに自治体病院は、地方の重要な産業であり、地域の経済を循環させてくれます。すなわち医療、介護分野の経済波及効果は高く、正規雇用が生まれ、若者のUターンを促進します。地価も安いため、子だくさんが多くなり少子化も解消されるのです。逆に病院をなくしたり、診療所化すると地域の大きな産業が無くなるため、地域は衰退、消滅します。まさに『医療機関は地域の生命線』なのです。府中北市民病院は、不採算地域の病院で第一種特別交付税も措置されているため、地域存続のためにも病床数をこれ以上削減してはいけないのです。

l  「地域に『命を守る病院』を残して地域を持続可能にするため」の対策

   住民、行政、病院が三位一体となって地域の実情に合った病院づくりをすることが大

切です。今後は病院の赤字、黒字といった経済や人口減少を理由にした縮小・リストラではなく、地域に医療者が勤務し、三位一体で良い医療が出来る病院、地域が残ります。そうすると自ずと地域住民は、地域の病院を利用します。そのためには病院のダウンサイジングではなく、バージョンアップが必要です。職員は宝です。病床を縮小しても、決して人を減らしてはいけません。逆に正規職員を増やして病院の質を上げるのです。まず人材育成が大切です。研修機能を充実します。また職員が働きやすい環境・アメニティーが重要です。もちろん子育て支援は必須です。そういった努力を三位一体になって続けていると、若い職員が増え、患者さんも増え、医師・看護師も増え、都市部に流出する若者が減少し、若いカップルが増えて子供も増えて持続可能な地域になっていくのです。

そのためには一歩ずつ住民、病院、行政、議会が会話をする機運を創っていく必要があります。府中市議会議員も府中市の医療を良くするために積極的に関わって、是非三位一体で会話をする機運をつくってください。そして市議会の大きな使命である民意の適切な反映と行政のチェック機能を果たすために、府中市定例議会で独法の経営と運営に関する議論が出来る特別委員会を設置してください。

 

 

1.喫緊の課題である医師不足を解消して『命を守る病院』として存続させるため、2病院独自の専門医研修連携施設を許可されたい。その場合、専門医研修連携施設は、各関連大学系専門医研修施設で、医師が多くマッチングの高い病院と連携できるよう市に働きかけて頂きたい。

2.住民、病院(独法)、行政、議会が一丸となることで、地域で良い医療が出来る『命を守る2病院』が存続するために、住民、病院(独法)、行政が会話をする機会を定期的に設けるよう市に働きかけて頂きたい。

3.議会の大きな使命である民意の適切な反映と、行政のチェック機能を果たすために、府中市議会として市立病院の経営・運営についての特別委員会を設立して頂きたい。

以上


●府中市への要望書(令和元年12月26日)

                                令和元年1226

府中市長

小野 申人 様

                                地域医療を守る会

                                会長 松井 義武

 

                  要望書

l  医師不足解消のため三位一体の協議を尽くして2病院独自の各関連大学系専門医研修連携施設へ

「府中市地域医療再生計画(病院共同体構想)」は上手くいっていません。府中市が目指している「地域医療連携推進法人(病院共同体)」に府中北市民病院が再編・統合されると、より広域な病院共同体になるため、確実に地域の実情に合わない病院になっていきます。なぜならば、「地域医療連携推進法人(病院共同体)」は、病院の病床数を削減することを目的に策定された「地域医療構想」を達成するための方策として平成294月から施行されているからです。 

そして現在、府中市民病院が基幹病院であることから、岡山大学の関連病院が中心の「地域医療連携推進法人(病院共同体)」になるため、広島大学関連病院の府中北市民病院は、広島大学系の専門医研修連携施設になりにくくなり、広島大学の研修医が来なくなります。そうなると医師不足の解消に不利になるため、2病院の独法は保ったまま、府中北市民病院を「地域医療連携推進法人(病院共同体)」への再編・統合ではなく、府中市民病院は岡山大学系、府中北市民病院は広島大学系専門医研修連携施設にすると、医師の派遣元が2大学となり、喫緊の課題である深刻な2病院の医師不足の解消にもつながるのです。  

そしてこれらのことが実現して2病院が『命を守る病院』として府中市のより良い医療を持続可能になるためには、地域医療の大原則である住民、病院(独法)、行政が三位一体になることが必要です。そのためには今まで住民とは議論をしてこなかった独法との協議が必要で、一刻も早く三者が定期的に会話と交流が出来る場を設定される必要があります。

l  地域医療を守る会第10回記念講演会(令和元年128日 上下町民会館)

 2病院を『命を守る病院』として維持するための喫緊の課題は医師確保です。128日に上下町で開催した地域医療を守る会第10回記念講演会で自治体病院の再生、経営に関しては日本の第一人者である城西大学経営学部マネージメント総合学科教授の伊関友伸先生は以下の如く述べられました。 

1.医師の招聘について

府中市民病院は岡山大学と連携し、北市民病院は広島大学との連携が良い

(1)   医師の多い病院との連携が必要(医師数)

・岡山大学系の関連病院では、福山市民病院(137人)、福山医療センター(76人)、中国中央病院(48人)

・広島大学系関連病院では、市立三次中央病院(71人)、庄原日赤病院(35人)

医師数が20名前後の少ないところと連携しても医師の派遣は受けられず、医師不足は解消されない

(2)   新医師臨床研修で初期研修のマッチング率が良いところとの連携が必要

・マッチング率は将来の医師数を反映している(研修医に人気がある病院)

・福山市民病院はマッチング率100

・市立三次中央病院はマッチング率100

 ・10年前の病院の経営第一で赤字の解消を目的とした地域医療再生計画は、医療従事者が勤務してくれなくなり上手くいっていません。

 ・地域医療再生計画は、住民、行政、病院が三位一体となって人材を大切にする病院・地域づくりをすると効果が2倍にも3倍にもなります。

 ・住民がお客さんの公共事業主体の地域づくりからから脱して、地域住民が地域医療の当事者となってみんなで住民の病院を創ることは、民主主義を醸成することにも繋がります。

 

l  私たち地域住民は、府中市の2病院が『命を守る病院』として持続可能になるため、第10回記念講演と公開討論の結果から下記の要望をいたします。

 

                     記

 

1.喫緊の課題である医師不足を解消するため2病院独自の専門医研修連携施設を許可されたい。その場合、専門医研修連携施設は、各関連大学系専門医研修施設で医師が多くマッチングの高い病院と連携されたい。

2.住民、病院(独法)、行政が一丸となることで、地域で良い医療が出来る『命を守る2病院』が存続するために、住民、病院(独法)、行政が会話をする場と機会を定期的に設けられたい。

                                                  以上


●第10回地域医療を守る会記念講演会講演録(令和元年12月21日)

地域医療を守る会 第10回記念講演会   令和元年128日、上下町民会館

 

伊関 友利 先生 『地域に医療を残すために』 記念講演要旨

 

Ⅰ はじめに

私は自治体病院研究者の中で、現場で医療再生が出来る数少ない研究者です。自治体病院は、住民、行政、病院、みんなで創りあげていくものです。

厚労省は令和元年926日に、「地域医療構想」を推進するため公立(自治体病院)、公的病院の再編・統合計画を発表しましたが、その中には地域に一つしかない病院も多くありました。事前の通告もなく、評価基準に高齢者の医療や、精神医療が入っていないことなど問題がありました。まさに中山間地域や離島などの地域医療の実情に即していない全国一律の机上の空論です。

そもそも「地域医療構想」は、国の医療政策ですが、自治体病院の再編統合問題は、地方自治の問題です。地域の医療は、地域の雇用、まちづくり、交通、降雪などの気候、地理的条件が密接に関係しているため、首長、地方議会、住民・患者の意見を優先すべきです。首長が設置する委員会や地方議会で議論して決まったことが議決されたことが結論となります。現在行われている医療関係者だけで構成される「地域医療調整会議」では政治的な決定はできないのです。

 

Ⅱ 自治体病院を取り巻く問題

1.医師不足

現在の深刻な医師不足は、都市部への医師の偏在だけでなく絶対数が不足していることが原因です。その主な理由は、医療費抑制政策、新医師臨床研修制度、大学医局の弱体化、女性医師の増加、新専門医制度、働き方改革などです。特に平成16年から開始された、新医師臨床研修制度で地方の大学の医局は弱体化して、従来通りに中山間地域や離島に医師を派遣することが出来なくなりました。平成30年度から開始された新専門医制度も都市部の大病院で研修する若い医師が増える制度です。さらに2024年から医師の働き方改革が実行されると、医師不足の地域の病院では、働く時間が制限されるために十分な医療が出来なくなります。都市部に集中する400床を超えるような大病院に益々医師が集まることになるのです。

 

2.少子高齢社会

都市は高齢者が未曽有に増加して深刻な働き手不足、施設不足、財源不足に陥ります。

一方地方は、人口減少のため消滅の危機にあります。若い人がUターンで戻ってこず、正規雇用の場がなければ、町の存続は難しいためです。

(1)   出生率

2018年度の出生率は90万人を割りました。このままでは、100年後の日本の

人口は、現在の12千万人から4200万人程度に激減します。合計特殊出生率が上がらない主な理由は、①非正規雇用の増加、②女性の晩婚化、③若者の東京への流入、④東京の地価の高さなどです。

 出生率を上げるためには、①正規雇用を増やす、②結婚しやすくする、③若い世代のUターンを増やすなどです。

 

Ⅲ 地方の自治体病院の存在意義・役割と経営・運営-『医療機関は地域の生命線』

10年前に自治体病院の赤字のみに着目して、自治体病院を民営化した地域があ

ります。その結果は、病院としての医療を存続できず、無床診療所になりました。結果として地域に雇用の場がなくなり、安心して住めない地域になったため、町の衰退に拍車をかけることになります。

 地方の自治体病院は、『どこの地域でも命は平等』という医療の基本理念と憲法第25条から救急医療、へき地医療などの不採算医療を担う目的で設立されていますから、自主独立採算は不可能なのです。その証拠に真のへき地には民間病院は存在できません。総務省もそのことを認めているので、不採算地区の病院に対する特別交付税が措置されているのです。

 さらに自治体病院は、地方の重要な産業であり、地域の経済を循環させてくれます。すなわち医療、介護分野の経済波及効果は高く、正規雇用が生まれ、若者のUターンを促進します。物価も安いため、子だくさんが多くなり少子化も解消されるのです。逆に病院をなくしたり、診療所化すると地域の大きな産業が無くなるため、地域は消滅します。まさに『医療機関は地域の生命線』なのです。

 府中北市民病院は、不採算地域病院で第一種特別交付税も措置されているため、地域存続のためにも病床数をこれ以上削減してはいけないのです。

 

Ⅳ 「地域に医療を残すため」の対策

   住民、行政、病院が三位一体となって地域の実情に合った病院づくりをすることが大

切です。今後は病院の赤字、黒字といった経済ではなく、地域に医療者が勤務し良い医療が出来る病院、地域が残ります。そうすると自ずと地域住民は、地域の病院を利用します。

 そのためには病院のダウンサイジングではなく、バージョンアップが必要です。職員は宝です。病床を縮小しても、決して人を減らしてはいけません。逆に正規職員を増やして病院の質を上げるのです。まず人材育成が大切です。研修機能を充実します。また職員が働きやすい環境・アメニティーが重要です。もちろん子育て支援は必須です。 

 そういった努力を三位一体になって続けていると、若い職員が増え、患者さんも増え、医師・看護師も増え、都市部に流出していた若者が減少し、若いカップルが増えて子供も増えて持続可能な地域になっていくのです。

Ⅴ 府中市民病院と府中北市民病院の経営戦略

1.府中市民病院

・平成28年度運営交付金25千万円は平均的な繰入額である。

・平均在院日数11.6日は急性期病院としては良い。病床利用率87.5%。

・入院単価が3万円と低いので、高齢者医療に特化した35千円か急性期の4

5千円を目指すべきである。

・しかし常勤外科医師がゼロは厳しい

1床減らして149床にすると不採算地域特別交付税2種がもらえる可能性があ

るので、検討すべきである。

2.府中北市民病院

・平成29年度の運営交付金は14千万円

・不採算特別交付税第一種が措置されている

・平均在院日数19.5日、病床利用率73

・常勤医師数がわずか3名なので非常に厳しい

・入院単価は29千円~3万円と市民病院と変わりない

3.独法・機構

・手持ちの現金が2億円と少ない。短期の改善が必要

・これから借金の返済が始まるので、さらに大変になることが予想される

・不採算地域の特別交付税は、第一種が1床当たり年間140万円、第2種が90万円です

・府中北市民病院は満床になると、特別交付税が年間60床×140万円=8400万円措置されます。それに加えて運営に対しての普通地方交付税が入るので、市の繰り出しはさほど大きくありません。

・しかし北市民を有床診療所(19床)にしてしまうと、それらの交付税が激減するため収益も激減します。

・だから北市民病院はこれ以上縮小してはいけません

・総務省は地方の不採算地区の病院を支える方針です

4.医師の招聘について

・府中市民病院は岡山大学と連携し、北市民病院は広島大学との連携が良い

(1)   医師の多い病院との連携が必要(医師数)

・岡山大学系の関連病院では、福山市民病院(137人)、福山医療センター(76人)、中国中央病院(48人)

・広島大学系関連病院では、市立三次中央病院(71人)、庄原日赤病院(35人)

・医師数が20名前後の少ないところと連携しても医師の派遣は受けられず、医師不足は解消されない

(2)   新医師臨床研修で初期研修のマッチングが良いところとの連携が必要

・将来の医師数を反映している(研修医に人気がある病院)

・福山市民病院はマッチング100

・市立三次中央病院はマッチング100

 

Ⅵ おわりに

 ・10年前の病院の経営第一で赤字の解消を目的とした地域医療再生計画は、医療従事者が勤務してくれなくなり上手くいっていません。

 ・地域医療再生計画は、住民、行政、病院が三位一体となって人材を大切にする病院・地域づくりをすると効果が2倍にも3倍にもなります。

 ・住民がお客さんの公共事業主体の地域づくりからから脱して、地域住民が地域医療の当時者となってみんなで住民の病院を創ることは、民主主義を醸成することにも繋がります。

 

公開討論

l  公開討論の論点

令和元年926日に厚労省は、医療費抑制の目的で全国の病床数を削減する「地域医療構想」を推進するため、公立、公的病院の再編・統合を発表しました。そして府中市民病院、府中北市民病院とも候補に挙がりました。令和元年8月に開かれた地方独立行政法人府中市病院機構の評価委員会で府中市は、「2病院の将来像として、より広域な福山府中二次医療圏の北部を連携区域とした「地域医療連携推進法人」の設立を視野に入れ、両病院の将来像を確立する」と発表しました。

そうなると現在上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」より広域になるため府中北市民病院は、より周辺地域に追いやられ『命を守る病院』でなくなる危険性が高くなります。さらに「地域医療連携推進法人」は、病床削減を目的とした「地域医療構想」達成の手段として、平成294月から導入されたもので実行されると、さらなる縮小・リストラの危険性が高まります。そしてこのことは医師確保の面でも非常にマイナスです。すなわち、最近の若い医師のステータスである専門医資格取得のための専門医研修連携施設が府中市民病院の岡山大学系になるため、広島大学の関連病院である府中北市民病院は今までに培った広島大学医師研修共同施設としての実績が生かされなくなるからです。そしてこのことは独法にとっても医師確保の面で不利です。すなわち独法への医師派遣元が岡山大学と広島大学二つある方が、医師確保にも有利になるからです。

経営的には府中市民病院は、府中市の市民が利用するだけで問題は解決します。府中北市民病院は地域住民の人がしっかり利用しているので、医師確保が喫緊の課題です。

 1.論点―(1

そこで今回の討論会の最初の論点を「府中北市民病院を『地域医療連携推進法人』ではなく、『自主独立運営』とし、広島大学系専門医研修連携施設へ参加させる」としました。

l  伊関先生

・自主独立運営は、行政との対立が強調される表現で少しひっかかります。

・医師の雇用は本気で行う必要があります。府中市民病院が来年度から岡山大学系の内科専門医研修連携施設になって3か月後期研修医を引き受けるだけでは少ないので、初期研修医の受け入れなどもさらに積極的に受け入れられたらどうでしょうか。

・市役所の中に『医療確保対策室』を立ち上げて、岡山大学と広島大学など関係者に積極的にアプローチしてはいかがでしょうか。府中市も行政として2病院へもっと働きかける必要があると考えます。

・理想的には自主独立運営ですが、府中市の理解が必要です。

・府中北市民病院の医師は、わずか3名なので一人でも減ると億単位の損失が出ます。

l  黒木

「地域医療連携推進法人」化されると府中北市民病院は広島大学系の専門医研修連携施設になることが難しくなり、独法にとって医師確保の面でも不利である

l  中西先生(備北メディカルネットワーク代表、市立三次中央病院名誉院長)

・府中市民病院と府中北市民病院が「地域医療連携推進法人」になることは間違っています。県はまだ2病院を地域医療連携推進法人にすることは決めていません。

・備北2次医療圏で地域医療連携推進法人をつくった一番の理由は、中山間地域で医師、看護師等の医療従事者を確保するためです。

・広島県は広島市が200万都市構想、福山が50万都市構想を計画していますが、その中にあるいろいろな産業の中に残念ながら医療が入っていませんでした。そこで「地域医療連携推進法人」を起ち上げて備北2次医療圏の医療を守ることにしました。

・今、出来ることは安佐市民病院から広島大学ふるさと枠の研修医師を派遣することで、府中北市民病院と神石高原町立病院に関しては、今年度中にへき地医療対策と医師確保対策に組み込みたい。

・新専門医研修制度は広島県の第7次保健医療計画に組み込まれてはいるが、指導医がいないところは出しにくい問題がある。指導医がいる大きな病院の研修システムの中に組み込んでいただく形となる。神石高原町が福山市民病院のようにである。

・府中市地域医療体制をどこが指導できるか。府中市民病院をどこがバックアップするかが決まっていない。制度の中で出来るだけ2病院をバックアップしたい。安佐市民病院が安芸太田病院と吉田病院、市立三次中央病院が庄原のように。府中市民病院を主に考えて、そこから府中北市民病院へ派遣する方がやりやすい。県行政ではそうなっている。

・横矢院長がなくなったことは残念である。府中北市民病院は広島大学第一内科の関連病院なので、余裕が出来れば支援したい。地域医療連携推進法人は考えない方が良い。

・今の段階では病院の集約より医師派遣(確保)をしっかりして2病院を存続させることが大切である。地域医療連携推進法人ではなく府中市民病院が中心になってすべてを取り仕切ることが必要である。備北メディカルネットワークは、医師派遣のためである。

2.論点-(2

 地域医療は、地域住民、行政、病院が三位一体となって取り組まないと上手くいきません。「府中市地域医療再生計画」は、独法が地域住民と協議をしないため地域の実情に合わず上手くいっていません。独法と協議が出来る『市立病院運営協議会』の設置が必要です。

l  伊関先生

・府中北市民病院については、不幸な歴史、行政と住民との間で対立があった。しかし、いつまでも引きずっていては、地域に医師が来ないし、勤務しない。

・病院、住民、行政が一丸になって良い医療をすることに心血を注ぐべきである。

・いきなり協議会から始めると、糾弾会になりかねない。一歩ずつ住民、病院、行政、が会話をする機運を創っていく。府中市議会議員さんも府中市の医療を良くするために勉強をして、積極的に関わってほしい。是非こういう機運を創ってほしい。

l  中西先生

・この問題もなかなかむつかしい。庄原と西城の時も難しかった。

・北市民病院の患者さんや地域住民は、医師を大切にする。だから長年同じ医師が大学病院から来てくれている。お互いの信頼関係が出来ている。これは素晴らしいことである。他の地域ではこんなことはあまりない。

・医師が大切にしてもらえるという非常に良い関係が長年続いている。行政がもう少し上手に大学と話し合いをすべきである。

・行政と住民はもう少し仲良くしなければなりません。

・今回いろいろなごたごたがあったが、伊関先生も言われたように良いところを伸ばしてほしい。

・私は地域医療構想調整会議のアドバイザーとして、ここをどうするか、広大と岡大の問題、福山地域という難しいところにあること承知で出来るだけ相談に乗るつもりでいます。

・良い関係を創りあげていってほしい。

l  黒木

・地域住民の皆様、中西先生がほめてくださいました。そして協力して下さると言われました。大変ありがとうございました。宜しくお願いします。

l  高橋師長(神石高原町 鈴木クリニック)

・府中北市民病院を残したいので10年間この会に参加しています。今日も10名の仲間と参加しました。

・平成24年の第2回地域医療を守る会シンポジウムで、鈴木クリニックの鈴木強院長が発言したことを職員もよく理解して日々の診療にあたっています。

・鈴木院長は、「府中北市民病院が十分な機能の病院でなくなると、バックアップがなくなるのでクリニックの存続が不安になることと、訪問診療をする場合にも都市部は半径500メートルだが、当該中山間地域は半径が510キロと広大でかつ医師不足地域なので絶対に北市民病院が必要である。」ことを訴えられました。

・福山市から来ていた地元の訪問看護ステーションが12月から撤退する。北市民病院のさらなる縮小・リストラと鈴木院長の高齢化もあり不安を抱いている。

l  小川敏夫前府中市議会議員

・府中市民病院の赤字体質を強調されると、一般の市民は病院に行かなくなるのでやめてほしい。

・自治体病院は赤字、黒字で判断してはいけない。赤字であっても自治体病院は地域住民にとってはなくてはならない『命を守る病院』だから。

l  黒木

・独法(府中市病院機構)が住民との協議をせずトップダウンで実行している「府中市地域医療再生計画」が、7年間経過しても上手くいっていないことに関する正しい情報を今まで通り提示しました。以前からその中には個々の病院のデータは示していません。小川さんは誤解されています。個々の病院はこれ以上できないほど頑張っておられます。その努力が報われないのは、府中市健康地域づくり審議会が策定し独法が実行している当計画が根本的に間違っているからなのです。すなわち①お互いの病院の地域・診療圏が異なること、②弱者救済、命は絶対平等という医療の基本理念に反していること、③地域住民との協議が無いことです。

・伊関先生の講演から自治体病院は地域住民の生命線だけでなく、地域の大切な産業でもあり正規雇用、U、Iターン・定住、出生率増加、まちづくり、民主主義の醸成に強く関与する地域の生命線であることがよくわかりました。そして府中北市民病院が現状で維持されるほうが府中市と独法にとっても経営的にも良いことがよくわかりました。皆様、住民、行政、病院が三位一体となって府中市の2病院が『命を守る病院』として持続可能になるよう頑張りましょう!

・伊関先生のおかげで非常に有意義で活発な記念講演会になりました。ありがとうございました。

 


●第10回地域医療を守る会 記念講演会のご案内(令和元年10月28日)

10回地域医療を守る会  記念講演会のご案内

           日時;令和元年128日(日)午前10時~

           場所;上下町民会館2階 大研修室 参加費無料

l  府中市が発表した2病院の将来像(令和元年8月)

 地方独立行政法人府中市病院機構(独法)は、令和元年8月に今年度の計画を発表し、府中市民病院と府中北市民病院の将来像を示しました。それは「府中市地域医療再生計画」を引き継いで、より広域の複数の病院と診療所からなる医療機関全体が、役割分担をすることによって医療を供給するというものです。そして府中地区医師会の医療機関と連携を図りながら進めます。具体的には、医師会圏域を中心に福山・府中二次医療圏の北部を連携区域とした「地域医療連携推進法人」の設置を視野に入れています。そして連携を密にしている     寺岡記念病院とともに、医師の初期臨床研修体制の構築を図るというものでした。

l  2病院はさらなる再編が必要な病院と厚労省が発表(令和元年926日)

 この将来像の計画は、現行の「府中市地域医療再生計画」をより広域にしただけ何も変わっていません。私たち地域住民は、①上下と府中は地域が違うこと、②医療の基本理念に反していること、③協議が全くないことから当計画には無理があることを、平成2012月の住民運動開始時期から再三にわたって訴えてきました。しかし独法は、全く地域住民の民意を聴こうともしないで、7年間粛々と計画を実行してきましたが全く上手くいっていません。平成30年度には、府中市民病院の常勤外科医師がゼロになり、経営的にも赤字が続いています。令和元年926日、厚労省も2病院を再編が必要な病院として発表しました。

l  自治体病院の救世主 伊関友伸先生上下に来たる

 一刻も早く当計画が改善されて地域の実情に応じた持続可能な2病院になるようにしなければなりません。そこでこの度、自治体病院に関しては日本の第一人者である城西大学経営学部マネージメント総合学科教授の伊関友伸先生をお招きしました。全国で医療崩壊が始まっていた平成19年に『町の病院がなくなる!?地域医療の崩壊と再生』という名著を執筆され、自治体病院の経営に関しても第一人者で、全国の自治体病院の経営再建、地域医療の再生に関する本も多数執筆されています。今回の公立、公的病院再編統合問題でもNHKのニュースで伊関先生が専門家としての意見を再々求められていました。記念講演の主な内容は、①自治体病院の地方創生、地域再生に直結する存在意義、②住民が地域医療をつくる、③自治体病院の経営戦略、④地方独立行政法人、⑤自治体病院再生の秘索、⑥国の医療政策、⑦地域医療構想と自治体病院、⑧厚労省の公立、公的病院の再編統合計画などについて話されます。

l  論点

 今回の記念講演会では中立的な立場で、①2病院が持続可能になる方法、②独法と協議が可能な市立病院運営協議会の設置、③病院共同体構想を中止して自主独立採算・運営、④より広域な「地域医療連携推進法人」の是非について会場の皆様と討論していただく予定です。命を守る2病院を存続するため、皆様のご来場をお待ちしております。


●公立、公的病院の再編・統合計画に対する医師と医師会の使命
(令和元年9月30日) 広島県医師会速報10月25日号(第2423号)「会員の声」掲載

公立、公的病院の再編・統合計画に対する医師と医師会の使命

          黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木秀尚

 

厚労省は令和元年926日、高齢化により膨張する医療費を抑制する目的で、全国1,455の公立・公的病院の内434病院の業績不振を理由に再編・統合を検討するよう発表しました。広島県は13病院が対象に挙げられましたが、平成244月に総務省の「公立病院改革ガイドライン」に基づいて再編・統合され、地方独立行政法人(独法)になった府中市民病院と府中北市民病院の名前も存在しました。2病院は医師不足と赤字の解消を目的に、府中市の医療政策の立案と施策を推進する「府中市健康地域づくり審議会(寺岡暉会長)」の答申に基づいて経営統合されましたが、計画の段階から地域住民との十分な協議は全くありませんでした。

当時、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の外科的な手術が出来て、住民の命を守る一般急性期医療を担う病院が無くなる危惧を強く抱いた地域住民は、府中北市民病院を守るために平成2012月から住民運動を開始し、病院の機能維持と協議を求めていますが未だに実現していません。そして独法後7年が経過しましたが、基幹病院である府中市民病院の常勤外科医師3名がゼロになり、経費も新築総工費を含め80億円以上が費やされていますが赤字体質も改善されていません。その間あまりにも理不尽な府中市と独法の対応に住民は行政訴訟にも踏み切らざるを得ない状況に追いやられ、上下町は住民側と体制側に二分され不幸になりました。このように病院の診療実績だけで、住民を無視して地域を慎重かつ俯瞰的に考慮することなく、地域で唯一の病院の再編・統合をトップダウンで決めるとその地域は衰退します。夕張市は財政再建団体になった時、市民の命と健康を守ってきた市民病院を、多額の繰入金と医師不足を理由に有床診療所と老健施設に転換しました。その結果10年後には若い世代は、病院や学校のある近隣の自治体に転出し高齢者ばかりの廃墟の街と化しました。これらのことから『病院と地域は運命共同体』であることがよく分かります。地域の住民とよく協議をして、地域の実情に合致した、持続可能な病院づくり・まちづくりをしなければならないのです。

歴史的に繰り返し提唱されているように地域医療は住民、病院、行政が三位一体となって協議を尽くして取り組まないと上手くいきません。今回も「赤字だから、地域の人口が減るから」という「自治体消滅論」を振りかざし、学校統廃合に使われている平成26年総務省「公共施設等総合管理計画」に即した住民不在の政策です。日本の急速な高齢化とそれに伴う医療費・社会保障費の増大は、かなり以前から指摘されていたことなので、政府の不作為を棚に上げて国民に責任を転嫁しては絶対にいけないのです。国民の命と健康が脅かされる状況に政府は責任を取るべきなのです。地域の社会的共通資本である公立、公的病院が無くなると、地域の衰退を必ず招きます。そして近年、地球温暖化に伴う異常気象による未曽有の自然災害が多発しており、近い将来南海トラフ大地震が発生するとされています。その時全国どこでも30分で行ける診療圏域の病院の存在意義が非常に大きくなってきます。

10年間の府中北市民病院問題に関する住民運動を通じて、民主主義が形骸化し、政策を策定、実行する人達や政治家が、その結果に責任を負わずに住民・国民につけを回す現在の日本において、地域住民・患者の力は無に等しいことを痛感しました。日本医師会綱領に「医師としての高い倫理観と使命感を礎に人間の尊厳が大切にされる社会の実現を目指し、国民とともに安心・安全な医療提供体制を築く」とあります。医師と医師会組織は、住民が協議に参加でき、三位一体の地域医療を達成できるよう自治体と国に強く働きかけ、地域に唯一の病院は存続させることが使命なのです。

 


●上下第一町内会から府中市長への要望書(令和元年7月12日)

令和元年712

府中市長

小野 申人 様

                             府中市上下町第一町内会

                              会長 山本 義徳

 

                      要望書

 私たち地域住民は、生まれ育った地域で一生涯安心、安全に生活が出来る「地域包括ケアシステム」が完成することを望んでいます。その際、最も頼りにしているのは『命を守る病院』としての府中北市民病院です。しかし平成244月に「府中市地域医療再生計画(病院共同体構想)」に基づいて独法化され、病院の規模と機能が縮小され続けています。そのため診てもらえない、入院が出来ない、救急が断られるなどの多くの深刻な弊害が発生してきました。現在は、4階が「サ高住」に改築されており、益々高齢者慢性期医療に特化した『命を守れない病院』になりつつあることが、地域住民には強く感じられるようになっています。 

 さらに府中市は、平成302月に現在病院に併設されている「上下保健センター」と「地域包括支援センター」を旧三玉病院へ移転する計画(三玉ビジョン)を発表しました。そうなると今まで府中北市民病院で保健、医療、介護、福祉を一体になって受け入れていたものが、分散されることにより地域住民にとって非常に不便なものになります。すなわち「地域包括ケアシステム」の理念は、利用者の地域住民重視のシステムなので、基本理念に逆行することになります。そして移転した場合、上下保健センター跡地が介護保険リハビリ施設になる可能性があり、当該中山間医療不足地域唯一の一般急性医療を担う『命を守る病院』が、さらに構造的にも高齢者慢性期医療に特化した病院に変わることになります。 

 「府中市地域医療再生計画」は、2病院の医師不足と赤字を解消して2病院を守るために施行されましたが、7年を経過しても常勤医師数が当初の16名から11名に減少し、経営的にも府中市からの繰り出し金が、年平均44千万円と赤字の解消もなされていません。すなわち当計画は全く上手くいっていません。そして府中北市民病院は平成27年度から常勤医師がわずか3名になり、『命を守る病院』としての存続が非常に危ぶまれています。そのため一刻も早い常勤医師の増員が必要です。 

 しかし当計画を策定、推進している独法は、地域住民の再三にわたる協議の要望を無視して、十分な説明も議論もなく粛々と計画を実行しています。市も議会も関与が難しいため独裁的な組織といえます。しかし平成304月に独立行政法人法が改正され、首長の独法に対する業務運営の改善と必要な措置を命じることが出来るようになったので、独法と対等に協議が出来る私たち市民も参加が可能な府中市独自の「市立病院運営協議会」の設立が可能です。そして『命を守れる病院』として「病院共同体構想」の中で対等な病院運営に切り替える必要があります。よって下記の事項を要望いたします。

 

                        記

 

l  「上下保健センター」と「地域包括支援センター」を、三玉病院跡地へ移転されることは中止されたい。

 

l  府中北市民病院の常勤医師を一刻も早く増員されたい

 

l  独法と対等の協議が出来、市民が参加可能な「市立病院運営協議会」を設立されたい

 

l  府中北市民病院を「病院共同体構想」の中で対等な病院運営に切り替えられたい

 

以上


●上下保健センターと地域包括支援センターの移転計画に関する要望書

                                       令和元年516

府中市長

小野 申人 様

                            地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

 

上下保健センターと地域包括支援センターの移転計画に関する要望書

l  理想的な病院併設型の保健センター

 地域住民が、住み慣れた地域で安心して一生涯生活ができるための「地域包括ケアシステム」の構築が、全国で展開されていますが、地域包括ケアシステムは、保健(予防)、医療、介護、福祉、住まいが一体となって、多職種が連携・協働して構築していかなければなりません。その時、核になるのは普通の病気やけがで入院治療が出来る30分圏域の中にある一般急性期医療を担う病院です。歴史的に地域包括ケアシステムの理念を確立し、それを全国に展開した国民健康保険病院では、弱者である患者及びその家族のことを第一に考慮して、中山間地域の乏しい保健、医療、介護資源と社会インフラを最大限に活用するため縦割りではなく、横の連携を密にして包括的に保健センターでの各種相談や病気の予防と病院からの訪問診療・看護・リハビリ、家屋改修などの在宅支援サービスを迅速に行うことを理念にしており、そのため保健センターと地域包括ケアを担当する部署を地域包括ケアシステムの核となる国民健康保険病院に併設してきました。

l  合併前の上下町は地域包括ケアシステムの先進地

 国保上下病院(府中北市民病院)でもその理念に基づいて昭和57年に県下で一番早く保健センターを病院に併設して保健師を配置し、地域包括ケアシステムの基礎を構築しました。さらに平成6年に上下町役場から保健センターへ福祉係が配置され、平成11年の国保医療係の配置によって、保健、医療、福祉の窓口が一本化され、平成12年から始まった介護保険制度を有効に活用して各種サービスを提供することで、上下町民が安心して一生涯上下町で生活ができる国保上下病院を中心とした地域包括ケアシステムが完成しました。

l  保健センター病院併設の利点

 すなわち旧甲奴郡、神石郡のような中山間超高齢地域は、何らかの病気やけがで病院を受診する高齢者が多く、移動が困難なため病院に併設された上下保健センター、地域包括支援センターで、すぐに地域包括ケアに関して担当者から説明を受けることが出来て、そしてすべての必要な事務的な行政手続きと保健、医療、介護と福祉のサービスプランの説明と立案を、縦割りではなく包括的に一か所で受けることが出来ることが絶対に必要なのです。現在、上下町には先人の汗と涙の努力によって理想的な形で府中北市民病院に併設された上下保健センター、地域包括支援センターが存在しています。それらを離れた場所に移転することは、先に述べたように国民健康保険病院が長年かけて築き上げた地域包括ケアシステムの理念に逆行します。すなわち職員の効率化・利便性を重視した『上下保健センターの移転』は、本末転倒になるため絶対にしてはいけないのです。また日頃多忙な医師をはじめとする病院職員にとっても生活習慣病予防啓発活動(講演など)や地域ケア会議への参加が容易で、定期的な乳児検診をはじめとした各種検診も病院に併設された保健センターが理想的です。そして三玉病院への移転に際しては、余分なかなりの費用(税金)が発生します。

l  ネウボラも病院併設が良い

 さらに平成31年4月からネウボラ機能が上下保健センターに併設されますが、ネウボラは妊娠から出産、就学までの子育て支援と相談、そして一貫した保健・医療(発育段階に応じた定期的な検診)サービスの提供が主体になります。それらの業務は、医師、保健師、看護師、助産師、保育士が担うので府中北市民病院に併設された現在の上下保健センターが理想的です。現在乳児検診などの業務は、上下保健センターで行われていますが、今後少子化が劇的に改善されることは難しく、駐車場を含めたスペース的な問題も少ないと思われます。また移転先の三玉医院跡地へは、従前の計画通りにキッズスペースや子ども食堂の整備などの地域住民が集う場所づくりと訪問系介護事業所等の集積と府中北市民病院との連携強化による在宅生活の支援体制づくりをすればよいと思われます。問題になっている駐車スペースも府中北市民病院と三玉病院跡地に分散されることで改善されると思われます。

l  ゆくゆくは指定管理者による高齢者施設転換への危機

 当計画は、「府中市健康地域づくり審議会」が中心に策定し、「広域型地域包括ケアシステム」構想として平成30年2月に府中市が発表しました。そして現在7年経っても全く上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」と密接な関係があります。当計画も例の如く地域住民には、策定段階では何の説明も協議もありませんでした。平成192月の段階で既に『高齢者慢性期医療に特化』することが決まっており、平成233月に公表された「府中市地域医療再生計画」によって府中北市民病院は、粛々と縮小・リストラされ、平成31315日からは、4階が「サービス付き高齢者向け住宅」になる工事も開始されています。そして今回、府中北市民病院を核とした地域包括ケアシステムの心臓部である病院併設の既存の上下保健センターと、地域包括支援センターの移転を契機にゆくゆくは、周到な理由をつけて現在の保健センターの建物が壊され、府中北市民病院が高齢者施設やその駐車場に転換されることが地域住民には危惧されるのです。そして神石高原町立病院(旧県立神石三和病院)のように社会医療法人を指定管理者とするその下請け病院(高齢者慢性期医療病院)や高齢者施設になってゆく予感が地域住民には強く感じられるのです。そこで下記の事項を府中市に強く要望いたします。

                             記

1.              地域包括ケアシステムの理念に従って、府中北市民病院に併設された理想的な上下保健センターと地域包括支援センターを、余分な税金を浪費してまで移転しないこと

2.              国が定めた地域包括ケアシステム構築の理念に従って、地域住民と十分に協議を尽くした地域医療構想と地域包括ケアシステムを構築されたい


●上下保健センターと地域包括支援センターの移転計画について     

地域医療を守る会 顧問 黒木 秀尚

l  理想的な病院併設型の保健センター

 地域住民が、住み慣れた地域で安心して一生涯生活ができるための「地域包括ケアシステム」の構築が、全国で展開されていますが、地域包括ケアシステムは、保健(予防)、医療、介護、福祉、住まいが一体となって、多職種が連携・協働して構築していかなければなりません。その時、核になるのは普通の病気やけがで入院治療が出来る30分圏域の中にある一般急性期医療を担う病院です。歴史的に地域包括ケアシステムの理念を確立し、それを全国に展開した国民健康保険病院では、弱者である患者及びその家族のことを第一に考慮して、中山間地域の乏しい保健、医療、介護資源と社会インフラを最大限に活用するため縦割りではなく、横の連携を密にして包括的に保健センターでの各種相談や病気の予防と病院からの訪問診療・看護・リハビリ、家屋回収などの在宅支援サービスを迅速に行うことを理念にしており、そのため保健センターと地域包括ケアを担当する部署を地域包括ケアシステムの核となる国民健康保険病院に併設してきました。

l  合併前の上下町は地域包括ケアシステムの先進地

 国保上下病院(府中北市民病院)でもその理念に基づいて昭和57年に県下で一番早く保健センターを病院に併設して保健師を配置し、地域包括ケアシステムの基礎を構築しました。さらに平成6年に上下町役場から保健センターへ福祉係が配置され、平成11年の国保医療係の配置によって、保健、医療、福祉の窓口が一本化され、平成12年から始まった介護保険制度を有効に活用して各種サービスを提供することで、上下町民が安心して一生涯上下町で生活ができる国保上下病院を中心とした地域包括ケアシステムが完成しました。

l  保健センター病院併設の利点

 すなわち旧甲奴郡、神石郡のような中山間超高齢地域は、何らかの病気やけがで病院を受診する高齢者が多く、移動が困難なため病院に併設された上下保健センター、地域包括支援センターで、すぐに地域包括ケアに関して担当者から説明を受けることが出来て、そしてすべての必要な事務的な行政手続きと保健、医療、介護と福祉のサービスプランの説明と立案を、縦割りではなく包括的に一か所で受けることが出来ることが絶対に必要なのです。現在、上下町には先人の汗と涙の努力によって理想的な形で府中北市民病院に併設された上下保健センター、地域包括支援センターが存在しています。それらを離れた場所に移転することは、先に述べたように国民健康保険病院が長年かけて築き上げた地域包括ケアシステムの理念に逆行します。すなわち職員の効率化・利便性を重視した『上下保健センターの移転』は、本末転倒になるため絶対にしてはいけないのです。また日頃多忙な医師をはじめとする病院職員にとっても生活習慣病予防啓発活動(講演など)や地域ケア会議への参加が容易で、定期的な乳児検診をはじめとした各種検診も病院に併設された保健センターが理想的です。そして三玉病院への移転に際しては、余分なかなりの費用(税金)が発生します。

l  ネウボラも病院併設が良い

 さらに平成31年4月からネウボラ機能が上下保健センターに併設されますが、ネウボラは妊娠から出産、就学までの子育て支援と相談、そして一貫した保健・医療(発育段階に応じた定期的な検診)サービスの提供が主体になります。それらの業務は、医師、保健師、看護師、助産師、保育士が担うので府中北市民病院に併設された現在の上下保健センターが理想的です。現在乳児検診などの業務は、上下保健センターで行われていますが、今後少子化が劇的に改善されることは難しく、駐車場を含めたスペース的な問題も少ないと思われます。また移転先の三玉医院跡地へは、従前の計画通りにキッズスペースや子ども食堂の整備などの地域住民が集う場所づくりと訪問系介護事業所等の集積と府中北市民病院との連携強化による在宅生活の支援体制づくりをすればよいと思われます。問題になっている駐車スペースも府中北市民病院と三玉病院跡地に分散されることで改善されると思われます。

l  ゆくゆくは指定管理者による高齢者施設転換への危機

 当計画は、「府中市健康地域づくり審議会」が中心に策定し、「広域型地域包括ケアシステム」構想として平成30年2月に府中市が発表しました。そして現在7年経っても全く上手くいっていない「府中市地域医療再生計画」と密接な関係があります。当計画も例の如く地域住民には、策定段階では何の説明も協議もありませんでした。「府中市地域医療再生計画」によって府中北市民病院は、縮小・リストラされ、平成192月の段階で既に『高齢者慢性期医療に特化』することが決まっており、平成31315日からは、4階が「サービス付き高齢者向け住宅」になる工事が開始されています。そして今回、府中北市民病院を核とした地域包括ケアシステムの心臓部である病院併設の既存の上下保健センターと、地域包括支援センターの移転を契機にゆくゆくは、周到な理由をつけて現在の保健センターの建物が壊され、府中北市民病院が高齢者施設やその駐車場に転換されることが地域住民には危惧されるのです。そして神石高原町立病院(旧県立神石三和病院)のように社会医療法人を指定管理者とするその下請け病院(高齢者慢性期医療病院)や高齢者施設になってゆく予感が地域住民には強く感じられるのです。

 


広島県と県議会への要望書(平成31年2月14日)

                                       平成31年2月14日

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                         地域医療を守る会

                                         会長 松井 義武

                      要望書

 

広島県が平成21年11月に広島県地域医療再生計画B案として採択された「府中市地域医療再生計画」は、平成28年度から第2期に入っており、その最終目的は『府中地域全体の広域な医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築』です。平成22年11月に当計画の骨子である「府中地域医療提供体制(中間報告)」が公表されたとき『病院共同体構想』として寺岡記念病院、JA府中総合病院、府中北市民病院の役割分担が示されました。その中で府中北市民病院は、『かかりつけ医的な医療を担う病院で、救急や手術なし』とされていました。そしてそれは平成19年2月に発表された「府中北市民病院健全化計画」でも北市民病院は『慢性期高齢者医療に特化する』とされていました。

 現在、一連の「府中市地域医療再生計画」である府中北市民病院の4階を『サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)』にすることが進行中です。「府中市地域医療再生計画」は医師不足と赤字を解消して府中市民病院と府中北市民病院を残すことを大義名分にしています。しかし平成24年4月地方独立行政法人府中市病院機構(独法)発足当初に比べ、常勤医師数が16名から10名に激減しており、また経営面でも府中市民病院の新築総工費が52億円、そして府中市からの繰り出しが年平均約4億4千万円と約80億円以上の巨額な費用(税金)が拠出されても上手くいっていません。さらに平成30年11月からは、府中市民病院の常勤外科医師が3名からゼロになり、外科手術も出来ない深刻な状況に陥っています。そのため平成30年度は大きな赤字が予想され、サテライトの北市民病院から整理されていく危険性が危惧されます。すなわち4階が『サ高住』に改造されると、旧甲奴郡、神石郡中山間超医療不足地域の住民が最初から一貫して要望している一般急性期医療を担う公立病院から上記の『慢性期高齢者医療に特化する病院』そして『かかりつけ医的な医療を担う病院で、救急や手術なし』とする最初の計画通り、診療所やいわゆる看取り中心の『老人病院』になることが、地域住民には強く懸念されるのです。

「府中市地域医療再生計画」は、救急車で1時間以上かかり2病院間の地域・診療圏が異なること、弱者救済、命は絶対平等という医療の基本理念に反すること、そして日本は民主主義国家でありながら協議がないことから無理で問題がある計画でした。そのため当計画はすでに7年目の後半に入っていますが、全く上手くいっていません。それにもかかわらず1億2千万円の巨費を投じて、しかも厳密な無菌的整形外科手術の需要が高い病院の中に4階を隔離することなく『サ高住』のような住宅に改築する計画は問題があります。府中市は地域住民に「県は病院内に『サ高住』を隔離することなく建設しても病院内の衛生環境が悪化することはなく、院内感染・医療事故の問題はないとしている」と説明していますが、広島市民病院、広島県病院、福山市民病院などでも問題はないのでしょうか。

地域医療を守る第9回討論会を平成30129日上下町民会館にて『地域医療の未来をみんなで考えてみましょう~議員が語る府中北市民病院~』というタイトルで開催しました(資料)。今回は、上下町の府中市議会議員3名、甲奴町三次市会議員1名、神石地区神石高原町議会議員1名全員が発表されるということで200名を超える多くの参加者がありました。そこでは党派の異なる議員間でレベルの高い討論がなされましたが、府中市の地域医療を守るためには、府中市民病院と府中北市民病院の存続が不可欠で、特に府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期医療を担う手術の出来る病院として維持する必要がある事が全議員の共通した見解でした。

広島県は平成28年3月に「広島県地域医療構想」を策定し、「すべての県民が、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続ける広島県の実現」という基本理念を発表しました。そしてその実施のために現在、各自治体で「地域包括ケアシステム」の構築が推進されています。しかし県民が住み慣れた地域で最後まで安心して医療・福祉・介護サービスを受けることができる地域包括ケアシステムを構築するためには、国が定義した30分で行ける地域の中に肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、熱中症といった普通の病気やけがで入院治療ができる一般急性期医療を担う病院が必須です。

そこで平成23年1月20日から毎年広島県知事と広島県議会議長に旧甲奴郡・神石郡中山間医療不足地域唯一の一般急性期医療と手術のできる公立病院として府中北市民病院の機能回復維持を求める要望を今までに8回繰り返してきました。しかし広島県は、「府中市地域医療再生計画」を認可しただけでなく、平成26年7月には70床から60床へのさらなる縮小と、4階の療養病床の廃止、そして今度は府中北市民病院の4階を『サ高住』にする計画も認可しました。これは先に述べた広島県の地域医療構想・地域包括ケアシステムの構築の基本理念に反しています。そして『サ高住』が隔離されることなく、整形外科無菌的手術の需要の高い病院の中に共存しても医療安全の問題もなしとしたことは、換言すれば府中北市民病院を、地域住民の8年間にわたる必死の要望を無視して一般救急や、手術すなわち一般急性期医療を担う病院として存続させる意思がないことを意味しています。そこで私たち地域住民は、広島県に対して下記の事項を強く要望をいたします。

 

                          記

1.府中北市民病院を一般急性期医療入院、手術を担う公立病院として維持されたい

2.機能回復維持のために広大ふるさと枠の医師を早急に派遣されたい

3.国と広島県の基本理念に則った地域医療構想と地域包括ケアシステムを構築されたい

4.厳密な無菌的手術を実施している病院内に、隔離することなく『サ高住』を同居させることは撤回されたい


府中市への要望書(平成31年1月17日)

                            平成31年1月17日

府中市

市長 小野 申人 様

                              地域医療を守る会 

   会長 松井 義武

 

                  要望書

 

 「府中市地域医療再生計画」は、平成28年度から第2期に入っており、その最終目的は『府中地域全体の広域な医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築』です。平成22年11月に当計画の骨子である「府中地域医療提供体制(中間報告)」が公表されたとき『病院共同体構想』として寺岡記念病院、JA府中総合病院、府中北市民病院の役割分担が示されました。その中で府中北市民病院は、『かかりつけ医的な医療を担う病院で、救急や手術なし』とされていました。そしてそれは平成19年2月に発表された「府中北市民病院健全化計画」でも北市民病院は『慢性期高齢者医療に特化する』とされていました。

 現在、一連の当計画の一部である北市民病院の4階を『サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)』にすることが進行中です。当計画は医師不足と赤字を解消して府中市民病院と府中北市民病院を残すことを大義名分にしています。しかし平成24年4月地方独立行政法人府中市病院機構(独法)発足当初に比べ、常勤医師数が16名から10名に激減しており、また経営面でも府中市民病院の新築総工費が52億円、そして府中市からの繰り出しが年平均約4億4千万円と約80億円以上の巨額な費用が拠出されています。さらに平成30年11月からは、市民病院の常勤外科医師が3名からゼロになり、外科手術も出来ない深刻な状況に陥っています。そのため平成30年度は大きな赤字が予想され、サテライトの北市民病院から整理されていく危険性が危惧されます。すなわち4階が『サ高住』に改造されると、地域住民が最初から一貫して要望している一般急性期医療を担う公立病院から上記の『慢性期高齢者医療に特化する病院』そして『かかりつけ医的な医療を担う病院で、救急や手術なし』とする最初の計画通り、診療所やいわゆる看取り中心の『老人病院』になることが、地域住民には強く懸念されるのです。

 「府中市地域医療再生計画」は、2病院間の地域・診療圏が異なること、弱者救済、命は絶対平等という医療の基本理念に反すること、そして日本は民主主義国家でありながら協議がないことから無理で問題がある計画でした。そのため当計画はすでに7年目の後半に入っていますが、全く上手くいっていません。それにもかかわらず1億2千万円の巨費を投じて、しかも厳密な無菌的整形外科手術の需要が高い病院の中に4階を隔離することなく『サ高住』のような住宅に改築する計画は論外です。

 平成30年4月から「地方独立行政法人法」が改正され、小野市長の権限が強化されたことから早急に独法の業務運営の改善と必要な措置そして『病院共同体構想』と『サ高住』の見直しをして頂きたい。そして北市民病院を、一般急性期医療を担う公立病院として維持することを表明していただきたい。また北市民病院の4階を『サ高住』に改造することに関しては、平成30816日に行われた『サ高住』の上下での説明会を評価しているが、平成30年12月9日に開催した「地域医療を守る第9回討論会」で、多くの市民は『サ高住』に関していまだ十分に理解していないことが判明したので、引き続き病院経営と併せて市民に対する説明会を独法とともに開催していただきたい。そして府中市の2病院を守るためにも私達も参画可能な市民と一緒の府中市独自の『市立病院運営協議会』を設立されたい。そのためにも地域医療を守る会と担当部署との意見交換の場を継続していただきたい。そして「府中市地域医療再生計画」に関する「府中市健康地域づくり審議会」のメンバーに地域医療を守る会から選任して頂きたい。

以下1.から6.の項目の要望をいたしますので、「府中市地域医療再生計画」を抜本的に見直され、2病院を残すためご高配とご厚情の程宜しくお願いいたします。 

 

 

 

1.早急に独法の業務運営の改善と必要な措置そして『病院共同体構想』と『サ高住』の見直しをされたい

2.府中北市民病院を、一般急性期医療を担う公立病院として維持することを表明されたい

3.引き続き病院経営と併せて『サ高住』の市民に対する説明会を独法とともに開催されたい

4.市民と一緒に府中市独自の『市立病院運営協議会』を設立されたい

5.地域医療を守る会と担当部署との意見交換の場を継続して頂きたい

6.「府中市地域医療再生計画」に関する「府中市健康地域づくり審議会」のメンバーに地域医療を守る会から選任して頂きたい

以上

 

 


地域医療を守る第9回討論会アンケート結果

l  アンケート130名回答の分析

平成30年12月9日に開催した地域医療を守る第9回討論会には、約200名の参加者がありました。アンケートには130名の方が回答されました。回答率は例年通り65%でした(計10回の平均回答率64.4%)。参加者の住所は、府中市が88名、三次市17名、神石高原町13名、世羅町5名、福山市1名、不明6名でした。年齢分布は、30代4名、40代8名、50代11名、60代41名、70代25名、80代31名、90代2名、不明8名でした(男39、女37、不明54人)。参加回数は、初回32名、2回10名、3回11名、4回12名、5回12名、6回4名、7回2名、8回8名、9回19名で、初回参加の方が比較的多くみられました。計10回のアンケートを通じて共通質問項目の府中市地域医療再生計画の『説明協議と合意が必要』は、130人中120名(92.3%)、府中北市民病院の『機能回復維持』は、130人中118名(90.8%)、そして『市の直営』は、130人中118名(90.8%)で、『住民運動の継続』は130人中117名(90%)でした。今回も多くの地域住民が府中北市民病院の公立病院としての機能回復維持と協議の実現を望んでいることが、不変の民意であることが判明しました(資料―1)

 

l  「府中市健康地域づくり審議会(審議会)」と「独立行政法人府中市病院機構(独法)」の解消、『市立病院運営協議会』の設置に関する分析

 府中市と審議会によって策定、実行されている「府中市地域医療再生計画」によりJA府中総合病院と府中北市民病院が経営統合・独法化されて7年目になりますが、計画はうまくいっていません。しかしアンケート結果ではその事実を知らない人が128人回答中27名(22.3%)存在し、府中市民病院の常勤外科医師が3名からゼロになったことも130人回答中38名(30%)が知らないと回答しています。府中市は当計画に既に80億円もの巨費(税金)を投入し、市の財政を圧迫していることからも、早急に府中市民全体にこの事実を周知して、議論を開始しなければなりません。

 そして審議会と独法を解消して市民参加の府中市独自の『市立病院運営協議会』の設置に関するアンケート結果は、124名が回答され賛成が82名(66.1%)、分からないが36名(29%)、反対が6名(4.8%)でした(資料―2)。府中市の回答者は83名でした。審議会と独法は度重なる地域住民の協議を求める要望に全く応じてこなかったことからも一刻も早く市民参加の府中市独自の『市立病院運営協議会』の設置が望まれます。

 

l  「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」にする計画に関しての分析

今回の討論会において議員間で意見の分かれた府中北市民病院の4階を「サ高住」に改造する計画に関しては、先の地域医療広報誌で述べたように多くの市民と地域住民が「サ高住」に関して十分理解していないことがアンケート結果からも伺えました。すなわち資料―3のごとく、「サ高住」のアンケートに関する回答率だけが40.8%と極端に低く情報不足で回答することが困難な状況にあったことが推測されます。さらに回答者の住所は、府中市が13名、三次市17名、神石高原町13名、世羅町4名、福山市1名、不明5名と、本家本元である府中市の回答者が少なかったことからも推測されます。

53名が回答され「サ高住」改造に反対が33名(62.3%)、分からないが14名(26.4%)、賛成が6名(11.3%)でした(資料ー4)。「サ高住」計画が議会で議決されているとはいえ、今後「サ高住」に関する情報の周知と十分な議論が必要であることがアンケート結果からも判明しました。

 

l  二つの病院を守るために住民がすべきことと、府中市への運動の拡大方法。その他。

 ・市会議員全員が命の大切さを理解する。 ・現状をよく知り住民の意見を市へ訴え、話をしていく。 ・行政の町民への説明会が必要。 ・病院職員の本心を聞きたい。 ・住民運動、毎年の署名、賛同議員を増やす。 ・人口減で病院の規模を維持する方法は? ・情報提供が必要。 ・若い人を含めた活動が重要。 ・諦めずコツコツやっていく。 ・若人が定住できる仕事場が必要。 ・自分ができる参加や協力を続ける。 ・地域の安心安全を守るため、地域の結束と心を一つにして利用の呼びかけをする。 ・度々の会合必要。 ・無関心すぎる。 ・地域住民の協力あるのみ。 ・3人の議員さんがまとまって市議会に訴え意見を述べて、議題にあげて病院を存続する。 ・現状を知って学習する。 ・討論会に市長招待。 ・市民から市長に聞く会開催。 ・県と市と市民が協力して病院をつくり直す。 ・住民自治力の強化。 ・継続的なPR活動。 ・子供たちや、学校、親に向けた説明も必要。 ・各議員や各町内会長・区長と真実を話し合う。 ・市長、議会議員を含めた公開討論会。 ・参加者による地域医療を守る会への参加の呼びかけ。 ・在宅医療を理解し、在宅医療のサービスの利用をすることで、地域包括ケアを完成させる。 ・医師の確保に行政が働きかける。医師の賃金アップ。 ・地域住民の声をあげるパイプが必要。 ・質が大切、魅力ある北市民病院必須 ・病院の現状を市民に周知徹底し、このままでは現実に病院がなくなることを認識し、現実として受け止めるよう根気よく知らせる。 ・改めて政治に関心を持つ、議員等選ぶ基本的な考えを確立する、おかしいことはおかしいと自分の考え、意思表示ができることが大切。 ・住民自治組織を健全化する、会議の回数を増やして話し合う。 ・他に流れる患者の足止めには優秀な医師が必要。・元伊藤市長が北市民病院にしてきたことを、何度も確認しておくことが大事。 ・広報誌で旧府中市へアピールする必要がある。 ・停滞している流れを変えるには、どこからでもいいから取り掛かること、取り巻くものすべて連携が必要。 ・住民が利用しやすい病院になる。 ・医師、看護師不足をどうやって解消し、急性期の病院にしたいのか。 ・自分のこととして知恵を出し合って取り組む。 ・今後ますます高齢化が進み医療介護への依存度が高まるので、集会を通じて市へ発信する。 ・産婦人科と小児科が必要。 ・3名の外科医の退職をどう総括しているのか独法に原因を正す。 ・協議に応じない独法の解消必要。 ・府中市独自の『市立病院運営協議会』を一刻も早く市民と一緒に立ちあげる。 ・旧府中市との合同学習会,講演会、シンポジウム、討論会の開催。 ・サ高住可否、独法解消の署名活動。 ・旧府中市への広報誌新聞折り込み。 ・地域住民の聞き取りやアンケート調査。 ・外科医師退職で流れる患者が行く病院が困ってないか調査、総合診療医の確保。 ・有床診療所で対応できないか。 ・上下町の地域ごとの会合、各町内会長の学習必要。 ・市の行政は町民に関心を持たさないように思える。 ・病院問題で市の議員に党派いらない。 ・今後医療、介護、介護予防、在宅医療を考える場合、核となる病院が必要。 ・国会議員に聞いてほしい。 ・サ高住を病院内に作ることは反対、介護医療院が良い。 ・住民代表の頼もしい議員さんたちの発言に元気が出た。議員さんの話が聞けて今日は帰る足どりが軽い。 


地域医療を守る第9回公開討論会(平成30年12月9日)

  地域医療を守る第9回討論会

 

 地域医療を守る討論会を平成30129日上下町民会館にて『地域医療の未来をみんなで考えてみましょう~議員が語る府中北市民病院~』というタイトルで開催しました。今回は、上下町の府中市議会議員3名、甲奴町三次市会議員1名、神石地区神石高原町議会議員1名全員が発表されるということで200名を超える多くの参加者がありました。また今回は初参加の方も少なくありませんでした。そこでは党派の異なる議員間でレベルの高い討論がなされましたが、府中市の地域医療を守るためには、府中市民病院と府中北市民病院の存続が不可欠で、特に府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期医療を担う手術の出来る病院として維持する必要がある事が全議員の一致した見解でした。

l  市長と議会の力で「府中市地域医療再生計画」の改善を!

 府中市地域医療再生計画は7年目に入っても上手くいっていません。そこで市民との協議に応じようとしない地方独立行政法人府中市病院機構(以下「独法」)に対しては、平成304月から「地方独立行政法人法」が改正され市長の権限が強化され、「独法」の各事業年度の評価を市長が行えるようになったことと、業務運営の改善、その他必要な措置を命ずることが出来るようになったので、市長及び議会に改善を求める働きかけを促すことに意見の一致を見ました。

l  住民には「サ高住」に関してのさらなる説明、協議が必要

 改善すべき多くの問題を残したまま「独法」が進めている北市民の4階を12千万円もかけて改造する新事業に関しては、議員からも賛否両論の意見が出ましたが、多くの市民が「サ高住」に関して十分理解しておらず、今後情報の周知とさらなる協議が必要であることが判明しました。

 

『府中北市民病院の実情と論点について(要旨)』実行委員長

平成192月に府中市と「府中市健康地域づくり審議会」が策定実行した「府中北市民病院健全化計画」どおりに縮小・リストラ計画が断行され11年以上たった今も4階を「サ高住」に改造という形で進行中です。これは平成219月先の審議会の事実と異なる答申に基づいた「府中市地域医療再生計画」に引き継がれています。この計画は陽正会寺岡記念病院、JA府中総合病院、府中北市民病院が所在する広範な地域を同じ地域・診療圏域とみなす無理な計画です。そしてその中で北市民の役割は「高齢者慢性期医療」に特化し、日常的な診療、健診、入院で救急、手術なしというものでした。当計画の大義名分は、2病院を残すため医師不足と赤字の解消でした。しかし平成30年度には16名いた常勤医師が10名に激減し、外科の常勤医師がゼロになっています。今までJA病院の建て替え工事に52億円、独法への毎年平均44千万円繰入80億円以上の巨費が投入されていますが、さらなる赤字が予想されます。

 このような状況下で「サ高住」改造計画が進行中です。手術をする病院の中に隔離されていない状況で一般住宅が同居すると衛生環境が悪化するため手術後感染、院内感染が発生すると医療事故になる危険性が高まります。また今年度に大きな赤字が予想される中、既存の4階の病棟を壊して12千万円以上かけて改造することは大きな問題です。

 赤字と医師不足を理由にサテライトの北市民から整理されるので、4階の「サ高住」と合わせて「慢性期高齢者医療」に特化する当初の方針どおりいわゆる『老人病院』になる危険性が高くなります。命を守る病院がない地域はU、Iターンの芽が摘まれ、地域の衰退が急速に加速する危険性が高まります。

 

各議員の口演内容(発表順、要旨)

l  岡田隆行 府中市議会議員

府中市の2病院を維持することなくして府中市の地域医療は守れない。病院縮小の背景には、国の国民総医療費抑制政策がある事を理解してこの転換を求めることも必要である。国の「地域医療構想」もその一環で、2025年までに全国で16万床削減、福山・府中二次医療圏でも74床の削減が予定されている。

 医師不足に関しては平成27年度から始まった府中市独自の補助金、奨学金制度があるが、医学部は6年間なので少し時間がかかる。

 北市民を中心とした住民の命と暮らしをトータルに守る地域包括ケアシステムの構築の中で、住民世論の形成、協同の輪を広げ「住んでよい、住みたい」まちづくりを進めることで地域の医療環境に明るい未来がみえてくる。

l  水田豊 府中市議会議員

 過去に「地域医療を守る会」への元伊藤市長の露骨な弾圧と排除があった。議会の多数派工作をしたが、市議会議員は市長ではなく市民に責任を負っており、国会とは根本的に役割が違うはずである。

 独法化は赤字の改善、医師招聘に役に立っていないことから病院の苦労を共有するためにも情報開示、説明会、協議会が必要である。

 この問題を解決するには、①議会での特別委員会設置と、②地域での病院協議会の設置が必要である。

l  安友正章 府中市議会議員

 人口減少時代に入り医療経営は、従来型の入院、外来収益だけでなく、地域包括ケアシステムの構築を目指した介護、介護予防、在宅医療にも行政と連携して取り組む必要がある。またその場合「地域医療連携推進法人」のような合併も選択肢に入れる必要がある。

 府中市が安心に暮らせるまちづくりは、行政の力と地域単位(住民)の連携を進めて、自立した日常生活の支援を包括的に確保すること、その場合、市の財政と病院経営がバランスがとれている必要がある。議員として議会の中でもそのチェック機能がきちんと果たせるように今後はしなければならない。

l  山村恵美子 三次市議会議員

 西日本豪雨災害のとき甲奴町で避難者の体調が悪くなったので、三次中央病院へお願いしたら豪雨災害で道路が寸断されて三次中央病院に搬送できないため、北市民に頼んで救急車を受け入れて頂いた。こういった災害時を含め、急な病気や怪我になったとき身近な北市民は甲奴町民にとっても必要不可欠である。

 北市民を守るためには住民は地域で声を上げ続けることが必要である。議員は市民の後押しの元手助けができる。

 「地域医療構想」は、病床削減ありきではなく、厚労省は全国平等な医療提供体制を構築することを理念に掲げ策定している。自治体としては病床削減ありきを覆すことが出来る。三次市では、現在縮小しない方針で進んでいます。

 問題を置き去りにして前に進んではいけない。「サ高住」に関しては、利用者に月約20万円の負担がかかるので誰でも入所できるわけではない。公共の病院の場合は、介護保険対応の「介護医療院」の方が良い。

l  横尾正文 神石高原町議会議員

 救急医療は30分圏域が重要です。神石高原町の病人が北市民への救急搬送を断られたので世羅中央病院へ搬送されたが、救急車で1時間以上もかかり命に係わる。

 神石高原町立病院は、平成3360床にリニューワルされます。地域の実情に合った病院にするためには、住民を含めた議論が必要ですが、北市民の機能回復も必要です。

 神石高原町立病院は、陽正会寺岡記念病院の指定管理下におかれていますが、指定管理に関する「基本協定書」の内容が指定管理者に有利になるよう住民にも議会にも説明なく変更されており、町は税金を歯止めなく指定管理者に有利に投入される可能性があります。

 議員は見識を高めしっかり議案や法案の中身を勉強してチェック機能を働かせる必要があります。そして住民も投票に必ず参加して政治に関心を持ち続けることが必要です。

 

公開討論(匿名、順不同)

(1) 独法、審議会の問題(対策、「サ高住」について)

 ・地方独立行政法人法が改正されたので市長に独法の改善を命じさせる

 ・独法の経営責任は問われるべきで、市の財政と病院経営は切り離して考え、病院の経営管理が大切である

 ・議会で「特別委員会」の設置と地域での「病院協議会」の設置が必要である

 ・住民の声が通る住民が主体の住民自治が必要である(交付金、補助金のある自治)

 ・「サ高住」建設については、府中市地域医療再生計画そのものが上手くいっていないにもかかわらず、12千万円もかけて築19年の病院の4階を改造する問題と、隔離せず病院に同居するため院内感染、医療事故発生の危険性がある。しかし市と独法は住民との十分な協議をすることなくいつものように計画ありきで進めている。

 ・サ高住改造計画は、県も市も認可したので問題はない。収益も上がるので赤字対策としても良い。

 ・数年前に比婆西城の国保病院で同じ「サ高住」計画が提案されたが、県は認可しなかった事実がある。収益的には一般のアパートなので元の療養病床に比べると1桁少ない数百万円のため病院の赤字解消にはほとんど役に立ちません。 

 ・サ高住の代替案は、今年の4月から始まった「介護医療院」がよい。病床は府中市民病院から1518床移動すれば可能である。介護保険対応なので年金生活者も入院が出来、重度の要介護者も対応できるので当該地域に実情に合致している。

 

(2) 病院を守るために住民は何をすべきか、住民運動の拡大と世論の喚起

 ・地域住民は病院職員と協同して病院を守る

 ・府中市民病院を守る運動にも力を入れる

 ・病院の仲間、地域包括ケアの仲間の工夫や努力をあたたかく応援できる住民世 論の形成。

 ・協同の輪を広げ「住んでよい、住んでみたい」まちづくりを進める。

 ・病院の運営をいわゆる入院、外来の医療だけではなく、地域住民と連携して介護、介護予防、住まいなどにも力を入れて「地域包括ケアシステム」を構築する。

 ・病院運営に関する「住民協議会」を起ち上げるべきだが、その場合年に12回の開催では効果はなく、毎月1~2回の開催が必要である。

 ・地域の声を一つにする。個人から組織へ。

 ・コンパクトシティー化は反対する自治体が多いため最近は『小さな拠点づくり』に移行してきている

 ・病院と学校は定住を増やす手段としては有効である

 ・安心して暮らせるまちづくりには、行政の力と地域単位の連携が重要で、自立した日常生活の支援を包括的に確保することが必要。

 ・政治には無関心であっても政治に無関係ではいられない。おかしいことはおかしいと思って声をあげていくことと、選挙では必ず投票することが大切。

 

(3) 議員の使命

 ・「サ高住」改造計画は6月議会で承認されている。病院職員も手術後感染、院内感染に関して安全が担保されているとしている。

 ・「サ高住」が議会で十分に協議されていない。その理由は、国会でも地方議会でも議案や法案を出すとき、執行者側にとって都合の悪いものは出来るだけ審議時間をとらないようにして国会や議会を通過する傾向がある。今回の件でも「サ高住」改修費の12千万円を独法への補助金の約3億円の中に入れて議案として提出し、特に説明もせず議会で議決がなされている。こういった議会のありようを改めていかなければならない。

 ・議会で「特別委員会」を作ることに関しては、議会で多数決承認される必要がある。みんなの力添えが必要である。そして地域医療の問題は府中市全体の問題である。

 ・地方議会では与党、野党はなく、2元代表制なので市会議員は市長ではなく市民に責任を負っていることを踏まえて活動しなければならない。

 ・議会では市の財政と病院の経営がバランスがとれているかチェック機能を働かさなければならない。

 ・府中市の住民自治が、国の言いなりにならないように真の住民自治になるよう議会が働いていかなければならない

 ・神石高原町立病院は、陽正会寺岡記念病院が平成21年から指定管理者になって公設民営で運営されているが、運営資金に関する「基本協定書」の内容が議員や住民が知らない間に変更され、町の繰り出しが「交付税の範囲」から「予算の範囲」に変更になり大きくなる可能性がある。これでは利益を得るのは、町立病院を運営している指定管理者だけで、町は税金を歯止めなく投入することになる可能性があり、このことは府中市における「独法」についても同じことが言える。議会は本来の使命である行政のチェック機能をはたして行かなければならないが、上記のような深刻な問題が存在しているので、住民、市民、国民が議員を選ぶので、選挙の際に必ず投票するということが一つの解決策になる。

 ・「サ高住」問題に府中市及び市議会の態度が如実に表れている。市が市民に対して真摯に向かうなら、議会でもっと詳しい説明が必要である。市民や議員に対して見えない部分をつくる行政に説明責任が有る。

 ・行政の判断が地域のために本当に正しいのか、地域を疲弊させてしまうのか、市民と議会が正しい目を持って、そして正していくことが必要である。

 ・議員が住民の声を正確に伝えて、しっかり討論して行政との橋渡しが必要である。


●第9回公開討論会の御案内(平成30年11月4日)

地域医療を守る第9回討論会の御案内
『地域医療の未来をみんなで考えてみましょう-議員が語る府中北市民病院』
l 平成30129日(日)午後130分~330分、上下町民会館2階大研修室

 

 府中北市民病院の4階が「サービス付き高齢者向け住宅」に大改造されると病院の中に一般住宅が同居する建物になります。そうなると旧甲奴郡、神石郡の中核病院としての機能もイメージも決定的に大幅ダウンします。そして院内の衛生環境悪化のため手術後感染や院内感染が発生すると医療事故になるため病院の存続が危うくなります。 

府中北市民病院(旧国保上下病院)は昭和18年に地域住民の積年の悲願がやっとかなって、旧甲奴郡に初めて入院施設が出来、それから平成164月に府中市と合併するまでの70年間多くの先人達の血のにじむような汗と涙の努力で、地域住民の『命を守る』一般急性期医療を担う中核病院としての確固たる地位を築き上げてきました。ところが合併後に発覚した府中北市民病院の29300万円の特別損失を理由に、平成192月に府中市と「府中市健康地域づくり審議会」が策定公表した「府中北市民病院健全化計画」どおりに縮小・リストラが断行され、11年たった今も進行中です。これは平成219月、先の審議会の事実と異なる答申に基づいた「府中市地域医療再生計画」に受け継がれ継続中です。この計画は寺岡記念病院、JA府中総合病院、府中北市民病院が所在する広域な地域を同じ地域・診療圏域とみなす無理な計画です。そしてその中で府中北市民病院の役割は、日常的な診療、健診、入院で、救急、手術なしという中山間医療不足地域の実情に全く合わないものでした。当計画の大義名分は、医師不足と赤字の解消です。しかし平成30年度は平成24年に統合・独法化されてから7年目ですが、16名いた常勤医師は、10名に激減しています。そして平成303月から10月末にかけて府中市民病院の常勤外科医師3名が相次いで退職したため0名になり、4月からは手術が出来ない深刻な状態に陥っています。赤字の解消に関しては、府中市民病院の新築費用が55億円、独法への繰り入れが年平均44千万円で約30億円かかっています。今年度以降は外科医師の補充による外科手術が再開されないと大きな赤字決算が予想され2病院の存続が危ぶまれます。

地域住民は、独法に説明と協議を求める活動を継続していますが、独法も、それを策定した「府中市健康地域づくり審議会」も計画ありきで地域住民と全く協議をしようとせず、府中市長ですら独法を指導出来ない状態です。平成233月に独法化を承認議決した議会も独法の規約で議会の関与が制約されており、独法はまさに『独裁的な組織』といえます。そこで今回の『命を守る』一般急性期医療を担う府中北市民病院を維持するための公開討論会では、診療圏域である上下町の3名の府中市議会議員、甲奴町の三次市議会議員そして神石高原町の町議会議員に各自の忌憚のない考えを講演して頂き、参加者を交えた公開討論をすることにしました。公開討論の主な論点は、①独法、審議会の問題、②病院を守るために住民は何をすべきか、③住民運動の拡大と世論の喚起、④議員の使命、⑤『人口が減るから整理統廃合』論と地域再生です。皆様、みんなで病院を守りましょう! 


●ミニ逆手塾 in 上下 講演原稿(平成30年10月5日)

『病院と地域は運命共同』田園回帰を促して故郷再生

        黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚

l  はじめに

 私は上下高校を卒業し、昭和57年に医師になって最初の12年間は、主として医学の仕事に従事しました。その後平成6年から比婆郡の西城町立病院に初代整形外科部長として赴任して以来、山県郡の加計町国保病院、世羅郡の公立世羅中央病院、甲奴郡の国保上下病院、そして平成21年に上下町で開業し、約25年間中山間医療不足地域医療に従事しています。そして高齢者が多く広域な医療過疎地域には、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、熱中症等の普通の病気や怪我で入院治療が出来る自治体病院(公立病院)が一つは必要であることを身に染みて感じています。何故ならば人的過疎、交通過疎、降雪地域のため、急には都市部の病院には行くことが出来ないため高齢者のみならず若い世代も安心安全に生活が出来ないからです。

l  自治体病院(国保病院)

 自治体病院は、戦後の昭和20年代後半から30年代にかけて「人の命は絶対平等」という社会保障の観点から全国に設立されましたが、特に国民健康保険病院(国保病院)は無医地区の医療を担うために多くは田舎に設立されました。住み慣れた地域に病院が出来たことにより多くの地域住民の命と健康が守られました。すなわち救急医療は30分が命の分かれ目(カーラーの生命曲線)になるので、地域医療の大原則は30分以内に行ける身近な地域に急性期の医療が担保されている事です。自治体病院に加えて平和憲法第9条と昭和36年に国民皆保険制度が確立したおかげで、日本人の平均寿命は世界のトップレベルを長年維持出来ているのです。

l  府中北市民病院の縮小・リストラ

 府中北市民病院は、北海道についで2番目に無医地区の多い広島県の中で実に79.6%の無医地区が集中した旧甲奴郡、神石郡を診療圏とする超医療不足地域唯一の病院で、なくてはならない病院です。しかし上下町が府中市と合併した平成16年の翌年に発覚した293百万円の特別損失を機に、平成1929日「府中市健康地域づくり審議会(寺岡暉会長)」で承認され公表された「健全化計画」によって縮小・リストラされ、高齢者医療へ方針転換されました。さらに府中市は公立病院改革ガイドラインを利用して寺岡記念病院(寺岡暉理事長)を推進役として参画するJA府中総合病院と府中北市民病院を再編統合し独法化する「病院共同体構想」である「府中地域医療提供体制(中間報告)」を発表しました。その中では府中北市民病院の役割は、日常的な診療と健診で救急、手術なしとされていました。それでは安心安全に生活が出来なくなるため、身の危険を感じた地域住民は、病院を守り、故郷を守るための住民運動を平成2012月から開始しました。平成23127日には16785人の署名を府中市へ陳情しました。

l  地方独立行政法人府中市病院機構の問題点

 しかし計画は粛々と実行に移され、平成24年の独法化の前には110床で常勤医師7名でしたが現在は603名に縮小・リストラされたため赤字も増大しました。当計画の大義名分であった医師不足と赤字の解消は全く達成できていないばかりか、救急入院が出来ない、外科手術が出来ない、早期の退院を迫られるなどの多くの医療難民も発生しました。現在独法化されて7年目ですが、府中市民病院(JA府中総合病院)の建て替え総事業費が55億円、市の独法への繰り入れが毎年約45千万円ですが独立採算は非常に困難な状況です。先の審議会が策定した計画によってできた2病院を運営する独立行政法人府中市病院機構は、地域住民の再三にわたる協議を求める要望には全く耳を貸さず、市長も指導が出来ず、地方独立行政法人法により議会の関与も難しい独裁的な組織といえます。

l  「人口が減るから統廃合」論の間違い

 平成265月に日本創成会議が、2040年には自治体の50%の若年女性が半減し消滅するという「自治体消滅」論を発表しました。その論理に基づいて病院や学校を整理統廃合し、選択と集中、コンパクトシティーといった周辺地域を切り捨てて、広域施策を推進する「人口が減るから統廃合」論が、あらゆる分野から声高に叫ばれています。しかし平成21311日の東日本大震災以来、若者の地方回帰が加速され『田園回帰』と称されています。これは新自由主義による経済成長戦略、グローバリズムによる都市・「使い捨て社会」に対する若者の代替の提示です。都市部の生活に希望が持てなくなっているのです。田舎の豊かな自然環境、食文化と伝統文化・産業の継承による生活の質向上に関心が高まって農林漁業への就職や田舎での起業が加速しているのです。しかしそういった田舎に病院と学校がなくなれば、若者は帰りにくくなります。平成28620日の日経新聞に「夕張市、破綻から10年、街に廃墟、子育て世代半減、生活環境劣化、流出に拍車」というショッキングな見出しで、夕張市の悲惨な現状が報道されました。夕張市が財政再建団体入りを表明してから10年以上経ちますが、当時は夕張市立総合病院(171床)が急性期病院として存在していました。しかし平成19年、市の財政難を理由に医療法人財団夕張の杜(村上智彦理事長)を指定管理者として、病気と闘う医療から支える医療に180度転換し、予防医療と在宅医療に特化した夕張医療センター(19床診療所と40床介護老人保健施設)に変更しました。当時、地域医療を再生させた先進事例として全国に紹介注目されました。しかし今回の新聞記事で、「11校あった小中学校は1校ずつに統合し、総合病院はない。水道料金も全国有数の高さだ。バスの便も減り、移動は自家用車がなければ難しい。隣町なら学校、病院、買い物などすべてが便利。だからみんな流出する。夕張にはシチズンのほか、ツムラやマルハニチロなどの拠点もあるが、生活環境の貧弱さから、若い世代は住むことを拒んでいる。」と働く場所はあっても、病院、学校などの社会的共通資本が不十分になると地域の再生・創成はあり得ないことが証明されました。当初353億円の赤字が報道時でも250億円を超す負債が残り、人口もこの8年間で若者を中心に約3000人減少しました。

l  病院と地域は運命共同体

 一方、病院の再生は地域の再生に直結する、「病院と地域は運命共同体」ということを、平成27年府中北市民病院第6回地域医療を守る会講演討論会で基調講演を依頼した島根県公立邑智病院参与の石原晋先生は強調されました。夕張市と同じ平成19年、深刻な医師不足と赤字で崩壊寸前の中山間地域邑南町の公立邑智病院を、石橋良治町長と共に故郷再生を目的に安心して一生涯生活できる病院を核としたまちづくりに取り組み、公設公営の自治体病院のまま病院規模を縮小することなく平成23年度には黒字化を達成し、医師も全国から集まり、産婦人科、小児科の常勤医師を含め10名になり地域医療再生は成功しました。地域再生の戦略は病院を核とした農林水畜産業への選択と集中で、日本一の子育て村構想、半農半エックス(A級グルメ、働くシェフ、石見和牛)など次々に展開し、平成24年度の合計特殊出生率が2.65と全国トップレベルになり、子育て世代のU,Iターンが年々増加し、転入者が転出者を上回る人口の社会増を平成26年度に達成しました。4年間連続で人口の社会増を達成し、NHKをはじめ多くのマスメディアが報道し、全国の自治体からも注目を浴びています。

l  府中北市民病院を機能回復維持して田園回帰のまちづくりを!

 そこで平成291210日『府中北市民病院を機能回復維持して田園回帰のまちづくりを!』と題して第8回地域医療を守る会講演会を上下町で開催しました。益田市の持続可能な地域社会研究所所長の藤山浩先生を招いて公開討論をしました。そこで藤山先生は周辺の田舎ほど地域力、住民力によって若い女性が増えて人口が増えている事実を公表されました。そして上下町はこのまま何もしないでいると、現在4788人の人口が2060年には1073人に、小中学生は335人から52人(15.5%)まで減少するが、出生率を2.09に増やして若者の流出率を20%に抑制し、定住者を毎年人口の1.2%を取り戻せば、2060年の人口は4629人、高齢化率24.2%、小中学生は528人(158%)に増加することを発表されました。田舎の仕事に関しては所得の1%取り戻し戦略で「域内経済循環」の確立を提唱され、地産地消で域外への出費を極力抑えることによって域内需要の増大が達成できるだけでなく、例えばパンなども地元での販売だけでなく、小麦栽培も製造も地元で行うことで地元の仕事が増え、雇用を増やすことが出来る具体的な方法を説明されました。

 医療、介護の雇用誘発係数、経済波及効果は今後20年間で着実に雇用の増加が見込まれており、経済波及効果も全産業を上回ります。独法化前の府中北市民病院は、市の直営自治体病院だったので、公務員の給与体系のため地元の若い看護師が都会の病院勤務を思いとどまり地元に就職し、地元で結婚し家庭を築いて人口減少対策としても大きな効果をあげてきました。そこでこれからも地域の住民のみなさんといっしょになって府中北市民病院を府中市の直営自治体病院に戻し、まちづくりの核となる運動を継続して、当該地域で安心安全に生活が出来るようにして若者の田園回帰を促し、人と仕事を取り戻す域内経済循環も達成できるよう活動を継続して頑張ります。

    


●広島県医師会速報(第2384号) 会員の声(平成30年9月25日)

「府中市地域医療再生計画」の最終章『命を終える病院』へ-府中北市民病院4階がサービス付き高齢者向け住宅(『サ高住』)になる!

         黒木整形外科リハビリテーションクリニック  黒木 秀尚

 

 府中北市民病院は、平成219月の「府中市健康地域づくり審議会」の答申に基づいて、16,785名の地域住民の署名を無視して縮小・リストラされ、JA府中総合病院(現、府中市民病院)に再編統合されました。その計画の骨子は平成192月に「審議会」で最終決定された「府中北市民病院健全化計画」で、既に公表されていました。その中に4階の療養病床を廃止して老人保健施設に転換することが明記されていました。 

 平成244月地方独立行政法人府中市病院機構が発足しましたが、当初から予想されていたように府中北市民病院の医療難民が発生し『つくられた職員不足』『つくられた赤字』も増大しました。平成267月には地域住民に何の説明もないまま、4階の療養病床35床を廃止しました。旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の病院のため、在宅に向けての療養が出来なくなり、多くの深刻な弊害が発生しました。事前にそれらのことが予測されていたため、情報を入手した6月から急遽草の根で、療養病床廃止撤回と将来の4階改造工事の禁止を求めた4,907名の署名を提出しましたが、再び無視されました。7年目の現在も医師不足と赤字解消は全く解決されていません。

 平成2911月に病院の4階を『サ高住』にする議案が提出されました。そこで12月議会の前に府中市長に「サ高住」反対の抗議要望書を提出しましたが、何の説明もないまま12月と平成303月議会で関連議案が議決され、平成30年夏に工事着工、平成314月オープンということが発表されました。府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡で唯一整形外科の専門的な手術が出来る病院です。今までに多くの骨折手術、関節手術、各種人工関節、腰椎手術等を行ってきました。そして厳密な周術期感染対策管理下に重大な術後感染もありませんでした。平成12年から日本整形外科学会専門医研修施設に認定され、さらに平成16年と21年には日本医療機能評価機構にも2回認定されています。

 しかし、4階に「サ高住」が、玄関、エレベーター、廊下、その他共有スペースが病院と共同で併設されると、接触感染による周術期感染、日和見感染の危険性が非常に増大します。医学的にそのような病院で開放創以外の無菌野の手術、特に人工関節の手術は医療安全の観点から実施すべきではありません。そうなると開業医も紹介が出来なくなり、手術を希望する患者さんも激減します。さらに整形外科専門医研修施設の維持も困難になります。府中市と病院機構は、厚労省と広島県に確認して「サ高住」併設で慢性期の病院にはならないと断言していますが、病院収益も激減し、一般急性期医療を担う病院ではなくなる危険性が非常に大きくなります。診療所になる可能性も高くなります。地域住民が住み慣れた地域で一生涯安心安全に生活が出来るための「地域包括ケアシステム」は、当該地域に『命を守る病院』一般急性期医療が担保されていなければ画餅に帰します。『命を終える病院』になると、若い世代は安心安全に住めないため地域に帰ってこなくなり、故郷が衰退し、地域再生・地方創成も不可能になります。どうか広島県医師会員の皆様、中山間地域医療崩壊をきたすこの無謀な「府中市地域医療再生計画」の最終章である北市民病院の4階を単なる住宅である「サ高住」にするという計画を、医療安全の観点からも即刻中止させてください。この地域住民の悲痛な声に耳を傾けて下さい。ご高配とご厚情のほど宜しくお願い申し上げます。


地域住民の『命が守れる』府中北市民病院を残そう!

「サ高住」への改造を黙認したら慢性期病院か診療所になる!

l  府中市健康地域づくり審議会(寺岡暉会長)が策定した縮小・リストラ計画

 平成192月府中市は、審議会が策定した府中北市民病院の健全化計画を発表しました。そこには病院を縮小・リストラして高齢者医療への転換が示されていました。そこで地域住民は、平成2012月から慢性期病院や診療所ではなく急性期医療も担う『命が守れる病院』の存続を求める運動を開始し、審議会の事実と異なる答申に基づいた「府中市地域医療再生計画」に対して平成231月には16,785名以上もの署名を府中市と広島県へ陳情しました。

 

l  7年経っても地方独立行政法人府中市病院機構は目的を達成出来ていない!

 当計画の大義名分は、2病院の医師不足と赤字の解消でしたが、平成244月の独法発足時16名いた常勤医師は、現在13名に減少しています。さらに府中市民病院の外科医師が1名になり手術が出来なくなる可能性も出てきています。

 市は独法に毎年平均約45千万円も繰り入れており7年目の現在までに約30億円を使っていますが、独立採算は到底見込めない状態で、独法の行く末が危ぶまれます。すなわち当計画は全く府中市のためになっていないのです。

 

l  説明と協議がないまま「サ高住」改造を黙認したら、慢性期病院か診療所になる!

 そんな独法が今度は北市民病院の4階を平成267月と8月の療養病棟廃止撤回の計4907名の署名(資料)を無視して、自らが遊休施設にしておきながら築19年しか経っていない上下町が20余億かけて新築した病院の元4階療養病棟を、13千万円もかけて壊し、病院でも介護施設でもない単なる高齢者向け住宅にしようとしています。

さらに今回も住民にはきちんとした説明も協議もなく拙速に強行していますが、国の方針で「サ高住」を併設した医療機関は、慢性期病院か診療所と決められているのです。これでは肺炎、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症といった普通の病気や怪我ですぐに入院治療の出来る『命が守れる病院』では永久になくなるのです。

 

l  4階は「介護医療院」がよい

 それに対して「介護医療院」は、「サ高住」のような軽度の要介護高齢者向けの住宅ではなく、元の療養病棟と同じく、重度の要介護者が対象です。そして介護保険が使えるので入院費も安く、看護師と介護職員が常勤するので急変時や看取り等も安心して入院が出来ます。そして病院収益の面でも大変有利です。

すなわち他に入院施設が全くない当該中山間医療不足地域の実情に合致しているのです。「サ高住」のように慢性期病院になる必要もないので『命が守れる病院』のまま併設が可能です。さらに改修工事が不要なので、13千万円の財源を看護師不足対策に活用出来るのです。

 

l  今まさに地域住民が覚悟を決める時が来た!

 議決された今「サ高住」の中止を決定できるのは、小野府中市長しかいません。今まさに地域住民は府中北市民病院を『命が守れる病院』として残す覚悟をする必要があるのです。住民の世論で小野市長を動かして「サ高住」を中止させ4階を介護医療院にしましょう。そして府中市にとっても良くない独法を解消して市の直営病院に戻しましょう。そうなると平成29年度から中山間地域の医師不足の病院へ派遣が始まっている「広大ふるさと枠」の常勤医師も派遣され、医師不足も解消されるのです。

 

資料  病院縮小と療養病棟廃止撤回署名(平成2673日、821日)

 

      ・療養病棟廃止の中止と病院事業計画の説明と協議、そして

療養病棟廃止のための病院改修工事計画の中止を4,907名が要望

 


●小野申人府中新市長への要望書(平成30年5月31日)

                              平成30531

府中市

市長 小野 申人 様

地方独立行政法人府中市病院機構

理事長 多田 敦彦 様

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

                  要望書

 

 府中北市民病院は、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の救急中核病院として、昭和18年から長年にわたって多くの地域住民の命と健康と生活を支えてきました。しかし平成192月、府中市は府中北市民病院の健全化計画と称して、縮小・リストラ計画を公表しました(資料ー1)。それで地域住民は、説明、協議と病院の現状維持を求め、平成2012月から住民運動を開始しました。

 しかし府中市は、平成219月の「府中市健康地域づくり審議会」の事実と異なる答申に基づいた「府中地域医療提供体制(中間報告)」を発表しました。その計画に対して府中市は、平成221月に上下町で説明会を、そして10月から「地域医療再生協議会」を開催しましたが、住民部会上下地区で決まった「①地域住民の合意が得られるまで計画延期、②府中北市民病院の現状維持、③独立行政法人化反対」という住民部会の総意を全く協議することなく「府中市地域医療再生計画」が承認されました。それに対して平成224月「住民部会上下地区」から府中市へ抗議書を提出していますが(資料ー2)、何の回答もないまま粛々と計画が進められるので、平成23年1月27日に1万6785筆の署名を集め陳情しました(資料ー3)。しかし平成244月に地方独立行政法人府中市病院機構が発足し、府中北市民病院は縮小され、外科が府中市民病院へ異動しました。当計画の大義名分は、医師不足と赤字を解消して2病院を残すためでしたが、解消されていません(資料4,5)。  

 府中北市民病院の4階は、長期療養のための医療を受けることが出来る医療療養病床が35床ありました。3階の一般病床で病気や怪我の急性期の治療を受けた患者さんが、自宅や介護施設に帰るまでの慢性期の医療と療養をする病棟でした。約3か月間入院が出来るため、他に入院施設がない旧甲奴郡、神石郡の地域住民と開業医にとっては必須の病棟でした。しかし府中市は平成267月に平成192月に公表した府中北市民病院を縮小・リストラする計画通り療養病床は廃止しました。そのため多くの入院患者が早期退院を余儀なくされ、遠方の病院へ転院したり、入退院を繰り返したり、死亡したり等、深刻な弊害が少なくありませんでした。このような悲惨な状況が事前に予測されたため、府中北市民病院診療圏域の地域住民は、急遽「療養病床廃止の中止を求める署名」4,907筆を草の根で集め、府中市と府中市病院機構へ北部地区老人クラブ田邊昇会長を代表として陳情しました(資料―6)。

以上のような住民の病院と療養病床回復の運動を無視して、府中市は平成2911月に4階を一般の住宅である「サ高住」にする計画を、病院を縮小・リストラした時と同様、住民への十分な説明と協議・合意がないまま議会で発表しました。「サ高住」は、病院や介護保険施設ではありません。安否確認と生活相談がついたバリヤフリー住宅で、自立あるいは軽度の要介護者が対象です。認知症や痰の吸引、褥瘡、胃瘻などの経管栄養、酸素吸入、看取りの人は入居できません。そして介護保険施設と違って介護保険の適応にならないため家賃が必要になります。

 一方国は、今後増加が見込まれる「慢性期の医療・介護ニーズ」に対応するため、平成304月から療養病床に変わる「介護医療院」を創設しました。その機能は、要介護者に対し「長期療養のための医療」と「日常生活上の介護」を、一体的に提供することです。医療が住まいと生活を下支えする新しいモデルです。すなわち介護保険上の介護保険施設(生活機能)と医療法上の医療を提供する施設(長期療養)という2つの機能を備えています。認知症高齢者が増加し、老老介護世帯、独居世帯が増加し、病院に行くことが困難な人が多い当該地域住民にとって非常に朗報です。広域で医師が非常に少ない当該地域の開業医にとっても長期入院治療が出来る介護医療院は必須です。

 資料-7に両者の比較を表にしました。まとめると「サ高住」は、単なる住居で、病院ではないので認知症や病気が重くなると退去しなければなりません。そして保険の適応がないため個人の経済的な負担が大きくなります。さらに改修工事に約1億円の巨費がかかるだけでなく、4階は二度と病院には戻れなくなります。介護医療院は、介護と医療という2つの機能を備えた病院施設で、認知症や病気や怪我の長期療養、終末期医療、看取りが必要な人が保険を使って入院できる施設です。既存の4階療養病床がそのまま使え、医師は病院兼務でよく、看護師の夜勤も不要で、介護職の資格も不要です。

 医療法の改正で平成3141日から既存病床数が、既に将来の病床数の必要量に達している場合には、申請しても都道府県知事は認可しないことが可能になります(資料―8)。そこで、下記事項を今年度中に実現されることを要望いたします。

 

                   記

 

1.府中北市民病院の4階を、「サ高住」にしようとする病院大改造計画に関する地域住民への説明と協議を早急に実現されたい

2.平成30年度中に府中北市民病院の4階を「サ高住」ではなく、地域の実情に合致している「介護医療院」にされたい

3.平成30年度中に府中北市民病院を機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、市の直営等)されたい

                                                                        以上

府中北市民病院4階サービス付き高齢者住宅改修に関する抗議・要望書

                             平成291129

府中市長 戸成 義則 様

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

 

府中北市民病院4階サービス付き高齢者住宅改修に関する抗議・要望書

 

 地域住民は、平成2012月から府中市の地域医療再生計画に対して、一貫して地域住民への説明と協議なくして、計画の実行は認められないと主張し続けています。それは地域の医療、特に普通の病気や怪我で入院治療が出来る急性期の自治体病院の存続は、当該中山間医療不足地域住民の命と健康と生活を保障する最後の砦であるからです。そして地域医療が地域の実情に合致した機能、規模、採算性を得るためには、病院、住民、行政の一致団結・協働が不可欠です。それが今まで実行されなかったために、現在のように粛々と縮小・リストラされた結果、大義名分である医師不足と赤字の解消が全く解決できていないどころか大幅に悪化したのです。そのため今後抜本的改革(診療所化や慢性期医療に特化した病院)が必要という意見が、府中市病院機構評価委員会や行政、議会からも出ている有様です。

平成267月から府中北市民病院の4階療養病床が廃止され、70床の規模の病院が60床に縮小された時に、地域住民は4,907人分の署名を草の根で集め、府中市(戸成義則市長)と府中市病院機構(多田敦彦理事長)に提出しました。その時,縮小は府中北市民病院の診療圏である旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域にとってさらなる救急難民、医療難民を生み、弊害が増大すること、経営的にも改善が見込めないこと、4階を改修する無駄な費用がかさむこと、事前に地域住民へ説明と協議の場を設けること等を強く訴えています。

今まさに同じ過ちが繰り返されようとしています。上記の理由から地域住民への説明も協議もなく、結果ありきの政策を断行しては絶対にいけません。高齢化が進んでいる当該地域では、人口が急速に減少しており、高齢者の人口も減少する時期が近づいています。4階を民間一般企業が介護ビジネスとして力を入れているサービス付き高齢者住宅にする医学的な理由と根拠、医療、介護職員不足の現状での職員確保の方法、具体的な採算性、改修費用の見積もりとその財源、そして喫緊の課題である医師・看護師の確保にどう結びつくのか、地域住民の前で説明をし、協議をしてください。以上強く抗議、要望をいたします。

 

                   記

1.府中北市民病院4階の改修工事を地域住民への説明と協議、合意無くして行わないこと。早急に機構に対して地域住民への説明と協議の指示をされたい。

2.府中北市民病院を一刻も早く急性期自治体病院として機能回復維持すること(85床、常勤医師数6名以上、一般救急入院手術、市の直営)。

                                  以上


●広島県医師会速報(第2364号) 会員の声(平成30年3月5日)


持続可能な地域社会、社会保障制度が実現するための地域医療構想と地域包括ケアシステムの構築

        黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚

 
 現在、日本は超高齢社会と少子化が急速に進行しているため、社会保障費の増大と、支える側の若い働く世代の人口減少が深刻な問題になっています。そこで持続可能な地域社会と社会保障制度の確立のため、国は「地方創成」、「地域再生」と、その相補的関係にある「医療介護総合確保推進法」を平成
26年に制定し、「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」を開始しました。広島県も平成283月に「広島県地域医療構想」を策定し、「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来る広島県の実現」という基本理念を発表しました。

ところが、平成293月、国は地域医療構想において、全国の病床数を156千床削減することを公表し、広島県は6,634床削減しますが、削減の対象は、直近6年間の病床利用率と平均在院日数を基準とし、二次医療圏ごとに協議して決定されます。府中北市民病院は、平成244月に事実と異なる答申に基づいた「府中市地域医療再生計画」の下、縮小・リストラ・独法化され、赤字が増大し病床利用率が激減しているため、さらなる縮小の危険性が現実味を帯びています。そして現在、地域住民は安心安全に生活が出来なくなっているため地域が衰退しています。同様に夕張市は、平成18年財政再建団体に陥ったため、地域を維持するために必須の病院や学校といった「社会的共通資本」までも統廃合、縮小・リストラを断行しました。その結果、10年後には安心安全に生活が出来なくなった子育て世代が周辺の自治体に転出してしまい、若者の人口が半減し、地域が消滅の危機にさらされています。

 益田市の「持続可能な地域社会総合研究所」の藤山浩所長は、殺伐とした使い捨て社会、人としての繋がりがない地域社会の都会から若者が、豊かな文化、温かみのある地域の人間性を求めて田舎へ移住する「田園回帰」が始まって、平成26年の日本創成会議の「自治体消滅」論が覆されていることを発表しました(中国新聞平成29822日)。また内閣府が行ったアンケートで「田園回帰」に踏み切る条件として最も多いのは、「医療機関の存在(67%)」でした。藤山所長は、平成291210日上下町で開催した府中北市民病院を守るための「第8回地域医療を守る会講演会」の中で、上下町はこの10年間に次世代定住と地域福祉の充実が不可欠であるとし、住民が主体的に定住促進、まちづくり、病院存続に関わるという「住民自治」を覚悟して実施する必要があると提言されました。その手段として『田園回帰1%戦略』を掲げ、2015年の上下町人口は4,788人ですが、毎年人口の1.2%、56人の定住で人口は2060年にも維持され、小、中学生の人口は1.58倍に増加し、高齢化率も41.7%から24.2%に減少します。そして仕事面でも「農商工連携」で既に地域内にある産業・産物を有効に活用して、地産地消で不要な支出を抑えた「地域内経済循環」で所得の1%を取り戻すことを提唱されました。また「縦割り」を排して、一次生活圏に定住や暮らしを支える身近な『小さな拠点』をつくることで、高齢者も役割をもって働くことが出来るので、元気な高齢者が増え、医療費や介護費用も減少し、社会保障費の抑制につながり、持続可能な地域社会、社会保障制度が実現することを発表されました。

 平成28年度全国の公立病院の61.7%が赤字のため『経営の効率化』が叫ばれています。しかし自治体病院の存在意義は、憲法第25条に基づき国民がどこに住んでいても命と健康が保障され、生活が出来るための「社会的共通資本」であるはずです。それ故、医療費・社会保障費抑制のため赤字や人口減少を理由に統廃合していけば、上下町や夕張のように安心安全に住めない地域となるため、基盤が脆弱な地方の存続が危機的状況に陥り、「地方創成」、「地域再生」に反する結果になります。すなわち「地方創成、地域再生」と「地域医療構想、地域包括ケアシステム」は車の両輪であり、地域全体を俯瞰した、地域の実情に応じて両者が整合性をもって基本理念通りに策定実行されなければ、「東京一極集中」の解消そして「持続可能な地域社会と社会保障制度」は、実現不可能になることを肝に銘じておく必要があるのです。   

   


       ●広島県と県議会への要望(平成30年2月15日)

                              平成30215

広島県知事

湯崎 英彦 様 

 

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

 

        府中北市民病院の機能回復維持を求める第8回要望書

 

現在、日本は急速な少子高齢化による人口減少の進行に対して「地方創成、地域再生」政策を打ち出しています。そして持続可能な社会保障を実現するため、増大している医療、介護等の社会保障費を抑制する施策の一つとして、平成26年に「医療介護総合確保推進法」を制定、公布して全国どこに住んでいても一生涯安心安全に生活が出来るという理念に基づく、「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」施策の構築を全国に展開しています。

 しかしこれらの政策、施策は、車の両輪であり、理念通りに施行されなければなりません。すなわち地域全体を俯瞰した、地域の実情に応じて整合性の取れた真の「地方創成、地域再生」と「地域医療構想と地域包括ケアシステム」が策定実行されなければ、基盤が脆弱な中山間医療不足地域の存続が危機的状況に陥る危険性がある事を肝に銘じておく必要があります。例えば夕張市は、平成18年財政再建団体に陥ったため、国は赤字を減らすために地域住民が生まれ育った地域で、地域を維持するために必須の病院や学校といった「社会的共通資本」までも統廃合、縮小・リストラを断行したため、10年後には安心安全に生活が出来なくなった子育て世代が周辺の自治体に転出してしまい、若者の人口が半減し、地域が消滅の危機にさらされています。  

 府中北市民病院は、地域住民の悲願により昭和18年に開設されて以来、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期自治体病院として府中市上下町だけでなく、三次市甲奴町、庄原市総領町、神石高原町、世羅町の32町の地域住民の命と健康と生活を長年守ってきました。そして昭和57年には広島県で最初に保健センターを病院に併設し、国民健康保険病院の基本理念である「地域包括ケアシステム」を開始し、平成6年上下町保健センターに福祉係が、平成11年には国保医療係が配置され、保健・医療・福祉・介護の窓口が一本化されました。そして平成147月から横矢仁上下病院長がセンター長を兼務するに至り、国保上下病院を核とした上下町の地域包括ケアシステムが完成しました。しかし府中市は、JA府中総合病院を救済新築するために、事実と異なる答申に基づいて「府中市地域医療再生計画」を策定しました。そのため縮小・リストラされ、深刻な「つくられた赤字・医師看護師不足」のために診療所化の危機を脱していません。診療所になると安心安全に生活が出来なくなるため、当該地域は夕張のように衰退していきます。さらに平成293月、国は地域医療構想において、全国の病床数を156千床削減することを公表しました。広島県は6,634床削減しますが、削減の対象は、直近6年間の病床利用率と平均在院日数を基準とし、二次医療圏ごとに協議して平成30年度から開始される「第7次広島県保健医療計画」に反映されることになっています。そうなると府中北市民病院は、平成244月に「府中市地域医療再生計画」の下、縮小・リストラ・独法化されたため、赤字が増大し病床利用率が激減し、さらなる縮小・診療所化の危険性が現実味を帯びてきます。 

 「持続可能な地域社会総合研究所」所長の藤山浩先生は、殺伐とした使い捨て社会、人としての繋がりがない都会から若者が、豊かな文化、温かみのある地域の人間性を求めて田舎へ移住する「田園回帰」が始まって、田舎の田舎で子育て世代の人口が増加している、平成26年の日本創成会議の「自治体消滅」論が覆されていることを発表しました。また同時期に内閣府が行ったアンケートで「田園回帰」に踏み切る条件として最も多いのは、「医療機関の存在(67%)」でした。藤山先生は、平成291210日上下町で開催した府中北市民病院を守るための「第8回地域医療を守る会講演会」の中で、上下町はこの10年間に次世代定住と地域福祉の充実が不可欠であるとし、住民が主体的に定住促進、まちづくり、病院存続に関わるという「住民自治」を覚悟して実施する必要があると提言されました。その手段として『田園回帰1%戦略』を掲げ、2015年の上下町人口は4,788人ですが、毎年人口の1.2%、56人の定住で人口は2060年にも維持され、小、中学生の人口は1.58倍に増加し、高齢化率も41.7%から24.2%に減少します。そして仕事面でも「農商工連携」で既に地域内にある産業・産物を有効に活用して、地産地消で不要な支出を抑えた「地域内経済循環」で所得の1%を取り戻すことを提唱されました。また「縦割り」を排して、一次生活圏に定住や暮らしを支える身近な『小さな拠点』をつくることで、高齢者も役割をもって働くことが出来るので、元気な高齢者が増え、医療費や介護費用も減少し、社会保障費の抑制につながり、持続可能な地域社会、社会保障制度が実現することを発表され、多くの参加者に大きなインパクトを与えました(資料)。

 そしてこれらのことは、国の「地方創成、地域再生」の共通の目的である「東京一極集中」の是正と持続可能な地域社会の確立を意味します。府中北市民病院が、「地域医療構想」で急性期の自治体病院として認可され、「第7次広島県保健医療計画」に反映されることで、当該中山間医療不足地域が安心安全に生活できる「地域包括ケアシステム」が完成したまちになります。そして「田園回帰」が促進され、若い世代の定住者が増え、人口減少と少子化が改善されます。以上のことから、「人口が減少しているから病院の縮小・リストラは、やむを得ない」とする考えは間違っていることが分かります。

府中北市民病院診療圏域の地域住民は、下記の決議を参加者一同で採択したので、広島県と広島県議会に対して要望いたします。     

 

                    記

持続可能な地域社会・故郷の確立のため

1 地域住民が将来にわたり必要な医療を安心して十分に受けられるために、府中北市民

病院を機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、市の直営)して

2 「田園回帰」を促して定住を促進し、住民自らのまちづくり(住民自治)を維持する。

3 そのために地域住民は、府中北市民病院を急性期の自治体病院として残す覚悟を持って取り組む。

4 府中市と府中市病院機構による地域住民への説明と協議の実現。

 

そして広島県におかれましては、上記の決議要望に加えて下記も要望いたします

 

  「広島県地域医療構想」の理念である「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来る広島県の実現」のように地域医療提供体制を構築し、府中北市民病院を急性期自治体病院として機能回復維持されたい(85床、常勤医師数6名以上、市の直営)。そして「第7次広島県保健医療計画」に反映されたい。

 

2中山間医療不足地域で、安心して生活できるための「地域包括ケアシステム」を構築するためには、30分で行ける身近な地域に急性期自治体病院が必須です。従って国の理念、指針通りに、「地域包括ケアシステム」と整合性を持った、地域住民の声を反映した「地域医療構想」を策定されたい。

 

3 そのためには「広島県医療審議会」、「広島県医療審議会保健医療計画部会」と「地域医療構想調整会議」で、府中北市民病院は、県下無医地区の79.6%が集中し、福山・府中、備北、尾三の3つの二次医療圏の境界に位置する唯一の救急中核病院であることから、府中北市民病院診療圏域を『特別構想区域』として認め、存続されたい。  

 

4 「地域医療構想」を、二次医療圏単位と県だけでしかも関係者だけで評価するだけでなく、国の「地域医療構想ガイドライン」に明記されている「地域の実情に合わせて、住民との十分な連携の下に策定する」という基本理念を遵守されたい。 

 

5 「府中市地域医療再生計画」は、事実と異なる答申に基づいた計画で、今までに数多くの深刻な弊害が発生しており、地域住民はその被害の実態調査と救済を長年にわたって府中市と広島県に訴え続けています。速やかに実行され、地方独立行政法人を解消して市の直営とされたい。

 

6 府中市が現在計画している「行政圏域を超えた『生活圏域』を単位とした広域型地域包括ケアシステムの創造」において、府中北市民病院の診療圏は、上記32町にまたがることから、府中北市民病院を核とした「地域包括ケアシステム」になるように県が主導されたい。

 

  国が提示した地域医療構想ガイドラインの「地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保」とは、「限りある医療・介護資源の有効な活用による医療提供体制の整備」ということが本旨です。よって理念通りに地域の実情を鑑みない採算・経営的な効率化を重視した一律の病院再編統合(縮小・リストラ)は撤回されたい。

 

8 中山間医療不足地域は、医師不足により病院と地域の存続が困難になるので、従来の基本理念通りに「広大ふるさと枠」の医師を優先的に派遣されたい。

 

9 以上の要望事項に関する広島県の見解を、3月末日までに文書で回答して頂きたい。

   

                                  以上

 


       ●府中市への要望書(平成30年1月18日)

                             平成30118

府中市

市長 戸成 義則 様 

地方独立行政法人府中市病院機構

理事長 多田 敦彦 様

                            地域医療を守る会

                            会長 松井 義武

 

                  要望書

 

現在、日本は急速な少子高齢化による人口減少の進行に対して地方創成、地域再生政策を打ち出しています。そして持続可能な社会保障を実現するため、増大している医療、介護等の社会保障費を抑制する施策の一つとして、平成26年に「医療介護総合確保推進法」を制定、公布して全国どこに住んでいても一生涯安心安全に生活が出来るという理念に基づく、「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」の構築を全国に展開しています。

 しかしこれらの政策、施策は、理念通りに地域全体を俯瞰した、地域の実情に応じて整合性の取れた真の地域医療構想と地域包括ケアシステムが策定実行されなければ、基盤が脆弱な中山間医療不足地域の存続が危機的状況に陥る危険性がある事を肝に銘じておく必要があります。すなわち夕張市は、平成19年財政再建団体に陥ったため、国は赤字を減らすために地域住民が生まれ育った地域で、安心安全に生活が出来るための病院や学校といった「社会的共通資本」までも再編統合、縮小・リストラを断行したため、10年後には安心安全に生活が出来なくなった子育て世代が周辺の自治体に転出してしまい、若者の人口が半減し、地域が消滅の危機にさらされています。 

 府中北市民病院は、地域住民の悲願により昭和18年に開設されて以来、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期病院として長年多くの地域住民の命と健康と生活を守ってきました。しかし府中市は、JA府中総合病院を救済新築するために、事実と異なる答申に基づいて府中市地域医療再生計画を策定しました。そのため縮小・リストラされ、深刻な「つくられた赤字・医師看護師不足」のために診療所化の危機を脱していません。診療所になると安心安全に生活が出来なくなるため、当該地域は夕張のように衰退していきます。

 持続可能な地域社会総合研究所所長の藤山浩先生は、殺伐とした使い捨て社会、人としての繋がりがない地域社会の都会から若者が、豊かな文化、温かみのある地域の人間性を求めて田舎へ移住する「田園回帰」が始まって、田舎の田舎で子育て世代の人口が増加している、平成26年の日本創成会議の「自治体消滅」論が覆されていることを発表しました。また同時期に内閣府が行ったアンケートで「田園回帰」に踏み切る条件として最も多いのは、「医療機関の存在(67%)」でした。藤山先生は、地域医療を守る会第8回講演会の中で、上下町はこの10年間に次世代定住と地域福祉の充実が不可欠であるとし、住民が主体的に定住促進、まちづくり、病院存続に関わるという「住民自治」を覚悟して実施する必要があると提言されました。その手段として「田園回帰1%戦略」を掲げ、上下町人口が約4,700人の場合、毎年人口の1.2%、56人の定住で人口は2060年にも維持され、子供の人口がほぼ倍増し、高齢化率も24%台に減少します。そして仕事面でも外部からの企業、工場誘致だけではなく、「農商工連携」で既に地域内にある産業・産物を有効に活用して、地産地消で不要な支出を抑えた「地域内経済循環」で所得の1%を取り戻すことを提唱しています。定住や暮らしを支える身近な拠点やネットワーク構造も循環型で「縦割り」を排した「横つなぎ型」への進化も提唱されました。また、身近な拠点で役割をもって働くことによって元気な高齢者が増えるので、医療費や介護費用も減少し、社会保障費の抑制につながる事を発表され、多くの参加者に大きなインパクトを与えました(資料)。

 そしてこれらのことは、国の地方創成、地域再生の共通の目的である東京一極集中の是正と持続可能な地域社会の確立を意味します。府中北市民病院が、「地域医療構想」で急性期の自治体病院として認可され、「広島県保健医療計画(第7次)」に反映されることで、当該中山間医療不足地域が安心安全に生活できる「地域包括ケアシステム」が完成したまちになります。そして「田園回帰」が促進され、若い世代の定住者が増え、人口減少と少子化が改善されます。以上のことから、「人口が減少しているから病院の縮小・リストラは、やむを得ない」とする考えは間違っていることが分かります。

府中北市民病院診療圏域の地域住民は、下記の決議を参加者一同で採択したので、府中市と府中市病院機構に対して要望いたします。   

 

                    記

 

持続可能な地域社会・故郷の確立のため

1.     地域住民が将来にわたり必要な医療を安心して十分に受けられるために、府中北市民病院を機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、市の直営)して

2.     田園回帰を促して定住を促進し、住民自らのまちづくり(住民自治)を維持する。

3.     そのために地域住民は、府中北市民病院を急性期の自治体病院として残す覚悟を持って取り組む。

そして、府中市と府中市病院機構による地域住民への説明と協議の実現。

                                  以上

 

付記

平成291129日に「府中北市民病院4階の改修工事を地域住民への説明と協議、合意なくして行わないこと」を要望しましたが、いまだに説明協議会が開かれていません。早急に開催してください。


8回講演会 藤山浩先生 基調講演の要旨

殺伐とした使い捨て社会、人としてのつながりがない地域社会の都会から若者が、豊かな自然と文化、温かみのある地域・人間性を求めて田舎へ移住する『田園回帰』が始まって、田舎の田舎で子育て世代の人口が増加している。平成26年の『消滅自治体』論が、覆されている!

 

Ⅰ)定住促進に関して

・全国各地域の5年ごとの人口予測を、国勢調査を用いて評価した。

・東京では夫の帰宅時間が午後8時以降の割合が、61.5%にのぼり世界的にも異常である。

・長い目で見て一番持続性がない地域社会は、東京である。2050年の高齢者数は、281万人に達し、100㎡に45人で特別養護老人ホーム並みの過密地域になる。介護予防のためのグランドゴルフや畑づくりなどは出来ない状態になる。

・藤山浩開発の人口予測プログラムによる過疎地域の人口予測を用いて、各世代何人の人を定住させると、持続可能な地域になるかを算出した。

・それを地域住民に示すことで、地域住民の目標が出来るので地域住民は頑張れる。

・全国の797過疎指定町村の30代女性の増減を調べると、41%(327市町村)で増加していており、平成26年に日本創成会議が発表した「自治体消滅」論を覆した。

・合併していない小さな町村で特に増加していた。これは地域住民自らが、何事も決定出来るからである。

・実質人口社会増減率も上下町より過疎が進んでいる離島や山間部等の小規模当村が健闘している。

・今の日本は、国のど真ん中か端っこがよい。子供も同じ傾向がみられる。

・子供人口定住化のためには、全国過疎指定の616市町村で毎年57,054人の定住増加で達成できる。

・東京は今でも(2016年度)年間117,868人転入増加があるので、その人たちが全国に分散すればよい。

・中国地方で見ると中国山地の背骨のところと隠岐で増加している。特に島根県で多くみられ、合計特殊出生率も1.8で全国2位である。

・上下町の人口予測で高校世代の4050%の流出と30代が目立つ。

・この10年で次世代定住と地域福祉対策の充実が不可欠である。

・上下町の住民が何もしないでいると人口減少に歯止めがかからないので、上下町の人は勝負をかける必要がある。

・すなわち上下町の人口は、2015年の4788人が2040年には2286人、2060年には1073人になる。

・そして小学生の人数も2025年には半減し、2030年には中学生の人数も半減する。

・上下町は、出生率を2.09に上げ、10代後半から20代前半の流出率を男女20%に抑制し、毎年20代前半の男女8組、30代子連れ8組、60代定年帰郷夫婦8組、合計24組(56人)、人口の1.2%を増やすと人口と高齢化率の長期安定を達成できる。2060年の人口は、4629人で3世代がバランスがとれた形になる。さらに小、中学生の人数は、2015年の335人から2060年には528人に増加する。

・子供数の安定だけなら毎年各世代4組(合計12組、28人)人口比0.6%でよい。

・上下には5つの旧小学校区があるので、分担して目標を達成すればよい。旧小学校区5地域で毎年各世代1組~2組でよい。頑張れば達成可能な目標である。

・上下町は全国の過疎地域よりまだ恵まれているので、弱音は許されない。

 

Ⅱ)仕事を増やす、所得を年間1%取り戻す

・地域外(町外)に出る支出を減らす

・地域住民が自分たちの家計調査をする。地域内の購入額と地域外の購入額を調査する。

・化石燃料を使わず、木材等のバイオマスで熱供給をする

・地産地消に徹する。食材はもとより学校の机やいすも地元の木材と職人で生産する。

・旧小学校区単位で自治組織を作り、株式会社を起ち上げ皆を支える

・目標を立てて実行プランを作る

・上下町全体での成果発表会をして、具体的な定住戦略を練る、勉強会を年に2回設け切磋琢磨して改善していく。助け合い精神

・パンの需要は増えており、1世帯年平均3万円使うので、人口5千人の町では地域内のパン屋で購入すると、5000万円が地域内で循環する(地域外に出ない。輸入超過にならない)。

5000人規模の町では、パン屋は3件あってもよい(起業できる)。

・お菓子の需要は、年間1世帯6千円なので、3億円地域外に出ている(菓子屋が起業できる)。

・コンビニは1%も地元に残らない。大手のスーパーでも23%で後は地域外に吸い上げられている(輸入超過状態)。

・地産地消の場合は、商品の原材料も地元産なので、生産する人の利益につながり、仲介手数料も取られないので、生産者の実入りが大きくなる。

・農家も工夫すれば、1000万円プレイヤーになれる。

・ガソリン、酒、病院、学校など地域外で利用していると、地元に利益は還元されない。

・安いからと言って地域外で購入していると、みぐるみ剥がれる・

・地元の農林商工連携が大切。地元のものを使って、地元で製品にして、地元で消費する。

・個々の業種の収益が少なくても、地域内に個々の業種の合わせ技の組織・拠点をつくり、縦割りではなく柔軟な横つなぎの連結決算の仕組みを作る。収益が足し算になり赤字が出にくくなる。すなわち『ヤマタノオロチ』を地域に育てる。

・行政と自治組織の組み合わせは、難しいことがあるので、自治組織で会社を起ち上げると良い。この会社が起業家の仲立ちをするとよい。空き家探し、農林業、パン屋、チーズや、お菓子屋、等々。

・転入者は、一つの仕事だけでなく「半農半X(兼業農家)」で、少しずつの仕事を束ねていくことで、十分貯えも出来るようになる。

・地域住民は転入者に仕事を教えるとともに、支えてあげることが大切。

 

Ⅲ)小さな拠点づくり(組織作りの方法)

・旧小学校区単位で自治組織、株式会社を起ち上げ、その中に拠点を作る。

・小さな拠点で買い物弱者にマーケット(産直市)や交通弱者に地域内交通(デイサービスの車も利用可能)を起ち上げる。

・高齢者に小さな拠点で働いてもらうと、高齢者はいつまでも元気になる。

・医療費や介護費用もかからなくなる(抑制につながる)。

・上手くいっている小さな小学校区で介護費用を調査すると、全国平均に比べ5000万円少なくて済んでおり、産直市の売り上げ5000万円を加えると、その地域の経済は年1億円潤っている事になる!

・小さな拠点は、福祉施設だけでは駄目で、地域に宿っている住民力・地域力を引き出さないといけない。

・小さな拠点は遠距離では不可能である。小さな旧小学校区だからこそ上手くいくのである。

・工場・企業誘致は男は帰ってくるが、女性は帰ってこない。工場が撤退することも少なくない。

・女性は、医療介護等の福祉や産直市、パン屋、土産物、小物店、スイーツ、食等の事業所が多い。

・「小さな拠点」をつないで、オール上下で合わせて100%にする。

 

Ⅳ)女性の活躍が鍵

・田舎の農家の納屋に国際観光会社

・地元料理のフルコース

・お菓子屋さん

・昔の納屋を改築したロバの本屋さん

・森の幼稚園

 

Ⅴ)田園回帰による定住が成功するために必要な事

・定住後に「聞いてなかった」がないようにする。

・定住希望者に町の方向性、問題点などをよく説明しておくことが必要。

・誰でもいいから来てくれではだめである。

・地元住民が、定住希望者に地域のよいところを案内して説明する。

・ベテラン住民の背中を見て、年々住民が地域に根差していく。

・葬式にも参加が必要。亡き人の生きざまを皆でしのんで思い出すことで、記憶を後世につなげる。今だけ、自分だけ、お金だけではだめである。

・手間をかけたものしか伝わらない。地元は、一人ひとりの生き方、姿を記憶し、未来へつなげる所。人口は人生の数。

 

全国の過疎地域の皆様お互いに頑張りましょう!田舎にとって非常に良い風が吹き始めています!


山村恵美子 三次市会議員 指定発言内容

 

・府中北市民病院問題に長年関わってきて、上下町の地域住民の住民自治に疑問を持った。すなわち上下町には住民自治組織がないのが実態である。

・町内会組織はあるが、行政体としての町内会組織であり、住民共同体としての町内会組織ではない。すなわち行政からの指示を、トップダウンで住民に伝えることが主になっており、住民主導の住民自治ではない。

・三次市甲奴町は住民主導のまちづくりが出来ている。合併時、三次市は143村の8つの自治体があったが、昔から各々の地域が特色を持っており、合併後もその特色を生かした住民自治組織を起ち上げた。さらに住民自治を行うために『自治基本条例』を制定した。 

・『自治基本条例』で三次市行政、市議会、住民の立ち位置の決まり事をきめ、住民自治が行いやすくした。 

三次市の住民自治の例をあげれば、三次市の川西地区では、ガソリンスタンドもスーパーも無くなったので、85%の地域住民が出資して住民で株式会社を起ち上げた。そしてガソリンスタンドとコンビニもある産直市場を営業しており、上手くいって表彰もされ、全国からも注目を浴びている。

他の例としては、三次市青鹿町では、人口減対策として定住者を増やすための株式会社を起ち上げ、子供を増やしたり、蕎麦屋を起ち上げたり、特色のあるまちづくりが成功して表彰された。

・上下町は前に進んでいないように見える。

・上下町は住民の組織が遅れている。

・上下町は住民主導の仕組みづくりが必要である。

・甲奴町では、藤山浩先生、小田切先生、藻谷浩介さんなどの専門家に何年もかけて指導をしてもらって上手くいっている。そして2500人位の人口であるが、平成18年度には定住者が15人増加した。

・入ってくれた人を逃がさないよう、周りの地域住民が協力を惜しまない。

・定住者に集落支援員になってもらって空き家対策もしている。外部から来た人の方が、空き家の活用方法なども分かりやすいようである。そして外に発信してもらえることも大きい。

上下町も今だったら元に戻せるはずである。まず住民主導の小さなコミュニティ作りをして、仕組みづくりをすることで、上下は変われる。今日の話を周りの人に拡散してほしい。

・府中北市民病院は甲奴町の住民にとっても無くてはならない病院である。

・先日施設に入っている父が高熱を出したが、30分かけて三次中央病院に行っても、薬を出されて帰らされるが、道中が大変である。5分で行ける府中北市民病院に連れて行って、入院も出来本当に助かった。当該地域にとって必須の急性期病院である。


横尾正文 神石高原町会議員 指定発言

 

・神石高原町立病院は、9年前に社会医療法人寺岡記念病院の指定管理になったが、何のメリットもない。むしろ病院の質と機能は低下している。

・逆に寺岡記念病院は、法人税が非課税となり、固定資産税などの税金も減税されるので経営的なメリットが大きい。

・さらに、神石高原町立病院への神石高原町からの政策交付金も地方交付税の範囲から、予算の範囲内に拡大して町の負担が大きくなっている。

・指定管理等の公設民営化は良くない。(地方独立行政法人府中北市民病院も公設民営です。)

・神石高原町は、郡内合併して13年になるが、一昨年に住民主導の『共同支援センター構想』を、31村で立ち上げた。そこでは神石高原町が、交付税を出して住民自治をさせる。

3つの委員会で構成されており、30の自治振興区で住民主導の施策を行っている。

・例えば、三和地区に民間主導の大きなブロイラー工場が出来、公では難しいことを、「自分たちでやっていこう」としています。

・上下町の皆さんも、旧態然とした行政頼み一辺倒ではなく、住民主導の住民自治を目指しましょう。そして府中北市民病院を急性期の自治体病院として存続させましょう。

会場からの意見と質疑応答

 

l  高橋文子さん(神石高原町、鈴木クリニック)

・今日の講演会は、医療の専門家ではなくまちづくりの専門家である藤山浩先生の話が聴けて、新鮮で非常に有益でした。

・神石町神石地区の鈴木クリニックは、地域柄高齢者が多い。路線バスが廃止されたり、高齢者が免許者を返納したりして、遠方にいけなくなっている。このような状況下で、府中北市民病院は、近くにあって入院が出来、診療科も多く、MRIなどの設備も完備しており、早く検査もしてもらえ、地域の連携もとれているので非常に助かっている。

・当院の職員が検診のため患者として府中北市民病院を受診したが、どこの部署の職員さんも感じが良く、技術もしっかりしておられ、親切丁寧で安心して検査を受けることが出来た。近隣に中核病院があって、神石地区の住民は本当にありがたく思っています。

・地域住民が安心に暮らせるためには絶対に府中北市民病院が必要である。

・平成15年から地域の高齢者が安心に暮らしていけるために、医療福祉系の「高齢者介護研究会」を起ち上げている。先日も「徘徊」という認知症を題材にした映画を上映して、認知症を正しく理解し、認識を深めることとで、さりげない見守りで、高齢者が地域でみんなと安心に暮らしていけるよう頑張っている。

・自分も当講演会等にはいつも参加して、小さな活動だが継続することが重要と思っている。

・大きな成果は今のところ出ていないが、住民運動は無駄ではなく、地域、生の住民、現場の悲痛な叫び声が必要である。

・まちづくりに関しては、具体策を藤山先生が処方箋まで示してくださった。

・スイミンの物語のように、小さな魚でも多く集まり団結すれば、大きな魚に勝つことが出来る。スイミン作戦で頑張っていきたい。そしていろんな分野の人が一枚岩になる必要がある。

・藤山先生の話を聞いて、明日からまた頑張っていけます。

 

l  中曾茂さん(上下町)

・上下町には駐車場や、観光案内看板が分かりにくいと言われたが、どうすればよいか。

l  藤山先生

・観光客と一緒に住民みんなで作り上げることが大事である。

・上下町は歴史的な街の割には道路が広いので、歩道スペースが大きく取れるよう、一方通行なども良いのではないか。

・駐車場は観光目的だけでなく、病院や福祉なども一緒に利用できるようにする。全体にバランスの取れた、暮らしの場に応じて息づいているまちづくりが大切。

 

l  岡本さん(世羅町)

・今日の中国新聞で、医師の地域偏在による医師不足と長時間労働・過重労働の問題が取り上げられていた。以前この講演会で、府中北市民病院の機能が低下すればするほど、世羅中央病院の負担が大きくなると言われていたことがやっとわかった。負の連鎖をもって、危機感を感じるために参加した。

・チップのバイオマスなど利用して電気を起こし、その熱源で給湯などすることで、電気と熱(二酸化炭素や温暖化の問題)の問題を解決できることはよく理解されているが、日本では欧州のようにエネルギー会社が普及しないのは、電力会社の陰謀か?

l  藤山先生

・ドイツでは昔から地域にエネルギー公社がある。

・日本でも昔からJAが小さなエネルギー会社を作っていたことがある。

・国は大きいところが中心となり、周辺の小さいところは、切り捨てる傾向が強い。

・発電することで、二酸化炭素が発生し、温暖化も生じて無駄なことが多い。

・それで小さな地域にエネルギー会社を作って、分散させることでそれらの問題が解決できる。上下町は良い条件がそろっている。投資する組織がやっても良いと思う。

・地域にエネルギー会社を作ることが必要である。

・「上下のまちづくり会社」を考えてよい。そこで、エネルギー、交通、医療、介護、などいろいろ手掛けることが必要である。まちづくりはこれだけではないが、住民が全体を見てまちづくりをすることが大切で、サプリメントの宣伝のように、一つだけ、これだけやれば、若返りOKということはない。そういった宣伝は嘘であるように!

・補助金頼みで利子を増やすのではなく、住民が投資して自分の年金を増やすやり方が良い。

・住民が全体を見て実行し、さらに地域住民の意思の統一が大切である。


8回地域医療を守る会講演会のお知らせ

 

日時;平成291210日(日)午後1時~3時       参加自由、無料

場所;上下町民会館2階 大研修室

基調講演; 「田園回帰の時代~上下に人と仕事を取り戻す」 

講師      藤山 浩 先生(持続可能な地域社会総合研究所 所長)

 

 平成29822日中国新聞の一面トップで「過疎93市町村『社会増』高齢者除く移住促進策実る。都市部からの移住者は、結婚や出産の機会が多い30代の女性の移住が増えており、子育て環境を重視して、家族ぐるみで移り住んでいる」という記事が発表されました。これは平成2658日「日本創成会議」が、この30年間の間に20代から30代の女性が半分以下に減る自治体が896市区町村あり、そのため全国の半数近い(49.6%)自治体が消滅するという「市町村消滅」論を否定する非常に明るいニュースで、島根県益田市にある「持続可能な地域社会総合研究所」藤山浩所長が調査研究した結果に基づいています。

 藤山らは、現在の経済成長戦略、グローバリズムによる殺伐とした都市・「使い捨て社会」に対し、多くの若者たちは都市部への生活に希望が見えなくなっているとし、その場限りの「使い捨て」を続ける人や地域は、過去の尊い営みを消し去るだけではなく未来に足跡を残すことも出来ないと言っています。そして日本ほど自然環境が豊かな先進国はなく、田舎の温かい人間性・地域性、豊かな食文化、伝統文化、産業の継承による生活の質の向上に関心が高まり、農林漁業への就職や田舎での起業、すなわち「田園回帰」が加速しています。今まさに使い捨て・長続きしない都市社会から持続可能な「地域内循環型社会」へ移行しつつあるのです。そして同時期に内閣府が田園回帰についてのアンケート調査を行った結果、田園回帰に踏み切る条件として最も多かったのが、「医療機関の存在」で67%でした(日経新聞平成2689日)。すなわち田園回帰で当該地域に人と仕事を取り戻すには、府中北市民病院を急性期自治体病院として維持することが比須になります。

 府中北市民病院は、昭和18年に開設されて以来、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期自治体病院として長年多くの地域住民の命と健康と生活を守ってきました。しかし府中市はJA府中総合病院を救済新築するために、府中市健康地域づくり審議会の事実と異なる答申に基づいて府中市地域医療再生計画を策定しました。そのため縮小・リストラされ、深刻な「つくられた赤字・医師看護師不足」のために診療所化の危機が時続しています。

 そこで、藤山浩先生をお呼びしました。藤山先生は、「上下町民を中心とした当該地域住民が病院を残すための覚悟を決める時が来た」と言われました。府中市は上下町同様人口減少により「消滅自治体」とされています。私たちは沈みゆく船の中にいるのです。私達は一刻も早く乾坤一擲(けんこんいってき)、住民が病院を経営するという住民自治を覚悟して実施する必要があります。さらにこれは病院だけの問題ではなく、当該地域の経済、商業、教育等あらゆる分野に同じことが言えるのです。その手段として「田園回帰1%戦略」を掲げ、上下町人口5千人の場合、50人の定住で人口は維持されること、そして仕事面でも旧来の外部からの企業、工場誘致や観光開発等ではなく、既に地域内にある産業・産物を有効に活用して地産地消で不要な支出を抑えた地域内で経済が循環する「地域内経済循環の取戻し」も1%戦略を提唱しています。定住や暮らしを支える拠点やネットワーク構造も循環型で「縦割り」を排した「横つなぎ型」へ進化しなければなりません。藤山先生の講演内容は、病院の存続だけでなく、住民主導の幅広い上下の人口増、仕事づくり、地域・まちづくり自治に関係するので、多くの方々に大きなインパクトを与えることを確信しています。
 藤山先生は、長年の緻密な調査研究と実績が認められ、内閣府等の国の中枢機関からも意見を求められ、「持続可能な地域社会」の実現のため啓発・指導活動で全国を飛び回っておられます。このような素晴らしい先生が上下町に来られますから地域や職種を問わず多くの方々が当講演会に参加され、府中市上下町だけでなく多くの故郷が将来にわたって維持されることを願っています。

        (地域医療を守る会 会長 松井義武、実行委員長 黒木秀尚)


               藤山浩先生紹介記事



●府中市と府中市病院機構への要望(平成29年7月20日)

                             平成29720

府中市

市長 戸成 義則 様

地方独立行政法人府中市病院機構

理事長 多田 敦彦 様

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

 

                  要望書

 

 平成293月、国は地域医療構想において、全国の病床数を156千床削減することを公表しました。広島県は6,634床削減しますが、削減の対象は、直近6年間の病床利用率と平均在院日数を基準とし、二次医療圏ごとに協議して10月には素案作成、11月には策定し、平成30年度から開始される広島県保健医療計画(第7次)に反映されることになっています。そうなると府中北市民病院は、平成244月に府中市地域医療再生計画の下、縮小・リストラ・独法化されたため、赤字が増大し病床利用率が激減し、さらなる縮小化の危険性が現実味を帯びてきます。

 平成192月府中市は、府中北市民病院健全化計画の骨子(縮小・リストラ)を発表しました。平成2111月には、府中市健康地域づくり審議会の答申に基づく「府中地域医療提供体制」を発表し、「府中北市民病院の役割は、慢性期医療を中心とする日常的な診療、健診、入院等で、手術と救急を削除」としました。そして今年度府中市が依頼したコンサルタントは、「上下町は今後10年間で、入院患者は7%、外来患者は12%の割合で減少し、平成28年度の府中北市民病院の赤字額は28千万円に上り、平成27年度に医師が1名、看護師が3名減少している。福山・府中二次医療圏では慢性期病床が不足している。」と提言しました。さらに平成293月府中市議会の一般質問で、議員から「赤字や医師不足が改善されないことと、人口減少を理由に、抜本的な改革が必要である」とする提案がなされました。以上のことから地域住民は、府中北市民病院のさらなる縮小か、慢性期医療に特化した病院になることを強く危惧しています。

 府中北市民病院は、昭和18年広島県初の国民健康保険病院として認可されてから長年地域住民の命と健康と生活を守ってきました。診療圏域は広島県の無医地区の79.6%が集中し、診療所もわずか6施設しかない旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の救急中核病院で、なくてはならない病院です。しかし独法化後「つくられた赤字」、「つくられた医師・看護師不足」のためわずか3年で診療所化の検討が、平成27811日に新聞報道されました。今回さらなる縮小や慢性期病院になり、急性期自治体病院として残ること出来なければ、一般救急医療機能がなくなるため、命と健康の保障が無くなります。

 全国どこに住んでいても一生涯安心安全に生活が出来るための地域医療構想に基づく地域包括ケアシステムが実現できるためには、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、マムシ咬傷、熱中症といった普通の病気や怪我で、30分で行ける身近な地域の中に急性期の自治体病院が一つは必要です。府中北市民病院が診療所や慢性期医療に特化した病院になると、独法化後今までに旧甲奴郡、神石郡の地域住民が被ってきた弊害がさらに拡大増大し、当該地域で安心安全に生活が出来なくなるため、夕張市のように子育て世代が転出し、地域が益々衰退していきます。また地域医療構想は、「2025年までに地域住民との十分な連携の下、拙速に陥ることなく二次医療圏ごとに設けている会議で意見を取りまとめ、県が最終的に策定する」とされています。当該地域住民は、「府中市地域医療再生計画」によって地域の実情に合わない病院になって、地域住民がその被害と救済を長年にわたって、府中市と広島県に訴え続けているので、地域の実情に合致する病院になるように速やかに対処しなければならないはずです。以上の理由から私たち地域住民は、強く下記の要望をいたします。 

 

                  記

 

  広島県地域医療構想の理念である「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来る」ように地域医療提供体制を構築し、府中北市民病院を急性期自治体病院として機能回復維持されたい(85床、常勤医師数6名以上、市の直営)。そして広島県保健医療計画(第7次)に反映されたい。

 

2中山間医療不足地域で、安心して生活できるための「地域包括ケアシステム」を構築するためには、30分で行ける身近な地域に急性期自治体病院が必須です。従って国の理念、指針通りに、地域包括ケアシステムと整合性を持った、地域住民の声を反映した地域医療構想を策定されたい。 

 

3  地域医療構想を、二次医療圏単位と県だけでしかも関係者だけで評価するだけでなく、国の地域医療構想ガイドラインに明記されている「地域の実情に合わせて、住民との十分な連携の下に策定する」という基本理念を遵守されたい。

 

4 府中市地域医療再生計画は、事実と異なる答申に基づいた計画で、今までに数多くの深刻な弊害が発生しているので、地方独立行政法人を解消して市の直営とされたい。

 

5 広大ふるさと枠の医師を府中北市民病院へ優先的に派遣されたい。

 

6 府中市と府中市病院機構が地域住民に説明と協議を一刻も早くされたい。

 

                                  以上


●中山間地域の自治体病院が危ない!
ー基本理念、指針通りに策定されていない地域医療構想と、
利潤追求の温床の危険性が高い地域包括ケアシステムー
  黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚
(広島県医師会速報 会員の声 第2328号 平成29年3月5日)

中国新聞朝刊(平成281026日、平成29119日)に「マッサージ、はり、きゅうの療養費不正請求」の記事が掲載されました。柔道整復師の健康保険適応も、医師の同意と、疾患が限られているにもかかわらず、平成26年度の療養費が3,824億円と、小児科や皮膚科等外来診療費より多く、新聞記事のような療養費不正請求もあり、国民医療費の総額は増大しています。一方、全国の僻地、中山間地域の急性期自治体病院は、国の医療費抑制政策のあおりを受けて、存亡の危機に陥っています。旧甲奴郡、神石郡は広島県の無医地区の54地区中43地区(79.6%)が集中する中山間超医療不足地域です。診療圏域は600㎢と広大で診療所もわずか6施設しかありません。この地域唯一の救急中核病院である府中北市民病院(旧国保上下病院)が、現在も存亡の危機にあります。

 ところが中国新聞社は、平成29127日の上下・甲奴ニュースで、「A鍼灸院が上下に誕生、225日から訪問施術開始、鍼灸師はB整骨院が派遣する。同院は、地元にネットワークがあって顧客層を多く抱える老人福祉施設と組み、同施設が用意した店舗に有資格の鍼灸師を派遣する」という記事を載せました。保険外で施術を施すことは全く問題ではありませんが、「初回は無料でする。保険が使えるので施術料は1回155円、往診料も保険適応となるため2㎞圏内であれば180円」などと、この記事は殊更に保険が使えることを強調しています。保険診療をする医療機関ではこのような宣伝は禁じられているはずです。先の新聞で報道された、「出張料(往診料)や施術回数の水増し、老人ホームの一度の訪問で、入居者ごとに出張料を請求、医師の同意があったように書類を偽造、患者が無料になるように自己負担を徴収しない」などの療養費不正請求が危惧される内容です。

 2025年に団塊の世代が後期高齢者になり、少子超高齢多死社会を迎えるにあたって、国は、持続可能な社会保障制度の確立を図るために、地域の実情に応じた地域医療提供体制である「地域医療構想」と、30分で行ける住み慣れた地域で、医療、介護、予防、住まい、生活支援を連携協働して安心に在宅生活が出来るための「地域包括ケアシステム」を、相補的に構築するための医療法である、「医療介護総合確保推進法」を、平成266月に制定しました。両者は車の両輪であり、地域包括ケアシステムの30分圏域と整合性のある地域医療構想を構築していかなければなりません。すなわち日常生活圏域に急性期医療の土台を築いてから、地域包括ケアに取り組むことが必要なのです。中山間地域を始めとして、平成の大合併後に周辺地域になった旧自治体には、合併前に存在していた急性期自治体病院が、赤字解消を目的とした「効率化」を合言葉に縮小・リストラや、診療所化、民間移譲され、地域医療が崩壊しつつあります。急性期、救急医療が担保されないと、地域包括ケアは確実に画餅に帰します。人の命は平等であり、命の効率化は絶対にあってはならないのです。

そして税金と保険料から賄われている医療や介護の財源を、決して医療崩壊が進む不正請求に使ってはなりません。しかし現在全国で展開されている地域包括ケアシステムが、在宅・施設、訪問サービスに特化して構築されつつあるため、前段に述べたような不正が発生しやすくなっています。また民間企業が、国の「自助と互助」を追い風に高齢者住宅・介護保険事業を、民間型の地域包括ケアと称して全国に展開していますが、自治体、医療・介護機関、地域住民が、正しい情報を発信、共有して、地域包括ケアの構築が、金儲けの温床にならないよう、国民の税金が正しく使われ、中山間地域医療が崩壊しないよう厳重な監視と指導、監査を怠ってはならないのです。

すなわち広島県は、国の理念、指針通りに地域住民と連携して地域の実情に応じて、中山間地域の急性期自治体病院を維持し、外部、民間委託ではなく行政と医療、介護機関、地域住民で、県内125地域の地域包括ケアシステムと整合性のある地域医療構想を構築しなければならないのです。


●広島県知事と県議会議長への要望(平成29年2月23日)

                             平成29223

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                                             地域医療を守る会

                            会長 松井義武

 

      府中北市民病院の機能回復維持を求める第7回要望書

 

平成283月に広島県は、国の施策である地域医療構想を策定し公表しました。そこで湯崎英彦広島県知事は、「県民の皆様へ」と題して、「私たちが医療や介護が必要になったとき、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来るよう、限りある医療・介護資源の有効な活用による医療提供体制の整備と地域包括ケアシステムの確立を一体的に推進するとともに、医療・福祉・介護を支える人材の確保・育成を進めるため、この構想を策定しました。」と、広島県地域医療構想の理念を述べられています。

 府中北市民病院の診療圏は、旧甲奴郡、神石郡の中山間過疎地域で、東京23区の面積に匹敵し、約600㎢と非常に広域ですが、診療所がわずか6施設しかありません。平成26年度、広島県の無医地区の54か所中43地区(79.6%)が集中する全国的にも有数の医療不足地域です。少子超高齢地域で交通過疎地域でもあり、遠方の医療機関を受診することは非常に困難です。さらに冬場は積雪のため移動がほぼ不可能になります。そのような当該地域で、国の進める一生涯住み慣れた地域で、安心、安全に生活が出来るための「地域包括ケアシステム」を確立するためには、診療所のかかりつけ医だけでは不可能で、在宅や施設で生活している地域住民が急変した時の受け皿となる急性期の病院が、30分で行ける身近な地域の中に一つは必要です。国が「地域包括ケアと地域医療構想は車の両輪」と定義しているように、地域包括ケアシステムと地域医療構想には、整合性がある事が不可欠で、地域の実情に応じた地域完結型の切れ目のない医療提供体制を目指す地域医療構想の構築が必須です。

ところが、府中北市民病院は、地域住民の声を無視した府中市地域医療再生計画に基づいて地方独立行政法人化され、縮小・リストラされました。そこで当該地域住民は、府中北市民病院を急性期自治体病院として存続させるために数多くの住民運動や行政訴訟を展開してきました。しかし府中市と地方独立行政法人府中市病院機構によって府中北市民病院は、粛々と縮小・リストラされ続けています。府中市の地域医療政策に大きく関与している府中地区医師会と府中市健康地域づくり審議会も、地域住民・医師との協議を全くしようとはしません。このままでは平成288月に地方独立行政法人府中市病院機構の評価委員会で意見が出たように診療所化へのシミュレーションが実行されてしまいます。

府中市地域医療再生計画は、平成1929日府中北市民病院健全化計画として策定されたものを、社会医療法人陽正会寺岡記念病院(寺岡暉理事長)を中心とする病院共同体構想を実現するために引き継がれました。それは平成216月に発表された公立病院改革ガイドラインを利用したものでした。さらに平成219月に府中市健康地域づくり審議会(寺岡暉会長)の「府中北市民病院の健全化計画は、頓挫してこのままだと病院の存続さえ困難になる」等、事実と異なる答申に基づいた間違った計画でした。このことは、総務省が公表している全国自治体病院の経営指標で全国の同規模自治体病院中上位20%以内に入る優良病院であった事実と、平成27年9月の控訴審で府中北市民病院元院長の横矢仁医師が、自らの陳述書と承認尋問で、「噓の答申」と証言されています。

しかし広島県は、当計画の見直しと協議を求める住民運動が、平成2012月から始まっていたにもかかわらず、平成2111月に当計画をわずか1カ月という短期間で広島県地域医療再生計画のB案として承認し、国から措置された地域医療再生基金75千万円を府中市に交付しました。さらに平成23120日に地域住民が1万7,108名もの署名、陳情をし、広島県の地域医療再生計画承認の見直しを訴えたにもかかわらず、府中市の申し出を承認して地方独立行政法人化を認可しました。平成244月に地方独立行政法人府中市病院機構が発足し府中北市民病院とJA府中総合病院が再編統合され、府中北市民病院は縮小・リストラされました。その結果、統合前から地域住民が危惧していた多くの医療難民、救急難民が発生し、私たち守る会が調査しただけでも261名の方が、診てもらえなかったり、救急入院出来なかったり、遠くの病院に行かざるを得なかったり、死亡したり、命にかかわる数多くの重大な弊害が発生しました。常勤医師数も独法化前の7名が、独法時5名、平成27年度から3名にまで減少し、病床数も110床から独法時70床、平成26年度からは60床に縮小されています。そのため平成22年度93万円の赤字額が、平成27年度34千万円に増加しています。

府中北市民病院が診療所や民間病院になると急性期救急医療は、スタッフ不足と不採算医療のため出来なくなり、今以上の医療難民が発生し、広島県の策定した地域医療構想に基づく地域包括ケアシステムの構築も不可能になるばかりか、安心して生活が出来なくなるため、近い将来地域が衰退します。平成28620日の日本経済新聞に財政再建団体後10年の夕張市の状況が発表されました。市の赤字解消のため、171床の夕張市立総合病院を、村上智彦医師を理事長とする医療法人夕張希望の杜が19床の有床診療所と60床の老人保健施設に変換し、それまでの急性期医療から慢性期医療と看取りを中心とする「支える医療」に転換しました。当時は地域医療再生として全国から注目を集めました。しかし10年後の新聞記事には、「町に廃墟、子育て世代半減」というショッキングな見出しがあり、働く場所は、シチズン、マルハニチロ、ツムラなどの企業が以前からありましたが、急性期病院が無くなり、小中学校も1校に統合されたため、安心して生活出来なくなったため、通勤可能な周辺の自治体に転出する住民が増えたためでした。

そこで平成281128日に「府中北市民病院を機能回復維持して、地域包括ケアからまちづくりへ」をスローガンに第7回地域医療を守る会講演会を、上下町民会館にて開催しました。基調講演を島根県隠岐の都万村と岡山県哲西町で地域包括ケアシステムの構築で安心して生活できるまちづくりに業績を上げられた岡山大学地域医療人材育成講座教授の佐藤勝先生にお願いしました。約200名の参加者に医療を中心とした地域包括ケアが、行政、地域住民、医療機関が一体となれば、僻地・中山間地域医療の諸問題の解決だけでなく、まちづくり・地域再生に繋がるということを、佐藤先生の実績に基づいて熱く講演され、府中北市民病院を守るための決議を採択しました。そこで医療介護総合確保推進法に基づく、国の施策である地域医療構想と地域包括ケアシステムを、当該中山間医療不足地域で平等に確立するために、広島県に下記の要望をいたします。

 

                  記

 

1.          広島県地域医療構想の理念である「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来る」ように地域医療提供体制を構築し、府中北市民病院を急性期自治体病院として機能回復維持されたい(85床、常勤医師数6名、市の直営)。そして広大ふるさと枠の医師を派遣されたい。 

 

2.          中山間医療不足地域で、安心して生活できるための「地域包括ケアシステム」を構築するためには、急性期自治体病院が必須なので、国の理念、指針通りに、地域包括ケアシステムと整合性を持った、地域住民の声を反映した地域医療構想を策定されたい。 

 

3.          そのためには広島県医療審議会、広島県医療審議会保健医療計画部会と地域医療構想調整会議で、府中北市民病院は、県下無医地区の79.6%が集中し、府中・福山、備北、尾三の3つの二次医療圏の境界に位置する唯一の救急中核病院であることから、今後の上記会議で府中北市民病院診療圏域を特別構想区域として認め、存続されたい。

 

4.          地域医療構想を、二次医療圏単位と県だけでしかも関係者だけで評価するだけでなく、国の地域医療構想ガイドラインに明記されている「地域の実情に合わせて、住民との十分な連携の下に策定する」という基本理念を遵守されたい。

 

5.          府中市地域医療再生計画は、事実と異なる答申に基づいた計画で、今までに数多くの深刻な弊害が発生しているので、広島県は地方独立行政法人化の認可を取り消されたい。

                                  以上


●府中市と府中市病院機構への要望(平成28年12月15日)

                            平成281215

府中市

市長 戸成 義則 様

地方独立行政法人府中市病院機構

理事長 多田敦彦 様

                            地域医療を守る会

                            会長 松井 義武

 

                要望書

 府中北市民病院は、府中市健康地域づくり審議会の事実と異なる答申に基づく府中市地域医療再生計画により、府中市民病院を新築するための犠牲にされ、縮小・リストラされました。その大義名分は、旧府中市のJA府中総合病院と上下地域の府中北市民病院を残すためで、その目的は赤字と医師不足を解消するためとされていました。平成244月に両病院が府中市によって再編統合され、地方独立行政法人府中市病院機構となって最初の中期目標・中期計画の4年が経過しましたが、府中北市民病院の赤字は、縮小・リストラされたため、独法化前の93万円(平成22年度)から34千万円(平成27年度)に増大し、常勤医師数も7名から3名に減少しています。さらに平成281月には透析機械5台を府中市民病院へ移転し、平成288月からは再び地域住民に何の説明もなく病床数を50床に縮小して運用しています。平成278月に府中北市民病院の診療所化の計画が新聞報道されましたが、まさに現実のものになろうとしています。入院治療が出来なくなると、旧甲奴郡、神石郡を中心とする府中北市民病院診療圏域は、中山間医療不足地域なので近くに病院が無いため多くの弊害が発生し、安心して生活が出来なくなり当該地域は衰退していきます。

 国は2025年に団塊の世代がすべて後期高齢者になるため社会保障費が非常に増大し、少子化による人口減少社会では、それを支えきれないことを見越して、持続可能な社会保障制度を名目に、平成266月地域医療介護総合確保推進法を公布しました。その目的は、医療費抑制のため医療から介護へ、病院から在宅へ、公助・共助から自助・互助への転換です。その目的を達成するために平成26年度から、全国どこに住んでいても平等な医療提供体制を受けることが出来るという趣旨で、病床の機能分化と連携を推進する地域医療構想が開始されました。そしてそのゴールとして、平成27年度からは30分で行ける住み慣れた地域の中で、医療、介護、予防、住まい、生活支援を連携協働して、一生涯安心安全に在宅生活が出来るための地域づくりすなわち「地域包括ケアシステム」づくりが、全国の自治体で開始されました。府中市は、広島県によって上下地域と府中地域の2地域があると定められています。

 地域包括ケアシステムを完成させるためには、上下地域の中に存在する限られた保健、医療、介護、福祉、住まいの資源を有効に活用して、お互いが密接に連携して多職種協働で事に当たる必要がありますが、急性期医療(病院)が担保されていなければ実現できません。特に中山間医療不足地域では、その地域の中に、肺炎、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症等の普通の病気やけがで救急入院治療が出来る急性期の自治体病院が一つは絶対に必要です。すなわち慢性期医療に特化した「支える医療」だけでは不十分で、救急・急性期医療にも対応できる「治し支える医療」でなければならないのです。幸いに地域医療構想の理念は、全国で地域の実情に見合う平等な医療提供体制を構築することなので、広島県の無医地区の79.6%が集中する旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期自治体病院である府中北市民病院は、存続させなければなりません。

そして当該中山間医療不足地域で、真の地域包括ケアシステムを構築するためには、医療における既存の病診連携と同様に府中北市民病院を核として上下町、甲奴町、総領町、神石高原町、世羅町が自治体を超えて連携する必要があります。また国の基本方針が公助・共助から自助・互助に転換していることから、地域住民は、積極的に病院と行政に協力して地域の実情に合った真の地域包括ケアシステムを構築していく必要があります。そこで第7回地域医療を守る会講演会を、平成281126日に上下町民会館で「府中北市民病院を機能回復維持して、地域包括ケアからまちづくりへ」というテーマで開催しました。そこに府中北市民病院診療圏域である、旧甲奴郡、神石郡、世羅郡の地域住民が多数参加し、平成283月に広島県が策定した地域医療構想に基づいた、地域包括ケアシステムを、国が定義した30分で行ける日常生活圏域、すなわち上下地域で構築し、安心して一生涯生活が出来る町になるために、下記の決議を参加者一同で採択したので要望します。

 

                  記

1.          中山間医療不足地域で、一生涯安心に生活が出来るための「地域包括ケアシステム」を構築するためには、入院治療が出来る急性期自治体病院が一つは必要であるので、府中北市民病院を機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、市の直営等)すること

 

2.          私達地域住民は、府中北市民病院再生、地域再生を目指して行政、病院と協力した「真の地域包括ケアシステム」を目指した住民活動を展開するので、協議の場を設けて協力に応じること

 

3.          府中市と府中市病院機構は、上下町で地域住民みんなへ、第一期中期計画の目標を達成出来なかったことと、度重なる縮小・リストラ理由を説明し、地域の実情に合致した病院にするための協議の場を設けること

                                                 以上

 


 ●基調講演

地域包括ケアからまちづくりへ-地域全体で支える育てる地域医療

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 地域医療人材育成講座

佐 藤  勝

 

 

はじめに

医師になり28年が過ぎました。隠岐に計9年、哲西に15年半、本当に田舎が好きになりました。それほどへき地医療、地域包括ケア、まちづくりに魅せられました。

都万村診療所(現島根県隠岐の島町)と哲西町診療所(現岡山県新見市)において、過疎地ですができるだけ都会の大病院に劣らないよう、無床診療所ですが高度医療機器を整備し、幅広く良質な医療を提供できるように、専門に偏らない総合医として役割を果たしてきました。

 

島根県都万村(現隠岐の島町、人口2,200人)(H4~H7,H9~H13)

村中心地、役場隣に保健医療福祉総合施設(特別養護老人ホーム〈特養〉、ショートスティ、在宅介護支援センター、ホームヘルプステーション、ディサービスセンター、保健センター、診療所、歯科診療所、役場健康福祉課)を新設。保健医療福祉それぞれの充実と一体化により以下の効果がありました。

①特養入所者のADL(日常生活動作)上昇〔82%〕(医療機関受診の簡便性、好立地条件〈特養の街中心地への整備は全国的にも珍しい〉により訪問者が多く入所者への刺激が増加、特養職員の努力等)②保健医療の連携による予防医学の充実(大腸癌一次検診受診率上昇、胃癌検診精密検査受診率100%など住民の受診意識向上、早期癌発見率上昇、3歳児う歯羅患率減少傾向)③スタッフ間の連携強化による効果的サービス提供(金銭的援助制度等の周知徹底により住民の福祉制度等の活用率上昇)④在宅医療福祉の充実、連携強化による在宅高齢者のQOL(生活の質)向上(在宅95歳以上が1人から13人に増え長寿村となる)⑤教育への好影響(高齢者、障害者とのふれあいが格段に増えいたわりの心が養えいじめのない学校づくりに貢献)⑥上記効果による村人口増加(5年間で37人増加)村全体の活性化実現。

 

岡山県哲西町(現新見市、中国山地、人口2,600人)(H13~)

「行政サービスの中心に医療を」という住民の要望を実現する全国的にも全く新しいタイプの複合施設(役場本庁〔現新見市哲西支局〕・診療所〔無床、ヘリカルCT、電子内視鏡等整備〕・歯科診療所・保健福祉センター・生涯学習センター・図書館・文化ホール-従来連携が困難であった行政保健医療福祉教育文化など各種機関が集約)を新設し無医町を解消(現在は認定こども園も同居)。「医療も行政サービスの一環」と捉え、行政マンも医療に対して理解し、医師も行政の仕組みを十分理解し協力している事、医師が町長、教育長と同居することで「町の方向性」について適時的確に提言できた事で、最重要施策としてまた住民の総意として地域包括ケア(保健医療福祉だけでなく、教育文化産業まで含めた)を推進。

合併による住民サービス低下が危惧され設立されたNPΟ法人「きらめき広場」(まちづくり全体に関するNPΟは全国的にも珍しい)と共に市町合併後も生活の基盤である医療(健康)を施策の中心におき各分野と情報共有や事業連携により繋がりを持ち、その上を住民が自由に行き来することにより、身近できめ細やかな総合的、包括的サービスの提供が可能となり、全世代的に各分野において効果が上がっています。そのような公益性が認められH21年、県内初、診療所としてまたへき地医療としては全国初の社会医療法人の認定を受けました。

 

地道な医療→地域包括ケア→まちづくり

国民皆保険制度上、どこに住んでも同じ医療を受ける権利を有している事は言うまでもありませんが、へき地だからといって「聴診器1本の医療でいい、より良い医療を受けられないのは仕方ない」というのは違う。と思いながらの28年間でした。

来られる患者を診る待ちの医療から始まり、いつでも何でも診る医療、切りとらない医療24時間365日何科でもどんな相談でも断らず対応する医療)、大病院に負けない!という思いで導入した高度機器でがんの早期発見、更に出前医療(在宅医療等)を通し福祉と連携し、地域へ出ての健康相談など保健と連携し地域包括ケアを展開。全スタッフが連携し住民一人ひとりを診、それを地域全体に拡げ、更に子どもの健康づくりにも取り組み全世代に対しての包括ケアを実践し、それが予防医学の充実や住民サービスの効果的提供、ADLやQOLの向上など数多くの効果を認めました。また教育への好影響を与え人口も増産業構造が変わり地域が活性化し、行政や地域住民が一体となった“まちづくり”へと発展していきました。自分でもビックリでした。多くの人々、仲間に支えられ出来たこと。へき地医療の素晴らしさや、醍醐味・やり甲斐を肌で感じた体験でした。へき地医療は本当に面白いです。

地域包括ケアは近年、健康福祉の分野で一様の効果を発揮してきましたが、今後は保健医療福祉のみならず教育文化産業などあらゆる分野と連携することが重要だと思います。その効果は自治体経営の観点からも重要で、より付加価値の高いサービスの提供が人口流出を防ぐなど地域間競争での大きなアドバンテージとなりえます。「地域包括ケア」は今後の「まちづくり」を考える上で欠かせない必須の課題といえます。

 

地域医療の魅力・やり甲斐を伝える

最近研修医、医学生、看護学生等が地域現場へ研修に来てくれてへき地医療、地域包括ケアを肌に触れることにより感化され、全員がそれまでイメージしていた診療所との違いに驚き、地域のあたたかさに感動し地域医療に魅力とやり甲斐を感じ、大半が「将来働きたい」と言ってくれます。実際10年前に1カ月研修した医師が4年後、5年間哲西町診療所へ赴任して所長として働いてくれたり、昨年5週間研修した医師が哲西町診療所の総合医後期研修プログラムに入り帰ってきてくれたように、研修した地域に再赴任する事が全国でも見られるようになっています。近年「へき地医療の医師不足」がよく報道されていますが、今後地域医療マインドを培った医師が増えその中から実際地域医療,へき地医療を志す者が増えることに少し期待がもてるようになりました。

 

岡山大学での地域医療教育

 私はへき地医療を実践しながら、現場で様々な人々への教育に携わっているのと共に、大学でも地域医療人材育成講座にて地域医療の教育を担当しています。

当講座は「地域で学ぶ、地域で育つ、地域を支える」という基本理念のもと地域立脚型の教育に力を入れています。うわべだけでなく本質まで体感できるよう入学後早期より1~2週間ずつ、在学中複数回、2-3年生では必修として全学生に対し地域医療機関の皆様に協力を仰ぎながら地域医療実習を実施しています。

地域の実情を知るため保健、福祉介護や市町村行政の関係者、更に地域住民とふれあいの場を設けて頂く等、沢山の地域資源を動員してもらいながら医学生を育てています。

 地域の医療自体(保健福祉介護を含めた地域包括ケアにも)に感動している事もさることながら、地域の人々が地域や住民のために誠心誠意尽くされている姿、その姿勢や熱意、志しや生き様に多くの学生は感銘を受けています。

 多くの医学生は「目の前で困っている人の何とか力になりたい」という純粋な思いで医師への道を選んでいるためか「いつでもどんな事でも相談にのる医療」を実践する地域の先生方に自身の理想とするロールモデルを見出したのだと思います。

 また多職種の方々と信頼しながら一緒に地域医療を作り上げ、更に地域住民と良い地域を築き上げている事に接し、その素晴らしさを知り地域医療のイメージを覆されたと多くの学生が感想を述べる等、地域医療マインドの醸成に繋がっています。

「地域枠という義務があるから仕方なく地域医療に赴く」のではなく「地域医療は地域枠の彼らに任せておけば良い」のではなく、多くの医師が「魅力ややり甲斐を感じながら自ら進んで地域に赴く」ことを期待しています。

 

実習受入地域医療機関にも効果

地域医療機関からは、実習を受け入れることにより「病院全体で育てようという雰囲気が醸成できた」「希望に満ちた若い学生が来る事により病院内が活性化した」と言われるようになる等、地域医療の教育や普及に沢山の方々に関わってもらい色々な切り口で多くの人々に地域医療に触れて知ってもらう事により、地域医療を支え育てていこうとする仲間作り・環境作りにも繋がっていると感じています。

 

へき地医療・地域医療の課題解決に向けて

地域医療崩壊が問題になる昨今、国県レベルでの支援策も当然必要ですが、まずは地域自体が皆で真剣に現状と問題点をしっかりと認識し受け止め、その上で皆で考え問題解決にあたっていくことが大切だと思います。というのも、医療関係者だけで推し進める地域医療づくりは今や限界があるからです。行政はもちろん住民一人一人が自分自身の問題として考え、当事者意識を持ち問題解決へむけて臨み、医療関係者と共に一緒になって積極的に地域医療づくりを推し進めることが最も大切で、それがきっと魅力あるまちづくりへと繋がっていくと考えます。

また、へき地医療の継続性を担保するための永遠の課題であると思われる医師確保については「招く」だけではなく「支える」「育てる」というコンセプトも大切になると思います。

更に、繰り返しになりますが、へき地医療・地域医療のすばらしさを多くの若い人々に伝えることがもう一つ重要なポイントと考えます。

 

「熱意を持った教育」と「地域のあたたかさ」が鍵

 将来の担い手である若い医学生・研修医等を地域全体で熱意をもって育てる事と、彼らが地域に残る、あるいは戻ってきたいと思える地域のあたたかい支え(仲間作り・環境作り)こそが地域医療再生の大きな鍵となるでしょうが、その礎を地域の人々と一緒に築き始めている事を実感しています。全国各地で地域医療が再生、発展し、更に安心して住める、住みやすい素晴らしい地域になっていくことを願っています。


質疑応答、会場からの意見               平成281126

 

l  甲奴町(三次市市会議員)

・地域包括ケアのボランティアについて聞くつもりであったが、講演でよくわかった。

・報告したいことがある。府中北市民病院の患者さんが、状態が悪くなったので、北市民病院に行ったら、主治医の先生が不在なので断られた。そこで手術は三次中央病院で受けていたので、急いで三次中央病院に電話をして、紹介状なしで診てくれるか聞いたところ、お金が余分にかかるが大丈夫といわれた。1時間かけて行って、受付を済ませて診療科の前で待っていたところ、担当科の看護師が紹介状なしでは、診れないと断った。そこでいろいろ押し問答をするも、診てくれそうにないので世羅中央病院へ走った。世羅中央病院へその日に入院となったが、2週間で亡くなった。

 家族の方はどうしても無念で納得出来ないので、上下町の地域医療を守る会に相談されて、後日三次市議会議員である私に、守る会から話があった。自分が患者側と病院側の両者を仲介して双方の人に一堂に会していただき、腹を割って話していただいた。それで患者側も納得された。三次中央病院では、今後二度とそのような不祥事が起こらないように、総合受付で話を聞いてくれる職員を配置する対策をすぐに講じた。

 逆に府中北市民病院の問題は、地域住民の長年の運動にもかかわらず一切進展せず、粛々と住民が知らないうちにさらなる縮小が起こっている。これでは地域住民の不信感が募るだけで、事態は好転しないので、一刻も早く住民と行政、府中市病院機構が話し合える場を設定すべきである。府中北市民病院を守る活動を続け、住民の声をを大きくしていくことが大切である。

 

l  横矢仁 府中北市民病院 名誉院長

・平成17年のはじめて佐藤先生に会って、多くの資料をもらったことはあるが、講演を聴くのは初めてである。

・平成20年に哲西町での研修プログラムを見せてもらった。岡山の医療機関に広島大学出身の研修医が行くことは、難しかったが研修医の感想文を、当時の広島大学医学部地域医療学講座の教授に送付したところ了解された。

・平成23年度から府中北市民病院に来る広島大学医学部の地域医療研修医が哲西町診療所にお世話になっている。

・最初、哲西町での研修は2週間であったが、精神科の研修が2年前から加わって、研修期間がそれまでの1カ月から2カ月間に延びたので、哲西町に4週間行くようになった。

・佐藤先生は研修医を最初の2週間を指導し、その後の2週間は診療所の戦力として働かせたので、上下町に研修医が帰ってくると、大きなレベルアップが感じられた。

・研修医が診た患者さんのカルテを診療が終わってから、佐藤先生は研修医と二人でチェックし、夜11時まで熱く指導している。すごいことである。尊敬している。

 

l  神石高原町議員

516年間神石高原町の議員を務めたが、ほとんど総務文教委員会に属し、病院問題に携わってきたが、この度引退する。

・佐藤先生の話には感動した。

6年前に神石高原町立病院を守る会を起ち上げた。

・滋賀県の議員が地域医療を研修するところで自分も研修をした。自治医大の先生が講師で、今日の佐藤先生の話と同様に、招く、支える、育てることが大切と話されていた。

・医師、看護師に居ついてもらうために、院外で草取り、花、清掃活動などいろいろなボランティア活動を続けている。当初30名であったが、現在は45名になった。先日もしたが、今度町長になる人も夫妻で手伝ってくれた。

・こういった医療を守る運動も大切である。

(座長;府中北市民病院の場合も同様なボランティア活動も行っています)


7回地域医療を守る会講演会の趣旨と目的 平成28年11月26日

-府中北市民病院を機能回復維持して、地域包括ケアからまちづくりへ-

                         実行委員長 黒木 秀尚

l  府中北市民病院の縮小・リストラ

 府中北市民病院は、府中市健康地域づくり審議会の事実と異なる答申に基づく府中市地域医療再生計画により、府中市民病院を新築するための犠牲にされ、縮小・リストラされました。その大義名分は、旧府中市のJA府中総合病院と上下地域の府中北市民病院を残すためで、その目的は赤字と医師不足を解消するためとされていました。平成244月に両病院が府中市によって再編統合され、地方独立行政法人府中市病院機構となって最初の中期目標・中期計画の4年が経過しましたが、府中北市民病院の赤字は、縮小・リストラされたため、独法化前の93万円(平成22年度)から34千万円(平成27年度)に増大し、常勤医師数も7名から3名に減少しています。昨年8月に府中北市民病院の診療所化の計画が新聞報道されましたが、まさに現実のものになろうとしています。入院治療が出来なくなると、中山間医療不足地域なので近くに病院が無いため多くの弊害が発生し、悲惨なことになります。

 

l  地域医療構想

 国は2025年に団塊の世代がすべて後期高齢者になるため社会保障費が非常に増大し、少子化による人口減少社会では、それを支えきれないことを見越して、持続可能な社会保障制度を名目に、平成266月地域医療介護総合確保推進法を公布しました。その目的は、医療費抑制のため医療から介護へ、病院から在宅へ、公助・共助から自助・互助への転換です。その目的を達成するために平成26年度から、全国どこに住んでいても平等な医療提供体制を受けることが出来るという趣旨で地域医療構想が開始されました。そして平成27年度からは、30分で行ける住み慣れた地域の中で、医療、介護、予防、住まい、生活支援を連携協働して、一生涯安心安全に在宅生活が出来るための地域づくりすなわち「地域包括ケアシステム」づくりが、全国の自治体で開始されました。

 

l  地域包括ケアシステムには急性期自治体病院が必須、「治し支える医療」

 在宅医療の確立を目標にした地域包括ケアシステムを完成させるためには、地域の中に存在する限られた保健、医療、介護、福祉、住まいの資源を有効に活用して、お互いが密接に連携して多職種協働で事に当たる必要がありますが、急性期医療(病院)が担保されていなければ実現できません。特に中山間医療不足地域では、その地域の中に、肺炎、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症等の普通の病気やけがで救急入院治療が出来る急性期の自治体病院が一つは絶対に必要です。すなわち慢性期医療に特化した「支える医療」だけでは不十分で、救急・急性期医療にも対応できる「治し支える医療」でなければならないのです。幸いに地域医療構想の理念は、全国で地域の実情に見合う平等な医療提供体制を構築することなので、広島県の無医地区の79.6%が集中する旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の急性期自治体病院である府中北市民病院は、存続することが出来るはずです。

 

l  地域住民の地域包括ケアシステムの理解と協力が必要

 そして広域な当該中山間医療不足地域で、真の地域包括ケアシステムを構築するためには、既存の診療圏と同様に府中北市民病院を核として上下町、甲奴町、総領町、神石高原町、世羅町が自治体を超えて連携する必要があります。また国の基本方針が公助・共助から自助・互助に転換していることから、地域住民は、積極的に病院と行政に協力して地域の実情に合った真の地域包括ケアシステムを構築していく必要があります。そのためには地域包括ケアシステムとは何かということをよく理解しておかなければ、『絵にかいた餅』になり良い地域包括ケアシステムは構築出来ません。

 

l  地域包括ケアは安心して生活できるまちづくりにつながる

そこで今回の講演会を企画しました。基調講演は、岡山大学医学部地域医療人材育成講座の教授である佐藤勝先生にしていただきます。佐藤先生は、へき地・中山間地域医療に関する第一人者の先生で、地域包括ケアシステムを核とした地域医療と地域再生に関して素晴らしい実績をあげておられます。島根県隠岐の島、都万村(つまむら)で、最初の地域包括ケアシステムを完成され、住民、行政との連携の下、安心して住めるまちになったため村の人口の社会増を実現されました。その実績をかわれ岡山県哲西町の深井正町長に依頼され、新見市に編入合併する前の平成11年頃から、哲西町の住民が最も必要とした医療を中心に据えたまちづくり構想に関与され、地域包括ケアシステムを完成するため哲西町に平成13年に赴任されました。平成17年合併後、哲西町は周辺地域になりましたが、問題解決に向けて住民も当事者意識を持ち、医療関係者、行政と一緒の哲西町診療所を核としたまちづくり・教育文化産業まで含めた地域包括ケアシステムが功を奏して、編入合併後も地域住民は安心安全に幸福な生活をおくっています。

すなわち地域で一生涯安心して生活が出来るためには、地域のニーズに応じた病院が必要であり、病院を核とした真の地域包括ケアシステムの構築は、安心して生活が出来る『まちづくり』に繋がるのです。逆に府中北市民病院が診療所化されたり民間病院になると、入院治療や救急医療が出来なくなるため、地域で安心して生活が出来なくなるのです。

 

l  地域住民の病院である府中北市民病院を救えるのは地域住民の声・世論だけ

今、深刻な医師不足と夜勤のできる看護師不足で瀕死の状態にある府中北市民病院を救えるのは、地域住民の声・世論しかありません。声が大きくなるためには、病院を守るための活動に出来るだけ多くの人が参加することが絶対に必要です。現在病院として維持できているのは、住民運動が継続しているからなのです。だから今後も住民活動を継続し続けることが必要です。

広島県の無医地区の79.6%が集中する広域な当該中山間医療不足地域で、真の地域包括ケアシステムを構築するためには、府中北市民病院を核として上下町、甲奴町、総領町、神石高原町、世羅町が自治体を超えて連携する必要があります。真の地域包括ケアシステムと地域完結型医療が構築できれば、一生涯安心安全な生活が保障されるため、若い世代のU,Iターンが実現して国の地方創成、地域再生を伴った『多角的なまちづくり』にもつながるのです。府中北市民病院は、近隣の郡部に入院施設が長年なかった状況を打破するために多くの先人達が汗と涙を流して昭和18年に開設にこぎつけ、その後もみんなで幾多の困難を乗り越えて守り築き上げた地域住民の病院です。

みなさん決してあきらめることなく、府中北市民病院を守る住民運動に参加することで必死に力を合わせて、声・世論を大きくして、子や孫に命と健康の砦である地域の宝を伝えることが出来るように頑張りましょう。急性期自治体病院として残れば、まちづくりは何とかなりますが、病院が無い地域でのまちづくりは徒労に終わるでしょう。『病院と地域は運命共同体』であるので、病院が無くなると安心して生活が出来なくなるため地域は衰退する運命にあるのです。

真の地域包括ケアシステムを求めて

                       実行委員長 黒木秀尚

l  広島県地域医療構想

国は2025年(平成37年)に団塊の世代がすべて後期高齢者になり、未曾有の超高齢社会に突入し、医療・介護費用や年金等の社会保障費が増大するため、持続可能な社会保障制度を構築するために平成26年6月に「医療介護総合確保推進法」を交付しました。

その施策の一つが「地域医療構想(ビジョン)」で、全国どこにいても住み慣れた地域で、安心安全に一生涯生活できる地域医療提供体制の構築です。

広島県では平成28年3月に策定公表した「広島県地域医療構想」が、湯崎英彦広島県知事から資料ー1のように、「身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることが出来る広島県の実現」の如く定義されました。

資料―1

l  地域包括ケアシステム

「地域包括ケアシステム」とは、地域医療構想と相補的関係にある車の両輪です。すなわち、地域住民が住み慣れた地域で、医療、介護、予防(保健)、住まい、生活支援が連携して、それらの資源を多職種協働で有効に活用し、一生涯安心安全に在宅生活が出来るシステムです。

その地域とは30分で行ける身近な地域で、広島県は125の地域に分かれています。府中市は上下地域と府中地域の二つの地域に分かれ、異なる地域と定義されています。

そしてそれぞれの地域には、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞、熱中症といった普通の病気や怪我で入院ができ、一般的な手術ができる、地域密着型の急性期病院が必須です。上下地域では府中北市民病院がその役割を昔からになっています。地域包括ケアシステムは在宅医療(施設も含む)の推進を目指すものとされていますが、旧甲奴郡、神石郡は広域で、しかも診療所もわずか6施設しかなく、定期的な訪問診療は非常に困難であり、医療・介護資源も不足しているため、府中北市民病院は急変時の受け皿として今後もずっと必要なのです。

 

資料―2

l  地域包括ケアシステムの実際、急性期の病院が必須

具体的には資料ー2のごとくで、在宅や介護施設で生活していた高齢者が、突然の病気や怪我をしたときは、医療機関で治療をします。そして退院のめどがたったら、多職種連携で退院前会議を開催した後に自宅か施設に退院します。在宅生活が難しい場合は、介護サービスの利用か自費で施設に入居します。在宅に帰れる人は、心身の状態に応じて、通所リハビリ、通所介護、訪問看護・介護、訪問リハビリ、訪問薬剤指導、訪問入浴、短期入所生活介護、小規模多機能型居宅介護等のサービスを利用します。その場合介護度が軽度の人は、地域の老人クラブ、自治会組織、ボランティア、NPO等による自助、互助が主体の家事援助等の生活支援やいきいきふれあい等の介護予防事業で対応します。

サービスを提供する側は、行政、地域包括支援センターが窓口になって、定期的に地域ケア会議を開催し地域包括ケアが困難な事例について関係している多職種が情報を共有して話し合い解決策を決定します。そういったサービスを使いながら住み慣れた地域で安心に在宅生活をしていくうちに病気や怪我で急変する場合、30分で行ける地域にある急性期病院へ入院し治療をします。すなわち地域包括ケアシステムの構築には、地域の中に普通の病気や怪我に対応できる急性期の病院が絶対に必要なのです。

 

l  真の地域包括ケアシステム構築には、行政、府中市病院機構と地域住民との協議が必要

しかし、地域包括ケアシステムの策定・構築は、各自治体に任されています。府中北市民病院は府中市が策定した、「府中市地域医療再生計画」に基づいて、JA府中総合病院に経営統合・独法化され、縮小・リストラされました。その結果、診てもらえない、救急入院出来ない、早く退院を迫られる等の弊害が続発しています。そのため行政、医療機関、介護施設、地域の組織・住民が協力して地域の実情に応じて一生涯住み慣れた地域で安心して生活が出来る「地域包括ケアシステム」づくりに着手しなければなりません。また地域包括ケアの生活支援や介護予防は自助、互助で行われることが推奨されているので、地域住民の協力は不可欠で、行政は地域住民との協議が不可欠になります。 

府中市行政、府中市病院機構と地域住民との協議がないままでは、上下地域の真の「地域包括ケアシステム」は実現不可能になり、安心して一生涯暮らせなくなります。そこで地域住民みんなで、府中市と府中市病院機構へ協議を求める要望をする必要があるのです。

 



 ●座長スライド

 








採択決議

 

l  中山間医療不足地域で、一生涯安心に生活が出来るための「地域包括ケアシステム」を構築するためには、入院治療が出来る急性期自治体病院が一つは必要であるので、府中北市民病院を機能回復維持すること

 

l  私達地域住民は、府中北市民病院再生、地域再生を目指して行政、病院と協力した  「真の地域包括ケアシステム」を目指した住民活動を展開します

 

l  府中市と府中市病院機構は、上下町で地域住民へ第一期中期計画の目標を達成出来なかったことを説明し、地域の実情に合致した病院にするための協議の場を設けること

 


第7回地域医療を守る会講演会の御案内

 

l  隠岐の都万村と岡山県哲西町で地域包括ケアシステムを構築し、中山間地域再生に熱く貢献されている岡山大学医学部教授(地域医療)の佐藤勝先生、上下に来る!

-地域包括ケアシステムを学んで、府中北市民病院を機能回復維持して、病院を核とした真の地域包括ケアシステムをみんなで一緒につくりあげましょう!-

l  日時;平成281126日(土)  午後1時半~3時半

l  場所;上下町民会館(大研修室)JR上下駅下車徒歩5分、広島バスセンターから高速バス有(ピースライナー)、無料駐車場多数、参加費無料

基調講演
 地域包括ケアからまちづくりへ―地域全体で支え,育てる地域医療
講師 佐藤 勝 先生
 岡山大学大学院医歯薬総合研究科 地域医療人材育成講座 教授 

 

基調講演は、岡山大学医学部地域医療人材育成講座の教授である佐藤勝先生にしていただきます。佐藤先生は、へき地・中山間地域医療に関する第一人者の先生で、地域包括ケアシステムを核とした地域医療と地域再生に関して素晴らしい実績をあげておられます。島根県隠岐の島、都万村(つまむら)で、最初の地域包括ケアシステムを完成され、住民、行政との連携の下、離島の人口の社会増を実現されました。その実績をかわれ岡山県哲西町の深井正町長に依頼され、新見市に編入合併する前の平成11年頃から、哲西町の住民が最も必要とした医療を中心に据えたまちづくり構想に関与され、地域包括ケアシステムを完成するため哲西町に平成13年に赴任されました。平成17年合併後、哲西町は周辺地域になりましたが、問題解決に向けて住民も当事者意識を持ち、医療関係者、行政と一緒の哲西町診療所を核としたまちづくり・教育文化産業まで含めた地域包括ケアシステムが功を奏して、編入合併後も地域住民は安心安全に幸福な生活をおくっています。それらの地域医療の業績が評価され、平成22年岡山大学医学部教授に就任されました。現在も哲西診療所に勤務されており、地域医療にかける熱い思いで、地域医療人材育成にも取り組んでおられます。

国は30分で行ける身近な地域、住み慣れた地域で、一生涯安心・安全に生活ができるために、地域医療構想をもとに地域包括ケアシステムを全国にくまなく構築しようとしています。地域包括ケアシステムを完成させるためには、地域の中にある限られた保健、医療、介護、福祉の資源を有効に活用して、お互いが密接に連携して多職種協働で事に当たる必要がありますが、急性期医療(病院)が担保されていなければ実現できません。特に中山間医療不足地域では、その地域の中に、肺炎、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症等の普通の病気やけがで入院治療が出来る急性期の公立病院が一つは絶対に必要です。広島県の無医地区の79.6%が集中する広域な旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域で、真の地域包括ケアシステムを構築するためには、府中北市民病院を機能回復維持して、府中北市民病院を核として上下町、甲奴町、総領町、神石高原町、世羅町が自治体を超えて連携する必要があります。真の地域包括ケアシステムと地域完結型医療が構築できれば、一生涯安心安全な生活が保障されるため、若い世代のU,Iターンが実現して国の地方創成、地域再生を伴った『多角的なまちづくり』にもつながります。多くの皆さんが、講演学習会に参加され、当該及び全国地域の再生が実現することを願っています。(会長 松井義武、 実行委員長 黒木秀尚)





府中市と地方独立行政法人府中市病院機構への要望書(抗議)平成28年9月15日

                          平成28915

府中市市長 戸成 義則 様

地方独立行政法人府中市病院機構

理事長 多田敦彦 様

                          地域医療を守る会

                          会長 松井 義武

 

                要望書

 

私達、府中市上下町を中心とした地域住民は、広島県79.6%の無医地区が集中する当該中山間医療不足地域唯一の救急中核病院である府中北市民病院を守るために、平成2012月から計3回署名要望をし、数々の要望と抗議書を提出してきました。しかしその都度、「赤字と医師不足を解消し病院を残すための府中市地域医療再生計画なので理解してください」という返事を頂き、日々健康と命に不安を感じながら生活してきました。

府中北市民病院を縮小・犠牲にして府中市民病院は新築され今年の2月には開院出来ました。しかし平成2885日の中国新聞は、地方独立行政法人府中市病院機構が3年連続の赤字を計上し、発足した平成24年度から毎年49千万円から42千万円の一般会計から繰入をしている実態すなわち公立病院改革プランがうまくいっていないことを報道しました。さらに常勤医師数も発足時から2名も減少しています。このことから一期目の中期計画の4年間が経過して、住民の危惧がすべて的中し、当計画の大義名分の達成どころか逆に悪化している事が明らかになりました。

地方独立行政法人法第25条によると、設立団体の長は、議会の議決を経て地方独立行政法人が達成すべき業務運営に関する中期目標を定め、これを当該法人に指示しなければなりません。また地方独立行政法人においてはPDCAサイクルによる改善活動が義務付けられていますが、府中市と府中市病院機構は、病院職員や地域住民の悲痛な叫びともいうべき声を全く無視して、粛々と府中北市民病院の縮小・リストラを加速させています。病院は深刻な常勤医師不足と、夜勤のできる看護師不足で崩壊寸前の状態です。一般60床のみになった平成264月に25名いた看護師は、現在22名に減少し、夜勤が出来る看護師も22名から19名に減少しています。そのため職員は過労と不安、不満がつのり、医療に不可欠な信頼関係を損なっています。府中市と府中市病院機構が病院職員と地域住民の声を真摯に聴いて早急に適切な見直しを講じなければ、明日にでも地域の医療ニーズに全く合わない診療所か民間移譲になってしまいます。さらに今までの縮小で発生した多くの医療難民は、ほとんどが公立世羅中央病院か市立三次中央病院にやむなくいっており患者離れにも拍車がかかっています。元々地域と診療圏が異なるため当初の目論見のように府中市民病院には行かないので、府中市病院機構の収益は減少しています。府中市病院機構はPDCAサイクルを構築し、継続的な改善活動に着手しなければなりません。

当計画は夕張市の支える医療を参考にしています。しかし平成28620日の日経新聞の報道で明らかになったように、夕張市が平成19年に財政再建のために、171床の市立病院を19床の有床診療所と40床の介護老人保健施設に変更し、急性期医療から在宅医療と慢性期医療に特化したため安心して住めなくなり、多くの子育て世代が近隣の急性期病院と学校がある市、町に転出し、夕張市自体が崩壊しつつある実態が判明しました。このままでは上下町も同じ地域衰退の運命をたどります。

一方、病院の再生は地域の再生に直結する、「病院と地域は運命共同体」ということを、昨年第6回地域医療を守る会講演討論会で基調講演をした島根県公立邑智病院参与の石原晋先生は強調しました。夕張市と同じ平成19年、深刻な医師不足と赤字で崩壊寸前の中山間地域邑南町の公立邑智病院を、石橋良治町長と共に故郷再生を目的に安心して一生涯生活できる病院を核としたまちづくりに取り組み、公設公営の自治体病院のまま病院規模を縮小することなく平成23年度には黒字化を達成し、医師も全国から集まり、産婦人科、小児科の常勤医師を含め10名になり地域医療再生は成功しました。地域再生の戦略は病院を核とした農林水畜産業への選択と集中で、日本一の子育て村構想、半農半エックス(A級グルメ、耕すシェフ)など次々に展開し、平成24年度の合計特殊出生率が2.65と全国トップレベルになり、子育て世代のU,Iターンが年々増加し、転入者が転出者を上回る人口の社会増を平成25年度に達成し、全国から注目されています。

地域医療再生計画は地域再生等のあらゆる観点から歴史的、俯瞰的に策定しないと、急性期病院の崩壊は地域の崩壊につながります。画一的な整理統廃合計画を基盤が脆弱な中山間地域に適応すると地域も崩壊するのです。府中市民が住み慣れた地域で一生涯安心して生活し、真の地域包括ケアシステムを構築するためには、急変時の受け皿となる急性期病院が一つは担保された『治し支える医療』でなければなりません。そうしないと若い世代は転入どころか、転出してしまい国策の地方再生ではなく地域崩壊・府中市崩壊に陥ります。そこで下記の抗議・要望をしますので早急に実行してください。

 

 

1.今日から1カ月以内に府中市と府中市病院機構は、上下町で地域住民へ第一期中期計画の結果を説明し、PDCAサイクルによる改善と地域の実情に合致した病院にするための協議の場を設けること

2.府中北市民病院は夜勤が出来る看護師不足で、存亡の危機に陥っているので早急に看護師を補充し、府中市民病院へ異動した看護師と介護福祉士を戻すこと

3.看護師不足、医師不足、収益減少を理由にさらなる縮小をしないこと

以上


広島県医師会速報会員の声(平成28年8月5日号) 

病院と地域は運命共同体-真の地域医療構想と地域包括ケアシステムを求めて-

       黒木整形外科リハビリテーションクリニック  院長 黒木 秀尚

 

 平成28620日の日経新聞に「夕張市、破綻から10年、街に廃墟、子育て世代半減、生活環境劣化、流出に拍車」と、夕張市の悲惨な現状が報道されました。夕張市が財政再建団体入りを表明してから丸10年経ちますが、当時は夕張市立総合病院(171床)が存在していました。しかし平成19年、市の財政難を理由に医療法人財団夕張希望の杜(村上智彦理事長)を指定管理者として、病気と闘う医療から支える医療に180度転換し、予防医療と在宅医療に特化した夕張医療センター(19床診療所と40床介護老人保健施設)に変更しました。

 しかし今回の新聞記事で、「11校あった小中学校は1校ずつに統合し、総合病院はない。隣町なら学校、病院、買い物などすべてが便利。だからみんな流出する。夕張にはシチズンのほか、ツムラやマルハニチロなどの拠点もあるが、生活環境の貧弱さから、若い世代は住むことを拒んでいる。」と働く場所はあっても、病院、学校などの社会的共通資本が不十分になり、安心して住めなくなると地域の再生・創成はあり得ないことが証明されました。

 一方、病院の再生は地域の再生に直結する、「病院と地域は運命共同体」ということを、昨年府中北市民病院第6回地域医療を守る会講演討論会で基調講演をした島根県公立邑智病院参与の石原晋先生は強調しました。夕張市と同じ平成19年、深刻な医師不足と赤字で崩壊寸前の中山間地域邑南町の公立邑智病院を、石橋良治町長と共に故郷再生を目的に安心して一生涯生活できる病院を核としたまちづくりに取り組み、公設公営の自治体病院のまま病院規模を縮小することなく平成23年度には黒字化を達成し、医師も全国から集まり、産婦人科、小児科の常勤医師を含め10名になり地域医療再生は成功しました。地域再生の戦略は病院を核とした農林水畜産業への選択と集中で、日本一の子育て村構想、半農半エックス(A級グルメ、耕すシェフ)など次々に展開し、平成24年度の合計特殊出生率が2.65と全国トップレベルになり、子育て世代のU,Iターンが年々増加し、転入者が転出者を上回る人口の社会増を平成25年度に達成しました。

 府中北市民病院は府中市地域医療再生計画に基づいてJA府中総合病院と経営統合独法化されて5年目です。病院職員は一生懸命に頑張っていますが崩壊寸前です。平成232月、府中市は統合前に村上智彦理事長を招いて「北海道夕張からの報告、破綻からよみがえった地域医療」と題して地域医療再生講演会を開催しました。そこで村上医師は、「府中市は夕張に似ているので、現状維持している場合ではなく、戦う医療から支える医療に転換すべきである」と講演し、それを府中市は実行しています。しかし現在の夕張と邑南町の状況から分かるように、地域医療再生計画は地域再生等のあらゆる観点から歴史的、俯瞰的に策定しないと、急性期病院の崩壊は地域の崩壊につながります。画一的な整理統廃合計画を基盤が脆弱な中山間地域に適応すると地域も崩壊するのです。だから中山間地域包括ケアシステムは、限られた資源を整理するのではなく有効に維持活用し、急性期病院が核になり周辺の自治体の医療、保健、介護、福祉の連携が必須となります。そのためには府中北市民病院は、県下無医地区の79.6%が集中し府中・福山、備北、尾三の3つの二次医療圏の境界に位置する唯一の救急中核病院であることから、今後の地域医療構想調整会議で特別構想区域として認め、存続させる必要があります1)2)。すなわち「医療と地域は運命共同体」であることを肝に銘じて地域の実情に合った地域医療構想が策定されなければならないのです。またこのことは、超難題の地方創成、地域再生にも密接に関係する最も重要なことなのです。 

1)県医師会速報第2282号 会員の声  2)県医師会速報第2295号 会員の声



府中北市民病院を急性期自治体病院として機能維持し、住み慣れた地域で一生涯安心して生活できる真の「地域包括ケアシステム」を構築するために地域住民がなすべきこと

 

国は2025年(平成37年)に団塊の世代がすべて後期高齢者になり、未曾有の超高齢社会に突入し、医療・介護費用や年金等の社会保障費が増大するため、持続可能な社会保障制度を構築するために平成25年に「医療介護総合確保推進法」を交付しました。

その施策の一つが「地域医療構想(ビジョン)」で、全国どこにいても住み慣れた地域で、安心安全に一生涯生活できる医療提供体制の構築です。そのため昨年(平成27年度)に北部地区町内会と地域住民から、府中市と広島県に『地域医療ビジョンの中で、府中北市民病院を急性期自治体病院として残す要望』を出しています。

その結果、広島県が平成28年3月に策定公表した「広島県地域医療構想」が、湯崎英彦広島県知事から下記のように定義されました。

 「地域包括ケアシステム」とは、地域医療構想と相補的関係にある車の両輪です。すなわち、地域住民が住み慣れた地域で、保健、医療、介護、福祉が連携して、それらの資源を多職種協働で有効に活用し、一生涯安心安全に生活が出来るシステムです。

その地域とは30分で行ける身近な地域で、広島県は125の地域に分かれています。府中市は上下地域と府中地域の二つの地域に分かれ、異なる地域と定義されています。

そしてそれぞれの地域には、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞といった普通の病気や怪我で入院ができ、一般的な手術ができる、地域密着型の急性期病院が必須です。上下地域では府中北市民病院がその役割を昔からになってきており、今後もずっと必要です。

しかし、地域包括ケアシステムの策定は、各自治体に任されています。府中北市民病院は府中市が策定した、「府中市地域医療再生計画」に基づいて、JA府中総合病院に経営統合・独法化され、縮小・リストラされました。その結果、診てもらえない、救急入院出来ない、早く退院を迫られる等の弊害が続発しています。診療所化が目前に迫っています。このままでは、上下地域の真の「地域包括ケアシステム」は実現不可能になり、安心して一生涯暮らせなくなります。そこで今年度平成28年度の上下町内会から府中市への要望に、下記のごとく要望する必要があります。

 

広島県医師会速(第2295号)平成2845日 会員の声

 

真の地域包括ケアが、周辺中山間地域で達成できるための必須条件

        黒木整形外科リハビリテーションクリニック 院長 黒木 秀尚

 府中北市民病院は、旧甲奴郡に入院のできる病院が全くなかったため、上下町住民の長年の運動がかなって、昭和18年に広島県で最初の国民健康保険病院として開設されました。中山間医療不足地域のため、上下病院を中心として、限られた保健、医療、福祉の資源を有効に活用し、昭和57年には、行政の縦割りを排して広島県で最初に保健センターを病院に併設しました。そして民間諸団体と上下地域保健対策協議会の多職種協働のもと、国民健康保険病院の理念である『地域包括ケアシステム』を確立しました。しかし平成16年に府中市に編入合併してからは、上下町独自の組織は解散し、府中北市民病院も平成244月に地方独立行政法人化され、府中市民病院の後方支援病院に位置付けられたため、それまでに上下病院を中心にして確立していた地域包括ケアシステムは、崩壊の状態に陥っています1),2)

 しかし国は、後期高齢者が非常に増加する2025年問題を見越して、全国どこでも住民が住み慣れた地域で、安心して一生涯生活できるための医療提供体制を構築するために、医療介護総合確保推進法に基づいた、地域医療構想を策定しています。その目的として身近な地域での医療・介護サービスを受けることが出来る体制、すなわち『地域包括ケア』の実現を目指していますが、この場合の地域とは、日常生活圏域で、30分圏域と定義されています。広島県の場合は125地域あり、府中市は、府中地域と上下地域の2地域があります。しかし、12月現在の広島県地域医療構想(素案)によると、評価は、すべて二次医療圏単位で行われており、『地域』の定義が30分圏域と異なっている事と、国のガイドラインに明記されている「住民との十分な連携の下に策定する」ことが実行されていません。これでは地域差や地域特性を考慮した、格差のない地域医療構想が、実現できるはずがありません3)

 存亡の危機にある府中北市民病院の透析機械11台中5台が、平成281月にこの2月から新築オープンした府中市民病院に移されました。昨年の811日、『府中北市民病院診療所化の検討』が中国新聞で公表されましたが、危機感を抱いた地域住民が抗議をしたところ、府中市長は、上下町住民に対して、絶対に診療所にはしないと約束をしました。しかし独法化後110床の病院が70床に縮小され、常勤医師も、外科医師が府中市民病院に異動し、7名から5名にリストラされ、平成267月からは、療養病床を廃止し、病床数も60床に縮小されました。さらに平成274月からは、常勤医師数が3名にまでリストラされています。わずか39カ月の今日までの急激な縮小・リストラの経過から、地域住民が一貫して要望している、『急性期自治体病院への機能回復維持』が、確実に遠のいていることは確かです。地域包括ケアを実際に行うためには、当該地域の中に普通の病気や怪我で入院が出来る急性期の病院が担保されないと、府中市民病院まで救急車で1時間もかかり、人口当たり医師数も全国平均の3分の一しかないため、中山間医療不足地域では、在宅を目的とする地域包括ケアは、画餅に帰してしまいます。

 3月中に広島県の地域医療構想が、広島県医療審議会と広島県医療審議会保健医療計画部会で最終的に策定されます。基本理念である「全ての県民が、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることができる広島県の実現」が、達成できるよう本来の地域医療構想の目的である地域包括ケアを実践するためには、府中北市民病院を急性期の病院として残さなければなりません。周辺中山間地域では、『病院と地域は運命共同体』であるので、医療に携わる私たち医師は、核となる急性期病院を存続させ、地域包括ケア達成のリーダーシップを発揮しなければならないのです。

1)県医師会速報第2277号,2)県医師会速報第2282号,3)県医師会速報第2287


         

広島県への要望


平成28225

広島県知事

湯崎 英彦 様

                                                         地域医療を守る会

                        会長 松井義武

      府中北市民病院の機能回復維持と協議を求める第6回要望書

 

 府中北市民病院現状維持と協議に関する第1回地域医療を守る会シンポジウムの採択決議を、平成23120日、広島県に要望してからあしかけ6年になります。広島県は、毎年真摯に私たち地域住民の総意に耳を傾けて下さいますが、現在、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の救急中核病院は風前の灯火になっています。昨年の811日、『府中北市民病院診療所化の検討』が中国新聞で公表されました。危機感を抱いた地域住民が抗議をしたところ、戸成府中市長は、上下町住民に対して、現時点では診療所にはしないと約束をしました。しかしこの間、府中北市民病院は、府中市健康づくり審議会の事実と異なる答申に基づいて独法化されて1)110床の病院が70床に縮小され、常勤医師も外科医師が府中市民病院に異動し、7名から5名にリストラされ、平成267月からは、療養病床を廃止し、病床数も60床に縮小されました。さらに平成274月からは、常勤医師数が3名にまでリストラされています。わずか310カ月の今日までの急激な縮小・リストラの経過から、地域住民が一貫して要望している、『急性期自治体病院への機能回復維持』が、確実に遠のいていることは確かです。

このように地域住民総意の要望を無視して、何の協議も改善もなく、虚偽の答申に基づく『府中市地域医療再生計画』が粛々と計画通りに実行されています。平成2821日に府中市民病院が新築オープンし、平成284月からは、計画のステップ-3すなわち『府中地域全体としての医療提供体制』が始まります。そこでは『府中北市民病院は、より日常的な診療で救急、手術のない後方支援病院』と役割分担されています。平成27年⒓24日に府中市へ同様の要望に行きましたが、行政訴訟をしていることを理由に県が認可した地方独立行政法人府中市病院機構との協議を拒否され、さらに存亡の危機にある府中北市民病院の透析機械11台中5台が、平成281月中に府中市民病院に移され、診療所化に向けた準備が着々と進んでいます。何の権力も持たない弱者である地域住民の藁をもすがる気持ちの行政訴訟を理由に、権力を持つ行政と地方独立行政法人が協議を拒否することは、今の日本で繰り返されている自殺に追いやる深刻ないじめと同じいじめの構造であり、絶対に許されることではありません。 

しかし国は、後期高齢者が非常に増加する2025年問題を見越して、全国どこでも住民が住み慣れた地域で、安心して一生涯生活できるために地域の実情に応じて過不足のない医療提供体制を構築するための『地域医療構想』を、平成27年度中に策定するように各都道府県に指示しています。ガイドラインではその策定にあたり地域医師会、保険者、市町村だけではなく、地域住民との十分な連携の下、拙速に陥ることなく二次医療圏ごとに設けられる地域医療調整会議で意見をまとめ、県が最終的に策定するとされています。そこで平成の大合併後、周辺地域になったところでは、地域住民の声が行政や地区医師会に届きにくいので県が存続すべき病院や、特別構想区域を公表して、基金もそこに措置する必要があります。

すなわち府中北市民病院のように合併後地域の医療が、縮小やリストラで地域の実情に合わなくなっている中山間地域や島嶼部の周辺医療不足地域では、30分で行ける地域の中に肺炎、腹痛、骨折、脳こうそくなどの一般の病気や怪我に対応できる急性期病院を絶対に残す必要があります。

また地域医療構想は、身近な地域での医療・介護サービスを受けることが出来る体制、すなわち『地域包括ケア』の実現を目指していますが、この場合の地域とは、日常生活圏域で、30分圏域と定義されています。広島県は125地域を指定し、府中市には府中地域と上下地域の2地域があります。地域包括ケアを実際に行うためには、当該地域の中に普通の病気や怪我で入院が出来る急性期の府中北市民病院が担保されないと、府中市民病院まで救急車で1時間もかかり、人口当たり医師数も全国平均のわずか三分の一で、診療所も6施設しかないため、中山間医療不足地域では、在宅を目的とする地域包括ケアは、画餅に帰してしまいます。

このように地域包括ケアは、地域医療構想と一体のものでなければ成就しないことから、地域包括ケアが確立されるためには、周辺中山間地域に受け皿としての急性期病院が一つは維持される必要があります。そしてそこには医師派遣も優先的に行う必要があります。そのために当該地域住民も昨年の1128日に第6回地域医療を守る会講演討論会を、『府中北市民病院を医師や看護師が働きたい魅力ある病院に再生して、独立採算可能な病院にするには、どうすればよいか、みんなで考えよう』というテーマで開催し、『府中北市民病院再生、地域再生を目指し、行政、病院と協力した一致団結した住民活動、地域包括ケアを展開する』ことを採択決議し、1224日に府中市にも要望しています。地域住民は必死です。

 これから広島県の地域医療構想が、広島県医療審議会と広島県医療審議会保健医療計画部会で最終的に策定されます。基本理念である『全ての県民が、身近な地域で質の高い医療・介護サービスを受け、住み慣れた地域で暮らし続けることができる広島県の実現』が、達成できるよう本来の地域医療構想の目的である地域包括ケアを実践するためには、府中北市民病院を急性期の病院として残さなければなりません。しかし、1月現在の広島県地域医療構想(素案)によると、評価は、すべて二次医療圏単位で行われており、『地域』の定義が30分圏域と異なっている事と、国のガイドラインに明記されている「住民との十分な連携の下に策定する」ことが実行されていません。これでは地域差や地域特性を考慮した、格差のない地域医療構想および地域包括ケアが、実現できるはずがありません2)。また広島県地域医療構想素案の医療人材確保の施策の方向性に関しては、へき地医療拠点病院の体制整備や、へき地診療所を含めた医師派遣等の支援と、その維持・確保に取り組むとあります。しかし府中市では、僻地の府中北市民病院ではなく、都市部の府中市民病院がへき地医療拠点病院に指定され、上記の如く府中北市民病院を縮小・リストラしている実態からも、地域の実情に合った施策にはなりません。当該周辺中山間医療不足地域では、『病院と地域は運命共同体』であるので、地域医療構想を最終的に策定する県は、医療崩壊に直面している周辺中山間地域にこそ、核となる急性期病院を存続させ、医師を優先的に派遣し、真の地域包括ケアが達成できるように、弱者救済、命は絶対平等とする医療の基本理念に基づいて地域医療構想を策定しなければならないのです3)。湯崎英彦県知事様、地域住民の総意である要望に関して、ご高配とご厚情のほど宜しくお願いいたします。     

 

 

1. 府中北市民病院の機能回復維持(一般救急入院、手術、85床、常勤医師6名以上、市の直営、透析等)

2. 旧甲奴郡、神石郡周辺中山間地域住民が、平等で格差のない医療を受けることが出来るように、地域医療構想で府中北市民病院を、地域の急性期自治体病院として位置づけ、存続させること

3. 地域医療構想策定の評価は、二次医療圏全体で行うのではなく、診療圏ごとに地域住民と協議をして格差のない策定を行うこと

4. 地域包括ケアは地域医療構想と一体のものでなければ成就しないので、地域医療構想で府中北市民病院を、地域の急性期自治体病院として位置づけ、存続させること

5. 病院再生、地域再生を目指し、行政、病院と協力した地域包括ケアを目指した住民活動を展開するので、地域医療構想で急性期自治体病院として残すこと 

6. 地域包括ケアが確立されるため、県は医師派遣を優先的に府中北市民病院に行うこと

7. 何の権力も持たない、弱者である地域住民の行政訴訟を理由に、権力を持つ行政が協議を拒否することは、今の日本で繰り返されている『自殺に追いやる深刻ないじめ』と同じいじめの構造であり、絶対に許されない事なので早急に協議の場を設けること

8. 以上の要望に対する回答を、平成283月末までに文書でお願いいたします

 

                    資料

 

1)          府中北市民病院行政訴訟の正当性と、生き残る最後のチャンスである地域医療構想、広島県医師会速報、第2277

2)          全国の周辺中山間地域病院切り捨てにつながる地域

医療構想評価方法の問題点、広島県医師会速報、第2287

3)          平成大合併後の周辺中山間地域医療・地域存亡に直結する『地域医療構想』と医師会員のあり方、広島県医師会速報、第2282



     

府中市への要望


                                       平成271224

府中市長

戸成 義則 様

                            地域医療を守る会

                            会長 松井 義武

               要望書

 

地域住民が、生まれ育った地域・故郷で、安心して一生涯生活していくためには、肺炎、腹痛、骨折、脳梗塞などの普通の病気や怪我で、入院治療が出来る急性期の病院が、30分で行ける身近な地域に一つは必要です。府中市もそのことをよく理解され、府中北市民病院は診療所化しないことを、北部地区町内会に明言されました。そして、平成27年度に策定される地域医療構想の中で、府中北市民病院を急性期の病院に位置づけられました。

しかし、府中北市民病院が、地域医療構想の中で急性期病院として残る事ができたとしても、平成244月からの地方独立行政法人化による縮小・リストラを皮切りに患者が激減し、医師、看護師が府中に異動や離職し、赤字も増大している状況が打破できない限り、病院として残れる千載一遇のチャンスも水の泡になります。すなわち平成272月、地域住民が広島県湯崎知事に「地域医療ビジョンの中で府中北市民病院を中核病院として残してください」という要望書を提出したとき、広島県から「広島大学ふるさと枠の医師が、行きたい病院、働きたい病院、魅力ある病院」になっている必要があると言われ、同年1月の戸成府中市長への要望時にも、戸成市長から「経営が安定して独立採算が出来る病院が、残れるための絶対条件である」と言われました。確かに地域医療構想の中で、病院として残ることが出来ても医師が行きたくない病院、魅力のない病院で大赤字を垂れ流していたら、一旦病院存続が認められたとしても、早晩診療所になるでしょう。

そこで1128日に上下町で開催した第6回地域医療を守る会講演会で、『府中北市民病院を魅力ある病院に再生して、独立採算可能な病院にするには、どうすればよいか、みんなで考えよう』というテーマで、公立邑智病院参与の石原晋先生、公立世羅中央病院長の末廣眞一先生、甲奴診療所所長の重岡尚也先生を交えて、200名の参加者と一緒に公開討論をしました。邑智病院を再生され、邑南町を再生された石原先生は、『病院と地域は運命共同体である』と言われました。そして『①府中北市民病院の機能回復維持(一般救急入院、手術、85床、常勤医師6名以上、市の直営等)と、②病院再生、地域再生を目指し、行政、病院と協力した一致団結した住民活動を展開する』が、採択決議されました。前者の85床、常勤医師6名以上は、地域の医療ニーズに合った規模の病院で、府中市が住民に要望した独立採算が可能な急性期の病院として存続するためにも必要です。後者は、具体的には地域住民が地域医療構想の目的でもある『地域包括ケア』を、病院と行政に協力して実践することで病院再生、地域再生に繋がります。しかしそのためには受け皿としての急性期病院が30分で行ける身近な地域の中にないと、地域が広域になるため、二つの病院が遠すぎる府中市地域医療再生計画のように画餅に帰してしまいます。

府中市地域医療再生計画は、根本的に間違っているため、平成231月と平成2678月に計3回も多くの地域住民により、計画の見直しに関する協議と、急性期府中北市民病院への機能回復維持を要望した署名が提出されています。そして府中市健康づくり審議会の事実と異なるうその答申に基づいて作成され、多くの弊害を出していることなどからも、地方独立行政法人が解消され、一刻も早く改善されなければなりません。そうなれば地域住民は、府中北市民院の機能回復維持、独立採算可能な魅力ある病院再生に関して府中市への協力は、一切惜しみません。府中市全体の発展のためにも、戸成義則市長のご英断とご高配を切に要望いたします。 

 

                        記

 

1.府中北市民病院の機能回復維持(一般救急入院、手術、85床、常勤医師6名以上、市の直営等)

2.病院再生、地域再生を目指し、行政、病院と協力した一致団結した住民活動を展開する 

                                                 以上

 


第6回地域医療を守る会講演討論会(中山間地域医療シンポジウム)
平成27年11月28日開催、上下町民会館



基調講演   公立邑智病院参与 石原晋先生

『田舎の医療現場からの「憂国」』

  ●  はじめに

・公立邑智病院と邑南町の概略、島根県石見地方、邑智盆地にある

・浜田市まで40分、出雲市までは100分、広島市は70

・今、地元ではJR三江線の廃止問題が真っ盛りである。毎年20億円の赤字経営。しかし地域住民の足として必須。JR西日本の経常収益は1219億円もあるのになぜ!?

・府中北市民病院問題の真実と存亡の危機にあることを知ってから、この問題は許せないと思ったので、上下町に来ることにした。これは全国の深刻な問題でもある!

 
  公立邑智病院の再生

・自分が好きなものは、日本、内田樹、川原宏、下村治、中野剛志

・嫌いなものは、新自由主義=市場原理主義=グローバリズム

・中国5県のドクターヘリ事業に大きな関与と貢献

・邑智郡の人口は22千人で唯一の救急告示病院である

・平成18年に存亡の危機に直面、常勤医師数11名→6名↓、病床利用率48%、赤字

・平成194月に院長に就任し、病院の再生が、地域住民にとってなぜ必要なのかを考えた

・現在は98床、9科、常勤医師数10名、職員数150名、黒字、平成21年ヘリポート設置

・救急車を断らない、みんなで何でも診る

邑智病院の基本戦略

   職員満足を至上の価値とする、②教えやいこ、助けやいこで何でも診療、③地域住民への広報、④ヘリ活用の推進、⑤総合診療の研修拠点

  ・職員満足を至上の価値とする-賃金、社会貢献、自己実現

  ・すべての職員は労働の目的を追求する権利を有する

  ・仕事と職場が楽しければ、他のことは後からついてくる

  ・お医者様文化の排除―医者の無理難題が通る、雰囲気の悪い職場ではなく、お互いの権利を尊重しあえる職場への転換

  ・相互指導と相互協力―専門分野にこだわらない、総合医(なんでも医)による総合診療(何でも診療)

  ・専門分野にこだわらず、地域のニーズの8割に応える

  ・「萎縮医療」と「背伸び医療」のはざまを認識(決して無理はしない、紹介もする)

  ・何でも診ることに対する患者のクレーム、訴訟には組織として対応し、住民の理解を得るために、定期的な広報活動を各地で行っている

  ・看護師不足対策として、各職種の業務分担、垣根をはずしたカバー体制

  ・平成23年度から黒字化に成功、医師も全国から集まって来て10名に(産婦人科医、小児科医、外科医、麻酔科医、内科医、総合診療医)

  ・安心して出産できるので、子育て世代の転入者の増加(平成26年度人口の社会増)

 公立病院の存在意義

・全国平等な医療が受けられるための国の施策。憲法第25条(生存権)の尊守

・昭和20年代半ばまでは、日本人平均寿命は50歳代で織田信長の時代と大差なかった!

歴史的に日本は民間病院主体の国であるため、採算が取れない地方や田舎、中山間地域には、採算が取れないため病院が無かった。

・医療保険も病院もない時代が長く続いた。昭和20年代初頭まで、初めて医者にかかる時が埋葬許可書をもらうため、医師の死亡診断書をもらう時、という人が多かった!

昭和20年代後半から30年代にかけて、日本全国津々浦々まで、『命より大切な物はない』という社会保障重視の考えで、自治体病院(公立病院)が設立された。国民の税金が、地方交付税として措置されている

・昭和36年国民皆保険制度開始

・昭和60年から日本人平均寿命は世界一、WHO『日本の医療は世界一』と絶賛

・国民の税金が、地方交付税として措置されている

民間には出来ない、救急医療、お産、小児科医療といった不採算医療、地域に必要な医療を、地域に穴をあけないために受け持っている。赤字覚悟の病院で、民間には決して出来ない。

府中北市民病院

  総務省が公表している平成21年度、22年度の決算状況から、地方交付税が全額繰り入れられていない事が分かった。邑智病院より経営状態は良く、交付税がきちんと繰り入れられれば、黒字病院である。

 

 ●日本の医療崩壊問題(現在も進行中!)

・いろいろ勉強した結果、病院がつぶれるのは、国のかじ取りに問題がある事が分かった

市場原理主義=新自由主義(社会保障より経済第一、命より金やものが大切)

    小さな政府(官から民へ)社会保障費の抑制

    聖域なき構造改革

    競争社会

    格差社会は経済活性化につながる

  ・医療分野への市場原理の導入―医療費抑制政策

    診療報酬削減

    公的負担軽減

    患者負担増加

    医師数削減

    病院数/病床数削減

  ・新自由主義 / 市場原理主義根拠の間違い

    リカードの比較優位理論(国際分業論、自由貿易体制)―間違っている

    トリクルダウンダウン仮設―間違っている

 

  ・平成19年公立病院改革ガイドライン(総務省)

    ・公立病院の統廃合、縮小・リストラ、民営化政策

    ・府中北市民病院のJA府中総合病院との経営統合、縮小・リストラ

  ・平成26625日 医療介護総合確保推進法

    ・地域医療構想-病床数削減、医療難民、介護難民の増加必発

    ・地域包括ケアシステム-公助、共助から自助、互助へ、官から民へ

    ・公立病院への交付税(8000億円)の見直し。民間病院と同じにする

 

  ・地方創成の考え方は、田舎が衰退すると第一次産業が衰退し、日本が衰退するので、田舎を再生し、日本を再生しようとするものであるが、現在国が力を入れて推し進めている、グローバリズム対策と称したTPP、医療法改正などの施策は、地方の産業やセーフティーネットを破壊し、地方の衰退を招く施策で、整合性がない。国のかじ取りを改善すべきである!

 

●対策

地域住民が一致団結して、生まれてくる子孫のために、「この町に、この国に生まれてよかった」と思われるよう頑張ることが必要である。

・一生涯地域で安心して暮らせるために、病院を中心とした地域包括ケアシステムを、住民が病院、行政と協力して構築していく必要がある。

・そのためにも30分で行ける身近な地域に急性期の病院が一つは必ず必要なので、地域住民みんなが、『府中北市民病院は、急性期の病院として存続しなければいけない!』という一致団結したあらゆる住民活動を粘り強く続ける必要がある。

病院の再生は、地域の再生に直結する。お互いは運命共同体の関係にあることを、地域住民は、肝に銘じておかなければならない。


公開討論

論点―1 府中北市民病院の再生

l  末廣先生

・地理的に府中北市民病院と世羅中央病院は、医療資源が乏しい県北中山間地域になくてはならない病院である。医師不足で世羅中央病院にも常勤医師は11名しかいない。

府中北市民病院が、独法化され縮小リストラされてから、多くの救急患者や、外来患者さんが世羅中央病院に来ている。上下町の患者は絶対に断らないようにしている。

平成26年度の上下町住民213件の救急患者の内、府中北市民病院には90件(42%)、世羅中央病院には48件(23%)も搬送されている。

・医師の過重労働による疲弊を防止するため、土曜日の当直は24時間、大学から来てもらっている。また整形外科は多忙なので、土日の待機医師を大学から派遣してもらっている。

l  重岡先生

・甲奴診療所は、府中北市民と世羅中央病院と連携しているが、病院の手助けが役割である。

病院は入院患者を主に診療し、外来が忙し過ぎると医師の定着に響く。役割分担が必要。

オープンベッドになれば、出来るだけ協力するが、病院の医師が主役になる。

l  石原先生

地域包括ケアを実践して、上下町が住みやすい町になるためには、病院が絶対に必要。

・邑南町の場合は、地域住民と議員が病院を支えてくれている。

冷たい行政を逆手にとって、病院を再生することが、間接的に地域の再生につながる。

l  黒木

上下町時代に地域包括ケアは完成していた。上下町は、医療、保健、福祉、食育、母子保健、社協などが共同して健康づくり大会などを、催していたが、それを復活するとよい。

l  藤井会長

上下病院の再生には、①働く場所と人を増やす、②子育て世代、20代から30代の女性を、養育手当、医療費の無料化などで呼び込む、③上下高校に保健福祉科を創設する、④病院の4階に準看護学院をつくる、⑤奨学金制度、⑥女性が増えれば、男性が増える。

l  石原先生

邑南町の場合は、2つの旗がある。一つは『A級グルメ』、二つ目は『日本一の子育て村構想』である。中学校卒業まで子供の面倒は町がみてくれる。

・出産は、年間80件で赤字であるが、町が補てんしてくれている。 

3年前から20名転入者が転出者を上回り、人口の社会増が平成26年度に実現した。

・子育て環境に加え、『半農半エックス』で上手くいっている。

・メディアが取り上げてくれたことも大きい。

l  中曾さん

・裁判の行方と医師確保に関する行政の役割

l  増田義憲弁護士

・国政選挙・小選挙区制(一票の重み)の地域差の違憲判決が出ているが、5倍の格差が2倍まで縮まったのは裁判をしているからである。

裁判をしたから病院の再生が妨げられるという人は、裁判を良く思っていない人である。

裁判をする者が救われず、裁判をしない者が救われるのか。

l  末廣先生

行政のバックアップは必須で、かつ一番重要である。

・世羅中央病院の場合は、必ず町長、企業長が大学の医局に医師派遣を、お願いに行く。

l  石原先生

邑智郡の人は、病院と運命共同体である。病院がつぶれたら、地域がつぶれる。病院は郡内の最大雇用施設である。150人雇用している。病院関係で商売をしている人は多い。

・邑南町は、邑智郡22千人の中で人口が最も多く、1万3千人いるが、上下町の場合は5千人が府中市の4万人にどう分からせるかが、難しい。しかしその難問を突き破ることが出来るのは、地域住民の声である。

・民主主義は民意なので、メディアはその民意を取り上げるべきである。

 

論点―2 医師や職員が働きたい、魅力ある病院にするためにはどうすべきか

l  末廣先生

一生懸命になってくれる院長の招聘が必要である。

・地元医師を招聘する。

・医師に病院や地域を知ってもらうために、アルバイトに来てもらう。手当は十分にする

・看護師には10年前から、奨学金を出している。5万円で、勤務したら返済免除する。

・病院に24時間保育所を設けている。夜勤の看護師、女医が助かっている。

l  重岡先生

・若い医師は給料が、他と同じであれば問題にしない。

医師の目標が達成できる環境が必要。研修時間。高次病院での研修。学会参加等。満足度が違ってくる。自分がしたいことが、邪魔される環境はダメ。

・地域、人が印象に残る努力と工夫が必要。『甲奴町には面白い所と人がたくさんいる』等。

・患者がなぜここの病院にかかっているかを、遠慮なく医師に話して、医師にやる気を起こさせてほしい。(例、「息子が広島から帰ってくるまで、病気を治療して元気でいたい」等)

医師の勉強になり、希望をくんだ医療が出来る地域。

住民が頼りにしてくれる。

・医師の家族が住んでいるぐらいで、ちょっと気にかけてくれるが、あまり干渉しない環境が大切。やいのやいの言わない事が重要。

普通の人と同じように接してくれる環境が大切。ごく普通の近所づきあいが出来る環境が大切。心が伝わる環境。

・子供を通じての母親同士の普通の付き合いが出来る環境。

l  石原先生

・医師以外の病院職員は、Uターンが多い。Uターン願望はあるはずである。

お互いのやりがいや生きがいを尊重して、明るい雰囲気の職場にすることを心がける。

・ホームページに公表する。10人中9人の医師がよそ者である。

・着任したときは、楽しい職場ではなかった。3K(暗い、汚い、臭い)の病院であった。

・医師はちやほやされるから来るのではない、明るい雰囲気のよい職場を求めているのだ。

l  高橋師長

・鈴木クリニックは、職員6名、ボランティア1名のこじんまりしたクリニックである。

・自分が看護師長で8年経ったが、誰もやめていない。

・院長の方針は、『家族を大切にしよう』で、休みを取る時は、「すみません」というのではなく、「ありがとう」と言って、『心と心が通じ合う職場』にしている。

3年前から神石高原町立病院へ鈴木クリニック全員が応援に行っているが、職員が神石高原町立病院に移りたいという人は、幸い皆無である。すなわち職員を大事にすることが必要である。職員が第一。

l  黒木

高橋さんが言われたように、『今の日本は、心と倫理がない国』になっていることが、問題です。

l  市立三次中央病院 中西敏夫院長

府中市病院機構の多田理事長や戸成管理者と地域住民が、協議して府中北市民病院の立ち位置について、もう一度明らかにしておくことが大切である。

・病院長が来ないのも踏ん切りがつかない原因である。自治体ものってこない。

・再生には三次、世羅の関与が必要。

・自分が庄原日赤の院長だったとき、西城病院をどうするかということが問題になった。立ち位置を住民に話して、庄原と一緒ではだめということになった。西城は西城町の病院として残し、行政がバックアップしている。

l  松井会長

・研修医や医学生が、上下町に研修に来たとき、必ず上下町の街並みを案内している。

・上下町の住民は歴史的に協力的で、医学生や研修医によく声もかけている。

・上下町民は病院を大切に思っており、草刈りなどの病院ボランティア等もしている。

 

採択決議

(1) 府中北市民病院の機能回復維持(一般救急入院、手術、85床、常勤医師数6名以上、市の直営等)

(2)病院再生、地域再生を目指し、行政、病院と協力した、一致団決した住民活動を展開する


6回中山間地域医療シンポジウムの御案内

 

-府中北市民病院の再生-

崩壊寸前の公立病院を立て直し、中山間地域再生に貢献されている島根県邑南町の公立邑智病院参与の石原晋先生上下に来る!

 

日時;平成271128日(土)、 午後1時半~午後3時半

場所;上下町民会館(大研修室)

 

基調講演;石原 晋 先生(島根県邑智郡公立病院組合 公立邑智病院参与)

      演題 「田舎の医療現場からの『憂国』」

       ・赤字と医師、看護師不足で崩壊寸前であった、島根県中山間医療不足地域唯一の公立邑智病院を、黒字病院に再生

       ・医師が全国から集まってくる病院に再生

       ・邑南町は『日本一の子育て構想』を掲げ、平成24年度の合計特殊出生率が2.65と全国トップレベル

       ・子育て世代のU,Iターンが年々増加し、転入者が転出者を上回っている

       ・戦略は、医療、保健、福祉、介護を核とした『農林水産業への選択と集中』

 

テーマと論点;1)府中北市民病院の再生

       2)縮小・リストラで減少した患者さんをどう取り戻すか

       3)広大ふるさと枠の医師や職員が働きたい病院とは

 

討論者;石原 晋先生(公立邑智病院参与)

末廣眞一先生(世羅中央病院院長)

重岡尚也先生(甲奴診療所所長)

会場参加者

 

今回の特徴;会場参加者との討論

 

主催;地域医療を守る会

会長;松井義武、実行委員長;黒木秀尚、事務局長;水田豊

会場周辺には無料駐車場が十分あります。JR福塩線上下駅下車徒歩5分、広島市からは、広島バスセンターからピースライナーで上下駅 下車徒歩5

       


「府中市地域医療再生計画」驚愕の真実   
平成27719 

平成20年の冬にJA府中総合病院の外科医師が岡山大学に引き上げ、診療所化が示唆されました。平成219月、府中市健康地域づくり審議会(寺岡暉会長)は、平成212月伊藤吉和市長の継続可能な府中市地域医療提供体制についての諮問に対して答申を行いました。その答申を基に平成2111月府中地域医療提供体制(中間報告)が公表され、寺岡記念病院、JA府中総合病院、府中北市民病院の病院共同体構想が明らかにされました。その計画は平成2111月広島県地域医療再生計画B案に採択され、府中市は平成217月に公表された地域医療再生基金(麻生内閣補正予算)の75千万円を獲得しました。さらにそれらを基に平成233月「府中市地域医療再生計画」が策定され、平成243月その計画に基づく地方独立行政法人の定款が議会で承認され、41日から府中北市民病院とJA府中総合病院が経営統合して、地方独立行政法人化されました。

 一方、府中北市民病院は平成177月の29300万円特別損失を機に、府中市により健全化計画が平成181月から開始されました。当初は府中北市民病院は歴史的に中山間医療過疎地域の救急中核病院であることから、「現状維持で独立採算を目指す」方針でした。しかし平成186月に医療法が改正され、民間病院が公立病院を経営することが出来る『社会医療法人』が創設された後は、健全化計画の方針を180度転換して「高齢者慢性期医療」特化する縮小リストラ計画に大きく変更されました。府中市は健全化計画を策定するため、府中市健康づくり審議会に新たな専門分科会として市立病院経営審査分科会を設けました。そして平成18年度から5か年計画で経営分析を行っており、平成22318日、「平成21年度は、市立病院側から分科会事務局に毎月経営成績の報告があり、公立病院改革プランの収支計画が目標どおり達成出来ていた」と府中市健康づくり審議会へ報告していました。

 しかし平成219月の府中市健康地域づくり審議会の答申の中では、「病院存続に向けて取り組みが行われてきたが、収益が大幅に減少し、財務内容は大幅に悪化し、健全化計画は頓挫したと判断しており、平成23年度までの『公立病院改革プラン』期間中に、経営形態の見直しを含む抜本的な改善策に取り組まなければ、病院の存続さえ困難になる」と府中市へ真実と異なった答申をしていました。実際、平成21年度が1900万円、22年度が92万円の赤字で済んでいました。さらに平成21年度から府中北市民病院は、不採算地域病院に認可され国から9800万円の特別交付税が措置されていたので、その特別交付税が全額繰り入れられていれば黒字決算になっていました。総務省は、全国の自治体病院の決算状況及び比較経営診断を行ったうえ経営指標をインターネットで公表していますが、この病院事業決算状況によると、平成21年度と平成22年度の北市民病院の「医業収支比率」は、97%、99.3%で、何れも95%以上でした。これを平成223月に発表された平成20年度に関する経営診断表の「病床規模別医業収支比率別病院数の状況」一覧表に照らして比較してみると、北市民病院は全国の自治体一般病院228病院の内47病院以内に位置し、経営は約21%以内に位置する優良な経営状況であったことが明らかになりました。

 さらに府中市も市民にうその宣伝をしていたことが判明しました。平成229月、府中市地域医療再生計画に関する協議会が設置され、1026日に第1回住民部会(上下地区グループ対象)が開催されましたが、その時府中市は①「医師不足のため医師を派遣し続けてもらうことは不可能であり、現状のままで病院を存続することは出来ない」旨報告し、また、②経営面についても、収益の大幅な減少を強調したうえで、前記審議会答申を根拠として北市民病院の独立行政法人化などを提案しました。しかし広島県は、平成21年度から、中山間地域の医師の確保のために、広島大学に「ふるさと枠」の入試制度を作り、義務年限9年間のうち、4年間は中山間地域の公立病院に勤務することを条件とする奨学金入試制度を設立していました。このため、この学生が卒業する平成273月には5名、平成28年度には15名、平成29年度は18名、その後は20名ずつの医師が誕生する予定であり、中山間地域の医師不足は解消される予定でした。当然府中市もこれを承知していたのに、これには全く触れず医師不足の不安だけ強調したのです。このように、府中市は、住民らに府中市が先導する医療機能再編もやむなしとの意識を植え付けたのです。

 真実と異なった答申による府中市地域医療再生計画に基づく地方独立行政法人化は無効です。裁判の第一審では「独法化は手続き上法的な問題はない」ことから、2年3カ月の裁判の後、平成26716日に原告の訴えは「却下」され、原告は裁判をする資格がないと門前払いをされました。しかし府中市健康づくり審議会の真実と異なった答申による計画に基づく独法化が、認可され継続されてよいのでしょうか!これらの新たに分かった真実により、控訴審で証人尋問が実現し、真実が全国に公表されると強く信じています。全国の皆さん、こういった作為的な地域医療再生計画が他の周辺地域にもあると思われます。これを機に世論をもっと大きくして決してあきらめることなく、住民の命と健康と生活の保障、地域再生の中心である自治体病院の機能回復維持を目指して頑張りましょう。




 
                           
平成
27430

府中市長

戸成 義則 様

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

 

                  要望書

 

 命と健康と生活を守るために、地域医療を守る会および府中北市民病院診療圏域住民は、旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の救急中核病院である府中北市民病院の急性期自治体中核病院としての機能回復維持と協議を求める要望を府中市に対して再三してまいりました。その結果、平成2665日には府中市の新市長に選出された戸成義則市長自らが、府中市長としてはじめて私達地域住民の要望に耳を傾けられました。さらに7月と8月には、71日付で府中市によって強行された療養病床の廃止とさらなる病院の縮小撤回に関する府中市長および地方独立行政法人府中市病院機構理事長あての署名4,907筆も受理されました。そして86日には上下町民会館で開催された府中市長との懇談会で北部地区町内会からの府中北市民病院の機能維持に関する要望も直接聴かれ、平成26年度の北部地区から府中市への同じ内容の要望も受理されています。今年になってからは、122日に地域医療を守る会第5回シンポジウムで診療圏域地域住民が採択決議した内容の要望書を直接受理されています。

しかし府中北市民病院は府中市によって徐々に縮小され、医師不足と赤字が増大し、診療所化に向かって進んでいます。すなわち府中北市民病院が独法化される直前には、常勤医師数は7名でしたが、平成244月の独法化後から病院は縮小され、常勤外科医師が府中市民病院に異動したため5名に、平成25年度は4名に、平成26年度に常勤外科医師が復帰しましたが、内科医師が1名減少し4名と徐々に減少していきました。そして病床数も独法前の110床が平成24年度から70床へ、そして平成267月からは60床に縮小されました。その結果、病院収益も規模が小さくなるため当然減少し、赤字額は増大しています。さらにこの度、平成274月から常勤外科医師が府中市民病院に異動し、再び常勤外科医師不在という状態になったことと、常勤医師数がわずか3名に減少し、赤字のさらなる増大も強く予想され、医師数の減少に伴い医療法に基づく人員配置基準で、病床数が常勤医師1人当たり16床までと定められているため、医師が年々減っていくと病床数も徐々に減っていき、診療所化や民営化が現実のものになってきました。

このことは府中市が、「地方独立行政法人化の目的と大義名分が医師不足と赤字の解消であり、府中市地域医療再生計画は府中北市民病院を、病院として残すための医療再生計画だから納得してほしい」と、地域住民に耳触りのよい言葉で説明し、説得させた目的を達することが出来ず、地域住民の命をかけた約束を反故にすることになります。さらに総務省の平成263月末時点での『公立病院改革の概要』全国公開資料(資料)において、府中北市民病院は再編後、『二次救急病院府中市民病院の後方支援病院』として公表されています。それは府中北市民病院の機能が府中市民病院を退院した患者のリハビリや看取りの慢性期医療に特化することを意味しており、将来的には民営化することにつながります。このことを府中市は地域住民に明言したことがなく、公にしていませんでした。

憲法で定められている主権在民の日本で、市民の信託の下に働くべき府中市行政が、6年間にわたる地域住民運動の民意を無視して、約束を守らず詭弁を弄して中山間医療不足地域住民の命と健康と生活の砦である唯一の府中北市民病院を粛々と縮小し、診療所化や民営化に誘導している事に対して強く抗議をいたします。そして我々地域住民は、命と健康と生活を守るために、府中市に対して下記のことを強く要望します。

 

                  記

 

 

1.府中市は上記の抗議内容に対して、地域住民と担当課および地方独立行政法人を交えた三者協議の日時を今回の要望時に決めること。三者協議とPDCAサイクルに基づき改善した新府中市地域医療再生計画を公表すること。

2.府中北市民病院の常勤医師数と病床数を住民との協議も合意もないままに減らさないこと。府中北市民病院診療圏の医療ニーズに合致した常勤医師数6名以上、病床数85床に回復維持すること。

  3.府中北市民病院に常勤外科医師を早急に復帰させること。

4.地方独立行政法人府中市病院機構府中北市民病院の位置づけを後方支援病院から中山間医療不足地域急性期病院に訂正し、総務省を通じて公表すること。

5.府中北市民病院を診療所化や民営化せず、急性期自治体病院として地域医療ビジョンの中に位置づけること。その実現のため、府中地区医師会、福山府中地域保健対策協議会と広島県にそのことを早急に強く要望すること。

                                   以上

 

                              平成27212

広島県知事

湯崎 英彦 様

                             地域医療を守る会

                             会長 松井 義武

                 要望書

 

 

府中北市民病院は診療圏が福山・府中、尾三、備北二次医療圏にまたがり、それらの境界に位置する特殊性があり、昭和18年設立され昭和24年広島県で初めての国保病院に認可されてから今日まで中山間医療不足地域住民の命と健康と生活を保障する数多くの実績をあげてきました。今後も国の地方創成にかなうよう限界集落に陥ることなく、地域住民が将来にわたって安心安全に生活していくためには、広島県の77%もの無医地区が集中する旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域では、唯一の救急中核病院である府中北市民病院が自治体病院として存続することが必須です。

しかし平成192月府中市が府中北市民病院を縮小し、高齢者医療に特化する病院に変換する府中北市民病院健全化計画を発表してから、診療圏の住民は病院存亡・故郷存亡の危機感が次第に増大し、平成2012月から病院を守り故郷を守るための住民運動を今日まで展開してきました。また府中市地域医療再生計画は、先の計画と平成1912月に公表された公立病院改革ガイドラインに基づいて、JA府中総合病院と府中北市民病院を経営統合し、地方独立行政法人化することで、平成217月の地域医療再生基金の獲得も目的とし、広島県は認可するという重要な役割を担っていました。

 そこで、平成2212月の地域医療を守る会第1回シンポジウムを皮切りに、採択した決議を過去4回シンポジウム開催後に府中市だけでなく広島県にも陳情・要望してきました。平成23120日の第1回の陳情では、17,108筆の署名と共に、府中北市民病院が当該中山間地域になくてはならない実態(年間述べ患者総数8万人以上で、急性期の患者が多く、病床利用率90%以上、救急車242件、手術150件等)を説明した後、府中北市民病院の現状維持(常勤医師数7名以上、85床、一般救急入院、手術機能維持、市の直営)と、府中市地域医療再生計画の見直し、24時間・365日の救急体制の維持、中山間地域医療が損なわれないよう府中市への指導を要望しました。

 平成24126日には2回目の要望をしており、①地域医療再生計画見直しに関する要望、②地域住民との協議と合意の要望、③府中北市民病院現状維持に関して、平成32年度までの一般病床1日平均利用数は、平成22年度の45.2床から44.2床とわずか1床しか減少しないこと、85床は経営効率も良い事、④市の直営、⑤府中北市民病院を基幹病院とする事、⑥地方独立行政法人化の中止を要望しました。

 しかし以上の要望は府中市にも広島県にも全く聞き入れられることはなく、文章での回答もないまま、平成233月に地方独立行政法人化が、絶対多数の与党議員によって府中市議会で議決され、府中市地域医療再生計画が実質的に承認されました。そして広島県が認可して、平成244月から地方独立行政法人府中市病院機構として発足させました。そのため受忍限度を超えた地域住民は、裁判をしなければならないほどに窮地に追いやられました。

 平成25214日の3回目の要望は地方独立行政法人化後初の要望でした。平成244月から11月までに黒木整形外科クリニックを受診した患者のなかから無作為に選んだ約360名に縮小されてからの弊害を聞き取り調査したところ、155名(43%)の人たちが、縮小による弊害を体験したり、聞いたりしていました。予想通り多くの医療難民が発生したことから、当計画が間違っていたことが証明されました。そして今までの要望に加えて、広島県の中核病院至適常勤医師数の調査と公表、その調査結果に基づく広島県二次医療圏の見直し、療養病床の維持、財団法人広島県地域保健医療推進機構への医師派遣の要望、湯崎英彦知事との面談を要望しました。

 平成26220日には4回目の陳情をしました。そこでは新たな陳情として、病院が縮小され、独立行政法人化されたため1年後には非常に多くの医療難民、救急難民、入院難民が発生し、統合前の平成2211月の地域住民の危惧がことごとく的中したこと、府中市が進めている在宅医療は、急性期医療と受け入れ先が担保されて初めて可能になるため根本的に間違っている府中市地域医療再生計画を早急に抜本的に見直し、府中北市民病院を機能回復する必要がある事、広島県地域医療再生計画のPDCAサイクルに則った早急な調査、南海トラフ大地震、大災害に備えて機能の維持・充実の必要性、1,305名が回答した過去5回の住民アンケート結果で91%の住民が機能回復維持を望んでいる事を要望しました。

 この度、平成261213日に第5回シンポジウムを開催し、府中北市民病院は、①広島大学ふるさと枠医師の配置指定病院であること、②中山間医療不足地域唯一の救急中核病院であること、③三つの二次医療圏の境界に位置すること、④昭和18年以降地域住民の命と健康の砦であること、⑤過去4回のシンポジウムの採択決議と病院の実績データーを県に陳情説明していることから、地域医療ビジョンの中で自治体中核病院として残る妥当性があることを採択決議しました。

 さて地域医療を守る会と地域住民は、上記の如く平成231月から幾度となく府中市と広島県に対して府中北市民病院の機能維持と地域住民との協議を要望していますが、一度も実現していません。その間府中北市民病院は、府中市地域医療再生計画に基づいて粛々と縮小されています。平成266月には地域医療を守る会が、住民との対話を重視する戸成義則府中市長と初の面会を果たし、先の要望に加え「さらなる60床への縮小と療養病床の廃止の撤回」を要望しましたが、協議することなく71日から強行されました。さらに78月に4,907筆の地域住民の療養病床廃止撤回署名をもって陳情もしましたが、何の改善もなくそのため患者さんは十分な期間入院が出来なくなり、退院後すぐに死亡したり、施設を転々としたりで、家族ともども在宅での療養生活が非常に困っている弊害が少なくありません。早急な調査と救済が必要です。

府中市と広島県は地域住民に「府中市地域医療再生計画は病院を残すためだから何の問題もない」と説明してきました。しかしどのような病院として残すのかについては、一切説明がありません。旧甲奴郡、神石郡の中山間医療不足地域唯一の救急中核病院は、肺炎、腹痛、骨折、脳こうそく、マムシ咬傷といった普通の病気や怪我で、入院や手術が出来ることが必須です。救急や手術が出来ない民間病院や診療所ではなく、自治体直営の病院でなければならないのです。また後方支援病院も全くないことからリハビリをするための療養病床も必須です。

府中北市民病院は平成274月から内科常勤医師が一人になる可能性があると聞いています。府中市と広島県が何もしなければ診療所化が目前です。そこで、その対策として国の政策である地域医療ビジョンを平成27年度に広島県が策定しますが、広島県に地域医療ビジョンに中で、府中北市民病院が急性期の拠点病院として認めて頂ければ、現時点で95名もの学生が在籍している広島大学医学部ふるさと枠の医師が、3年後から広島県と広島大学が決定した府中北市民病院をはじめとする12か所の中山間地域の公的病院に派遣されるため、深刻な医師不足が解消されます(資料-1)。これは地方独立行政法人府中市病院機構にとっても医師不足解消につながる絶好の機会です。雇用誘発係数も高い自治体病院として存続することで安心安全に生活できる地域として保障されるので、若い人達がUターン、Iターン、Jターンでき、府中市と広島県の地域と地方創成・再生にも直結します。

平成261213日に上下町で地域医療を守る会第5回シンポジウムを開催し、府中北市民病院が地域医療ビジョンの拠点病院になることを200名の参加者が採択決議しました。またその時のアンケートでも148人中122人(82.4%)の地域住民が地域医療ビジョンの拠点病院化を要望しています(資料-2)。府中市への要望時、戸成市長からも湯崎県知事へ直接要望して頂くようお願いしました。こじれている府中市と地域住民との仲を元に戻す最適の「落としどころ」となりますので、採択された決議に基づき湯崎英彦広島県知事に下記の要望を行うとともに、要望に対する回答を3月末日までにいただくよう併せてお願いします。

                   記

 

1.府中北市民病院の機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、療養病床の回復)

2.地域住民と府中市、広島県との協議と合意の実現

3.民間でなく府中市の直営自治体病院

4.弊害事例の調査と救済

5.医療を受ける権利、苦情申立権の法・条例整備

6.府中北市民病院を地域医療ビジョンの拠点病院・自治体中核病院とすること


 

府中市長 

戸成 義則 様  

               要望書

 

大寒の候、貴職におかれましては、市民の安全と健康、福祉の増進のため、日夜ご奮闘されておられることに敬意を表します。

さて地域医療を守る会と地域住民は、平成231月から幾度となく府中市に対して府中北市民病院の機能維持と地域住民との協議を要望していますが、一度も実現していません。その間府中北市民病院は、府中市地域医療再生計画に基づいて粛々と縮小されています。平成266月には地域医療を守る会が、住民との対話を重視する戸成義則府中市長と初の面会を果たし、先の要望に加えさらなる縮小と療養病床の廃止の撤回を要望しましたが、協議することなく71日から強行されました。そのため患者さんは十分な期間入院が出来なくなり、退院後在宅での療養生活が非常に困っている弊害が少なくありません。

府中市は地域住民に「府中市地域医療再生計画は病院を残すためだから何の問題もない」と説明してきました。しかしどのような病院として残すのかについては、一切説明がありません。旧甲奴郡、神石郡の中山間医療不足地域唯一の救急中核病院は、肺炎、腹痛、骨折、脳こうそく、マムシ咬傷といった普通の病気や怪我で、入院や手術が出来ることが必須です。救急や手術が出来ない民間病院や診療所ではなく、自治体直営の病院でなければならないのです。また後方支援病院も全くないことからリハビリをするための療養病床も必須です。

府中北市民病院は平成274月から内科常勤医師が一人になる可能性があると聞いています。府中市が何もしなければ診療所化が目前です。そこで、その対策として平成267月と8月の療養病床撤回署名陳情の時にも要望したように、国の政策である地域医療ビジョンを平成27年度に広島県が策定しますが、広島県の地域医療ビジョンに中に府中北市民病院が急性期の拠点病院として認められれば、現時点で95名もの学生が在籍している広島大学医学部ふるさと枠の医師が3年後から中山間地域の公的病院に派遣されるため、深刻な医師不足が解消されます。これは地方独立行政法人府中市病院機構にとっても医師不足解消につながる絶好の機会です。自治体病院として存続することで安心安全に住める地域として保障されるので、若い人達がIターン、Uターンでき、府中市の地域創成・再生にも直結します

平成261213日に上下町で地域医療を守る会第5回シンポジウムを開催し、府中北市民病院が地域医療ビジョンの拠点病院になることを200名の参加者が採択決議しました。またその時のアンケートでも148人中122人(82.4%)の地域住民が地域医療ビジョンの拠点病院化を要望しています。こじれている府中市と地域住民との仲を元に戻す最適の落としどころとなりますので、戸成市長も地域住民と一緒になって広島県に強く要望されることをお願いいたします。採択された決議に基づき貴職に下記の要望を行うとともに、要望に対する回答を2月末日までにいただくよう併せてお願いします。

 

 

                   記

 

1.府中北市民病院の機能回復維持(85床、常勤医師数6名以上、療養病床の回復)

2.府中市との協議と合意の実現

3.民間でなく府中市の直営自治体病院

4.弊害事例の調査と救済

5.府中市自治基本条例の制定

6.医療を受ける権利、苦情申立権の法・条例整備

7.府中北市民病院を地域医療ビジョンの拠点病院・自治体中核病院とすること
                      平成27年1月22日    地域医療を守る会

 


5回中山間地域医療シンポジウム
(地域医療を守る会第5回シンポジウム) 
         

府中北市民病院を機能回復して医療を受ける権利を取り戻し、みんなで住民自治を獲得するため全国へ発信!

日時;平成261213日(土)、 午後1時30分~4時30

場所;上下町民会館(大研修室、展示室)

l  基調講演;内田博文先生(神戸学院大学法科大学院教授、九州大学名誉教授)

  演題;「患者の権利ないし医療基本法について」

  専門、研究分野;刑事法学(人権)、医療基本法(患者の権利)

l  シンポジスト;末廣眞一(世羅中央病院院長)、増田義憲(弁護士)、山田延廣(弁護士)山村恵美子(三次市会議員)、高橋文子(神石鈴木クリニック師長)、中村一二三(上下地区女性会)、松井義武(地域医療を守る会長)

l  目的と趣旨

命と健康の保障である旧甲奴郡、神石郡、中山間医療過疎地域唯一の救急中核病院である府中北市民病院を守り地域・故郷を守るために、平成2012月から地域住民は府中市地域医療再生計画の改善を求めたあらゆる住民運動を通じて府中市と広島県に協議のお願いをしていますが尽く拒否されています。その結果平成244月から府中北市民病院は地方独立行政法人化され理不尽に縮小され、医療を受ける権利が剥奪され医療難民等の多くの弊害が実際に発生しています。そこで、地域住民は安心安全に暮らせないため平成2212月から毎年地域医療を守る会シンポジウムを上下町で開催し、正しい情報の共有で学習した参加者みんなで採択決議した要望書を府中市と広島県に陳情してきましたが、すべて「ご理解ください」という不条理な対応を受けてきています。そのため平成233月には受忍限度の切れた地域住民が独立行政法人化差し止めを求める行政訴訟を広島地裁に起こしましたが、23か月間も費やした11回の公判の後、平成267月に「却下」すなわち裁判に値しないと門前払いをされました。

戦後民主主義、主権在民、法治国家であるはずの現在の日本で、府中市行政が策定した計画によって、基本的人権の一つである医療を受ける権利を奪われたため多くの弊害が発生しました。しかし府中市は地域住民の悲痛な魂の叫びを政争とし、真摯な協議もせず、この7月に療養病床廃止と60床にさらなる縮小をし、診療所化が目前です。そして地域住民が最後のよりどころとした裁判所は、患者の権利、平等に医療を受ける権利が侵害されている事が、医療機関からの客観的証拠と、証人尋問・調書から明らかにされたにもかかわらず、弊害の実態調査と早急な救済措置を行政に勧告することもなく住民の提訴を却下しました。これらの不条理な仕打ちを打破し国の基盤である故郷を守るために、人権法律学者で全国人権擁護委員連合会会長の内田博文先生をお招きして、地域の宝である府中北市民病院を自治体病院として機能回復維持するために公開討論をしました。おかげさまで約200名の参加者があり内田先生、末廣先生、増田先生の講演の後、8名のシンポジストで活発な討論が出来ました。以下、シンポジウムの内容を供覧いたします。皆様のご質問ご意見をお待ちしておりますので宜しくお願いします。

第5回地域医療を守る会シンポジウムプログラム

開会の挨拶    (地域医療を守る会会長 松井義武)      1330

 

シンポジウムの目的と論点の説明                 1335

         (シンポジウム座長 黒木秀尚 黒木クリニック院長) 

 

基調講演    内田 博文                   1345

         神戸学院大学法科大学院教授 全国人権擁護委員連合会会長

     「患者の権利法ないし医療基本法について」

 

 

講演      末廣 眞一                   1445

      公立世羅中央病院 院長         

「国民健康保険直営診療施設の歴史と役割」

 

講演      増田 義憲                   1500

          行政訴訟弁護団長弁護士

      「判決で裁判官が逃げ込んだところ」         

休憩(10分)                         1510分        

 

公開討論、ディスカッション(65分)              1520

          内田博文 (神戸学院大学法科大学院教授)

          末廣眞一 (世羅町、公立世羅中央病院院長)

          増田義憲 (行政訴訟弁護団長弁護士)

          山田延廣 (行政訴訟弁護団弁護士)

          山村恵美子(甲奴町、三次市議会議員)

          高橋文子 (神石高原町、鈴木クリニック看護師長)

          中村一二三(府中市上下地区女性会)

          松井義武 (地域医療を守る会会長 行政訴訟原告団長)

 

座長  黒木秀尚

 

座長総括と採択決議 黒木秀尚                  1625

閉会                              1630


シンポジウムの目的と論点の説明(座長スライド)











l  内田博文先生講演内容要旨

「患者の権利法ないし医療基本法について」

 

 ・患者を擁護する立場に立った患者の医療を受ける権利は、1981年第34回世界医師会総会のリスボン宣言で始めて採択された

・患者の権利の法制化は、ヨーロッパ特に北欧で1990年代に制定されている。

・しかし日本では患者の権利を擁護する患者の権利は、21世紀の今でも法制化されていない

・日本の医療法や医師法は施設法に過ぎず、国の医療政策を円滑に進めるための「行政取締法規」にすぎない

・そのためリスボン宣言の条文に謳われている「患者の権利は一切外部干渉を受けない」こと、「もしそういった事態が発生したら医師は断固として患者を擁護する立場で闘う」ことは、日本では法制化されていない。

・国や自治体の責務も日本では法律化されておらず、規定ではなく努力目標になっている。

・だから国や自治体が策定した医療計画で弊害が出ても、「努力はしたので仕方がない」ということで終わる(策定関係者は責任を取らなくてもよい)。

・しかし医療従事者には罰則規定が設けられている。

・患者を擁護する立場の医療を受ける権利がないために、医師と患者の相互不信が生じやすく、医療訴訟も起こりやすい。

・その結果、医療現場は萎縮して医師不足と医師の診療科の偏在が発生している。

・そのため一刻も早く抜本的解決を図る必要がある。

・それには患者の立場に立った患者の医療を受ける権利を法制化した、「医療基本法の策定」が喫緊の課題である。

・それは患者と医療とがパートナーとなって規定する。

・医療法と医師法も医療基本法に基づいて抜本的改正が必要である。

・ハンセン病の裁判が20053月に熊本であり、勝訴を勝ち取った。

・そのことでハンセン病患者の検証が開始され、再発防止策、検証会議がつくられた。

2009512日「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会報告書」を厚生労働大臣に報告した。

・日弁連は平成2310月、日本医師会も平成263月「医療基本法」の策定に向かっている。

・医療基本法は「親法」として位置づけられるもので、憲法との媒介をするものと位置付けられる。

・歴史的に日本の医療は国益、国策に奉仕する医療と位置付けられていた

・だからハンセン病は諸外国が強制隔離政策を戦前に廃止していたにもかかわらず、昭和28年に「らい予防法」を制定し、つい最近まで強制隔離が諸外国の批判の中で続けられた。

・今のエイズ予防法もらい予防法によく似ている。

・現在公的な医療は財務事情に左右されダッチロールしている。中長期的なビジョンが必要であることは厚生労働省の官僚も認めている。

 

l  末廣眞一先生講演要旨

「国民健康保険直診診療施設の歴史と役割」

 

・医療や介護は雇用誘発係数が高く、若者の定住につながる。

・公立病院は地域再生効果がある

    高齢者が安心して住める

    支える人たちも楽

    若者の雇用確保

    地域の活性化

・交通過疎地域である中山間地域の交通手段は、デマンド型タクシーが良い

・中山間地域の交通手段の特徴

  遠い(片道車で30分以上はざらにある)

  交通機関が乏しい

  道路は整備されている

  自動車を運転する人が多いが、高齢者の重大事故や死亡事故が多発

・中山間地域の通院手段

  バスと電車は高齢者にとっては肉体的な負担が大きい

  自分で運転するが、遠方は困難(危険)

  送迎による家族の負担、犠牲も大きい

  訪問看護、訪問医療は片道30分、往復1時間が限度で中山間地域では実際的でない

  自治体が安い運賃の車を手配すべきであるが財源の問題がある

・府中北市民病院の医療難民が世羅中央病院を受診する患者数は年々増加している。上下町民だけでも独法前の平成21年度は外来患者数が375人であったが、独法後の平成24年度が1028人、25年度1657人と年々増加している。入院患者数は同じく平成21年度が25人であったが、24年度39人、25年度38人と増加している。救急車搬入患者数は平成21年度5人が、24年度26人、25年度29人と増加している。

・世羅中央病院では府中北市民病院の医療難民は当直医に断らないよう指示を徹底している。

l  増田弁護士の講演内容要旨

 

「判決で裁判官が逃げ込んだところ」

・行政訴訟は簡単に終わることが出来る

・一審の判決文は最高裁と同じ書き方で書いている(分かりにくい判決の文章)

・異常に独立採算に固執し、診療圏を無視して独法化した特異な市長であった

・控訴審担当裁判官の人間性、価値観(価値序列)で判決が変わってくる可能性がある

・裁判官は大きな権限を持っているが。良心もある。弊害を訴え続ける。

l  公開討論

 

論点1.府中北市民病院における医療を受ける権利の阻害の実態と病院の将来

 

・上下町は医学生や研修生に町内を案内したりして町民を挙げて歓待している。

・医学だけでなく地域の習慣、文化、人情に触れ、歴史と風土を学ぶことが出来るので好評である。

・上下町の高齢化は急速で、平成26年度は43%である(府中市は34%)。

・年を重ねると次第に体も弱り病院にかかる率も高くなる。誰もが健康で安心に暮らしたい願いを持っている。健康と命を保障してもらえる府中北市民病院が取り上げられるたびに、一体どうなるのだろうかと不安である。そこで同じ町内会の住民に聞き取り調査をした。

・病院が縮小されて不安に感じている方が多いことが分かった。具体例を以下に述べる。

・今まで北市民病院のことは他人事と思っていたが、主人の具合が悪くなり診てもらいに行った途端に病院の玄関で意識障害が発生した。主治医の先生の適切な処置で一命をとりとめ他人ごとではないことが良く分かった。近くに病院が絶対に必要である。

・少々の年金ではタクシーもめったに頼めない。息をしとる限り助けてくれるのは医師だけなので、病院が近くにないといけません。

今は長く病院に置いてもらえないので、長生きもほどほどで、早くころりと行きたい。

・老夫婦暮らしです。主人の具合が悪くなり病院へ連れていくにも運転が出来ないので、福山に嫁いでいる娘に仕事を休んでもらって病院に連れて行ってもらうんです。娘も小さい子供を抱えており通院が多くなると、家庭にも会社にも迷惑がかかります。病院は近くにないといけません。

・救急車で病院に行って肺炎で入院しましたが、2週間で退院となりました。動けばまだしんどい、息が苦しい、食べ物もあまり口に入りません。家には腰のまがった高齢の妻がいますが、自分のことが精一杯で私の世話までする元気はありません。もう少し元気になるまで入院させてほしいものです。療養病棟があれば違うのに。

・患者の立場に立った医療を受ける権利を感じているが、医師や病院には伝えにくい。

神石地区は医師が一人しかいないので救急中核病院がなくなると、患者だけでなく医師も困る

・縮小され診てもらえないという風評被害も発生している

寺岡記念病院の指定管理になって6年目の神石町立病院は医療の質が低下している。

・以前は手術も出来ていたが、今は物置きになっている。

・透析も専門の外科医師が常勤であったので、安心して受けることが出来ていたが、現在は非常勤となり何かあった時が非常に不安である。

・住民としても看護師としてもすべての面で非常に不安である。

・子供が肘を怪我したので府中北市民病院に紹介したが、医師が不在で診てもらえなかったので遠方の世羅中央病院まで行かなければならなかった。

・虫垂炎疑いで受診させたが、外科不在ということで世羅中央病院まで行かなければならなかった。

90歳の身内の者が府中北市民病院に2カ月入院したが、主治医から手を尽くしこれ以上することがないので、退院を強制され施設に入ったが1週間で亡くなった。

・同じような高齢者は多い。病院から施設、施設から病院へと、引っ越し、引っ越しで体力が落ちてしまう。解決策は府中北市民病院の機能回復維持しかない。

・政策上の2次医療圏としては違うが、長年の歴史の中では同じ診療圏であり、急に診てもらえなくなったということはおかしい。

・三次中央病院は島根県の県外の患者まで受け入れている。

・それに比べ府中市は2次医療圏にこだわりすぎである。

・府中北市民病院が「今日の当直は整形外科なので診れない」ということが良くあるのは困る。考え方を変えるべきである。(縮小されて常勤医師数が4名になっているため、夜間当直は広大からの応援が多い実情がある)。

内田先生;弊害実態を検証することが大切

 

l  論点―2.中山間地域における自治体病院の存在意義と地域再生効果

寺岡記念病院の指定管理神石高原町立病院になってから、募集しても職員が集まらないのでフリーパスのような採用になっている。そのため職員の質が低下している。何かあるとすぐに「辞める」を口に出す。これでは病院の質を上げることはできない。

三次市でも以前は都市部の病院に転院したい患者が多かったが、がんの拠点病院、産婦人科・小児科の充実、不妊治療への補助金制度施行などで、安心して住めるようになってきている。若い人の定住も見込まれる。

・自治体病院は中山間医療過疎地域や災害時などは2次医療圏を超えた地域外活動が必要になってくる。一刻も早く府中市自治基本条例を制定しそのことを規定する必要がある。

以前、世羅町は上下町より田舎と思っていたが、世羅中央病院が行政のバックアップで立派になり見違えるような活気のある中小都市になっている。それに比べ上下町は活気がなく寂れてしまっている。三次中央病院と世羅中央病院は自治体の直営病院であるが、府中北市民病院と神石高原町立病院は自治体が外部委託した病院である。自治体がいかに住民のために病院に力を注ぐかで住民のためになるか、ならないかが決まる。すなわち地域の再生効果にも大きな影響を及ぼす分かりやすい生きた実例である。

 

l  論点―3.府中北市民病院行政訴訟一審判決「却下」の問題点と対策

 

・憲法25条に違反している

・世界では人権規約に「誰でも、どこでも、お金に関係なく平等に医療を受ける権利がある」と規定してある

・裁判官にとっては、それらは「劇薬」に等しく、逃げるしかなかったのであろう。

・「府中市の地域医療を守り育てる基本条例」の第3条1項の中で「市は、基本理念に基づき、社会状況の変化に的確に対応し、市民が安心して暮らすことができる地域医療提供体制を構築しなければならない」としており、これは努力義務ではなく条例なので明らかに条例違反である。

・弊害事例を裁判官に伝え続ける事が必要かつ重要である。

・高裁の裁判官は、一審の裁判官と少し違う可能性がある。弊害事例を粗末には出来ないと思っている節がある。外科医師が北市民病院に形なりに戻ってきたことも、裁判の効果である。

・裁判官も人間なので、裁判官と良い関係になれるよう、住民も弊害事例を出し続け法廷を満席にすることが大切。

 

 

l  論点―4.日本における医療を受ける権利、患者の権利に関する法整備の問題

・医療基本法があっても一審勝訴は難しかったと思う。なぜならば他の分野では基本法が以前から制定されているものも少なくないからである。そういった分野の裁判で基本法があるから勝訴できるとは限らない事実があるからである。しかしないよりはあったほうが良いのは当たり前のことである。

・まず医療基本法を作り、具体的な条例を作っていけばよい。

・三次市、世羅町、神石高原町の各自治体の自治基本条例の中には、医療に関する具体的な条例はなかった。

・自治基本条例は憲法に相当する規範条例なので、具体的な医療関連の条例はない。

内田先生;法律がなくても条例はつくることが出来る。立法を待つ時間がないほどの被害事態が発生しているときなどがそうである。九州でそういった例がある。基本法は患者と憲法を橋渡しする、車の両輪のようなものである。厚生労働省は策定に消極的である。メディアに理解がないのも問題である。医師会、弁護士会は積極的だが、個々ではしていない。日本全体の問題であるので被害実態を出してゆくことが大切である。法制化が進まないので検証と改善(PDCA)がまわらない。

 

 

l  論点―5.地域住民が医療を受ける権利、患者の権利を獲得する方法、手段、対策(住民自治)、地域医療ビジョンと広島大学ふるさと枠

 

・行政がしてくれるのを待っているだけではなく、自分たちで地域のためになるまちづくりを率先して実行する。

・上下町が一枚岩になって、諦めず自分のこととして立ち上がり声を出し続けることが必要である。今がまさにそうだ。

・戸成市長が掲げている対話の政策にこの問題を取り上げてほしい。

・上下町民はお互いの意見や議論が異なっていても同じ土俵の上で話し合い学習することが大切で、連帯と協力がなくては地域医療は守れない。地域医療なくして地域づくりは出来ません。民間病院や診療所にならないように決してあきらめることなく、みんなで頑張りましょう。

・北市民病院は住民の命の宝です。かけがえのない宝を子や孫に永久に残すために粘り強く継続して住民運動を展開していくことが必要である。

・継続的な多方面の運動が必要。学習会、広報誌、シンポジウム、裁判もその一つ。

・根っこは一つで今の政治に問題がある。

・広島大学ふるさと枠の医師を獲得するためには、あと3年間は自治体病院として地域医療ビジョンの中で認めてもらえるように、みんなで住民運動を継続する必要がある。

・地域医療ビジョンは2次医療圏の中で協議することになっているので、広島県が二次医療圏を超えて認めてくれるよう強力な住民力を発揮しなければならない。

内田先生;裁判で勝つことも大切である。そのためには弊害事例を出し続け、現場検証、証人尋問を実現させることである。ハンセン病問題の時も現場検証が出来たおかげで裁判で勝訴したことをきっかけに、ハンセン病に関する基本法がつくれて法律をつくらせることが出来る。


府中北市民病院が自治体病院として生き残るための重要な手段

-「地域医療ビジョン」と広島大学医学部「ふるさと枠」

                              

 厚生労働省は平成24217日閣議決定した「社会保障と税の一体改革」に基づく病院・病床の機能分化・強化や、在宅医療の充実、チーム医療の推進により、患者それぞれの状態にふさわしい良質かつ適切な医療を効果的かつ効率的に提供する体制を全国の都道府県単位で構築するために医療法の一部を改正しました。その中で「1.病床の機能分化・連携の推進(医療法関係)」に関しては、都道府県が医療計画の一部として、二次医療圏等ごとに各医療機能の必要量等を含む地域の医療提供体制の将来の目指すべき姿「地域医療ビジョン」を策定することになっています。すなわち国が全国津々浦々の事情を酌み、医療政策に反映することは限界があるため、その地域の実情に応じた医療設備や人員確保の医療提供体制を、それぞれの都道府県で策定することになります。そしてこの病床機能報告制度は平成26101日からスタートします。

 さて、そこで府中北市民病院は旧甲奴郡、神石郡中山間医療不足地域唯一の救急中核病院で昭和18年広島県最初の国保病院として開設され、長年当該無医地区住民の健康と命を支えてきた地域・住民の宝です。資料―1の如く多くの需要実績があり、平成22年度一般病床1日平均利用数45.2床、平成32年度も上下町の人口動態推計から高齢者人口は団塊の世代の影響でほとんど減少しないため、1日平均利用数44.2床と今後も多くの需要があります。そして経営的にも縮小前年度の平成2122年度(85床;一般52、療養33、常勤医師数6名)は1900万円、92万円の赤字で済んでいます。平成21年度から指定された不採算地域指定病院の特別交付税9800万円が全額繰り入れられておれば平成21年度も22年度も黒字の自治体病院でした(資料―1)。

ところが平成244月、平成16年に上下町を編入合併した府中市は、公立病院改革ガイドラインを利用して地域住民の反対を押し切って強引に都市部病院間競争に敗れ自然淘汰されJAが廃止を決定していたJA府中総合病院と経営統合、縮小再編(85床から70床に縮小、一般病床も35床に縮小、常勤外科医師を府中に異動等)し、地方独立行政法人府中市病院機構を発足しました。その結果発足後わずか1年で多くの医療難民、救急難民、入院難民、モチベーション低下と過重労働による職員離職、赤字増大等多くの弊害が発生しました(資料―2)。 

  そしてそれらの「人為的につくられた医師・看護師不足」、「人為的につくられた赤字」を理由に平成2671日さらなる縮小が府中市によって断行されました。まさに府中北市民病院縮小ありきです。しかも国が今年団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年問題を踏まえ、療養病床の廃止計画を中止し2017年度以降も存続させる計画をしているにもかかわらず、35床あった療養病床がすべて廃止され、さらに70床規模の病院が60床に縮小されました。当該中山間地域は都市部と異なり後方支援病院が全くなく、交通過疎地域でもありかつ高齢化率が40%超えており、広島県の無医地区の77%が集中する超高齢化医療不足地域のため、不十分な入院期間では自宅への退院後再悪化による再入院の増加が非常に危惧されます。また超老老介護や超独居老人が多いため、不十分な入院期間後の在宅での療養は非常に困難で不可能に近いものになります。さらに60床すべてを一般病床にしたことは、現在常勤医師が4人しかおらず、4人とも1人医長の立場のため外来診療、入院診療、検査、手術、カルテ記録、診断書記載、コンピューター操作、会議への出席等を1人でこなさなければならず、過重労働になるため1医師あたり平均10名の入院患者がやっとで当然病床利用率が下がってきます(病床利用率;40/60床=67%)。そのため自治体病院縮小・統廃合の基準となる病床利用率70%をクリヤーすることは困難になります。また現在看護基準131で、平均在院日数24日をクリヤーしなければならい事も加わり、リハビリテーション、ガン末期、難治性肺炎、転倒骨折、繰り返す急変等で長期入院を余儀なくされる患者も必ず存在することから、平均入院日数が24日を超えるため入院基本料が下がることで当然経営的にも赤字の増大が予想されます。

さらに驚くことには地方独立行政法人法の第31条に「期間満了時に中期目標(採算・リストラの成果)が達成されない場合、業務の廃止もありうる」という内容が明記されています。すなわち府中北市民病院は4年間の中期目標なので、後2年足らずで期間満了となり平成27年度が最終年度です。府中北市民病院単独の時は府中市の自治体病院への一般会計の持ち出しは約2億円余りでした。しかし2病院を経営統合し独立行政法人化した府中市病院機構に対する初年度平成24年度の市の一般会計の繰り出し金額が44千万円に増加し、25年度は54千万円に増大しています(資料―3)。さらに府中市民病院(旧JA府中総合病院)は現在43億円の巨費を投じて建て替え中で平成27年度に完成しますが、平成26年度の年度の府中市病院機構年度計画の中にも新鮮味のある事業採算計画は公表されておらず、医師数も16名から14名に減少しており、この2年間で赤字額が減少する見込みは全くありません。すなわち地域住民が、府中市が平成24年に始まった府中市地域医療再生計画の基になった府中市健康づくり審議会寺岡暉会長の答申に基づく府中地域医療提供体制(中間報告)が平成2111月に公表された時に抱いた府中北市民病院の診療所化、民間移譲、廃止の危機感が現実のものとなります。

診療所になったら今以上に地域住民の医療を受ける権利が剥奪され、医療難民の増加、救急難民の増加、入院難民の増加、早期退院による再発・悪化率増加と救急患者の受け入れが不可能となるため、特に夜間のたらい回しが頻発し重大な弊害が多発します。30分で行ける身近な診療圏に受け入れ先がないために病診連携も困難となり、当該地域にわずか6施設しかない診療所もやむなく撤退せざるを得なくなり、地域の医療は人為的に完全に崩壊します。さらに近く発生が予想される南海トラフ地震が発生すると当該地域は陸の孤島となり、津波による沿岸部の災害拠点病院は大きな打撃を受けることが予想され、都市部の大災害守備範囲がやっとの状況に置かれるため、応援も不可能になるため当該地域は全滅崩壊するでしょう。

 また、広島大学と広島県が医師不足と医師の地域偏在解消の目的で平成21年度から実行している「広島大学医学部ふるさと枠」の学生数が95人になっており、平成273月には6年間の医学部学習を終えた最初の卒業生が巣立ちます。彼らは指定された広島県下の研修機関で2年間の研修を終えたのち、あとの7年間を広島県の公的医療機関、そのうち4年間は広島県の中山間地域の公的医療機関で勤務しなければなりません。すなわちもうすぐ中山間地域にも医師不足が解消される可能性がでてきたのです。こういった千載一遇の好機に府中北市民病院が府中市のおもわくによってつくられた赤字と医師不足のために、独立行政法人化の中期目標が終了する平成27年度末の時点で、救急入院や一般的な手術も出来ない診療所化や民間移譲(指定管理等)などが決まれば、広島大学「ふるさと枠」の医師が派遣される可能性はほとんどなくなり、地域の救急中核自治体病院として生き残れる道は永久に閉ざされます。

以上のそういった理由からも広島県が中心になって策定する「地域医療ビジョン」の中に府中北市民病院が、旧甲奴郡、神石郡、府中市北部協和地区、中山間医療不足地域唯一の自治体救急中核病院として認められる必要があるのです(資料―4)。独法化後赤字と医師不足が深刻化している現時点では、府中北市民病院にとって地域医療ビジョンが唯一の生き残れる手段であり、府中市病院機構にとっても深刻な医師不足を解消することで病院経営を軌道に乗せることが出来る絶好の好機なのです。それで今回のシンポジウムでも公開討論することにしており各方面にも働きかけておりますが、シンポジウム参加の地域住民皆様方も「地域医療ビジョン」に関する正しい情報を共有していただき、府中北市民病院が広島県の地域医療ビジョン中で、自治体救急中核病院として生き残ることが出来るよう、地域住民が一体となり、みんなで府中市と広島県に一丸となって強く働きかけましょう。皆様、府中北市民病院が自治体病院として生き残れるようみんなで決してあきらめることなく頑張りましょう。

 

                   地域医療を守る会第5回シンポジウム

                      実行委員長 黒木秀尚


ホームページの内容と更新日
・第2回地域医療守る会シンポジウム結果
・地域医療を守る会の主な活動履歴
  伊藤市長への上申書(意見書)、平成22年2月
  第1回地域医療を守る会シンポジウムプログラムとアンケート結果、平成22年12月
  府中市への陳情書・趣意書、平成23年1月
  中期目標案への申し入れ書、平成23年7月
・広島県知事への要望書と資料(85床必要な医学的根拠)、平成24年1月26日
・地方独立行政法人府中市病院機構(平成24年4月1日発足)、平成24年5月13日
・行政訴訟、第一回公判(平成24年5月30日、広島地裁)意見陳述、平成24年5月30日
・新病院になってからの弊害と地域住民への講演学習会。平成24年7月22日
・「住民がだまっていたら、このままでは府中北市民病院は診療所化される」      講演学習会。平成24年8月18日(上下町民会館)
・第3回地域医療を守る会シンポジウム案内(平成24年10月20日)
・第3回シンポジウム実行委員長抄録原稿(平成24年11月29日)
・第3回シンポジウムの目的と論点(平成24年12月12日)
・第3回シンポジスト意見(平成24年12月12日)
・第3回シンポジウム採択決議文(平成24年12月12日)
・決議文と要望書を府中市に提出(平成24年12月20日)
・論点のディスカッション(平成24年12月21日)
・第3回シンポジウムアンケート結果(平成25年1月14日)
・広島県知事への要望書(平成25年2月18日)
・第4回地域医療を守る会シンポジウム案内(平成25年10月11日)
・第4回地域医療を守る会シンポジウム結果(平成25年12月5日)
・第4回地域医療を守る会シンポジウム採択決議(平成25年12月5日)
・第4回シンポジウムの目的と論点(平成26年2月23日)
・広島県湯崎英彦知事と県議会への要望(平成26年2月23日)
・府中市伊藤吉和市長への要望(平成26年2月24日)
・府中市、戸成義則新市長への要望(平成26年6月5日)
・第5回地域医療を守る会シンポジウム(平成26年11月2日)
・第5回シンポジウムの結果と採択決議(平成26年12月18日)
・府中北市民病院が自治体病院として残る重要な手段―地域医療ビジョンと広島大学医学部「ふるさと枠」(平成26年12月30日)
・府中市長への陳情・要望(平成27年1月27日)
・広島県知事への要望書(平成27年2月12日)
・府中市長への要望書(平成27年4月30日)
・「府中市地域医療再生計画」 驚愕の真実(平成27年7月19日)

広島県知事への要望書・85床必要な根拠(H.24.1.26)
地方独立行政法人府中市病院機構(H.24.5.13)

行政訴訟、意見陳述(H.24.5.30)

新病院になってからの弊害と地域住民への講演学習会(H.24.7.22)

住民が黙っていたら。このままでは府中北市民病院は診療所化される(H.24.8.22)

広島県知事への要望書(H.25.2.14)

地方独立行政法人府中市病院機構発足1年後の実情(H.25.7.15)

府中北市民病院に求められる地域医療提供体制(H.25.7.20)newpage30.htmlへのリンク

第3回中山間地域医療シンポジウム(H24.12.8)newpage33.htmlへのリンク

第4回中山間地域医療シンポジウム(H25.12.1))newpage36.htmlへのリンク

府中市戸成市長誕生、戸成市長への要望書(H.26.6.5)newpage37.htmlへのリンク